西暦2004年7月4日午後3時35分
東京都豊島区かもめ台 354番地

 「・・・・・」

 その日の宗一は用があった。

 (だから!君が僕らを大切に扱っていないというその事実がある以上!僕らバイクは君を信用することが出来ないっ!)

 (一体いつになったら3号機は帰ってくるの!?)

 (君と僕らの間に信頼関係はまったくないと思ってほしいものだね)

 (そうそう。君がそうである以上、バイクとしては君に席を乗せることを許すことが出来ない)

 (そこでだ曹長君。君にぜひやってほしいことがあるのだけどね・・・)



 なんだかんだとバイクに言われながら、宗一は買いものに出かけざるを得なくなったのである。今日は日曜日なので学校は休みだし、軍規にのっとって今日の護衛は休むようにいわれたので別段問題はない。

 「・・・とはいえな」

 あのバイクたち、なんだかんだ言いながら自分をていのよいパシリにしているだけじゃないのか、とも思ってしまう。確かにリアロエクスレーター3号機が没収されたのは自分のせいだが、それを「バイクに対する扱いのひどさ」という問題までに発展させられ、下手したら軍法会議に告発させる!とまで言いよってくるのだから・・・たまったもんじゃない。

 「・・・」

 そう思いつつも人気のない路地にまがろうとしたその時、



 「きゃああああああああ!!」

 女性の悲鳴。さらに、

 「ぐわおおおおおおう!」

 ばぎょ!めりょめりょめりょめりょ!

 ごきんっ!

 ばぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!

 ばごんっ!

 「・・・・」

 それは怪人が、人間を自分の手ごまにしている光景だった。頭にロボットが取りついて頭蓋骨に穴を開け、そこから電極を刺しこんで支配するというやり方、紛れもないネオプラントのやり口だ。

 「あ・・・あ・・・あ・・・」

 だが女性は力なく倒れ、そのままたちあがることはなかった。どうやら失敗したらしい。何しろ上記のように乱暴なやり方で人間をコントロールするのだ。死んだっておかしくはないが、奴らからしてみれば人間などはいて捨てるような感覚なので次の人間が狙われるのは容易に想像がつく。それにこんなところで遭遇して逃げるわけには行かない。いつもいつも後手に回っていたが、今回は奴らが数を増やす前に一気に叩くことが出来るチャンスなのだ。

 「アプリケーションライダー起動!モードツェータ!」

 <イエス、システム起動。四次元コンテナ開放・・・・>

 瞬く間にベルトから光が走り、浅岡宗一は仮面ライダーζに変身する。

 じゃきっ!

 すばやくコンテナからショットガンをとりだし構える。

 「ぐわぉう!?」

 大声を出したので怪人はこちらの方にやってきたが、まがり角の死角から変身したのでまだこちらの正体を見ていない。

 なので、

 がきんっ!

 出会い頭に怪人の頭に銃口を突きつけた。

 「ぐわ!?」

 「・・・・・南無三」

 どがぉんっ!

 猛烈な爆音と共に密着距離からの一撃が、怪人に放たれた。アルマジロ型怪人でない限り、この一撃を受けきることは絶対に不可能だ。

 だが・・・

 「ぐ・・・ぎ・・・・!?」

 「なに!?」

 怪人は耐えたのだ。頭の半分がめり込んでいてダメージはあったのだが、それでもまだ生きている。初速度マッハ139及び弾薬の重量は1kgあるこのショットガンの一撃を、アルマジロ型怪人以外に耐えられる存在がいるとは・・・!?

 <マシンナリーアナライズ完了。敵はタイプγ。生態兵器NO.61、カブトムシ型生体兵器後期型と判明しました。アルマジロ型怪人に次ぐ防御力と、最大3万馬力の怪力を有する強力な敵です。質量は推定550kg、武器は頭部の角による大口径のキャノンを主武装としています>

 「!」

 その言を受けたツェータは、さっそうと怪人から距離をとった。さすがの怪人も密着状態から撃たれたのでかなりひるんでいたのだが、それでもいつか復活するのは明白だ。

 じゃこんっ!

 先月から支給された貫通弾を装てんするζ。アルマジロ型怪人の装甲であっても貫くことが出来る、特殊弾だ。

 「銃を使ってはならない!」

 どこからか声がした。

 「・・・・・!?」

 ツェータが見たのは、戦士だった。

 「君の戦いは乱暴すぎる!その銃が外れたら付近に被害が出ることを考えないのか!」

 青緑色のヘルメットに、昆虫を連想させる赤い大きな瞳、全身は黒いスーツでまとっているが、白いロングブーツと手袋をしており、また体には緑色の筋肉を連想させる装甲板らしきものが胸や腹部を守るように取り付けられている。何よりも際立つのが下腹部にあるベルトで、赤い風車のようなオブジェが休むことを知らずに延々と回転を起こしている。首には真っ赤なマフラーをなびかせているのだが、それ以外の特徴はなんら見当たらないが、まったく持って無駄のない、実にシンプルな姿である。

 「ぐがあああああ!!」

 体勢をたてなおしたカブトムシ型怪人が強烈な圧力をかけてきた

 「離れろ!そいつはお前の手に負える相手では・・・」

 「ライダーパワー!」

 彼がそう叫瞬間び、空いている左手でベルトをいじると、ベルトの風車がものすごい勢いで回転を起こした。

 「ぎぎぎ!?」

 「おおおおお!」

 さっきまで完全に劣勢だった状況が一変、カブトムシ型怪人はその強烈なパワーが圧倒されていく。

 ばきんっ!

