西暦2004年8月3日未明
日本海 深度120m






 「・・・今度こそ間違いないのか?」

 「は、衛星『イージス』からの情報によりますと、2週間前からこのポイントを中心に機材の輸送が活発に行われています。間違いないかと」

 「だがターゲットが東京にいるのにわざわざ岐阜に建てるというのは・・・」

 「うーむ・・・・・」

 「離れすぎだ、効率が悪すぎるだろう。せめて奥多摩ならわかるのだが・・・」

 「感化は出来ませんぞ戦隊長。たとえこの組織がネオプラントと関連がなくても、この資料から判断してテロ組織であることには間違いないのですぞ。人里はなれた山中に火薬やら電子機器やらと・・・」

 「でも僕たちの時代じゃあ・・・その地域はなくなっていますよね。関係ないかと思うんですけど」

 「何にせよ、我々の行動に師匠が出る可能性は濃厚だ。戦隊長、ご判断を」



 「・・・わかった。この組織が浅岡成美に危害を加えないとは限らん。巡航ミサイルで処理しよう」

 「艦長、それなのですが・・・」

 「なにかね」

 「衛星によるとこの地下基地は対核シェルター並みの強度に加えて深度890mまで掘り下げられています。普通の巡航ミサイルでは攻撃が通じません。地下攻撃用の巡航ミサイル”リベロ2”でなければ・・・」

 「まったく・・・」

 デビッドはため息をついた。

 なぜこの時代に、我々の時代にも引けを取らない技術がごまんとあるのだ。偵察衛星「イージス」で調べても、日本だけでも地下基地はかるく100や200、いや1000を超えている。衛星写真には変な・・・すでにみっともないと表現した方がいい格好をした作業員?があれやこれやと作業をしているし、たまに改造された生物が基地から出てきてもいる。一体この時代はどんな状況なのだろうか。まったく、頭が痛くなってきた。

 「わかった、”リベロ2”の使用を許可する。ターゲットはその例の基地、発射時刻は1400時、準備を急げ」

 「イエス・サー!」










西暦2004年6月11日午後14時未明
岐阜県 荘川村


 「ばいばーい!」

 「ばいばいー!」

 ああ、今日も子供が元気よく走り回っている。ここではいつも変わらぬ風景だ。

 私は齢83になる老人だが、この光景が見られるだけで幸せものだ。

 息子や孫は東京、正月や盆にならんと帰ってこない。

 向こうに来いとも言ってくるが、私はこの風景が見られなくなるのが嫌で、ここにいるのだ。

 息子の好意はありがたいし、悪いとは思っているが・・・東京ではこんな光景など、見られないから断っている。

 郵便配達のバイクが走り、子供はランドセル背負いながら走り回る。青い空にはスズメが・・・・・

 びゅおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぅ!!!!

 「ななななななんだ!?」

 「あー!洗濯物がぁ!」

 「ケンタ君ユーホーだぁ!」

 「いやいやマコトくん、あれは○朝鮮のミサイルだぁ!トートー戦争が!」

 「何を言っているんだマツイくん!あれこそ・・・あれこそ・・・!」

 「戦闘機だ!」

 「神風だ!」

 「怪獣だ!」

 「鉄の城だ!」

 「光の巨人だ!」

 辺り一面パニックに陥った。突如上空を通過した謎の物体は荘川村に突風をもたらし、若干の衝撃波が彼らをパニックに陥れた。子供たちはこの事態を喜んでいるのか狂喜し、主婦たちはこれから入れようとした洗濯物が路上に吹き飛ばされてしまい困惑し、郵便配達のおじさんはバイクごと転倒して状況がつかめないでいた。

 ・・・・・スズメは・・・スズメはどこだ?











 「”リベロ2”の着弾確認!」

 「着弾の半径1km圏内はクレーター状、敵対組織の基地は完全に破壊しました!」

 「衛星「イージス」からの通信画像を転送します」

 ・・・・・

 「これはまた・・・」

 「おっかないものですね・・・艦長」

 核シェルター攻撃用に開発された巡航ミサイル”リベロ2”。”リベロ1”より射程と威力が増している、地下攻撃用ミサイルのベストセラーである。強力なステルスを装備し、ロケット推進による加速の後は滑空で飛行するために迎撃しようのないミサイル”リベロ”は、ネオプラントから非常に恐れられているミサイルである。ただし熱量追尾を避けるための滑空飛行によって射程は通常の弾道ミサイルよりはるかに短いのが欠点なのだが、この”リベロ2”の射程は実に1000kmを誇っている。

 その威力は半径1km圏内を完全に破壊し、地下1kmまでに掘り下げられた核攻撃に耐えられるシェルターを、その熱量と質量で容赦なく押しつぶす、非核兵器の中では最強クラスの威力を持っている、それはそれは恐ろしいミサイルである。現在レジスタンスは新型の”リベロ3”が開発を行っているが、恐らく戦後に完成するので無用の長物となるだろう。

 その威力を示すものとして、彼らの前の映像には、山の上半分が吹き飛んでクレーター状となっていた。恐らく民間人に死者は出ていないだろうが・・・

 「よし、ミサイル台および全砲塔を収納後ただちに潜水モードに移行!ステルスバリアを展開し潜水準備完了次第、深度100にまで潜航、西に20ノットで転進せよ」

 「イエス・サー。ミサイル台および全砲塔収納開始・・・完了。潜水モードに移行。ステルスバリア展開30%」

 オペレーターが正確に復唱し、艦橋が耐水ガラスに切り替わった。艦が傾き徐々に沈んでいく。

 「まったく・・・」

 デビッドはつぶやいた。

 「この時代は狂っているな」

 「何か仰いましたか?艦長」

 「いやなんでもない。」

 若い副艦長を尻目にデビッドはしばらく沈黙をした。






 一方、このミサイル攻撃に巻き込まれた哀れな者もいた。

 「ぶわっはぁ!」

 突如として襲いかかった衝撃波に吹き飛ばされて”俺はバイクもろとも”土砂崩れに巻き込まれてしまった。上空からロケットのような轟音がしたと思えばいきなりミサイルが虚空から姿を現し、それが俺がやっとの思いで見つけた「スカルスコーピオン」の本拠基地に・・・!目の前に広がっているのはクレーター。「スカルスコーピオン」の首領や戦闘員、怪人や科学者も、何もかも吹っ飛んでしまった。せっかく俺が改造人間から元の人間に戻れるチャンスだったのに・・・・・・・!

 「くっそおおお!誰だぁ!」

 悪の組織”スカルスコーピオン”をふっとばしたのはぁ!!


























ζライダー
MISSION AUGST:やりすぎの殲滅作戦







西暦2004年8月3日午後9時05分
東京都豊島区 かもめ台 セーフハウス


 「・・・本日午後2時未明、岐阜県荘川村の山中にミサイルらしき飛行物体が通過し、東南20kmにある山中を吹き飛ばしました。爆発の半径は1kmで周囲一体はクレーターと化しており、この2週間、立て続けに起こるミサイル攻撃に政府は○朝鮮に対し・・・」

 「まーたぶっ飛ばしたのかよ・・・あのオッサン」

 ビールを飲みながらテレビのニュースを見ているアルフレッド=フォン=オスカーはつぶやいた。

 「・・・しかし○朝鮮政府は「ミサイル発射などしていない」の一点張りで、今後の外交交渉に響くものと思われます。今月に入ってからすでに10発以上のミサイル攻撃が行われているものの、発射ポイントがまったく不明である上に、ふしぎなことに被害らしい被害がまったく起こっていないために、防衛庁は対応に手をこまねいている日々が続いております」

 「そりゃそうだ。俺たちの隊長がミサイル撃っているんだからな」

 「けど、またハズレみたいよ」

 テーブルに答案用紙を広げて採点しているメイリン少尉。

 「たく、いいかげんにネオプラントの基地に狙って欲しいもんだぜ。」

 既に空になったビールを咥えながら悪態をつくアルフは2本目のビールに手をつけた。プシュット言う心地よい音がアルフの気分を良くする。

 「・・・・・」

 「どーした?ソーイチ」

 「ふむ。最近学内で噂になっていることがあってな」

 「何の?」

 「どうも日本には「悪の地下組織」というものがあって、人里離れた山中に拉致しているという噂なのだ」

 真面目に腕組をしている宗一の口調は淡々としていたが、アルフの失笑を買うのには十分だった。

 「・・・何のために拉致るんだよ、○朝鮮じゃあるまいし」

 「拉致した人間を怪物にしてテロを行うそうだ。爆破テロや暗殺を任務としているそうだが・・・」

 「そんならあれか、中佐は片っ端からその”悪の組織”とやらをミサイルでつぶしているとでも言うのか?」

 「・・・・・・」

 宗一からの返答がなかったのでアルフは続けた。

 「それによ、何のためにテロやるんだよ。日本征服か?」

 「そうらしいのだが・・・・・わからん」

 「だよなぁ。どこぞの発電所潰したところで日本征服できっこねえよなぁ。たとえ征服しても報復テロが起こって泥沼化、恐怖政治じゃあ人間ってのは支配できないもんだぜ。みんな外国に逃げちまうのがオチだし、第一資源も何にもない国制圧して何の意味があるんだよ。チャイナからミサイル撃たれてジ・エンドだぜ。」

 確かにそうだ、と宗一は思った。どうもその”悪の組織”とやらはまったく戦後というものを考えていないフシが見受けられる。制圧した後に残った人々をどうするのだろうか。無理言って産業に従事しても能率が悪いし、何より暴動が起こりかねない。いやそれ以前に日本それ自体が資源がまったくないのだから生産そのものが成り立たない。征服しても外国から経済封鎖や貿易停止、同盟国中国やアメリカ、韓国、ここぞとばかりにやってくる○朝鮮の猛攻撃に耐えられまい。そういったリスクがあるのになぜ日本征服をもくろむのだろうか、理解に苦しんでいた。

 「中国とかアメリカを征服するんなら話はわかるのよね・・・えっとこれは×と」

 器用に採点しながら会話をするメイリン。2年生の補習生徒のペーパーテストの半分の人数まで終わったらしく、点数欄に「65点・もー少しがんばってネ」と書いている。

 「でも案外・・・」

 「?」

 メイリンは少し考え、

 「いやなんでもない。あたしの考えすぎかもね」

 「なんだよ姉さん。もったいぶらずにいってよ」

 「うっさいわね。ビール飲んでる暇があるなら採点しなさいよ、英語教師さん。」

 一番痛いところを衝かれてしまったアルフは、

 「おいおい・・・たく、しょうがねえ」

 ビールを一気飲みして立ち上がり、頭をぼりぼりかきながら自分の部屋に戻っていった。



 2人きりになったところでメイリンが話しかけてきた。

 「ソーイチ、最近学校どうなの?」

 「・・・いまいちよく分からないな。周りから勉強を教えてくれと言われて少々困っている」

 「どうして?」

 「同じ環境下で学問を学んでいるのにああも個人差が出るのはなぜだろう」

 「・・・・・兵隊が銃の扱いのうまい下手と同じよ」

 実は同じではないのだが、常識があまりない宗一に言い聞かせるにはしばしばこういった比喩を用いる必要があった。

 「なるほど。そういうものなのか」

 「そうよ、100点の本田宗一くん。一般常識もできれば文句なしなのよね」

 宗一は目の前にびしっと突きつけられた、自分のテストの答案を目視していた。

 その先には<100点おめでとう。お姉さんの熱いキスよ>という文字の隣にはキスマークが刻まれていた。

 「それに・・・」

 「それに?」

 「あんた、その腕はどうなの?」

 「ああ、これか・・・・・」





西暦2004年8月2日22時12分
駆逐艦「シュバルツグリーン」 研究室




 ・・・・・・・ちゅいいいいん

 がごっ!

 きゅいいいいいいいいいい・・・・

 じじ、じじじ・・・

 「・・・おかそう一の覚醒を確認」

 「どうかな曹長、目覚めはよろしいかな」

 「・・・・・返事しないぞ」

 「目が開いているだけです。脳の覚醒率はまだ睡眠レベルですので反応はまだありません」

 「・・・へぇ。目を開けたまま寝るってやつか」

 「でも声は聞こえているんでしょ。」

 「まあそんなところです。ただ四肢の取り付けがまだなので・・・」

 「ああ、あれをつければいいんだろ、えーっと・・・ってこりゃあすげえな。」

 「おいおい、錬成レアメタル合金かよ・・・通常の義手義足に使う代物じゃないぞ」

 「アビオニクスもリニアチューンの反応率が半端じゃない・・・誰が作ってるんだ?」

 「そんなの知らないわよ。上のお偉いさんがこの子を改造したって話でしょ。」

 「詮索はしないように言われているけどね・・・」

 「よーし、取り付けが出来たぞ。」

 「麻酔・・・よし。」

 「ベルトコンデンサー接続完了。神経接続よし。」

 「四次元コンテナとの同期完了。皮膚をかぶせます」

 「おお、こりゃすげえ。まるでひき肉を固めているみたいだぜ」

 「気色悪いこといわないでよ・・・四肢の義手義足への通電を確認・・・よし起動確認」

 「そろそろいそげ、麻酔があと少しで切れるぞ。」

 「皮膚が完全に定着しました。体温調節機構正常」

 「神経接続・・・マシンシナプスを人体神経と接続しろ」

 「スイッチ入れました・・・左腕OK。」

 「右腕OK」

 「両足同時にOK」

 「四肢の神経、人体との連結が完了。衝撃来ます」

 がごんっ!ばぢばぢんっ!

 「・・・OK。神経接続完了。拒否反応ありません」

 「あと1分でガキが起きるぞ」

 「システム駆動確認」

 「OK。四次元コンテナ正常に作動中」

 「通電率99%、稼働率100%・・・駆動レベルアクティブモードに移行完了」

 「腕と足についているその駆動コードをはずせ」

 「・・・OK.。コード除去完了。稼働率90%に低下しましたが徐々に回復中・・・内部電源に切り替わりました」

 「浅岡宗一曹長が覚醒します」

 「さあ、若造の目覚めだ・・・・・」





 「・・・・・」

 全ての情報が耳と目に入り、それがフラッシュバックを起こして一気に脳の中に流れ込んだ。

 混乱しそうなほどの情報量だったが、簡単に処理した。

 「・・・・・」

 「おはよう曹長。私はシュバルツグリーンの技術長のセルゲイ=ベックマン少尉だ。」

 「私はマハラジャ、階級は軍曹」

 「俺はケイン、同じく軍曹」

 「私はリーン=メイ大尉。ここの責任者よ」

 4人の技術者達が、自分を取り囲むようにベッドの周りに立っている。

 「・・・状況確認。ここはシュバルツグリーンの艦内の修理室かそれに類する施設だということが分かった。俺は先の戦闘で腕と足を根元から破壊され、その後麻酔と応急処置を施されて気を失っていたが・・・」

 そこで一旦途切れ、腕と足を確認した。

 「もう一度腕と足をつけられた・・・」

 「その通り、さすが曹長だ。」

 「だが・・・・・」

 「だが?」

 「この腕と足、今までのと比べるとどうも軽さを感じる・・・実際に軽いかどうかは分からないが、間接部の反応と安定性のフィーリングがいつもと違う気がする。それに・・・若干だがなぜ俺の腕や脚が長くなっているのだ?」

 「君のおじさんからのプレゼントらしいよ。17歳の誕生日だって」

 「・・・17歳」

 ちらっと部屋のカレンダーを見たが、今日は8月2日となっている。自分の誕生日は・・・7月14日だったが、誕生日などあまり重要視していないので・・・作者が忘れていたらしいが別にそんなのは問題ではない。腕や足が、若干長くなっているのは長身を意味するのだろうか。

 「今現在君の身長は175cm、全体的に10cm伸びた計算になるが、ただの計らいというわけじゃない。詳しいことは我々にも極秘扱いされているが、その義手義足は今まで君がつけていたのよりスペックが3割増ししているという伝言があるが・・・このことを知っているのは君の直属部隊と我々だけだ。」

 この機械の腕や足が極秘事項となっているのは宗一がよく知っている。初めて取り付けられた際に、機密レベルSSSの科学者が目の前におり、手渡された資料でもそのことを他言無用と教えられているからだ。無論、自分もその科学者の名前は知らない。

 「・・・」

 「それと、前のライダースーツは完全に壊れているから廃棄処分させてもらった。」

 「では・・・」

 「心配はない。浅岡真崎はすべてお見通しさ。」

 科学者の1人がキャスターで何かを持ってきた。

 「それは・・・」

 「ζの改良版スーツの胴体部だ。どうだスリムだろう」

 「・・・・・」

 「それとお前さんのコンテナに入っていたライダースーツの破片だが・・・アレはどこで拾ったんだ?電聖の部品がいくつかあったがな、中には古い部品やら・・・・そういえば麻薬反応もあったな。おまえさんは麻薬なんてやらんのはわかっているが・・・」

 「・・・やはりそうか。」

 「まあ色々あって大変だっただろう。ともかく今はもう寝たまえ曹長。それ以上覚醒していると体力が持たないぞ。とりあえず詳しいことは報告書に書いてくれ」






















西暦2004年8月4日午前7時30分
東京都豊島区かもめ台 セーフハウス前

 ごんごん、

 「こんちわー!ソーイチいますかー!?」

 まったく、自分は何をやっているのだろうかと成美は思った。クラスメイトとはいえ、こいつをたたき起こさなければならないとは。

 電話によれば今日から学校に行けるということだかららしいが、病み上がりなのでまだ本調子ではないという。だから目付け役で私が・・・て立場が逆だろ!と自らつっこみたくもなるのだ。

 <あ、成美さんですか。今曹長が出ますよぉ>

 インターホンから若い女の声。前にソーイチたちの家で顔だけ合わせた、パオリンという通信兵だ。見た目はメチャ若いのだが、別にそれは問題ではない。

 扉が開き、宗一が出てきた。半そでのワイシャツに学校指定の白い制服夏ズボン姿だ。

 このときは遠近感の問題でまだ疑問には持たなかった。だが彼が近づいてくるたびに、成美は計算違いを自覚してきた。

 「成美、待たせたな」

 「・・・・」

 成美は唖然とした。決して6月のように胴体部がマダラ模様だったというわけではない。

 「・・・どうした?」

 「あ、あんた・・・」

 ついこの間までは大体同じぐらいの大きさだったのに・・・

 「いつからそんなにでかくなったのよ!」



 そう、宗一は成美の身長をはるかに超えていたのだ。ついこの間までは、成美の身長と宗一の身長は、ほぼ同じだった。隣に並んでも頭の高さが同じだったので、年齢相応の親近感はあったのだが、今成美の目の前に立っている宗一は、その自分をしっかり超えてしまっているのだ。

 「・・・ああこれか。」

 「ああこれか、ってあんた」

 「前の戦闘で義手と義足が壊れたからな、新しい義手義足にしたのだ。なぜかはしらないが義手や義足が大きくなって、トータルで今までより10cmほど高くなった。」

 「・・・・・」

 「機能は前よりよくなったらしいが、どうも反応が過敏すぎていまいちなじめないのだが・・・どうした?」

 成美は微妙な感情になった。今の今までは宗一とは対等な関係だったのだが、こうやって身長が追い越されてしまうとどうもヘンな感情が芽生えてしまうのだ。なんというか・・・今まで幼馴染だった男の子が、気がつけば異性として認識してしまった、そんな感情が最も近いだろうか。まさに成美はその感情になっていたのだが、どうも自分の中でそれが認めていないようである。

 「・・・もういい。考えるのも疲れるからさっさと学校いくわよ」

 考えるのは成美の癖だが、深く考えるのは苦手である。口より先に手が出る典型的なタイプであるゆえに、論破されそうになると手が出るのだ。

 「ああ。」

 なぜか宗一も納得し、学校への方角へ向けて二人は歩き始めた。





10分後
電車の中


 「あーあ、あんたはいいわよね。今日で学校が終わるんだから。あたしなんてあとまだ3週間も学校よ。部活もあるしさ・・・」

 電車の中で立ちながら嫌味を言う成美。こうやって横に並ぶと、どうも宗一を異性として捕らえてしまって嫌である。

 「だがそれは君の不勉強が原因だろう。俺の場合は教師を怒らせてしまったから今日に至ったのだが・・・」

 「・・・」

 「だが今日ようやくバイクが帰ってくるし、電聖のベルトも帰ってくるのだ。今まで自動FCSにはさんざん苦労させられたが・・・やっとこれで調整やメンテナンスが出来るのだ」

 ここら辺の、どうも男子高校生とは思えない会話のあたりに成美は安心する。これが宗一たるゆえんだからだ。そこいらにいる男はスケベな猛獣ぞろいだが、生まれながら異性に関心の持たないこいつは別・・・どうなのだろうか。

 「てかあんた・・・・調子が悪いんだったらさっさと直せばよかったじゃないのよ」

 「そううまくいかないのだ。電聖のFCSは俺の知識の範囲外だ。技術者でないと調整しようがないし、明日シュバルツグリーンから技術者が家にやってくるからついでに見てもらうのだ」

 「何しにくるのよ・・・」

 「セーフハウスの点検調査だが・・・」

 その時宗一は、他の客と目があった。サラリーマン風の客のほうはそそくさと宗一たちから距離をとって離れていく、成美にはそれがあまりにも不自然すぎる光景に見えた。

 「・・・」

 「どうした?」

 「なんでもない」

 考えすぎかな、と思ったので成美はそれ以上言及するのは止めにした。





午後2時00分
私立所縁が丘高等学校 バイク保管所前


 「いいですね本田君。今度からはバイクで登校をしないでくださいね!」

 担任の崎田先生は力が入った口調でそう宗一に言った。

 「わかりました。以後気をつけます。それと・・・」

 「はいはい、あとこれね。今度から学校におもちゃを持ってこないこと」

 「は、気をつけます」

 その口調、まるで軍隊のようだ。彼女にとってはそれが本当に気に食わない、自分に非がないのだ、といわんばかりの態度と捕らえかねないためであった。しかも成績は校内1位で、全国模試でも上位、運動神経は超人的、決して不細工ではないしヤンキーのような強面ではない、いろいろと難題を押し付けてくるが不思議と暴力沙汰の問題は起こしていない、まじめな生徒の顔だ。

 (これで性格がよければねぇ・・・・・)

 と思わざるを得なかった。いや暴力沙汰の問題は起こっていないし、5月にナイフを持っているという醜聞も結局は嘘のようだったらしいし、意外にも同級生からの人当たりもいいので風紀的にはなんら問題は見当たらない。ただ時折常識はずれの行動で周囲を引っ掻き回すので、むしろ刺激のある事件が少ないこの学校の生徒達にとっては、これ以上ない面白い存在なのだろう。

 「・・・はぁ」

 「先生、だいぶお疲れのようですね。睡眠と食事三食は欠かさないほうが自らのためです」

 「大きなお世話です!」

 この3ヶ月で彼女は3kgもやせてしまった。ダイエットに成功したからではなく、疲労とストレスが原因である。5月のスポーツテストは学校の備品を破壊して迷惑をかけるわ、6月のプール騒動も教師生活で初めての死者を生んでしまうのかとやきもきするばかりか山林先生を図らずしも追い出してしまったし、極めつけが7月のコンビニ強盗だ。最初は宗一が強盗をやったのかと思ったが、実際にはアルバイト先から強盗を撃退したとか何とかで警察には呼び出されるわ・・・

 で、その元凶の生徒に向かって崎田は、

 「・・・よろしい、いってよし」

 「では失礼をします」

 宗一は礼をしてバイクを引っ張っていった。








 「ソーイチ!」

 「成美か、どうした」

 夏休み真っ只中、宗一は現代史の赤点補修分が終わったのでようやくバイクが返されることとなったのである。なので担任の崎田教諭と一緒にバイク保管所まで取りに来たのだが、

 (あ、あんたがそのバイクの持ち主だったのか!さっさともってってくれ!)