 「ぎゃあああああああ!!」

 鈍い音とともに、怪人が悲鳴を上げる。ライダーの強烈なパワーの前に怪人の左腕が折れたのだ。

 「いまだ!」

 これを狙ったかのごとく、ライダーが怪人を抱えて跳躍する。

 「!?」

 「ライダー・・・返し!」

 どがあああん!

 空中で背負い投げの要領でライダーが怪人を地面めがけて投げ飛ばし、たたきつけた。もともと500kgはある怪人の肉体だ、下手にたたきつけたら周囲に与える被害が深刻だが、彼はそのことも計算してか、人気のない河川敷に投げ飛ばしたのである。

 「いまだ!」

 ぶっちゃけありえない、な空中投げ飛ばしをしたライダーは、続いて左足を構えた。

 「ライダー・・・・キック!」

 怪人めがけてライダーが強襲し、痛烈なまでの一撃がカブトムシ型怪人の腹部に炸裂。強靭な装甲を誇ったカブトムシ型怪人は、瞬く間に悲鳴と亀裂音とともに全身が壊れていき、やがて爆発を起こし、木端微塵となったのだった。



 「・・・・・」

 ツェータこと宗一は圧倒された。

 ああもあっさりと自分たちの時代の怪人を駆逐する彼はいったい何者なのだろうか、と興味を持たざるを得なくなったのだ。

 「奴は何者なんだ」

 すでに変身を終えたツェータは彼の正体を知るべく、怪人の亡骸の場所となった河川敷へと向かった。



 河川敷は草むらが怪人が食らった衝撃でクレーターでやきこげていたが、それ以外はなんともない光景であった。

 「いない・・・」

 だがそこにいたのは50代の男ただ一人しかいなかった。屈強な筋肉と身体を有しており、とても50台とは思えぬ、すばらしい威厳と雰囲気を備えていた。

 「・・・君は誰かな?」

 男が尋ねてきた。

 「ここに仮面の男がいたはずだ。知らないか?」

 宗一は何か見透かされているような感覚を覚えたが、男はそっけなく答えた。

 「いや知らないな。」

 「そんなはずはない。つい5分前までここで爆発があったはずだ。」

 「知らないといったら知らないな。」

 「答えろ」

 いつの間にか宗一の手にはアームド・パワーガンが握られていた。軽装甲の怪人用に作られたこの銃を生身の人間に撃てば一撃で腕や体が吹き飛び、ショック死させることも造作ではない銃だ。

 「おやおや。いまどきの高校生はそんなものを持っているのか。」

 だが男は銃にひるむようなそぶりすら見せなかった。

 「事態が事態だ。お前は何かを隠している。」

 「人は誰でも隠し事をしているものさ。別にそれはおかしくはない」

 「だが奴は俺の敵だ。その敵を誰かが討ち取ったのは正直気に食わないし、真相を明らかにしたい。」

 「だからといって銃を人に向けるのは礼儀ではないな。それよりどうかな、こんな炎天下で話をしても日射病になるだけだ、ここで話すよりも・・・」

 「いい加減にしろ!」

 どがぉん!

 宗一は発砲したが、そこに男の姿はなかった。











ζライダー
MISSION JULY:アルバイト


西暦2312年6月20日午後1時00分
エカデリンブルグ要塞仮設司令部




 「・・・ミューラー閣下、それは本当ですか?」

 「ああ、今回の攻撃は政府の指示を無視した形だからな。早く帰って弁明をしなければならない。」

 遠征部隊総司令官のミューラーの言は重かった。

 「なにも閣下御自身が行かなくても・・・」

 「いや行かなければならない。命令無視で突撃をしたという事実が政治屋どもの攻撃材料になるし、大統領閣下が苦労することになる。今回はうまく要塞が落とせたからいい、だが失敗して大損害を被ればどうなる?政権が危うくなるのだ。実際問題13師団と11師団は壊滅的打撃を被っているし、各師団も相応の損害を受けている。」

 ミューラーは従者に命じて資料を出させた。

 第1ライダー師団:死者1233名 負傷者2455名
 第2ライダー師団:死者981名  負傷者7651名
 第6ライダー師団:死者2109名 負傷者3946名
 第7ライダー師団:死者3113名 負傷者12339名
 第8ライダー師団:死者0名    負傷者0名
 第9ライダー師団:死者833名  負傷者2291名
 第10ライダー師団:死者3905名 負傷者8845名
 第11ライダー師団:死者15943名 負傷者4316名
 第12ライダー師団:死者493名 負傷者1004名
 第14ライダー師団:死者1023名 負傷者4522名

 参加兵力:176915名
 戦死者数:29633名
 負傷者(戦闘不能者)数:47369名
 残兵力:99913名

 かなりの損害だ。一同はようやく事の重大さを理解した。

 「特に11師団の被害は深刻だ。13師団も壊滅的打撃を被ったがそれ並みの被害だし、何より司令官が負傷したのは大きい。」

 「・・・・ここまでひどければ、次からの作戦は空軍と海軍に一任されるな。」

 「全体的に見ればデビルライダーの存在を察知できなかった情報部の責任もあるが、実際戦っているのは我々だ。司令官が負傷したのは指揮がまずかった証拠だ、とか何とか言われてみろ、メリー大将はこれ以上ない屈辱を受けることになるし陸軍の失墜にもなる。ゆえにミューラー大将が出向き、小官がここの暫定司令官となるわけだが・・・異論はないか」

 「・・・・・」

 一同は無言だ。無言は承認を意味する。

 「結構、だがミューラー元帥一人だけを行かせるのは心もとない。そこで貴官らのうち誰か一人同行を願いたいのだが・・・」

 「自分に行かせてください。」

 第10ライダー師団長トーマスが名乗り出た。

 「・・・理由を聞こう。」

 「自分は11師団がいかなる状況下にあり、どういう相手と戦ったかを一番よく知っている、いわば証人です。」

 「・・・貴官は確か自ら突撃してデビルライダーを食い止めたというそうだな。」

 「はっ、恐縮です。我ながら短慮すぎる行動だと恥じています。」

 「かもしれんな。司令官みずから突撃をするのは本来ありえんことだ・・・が、貴官はあの場にいたうえに己の命をかけて11師団を救った生き証人でもあるし、デビルライダーの行動をもっともよく見ている将軍だ。もし貴官が英断を下さなかったら11師団は全滅し、メリー大将の首はデビルライダーどもにはねられていた可能性は十分にあった。ゆえに貴官は十分な証人として通用するな。」

 「異論なし」
 「異論ありません」
 「自分もそう思います。」
 「同感です。」
 「トーマス大将以外に人選なし!」

 一同は納得した。トーマスが突撃してデビルライダーを撤退に追い込んだからこそ、11師団が救われたものなのだ。

 「閣下、ところでそのメアリー大将の容態はどうなのでしょうか。」

 第6師団の橋本大将がたずねてきた。

 「思った以上に良くないそうだ。砲撃の直撃を受けてバイクから転倒、下敷きになった形で腕と足を骨折したのは周知の通り。だが検査でライダースーツの冷却材が筋肉にしみこんだせいで容態が悪化、今は危篤状態だ。一刻も早く本国に返して治療させなければ女体の腕と足をこの場で切断せざるを得なくなる。」

 だんっ!

 「・・・・・そんな危険な状態ならばこんな会議など無意味だ!直ちに本国に帰して治療を受けさせなければ我々は同胞を見殺しにしたと後世に批判を受ける結果になるぞ!」

 第7ライダー師団長のケビン大将は机を叩きながら荒げる。

 「・・・もう少し冷静になっていただきたい、ケビン大将。我々は軍隊だ。軍隊である以上犠牲者や負傷者が出るのは覚悟の上。確かにケビン大将の言は私も同意できる、だがそのような私的な理由で返させるとなると一般兵たちを不安がらせる結果になりかねないからこそ、両元帥閣下は法的裏づけの取れる行動を目指しているのだ。貴官の上官が負傷したからといって何の前触れもなくいなくなったら・・・貴官はどうする?事の真相を調べるために他師団の兵士に迷惑をかけたり、不安になって統率が取れなくなった兵士達が暴動を起こしかねんのだ。そのことを視野に入れて発言を気をつけてほしい。」

 「・・・・・」

 第8師団のアルバート大将の言を受け、ケビンは己の短慮さを恥じた。決して怒鳴り声ではないし、怒気はみじんもこもっていない。だがケビンより30歳以上も年上でかつ、彼が生まれる前から戦場で戦ってきた老将だからこそ、短気なケビンの刃を収めることが出来たのである。もしこれがトーマスなどの若手や同年代の将軍だったら「何を言う!」となり、かえって事態を荒げていたかもしれない。

 「・・・アルバート大将、残った11師団の統率をお願いいたします。貴官の人徳と統率力ならば兵達も納得するでしょう」

 「承知しました元帥閣下。」

 「それと死者の埋葬及び負傷者の治療は6師団の橋本大将、補給路の確保はホーカー大将、残敵相当はケビン大将とアンドー大将、残った師団は要塞の復旧と橋頭堡建設作業だ。異論はないか?」

 「ありません、サー!」

 「結構。では明日より私はトーマス大将とメアリー大将を連れて首都に帰還する、それまで貴官らはジェッカー元帥の指示に従うように、以上。解散!」





同日午後4時未明
野戦病院 上級士官専用室


 「失礼します」

 「・・・トーマス大将か。」

 不機嫌そうに答えたメアリー大将は、左腕と左足を固定された状態で、かつ頭に包帯が巻かれていた。

 「容態はどうですか。」

 「そんなかしこまった言い方は止めてくれ。私とお前は同階級なんだぞ・・・変な気分になる」

 メアリー=フォン=ヒルダ大将。元々は貴族だったのだがみずから貴族階級に嫌気が差し軍隊に入った経緯を持つ「貴族将校」である。男性社会の軍隊において彼女は女性ながら大将という階級を手にし、数々の戦いを潜り抜けてきた、35歳の女性将軍だ。

 「・・・そう無理しても困りますよ。強がってばかりですと治る怪我も治りません」

 「かもな。貴官が最年少がゆえに私やケビンごときの下種な奴らでも敬語を使わなければならないからな。あの時私が死んでいれば、貴官が敬語で困る相手はケビンただ一人だ。馬鹿は二人いる今でもたいそう困っているだろう」