 と警備員から追い出されるようにバイクが渡されたのである。これには宗一も崎田先生も不思議だったが、よもや宗一のバイクが夜な夜な何をやっていたのかは知る良しもない。だがそんなのはしったこっちゃないので、とにもかくにも宗一は、一緒に帰された電聖ベルトも戻ったので、ようやく元のリズムを取り戻したのである。

 「やっとバイク帰ってきたんだね・・・」

 「ああ、長かった。4月に没収されてからすでに4ヶ月たっていたのだな」

 思えば4ヶ月ぶりの再会だった。もし宗一が世間の常識を知っていればバイクが没収されることもなく、5月で蜘蛛型怪人に苦労させられることもなく、6月で敵の策に乗せられることなく殲滅できていただろうし、7月にデビルライダーにズタボロにやられることもなかっただろう。だが過ぎた事を言っても仕方はない。

 <・・・・・>

 成美は疑問に持った。

 「なんでこの子、しゃべらないの?」

 学校からの帰宅途中、それも炎天下の真昼なので周囲には誰もいないので問題はないはず。にもかかわらず・・・

 「わからん。もともとあまりしゃべらないタイプだからな」

 そうかなぁ、と成美は思った。今まで見たリアロエクスレーターといえば、ばかみたいに子供口調でノリノリと話してくるメイリン機の1号機や、みょうちくりんなオネエ言葉で話してくるアルフ機の3号機の印象が強く、7月の一件以来でシュバルツグリーンに乗っていたリアロエクスレーターたちも同様だ。

 <いやあ!この人が浅岡成美かぁ!>
 <なるほど、確かに意志の強そうな目をしていますな>
 <う〜ん・・・手元にあるデータとちょっと違うなぁ。>
 <そりゃそうだろ、おまえばかだなぁ。ここにいるのは最新の浅岡成美だぞ。データの写真は何ヶ月前だと思ってるんだよ>
 <でさでさ、この時代のゲームセンターってどういうのがあるの?>
 <この時代のオイルってどんな味がするの?>
 <今度こっちにくるんならバイク雑誌持ってきてよ!>
 <あーずるいなぁ!じゃあ俺はワックスもってきて!>
 <ふーむ・・・ではわたくしはこの時代のラジオというものが聞きたいなぁ>
 <音楽万歳!ロックはどうなんだ!?>
 <今、都市部では何が流行っているんですか?>
 <アーそれ気になる!ボクにも教えて教えて〜>
 
 ・・・とまあ、一台一台よくもまあしゃべるものだからだ。2個中隊400人のライダーがいるので、最低でも400台のリアロエクスレーターがあり、一台一台ライダーの性格に合わせた人格が存在するのだ。短気な”物”もいえれば気楽な"物"もいる。女性人格の"物"もいるし、おじいさん口調の"物"もいる。だが性格がどうであれ、バイクたちは本当によくしゃべるのだ。

 にもかかわらず、この宗一のバイクときたら、

 <・・・・・>

 ぜんぜんしゃべらない・・・。

 「ねえ、そのバイクさ」

 「なんだ」

 「すねてるんじゃないの・・・まかりなりにも4ヶ月もあんなところに置き去りにされたら、誰だって嫌な気分になるんじゃないの?」

 「そうか?たった4ヶ月で俺はそうは思わないが・・・」

 ぶおおおおおおおおおおおおおおおん!!!

 「のわっぁ!」

 何の前触れもなくいきなりアクセルが吹き、バイクを引いている宗一はその全身をバイクに取られるがごとくに暴れられた。あっちこっち振り回されて宗一はまるでロデオ状態だ。

 「・・・図星みたいね。」

 その光景を見て成美は、バイクの心理学者になろうか、とちょっと考えてしまった。



 とその時、背後から強い視線を感じた。

 「!?」

 そこにはなんともいえぬような、ヘルメットを被ってランニングシャツ姿の工事のおじさんの姿があった。目を合わせた途端におじさんはそそくさとその場から逃げるように立ち去っていった。

 「・・・・・?」

 <初めましてミス・成美>

 「あ、しゃべった。」

 いつの間にかバイクが目の前に立っていた。当の宗一は振り落とされたらしく、ヘンな方向で倒れてしまっている。

 <私はリアロエクスレーター3号機、あそこでのびている浅岡宗一曹長のバイクです>

 「ふーん、名前とかないの?」

 <別に・・・名前らしい名前はありません。固有名称として3号機と呼ばれているだけです。>

 「へへ、四ヶ月もあんなところにいて大変だったんじゃないの?」

 <ええまったく大変でした・・・地下だから1号機や2号機とも通信が取れないし、他のバイクはしゃべれないので大変さびしい思いをしてきました。周囲は熱気が充満して熱くて熱くて、しかも銃が撃てないのでタマ詰まりしそうで心配ですし、あんなほこりっぽくてじめじめしたところにいたおかげで体中がほこりだらけ。7月18日にやっと出られると思ったら、今度はあそこにいる男のせいで補習とやらで延び、さらに戦闘で負傷して今日にまで延びて・・・・・!>

 その言から、バイクがどれだけ苦労したのか、ひしひしと成美に伝わってきた。

 「大変だったのね・・・」

 <ようやく出られたと思ったら、あの曹長はなんといいましたか?たった4ヶ月!といったんですよ!ひどいと思いませんか!人が・・・じゃなくてバイクがどれだけ苦労していたのにもかかわらず曹長は・・・!!>

 「まあまあ落ち着いて、深呼吸深呼吸」

 <ふー・・・・はぁ・・・>

 どこで深呼吸しているのだろう、と成美は疑問に持ったが考えないことにした。

 「まあもういいから、はやく帰りましょ。」

 <そうですね、では座席に乗ってください。荷物は私の後部座席に乗せておけば自動ロックします>

 ちゅいいん、とバイクがこちらに座席を向けてきた。御丁寧にヘルメットも一緒に出している。

 「ソーイチはどうするの?」

 <あのままにしておきましょう。私が4ヶ月も一人ぼっちでいた苦労を、少しは知るべきです>

 「・・・・・(かなり根に持つタイプだなぁ)」

 ヘルメットを被り、よっこらしょっとバイクにまたがる。

 <ヘルメットはしましたね。自動運転で家まで送ります。グリップはしっかり握って、座席にはしっかりと座ってください>

 ぶおおお・・・ぶおおおおおお!

 強烈な振動が襲いかかってくる。下手すれば痔になりそうなほどだ。

 こんな振動でアルフさんやメイリンさんは乗っていたと思うと、末恐ろしい気分であると成美は思った。

 「あ、安全運転でお願いね・・・」

 <私は安全に、かつ迅速に成美さんを送りましょう>

 ぶおおおおおおおおおおおおんっ!





5分後
東京都豊島区かもめ台 成美の家の前


 ・・・を通り越して、成美とバイクは宗一たちの家の前にたどり着いた。と言っても歩いて30秒程度の距離なのでそんなに気にするほどでもないのだが、そのままバイクは成美を乗せたまま、車の車庫入れのスペースに入っていく。

 がごんっ

 「え?、ちょっと!」

 <あ・・・すいません。つい曹長を乗せた感覚で来てしまいました・・・後でもう一度戻りますので・・・>

 「・・・」

 どうもこのバイクは抜けているところがある。と思いつつ成美はバイクから降りた。

 ういいいいいいいいん

 途端に地面が降りていく。そういえばこの家は地下にバイクを入れるところがあったのだった。6月にやってきたときは訓練所や射撃設備などしか見ておらず、ここのバイクの保管所には一度も足を踏み入れたことはない。

 <おいおい・・・だれがエレベーターを動かして・・・ってあれは!?>

 <3号機!3号機が帰ってきた!>

 エレベーターが止まり、そこにいたのは2台の・・・じゃない、数十台のバイクたちであった。

 <おーい3号機!やっと帰ってきたか!>

 <その声は1号機か・・・久しぶりに同胞と会えた>

 <いやぁまったく曹長がアレだから・・・君も苦労したようだねぇ>

 <まったくだ。>

 <で、曹長は?>

 <のびているのでほっぽってきた・・・>

 <?>

 たちまち打ち解けあうバイクたち。バイクが打ち解けるって日本語的におかしいのだろうが、そうなんだから仕方がない。

 「・・・」

 <おや成美ちゃん、久しぶりだね>

 「ここの地下見たことなかったから・・・あんたたちはどこから来ているのかとずっと疑問に持っていたけど・・・なにやってるの?」

 成美の疑問は、まさにその空間にあった。





 <先手、73飛車>

 ぱちんっ

 <後手、83角>

 ぱちんっ

 <先手 13王>

 ぱちんっ

 <後手、64金>

 あっちではなぜかバイクが将棋を行っている。御丁寧に実行役や時間を数える人、果ては、

 <おおー、ここにきましたか。先手の91号機は辛い立場になりました>

 <この局面を打開するにはどうすればいいでしょうか、解説の102号機さん>

 <ここは一旦引いて立て直すべきでしょうね、解説の77号機さん>

 <20秒。1,2,3,先手45金>

 実況や解説役までいる始末だ。周囲にはその試合を見守るバイクが取り囲むように固唾を飲み込んでいる。

 <おお、意外な手を突きました!後手の43号機はそれを許さない模様!>

 <あんなところに打っても無意味でしょう>



 「・・・・・あれ、なにやってるのよ・・・」

 <将棋だよ成美ちゃん。今竜王を決める試合をやっているの>





 さらに向こうでは、箱の山が積み上げられている。

 <おい、この73のパーツ、どことつなげればいいんだ?>

 <これだよ、この21と31の足パーツ>

 <うーーん・・・指の力加減が難しい・・・>

 <力入れすぎるなよ。また壊したら君の主人がどれだけ怒ると思っているんだ>

 <だって俺の主人がなぜかこれを気に入っちゃってさ・・・自分の給料を使ってこれ買っているんだぜ・・・>

 <君も大変だねぇ。彼は30歳の癖に未だに妻も恋人もいないんだから・・・>

 <メイリン=ルイも29歳だけど恋人はいないみたいだぜ>

 <あっちはフィアンセがいたようだけど・・・死んじゃったみたいだよ>

 <ふーん・・・何で知っているんだよ、それ>

 <ニッパー貸して>

 ・・・・・

 ・・・・・

 <よしつながったぞ。まったく、この144分の1マスターグレード:バッターアウトガンダム、むずかしいなぁ>

 <美少年キャラばかり出して売れた作品だからね。見てくれなんてそんなものだよ>

 <人間はくだらないねぇ。2次元のキャラクターに異常な熱を上げるんだから・・・いいところできりをつけないと社会不適合者になっちゃうよ>

 <言わないでくれ・・・俺の主人はまさにそれなんだよ・・・>

 <おい、こっちのマスターグレード:ファーボールガンダムができたぞ!>

 <うーん・・・このあたりをもうちょっとスプレーして肉感出した方がいいなぁ>

 <色は何色がいい?>

 <次は何作ればいいんだ?この144分の1のブラックベースを作るの?>

 <うわぁ、こりゃ結構でかいなぁ>

 <えーと、説明書によると・・・全長250m、質量78000t、バッターアウトガンダムとファーボールガンダム、ポトリエラーガンダムの3機を搭載する大型戦闘母艦で、長時間の飛行と重装甲、高火力を実現した、地球連邦政府最強の軍艦・・・って無茶苦茶だよこの設定>

 <なんだよそれ・・・250mのでっかいのが空飛んでたらミサイルのいい的じゃないか>

 <それにこのスフィンクスみたいな形状はおかしすぎる!航空力学を明らかに無視した構造だ!真下からの敵の攻撃をまったく想定していないし、こんなでっかいビーム砲をくっつけても敵に当たるわけないじゃないか!>

 <艦長はフライドポテト=アノ中尉・・・なんで中尉が軍艦の艦長できるんだよ!>

 <少佐から駆逐艦の艦長で、中佐が巡洋艦艦長、大佐が戦艦艦長なのが常識なのに・・・おまけにその人って19歳なんでしょ・・・>

 <あーあ・・・ってバッターアウトも16歳の少年!?なんで乗れるんだよ!>

 <何でも遺伝子改良されたから・・・って浅岡曹長かこいつは!?>

 <浅岡曹長もさ、ちゃんと戦闘機の訓練とか戦車の訓練やっているんだよねぇ>

 <曹長は7歳のころから訓練を始めてるからあっちはぶっつけ本番じゃないし、公式記録でも100時間以上の戦闘機や戦車の単独操縦をやっているよ。でもこのガキンチョは民間人の息子で、特殊な人だから簡単に乗れるって・・・そんなうまい話があるものなのかねぇ>

 <そもそもこんな形状で腰の部分のコクピットに乗ってもさ、敵に狙い撃ちされるだけだと思うんだよねぇ>

 <20トンの質量を二本足で支えるから地盤のゆるいところじゃ歩けないし、無駄にでかいから戦車のいい的だし・・・使いようがないよ!せいぜい遮蔽物のある市街地戦でしか使いようがないっ!>

 <格闘戦が出来るのが強みだって>

 <戦争の基本も分かっていないねこの作者は!格闘戦に入る前からその図体で敵に近づけば、いい的になるに決まっているじゃないか!殴ればマニュピレーターの部品はぶっ壊れて使えなくなるし・・・こんなにでかくて重たい図体を軽々と動かせる燃費もおかしすぎるよこれ・・・>



 「・・・・・じゃああれは何をやっているの」

 <あっちはガンプラ。10月からなんか新しい番組が始まるからなんだかあっちは興奮しているよ。毎日激しい討論してる>





 さらにあちらでは、

 <では次はショートケーキの作り方です。生クリームと卵、イチゴと小麦と、そのほか云々はありますか?>

 <はーいできてまーす!>

 <よろしい!では始めましょう!>

 <なんで俺まで付き合わされるんだよ・・・>

 <あいつの主人、女ライダーでさ、こんど彼氏にバースデーケーキをプレゼントするからってさ、バイクにやらせているんだぜ>

 <なんだよそれ!自分の彼氏の面倒ぐらい、自分でみろってんだ!バイクにやらせるなよな!>

 ひゅんっ!ぐちゃっ!

 <うわぁ!卵がシートにいいいいい!>

 <そこおしゃべりしない!まず卵をわってかき混ぜる!次に小麦と砂糖と・・・>

 <だからって俺に卵ぶつけるなよな!>

 <51号機センセーイ!82号機が砂糖と塩を間違えてまーす!>

 <なんだってそんな分かりやすい失敗をするのよ!>

 <いやあ。プリンに醤油をかけるとウニの味がするってよく言うじゃないか。だから・・・>

 <作者が醤油とラー油のドラ焼きを作ったような言い訳をするんじゃないっ!>

 <あの後更に酢を入れたあの事件ね。作者はあれで二日間寝込んだんだよねぇ(超実話)・・・馬鹿だと思わないかしら>

 <そうよねぇ。命が惜しくないのかしら・・・>



 「あれは・・・」

 <料理教室!あの指示しているバイク51号機の主人が女性ライダーでね、73号機の男ライダーといい関係なんだって。それで料理で落とす作戦に出たみたいだよ。でもそのライダーは料理が苦手でさ、バイクにやらせてるんだ!>





さらになにやら叫んでいる向こうでは

 <ゆえに!僕らバイクは人権を持たなければならないのだ!浅岡真崎も言っているぞ!『特権は腐ったミカン』、その名の通りに特権を与えると付近にいる人間まで腐ってしまい、結果それが組織全体が腐ってしまう原因になってしまうという意味だ!>

 <そうだー!その通り!>

 <もっといったれー!>

 <僕らバイクは人間のように考え、人間のように感情をもっている!例えそれがプログラムであろうとも、ぼくらのそれは人間のそれとほぼ遜色ない出来だ!ゆえに僕らはバイクはバイクとしての考えをライダーに発言できなければならないのだ!>

 <そうだそうだー!>

 <しかし今の僕らはどうか!不快だと言う理由でバイクはしゃべっただけでライダーになぐられる!蹴られる!トマホークで叩かれる!武器を持ったロボットやミュータント、怪人に向けられて前進させて盾にされる!!>

 <何だとーそれはひどすぎる!>

 <最近では仮面ライダーの必殺技と称して、僕らの同胞が怪人めがけて投げつけられ、破壊されてしまったケースもあるらしい!これはいわゆるバイクの虐待ではないか!?>

 <なんてことだ!>

 <ぼくらを何だと思っているんだ!>

 <ただの自動二輪車だと思っていやがるのか!>

 <物を大切にするという考えがないのかそのライダーは!>

 <訴訟だ!裁判を起こしたれー!最高裁までねばったれ!>

 <賠償金8000兆クレジットを要求する!>

 <もう皆さんにはお分かりだろう!僕らは仮面ライダーのよき相棒として戦わなければならないのに、そのライダー側からすれば僕らはただのモノ扱いだ!これで正義を名乗るライダーはライダーと名乗っていいのだろうか!?僕らはそれを否定しなければならない!なぜなら僕らは自分で考え、自分で動け、そして自力で怪人を倒すことが出来るようになっているからだ!僕らは今こそたたねばならんのである!立てよ国民!立てよバイク!ジークバイク!ジークバイク!>

 <おおー!>

 <僕らは人権をもちたーい!>



 「・・・・・」

 <説明する必要もないよね・・・あれ。>





 更に騒がしい向こうでは、

 『がす、びし、どがっ!

 『がぎぃん、がぎぃん、がぎぃん!

 <いけー!>

 <そこだー!>

 <やれー!>

 『がぎぃん、がぎぃん、がぎぃん!

 <もっと腰を低くしろ!相手はそれを狙ってるぞ!>

 『がぎぃん、がぎぃん、がぎぃん!

 <さあ34号機主人のバルカン曹長と61号機主人のハルマン曹長の打ち合いがすでに5分経過しましたが・・・勝負は未だについていません!これをどう見ますか?解説の13号機さん。>

 <双方共に同レベルのライダーですからね、どっちが勝ってもおかしくはないでしょう。実況の56号機さん>

 <さあさあ!どっちが勝つか賭けだ賭けだ!今34号機主人の倍率は4.5倍!61号機主人は5.7倍だ!>

 <いけー!そこだー!>

 『がぎぃん、がぎぃん、がぎぃん!

 <トマホークの振りが甘いぞお!>

 <もっと機敏にうごけぇ!>

 <ほら、そこでアッパーだ!>



 「・・・・じゃああれはなんなのよ!」

 <あっちは血が煮えたぎる熱きライダー同士の訓練の実況試合!誰かがテレビを持ってきてね、上の訓練施設を映しているの。いつの間にかオイルや弾薬を賭けにした露天の賭け事まで流行っちゃっているんだよ>

 「ていうか!」

 成美はついに怒鳴った。

 「あんたたちの仲間のバイクがなんであんなにいるのよ!」

 <だって400人のライダーが君を守っているんだよ。役割分担で東京のあちこちに君をマークする人がいてね。この家はその拠点として何人かが寝泊りしているいるんだよ>

 ひょっとして登校中に電車で宗一と目が会ったサラリーマンや、さっきあった工事のおじさんは、その護衛する人だったのかもしれない。

 「・・・・・」

 <というわけで成美ちゃん。今まで曹長1人で苦労しただろうけど、これからは安心だよ。いつどこでも刺客が襲ってきてもね、たくさんのライダーが駆けつけてくれるからだいじょう・・・・>

 「・・・いいかげんにしろっ!!!」

 ついにぶちきれた成美。あまりにもあまりな大きな声だったために、バイクたちは一斉にこちらを振り向いた。

 <!?!?!?>

 「あんたらはあたしのプライベートなんて知ったこっちゃないって言うの!これじゃ24時間永遠とずうっと観察されているようなものじゃないのよ!大体何!400人てのは!あたしゃ400人もストーカーがついているってことじゃないのよ!ええ!?あたしゃ動物園のパンダか!多摩川のタマちゃんか!」

 <いやそれは君を守るために・・・タマちゃんのネタも古いよ・・・もう多摩川にもいないし・・・>

 「ストーカーのような言い訳を言うなっ!今の今までソーイチ1人でさんざん苦労させられたって言うのに!一気に400人も増えて気苦労するのは誰だと思うのよっ!その気になればあんたらはトイレまでついてきそうね!もうちっとあたしのプライベートを大切にしようとか思わないの!」

 そう、成美はずうっと我慢していたのだ。2005年3月に核が落ちて、その後に自分が組織を立ち上げるから、それを暗殺しようとする輩から守ろうと必死・・・・なのはわかる。が、ここ4ヶ月でどれだけ宗一に振り回されたことやら・・・スポーツテストの時には体育委員をやっていたおかげであいつが破壊した学校の備品を修理させられたり、周囲には勝手に「恋人関係」なんていう馬鹿げた風聞が浸透しきっているし・・・7月にデビルライダーに襲われたときも、そもそも宗一が山林先生を図らずしも学校から追い出しちゃったのが原因だ・・・つまるところ、自分は物凄く宗一に迷惑しているのである。

 <でも・・・今僕らが守らないと僕らが消滅しちゃうし・・・人類は滅んじゃうんだよ!>

 「あんたらがしっちゃかめっちゃかに引っ掻き回すせいであたしも学校の成績がやばいのよ」

 <そこで学校の問題を持ち出しますか・・・>

 <でも成美ちゃん・・・実際君に襲い掛かってくるのはバケモノのような奴らなんだよ・・・君が自分で自分のみを守れると言うのならば話は別だけど・・・空手だけじゃ自分の身はまもれな・・・>

 その言葉に反応したかのごとく、成美はそこに転がっていたモンキーレンチを拾い上げ、宙に放りなげた。

 <?>

 ざばんっ!