 「・・・・・」

 メアリー大将とはこういう人間なのだった。とにかく皮肉屋、下士官時代から相当のセクハラを受けて出世したために極度の男性不信かつ協調性のない人柄になっているのだ。だがその指揮能力は間違いなく一流であるのは誰もが認め不満や疑問を持つことがなかったのだが、今回の失敗は彼女のそれまでのプライドと誇りとブランドを著しく傷つけていたのであった。

 「・・・」

 ゆえにトーマスは彼女が皮肉を言っても文句は言うことは一切なかった。

 「貴官がここに来たということは私を口説きに来たわけではないだろう。」

 「ええ、先ほどの会議の結果、ミューラー元帥と閣下と私の3名は首都に戻ることになりました。名目上は軍法違反および受けた被害の報告及びそれに対する弁明ですが・・・元帥閣下と私が閣下の代わりにその軍法会議に出頭することになりました。」

 「ばかげている!」

 メアリーは怒った。

 「トーマス、貴様私を誰だと思っている!私はメアリー=フォン=ヒルダ、ライダー師団の11師団を率いる師団長だ!貴様の言い方だとあたかも私が失策をして全滅寸前に追い込まれた責任でミューラー閣下と貴様が責任を取るといっているようなものではないか!」

 「・・・!」

 「私を侮蔑する気かトーマス!私は武人だ、兵士達は私を信頼して私に命を預けている、死んだ兵士の責任は私の責任だ!本当ならばこんな怪我など後回しにして軍法会議に出頭してやりたいものを貴様は・・・私を生きて汚辱に耐えさせるつもりか!死んだ兵士達の責任を負わせないつもりか!!!」

 ばしゃっ!

 トーマスの顔めがけて、コップの水がかけられた。彼はあえてその水を拭くようなことしなかった。

 「ええい!これでは私が負傷して治療するために本国に戻るものじゃないか!情けない!」

 あたかも自分の責任を他の師団長に押し付け、自分はそれを尻目に治療する・・・武人として生きる彼女にとっては、これ以上ない屈辱なのだった。過去のライダー達を統率する師団長は死んだ責任を兵士達の猪突を理由にしている、責任転嫁な行為が公然と行われていたのだ。自分の無能な指揮のせいで兵達が死んでいくのに、ライダー達の働きがまずいだとか、命令違反しただとかとかで、負けた原因を押し付けていたのだ。

 これが真崎がクーデターを起こした理由である。素手で戦わせるのも困りものだが、それ以上に司令官がこんなモラルと能力が低ければ勝てる戦いも勝てなくなるからだ。ライダー達もこんな指揮官の下で戦ったらやる気も失くし、軍隊として成り立たなくなる。唯一成り立っていたのは旧体制の最高指揮官であるアルバート元帥(現第8ライダー師団大将)と、巧みな速攻戦術でうまくコントロールしていたハロルド(現第13ライダー師団大将)ぐらいだ。

 とはいえまともに動かせる将軍がたった二人だけではどうしようもない。だからこそ真崎のクーデターはあっさりと成功したし、すがる者も頼れる者も皆無だったライダー達は、その卓越した指導力を誇る真崎の元に集まったのである。反対する者がアルバートとハロルドぐらい、それも建前だけだったので反乱因子たる二人の将軍は負けたのである。そんなわけで負けた原因を他者に押し付けるという思想は恥、という考えは忌むべきものなのである。

 「それは違うと自分は思います。」

 「なぜだ!」

 「・・・今閣下はすぐに本国に戻って治療しなければ命が危うい状態です。このまま閣下が亡くなれば責任を取る者がいなくなります。」

 「・・・」

 トーマスは、今自分が言っていることの愚かさと卑劣さを十分理解していた。処刑を受けるために生きろと言っているのだ。だがこうやって論理的に追い詰めなければ武人たるメアリーを納得させられないのだ。

 「閣下がその体を治さなければ、その責任は閣下の言うとおり、ミューラー元帥や私にかかることになります。閣下がもし御自分の責任を自分で取るというのならば、自分の体を治してからでも遅くはありません。」

 「・・・・・」

 しばらく間をおいて、メアリーは言った。

 「すまない・・・私が短慮過ぎた。それに怒りに身を任せて水をかけたりして申し訳ない」

 「お気になさらずに、今は体を治すことに専念してください」

 そう言ってトーマスは、部屋から出ていった。



 「よお若造。うまいな」

 部屋の外には第7ライダー師団のケビン大将がいた。なぜかその手には花束が握られている。

 「辛いことをおっしゃらないでください。」

 「ははは。まあそんなことを言うな。だがお前でなければあのじゃじゃ馬娘を納得させられなかったさ。俺がもしあの場にいたら怪我している女にむかって取っ組み合いの大喧嘩に発展していたかもしれん」

 自分の性格をよく把握しているようだ、とトーマスは思った。

 「それはいいとして、ケビン閣下はなぜそのようなものをお持ちです?」

 花束が気になっての発言だった。

 「あ、ああこれか?これはだ、巡回中の俺の部隊が山のふもとで偶然見つけたということだから俺に届けてくれたものだ。だが俺は花がわからんから・・・その・・・御婦人たるメアリー大将に・・・」

 ケビンは赤くなりながら、ついに憤慨した。

 「ええいだまれ!俺に変なことを言わせるな!貴様俺が未亡人のメアリー大将を口説こうというのか!?」

 「何も言ってませんが・・・ケビン閣下も見舞いに来たのでしたらその花をはやくお渡しになれば・・・」

 「うるせえ!てめえ自分が既婚で俺が未婚だからって皮肉言いやがって・・・!とっとと自分の部隊に帰りやがれっ!」

 怒りながらケビンをトーマスを追い回したのだった。





















西暦2004年7月17日午後8時半
東京都豊島区かもめ台 セーフハウス地下駐車場


 <う〜ん・・・・・ここっ!>

 ばちんっ!

 <なるほどね・・・そこをついてきたか・・・う〜ん・・・・・>

 ばちんっ!

 <ええい!そこをやってくるとは・・・!>

 ばちん!

 <そこにきたということは・・・次の一手は恐らくあそこに来るだろうから・・・いやちょっと無理があるかも・・・>

 <ほらいそいでよ、あと1分!>

 ばちんっ!

 <いやなところを打ってきたなぁ・・・・・ええと・・・・・>

 <残り1分よ>

 ばちんっ!

 ばちんっ!

 ばちんっ!

 ばちんっ!

 ばちんっ!

 ばちんっ!

 ばちんっ!


 <ああ?飛車とられたぁ!かくなる上は歩兵を投入する!>

 ばちんっ!

 <ああー!なんてことよ!銀が・・・!>

 <へっへーん、飛車取った罰だぃ!>

 「・・・あんたたち、なにやってんの?」

 トレーニングを終え、トマホークを置きにやってきたメイリンは、バイクたちの不可解な行動を眼にした。立方体の木の上に五角形の小さい木たくさんが乗っている。それには「歩」だとか「桂馬」だとかが書かれており、無秩序にかつ法則性がないように乱雑、というべきだろう。そんな風にます目に置かれていた。

 <あ、これですか?将棋です!>

 「将棋・・・?」

 <日本で発達したチェスゲームです。出世で能力が向上したり、捕らえた敵の捕虜を戦力として使えたりするなんて、結構戦略的によく出来たゲームだよなぁ>

 <でもこれって捕虜虐待の思想じゃないかしら。捕まえた兵士を使うなんてひどいと思う>

 <なに言ってるんだ!昔に楠木正茂という将軍がいてね!その人が川で溺れた敵の将兵を救出したんだ!その捕虜は彼の人道主義に感動して彼の下で戦うようになったんだぞ!>

 <じゃあつまりは駒は生きているって発想なの?敵陣に進んで出世したり、実際は殺しているのではなくて捕らえているとかという発想?>

 <そうさ!捕らえた駒は兵士として扱うんじゃなくて、捕らえたときの身分で戦わせるんだ!まさに能力重視の考えだね!だから捕まえた飛車は飛車で使えるし、金は金の移動手段でつかえるんだ!それを言ったらチェスなんて将棋よりひどいぞ!ピンチになった王様が時として女王を盾にして自分だけ逃げおおせるなんてことがあるんだぞ!捕らえた兵士は生かさずに殺したままだし、はっきり言ってそっちのほうがひどいと思わないかね2号機?>

 <女を盾にする発想か・・・いやな考えねぇ・・・>

 <テーブルゲームで取った駒をもう一度使えるのは世界中捜しても将棋だけだぞ!まったく、なんでチェスが生き残っていてこんな面白いゲームが24世紀にはないんだろうねぇ・・・>

 「てかその板とか駒とかはどうしたの・・・!?」

 忘れ去られかけたメイリンが怒気を込めて問うた。

 <板といっては困ります少尉!これは将棋盤と言いまして・・・!>

 「うるさい!てかあんたたち、これをどうしてここにあるの!」

 <・・・・・>

 <・・・バイクの人権を行使して黙秘権を発動します>

 がごんっ!

 片付けるはずのトマホークの柄の部分で、メイリンは自分のバイクを殴りつけた。

 <なにすんですかぁ!捕虜虐待!戦時法違反!虐待反対!暴力反対反対!>

 「いいなさい!あんたこれをどこで買ったの!それにこのお金はどこから出したのよ!」

 <だからこれは・・・買ったんですって。>

 「ほぉ?、あんたたちバイクがあたしたちの知らない間に、そんないでたちで商店街やデパートに出向いて!?そんなごっつい重量(1tオーバー)でエレベーターに乗って!?そんなごっつい体型でエスカレーターに乗って!?この時代のレジは有人レジだから、さぞかしパートのおばさんの肝っ玉は据わっているんでしょうねぇ。人が乗っていないバイクが勝手に喋って動いて将棋盤とやらを買うなんて・・・世紀の大事件ねぇ・・・」

 この時代のバイクは、まだ自力で動くことなど、できない、らしい。近年になって自立行動を行えるようにコンピューターを積んだバイクがアメリカにあったが、テスト走行時に芝生でのデータを取ったために固い地盤の上での運用を想定しておらず、実際のコンテストのコンクリート上では見事にすっ転び、壊れてしまったことがある。リアロエクスレーターたちが自力で動けるのは、数々の技術的困難や、それまでの戦争で苦労された不整地帯にて、現場から算出された決め細やかなデータが基礎とした研究がバイクの技術として還元されたからである。

 <ううう・・・>

 「ほれ、まだ詭弁を言うか?嘘は嘘を生むものよ」

 300年経った技術であろうとも、所詮AIなどこの程度だった。機械が人間に勝てない理由は、機械は事象を一つ一つ計算しているからである。近年チェスのプレーヤーがコンピューターに負けたというのは有名な出来事であるが、あれはチェスの研究を徹底した結果である。チェスは全部で64面のマス目が存在し、ミニマックス法やアルファベータ法という特殊な計算で有利と思われる手段を選択して進めているだけである。人間も脳に限界があるし、失敗もするのでそういったところにつけこんでコンピューターは勝ってしまうのである。