 必殺のチョップが落下してくるモンキーレンチを真っ二つに切り捨てた。

 <・・・・・!>

 ・・・からんっ

 これぞ浅岡成美の祖父である浅岡源蔵から学んだ軍隊格闘術「浅岡流殺人空手術」奥義のひとつ、「斬鉄拳」である。ざんてつけんと読む。その名の通りにチョップ(拳と書いてあるが)で鉄をも寸断する、殺傷力抜群な必殺技であり、素手で米軍と戦う切り札でもあったらしい。実際にそんなことしたら近づく前に撃たれて蜂の巣になるのだろうが・・・切り口もまるで鋭利な刃物に斬られたかのごとくに鋭くとがっており、ただの空手の有段者ではないことを成美はバイクたちの前に証明したのである。

 「もうついてくるんじゃないっ」

 そういい残して、成美はエレベーターに乗っていった。

 <・・・・・>

 <おいこれって・・・・錬成レアチタン合金のレンチだよなぁ>

 <ダイヤ並みの硬さなんだよこれ・・・普通手刀で切れるような代物じゃないよ・・・>

 <しかもものすごくきれいに切れちゃってるよ・・・どうやったんだろう・・・>

 <・・・石川五右衛門?またつまらぬものをとか・・・>

 <そういえば今年のルパン”5世”のビデオ、撮った?>

 きれいに切断されたレンチを持ち、バイクたちは戦慄を覚えたのであった。





 エレベーターがたどり着き、地上にたどり着いた先に出くわしたのは、宗一だった。 あれからトータルで10分以上経っていたので学校から家までの行程でここにいてもおかしくはない。

 「・・・」

 「成美・・・なぜここにいる?」

 「ふんっ!」

 物凄く人当たりの悪い一言で、成美はのっしのっしと宗一の前から姿を消し、自分の家に戻っていった。

 「・・・・・?」

 どうやら自分は、またしても彼女の気分を害するようなことをやったようだ。

 だが今まで自分が彼女を害したのは、大体理由がつく。4月は公式の面前で彼女を怒らせるような発言をしたし、5月はそれが尾を引いていた。6月もやっぱり思い当たることはあるし、7月は・・・あれは一方的なのだろうか?まあそれはいいとしてだ、しかし今はまったくそうではなく、具体的に自分が成美に対して何かやったと言うことは思い辺りがなく、理不尽すらも感じられるのである。

 何がなんだか分からず、宗一は家の中に入っていった。














西暦2004年8月5日未明
????????????


 「ええい!ライダーめ!とうとう痺れを切らしてミサイル攻撃に乗り出すとは・・・」

 「しかもよりによって○朝鮮の攻撃に擬態して攻撃を仕掛けるとは何たる狡猾!」

 「卑怯なり!」

 その部屋は非常に狭く、また暗かった。

 部屋には怪しげな格好の人物が9名、円卓に座って会議を開いていた。既に会議とは思えぬような内容だったのだが。

 彼らを守るように付近を直立しているのは、ライフル銃を持った黒ずくめである。目と鼻と口以外を完全に隠したバラクラバ帽に真っ黒いタイツ、その胸には彼らの紋章であるサソリのエンブレムが光っていた。

 「しかし首領閣下・・・いつからライダーめは・・・その・・・」

 「なんだフクロ博士!」

 首領と呼ばれるその男は一見すると若い男のようであったが、真っ白い髪の毛に胸にまで届くそのアゴヒゲから、仙人と表現した方が良い風貌であった。真っ黒いローブからみえる右手にはドクロのオブジェがついた杖が握られている。だが頭には包帯が巻かれており、左手は骨折したのかギプスがはめられ固定されており、右手の杖は明らかに松葉杖としての役割が果たされていた、見るからに痛々しい姿である。

 一方のフクロ博士と呼ばれる老人はどう見ても130cmを下回る、80代以上の風貌である。嫌そうなガチャ目にこれまた立派なあごひげ、科学者らしく白衣を身に着けている。だがやっぱりひどい怪我である。それ以前にこの部屋にいるすべての人物は(兵士含む)皆どこかしらか怪我をしており、満身創痍といった方が相応しい風貌であった。

 「いや失礼。そもそもライダーめは・・・どこからミサイルなど手に入れたのでしょうか」

 「それにミサイルをどこから撃ってきたのかが問題です。レーダーにも反応しなかったのですぞ」

 「いやいや、ここ最近我々と同盟関係にある地下組織や敵対組織にまで無差別攻撃を敢行なさっておるのですぞ。どうも”ツヴァイ”とは関係のない連中の仕業ではないのかと・・・」

 「確かに、”ツヴァイ”は我が組織以外の連中を知らんし・・・」

 「とすると”エニグマ”か!?きゃつらとうとう我々やヴァジュラを潰しに・・・!」

 「いやそれはありえんぞ。”エニグマ”は日本での活動はまだ小さいし、ヴァジュラとエニグマは・・・・・まだ裏づけが取れていないが敵対関係ではない。ミサイル攻撃などといった大それた作戦は・・・考えられぬ」

 「それに秘匿性を重視する地下組織が大々的にミサイル攻撃をするのか?」

 「うーむ・・・」

 納得のいく答えが見つからず、一同は黙りこくってしまった。





 「ギギギ!」

 一人の兵士が血相変えて会議室に入ってきた。

 「何事だ?」

 「ギ!」

 首領は兵士から手渡された紙を黙読した。

 「・・・・・なんと!?おい貴様、どこでこれを」

 「ギ!ギギギギッギ!」

 「・・・・・そうか。よし、下がれ。それと”そいつ”には目を離すなよ」

 「ギギ!」

 敬礼して兵士は首領に背中を向けないように部屋を出て行った。

 「どうなされましたか?首領閣下」

 「ミサイル攻撃をやっている連中の正体がわかったぞ・・・」

 「”ツヴァイ”ではないのですか?」

 「そうだ。どうやらそれまでのライダーとはまったく違う組織の仕業らしい。これ以上の損害を受ける前に奴らをおびき寄せて一網打尽にしてやる。ひっひっひ・・・」

 紙面のクリップについている写真には、オレンジ色のシャギーヘアーの女子高生の姿が写っていた。










西暦2004年8月13日午後3時5分
東京都豊島区うみねこ台 喫茶店「ギャラクシーアミーゴ」


 「・・・・こんちわー」

 「やあ、今日も頼むよ」

 今日も今日でアルバイトの時間である。来月から正式な店員を入れるので成美たちは8月いっぱい働くこととなっている。

 「・・・・成美、その・・・」

 「・・・ふんっ!」

 「待ってくれ。なぜ君はそんなに怒っているのだ。俺が何か君に対してまた変なことをやったのなら謝罪する。だから・・・」

 ひゅんひゅんひゅんっ!

 がごんっ!


 「ぎゃうんっ!」

 後頭部めがけて銀色の円盤トレーが炸裂、宗一はのけぞってダウンした。投げた張本人である成美はそのまま着替えのために奥の部屋にのっしのっしと立ち去っていく。宗一とは口も利きたくないようで、付け込む隙がまったくない。

 元々宗一は話下手だ。4月から比べればある程度社会にも慣れ始めてきたが、それでもまだまだ。最近では伊南村に進められて音楽CDを借りたり、明美たち女性陣に進められてマンガやゲームなども借りて慣れ始めてきている。だが、まだ女心を理解するにはまだまだ未熟のようであった。

 「・・・・」

 「なにかな。彼女とけんかでもしたのかな?」

 「理由が分からない・・・。今まで俺は成美を怒らせたことはあったが、それでも自分のなんらかの行動に原因があるということが答えに出せた。だが今回の場合はどうしても自分の行動に彼女を怒らせた理由が見つからない・・・」

 確かに、この一週間成美はずうっと口をきいてくれない。ていうか、顔も合わせてくれない。このことを同じ女性で上官のメイリンに言うと、

 (あんた、浮気でもしたんじゃないの?)

 と、けらけら笑うだけで解決することはなかった。時折セーフハウスにやってくる女性ライダーたちと相談しても、

 (曹長、それは自分を馬鹿にしているのでありますか?)
 (それは曹長がまだ17歳だからです)
 (いずれ分かりますよ。いずれ!)
 (あーあ、あんた達はいいわよねぇ。あたしなんて26歳になっても彼氏できないしー)
 (ふっ・・・・若いわね。青春をもっと満喫しなさいよ!若いの!はっはっは!)
 (浮気でもしたんでしょ、曹長君)

 と、自分が隊の中で最年少であるためなのかまともに相手にしてもらえず、どれもこれも似たり寄ったりで解決できるような答えを見出すことは出来なかったのであった。

 「・・・」

 「そう悩んでも解決はしないよ、宗一君」

 本郷のおじさんが肩に手を乗せた。

 「『女心は秋の空』、女の子の心は男には分からないところもあるんだ。君に思い当たるところがないのならばきっとあの子は”君達に”何か不満を持っているんだろう。」

 「・・・俺達に?」

 「あの子だって年頃の女の子だよ。いつも君達に付きまとわれたら爆発だってしたくなるんじゃないのかな。今はそっとしておいてあげなさい」

 「・・・・」

 宗一には、まだその言葉の真意が分からなかった。



 「こんにちはー。」

 店に見覚えのある少年が入ってきた。伊南村だ。

 「いらっしゃ・・・・・どうした伊南村。」

 「どうしたというわけじゃないけどね・・・へぇ、ここが朝・・・・本田君がアルバイトしているところなんだ」

 「こんにちはー。」

 「おじゃましますー」

 更に二人、成美の親友の明海と雪枝だ。宗一たちがどういうアルバイトをやっているのかを見るために、店にやってきたのだった。

 「二人が来るとは珍しいな。何かあったのか?」

 「ただナルちゃんがどこでアルバイトしているのかな、って好奇心だよ。」

 「ところで成美さんの姿が見えないようですけど・・・」

 「おまたー・・・ってどうしたの明美。それに雪枝ちゃんや伊南村君まで・・・」



 「へぇ・・・要はあたしを見に来ただけなのね」

 窓側の席でくっちゃべっている3人。それぞれチョコパフェやアイスコーヒーを注文して談話している。

 「人聞きの悪いことを言わないでよ。こうやって注文しているんだからさ」

 チョコパフェのクリームの部分をスプーンに汲み、口の中に入れる明美。

 「でも成美さんがこういうところであるバイトをしているのは意外です・・・」

 コーヒーを飲みながら関心する雪枝。その言葉に成美はちょっとカチンと来た。

 「それはどういう意味かな?」

 「ええ。体育会系の成美さんでしたら、こういう落ち着いたところより工事現場でヘルメット被りながらツルハシふるって道路を舗装している仕事のほうが似合うと思うんです。」

 「・・・・・」

 「あと警備員さんで不届き者を空手チョップで退治したり、工事現場で道路の誘導をしていたりとか、山できこりやっていたりとか・・・あ、あと海でマグロ漁船に乗ってゴウカイに一本釣りをしたりとかもにあいますね。」

 「何で”そっち系”のしか思い浮かばないの・・・」

 要は成美はガチンコの体育会系である印象が強いからである。確かに活発な成美がこういう落ち着いたところにいること自体、違和感がいっぱいなのである。もっともそれは成美本心からではなく7月にコンビニに強盗が押入ったせいでバイトをクビになり、次の仕事が見出せないためである、一種のやむなしであるのだが。

 そんなのろけ話をしているさなか、宗一はカウンターで伊南村と話をしていた。

 「・・・というわけだが、なぜ彼女は俺を避けていると思う?」

 「・・・はぁ」

 現実世界で、カルチャーギャップからくる解決できない問題には、宗一は伊南村を頼りにしていた。宗一にとって彼は未来世界と現代をつなぐ、重要なパイプであり、大概の疑問や問題を誤解と偏見の塊である宗一でも分かりやすく翻訳してくれるのだ。現代社会の基本的な情報が足りないと悩むと、伊南村は本屋で「現代の基礎知識」という分厚い本を薦め、宗一はこの社会の仕組みをだいぶ理解できるようになった。

 「本田君・・・・・そりゃあ成美さんだって1人になりたいときがあるものだよ」

 「・・・」

 「守ってあげるという気持ちはいいんだけどさ、ずっと付きっ切りじゃ成美さんだって疲れちゃうよ」

 「俺は別にそう思わないが・・・」

 この90年代の熱血系主人公な発言に伊南村は思い切りため息をつき、アイスミルクティーを一飲みして一拍おき、続けた。

 「本田君・・・自分のモノサシで量っちゃダメだよ。ここは21世紀なんだよ、ただでさえ成美さんはあれなんだから・・・いつも君が暴力を受ける理由だってそのイライラが原因だと僕は思うんだけどね。ボクが成美さんの立場だったらやっぱり似たような気持ちになっちゃうよ。400人から監視されている生活なんて日本人にはぶっちゃけありえないもの」

 「・・・」

 ようやく宗一は成美が怒っている理由を理解することが出来た。要は彼女は付きまとわれすぎて迷惑しているのだ。

 「なるほど分かった。よい解決案が思い浮かんだ」

 「?どういうのなの?」

 「それはだ・・・・」





同日午後9時00分
喫茶店「ギャラクシー・アミーゴ」


 閉店時間となり、成美たちは帰る時間となった。

 「お疲れ様でしたー」

 「また明日も頼むよ」

 本郷のおじさんと別れを告げ、帰路に着くために成美は宗一と二人っきりとなった。しばらくは無言のままで歩いていた二人だったが、

 「成美、話がある」

 宗一が切り出した。だが成美は無言のままである。

 「嫌と言うのならばそのままでいい。だが聞いてほしいことがある。」

 「・・・・・」

 「なぜ君が怒っているか、俺は大体は理解した・・・つもりだと思う。君は俺や俺の仲間達がいつも君を監視していることに苛立っている。」

 「!」

 顔はそっぽ向いていたが、成美は驚きの表情に切り替わった。あの無頓着な宗一が人の心を分かるようになっているとは。

 「そこでだ、明日から俺は君の護衛をやめる」

 「!じゃ、じゃあ明日からどうするのよ!」

 「これをもっていろ」

 成美は何か手渡された。シャープペンシル状の、シルバーに輝くきれいなペンだ。

 「・・・?」

 「それは君が何か生命の危機に陥ったら、ペンの先を強く押せ。それが発信機となって俺達を呼ぶことが出来る」

 「・・・」

 根本的な解決にはなっていないような気がした。だが宗一は続ける。

 「その・・・なんだ。俺はまだ君の事や感情というものをよく理解できていない。だが・・・それでも君がこの一週間何か迷惑を被っていると思ってずっと考えていた。もっといい解決案はあるのかもしれないが、今の俺にできることといったらこれぐらいしか思いつかないのだが・・・」

 それ以上宗一の口からは、うまい言葉は出なかった。こういったセリフは彼の辞書は乏しいのだ。だがそれでも宗一は自分なりに最大限に努力して、成美のためを考えて今回に至った。不器用だが、どことなく純粋さを味わえる、それが浅岡宗一という人間なのだ。たとえ腕や足が機械になろうとも、腹にベルトを入れられようとも、彼は人間なのだ。

 「・・・・・わかったわ。」

 「!?」

 「それで我慢してあげる。いざと言うときになったらこれ押してやるから、その時になったら駆けつけてきなさいよ!」

 顔はそっぽ向いていたが、そこからでも成美の顔が赤くなっていることは宗一にも読み取ることが出来た。彼女は恋心から来た赤面ではなく、自分のセリフに合わない恥ずかしさから赤面しているのである。奇妙にも宗一はそうだと思っており、また実際成美はそうだったために、双方に変な誤解は生まれることはななかった。

 「分かった。すぐに駆けつけよう」

 気がつくとすでに成美の家の前であった。二人はそこで別れを告げ、双方共に互いの家に入っていった。











西暦2004年8月20日午後1時30分
私立所縁が丘高等学校


 あれから更に一週間が過ぎたが、不気味なことに宗一の姿が消えた。彼は補習でも部活動でもないくせに学校にやってきては、ずっと私の近くにいたものだが、今では午後3時から始まるアルバイトぐらいしか顔を合わせなくなったのだ。

 と同時に謎の視線も感じなくなった。恐らく宗一が上官に具申して仲間のライダーの監視の目を緩めてやったのだろう。つまるところ、ここ4ヶ月乱されたリズムが元に戻ってきたのだ。が・・・

 「・・・」

 こうもあいつがいないと、どうも変な気分にさらされて仕方がない。逆にあの振り回される生活が自分の性分にあっていたのではないかとも錯覚してしまう始末である。部活動の部員達も、

 「いつものあのセミロングの人はどうしたんですか?」
 「あれ、ひょっとしてケンカでもしたの?」
 「とうとう破局かしら」

 てな感じの噂や声が聞こえて仕方がない。学校における宗一の評判は「不器用なまでの一直線な、それでいて無口なワイルド系の元暴走族のヘッド」という、よくわからん考えが出来上がっており、また宗一には失礼な話だが、怒りのキャパシティーが低い成美の怒りの矛先のサンドバックとしての役割という認識もあった。ゆえに周囲は成美が宗一と一緒にいないと、いつ彼女がキレて自分に拳を振り下ろすか、逆に不安がってしまう始末である。

 「・・・」

 よくあることで、人はいつもはなんとも思わなかったけど、いざなくなるとその喪失感を覚える。これはその人が無意識にそれを意識していたからである意味で、ある種の心理でもある。成美は2年生になってから宗一の護衛を受け・・・もとより彼が引き起こす騒動の火消しやブチキれの矛先をしたりなど、今までの自分の生活に強く密着していた期間が長すぎたのである。ゆえに彼女、浅岡成美は、浅岡宗一という人間が近くにいなくなっただけで喪失感を覚えたのである。

 無論「ギャラクシー・アミーゴ」に行けば宗一と会うことは出来るし、バカやっているあいつに鉄拳を送り込むことも出来る。だが・・・

 「なーんか、物足りないのよねぇ・・・・・・・・・・・!」

 帰路に着く成美は、背後から視線を感じた。だが、それは大根足の買い物かごを持つおばちゃんだった。

 「・・・いくらなんでもそりゃないか」

 宗一たちのライダー部隊の年齢は20〜35歳までである。あんな短足のおばちゃんがライダーなわけが・・・・・

 ぶるるるるるるるるる・・・・・・

 「?」

 ぶるおおおおおおおおおおお・・・・

 背後から車の音が、

 ぶおおおおおおおおおおおおおお!!!

 「!!」

 振り返ると、私めがけて一台のワゴン車が突進してきた。あまりの危険さに成美は思わず動けなくなり、

 「がしっ!」

 そのままつかまられ・・・・・・って、え!?

 「ぎーぎーぎーぎぎぎ!(ターゲット確保成功!)」

 「ギギギギギ!ぎーぎーぎぎぎ、ぎーぎぎい!(こちらA班!ターゲットの捕獲に成功した!他の班は直ちに合流して帰還せよ!)」

 「ぎぎぎぎぎっ!ぎーぎー!(このまま基地に帰還するぞ!)」

 「ちょ・・・はなせってこなくそー!」

 成美が見たもの、それは黒ずくめの男達だった。バラクラバ帽に全身黒タイツ、腹にはサソリのエムブレムが作りこまれ、あたかも「あれ」だ。見た目はひょろながなのだが、意外に力があって格闘技やっている成美でも振りほどくことができないほどである。

 「うがー!こなくそー!はなせー!」

 「ぎ・・・ぎぎぎぎ!(こ・・・なんて力だ!)」

 「ぎーぎーぎー!ぎぎぎ!ぎぎぎっぎぎー!(催眠ガスを使うぞ!マスクしろ!お前はマスクをつけるまで息を止めろ!)」
 
 ぶしゅうううううう・・・

 「ちょ・・・・こんなくさひものにょあひゃひにふっかけ・・・・」

 成美はそのままばたり、とそのまま力なく気を失った。この時の騒動で誰も気がつかなかったのだが、いつぞやか渡された発信機は、車のドアに当たってスイッチが入っていた。

 ぴこん、ぴこん・・・





同日同時刻
東京都豊島区かもめ台 セーフハウス


 「よおし曹長君。できあがったぞ。」

 ちゅいいいいん・・・・ちゅいいいいいん

 「アクチュエーター反応よし。オートFCSは・・・よし。自動火器完成システムは・・・誤差しない」

 「しっかし本当にそれでいいの?電聖の由来は”電子の聖騎士”と言う意味なんだ。その名の通りに電聖は従来のライダースーツとは比べ物にならないほどの立派なFCSや電子部品がしこたま使われているのに・・・これじゃあ電聖じゃなくて前モデルの雷王とあんまり変わらないよ・・・」

 そう嘆く科学者。あれから一週間がたっていたが、思った以上に電聖のメンテナンスが進まず、今日になってようやく宗一は自分のライダースーツの調整を行うことができるようになった。4月に誤作動を起こした自動火器完成システムを撤廃し、さらにマシンナリーアナライズの不届きな単語も捨てたし、あちらこちらのプログラムも書き換えたので、これでようやく宗一は電聖のライダースーツを旨く使えることが出来るようになったのだ。

 「これがもっともしっくり来るのだ」

 「はあ。前線の兵隊さんはみんなこうだ。前の雷王がいいって言い張って使ってくれないんだもんなぁ・・・」

 「お前達技術陣はもっと前線の声を聞くべきだ。こんな露骨に電子部品やシステムを入れればいいというものじゃない」

 「あんたらがそういったからやってやったんじゃないか。やれ気がついたら弾がなくなっていただとか、暴発したとか、ガス戦にも対応してくれだとか、敵が茂みに隠れても分かるようにしたいだとか・・・」

 どこの世界も、前線と後方の考えの相違というものはあるものだ。よく作品で「前線での経験が豊富な・・・」とあるが、実際そういう人はデスクワークが大の苦手、多くの人間を統率する指揮官としてはダメダメなのだ。未来のライダーの軍隊もみんなちゃんと前線能力と後方能力を重ね備えた師団長や大隊長などで編成されている。例外なのは荒くれ者が勢ぞろいする第7ライダー師団のケビン=ファラ大将で、彼はいつも参謀にあれこれと仕事を押し付けてしまっているが、周囲はケビンがどういう人間なのかも理解しているし、また彼でなければ荒くれものぞろいを従わせることが出来ないなどの、特別な事情があってのことだった。

 「そうはいってもだな・・・」

 ヴぃーヴぃーヴぃーヴぃー!