 一方将棋のほうとなると、この計算がすさまじいことになる。チェスが64面であるのに対して、将棋は81面と一気に増え、しかも将棋はテーブルゲームで唯一持ち駒制度があるゲームである。自分が手にした駒を使うことができるだけでなく、しかもある一定以上のラインを超えれば、自分の意思で自由に駒を変えることができる。こうなると計算は単純なオセロやチェスよりすさまじいこととなり、次の一手を行う際の分岐がとてつもない数となるのである。

 人間のアナロジー的な脳は、プロになればこの将棋を20手以上先を読むことができるようになる。コンピューターは不要な一手まで計算してしまうのに対して、人間の場合は最初から不要な一手を計算の内には入れないのだ。すなわち、コンピューターより柔軟性が効くという事である。

 <曹長・・・>

 <そう!浅岡曹長を脅迫・・・・・いやいや、説得して買わせました。3号機の扱いが悪いのは僕らを軽んじているのだ!バイクはライダーのパートナーであり、奴隷ではない!しかし浅岡曹長はその基本的な理念すら忘れ、バイクを自分の奴隷だという認識でしか見ていない!だから僕らは彼にそのことを分からせるためにまず自分が使役されるバイクの立場になってみろと言わせて買わせることの何が悪いか少尉殿!バイクがなければライダーはライダーじゃないというのに彼はそのことすらも忘れている青二才だ!だいたいこの小説のタイトルが『ツェータライダー』というのも・・・>

 がごんっ!

 「逆ギレするな!」

 だが人間が、機械帝国ネオプラントに負けたのは、人間の脳が退化したからだという意見がある。人類史5000年経った今になっても、歴史を紐解けばそのほとんどが争いの歴史だ。猿も縄張り争いをするように、たとえ知能が発達しても人間の精神性は動物とこれっぽちも変わらないのである。むしろ2005年3月5日に核が落ちて自暴自棄になり、人類は明日に絶望するより今生き延びることを優先し、浅岡成美がレジスタンスを立ち上げる西暦2040年にいたるまで、機械帝国ネオプラントに敗北し続けたのである。

 「あんたがやってんのはレジスタンスの公金を私物化していることよ!国家軍隊基本法5章第65条(5章:軍隊における予算の運営 65条:軍部における予算の私物化違反者に対する処遇)を適用して最低懲役15年の刑よ!あんたらが人権があるというんなら、そのいでたちで被告席に立たせてやろうかしら?」

 <僕らは機械です!モノです!ライダーのパートナーであり奴隷です!浅岡曹長の独断です!>

 <・・・プライドないんだから>

 現在、メイリンたちの部隊が持っている公金はおよそ700億円。24世紀に発掘された政治家の家の金庫から見つかった銀行カードの磁器を修復、再現したものであり、その予算はほぼ無限大といっても過言ではない。無論24世紀では無用の長物なのでいくら私用しても全く懐が痛むわけではない。これを手渡した浅岡真崎自身も「ある程度の浪費はとがめない」と言っているので特に問題はないのであった。とはいえ、司令官の許可を得なければ勝手に買っていいわけではないのだ。

 「ともかく!あたしや中佐に耳を通さない限り、今後そういった嗜好品は買わないこと!わかった!?」

 <嗜好品だなんてとんでもない!これはれっきとした教養のための道具であります!古来日本人も民間レベルで将棋をたしなみ、ぼくらには絶対持つこと出来ないアナロジー思考を培う・・・>

 がごんっ!

 「麻薬常習犯や禁酒禁煙守れないやつのような言い訳を言うな!」

 <・・・・・ああ神よ、僕らはなんて不幸なバイクなんだ。主人には殴られ、仲間は見捨てられ、将棋を打つことも許されない。戦いとなると主人より前にたって手に持つ火器で戦わされる・・・こんなに不幸なことがあるのだろうか>

 <見捨てられるといえば、そういえば・・・3号機って今なにやっているのかしらね・・・>

 「しらん。案外学校の地下で怪談騒動でも起こしてんじゃないの」

 そういい残してメイリンは武器庫に去っていった。





同日午後10時00分
私立所縁が丘高等学校 地下バイク保管所



 「こんばんはー、交代の時間です」

 「あ、どうも・・・見かけない顔だけど、新人さん?」

 若い警備員が、守衛室に入ってきた。年配の警備員はそれが新人であることを一瞬にして確信した。

 「え・・・ええそうですが。」

 「・・・はぁ。これで25人目か。」

 意味の深そうな言葉を漏らしたので、若い警備員は聞いてみた。

 「あ、あの?なんなんです25人目って?」

 「あ、いやこっちの話。ローテーションの話・・・時間とかやり方はわかっているね」

 「はい、研修で学んだのでばっちり大丈夫です。」

 「ならけっこう。朝6時までだから、それまで気楽にやってね。」

 「は、はぁ・・・」

 老警備員は守衛室を出る間際、若者を見ないでこういい残した。

 「それと、間違ってもここで見たことは他言無用だからね。怪談騒ぎになったらうちの警備会社の評判がた落ちだから」

 「?」



翌日午前3時00分

 「ふぅ・・・」

 一体なんの話だったのだろうか。「他言無用」とか「25人目」とか。

 トイレから帰ってきた新米警備員(23)は、先ほどの主任の発言が引っかかっていた。

 そういえばさっき「怪談騒ぎ」だとかいってたが、何のことなのだろうか。ここは警備室以外は無人だし、唯一の出入り口はシャッターがしまっているので入れないようになっているし、監視カメラも死角はない。