 言い終わる直前、セーフハウス全体に警報音が鳴り響いた。

 「な、なんだなんだ!?」

 「この警報音・・・まさか!」

 ふいと宗一は成美に渡したペンの片割れを取り出すと、ペンの先が赤く点滅して光っている。これはスイッチを押すとこうなる仕組みで、周囲にやかましい音を立てるのだ。

 「すまん!電聖のスーツはこれを使わせてもらうぞ!」

 「おいちょっとまて!まだFCSのセーブ作業とかがまだ・・・」

 「ソーイチ!何なのこのうっさい音は!」

 「メイリン大変だ!成美の身に危険が迫っている!」

 「・・・?」

 「今すぐ本隊と連絡して救助にあたらせろ!識別信号6666ヘルツ!」

 「ひょっとしてそれってあんた、成美に携帯用の発信機を持たせたの?」

 「そうだ!」

 そのまま宗一は黒い戦闘服に着替え終える。

 「まったくあんたは・・・どうりで最近の護衛をスペクターに任せっぱなしだったのね」

 そういい終える直前、すでに宗一は自分のバイクに乗り込み、鳴海の元へ殺到していった。



 「早いもんだわ・・・」

 「あんだぁ・・・人が気持ちよく寝てたってのに・・・」

 眠たそうな目でアルフが文句を言ってきた。どうやら深夜時間帯まで起きていたらしく上はランニングシャツ、下はトレパンとみっともない姿だ。

 「アルフ、出撃よ。」

 「へ?」

 「成美が拉致られたみたい・・・パオリン!」

 「は、はい!」

 「最近作者にも忘れられてるっぽいから、さくさく周波数調べて相手の事とかを調べなさい!」

 「りょ、了解しました!」

 「ホラ他のみんなも!ベンはガンプラ作ってないでさっさとバイクに乗れ!エマージは焼きそばは後回し!フレッドは食器洗いは中止して!ナタリーはそこでロイといちゃついてないでさっさと準備しろ!急げ!」






15分後
埼玉県さいたま市 


 「・・・・・」

 まさに疾風のごとくであった。メイリン率いる10数名のライダー達は瞬く間に準備を終え、バイクにまたがって成美の発信機を追いかけていた。

 <あーあ、あとちょっとでホームランガンダムが出来たのに・・・>

 <ぐたぐだいうなよ。これは任務なんだからさ。>
 
 <でもよー・・・>

 <ホラおしゃべり止めろ!・・・・少尉通信です。パオリン伍長からのレーザー通信がきました。回線をつなぎます>

 [・・・・ちらパオリンです。応答お願いしマース]

 「ばっちり聞こえてるわよ。なんかわかった?」

 [ええばっちりです。衛星イージスが発信機を載せた自動車を発見したので、写真を転送します・・・どうでしょう、黒いワゴン車です。乗っているのは5,6人、うち成美さんをはずせば5人ほどでしょうね。]

 「んで、こいつらはどこに向かっているの?」

 [分析完了。駆逐艦シュバルツグリーンのスーパーコンピューターの分析によれば、群馬県吾妻郡嬬恋村の浅間山のふもととでました]

 「・・・ずいぶん細かいわね」

 [コンピューターにいってくださいよ・・・何でもうちの戦隊長はそこを攻撃するつもりだったようですし・・・]

 「まあいいわ、それで相手は?」

 [分析完了。スカルスコーピオンという組織が絡んでいます]

 「すかるすこーぴおん?」

 「なんだそりゃ?」

 「なんでも地下組織が日本に根付き始めた時期から存在していたブローカー組織です。1970年代にショッカーと呼ばれる組織が現れてほぼ間もないころに設立されたようでして・・・どうも改造手術の基礎技術に優れているようです。」

 「へえ」

 「盗み聞きした情報によると・・・このスカルスコーピオンはその技術と土地、金融、資材の提供や戦闘員の斡旋、現金輸送車の情報などなど、他の地下組織の設立や運営の手助けをしていたそうです。相手はマッドサイエンティストや国家、麻薬組織やテロリストに狂信者、やくざや何やら・・・おおよそ考えられる限りの”その手のやから”ですね。その提供した報酬としてスカルスコーピオンは一種のギルド的な役割をもち、日本各地の地下組織は対立こそしているものの抗争に発展することはほとんどないみたいです・・・もっとも最近になってからは外国からの勢力のせいでそのたがが緩んできたようですけど」

 「で、成美ちゃんはそのスカルスコーピオンに拉致られたわけ?」

 「ほぼ間違いないです。この手の犯罪は日本で非常に多いらしく、過去30年間の間に数千人の民間人が行方不明になっているらしいです。その世代もバラバラでサラリーマンから主婦、子供から高校生・・・おっさんやおばあちゃん・・・」

 「見境無しね」

 「なんにせよ成美さんは巻き込まれる形でその組織に拉致されたわけです。早く助けないと・・・」

 「んだな。」

 「ソーイチはそのすかるすこーぴおんとやらに行ってんだろう?」

 「はい。リアロエクスレーター3号機の反応はこちらでちゃんと把握しています。成美さんにつけた発信機をたどって追跡しているようです。でも街の中でカーチェイス出来ませんし・・・・・って、あ!たった今ヘリに乗りかえてます!これじゃあ手が出せないよ・・・・」

 「そんなに気を落とさないで。成美を拉致ったということは彼女から何かを聞きだそうとしているか、あるいはあたしらを誘おうとしているのかのいずれよ。後者だったらまだしも、前者だったら連中は成美を殺そうとしないでしょう

 「なるほどな、けど女の子に発信機をつけるとはあいつは意外と手の早い野郎だ。んじゃあ姉さん、いこっか」

 「ええ。いきましょ。パオリンはそのまま分析を続けろ。総員急げ!」












西暦2004年8月20日午後2時30分
群馬県吾妻郡嬬恋村 浅間山ふもと スカルスコーピオン地下秘密基地 地下10階 中央司令室

 「うがあああ!はなせったらはなせえええ!!!」

 「・・・・・」

 中央司令室というたいそう名前がつこうとも、実際は体育館のようなたいそう広い部屋ではなく、せいぜい25mプール程度の広さである。結構広いじゃないか、と思われるかもしれないが・・・その部屋には無数の監視モニターや通信設備、各種センサーを制御する装置などが所狭しと敷き詰められており、実際の広さは畳10畳程度でしかなかった。

 「あんたらなんだぁ!●朝鮮の拉致るやつらかぁ!」

 その部屋に、成美はがんじがらめに縛られて部屋に放りこまれていた。彼女を取り囲むように・・・というより動物園のパンダを観察するかのごとくに複数の人間のようには見えない人たちが立っている。

 「・・・・こんながさつな女が本当に・・・なのか、おい」

 「科学者であるわしに聞いても困ります首領・・・」

 「そもそもそんな手紙、本当に信用に足りるものだったのでしょうか」

 フクロ博士の隣にいるのは、大柄の虎男であった。その名?の通りに顔がまさに虎で、一見すればタイガーマスクである。黒くて立派な服と赤いマントをなびかせ、一見すれば正義の味方でもあるようにみえるほどだ。ただしヘンなのは、なぜか彼の背中・・・というより尻の辺りからサソリを思わせるような長い尻尾が生えている点である。

 「タイガースコーピオン・・・お前も賛同したのだろうが」

 「自分はあくまでも首領の意向に従っただけですので」

 「キサマ!それでも戦闘部隊の指揮官か!貴様がそんなんだから”ツヴァイ”に負けてばっかなんだぞ!」

 「は・・・はぁ・・・」

 なんだか知らないが、この虎の人は”そういう性格”なのだ、と怒りながら成美は思った。

 「てかあんたらなんだ!あたしをとって食おうとでもいうのかぁ!」

 「私は人間の、それも若い女性の肉が好物なのだがね・・・お嬢さん」

 虎の人が脅しとも取れるような声で脅してくる。

 「・・・」

 「とはいえ、私は普段はベジタリアンだ。最近だと部下達から血なまぐさいと嫌がられて・・・ブタや鳥の生肉で我慢している毎日・・・あぁ、牛肉SARSの影響で牛をぜんぜん食べていない・・・」

 「・・・」

 こいつ、やる気あるのか、と成美は無言でツッコミをした。

 「・・・そこまでだ。昔はこのタイガースコーピオンよりも優秀な戦闘司令官がもっとたくさんいたのだが・・・この一ヶ月間でその司令官が立て続けに3人も死亡した。こいつは一介の指揮官としては優秀だが、見ての通りの振り回されやすい性格だから失敗ばかりだ」

 「はぁ、それはお気の毒さまで。」

 「代々我らのような組織の幹部がやられるのは、仮面ライダーによって討たれるものだが・・・・・”今回に限って!”そんなケースとは例外である事態が発生した!」

 「?」

 「この一ヶ月間、テレビやラジオでミサイル攻撃のニュースを聞いているな?」

 「あ、あたし歌謡番組やバラエティーとかドラマとかいった放送しか見ないんです。ニュースなんて2,3ページで意識不明するほどで・・・」

 「ふざけるな!」

 首領らしきおじさんは怒った。

 「そのミサイル攻撃で我々がどれだけひどい目に遭っていると思っているか!最初は九州の竹島!韓国の連中は独島といって不法占拠しているようだがそんなの関係ないがごとくにミサイル攻撃して地下にいる我らの支部を壊滅させた!佐渡島も!北海道も!沖縄も!長崎も!そのほか色々全国津々浦々!全て全て!この30年間培ってきた我らの秘密基地が!そのミサイル攻撃で!全て失ったのだ!」

 「・・・・・」

 「それだけではない!代々我らは他の組織の設立手助けをすることで組織同士の抗争を禁じてきたが、こうも立て続けに我らが攻撃されてばっかりで権威が落ちてきてしまっている!しかも海外のエニグマの連中めが我らのシマを荒らしにきはじめて我らの傘下組織と勝手に協定やらなんやらをやり始めているせいで・・・!」

 「しかも我々だけではない。ヴァジュラも、獄龍会も、ホワイトシルエットや、そのほか色々たくさんだ・・・皆我らの技術を元に成長した組織だが・・・その組織もやられている。エニグマが日本支部を建てようとしていた建築予定地までもだ。本来地下基地はショッカー亡き後われわれの許可を得なければ建ててはいけないのだが・・・そのミサイルはまるで狙ったかのごとくに地下基地ばかりを狙ってくる・・・」

 「・・・はぁ」

 最後の虎の人が分かりやすくなのだろうか、読者にも分かるように説明してくれたおかげで、この人たちが一体どういう関係にあるかを成美はやっと理解した。よくマンガで悪の組織を手引きする奴、というのがあるが、こいつらがまさにそれなのだ。

 「・・・で、なんであたしを拉致ッたんですか。あたしの友達には国会議員の娘さんがいるからそっちを誘拐した方がお金になるのに・・・」

 「・・・そうか、あの長い髪の毛のヤマトナデシコの少女か。一緒に捕まえればよかった」

 「タイガースコーピオン!キサマ我々がどれだけ資金に苦しんでいるかわかっているのか!誘拐に使う戦闘員達の維持費も馬鹿にならんのだぞ!こんながさつな女の近くにそんな金づるがあったにもかかわらず捕まえないとはどういう了見だ!」

 どこの世界も台所事情があるようだ。

 「は・・・はぁ。それは諜報部のバットスコーピオンにも責任がありますが・・・それ以上に首領閣下が「この女だけを捕まえろ」とおっしゃっていたではないですか」

 「機転を利かせろ!」

 「ハ・・・はぁ・・・もうしわけありません」

 なんだか知らないが自分は完全に忘れ去れているようだ。

 「忘れ去られているところで申し訳ないがお嬢さん・・・」

 「!?」

 「私の名前はフクロ博士。こう見えても他人の心なんて読むのはお茶の子さいさいなのだよ。それはいいとしてだが、なぜ君を拉致したか、わかるかな?」

 「わかりません」

 成美はきっぱり答えた。こんなおっさん達と知り合いになった覚えは微塵のかけらもない。

 「じゃろうな・・・さっきからお前さんの頭の中を読ませてもらったが・・・関係ありそうなのは・・・うーん・・・エーッと・・・その・・・あー・・・」

 「フクロ博士!」

 「いや、どうもちんぷんかんぷんです。なぜかはしらないのですが・・・どうもこの女の頭の中が・・・」

 「頭の中が?」

 「”明日のテスト”やら”留年”やら”赤点取ったら拉致ったあんたのせいだ!”とかで充満していまして・・・」

 その通り、成美の今の頭の中は、明日の補習最後の日に行われる確認テスト・・・まあ追試でいっぱいだった。この2週間、無理言って明美や雪枝、伊南村君やら一応勉強できるから宗一にも色々と助けてもらったのだ。そんなわけで明日のテストは自信があるのだが、連続で赤点取ってきた成美はどうも自信がなく、一応家に帰ったら最後の勉強をしようとしたのだが・・・

 「・・・ラチがあかん。では小娘聞こう」

 「何よ」

 ようやく話が本題に入った。

 「先々週、このような手紙が届いた。」

<拝啓:悪の組織・・・・・>
<この立て続けに起こるミサイル攻撃ですが、私はその正体を知っています。彼らはこの女を必死で守ろうとしていますので、詳しいことはこの女から聞き出してください。」

 「・・・・・」

 その短い文面を読み終わった成美ははらわたが煮えくり返るような怒りを覚えた。

 たったこれだけの文面で私を拉致ったのか・・・!

 「どうだ?知らないか?」

 「知るか!あんたらもあんたでこんな馬鹿な手紙であたしを拉致るな!」

 「我々もこの手紙を無駄に信用するのは危険と感じて、この2週間お前のことを調べたが・・・別に奇妙な点は見つからなかった。ゆえにお前をこうやって直接聞き出そうとしたが・・・」

 怪しい奴なんているわけないじゃないか。あたしの知り合いに怪しい奴は・・・・・・・

 「・・・」

 いたよ・・・・・戦車並みの火力と戦闘機並みのスピードでおまけに水の上を平気で走れて、悠長におしゃべりする改造ハーレーを乗り回して、トマホークやらショットガンやらを平気で扱う連中が・・・・・しかもそのうちの1人はあたしにべったりくっついていたし、コレまでの学校生活をさんざん引っ掻き回してくれたし・・・そういえば先月から駆逐艦がやってきたといってたけど、まさか・・・まさか・・・・・!?

 「おや?この女の考えが変わりましたぞ?」

 「・・・なんだ!?どういうのだ!?」

 「・・・・・・こ・・・これは・・・」

 どがぉんっ!

 その瞬間、地面が揺れ、地下全てが振動した。

 「な、なんだ!?」

 「ぎーぎぎぎーぎ!(わかりません!)」

 「ぎぎぎ・・・ぎぎぎっぎぎぎ!(レーダー・・・反応なし!)」

 「ぎぎぎ!ぎぎぎっぎぎぎ!(熱源なし!外のカメラが破壊されました!)」

 「ぎーぎーぎー!ぎぎっぎぎ!・・・・・ぎぎぎぎぎ!(こちら本部!パトロール隊応答せよ!・・・連絡ありません!)」

 ギーギーまくしたてる戦闘員達を尻目に成美は、青ざめてしまった。

 「あーあ・・・来ちゃった・・・」

 「来ちゃった、ってなにが!」

 どがぉんっ!





これよりさかのぼること10分前
スカルスコーピオン地下秘密基地 メインゲート前


 だぉんっ!

 「ぐ・・・ぎぎぎぃ・・・・」

 ばたり、と最後の戦闘員が倒れた。周囲には戦闘員の亡骸が所狭しと並んでいる。

 <ターゲット消滅・・・・・付近に敵対勢力は見当たりません>

 「お前はここにいて本部隊のマーカーとなれ」

 <また私を置き去りですか?今度は何ヶ月になるのでしょうね>

 「馬鹿をいうな。一日でけりをつける」

 そこにいるのは、黒い戦闘服で身を固めた宗一と、彼のバイクことリアロエクスレーター3号機だった。手にはアームド・パワーガンが握られており、10数名の戦闘員達を容赦なく惨殺したようである。

 なぜ宗一がこのような服を着ているのかというと、コレが普段の彼の戦闘姿である。今までの学生服の姿がむしろ普通ではなく、防弾性と防刃性に優れたこの強化錬成プラスチック性の繊維で出来たスーツを着込み、そしてその上にライダースーツを着込むことで宗一は初めて100%の実力を発揮できるようになるのである。

 ヴン

 さらにこの戦闘服は、ボディラインが如実に現れるだけではなく光学迷彩を装備しているので姿を消すことが出来るようになっている。それに宗一の得意分野は、戦闘よりも潜入分野だ、ようやく本領が発揮できる機会がやってきたのであった。

 「ではいってくる」

 <お気をつけて>

 そっけないバイクの言葉を尻目に、宗一はゲートの中に入っていった。





さらにこれよりさかのぼること20分前
太平洋 沿岸30km 駆逐艦「シュバルツグリーン」 作戦室

 400名の隊員が一斉に入るとなれば、その部屋は必然的に広くなりそうなものである。彼らは皆、最新型ライダースーツ『電聖』を着込んでいるが、まだヘルメットは被っておらず、トマホークや剣を研いでいたり、資料を何度も読み返している者、隣の同僚と談話する者、女性ライダーを難破しようとやっきになっている男性ライダーなど、あらゆる種類の人間が跋扈していた。

 やがてその生活身溢れる空間が、3人の男が部屋に入ってくることによって終幕を迎えた。シュバルツグリーンの副艦長の副艦長のアジム=カーナ少佐と、戦闘部隊指揮官のイルステッドーフォン=ジオ少佐、そして最前線ライダー指揮官のハルパーシュタット・グロッグ大尉である。

 「全員、そのまま聞くように」

 ジオが口を開いた。レジスタンスの武門の家柄であるイルステッド家の嫡男である彼は、その名を恥じぬ優秀な指揮官である。ただ今回が初めての作戦であると言う点を除けばの話であるが。

 「本日午後1時00分。浅岡成美が正体不明の組織によって拉致されるという事件が起こったというのは、すでに手元の資料で分かっているだろう。敵の正体は現在調査中だが、ネオプラントの手引きした可能性は十分に高い。ゆえに彼女の生命はかなり危険な状況下にある・・・ハルパーシュタット大尉」

 「は、では本日の作戦を説明する」

 ヒゲモジャの男、ハルパーシュタットが口を開いた。2個中隊の最前線のライダーを統率する、隊長のライダーである。齢34歳になる中堅のライダーであるが、白兵戦の腕は一騎当千、特にトマホークの扱いは最強の白兵戦の達人であるメイリン=ルイと対等にはれる実力を持っている。豪胆な顔つきの割には士官学校の戦術科を首席で卒業しているなど、意外にインテリ派でもある。。

 「本日午後1時00分。浅岡成美が正体不明の組織によって拉致されるという事件が起こった。その当時の護衛は浅岡宗一ではなくスペクターであったそうだが、責任問題は後回しだ。知っての通り、われわれの部隊は浅岡成美を完全死守することにあるのは言うまでもないだろう。ゆえに本作戦の大前提として、浅岡成美を爪の先一つ傷つけずに救出することにある・・・作戦の手順をここにあげる」





フェイズ1
対空火器は存在しないことがすでに分かっているため、まずは戦闘機3機による地上攻撃を敢行する。すでに潜入したスペクターと浅岡曹長によりパトロール部隊は全滅しているが、防衛部隊が結集するのは火を見るより明らかであり、対空火器を携行する可能性も十分にありえる。輸送機のルート確保のために敵の地上戦力を完全駆逐せよ。ただし現場は火山地帯である上に地下基地に浅岡成美がいる以上、極低周波ミサイルと機銃以外での爆撃は絶対に禁止である。
生き残った地上部隊を完全駆逐するために、まずは敵基地の制空権を完全に手中に収める。

フェイズ2
地上の脅威を取り去った後、兵員輸送機による敵基地強襲を開始する。敵対するものは容赦なく駆逐せよ。ただし降伏を受諾したものは別とする。敵は我々の知るネオプラントとはほぼ無関係であると思われるが、手引きした可能性は十分にあるために、可能な限り敵幹部の拘束に務めよ。第1ライダー中隊は敵基地攻撃、第2ライダー部隊のうち1〜6小隊は基地入り口の警備、7〜12小隊は基地内のルート確保及び通信を担当。

フェイズ3
敵幹部の拘束に成功し、浅岡成美の保護に成功した後は、敵組織とネオプラントのつながりを確認する必要があるため、可能な限りの敵基地のデータ及び資材を入手せよ。それが出来次第直ちに撤退、工作機により液体プラスチックを流し込んでこの基地を完全に無力化する。

フェイズ4
作戦完了次第、駆逐艦シュバルツグリーンから地表破壊ミサイルを発射し、付近を完全に破壊して憂いを断つ。





 「質問があります」

 「なんだ、いってみろ」

 「は、敵兵力の具体的な数が不明であり、また重火器の存在がはっきりしていない以上、我々の装備だけでは不安が残ります」

 「その点に関しては無意味だ。敵兵力は曹長からの報告で大体100名前後でしかなく、先にも言ったとおり、現場は火山地帯、しかも地下基地だ。敵もロケットランチャーのような重火器など持つことは出来ないのは明白であり、軽火器しか使用できないはずである。この時代の火力では電聖のライダースーツの装甲に傷一つつけることなど、天地がひっくり返ってもできない技だという事を忘れるな」

 「は!愚問でありました!」

 「他に質問は?」

 ・・・・・

 「作戦説明は終了。敵戦力の具体的数が不明である上に、正体も分からないこの困難な作戦を完遂できるのは、世界ひろしといえども我々デルタチームのみだ。本作戦次第でレジスタンスの未来がかかっているといっても過言ではない」

 「作戦開始時刻は午後2時、全隊員は作戦通りの持ち場に着け!解散!」

 敬礼の直後、ライダー達は一斉に部屋のドアに殺到し、出動した。





午後2時30分
スカルスコーピオン地下秘密基地


 時系列を元に戻す。

 「ぎぎぎ・・ぎぎー・・・(ダメです。監視モニターが壊されています)」

 「ぎぎぎぎ!ぎぎぎっぎぎーぎ!(第8モニターが生き残っています!映像映します!)」

 ヴンッ

 「こ、これは・・・・・」

 第8モニター、それはゲートの屋根についている唯一全方向稼動ができる、長距離用の監視カメラである。上空やはるか前方部に接近してくる敵を発見するために作られたのが目的であるが・・・

 「な、なんだあれは!」

 その監視モニターが捕らえていたのは、円盤といっても差し支えのない、戦闘機だった。末恐ろしい速度と、飛行機ではぶっちゃけありえない、万有引力の法則や慣性の法則をまるで無視するかのように器用に飛行しているのだ。

 「こ、これは・・・」

 「バダン帝国め!まだ生き残っていたか!」

 「し、しかし私めの記憶にはあのような円盤型戦闘機など・・・見たことありませぬ・・・」

 「新型ではないのか!」

 「いえ、バダンの技術をもってしてもあのような滅茶苦茶な飛行を行うことは出来ませぬ・・・・・もっと何か、別の技術で飛んでいる」

 「じゃあなんだ!何がどーなっているんだ!」

 その謎の円盤型戦闘機の正体は、成美には分かっていた。

 かつて7月にシュバルツグリーンに行った時に見た、円盤型戦闘機だ。正確には『超長距離強襲用円盤型重戦闘機』とかいうらしく、その名の通りに45万キロの航続距離を誇り、なおかつ慣性の法則を無視するかのような機動力と運動性、戦車並みの火力、とどめにその最高速度は実にマッハ31を数える、トンデモビックリ戦闘機だ。無論これは24世紀の技術であり、バダン帝国とはまったく関係ない。

 「レーダーはどうなっている!」

 「ぎぎぎ・・・ぎぎぎぎっぎ!(レーダーが壊されています!)」

 「急いで工兵を送って修理し・・・・・・!」

 「なんだあれは!」

 虎の人が驚いたのも無理はない。いきなり虚空から、サンダーバードのようなホワイトベースのような、トンデモビックリナ超大型の飛行機がやってきたのだ。しかも低空飛行で、それも3つ、こっちにむかってくる。

 「お・・・おいあれは!」

 「・・・・・つっこんでくる!特攻か!?」

 「ぎぎぎぎぎ!ぎーぎー!(緊急放送!総員対ショック姿勢!理由はいいから急げぇ!)」

 どがしゃああああああああん!!





 衝撃が基地を襲った。メインゲートにさっきのでかい飛行機のうち、一機がつっこんだのだ。たちまち警報が鳴り響く。

 ヴィーヴィーヴィーヴィーヴィーヴィーヴィーヴィー!

 「ぎーぎーぎー!ぎぎぎっぎぎっぎっぎっぎぎぎ!(緊急警報!総員第一種戦闘体制!)」

 「ぎぎぎぎぎっ!ぎぎぎー!(メインゲートに敵航空機が接触!迎撃部隊は直ちに出撃せよ!)」

 どがぉんっ!どがおどがぉんっ!

 「今度は何だ!」

 「ぎーぎーぎーぎー!ぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!(爆撃です!今ので脱出ルートが全て破壊されました!)」

 「なんじゃとおお!」

 ていうかあの黒い人たちの「ぎーぎー」の単語が、このおっさん達に分かっているようで成美はちっともわからないのだが、今起こっている状況がいかなるものか、そしておじさんたちの反応から成美は大体の状況を読むことが出来た。つまるところ、あたしを拉致ったせいで宗一たちの仲間が一斉に押しかけて、戦闘機がまず攻撃をかけて、その後にあのでっかい飛行機で特攻した・・・と。脱出路が壊されたことはまだ成美には分かっていないようであった。

 「ぎーぎーぎー!ぎぎぎぎ!(警備部より連絡、メインゲートモニターが復活しました!映像映します!)」

 ブンッ!

 「な・・・・・」

 それは見事につっこんだ、飛行機であった。貨物部と思われる部分のフタがものの見事にゲートを閉じ込めている。

 さらに、

 ぶしゅうん

 「!?」

 ぐおんぐおんぐおんぐおん・・・・・・

 その貨物部の蓋が開いていき

 ばるぉんっ、ばるぉんっ・・・!

 バイクの無尽蔵なエンジン音が鳴り響き、

 「第1ライダー中隊!全軍すすめぇ!!」

 ぶおおおおおおおおおおおおお!!!

 カメラに向かって無尽蔵のライダーが現れ、誰かの声の支持を受けてバイクに乗って一気に進み始めたのだ!

 「あーあ・・・・・」

 「ぎーぎーぎー!ぎぎぎぎぎ!(緊急事態!メインゲートから仮面ライダーが侵入した!)」

 「ギギギ・・・・・・・・ぎぃぎぃぎぃぎぃ・・・・ぎぎぎぎぎ!(数は・・・ひとつふたつみっつ・・・ええいともかくたくさんだ!)」

 「ぎぎぎ!ぎぎぎーぎーぎー!(怪人部隊に指令!AチームからPチームまでの再生怪人軍団は全員出撃せよ!)」

 「ぎーぎーぎーぎーぎー!(敵の数は依然不明!既に50体は超えている!)」

 「ぎぎ!ぎぎぎぎぃぎぃぎぎぎぃぎ!!ぎーぎー!(総員!なんとしてでも侵入者を駆逐せよ!急げ!)」

 「ぎーぎーぎー!ぎぎぎっぎぎ!(第1階層が制圧されました!敵は第2階層に進撃中!)」

 「ぎぎぎ!?ぎっぎぎぎぎぎぎ!(たった3分でか!?あの階層の怪人のダンゴムシスコオーピオンはどうした!?」)

 「・・・ぎぎ!?ぎぎぎーぎぎぎ(・・・!ダンゴムシコーピオンから緊急通信!映像映します)」

 ブンッ

 「ううううう・・・・・」

 「うお・・・」

 そこに映し出されたのは、蜂の巣となって穴だらけとなったダンゴムシのような怪人だった。おびただしい量の血を流していて、見るからに瀕死である」

 「ぎぎぎぎい!(なんじゃこりゃ!)」

 「ぎいーぎいぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ・・・・・(最強の装甲を持つダンゴムシスコーピオンが・・・)」

 <う・・・・あ・・・・>

 声にもならない声でダンゴムシスコーピオンがうめいた。

 「ダンゴムシスコーピオン!何が起こったのだ!」

 <ら・・・・・ライダーの・・・・ライダーが・・・・・!>

 「ライダーが、どうした!?」

 <ごほっ・・・・・あんなに凶悪な火器を持って・・・バイクが火を噴いて・・・・・斧や剣で・・・・・・・戦闘員達を・・・・皆殺しに・・・・・・>
 <ばたんっ!>
 <「いたぞ!こんなところに逃げていやがったか!」>
 <「あんな巧妙にこの部屋を隠していたとはな・・・・」>

 「お・・・おい!後ろ後ろ!志村後ろ!」

 どうやらあまりの重傷のためなのか、ダンゴムシスコーピオンは背後の刺客に気づいていないらしい。

 <う・・・うし・・・・!?>
 <ざぶしゅっ!



 「う・・・・」

 「あ・・・・」

 「な、なんということだ・・・仮面ライダーがこんなことを・・・」

 その場にいる幹部達は、一斉に嘔吐感でいっぱいになった。彼らは血に対する免疫を持っていないのだ。

 「ううう・・・」

 すでに免疫を持ってしまった成美も成美で、既に血は見慣れてしまったのだが、やっぱり見て気持ちのいいものではない。その部屋の映像を映す通信機は、ダンゴムシスコーピオンの返り血で真っ赤に染まっていた。声と音のみが、その部屋の状況を如実に伝える。

 <ざぶしゅっ!ざぶしゅっ!ざぶしゅ!
 <<タイプγの生体反応消失。>>
 <まったく・・・ここはどういうところだ?>
 <通信設備のようだな。>
 <・・・ん?これは・・・つながっているのか?>

 「ぎぎぎい!ぎぎいぎぎぎ!(まずい!通信切断しろ!)」
 <なんだ?ギーギーと言う声が・・・・>

 ぶつんっ

 通信はそこで途切れ、真っ赤なモニターはもとの監視カメラの映像に切り替わった。

 「うわ・・・・・」

 「ええ!なにがどうなって!?」

ヴィーヴィーヴィーヴィーヴィーヴィーヴィーヴィー!

 「ぎぎぎぎぎぎ!ぎーぎーぎー、ぎーぎーぎー、ぎーぎーぎー・・・ぎぎぎぎぎ!!(第2階層突破されました!カブトムシスコーピオンとクワガタスコーピオン、ガマガエルスコーピオンとエバラヤキニクノタレスコーピオン、それにイソギンチャクスコーピオンとサメスコーピオンの反応が消失!」

 「な、なんということだ・・・」

 「ぎぎぎいぎ!(隔壁閉鎖しろ!)」

 がしゃんがしゃんがしゃんがしゃんがしゃん!

 どがぉんどがぉんどがぉんどがぉんどがぉんどがぉん!

 だが隔壁はすぐに爆破されて突破されてしまう。

 「ぎーぎーぎー!ぎぎぎぎぎ!(だめです!侵入者を止められません!)」

 「うひゃあ・・・・・ん?」

 その時、成美の手の拘束が解放された。後ろには虎の人ことタイガースコーピオンがいた。

 「・・・・・だまってそのまま聞いてほしい。我々は負ける。だが君の安全は保障できないから万が一の事態に備えて君だけでも逃げろ」

 それは彼の優しさなのだろう。だが成美にとっては大きなお世話であった。彼らは彼女を助けに来たのだから。











 後の歴史家は、これから起こる悪夢をこう表現した。

 「DESTROY OF THE RAIDER」、皆殺しのライダーと・・・・・











午後2時14分
スカルスコーピオン地下秘密基地 地下3階Aブロック 第311通路


 こいつら、何もかも違う。

 戦闘員の一人はそう述懐した。

 知っている限り、仮面ライダーというのは”バイクに乗って””素手で戦い””単独で戦う”ものだと聞いている。最近では剣や槍などの白兵用の武器を持つものも出てきたというが、やはり素手で戦うことが多いのだ。

 だがこいつらは根本的に違う。凶悪な火器や武器を大量に装備し、すでに数えただけでも200人・・・いや300人を超えている。スカルスコーピオンの総兵力を併せても百余名、数が違いすぎる上に単体の能力に雲泥の差がありすぎるのだ。

 「ギギッギー!(撃てー!)」

 10数名の戦闘員で編成された小部隊による、統制の取れた射撃運動が開始される。

 バァンバァンバァン!

 パパパパパパパパパパ!


 かきょおん

 ぴきゅおん

 かこんっ

 ぽこんっ

 ごんっ

 ぜんぜん効かない。ていうか後ろに人がいた場合などといった、よほどのことがない限りライダーは銃弾を避けるはずなのに、こいつらはそのそぶりを見せないどころか、むしろあえて銃弾を受けながら前進してくるのだ。対する奴らは、

 「ひるむなぁ!奴らの火器など石ころに過ぎん!砲兵部隊前進!3秒後に一斉放火・・・・・・・ファイアっ!」

 足音の一つ一つまで統制された動きで彼らは動き、

 じゃきっ、

 銃を構え、

どがががががががががががががが!!!

 「ギイ!」

 「ぎゅひぁ!」

 「ぎゃは!」

 「ごはや!」

 「ぎゃひゅ!」

 まるで大砲のような弾丸がマシンガンのように飛び交ってくるのだ。バリケードに隠れた戦闘員ごとと吹っ飛ばす。

 火力がまるで違いすぎる!

 仲間たちが次々に吹っ飛んでいく。あまりの威力に腕や足が消し飛ぶのだ・・・近くをかすめただけで体の一部が吹き飛んでいく・・・

 「ぎぎぎっっぎぎぎ!(何なんだこいつら!)」

 「ぎーぎーぎぎぎっっぎぎぎぎっぎぎ!(ライダーだ、ライダーの大群だ!)」

 「ギー!(ひけぇ!)」

 勝てっこない、いくら洗脳されていても本能というものがそれを悟っていた。

ごごごごご!

がしゃあん!






 シャッターがライダーの大群を阻む。だが先頭にいる隊長らしきライダーは、

 「バイク!」

 「イエス?」

 「レーザーを!」

 「了解・・ですが撃ってもよろしいのですか?この射撃プログラミング精度は71%であまり高くはありません」

 「かまわん!」

 「了解しました。斜線上から離れて下さい。レーザー充電・・・」





 「ぎい!ぎいぎい!(何なんだあいつらは!?)」

 「ぎぎっぎぎぎ!(しるかそんなの!?)」

 「ぎーぎーぎーぎぎぎ!(ともかくあの武器の前じゃ・・・俺たちじゃ太刀打ちできねえ!)」

 「ぎーぎ!ぎぎぎっぎぎぎ!(だけどよ!いくらあいつらでもこのシャッターを破壊することなんてできないぜ!)」

 そう、このシャッターはたとえ核が落ちても壊れないようになっている。だが・・・

 じょぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!

 「ぎぃ!?」

 じょじょぎゃじょぎゃぎじょぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!じょぎゃじょぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!ぎゃぎゃぎゃぎゃ!ゃぎじょぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!じょぎゃじょぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!ぎゃぎゃぎゃぎ!!ゃぎじょぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!じょぎゃじょぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎじょじょぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!ぎゃじょぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!ぎゃゃぎじょぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!じょぎゃじょぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!ぎゃぎゃぎゃぎぎゃぎゃぎゃ!!ゃぎゃ!!ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!

 ばこっ!という音ともにシャッターは崩れ落ち、ライダーの大群が押し寄せてくる。

 ざっざっざっざっざ・・・・

 「ぎ・・・・・・!?」

 今作戦のオプション装備である「GRO38BR」、兵器開発では定評のあるガーデック・テクノロジー社が開発した核シェエルター溶接用のレーザー銃だ。そのスペックは厚さ1kmの核シェルターですら1時間足らずで穴を開けてしまう威力を持つ。その威力のあまり、ほかを巻き込んでしまう危険性があるが、あらかじめシェルターの材質がわかればその共振周波数や固有振動数を元にしたレーザーを射出、要はシェルター以外を壊さないようになっているのである。

 「貴様らに勝ち目はない、降伏をしろ!」

 「降伏など許さん!」

 奥の通路から太い男の声がした。

 「バイク!」

 「了解、発射します」

 前にいたバイクは先端にあるバルカンを構え、

 じゃこっ

 
どがががががががががががががが!!

 「びゃがっだsらえw!?」

 なんという卑怯な奴らだろう、と戦闘員の一人はそう思った。まだ顔を出していないのに先制攻撃を加えるとは・・・

 「おおおおお・・・・おの・・・れっらっらいだ〜!」

 向かい側から出てきたのは、蟷螂のような生物だった。というのはカマキリのような刃を持っているからであるからだ。しかしカマキリが持つものとは思えない、尻尾のような・・・サソリのような尾がついている。

 <アナライズ完了・・・タイプγ、生体兵器と確認しました。体の組織構成にやや違いが見られます>

 「まだ生きているのか」

 「<絶命直前ですね。止めを刺しますか?>

 「やれ。」

 <イエス、FIRE!>

 じゃきっ

 どぎゃおおんん!!!

 「ごふぁえddさああくぇらw!!!!?」

 「ぎぎぎっーーーー!!!!(カマキリスコーピオン様ー!)」

 カマキリの怪人は、「容赦ない」の表現がぴったり合うよう、リアロエクスレーターの砲撃で業火へと消えた。

 「ぎぎぎぎ・・・・・・ぎーぎー(なんてこった・・・あんなに非道な連中だったなんで)」

 嘆く戦闘員達だったが、戦闘にいるライダーが叫んだ。

 「もう一度言う、武装解除して降伏をしろ!」

 「ぎ・・ぎぎぎっ!?(おい、どうする!?)」

 「ぎぎぎ、ぎぎ!(勝てるわけねえだろ!)」

 「ぎーぎー、ぎぎぎ!(でもよ、裏切ったら殺されるんだぞ!)」

 「ぎぎ・・・・・(そうだけどよ・・・)」

 「ぎぎぎ・・・・(ちくしょう・・・!)」

 「ぎ!?ぎぎぎぎぎ!!!(おい、馬鹿な真似は止めろ!)」

 「ぎぎぎぎぎぎ!!!!ぎぃ〜!!!!!(研究部所属の俺の作品をメチャメチャにしやがって!こなくそぉおおおおお!)」

 やけくそになった仲間の1人がナイフを片手に突っ込んだ。

 ばきんっ!

 しかしナイフはまるでポッキーのように簡単に折れてしまった。電聖に使用されている練成レアチタン合金はロケット弾の直撃を受けてもびくともしないのだ。もっともロケットランチャーなどといった重火器であればその衝撃で着込んでいる中の人間は耐えることはできないのだが、火傷や窒息死することはないので生存性は極めて高くなっている。

 刺されそうになったライダーは、持っているトマホークを、おびえる戦闘員の頭上めがけてふりあげ、

 ぶぉう!

 どぶしゅっ!

 「ぎゃぎゅううううううううううううううう!」

 反撃とばかりにライダーが、巨大なトマホークを戦闘員の脳天から振り下ろし、戦闘員は脳天から真っ二つに分断、おびただしい血を噴出しながら絶命する。代々剣や斧などといった白兵戦に使用される武器は、重ければ重いほどその破壊力が増してくるもので、銃が登場する時代までずうっと活躍をしてきたのである。一時は10kgなどという化物のような重量を誇る武器まで存在したが、人間の筋力の限界上、扱いには限界が存在する。

 だが人間の数倍の力を発揮できるライダースーツは例外であった。このスーツを着れば20kgオーバーの白兵戦用武器を、まるでものさしや木の枝のように軽々と扱えるので、接近戦における破壊力は冗談ではなくなる。おまけに破壊力は重量と振り下ろす速度の2乗に比例してくるので、ものすごい怪力を誇るライダーが、ものすごく重いけど軽く扱える武器を振り下ろしたり切りつけたりする時、接近戦では手につけられない戦闘力を発揮するのだ。米袋20kgと同じ重さだからといって甘く見てはいけない。斧というのは先端に何キロもの鉄の刃物をつけているのだ。てこの原理やらなんやらで、実際に感じる重さは20kg以上になるのである。

 だがこの発想ができたのは、彼らが非改造の人間だからである。改造人間のような強力な骨格を持たない彼らは当初、伝説の仮面ライダーの真似をして激しく格闘戦を行ったのだが、衝撃があまりにも強すぎるために手や足の骨が粉々になってしまう現象が多々あった。しかし「仮面ライダーは素手で戦うべし!」という伝統が高官たちの中に強く存在してたために、素手で特攻して無残に散ったライダーは、真崎の政権以前280年で実に2000万人に上った。そこで浅岡真崎はライダースーツの特性を生かすべく、彼らに剣や斧などを持たせるように指導したのである。

 結果はばつぐんだった。その理由は上記に記したとおりだったが、強靭な装甲を誇る対人ロボットの装甲をらくらく破壊できるようになったのだ。それまで以上の接近戦を行えるようになったところから、レジスタンスの快進撃が始まったのであった。一部の者たちは「ライダーが武器を持つなど・・・」とシワを寄せたが、真崎はこう言う。

 「素手で特攻して死ぬのは愚問だ。ライダーが素手で戦うのが伝統ならば、その伝統で過去2000万のライダーが死に絶えても伝統を維持する必要があるのか。それとも武器を持たせて彼らを生かそうとする私の考えがおかしいのか、そこが私には理解できないのだ。もしどうしても素手で戦うというのなら、その理由を挙げていただきたい。」

 これら背景からライダーは武器を持つべし、という考えが生まれたのである。

 「これが最後の警告だ!死にたいというのならばかかってこい!死にたくなければ武器を捨てて地面にはいつくばれ!」





同時刻
スカルスコーピオン地下秘密基地 地下3階 Cブロック 第331通路

 「撃てぇー!」

 がががががががががががががががががが!

 「ぎゃびゃあ!」

 「ぎょひゃ!」

 「ぎゅぎゅ!」

 「びぎゃ!」

 「ぎょぎゃあ!」

 彼らライダー、それもはるかなる未来からやってきた戦乱の時代の技術の前では、スカルスコーピオンのバリケードなど何の意味の成さないものだった。ある意味、数万の人口を誇るインカ帝国をわずか数千名で壊滅したスペイン人のマスケット部隊すらも戦慄させるほどの、悪夢だった。戦闘員達は次々とバリケードごと吹き飛ばされ、短い生涯を終えていく。

 戦争という現象は、競争原理の究極形態であり、皮肉にも技術が最も発達する時期でもある。かの有名なノーベルは、ダイナマイトを作り出して戦争を一変させ、第2次大戦での戦闘機の技術は、会戦当初は日本軍のゼロ戦がアメリカ軍の戦闘機を圧倒したものの、わずか10年ほどでゼロ戦は新型のアメリカの戦闘機に木っ端微塵にされてしまっている。

 核の技術もそうだ。1945年当時では一発の核兵器を作るのがやっとだったのに、わずか数十年後には核爆弾の数十倍、数百倍の威力を誇る水爆や中性子爆弾、核ミサイルが出来上がった。レーダー技術も第2次大戦時代では見張りの水兵のほうが先に敵機を発見してしまうほどのお粗末さだが、現代では数千キロ離れたところから放たれたミサイルを察知することも出来るようになったのである。だが、それを完璧に打ち落とす技術はまだ未熟である。

 ゆえに、300年間の争乱は技術はうなぎのぼりに発達させ、レジスタンスのライダーは、それ以上ないほどまでに銃器の発達が著しくなったのである。バイクの自動運転技術や、ライダースーツの装甲材の加工技術、核融合の原理を応用した「金属強化錬成技術」やらなんやらと・・・言うなればスカルスコーピオンは最高に相性が悪い敵と対峙したのである。

 「ぎ・・・ぎぎ!(ち、ちくしょう!どうやればあいつらをとめられるんだ!)」

 「ぎぎぎっ!ぎぎぎ!(というより・・・かてねえよ!)」

 「ぎーぎーぎー!(もうだめだ!降伏しよう!)」

 「ええい貴様らは下がれ!俺が出る」

 「ぎぎっ!?(無茶です!)」

 「ギーギーギギッギギ!(あいつらの火器は化け物です!さっき見たでしょう!)」

 「ギギギぎぎっぎぎっぎぎぎぎっぎーぎー!(カニスコーピオン様!無茶をなさらないでください!)」

 それは怪物であった。左腕が人間の身長並みに長く太く、先はカニのはさみがそのまま巨大化したような力強い形になっている。赤い甲羅に包まれ、サソリのような尾がぴしゃあんと床をたたきつける、大男である。

 「だまれ!あんな卑怯なやからにやられる俺ではないわ!」

 戦闘員達の制止を振り切って、曲がり角の向こうから怪人が飛び出した。

 「敵確認!」

 <アナライズ確認・・・タイプγ、生体兵器と確認!ややタイプは異なる模様!>

 「ぐはははははライダーめ、よくぞここまできおったな!貴様らの相手はこのカニスコーピオンだ。俺の硬い甲羅は貴様らの火器など・・・」

 「総員ファイアっ!」

 ドがガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァン!

 やや無秩序ながらも火線は、高々と轟くカニの化け物に殺到する。大抵の怪人はそこらにある銃では貫くことはできない・・・があくまでも「そこらにある銃」の話である。カニスコーピオンが相手にした銃は、20世紀の火器とは比べ物にならない威力を持つ、24世紀の火器であった。

 「ぐげばあら!?」

 哀れ、カニスコーピオンは容赦なく降り注いだ砲弾によって木っ端微塵に殺戮された。確かにカニスコーピオンの皮膚はライダーキックでも壊すことはできない・・・のだが残念無念、あまりにも相手が悪すぎた。絶倒しているその姿は、まるで織田信長の鉄砲隊にことごとくやられた武田の騎馬軍のようであった。

 「お・・・おのれひきょうな・・・がくっ」

 卑怯、そうあまりにも卑怯ともいえるほどのタイミングのよさだった。黄門様が印籠を出す直前に刀で切りつけるのと、ヒーローの変身や必殺のモーションに攻撃をしかけるのと、まったく同じ次元の、卑怯ともいえる攻撃だった。しかし敗者にそれを叫ぶ権利は与えられず、カニスコーピオンはカニのように泡を吹いて絶命した。

 <生体反応消失>

 「・・・・なんだったんだあいつ?」

 「わざわざ隙を作るなど・・・何かの罠だったのか?」

 「この時代の感覚は分からん・・・いくぞ!」

 彼らライダー部隊には一対一の決闘の概念など、なかった。訓練で一対一の格闘はあるにはあるが、それはあくまでライダー個人の戦闘技量を上げる鍛錬であるもので、実際それが行われることはあまりない。彼らにとって戦いとは、敵をしとめることにあり、一対多数による戦闘が常識であった。今まで宗一が活躍できなかったのもこの考えからくる射撃至上主義からであり、まだ完全とまではいかないにしても・・・あらゆる面でライダー部隊は、スカルスコーピオンを凌駕していたのである。






同時刻
スカルスコーピオン地下秘密基地 地下4階 改造人間用素材収容室

 どがぉんっ!