 「お、時間だな」

 一時間おきの見回りだ。さっそく警備室から外に出て見回りをしなければならない。警備員はライトと警棒を携えて守衛室から出ていった。



 「・・・それにしたってすげえ量のバイクだよなぁ」

 バイク。

 バイクバイク。

 バイクバイクバイク。

 バイクバイクバイクバイクバイク。

 あたり一面はバイクの山。ここは体育館ぐらいの広さはあるが、その面積にしき詰めたバイクはおよそ200はあるだろうか。地下2階構造になっているので2倍となるから、大体400台。この学校の生徒数は一クラス40人でそれが15クラス、さらに3学年分いるので40×15×3=1800人だ。私立高校で、かつ進学校でもあるし、大学からの評価も高い高校なので生徒数はかなり多いのだ。

 その割合でここにある没収したバイクからして、この学校の生徒は4人に1人はバイクを所持している計算になる。うまく目を盗んでいる生徒もいるだろうし、スクーターで登校している生徒もいるし、それを考慮すればもっといるだろう。

 「・・・」

 こうしてみると色々なバイクが色とりどりだ。ステッカーを大量に貼ったバイク、メチャメチャな色に染めた派手なバイク、テレビのCMに出ているスクーターに、使いふるされたスクーター、暴走族のでっかいバイクに、やはり暴走族っぽいいろいろなものがゴチャゴチャついたバイク、スポーツに使いそうなバイクに、モトクロッサー型のバイク、後ろが妙につめこんでいて白い改造ハーレー・・・

 チッカ、

 「・・・え?」

 今バイクが光った。誰かいるのだろうか。

 「誰だ!?誰かいるのか!?」

 すぐさま腰の警棒を手に当てて構える。すると不気味な声が返ってきた。

 <ふぉっふぉっふぉっふぉ・・・・>

 「そこから動くな!」

 相手の素性がわからない以上、電話して本社に電話するわけにはいかない。じりじりと声の元に近づいていくとーーーー

 <そこを動くな若造め>

 「!?」

 <貴様で15人目だ。私の姿に疑いをかける愚かな人間は>

 「馬鹿なこと言っていないで早く出てきなさい!」

 <よかろう、そなたの前に出てきてやろう>

 ぶるぉん!ぶるぉん!

 「バイクから降りなさい!」

 没収したバイク一台一台には、バーナーでも焼き切るのが難しいチェーンがつけられている。このチェーンをはずすには、校舎にある専用の鍵が必要であり、この警備室にはないのだ。にもかかわらずアクセルを吹かしているということは、間違いなく忍び込んで鍵を盗んだに違いない。

 <変なことを言っては困る。私自身が来てやろうといっているのだ。>

 「!?」

 ぶちん!

 金属が切れる鈍い音がした。

 ぶるおおおおおおおおおおおおん!!!

 「!!!!!」

 ば、ばいくが・・・

 ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!

 「勝手に動いている!」

 ぶるおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 ぶおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 ぶうううううううううううううううううううううううううううん!!

 ぶるおおおおおおん!!

 まるで何かにのっとられている、そう表現するのが適当であるかのごとくに無人の超大型改造ハーレーがバイク保管所の通路を暴れるかのごとくに走り回っていた。狭い通路なのに神業ともいえるレベルで見事にドリフトしたり、ジャンプをして着地したり、ウィリー走行までしている・・・

 「あ、あわわわわ・・・」

 <ふははははは!>

 ぶるぉん!ぶるぉん!ぶるぉん!

 びーびーびーびいいいぃぃぃぃぃぃ!

 ぱらりらぱらりらぱらりらぱらりら!!!!

 ぶおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 けたたましい騒音を鳴らすだけ鳴らし終え、バイクは警備員の前に立った。

 <よくもわが眠りを妨げてくれたな。私はかつて20数年ほど前の学園抗争時代で死んだここの生徒だ。理不尽な理由でバイクを取られ、仲間を引きつれてバイクの奪還をしようとしたら、貴様らの仲間によってリンチにされて殴り殺されたのだ・・・・・肉体を失って魂となった今、このようにしてわが無念を晴らさんとしようと、お前みたいな小僧にわが存在を知らしめてやっているのだ。>

 ぶおおおおおおおおおおんん!