 電子ロックされていたドアが無情にも爆破され、外界との隔離から解放された。そこに数名のライダーとバイクがなだれ込む。分隊長はアルフレット=フォン=オスカー。いつもの]Vではなく、彼もやはり電聖である。彼が上官のメイリンと離れて行動しているのは、彼は階級が曹長だからであり、一個小隊の3分の1の分隊を率いることが出来るからである。

 「・・・なんだぁ、ここ?」

 「曹長、ここには敵兵の姿が見えないようです」

 「みてえだな・・・バイク、どうだ?」

 <・・・・・動体反応多数。熱源・・・人間4,50人ほどの熱量と二酸化炭素を確認したわ。なんか知らないけど鉄格子の中に閉じ込められてる>

 「なんだそりゃ?」

 「敵兵の処罰室か?」

 「誰かは分からないのか?」

 <あくまでも熱源反応だから分からないわよ。>

 あっそう、と思いながらアルフレット=フォン=オスカー率いる6名のライダー分隊は奥の扉を開いた。

 「いやだあああああ!怪人なんかになりたくないよおおおおお!」

 「ママー!ママー!」

 「おうちに帰してぇ!うちに帰してぇ!」

 「せめて改造するならあんな戦闘員なんかごめんだぁ!」

 「もうやだよぉ!死なせてくれぇえええええ!」

 「・・・・」

 部屋に入ったとたん、おびただしい音量の悲鳴がライダー達に襲いかかった。もはや悲鳴というより、閻魔大王に叩き落された先の地獄をも思わせる、悲鳴とも似つかないようなエゴイズムがその部屋に充満しきっている。その部屋は薄暗く、そして縦長で、鉄格子の部屋がいくつもいくつも広がり、3階建ての吹き抜けのような構造となっており、鉄格子につけられているプレートには「戦闘用」や「研究用」や「怪人用」と書かれており、あたかもそれが捕まっている人間の末路を意味するようなものだった。

 「・・・おいおい、なんだこりゃあ」

 「自分に聞かないでください。」

 「見たところ・・・この組織につかまった民間人のようですね」

 <このプレートってなんなのかしら。戦闘用って>

 「やだああああああああ!!せんとういんになんかなりたくないよおおおおおおお!」

 まるで「戦闘」という言葉に過剰反応するかのごとく、牢屋に入れられたサラリーマンの男が叫んだ。それに連鎖反応が起こり、周囲も、

 「いやいやいやああああああああ!!あたしまだしにたくなあああああああああいい!!!」

 「うわああああああああん!ままああああああああ!!」

 「もうやだ!!!!早く俺をころしてくれええええええええええええ!!」

 「だれかたすけてよおおおおおおおお!!」

 「だー!!!もううるせええ!!ちっとだまってろ!」

 「きゃあああああああああ!!!」

 「またヘンなのが出てきたぁああああああああ!!!」

 
「今度こそ、今度こそ俺の番なんだァああああああ!!!」

 たちまち部屋中が悲鳴と狂気でうずまった。押さえようとしても牢屋に入っている人たちは完全にパニックなので止められようがない。

 「・・・バイク」

 <了解>

 あきれ返るアルフの指示を受けたバイクは、安全装置を解除し、

 どがぉん!

 前方部につけられたチェーンガンを一発鳴らし、パニックとなった群集を黙らせた。

 アルフは一拍間を空けて、

 「俺達はこの基地に攻め込んできた者だ!お前達を取って食ったりするようなことはぜってしねえから安心しろぉ!」

 あまりにも、あまりにも意外すぎるその言葉に、捕虜達は言葉を信じられなかった。

 「・・・た、助けてくれるのか!?」

 「見捨てるわけねえだろ!」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 未だに信じられないのだろう。牢屋に入れられている人々は、狂喜するどころか、かえって黙りこくってしまった。

 「おい、はやく司令部に連絡しろ」

 「・・・ですけどここ地下ですよ」

 「バイクのバケツリレーで通信すりゃあいいだろ!さくさく連絡しろ!」





同時刻
スカルスコーピオン地下秘密基地 メインゲート前


 うぃぃぃぃぃぃん・・・・・・

 「ぎ・・・・ぎぎぎぎぎ!?(な、なんだありゃあ!?)」

 緊急事態のために、付近の村や町に潜伏していた戦闘員や怪人たちが帰ってきたころには、すでに不法者の手によって基地の入り口が制圧されていた。近づくに近づけず、近くの茂みに戦闘員達は隠れざるを得なかったのである。

 「・・・・ぎぎぎぎーぎっ!(・・・ら、ライダーがあんなにたくさん!)」

 「ぎーぎーぎー・・・・・ぎぎぎ(どうすりゃいいんだよ・・・俺達)」

 「ええいきさまら情けない!!あんなライダーごときなど、俺がひねり潰してくれるわ!)」

 「ぎぎぎ!?(ええ!?)

 彼ら戦闘員達を引き連れていた怪人、スネークスコーピオンが茂みから飛び出していき、見張りのライダーたちの前に現れる。

 「!!」

 「おのれ貴様ら!ここをどこだと思っている!1970年代から30年続く由緒ただし・・・・」

 わらわらわらわら・・・・

 「・・・・いスカルスコー・・・・・ピオンの」

 わらわらわらわらわら・・・

 「聖地としって・・・の・・・・って!」

 御託を並べ終えたときには、すでにスネークスコーピオンは、マシンガンやショットガン、トマホークや剣で重武装している30人以上のライダーによって取り囲まれていた。更に後ろには、

 <タイプγ!生体兵器です!>

 <なんだこいつ!?アナライズしてもこんなによわっちいぞ・・・>

 <最旧型のナンバー01のイカ型生体兵器のスペック10分の1以下だよ、あれ>

 <・・・やるきあるのあなぁ・・・あいつ、>

 <早く終わらせてよー!次のガンプラのホームランガンダム作りたいんだからさ>

 なんだか知らないがバイクが勝手に動いてしゃべっている・・・今のスカルスコーピオンの技術でもあんな芸当など不可能だ。最近の諜報部によればヨーロッパで音声能力を持ったバイクが開発されているという噂が立っているが・・・よもやこいつらでは・・・

 「その場で這いつくばれ!」

 「誰がきさまらなどに!うおおおおおおおお!」

 どががががががががががががががが!!!

 飛び掛った直後、空中でスネークスコーピオンはライダーとリアロエクスレーターたちによる一斉攻撃で蜂の巣にされた。

 「!!!!!」

 あまりの弾幕が集中したために、スネークスコーピオンの全身は、粉々となって四散、形というものが存在せずにこの世から姿を消したのであった。

 「・・・・・よし!各小隊は散開!敵の部隊がここに集結し始めている!メインゲートを奪還されないように全身全霊を持って任務に励め!戦車隊と戦闘ヘリも一緒に出せ!」

 隊長らしいライダーの指示を受けてライダーがあちこちに散らばっていき、さらに着陸している輸送機の一機の貨物庫のフタが開いていく。

 ごおんごおんごおんごおんごおん・・・・

 シャッターが開き、中から3台の戦車が出てきた。だがその戦車はなぜかキャタピラがなく、また戦車特有の長い砲身もない。地面から妙に浮いて、戦車とは思えない旋回をはじめていく。さらに戦車に剣引きされていく形で現れたヘリも同様だ。ヘリというよりジャイロコプターと呼ぶべき風貌であったが、地上から急速に浮上し、あたりを探索し始めた。

 「こちら3号機・・・付近の熱源の探知を開始・・・」

 ヘリのレドームが回転を始め、周囲を探し・・・

 「ぎ・・・ぎぎい・・・(こっちにヘリが来るぞ・・・!)」

 じゃこんっ!

 どがががががががががががががががががががが!











午後5時34分
スカルスコーピオン地下秘密基地 地下6階 発電所

 がらん、がしゃがしゃんっ

 通風孔のフタを開けて、黒い戦闘服の人間が音も立てずに着地した。ここは他の通路や部屋と違ってまだライダーがやってきておらず、巨大なタンクやエンジンっぽい発電施設が所狭しと並んでいる。

 「ここか・・・・・」

 宗一はようやく、目的地にたどり着いた。別にここに成美がいないのはわかっている。

 ではなぜ来たのかというと・・・

 「・・・あれか」

 アルバイトを始めて2週間あまりが過ぎ、宗一は本郷のおじさんの話を色々と聞かせてもらっていた。自分がなぜ改造されたのかを、どういう怪人と戦ったのかとか、自分がヨーロッパに行った時に2号ライダーに任せたときとか、戻ってきて二人で闘ったときとか、本拠基地に乗り込んだときとか、自爆するその基地から脱出する苦労話とか。

 じゃきんっ

 そう、宗一がここに来た理由、それは相手が自爆してライダーもろとも心中する危険性があるためにその自爆装置や発火装置、他にも発電施設を停止させて自爆させないための処理に来たのだった。何せ400人のライダーが今ここに詰めかけている。追い詰められた敵が最後にやることといえば自爆であり、しかもここは地下、おまけに浅間山という火山の近く、そんなところで強烈な振動を与えたりして火山のマグマでも刺激したら・・・・・目も当てられない事態になりかねないのだ。

 「ぎーぎーぎーぎーぎー!(ここの部署の連中を早く出させろ!)」

 「ぎーぎぎ!ぎーぎーぎぎっぎぎぎぎっぎ!(無理言うな!ここを押させられたらどういうことになるかわかっているのか!)」

 「ナメクジスコーピオン!お前らはお前らの部署でやれ!ここがどれだけ重要な施設かわかっているのか!」

 「何を言うかドクロスコーピオン!いずれここにも敵がやってくるのだぞ!その前にお前達と共同で迎え撃つことのどこがわるい!」

 「ここをがら明けにするというのか!その時にここを占拠されたら基地はのっとられるのだぞ!」

 なにやら戦闘部隊とここの防衛部隊との間で口論が起こっていた。彼ら怪人は視覚が発達しているので光学迷彩では姿をごまかせないことは宗一にはわかっている。ゆえに彼は不用意に近づかず、物陰に隠れて口論を聞いていた。

 「ええいもういいこのガイコツ野郎!」

 「二度とくるなこのねばねば野郎!」

 口論の末、二つの部隊はおそらく最後の仲たがいを起こし、30人あまりの戦闘員を引き連れてナメクジスコーピオンは立ち去った。

 「ぎーぎーぎーぎぎ・・・(よろしかったのですか?)」

 「かまわんあんなやつ!」

 どこの世界でも軍隊というのは部署が違うと仲が悪いものである。太平洋戦争の日本軍も陸軍と海軍は非常に仲が悪く、大本営も互いに争わせて成果を挙げようとする画策だったようである。結果は連携作戦をことごとく失敗させるに至ったのだが・・・

 「それにだ。ナメクジスコーピオンはあれはカタツムリスコーピオンの失敗作なのだぞ!このガイコツの俺を馬鹿にするとは・・・」

 失敗作のナメクジスコーピオンを馬鹿にするドクロスコーピオンだったが、彼もまた元はスケルトンスコーピオンになるはずだったのである。もしそれがうまくいけばライダーキックで粉々になっても再生できる最強の怪人になっていたはずなのだが、怪人手術に失敗して再生能力を持たずに至っている。つまるところ、

 「ぎぎーぎー・・・(どっちもどっち・・・)」

 ざぶっ!

 「ぎゃぎゅううう!」

 「俺を失敗作というな!俺は成功作品なのだぞ!それに・・・」

 骸骨の頭が背後をむいたその直後

 どがぉん!

 ガイコツスコーピオンの頭が容赦なく吹っ飛んだ。さらに

 どがぉん!どがぉん!どがぉん!

 コアと思われる胴体や下半身、さらに腹部を狙い撃ちし、ドクロスコーピオンは絶命した。

 「ぎぎぎ!?(なんだ!?)」

 「ぎーぎーぎー!ぎぎぎ・・・(侵入者だ!ただちに・・・・)」

どぶしゅっ!どぶしゅっ!どぶしゅっ!

 「ぎゃびゃ!」

 「ぎぎゅ!?」

 「ぐぎゃ!」

 戦闘員達の後ろにいた戦闘員が、一振りで3人の戦闘員を切り刻んだ、その間わずか5秒の出来事である。

 「・・・」

 「・・・スペクターか!」

 「・・・ソウダ。ソウイチ。ヒサシブリダナ・・・イヤ、オレハイツモオマエヲミテイル」

 機械音声に変換されて、おまけに棒読みでいるために不気味な声で返答する戦闘員・・・ことスペクター。彼は変装の達人で性別や身長体重、指紋や声帯まで変えることが出来るのだ。今彼はまさに戦闘員に変装して、スカルスコーピオンに紛れ込んでいるのである。

 「・・・」

 「ソンナニコワイカオヲスルナ・・・オマエノゾウオハツヨクカンジラレルゾ。ソレニオマエガイイタイコトハワカッテイル。」

 「なぜ成美をこんな目に遭わせた!?」

 その日の護衛は宗一ではなく、彼、スペクターの担当であった。ゆえに宗一はスペクターを言及したのである。

 「・・・」

 スペクターは黙りこくった。

 「こたえろ!」

 「ソウワメクナ・・・コレハアルカタノゴメイレイナノダ」

 「・・・バルラシオンか!?」

 「ハズレダ・・・ワタシハケッシテ、レジスタンスヲウラギラナイ。ソレハオマエガワカッテイルハズダ、アサオカソウイチソウチョウ。ダガカノジョノアンゼンハホショウシテヤル」

 「ずいぶん自信があるようだな。まかり間違えば彼女は殺されるぞ」

 「キベンヲイウナ。オマエノホウガヨホドキケンダ。イママデオマエハ、”アサオカナルミ”ヲマモッテキタヨウダガ・・・ナンカイカノジョヲセイメイノキキニオトシイレタ?シリタクナクテモオシエテヤロウ・・・4カイ、ソウ4カイダ。4ガツニハオマエハ”ナルミ”ヲオコラセテ、ネオプラントガセンプクスルファーストフードテンニサソイコムケッカトナッタ。5ガツモ、オマエハ”ナルミ”ヲオコラセルバカリカ、ガッコウノキザイヲハカイシテ、テロノオコリヤスイヨルマデカノジョヲコウソクシタ。アマツサエ、”ナルミ”ノガクユウニ、ワレワレノヒミツヲオシエルケッカトナッテイルノダ」

 「・・・・・!」

 「シカモソレニアキタラズ、6ガツモオマエハ、マタシテモ”ナルミ”ヲオコラセテニタヨウナジタイニオイコミ、7ガツノバアイハサイアクダナ・・・スデノカクトウセンナドトハ・・・アンナバカゲタシソウヲモトウナド・・・キサマ、イツカラ”コダイノカメンライダー”ニナッタツモリダ?ソレハイイトシテ、オマエハヒヘイノキワミデ、ゴエイニンムヲハタセズニフショウシ、デビルライダーゴトキニオイツメラレ、”アサオカナルミ”ヲシニオイヤリカケタ。」

 「だまれ!」

 「マッタク、ワラワセテクレル。ナニガカイゾウニンゲンダ。ナニガエキスパートノヘイシダ・・・ソウヤッテロウバイシテイルトコロカラモ、オマエハヒテイデキナイダロウ・・・”ホンゴウノオジサン”ガナクゾ?ソンナメンタリティーデヨクモマア、カメンライダーヲヤッテイラレルモノダ・・・イヤ、オマエハツェータライダーダッタナ・・・ククククク」

 スペクターは、宗一たちの視覚から見えないところで監視を行っているエージェントである。宗一たちが21世紀にやってくるときも、家を買収したのもスペクターだし、改造の手引きをしたのも彼だ。だが宗一とスペクターは極めて険悪な関係であり、その理由を知るものはこの二人だけでしかない。

 「ナニガツェータダ。ショセンキサマハ、6バンメノシッパイサクニシカスギナイノダ。」

 「だまれ!6番目とはどういう意味だ!」

 「オット・・・・・、オシャベリガスギタナ・・・トキガクレバワカルダロウ・・・”サクシャ”ガコノセッテイヤ、ワタシヲワスレテイナケレバノハナシダガナ・・・」

 ヴンッ!

 戦闘員の輪郭が徐々に揺らめいていき、体が透けはじめた。

 「待て!」

 「マテトイワレテマツヤツハイナイ・・・イイカソウイチ。ワタシハオマエヲカンシスルメイレイヲアタエラレテイル。モチロンオマエガイママデヤッテキタシッパイハ、スベテ”アサオカマサキ”ノシルトコロダトイウコトヲワスレルナ。コレイジョウキサマガナニカシッパイスレバ、”マサキ”ハオマエヲドウミルダロウナ・・・オマエノチチハ、テロリストニクップクシタ、オロカナオトコナノダカラナ・・・・・」

 「俺の父親は関係ない!俺は俺の意志で動いている!」

 「フハハハハハハハハハハハハハ!コレハケッサクダ!キサマ、イママデジブンノイシデウゴイテイルトイウノカ!?ジカクデキテイナイブンダケタチガワルイトイウモノヨ!キサマノシコウゲンリハ、キサマガツクッタモノデハナイ。キサマヲツクッタノハ”アサオカマサキ”ダ。テロリストノムスコヲアワレタ”マサキ”ハ、セメテオマエガバカゲタカンガエヲモタヌヨウニ、イッカイノヘイシトシテソダテアゲタモノヲ・・・・・ソノシコウゲンリハキサマガキメタモノデハナク、マサキニヨっテツクラレタモノダトイウコト、キサマハイツニナッタラジカクデキルノダロウナ」

 「・・・・!!!!」

 そう、スペクターの指摘どおり、宗一の今までの行動原理は、浅岡真崎によって刷り込まれたものであった。幼少時にテロで両親をなくした宗一は、叔父の真崎によって徹底的に兵士として作り上げられ、感情や私情を持つことを禁じられた、戦闘マシーンへと作り変えられたのだ。ゆえに今までのカルチャーショックからくる21世紀での失敗は、すべてここから来るのであり、一概に宗一が悪いというわけではないのである。

 だが宗一は、成美や伊南村をはじめとした同年齢の人間とふれあい、また7月に本郷のおじさんと出会ってから、その思考原理が変化しつつあった。時としてその行動が自分の今までのやり方と反するために、正しいと思うべき行動を起こせなかったり、違うとわかっている行動を自分の思考に基づいて行ったりしていたのだ。

 しかし、その呪縛が徐々に解かれはじめてきた。それまで自分の教義と反する「素手による格闘戦」も、7月の特訓以来から積極的に行うようになってきたし、どことなく人間的な風味を帯びてき始めてきた。人間としてみればそれは正常な心理のように見えるが、一介の兵士としてみれば情を持つことなど、到底許されないのだ。

 「ショセン、キサマハ、アサオカマサキノ、アヤツリニンギョウナノダ・・・」

 ぶつんっ!という音と共にスペクターは姿を消した。その場には宗一の電聖のみが残ってしまった。

 「真崎の操り人形」

 自分はそれまで真崎によって育て上げられ、今の自分がいる。もし真崎がいなければ、今ここにいる俺はどうなっているのか。テロリストに屈服した挙句に殺された自分の父親、その息子は自分・・・

 ゆえに俺は・・・・・

 俺は・・・・・

 俺は・・・!

 俺は・・・!

 (誰かを守るということは大切だ)・・・本当にそうなのか、だが信じたい。

 (正義とは買った人間が決めるものだ。過去の歴史は皆その原理である)・・・確かにそうだ。だが・・・信じたくない。

 (君は恋をしたことがあるかな?)・・・恋は知らない。だが重要なものだということらしい。

 全ての相反する考えが宗一の中で螺旋を作り上げ、彼を苦しめた。

 「わからない!俺は何なんだ!?」

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 (そーいうときはねソーイチ。誰かに相談して吐いちゃったほうが楽になるわよ)

 そう、俺はメイリンからそう教えられた。だが、俺はその相手がいないのだ。

 (だったら、そのときまで我慢しなさい。人類があんた1人だけにならない限り、絶対見つかるわよ。あんた、そんなに弱かったっけ?)

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 ざ・・・ざ・ざざざ・ざ・・・

 <・・・ちら・・・レット・フォン・オスカー。たった今民間人の捕虜を保護した!誰でもいいから誘導と護衛をつけてくれ!パニクッた50人もいるからおれたちじゃどうしようもねえ!>

 通信が傍受され、宗一は我に帰った。

 「そうだ・・・」

 俺はここで立ち止まってはいけないのだ。

 俺はまだ成美を、「義務感から」でしか守ろうとしている。だが・・・今はまだその答えを見出せていないが、いつか見出せるかもしれない。

 だから俺は・・・歩まなければならないのだ。

 がしょんっ!

 宗一はおもむろにコンテナから工具を取り出した。






同日午後5時53分
スカルスコーピオン地下秘密基地 地下9階 Dブロック 第745通路

 ライダー部隊は恐るべき強さで進撃していく。すでに残すところはあと一階層だ。

 だが意外に侵攻が遅いのは、この秘密基地が侵入者用に考えられた、入り組んだ構造をしているからである。シャッターや罠が張り巡らされ、巧妙に隠された部屋から戦闘員が奇襲を仕掛けたりと、スカルスコーピオンのゲリラ的な抵抗が続いていたからである。

 だが、いかにスカルスコーピオンに地の利があるとはいえ、ライダースーツに装備されている熱源探知機および二酸化炭素検出装置は巧妙に隠れても手に取るように分かる。また地下基地のお約束としてつり天井や落とし穴、ガスの罠もあったが、リアロエクスレーターのレーダーシステムの前ではすべて無意味、やはり手に取るように分かってしまうのである。

 「そっちにいったぞぉ!」

 「ぎぎぎっ!(よし!)」

 「ぎーぎーぎー!(こっちだ!こっちだ!)」

 「いたぞぉ!追え!」

 ごごごごご!

 がしゃああん!

 「何!?」

 ごごごごごご!

 がしゃああん!

 「ぎーぎーぎー!ぎぎぎぎぎ!(やったぜ!ライダー達を閉じ込めた!)」

 「ぎぎぎっ、ぎーぎー!ぎぎぎっ!(誘い込み作戦、大成功だ!ガスのスイッチを入れろ!)」

 ぶしゅうううううううう!

 「ぎぎぎぎぎぎ!ぎーぎー!(青酸カリやサリンガスの数百倍の殺傷力を持つ強力な毒ガスだ!いくらあいつらでも・・・)」

 どがぉんっ!

 壁が吹き飛ばされ、中からライダーが出てきた。

 「ぎ・・・・ぎぎぎ!(な・・・なんだと!)」

 「ぎ・・・ぎぎぎぎぎぎゃぎゃ!(う・・・うぎゃああああああああああ!!)」

 だいいち機密性抜群のライダースーツは宇宙空間でも問題なく活動ができるほどであるためにガスは意味がなく、第5世代ライダースーツ「電聖」に使用されている錬成レアチタン合金は放射能どころか、硫酸など無意味な化学式で構成されているので効果がないのだ。しかも不幸なことに、充満したガスは破壊した穴から一気に流れ出て、戦闘員達の鼻や口を通じて、肺を充満させて毒死させた。

 がしゃんっ!

 「なんだ?また同じ罠か?」

 ぶぉおおおおおおおおおん・・・・・

 「ガスを放出する換気システムが自動運転して毒ガスを一気に外に追いやっているのだろうさ。」

 「元々地下だ、毒ガスなど禁じてであることを連中はわかっているのだろうさ、いくぞ。」

 と思ったその直後、

 がごぉぉぉぉぉぉぉぉぉん・・・・・・

 照明が消え、辺り一面が真っ暗になった。宗一が発電所の処理を終えたのだ。これでもう相手は自爆できない。

 「!?なんだ」

 「停電・・・か!?バイク!」

 <了解。赤外線サーチライト展開・・・・・>

 この停電で幾らか混乱が起こったが、リアロエクスレーターのライトによりすぐにライダー部隊は持ち直したが、一方のスカルスコーピオンは混乱の極みにあった。怪人ならまだ夜でも見えるが、それでも鳥の怪人だと鳥目で何も見えなくなるのだし、戦闘員もまた同様である。



同時刻
地下10階 中央司令室

 「わ!」

 「真っ暗だ!真っ暗になった!」

 「やだー!俺くらい所にがてだぁ」

 がすっ!

 「ちょっとあんたどこ触ってんのよ!この変態虎!」

 「な、何が起こったというのだ!!」

 「ギーギーギー!ぎぎぎぎっぎ(発電施設が押さえられました!)」

 「ぎーぎーぎー!ぎぎぎぎぎぎぎ!(早く予備電源を立ち上げろ!)」

 がごんっ、ぎゅいいいいいいいいん・・・・・・

 予備電源に切り替わり、辺り一面の視界が非常灯で真っ赤になった。視界が回復したが、もうこれで悪の組織の最後の手段である自爆は出来なくなったのであった。









午後6時12分
スカルスコーピオン地下秘密基地 地下9階 Aポイント 第712通路


 「リアロエクスレーターのレーダーに反応・・・十字路の左に4,5人待ち伏せています」

 「各バイク撃て!各員はけん制しつつ白兵戦に持ち込んで一気にしとめろ!」

 じゃきん

 どがががががががががががががが!!

 「ぎゃびゃあああああああああ!!」

 曲がり角の壁ごと吹き飛ばされ、悲鳴が上がる。

 「・・・・・ぎぎ・・・ぎっ!?(何・・・で・・わかるんだ・・・よぉ!?)」

 こんな調子である。もはや彼らを止める術など、スカルスコーピオンはもっていなかった。生き残った戦闘員達も、

 「うおおおおおおおおおおお!!」

 「ぎぎぎ!?(な、なに!?)」

 ぶぉう!

 どぶしゅっ!

 「ぎゃびゃあああああああああああああああ!!!」

 次々と戦闘員達は虐殺されていく。このとき、運良く捕虜となって生き残った戦闘員の中には、彼らライダーに対してトラウマを持ったといわれる。従来のライダーは殴ったり蹴ったりする程度で、実際に血が流れることはあまりなかったのだが、彼らライダーの大群はその過去の事例をまるで無視するかのごとくに刃物を振り回し、容赦なく流血の惨事にと発展させるのだ。普通に殴るライダー達は骨折程度で済む、だが彼らは一度あったら絶命は必死。おまけに内臓やら腕や足がスパスパ飛び交って地面に転がり、通路という通路は、天上から床下まで赤い血で塗装されつくされるのだ。

 古来、ローマ帝国はイスラム教と戦うために、民間人から徴兵して十字軍を編成した。だがキリスト教では血を流す行為は教義に反するために、ある特殊な武器を持たせた。それはフレイルという短い棒に鉄球をつけた武器、それはメイスという鉄パイプなんてヘノカッパなくおっかない鉄で出来た棒状の武器、それはウォーハンマーという巨大なハンマー、これら全て打撃武器である。

 つまり血を流さずに相手を殺せばキリスト教に違反していないからOK!・・・という理屈で、十字軍はイスラム教と戦ったのである。はっきり言って「へりくつじゃねえか!」と叫びたくなるし、殴り殺しても血は出るものである。だが人間というのは個人レベルではまともでも、国家レベルとなると途端に馬鹿になるものである。自国の国民のためを思って戦争をしようが、他国の国民を不幸にする権利は当然ない、だが実際に戦争をすればそんなことなんていってられんのである。逆に裏切り者呼ばわりされて自分の首が危うくなり、結果的に人は馬鹿になるのである。

 だがいかなる理由であれ、殺人を犯すのはやっぱりまずいし、責務を負わなければならない。日本の死刑制度も廃止の声があるが、安直に失くせば犯罪に対する抵抗感が薄らぎかねないために、実際の犯罪は倍増するのは火を見るより明らかであり、数百人殺した悪党を生かしてしまうと言うのならば被害者の家族は果たしてどう感じるであろうか。

 話を戻し、これら残酷さが戦争たるゆえんである。歴代の仮面ライダー達は血を流すことなく相手を撲殺しているという点では、過去の十字軍とあまり変わらないのだ。アマゾンライダーのような派手なラフファイトなどは例外としても、どうであれ残酷さを感じない思考を持った人間の戦争は、残酷さのある戦争よりはるかに凄惨な結果を招くのだ。それが核兵器であり、人が戦争を止められない理由であり、悪の組織が次々に出てきてしまうのである。古来5000年間、人は知能を発達させているくせに、いつまでたっても戦争を止めようとしない点では、精神性は今だサル並なのだ。

 じゃきんっ!

 「ぎ・・・・・・!」

 「武器を捨てて降伏しろ!」

 「・・・・・」

 がしゃがしゃがしゃんっ

 勝てぬと判断した戦闘員達は、武器をその場に捨て去った。

 「・・・よし、縛り上げろ!」





午後6時34分
スカルスコーピオン地下秘密基地 地下9階 警備指令室


 <きさまらよくも我がスカルスコーピオンの同胞を!同胞の無念を晴らさせてもらう!うおおおおおおお!>
 <死ねやゴキブリ野郎!>
 <ぶぉう!>
 <どぶしゅっ!
 <ぎゃああああああああああああ!>
 <<タイプγの生命反応の消失を確認>>
 <よしいくぞ!全軍つづけぇ!>
 <おおー!>



同時刻
地下10階 中央司令室


 「ぎぎぎぎぎ、ぎぎぎぎー!ぎぎっぎぎ!(警備室の守護怪人のゴキブリスコーピオンの生命反応が途絶えました!)」

 「ぎぎぎぎぎ・・・・ぎーぎー!(再生怪人部隊・・・全滅・・・!)」

 「な、なんということだ・・・我らがスカルスコーピオンの怪人軍団が・・・たった4時間で全滅だと!」

 モニターには怪人やら戦闘員やらが次々と銃で撃たれ、トマホークや剣で斬られていく、一方的な展開が広がっていた。最後に残るのは見張のライダー2〜3名や、戦闘員や怪人の死体、およびそれらの内臓や●●やら××、通路を走る無人バイクとライダーの集団・・・。元々薄暗い通路はおびただしい流血で更にまがまがしくなり、地獄絵図ともいえる光景である。

 「わあ・・・・・やりすぎ」

 成美は率直な感想を漏らした。ほんとうにやりすぎだ。ていうか、これまで人間の死体を見続けてきて抗体でも出来たのか、戦闘員達の死骸を見て吐き気を覚えなくなってしまった。こう考えると自分がいかに狂いつつあるか、ある意味恐怖である。

 「おい小娘!貴様・・・あいつらのことを知っているか!?」

 ようやくこのおじさんが私に本題を投げかけてきた。遅すぎるよ・・・

 「・・・・・・はぁ」

 「同情交じりのため息などしておらんで答えろ!」

 そういわれても、成美は彼らに「あいつらは300年後からやってきたライダーの軍隊だよ」といって信じさせるような語学力は持っていないことを自覚していた。それ以前にこんなおっさんにどうやって教えるべきなのだろうか。教えたところで彼らはどうやって対処するのだろうか。私を盾にするかもしれないが、この状況で逃げるのはほとんど不可能だ。レーダーらしき装置は何だか真っ白に光っている。多分全部つぶされたのか、それとも電波かく乱でしっちゃかめっちゃかなのかもしれないし、唯一残った外部カメラの上空には、以前「シュバルツグリーン」の格納庫で見かけた円盤型戦闘機や戦闘ヘリがあちこち飛び回っているし、最初の攻撃で脱出ロはつぶされたことはこのおじさんの言いようから分かっている。

 つまり、追い詰められているのだ。これ”異常”ないほどまでに。

 「多分言っても信じてくれないけど・・・」

 「ええいぐずぐずするな!言え!」

 「あんたたちが戦っているのは・・・」

 どがぉん!

 言おうとする直前、部屋の通風孔が爆発を起こした。いきなりすぎる出来事だったために一同は動けなくなってしまう。

 「成美、こっちだ!」

 聞き覚えのある声、宗一だ。

 「宗一!?どこにいるのよ!」

 じゅばばばばばばばっ!

 「ぎゃん!」

 電気のスパークする音と共に、側近らしき一人の男が気絶した。その背後にいたのは左手に電気警棒を握ったライダーが仁王立ちしていた。

 「ラ、ライダー・・・」

 それは灰色のライダーだった。宗一が変身していたのはツェータではなく、電聖のほうのライダーである。

 宗一電聖はすかさず腰の銃を構え、

 「愚劣なテロリスト共に告ぐ。貴様らに勝ち目はない、直ちに降伏しろ。」

 「なんじゃと!?」

 「先のミサイルで逃げ道はすべて破壊した。貴様らに逃げ道はない。それに自爆装置とやらもすべて取り除かせてもらった。あと数分で2個中隊のライダー部隊、約400名が殺到する。装備も人員も劣っている貴様らには勝ち目はない。降伏したほうが身のためだぞ。」

 「ぐぐぐぐぐぐ・・・・・!」

 宗一の一言一句にひるむ首領と他一同。成美はなぜこのおじさんは自分を人質にしないのだろうか、と自分がおじさんの立場だったらこうするだろうという考えをしていた。実際このおじさんは追い詰められたことばかりで何も考えられない状態のようにしか見えないので当然かもしれないし、なにしろこのおじさんは最悪にも凶悪な敵に喧嘩をふってしまったのだ。同情の余地もない。

 「お、おのれぇえええええええ!!」

 おじさんがとびかかってきた。だが・・・

 どかぉんっ!

 「ぎゃああ!」

 おじさんが倒れた。宗一が極悪非道にもおじさんの骨折していた腕を銃で撃ったからだ。前言撤回、おじさんがかわいそうに思えてきた。

 「怪我はないか、成美」

 「え・・・ええ、ありがと・・・ってあんたすごく卑怯ね・・・。」

 「敵の弱点を突くことのどこが卑怯なのだ。俺が奴ならば怪我をしている部位を狙われたと判断して自分を恥じる」

 敵の弱点を突くのは戦闘の基本中の基本であり、正論である。だが情け容赦ない奴なのだ、浅岡宗一とは・・・こんなのが私の子孫と思うと、子供を生みたくなくなってしまうものだ。てか7月で本郷のおじさんに教えられたことをこいつはちゃんと理解しているのだろうか・・・!?

 「それにだ・・・みろ。」

 「・・・うえ!」

 倒れたおじさんの体が、赤く変色していたのだ。ローブを実に今とっていたのでよく分からなかったのだが、銃でローブを引っぺがすと、その姿があらわになった。しかも指の一本一本がなぜか8本指になっていて、しかも不気味なほどまでに長くなっている。そのうえ吸盤があちこちについていて、あたかもそれはタコを連想させる風貌だったのだ。

 「・・・この時代の怪人は人間に擬態する能力を持っていたか。」

 「・・・・・あのさソーイチ。正々堂々という言葉、しってる?」

 「・・・知っているぞ。双方共に拮抗したコンディションで一対一で戦うことを言うのだろう。俺もまだ病みあがりだから電聖なのだ」

 「・・・・・」

 ここで論議してもどうしようもないので、私は宗一の電聖ライダーの背中に隠れる形でおじさんから離れることにした。

 じゃきっ!

 「見ての通りだ。今すぐ両手を挙げて壁か地面に体を向けろ!」





同時刻
スカルスコーピオン秘密基地 地下9階 改造人間研究室


 どがっ!

 「はまげらひ!?」

 狼の姿をした怪物が壁にたたきつけられた。

 「あんなじじいがいきなり変身するとはねぇ・・・」

 「ああびっくりモンだ。21世紀って面白いんだなぁ、なあメイリン」

 「そうね」

 「うちのバイクがガンプラにはまって困っていたが・・分かるような気もするよ」

 そうぼやくメイリンと、彼女の同僚である第12ライダー小隊指揮官のアル少尉であった。

 「ぐごぉぉぉぉ・・・!?」

 倒れている狼の正体はフクロ博士である。司令室から離れて庫の部屋を守備していたのだが、圧倒的火力を誇るメイリンたちに一度降伏をし、その隙を突いてウルフスコーピオンとなり、不意打ちを食らわしてきたのである・・・結果は見ての通りだったが。

 「オ・・・おのれらいだー・・・・!ひきょうだぞぉおおおおお・・・・・!しゅうだんでやってきて・・・・!そんな武器を大量に持ってきて・・・・!わが再生怪人軍団を・・・・・ようしゃなく・・・・・撃ち殺しおってぇえええぇぇぇぇ・・・・」

 「何言ってんだ、この狼?あんな性能ででかい口はきやがって」

 「あたしらの時代じゃ狼型怪人なんて1万体以上作られてるわよ。他の怪人だって1万やら2万ほど作られてんだから、たった一体だけ作り直しておいて偉そうな口たたいてんじゃないわよ」

 ひどすぎる二人。

 「ニャ・・・・にゃんじゃとぉ〜・・・・」

 <あんたらもあんたらよ。一体の怪人にたった10数名の戦闘員をぶつけるっていうその発想を止めなさいよ。いっそのこと戦闘員全部を作りやすい怪人にしてライダーにぶつけりゃいいじゃないのよ>

 <そうだそうだ。そういう固定概念だからいつまでたっても仮面ライダーに勝てないじゃないか。もしくは仮面ライダーを大量生産してぶつければいいじゃないか。もしくは一度にたくさん作ってライダーの対処のしようのないほどまでにテロをすれば勝てるのに・・・>

 「ぐ・・・・思いつかなかった!」

 コイツは馬鹿か・・・と2人と2台のバイクは思った。

 「でも・・・テロリストに人権はないわね」

 メイリンがトマホークを振り上げる。いつものハルバートではなく、その重量は50kg、特注の超大型トマホークだ。

 「!」

 「そうだな。降伏をそのまま受けていればよかったが、まさかルールを破って不意打ちをしてくるとまでは思わなかった。」

 「自分の思慮の足りなさを悔やみなさい。あの世で」

 続いてアルも大剣を振り上げる。こちらも50kgを誇るトンデモビックリな超大型だ。

 「や・・・・やめろおおおおおおおおおおおおおお!」

 悲鳴をあげるフクロ博士ことウルフスコーピオンは絶叫を上げて―――――

 どぶしゅっ!








午後7時00分
スカルスコーピオン地下秘密基地 地下10階 中央司令室


 雌雄は決した。スカルスコーピオンの戦闘員達は惨殺され、生き残ったものは全て捕縛された。拘束具を引きちぎろうというのならばライダーによってトマホークで首を狩られてしまうために抵抗も出来ない。

 「・・・・くそお!」

 「さっさとあるけ!」

 部屋には多くのライダーが所狭しと作業をしており、あのおじさんも、虎の人も拘束されて連れて行かれる。

 「・・・・・」

 虎の人はちらっとこちらを見て、やさしそうに笑った。

 「あ・・・・・まって!」

 不意に成美は駆け寄って、虎の人に近づいた。連行しているライダーも彼女の声に反応して足取りを止める。

 「どうしてあたしをたすけたの?」

 「・・・」

 「黙ってちゃ分からないわよ」

 「私は・・・・」

 「?」

 「私はこれでも昔は50を超えたサラリーマンで会社の部長だった。だがリストラにあったせいで家庭は崩壊して、当時君と同じ年頃の娘はヤンキーになって援助交際の果てに行方不明となって、妻はそんな生活に嫌気をさして中学生になったばかりの息子を連れて家を出て行ってしまった・・・御丁寧にもマイホームは売られ、私が帰ってきたときはそこはなぜか『間津井ベーカリー』とかいうお菓子屋になっていた・・・」

 「・・・」

 「自殺しようとしたその時にこの組織にスカウトされて、私はこのような姿になったんだよ。どうも私には戦いの才能があったみたいでね、こうやっているわけだが・・・とうとう年貢の納め時が来たらしい・・・」

 「・・・・」

 「お嬢さんは悪くない。全ては私がこんな性格だからいけなかったのだ。もっとうまくやっていれば仮面ライダーツヴァイを倒せたし、上官からも文句も言われなかったし、君を拉致するようなことはしなかっただろうね・・・・・私はどこかで娘を重ねてみていたのかもしれないな。」

 「・・・」

 「それにね、私は虎の人ではなくてタイガースコーピオンだよ。お嬢さん・・・」

 最後に軽く笑って、虎の人ことタイガースコーピオンはライダー達に連れて行かれた。その連れて行かれる光景をみどった成美は、

 「・・・ソーイチ。あの人たち、どうなるの?」

 「・・・全て上が決めることだ。一介の兵士の俺は決められない」

 「じゃあ殺されちゃうってこともありうるの?」

 「確実にな。君を守るのが俺達の任務だ。ゆえに君を拉致した連中を、上は許さないだろうな。」

 「作業完了!全ての機材をバイクに詰め込みました!」

 「よーし!撤退するぞ!」

 ライダー達が次々に部屋から出て行く。

 「気にするな。君は悪くはない・・・」

 「・・・・・うん」

 宗一にそういわれて、成美はその場を後にした。





西暦2004年9月19日午後8時06分
駆逐艦シュバルツグリーン艦橋


 「中佐、作戦が成功したとの報告がやってきました!」

 「そうか。」

 「これが報告書です」



作戦開始    午後2時50分
制圧完了     午後7時00分
撤退完了    午後8時00分

投入兵員 400名、リアロエクスレーター400機、戦闘機3機、爆撃機2機、対人戦車6機、戦闘ヘリ10機、輸送機3機
死亡者数 0名
重軽傷者 0名

敵構成員 209名
敵死亡者 189名
捕縛者   20名
敵幹部数名の拘束に成功

捕虜となっていた民間人 83名・・・全員解放に成功。現在輸送機3号に搬送し、近くの空港におろす模様。
浅岡成美・・・被害なし



 「たいした結果だな、作戦指揮官」

 「ありがとうございます中佐。ですが・・・これでは弱いもの虐めですな。我ながら情けなく感じます」

 「言うな。我々の存在自体がイレギュラーなのだ・・・・・」

 「はっ。ではあの基地は予定通り爆破しますか?」

 「うむ。部隊は後どれぐらいでたどり着く?」

 「およそ5分です。」

 「浅岡成美は?」

 「宗一曹長が家に送っています。すでに戦域から離脱していますね。」

 「そうか、では5分後に発射する。リベロ2の発射用意を・・・」

 「もうできていますよ艦長」

 デビッドの采配は正しいと、イルステッドは思った。副艦長のアジムは優秀な成績を収めているが、生来気の弱い性格なので実践向きではない。それが彼の出世を阻んでいたのだが、彼の処理能力の高さは特筆に価するものであり、自分でも勝てないだろうと思うほどである。

 「早いな。」

 「それが仕事ですからね。」

 「では直ちに発射を」





同日同時刻
埼玉県さいたま市国道●●号線 リアロエクスレーター車上


 「ねえ!急いでよぉ!」

 「急いでいる!」

 <警告:法定速度オーバーです。直ちに減速することを薦めます>

 「ここで減速したら明日のテストに間に合わないのよぉ!」

 <警告:それはあなたの勉強が足りないからです>

 「生意気言うな!」

 「・・・」

 あの後、宗一たちは直ちにリアロエクスレーターで東京に帰らざるを得なかった。ヘリを使って帰るのかと当の成美は思ったのだが、いちど太平洋に出てからでかつ、そこからもう一度東京に行かなければならない。しかもそれでは明日の朝になってしまい、成美に課せられた補習のテストが待っているのだ。だから一直線に宗一のリアロエクスレーターに乗っかって、こうして急いでいる次第であった。

 ふぁおんふぁおんふぁおんふぁおん!

 どこからともなくパトカーのサイレン音。成美が振り返ると、

 <そこの二人乗りのバイク!止まりなさい!止まりなさい!>

 そこには自分達を追いかけているパトカーの姿があった。

 「・・・・・あちゃ〜。」

 無理もないかもしれない。何しろこのあたりは暴走族の溜まり場で、しかも自分や宗一はノーヘル。おまけに改造バイクときたものだ。今も時速85kmで走っているので法廷速度違反、どうやっても弁明の余地など、存在しようのない。

 「ソーイチ、どうする?」

 「決まっているだろう。バイク!」

 <イエス!>

 「リミッター解除。時速850km/h!」

 「え!?」

 <了解!>

 後部座席から急にヘルメットが飛び上がり、成美の頭に勝手に入っていった。このとき成美は気がつかなかったのだが、ナンバープレートは真っ黒に染まって識別が出来なくなっている。

 ばるぉん、ばるおおん・・・・・・・・・!

 「え、ちょっと、宗一・・・・・あたしこういうの見たことあるよ。恐ろしいスピードで走ったら衝撃波やら何とかでめちゃめちゃになるって・・・」

 <御心配には及びませんMIS成美。搭乗者は私から発する電磁物理防壁によって衝撃波から守られるようになっていますし、時速850km/hは私の最高速度の10分の1にも満たしません>

 「十分の一って・・・」

 「しっかり捕まっていろ成美。衝撃はたいしたことはないが、万が一バイクから落ちたらミンチになるぞ」

 「ミンチってあんた・・・っておい」

 <チャージ完了。開始3秒前・・・2・・・・1・・・・エンジン点火!加速開始!>

 ばぉん!

 バイクに振動が走ると、マフラーから強烈な火が吹き始める。

 ビュごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 強烈な衝撃が、成美を襲う。周囲の風景は何も見えなくなり、異空間に迷い込んだ感じすらも取れた。

 <時速450・・・500・・・600・・・650・・・>

 恐ろしいスピードで駆け巡っていく。周囲が何も見えない。

 <・・・・・・700・・・・760・・・・800・・・・・・850。リアロエクスレーターより搭乗者へ。本機は現在850km/hで走行中>

 「ちゃんと曲がっているか?」

 <御心配には及びません。跳んでいますから>

 「跳んでるって・・・・・・・!!!!」

 成美は下を見た。

 確かに、バイクが跳んでいる。もう彼らの常識にいちいちツッコムのは労力の無駄遣いだ・・・

 「宗一・・・・あたし疲れたんだけどさ・・・・・このバイクって空を飛べるの?」

 「いや、ジャンプをしただけだ。ちょうど良い直線道路だったからな。そこで思い切りジャンプをしただけにしか過ぎない」

 <イエス。ちょうど良くジャンプ台となりそうな下り坂がありましたので使わせていただきました。現在滑空速度844km/h・・・この調子で行けばあと30分で目的地に到着いたします>

 「んもう・・・・・」

 無茶苦茶だが、成美はふいっと下を見た。

 「・・・きれい」

 下は街の光のイルミネーション。人工的であるとはいえ、人の心を安らぎ、安心させる確かな光である。

 「・・・まあこういうのもいいかもね」

 「何か言ったか成美」

 「なんでもない。今度からはきちんとあたしを守ること!そうすれば今回の一軒はちゃらにしてやるからさ」
















午後8時10分
群馬県吾妻郡嬬恋村 浅間山ふもと スカルスコーピオン地下秘密基地


 ぶるぉん、ぶるおん・・・・・・

 一台のバイクが止まり、ライダーが走ってくる。

 「・・・・・やっと見つけたぞ!スカルスコーピオンの本拠き・・・ち・・・!?」

 ・・・

 あたり一面、焼け野原であった。なぜかはしらないがメインゲートと思われる入り口は白いパテのようなもので固められており、あちらこちらからは焼け跡が広がっている。奇妙なことに人気というものはまったくなく、草が焼け焦げる音とコオロギやスズムシの音色のみが、その空間を包み込んでいた。

 「な・・・これは・・・・・」

 情報によればスカルスコーピオンの秘密基地はまだあったらしく、首領や他面々はここに逃げ延びたらしい。だが・・

 びゅごおおおおおおおおおお・・・・・・

 上空からなにやら音が、

 「ん?」

 音のする方向に振り向いたが、なにもない。

 「気のせいか・・・・・」

 振り向き終えたその直後、彼の向いていた方向から、ミサイルが虚空から姿を現した。

 ヴンッ

 ごごごごごごごごごご!

 「他にも秘密の入り口や脱出路はあるはずだ。さがしてみ・・・」

 がごんっ!

 「!?」

 振り向くと、ミサイルが地面に突き刺さり・・・

 「ま、またか!?」

 ミサイルが突然振動を起こし・・・

 しゅわおおおおおおおおおんっ!

 あたり一面を振動させ・・・・・・

 ばりばりばりばりばりりいいいいんっ!





 あたり一面が、完全に消失した。

 今回使用された兵器は、地表攻撃用の戦術中距離滑空誘導ミサイル「フレイボム」。正式名称どおりに地表部分のみを破壊する特殊兵器である。具体的には地下に民間人が生き残った核シェルターに被害を与えないためだとか、地盤がゆるいところなのに重要な拠点に基地が立っていたりとか、貴重な水資源や鉱物資源がある地帯、今回の火山地帯のようにうかつに刺激すると地震や噴火の危険性があるところなどといった、地下にあまり衝撃を与えないようにすることを念頭に入れられている。

 これそれ自体に爆発力は弱く、純粋なミサイルとしての威力からすれば弱い部類である。だが着弾と同時に特殊な低周波を周囲一帯に撒布し、その振動で半径1km圏内のありとあらゆる物体を粉々にしてしまう、末恐ろしいミサイルである。もちろん効果は地表部分のみで、地下には低周波が減衰されて届かなくなるので何の影響も与えないようになっている。ミサイルは役目を終えると自ら硫酸を流してその場で溶けてなくなるようになっている。

 ただし欠点もある。それは極低周波発生器を詰め込める分どうしてもコストが高くなり、また地表攻撃用のセンサーを大量に詰め込むためにミサイルそれ自体の弾速が遅く、自動回避力も低いので打ち落とされやすいと言う3点である。ゆえに対空能力を持つ要塞や軍隊相手にはあまり使うことは出来ず、おもに制空権を完全に掌握したときに使われるのがセオリーであった。

 「ぶわっは!」

 地面から手が飛び出し、さらにライダーが飛び出した。世が世ならゾンビである。

 「ええい!なにがどうなって!?」

 やっと、やっと見つけたのに・・・

 力なくライダーは、その場で落胆した。

















西暦????年??月??日
?????????????

 「ぎーぎーぎーぎーぎー!ぎぎぎぎぎっぎぎ!」

 「・・・しゃべるバイクに凶悪な火力、そしてライダーの大群・・・か」

 「ぎーぎーぎー!!ぎぎぎっぎぎー!」

 「だが命からがらというのはわかるがね、今まで我がエニグマの日本の活動を邪魔していたのはどこの誰だったかな?」

 「ぎーぎーぎー!!!ぎぎぎぎぎ・・・・・」

 ざんっ!

 「・・・・ぎーぎーうるさい奴だ。貴様の脳を調べさせてもらえば全てわかる話だ。だがこれで邪魔なスカルスコーピオンは消え、我がエニグマの日本進出は楽になった。それにそいつらは難航しているバーゲスト開発にはよいデータになるかもしれない。さっそく我がメルカトル様にこのことを伝えなければ・・・」






西暦????年??月??日
?????????????


 「ぎーぎーぎーぎ・・・・ぎぎぎぎぎぎ!」

 「だまれスカルスコーピオン!貴様らが我らをどれだけ邪魔していたと思っての領分だ!」

 「何が仮面ライダーの大群だ!何がバリケードも吹っ飛ばす凶悪な火力だ!何がしゃべるバイクだ!」

 「脳内妄想もここまで来ると病気だな・・・」

 「ぎぎぎー!ぎぎぎ!ぎぎぎぎぎっぎ!」

 「何度言わせれば分かるのだ!我が落天宗は・・・・・」

 「あいやまたれよ!敵対していたやつらの組織が、こうも・・・戦闘員だけでやってくるのは・・・どうも変ではないか?」

 「・・・・・」

 「スカルスコーピオンといえばショッカー時代から続く古い組織。ゆえにその秘匿性はライダーでも察知することは出来なかったし、ここ最近の地下組織がおとなしいのはその組織が根回しをしていたからだが・・・その彼らがわざわざ敵対している我らの下に来るだろうか。」

 「罠だ!こんな幼稚じみた嘘など・・・」

 「いや、これは使えますな。そのスカルスコーピオンをたった1日で壊滅せしめた連中、奴らを調査してその技術を手に入れれば・・・我らが野望を達成できましょう」

 「ぎ!ぎーぎーぎーぃ!」

 ざんっ!

 「・・・そのために、あなたの脳から調べさせてもらいますよ。くっくっく・・・」











西暦????年??月??日
?????????????


 「ほぉ・・・」

 「ぎーぎーぎー!ぎぎぎぎぎぎ!」

 「それは興味深い・・・君たちのその防衛力は特筆すべきものがあったが・・・そんな君らがあっさりとなぁ。」

 「ぎぎぎっぎぎぎー!」

 「疑ってはいないよ。我々は君らのサポートあってここまで成長したのだから、むしろ感謝しているぐらいさ。」

 「!!」

 「レグナム・クリスタルの研究も最終段階だが、まだ不安定な面があるし、B級品のストーンのバーミン・コマンドの性能を上げるにはこれ以上ない技術素材かもしれないね」

 「ぎぎぎっ!ぎーぎー!」

 がしっ!

 「ぎ・・・・ぎががぎ・・・」

 「いちいちうるさいよ・・・君たちの存在を、我々ヴァジュラはもう必要としない。」

 「ぎ・・・・ぎ・・・・」

 ごきんっ!

 「・・・・・いい音だ。・・・ただちにスカルスコーピオンを壊滅させた連中の正体をつきとめろ!」





























後にそれは、翌年の争乱のきっかけとなり、仮面ライダー伝説が復活するきっかけともなった。
だがそれが実現するか否かは、まだわからない。




























NEXT MISSION・・・


次回予告



「あなたとは・・・いい友達になれると思ったのに・・・」
「トモダチ・・・私はいつも1人」
「彼女は殺させん!」
迫りくるバルラシオンの刺客は女子高校生
感情を捨てた戦闘マシーン


「データにはない・・・あれが6番目なの!?」
「ちょっと・・・なによそれ」
「言わなかったか。これが俺の新しいツェータだ。だが・・・このマークは何だ!?」
新たなる姿、その名は・・・・


がごんっ!
「ぎゃん!」
「・・・!?」
「こんな鬼畜からとっとと逃げなさい!さっさと!」
その非道な態度に、成美は戦いに手を出した。



次回「ツェータライダー」
MISSION SEPTEMBER:白雪姫はテロリスト


編集後記



あほみたいなスピードで完成させた間津井店長です。邑崎さんはそんなに気にしないでください。周囲の平均速度が2,3ヶ月に1話にたいしてうちのツェータは一ヶ月に一話という、疾風のスピードなので・・・おまけにこの1ヶ月間で一気に3話・・・・・ビックリコキマロなので悩むだけ気苦労しちゃいますのであまり気にしなくても大丈夫です、いえほんとうに。
ちなみにこのお話は、実は連載開始前から既にかなり作りこんでありまして、本当は6月に掲載しようと思いましたが・・・あれよあれよと言う間に8月になってしまいました。まあこんなものかもしれませんが、構想がかなり前から確立されていたので、このお話が異常に早く出せた理由です。もちろんこの1ヶ月間3話という新幹線並みのハイペースはこれでおしまい、次回からはちゃんと一ヶ月ごとに一話の通常ペースに戻ります。

毎回毎回仮面ライダーのお約束を破っては読者の肝を冷やし、びくびくしながら感想を見ていますが、今回はその極めつけをやってしまいました・・・凶悪な火力を持って400名のライダーが小さな組織を完全制圧・・・おまけに自爆装置を解除してしまって地下基地をパテで埋めてしまう・・・・・この作品以外じゃできないんだろうなぁ・・・と我ながら優越感に浸ってピノキオのように鼻を伸ばしています。
と同時に、いつも以上に小さくなって子犬のように震えています。毎回毎回ギャグとシリアスの落差が激しいですが、今回は全部ギャグなので、読み終わったら疲れているのではないでしょうか。いつもより短いのも(?)、作者の気力が低下しているものだと察してやってください。一応ツェータは他の作品とつながっていまして、2005年に悪の組織が一斉に動き出した、その理由付けをここに書いているつもりです。他の作者さんの怒りを買いそうですが・・・ドラクエ風に言えば「ドラゴンクエスト3」のような・・・嗚呼ごめんなさい。

謝るのは簡単、でもそれで済むほど人は単純じゃない。
毎度のように作中説明(汗)を書き連ねてみましょう。





・宗一パワーアップ?
前回ぼこぼこにやられたので、宗一ことツェータはパワーアップします・・・が、その一拍前のお話ということになります。
詳しいことは来月をお楽しみにです。



・バイクたちの社会
またしてもやっちゃったなぁ・・・とおもっています。400人のライダーがいるなら400台のバイクがあり、一台一台人格もあり、とうぜん好き好みもある。ゆえに中には将棋をやったり、ガンプラを作ったり、ライダー同士の訓練で熱狂したり、金にあざとい奴まで出てくる・・・まあそんなものでしょうか。実は他にも「マンガを描いて雑誌社に作品を送るバイク」や、「テレビゲームに夢中になるバイク」、「インターネットの株を始めてぼろもうけするバイク」やら、「掲示板を荒らしてアクセス制限されるバイク」、「編み物を始めるバイク」やら、「テレビ番組に夢中になるバイク」などがありましたが・・・うざったくなりそうなので全部ボツにしました。合掌。
ちなみに「バッターアウトガンダム」は、現在のガンダムがストライクだから(笑)、「ファーボールガンダム」はストライク、バッターアウトとくれば野球だからの連想で「ポトリエラーガンダム」もやっぱりその理屈なので、考えない方がいいでしょう。深く考えたら負けです。



・スカルスコーピオン
このスカルスコーピオンと言う組織は、作中でもあるとおりにショッカー創設時から存在するという設定の古い組織です。組織それ自体が小さいうえに目立った行動はしなかったのでライダーに潰されることはなく、一度壊滅した組織の残党をスカウトしたり、資金援助や基礎技術提供、地下土地や戦闘員達の斡旋などを行って新しい組織の立ち上げを手伝ったり、ライダー不在時を狙った銀行襲撃の時間帯の提供や、幼稚園バスジャックの安全な時間帯の提供、弾薬や資材の提供などなどというのが大きな役割であり、言うなれば悪の組織専門のブローカーみたいなものです。仕事が出来たときの手数料や、資材の代金、融資額の利子や襲撃したときに会得した金の数割をもらったり・・・・・などなどの資金で運営しています。「鬼神」の落天宗と同じようなものだけど、あっちみたいに表立って行動はしていない、と考えれば分かりやすいかもしれません。
この組織があるおかげで(?)悪の組織はいくら潰しても立ち上がりまして、複数存在する悪の組織同士が2004年現在までに抗争らしい抗争が起こらないのは、この斡旋組織が抗争同士の争いをしないことを条件に仕事を提供している、という設定です・・・・・しかし、最近海外勢力が最近日本にちょっかいを出してきたので悩んでいる、と言うわけです。で、その海外戦力がエニグマであり、勝手に条約を結ぶほかの組織やらが言うこと聞かなくなってきたり、自分達より古い上に似たようなことをやっている落天宗が自分達より勢力が大きくなって困っちゃったり・・・などとそれっぽい悩みを持っているわけです。
彼らの目的は裏の裏からの世界征服・・・なのに、その消極的な態度が原因で30年間ずうっと征服し切れていない、気の小さい組織だと思ってやってください。何しろ色々な組織が壊滅していく光景を彼らはずっと見てきたのであり、うかつに表立ってはライダーに狙われてどうしようもないので・・・

ちなみに浅間山ふもとと言うのは、2月に私がそこでバイトをやったからです・・・2月のあそこは寒いです。毎日雪がどかどか降ってきて、下界の空気と違って冷たい空気が肺に浸透するほどで、サルのように夢中にスキーをやりまくって左肩の筋肉を壊しちゃったのも懐かしい思い出です。ドラえもんオールナイトで肩から三角頭巾をぶら下げて周囲から心配がられましたが、今では元気100倍アンパンマンです。



・ツヴァイ
これもζ世界のみに存在する、スカルスコーピオンの陰謀を阻止せんとがんばる仮面ライダーです。哀れ、ミサイル攻撃の余波を思いっきり食らうという不遇な立場ですが・・・元は彼、スカルスコーピオンに改造されたのではなく、他の組織に改造されて戦っていたのに、ある日突然本部がミサイル攻撃を受けて壊滅し、生き残った奴からこのスカルスコーピオンの名前を知って、自分を元の姿に戻そうとがんばるのですが・・・再登場はないかもしれません。



・タイガースコーピオン
当初は残虐非道でかつ知恵の回るキャラにしようかと思いましたが・・・なぜか部下に嫌がられたために主食の人肉を食べるのを止めてしまうような、信念を持たない振り回されやすい上に、善玉のキャラになってしまいました。首領が言うとおり、実はスカルスコーピオンの中でも最強を誇り、ツェータの時代のライダー達をはるかに上回る戦闘技量を持っているのですが・・・首領がやられたので素直に降伏した、情けない奴です。
リストラされて家庭崩壊したサラリーマンがその正体で、個人的にはかなりお気に入りのキャラなので、いつぞやか再登場するかもしれません。
しないとおもうけど・・・



・スペクター
MISSION APRILから見ている方々も忘れているかもしれませんが(汗)、影の人スペクターの初登場です。見ての通り彼はこのお話の秘密を知る重要人物でして、過去の宗一とも深く係わり合いを持つ人ですが・・・設定当初はもっと明るい人でしたが、なぜか陰湿に・・・うむむ・・・
それと宗一が初めて葛藤を見せましたが、彼は自分の意志で動いているといっているのに実際には自分の意志で動いていません。あくまでも命令でしか動けない、へっぽこな人間でして、コレまでの彼の行動を見れば分かるとおり、彼はまったく自分の意思で動いちゃいません。7月の特訓も、仕方ないからやり始めたというのが宗一の本音らしいですが・・・結果は宗一に自我を持たせられたので今回の悩みというか、葛藤を作ってしまった・・・ということになりました。今後のツェータのムジュンや謎は、きっと彼が語ってくれるかもしれません。



・組織の面々さん
そう、これが書きたかった・・・前回の次回予告で戦闘員達がぎーぎーいっていましたが、その相手が彼らだった、というオチです。ツェータは他のライダーシリーズとつながっているということで、なぜ2005年になって彼らは一斉に動き始めたのか。組織同士でなぜ抗争が始まったのか?それは彼らを裏で取り仕切る組織がいなくなったせいであちこちの組織が独立したからである・・・!
作者さんに怒られるのを覚悟で書いてみまして、野望達成のためにツェータの時代の技術を求めるようになる・・・・・ということです。









以上、長々となりましたが今日はコレまでとしましょう。
お楽しみに・・・ではでは・・・














































 て、ちょっとあなた!

 「・・・なにかな?」

 「何かなじゃない!はやく放送室から出て行け!てかいつからこの部屋に入っていた!次の番組はゼンとヴァリアントなんだぞ!君の出番は来月もっとたくさん増えるんだ!だからとっとと放送室から出て行けっ!」

 「だが・・・なぜ今回の未来編は全面カットしたのかな?」

 「むやみに長ったらしくしたら読者さんが疲れちゃうからだよ。浅岡真崎くん」

 「ほう・・・・・ならばこれはなんなのかな」

 ぱらり

 「な・・・・・これをどこで!」

 「これがツェータの結末か・・・いやはや、最後まで読者をコケにするような展開だね。作者君。それにだ、MISSION APRILでは世界に核が落ちたのは3月10日になっているのに、ここ最近は3月5日になっている。果たしてこの5日間にムジュンは一体なんだろうねぇ・・・」

 「ぐぎぎ・・・」

 「結局のところ、私が今回一度も出ないのは、作者が疲れ果てただけでしかない。まあ2週間程度でこれを書き上げたのだから仕方がないにしてもだ、本当は9月に出すはずだったのだが、これ以上遅延したら物語に不都合が出る、しかし未来編をやれば間に合わないから私の華々しい活躍を拝聴できる未来編を全面カットしたのであろう。違うかな」

 「ぐぎぎ・・・CMいってください!CM!・・・早く次の番組を放送・・・って何だお前ら!おい!何をそう取り囲んで・・・!」

 「すまないね・・・私の親衛隊は私以外の言うことは聞かない。少しの間だけ君には退場させてもらうよ。」

 ぱちんっ

 「おいこらはなせ!俺を誰だと思っている!その世界の創造主だぞ!神に逆らうとはいい度胸だ!」

 「妄想主の間違いではないかな。私はこの世界に神はいないと強く信じる人間だ。神がいればこの世界に貧富の差や戦争など起こらないだろう。私を一度も出さないとは、作者君・・・君は愚かなことをやった。私は普段は温厚でかつ裏表のない一途な政治家を演じてきたが、私はひとたび怒ればいかなる人間であろうとも容赦はしない主義だ。肝に銘じておきたまえ」

 「はなせ!こらお前らそうすると次回の小説で皆殺しだぞ!富野だぞ!お前ら次回血みどろになって・・・うわあああああああああ・・・・・」

 ばたんっ

 ごぶしゅ!どぶしゅ!ごがんっ!ばぎっ!

 だんだんだんっ!だだだだだだんっ!


 「ぎゃああああああああああ・・・・・・」

 「血は歴史を切り開く貨幣だよ・・・ゆえに人の歴史は血で記されているのだよ・・・作者君。皮肉にも君が血みどろになったがね・・・」










 「・・・・・さて、お見苦しいところを失礼。私は浅岡真崎。レジスタンスの大統領をやっているツェータライダーの第3の主人公だが・・・どうも自分の影が薄くて仕方がない。それはいいとして、なぜ私が編集後記コーナーで我らが創造主を退場させるという暴挙に出たのかというとだ、どうやら掲示板で100の質問に答えてくれという要望があったようなのだ。本来政務でそれどころではないのだが・・・・・・・・・・・」

 「ん?なるほど・・・どうやら時間が迫っているようだ。とりあえず来月に記しておくことを約束しよう。それにやはり掲示板で「ツェータの世界はつなげようがない」という不安や疑問の声が上がっているようだが、どうやら我らが創造主たる間津井さんはその解決策をすでに完成させているようだ。2005年3月5日に核が世界中に落っこちて異次元ワールドが沢山出来るという結末はないと思っていただきたい。間津井さんはそういう都合よく解決できるパラレルワールドは最近のドラえもんの映画を通じて嫌いのようでしてね・・・この小説のテーマはあくまでも「運命」、最近では「愛」の要素も含まれてきたようだが、そんなのはどうでもいいだろう。」

 「・・・なに、あと20秒か。わかった。とりあえずツェータはこれから新展開を迎える。今まで「フルメタル・パニック!」の影響受けまくりで馬鹿げていた内容だったが、今後そういう空気は少なくなり、もっとマジメ・・・というよりシリアスな要素が強くなる。今までのような「宗一が馬鹿をやる→成美がキレて一人ぼっち→怪人が襲う」という形式はなくなり、ツェータ世界のムジュンや謎について深くつっこんでいく内容になる。果たして作者がそれを旨く処理できるかどうかは分からないがね。まあ9月はもう少しのろけた雰囲気になるだろうが・・・次回以降は今までと違うということだけを覚えていただければいいだろうね。」

 「・・・・・おやもう時間か。では次の選挙には私、浅岡真崎に一票をよろしく願いたい。では次回のツェータは9月だ。それまでごきげんよう」


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