 不気味な声で白い改造ハーレーはそういいながら、アクセルを吹かして恫喝する。警備員はすっかり震えあがり、さっきトイレに行ってきたはずなのにみっともなくお漏らしをしてしまっている。

 <さあ覚悟しろ!わが呪いを受けよ!>

 「ひ、ひええええええええええええ!!!!」

 警備員は、情けない声を出してその場から逃げていった。

 <ふははははは!情けないやつだ!>



 そう轟くバイクだったが、その後に訪れる静寂。無音が空間を包み込んだ。

 <・・・・・むなしい、君もそう思わないか>

 ちらり、とその場にあった暴走族のバイクを見るが、返答は帰ってこなかった。

 この時代のバイクはしゃべれないのだ。

 <・・・・・はぁ、誰も私を相手にしてくれない。しゃべる相手もいない。からかう相手もいないし、からかってやってもすぐにいなくなる。わが騎手もいない。1号機と2号機とも4月以来ずっと会っていない。通信しようにも地下だから電波が通じないし、外は一体どうなっているのかもわからない。わが騎手は無事なのだろうか。銃器の試し撃ちができないから弾づまりおこしそうで心配だ。4ヶ月たった今になっても出てこれる機会はない。勝手に出たら怪しまれてわが騎手の素性と立場が危うくなる・・・・・。>

 ぶつぶつと独り言を始めるバイク。彼は4月7日以来、とある一件が原因でずうっとここにいるのだ。時折りこうやって警備員をからかって憂さ晴らしをしているのだが・・・その後に訪れるむなしさが、バイクを悲観させた。

 <一体、いつになったらここから出られるのだろう・・・・・>

 それは1学期が終わる7月18日からである。








西暦2004年7月18日午後13時50分(放課後)
私立所縁が丘高等学校 2年B組

 「かっ・・・」

 そのとき、成美の人生歴史にはまたしても黒く塗りつぶしたい事実が刻まれた。

現代文 19/100
数学 13/100
生物 9/100
現代史 11/100
英語U 35/100
保体 95/100
芸術 30/100
音楽 30/100


 「・・・・・ナルちゃん勉強した?」

 「したよぅ・・・・・でもぜんぜん分からなくて・・・」

 「このままじゃ留年だよ・・・どうするの?」

 この学校にも留年は存在する。単位を落とした者に与えられる称号であり、不名誉な称号でもある。

 「・・・・・」

 「ナルちゃんってあたしたちより1歳年上だよね。へたしたら2年留年に・・・」

 「あたしはりゅうねんじゃなああああああい!」

 強大な罵声と分別される怒鳴り声が、クラス中に響き渡った。一同は声の発生源に目をやったが、すぐに目をそらす。その原因は浅岡成美が凄まじい形相でぜえはあぜえはあと激しい呼吸をしながら、末恐ろしい顔による威圧感が原因であった。

 「ご、ごめんねナルちゃん・・・つい心にもないことを」

 「・・・・・・」

 成美は17歳で、今年で18歳になる。高校2年生なのにもかかわらず18歳、どう考えても一般的に見れば「ダブった」範疇に当てはまるため、そう言われても反論できないのである・・・のだが、これには原因がある。



 それはかつて彼女が中学3年間アメリカにいた際に、祖父と両親がゴタゴタを起こしたためであった。

 彼女の祖父こと浅岡源蔵はれっきとした日本帝国陸軍の将軍で、独自の軍隊格闘術を後世に伝えるために一族に覚えこませようとしたのだが、彼の娘こと成美の母がそれに大反対、日本大使館のエリートとかけおち同然の結婚をしたために、家内の対立が存在していたためであった。その娘の成美は見事にその家庭内乱に巻き込まれた形となり、虚弱体質だった妹のゆり子は格闘術ができないためにすんなり日本に帰国できたものの、アメリカの高校に進学させるつもりだった両親は猛反対。かくして成美は一年間の空白を味わうことになったのだ。

 だががっちりスポーツ系の成美を祖父の源蔵は諦めきれなかった。結局彼は娘に「孫の成美を日本に帰国させればかけおちの件は許してやる」という条件をとりつけることに成功、かくして彼女は日本にやってこれたわけなのだが、そのとき既に彼女は17歳となっており、家族のゴタゴタのせいで心がすさみきり、すっかり不良となったのである。

 そんなわけで日本に転校した際には彼女は人間不信となっていたために暴れん坊将軍だったのだが、格闘術を通じて徐々に感情や力の制御ができるようになり、そして彼女の心境を察することのできる友人ができ始め、今に至るのである。

 そういうわけで、16〜17歳の成美の時代は、触ってほしくない、いわゆる「負の歴史」である。それを連想させる「留年」は、まさに彼女の逆鱗に触れる発言でもあり、転校した当初は年齢のことで馬鹿にしてきた男どもを次々に血祭りにあげ、近隣の高校生から恐れられているゆえんである。「誰かがいじめられるとどことなく自分と重なるように見える」というのは成美の心情らしく、弱いもの虐めを絶対に許さないその精神が、彼女をギリギリ保たせている。

 「・・・・・ほらおちついて。どぉどぉ」

 「・・・・・」

 深呼吸を2,3回

 「・・・・・・ふう」

 やっとこさ成美は、怒りのスーパーモードから元に戻ることができた。彼女が軍隊格闘術の達人であることや家庭の事情は周知に知れ渡っており、決して怒らせてはならないという暗黙のルールが、このクラスには存在している。なので異分子たる存在はこのクラスから危険視されるわけなのだが―――



 「・・・・・」

 「あさ・・・本田君、テストどうだった?」

 「大丈夫だ・・・と言いたかったのだが、なぜか400点だった。」

 「どうして?」

 

現代文 100/100
数学 100/100
生物 100/100
現代史 0/100
英語U 100/100
保体 100/100
芸術 100/100
音楽 100/100

 「・・・・・」

 伊南村は、なぜ宗一が主要5教科が400点であるかを瞬時に理解した。

 否、「なぜ現代史だけが0点であるかを」理解したと解釈した方がいいだろう。

 今までのテストで常に満点を取っていた彼が、なぜか一教科だけゼロ点・・・・・不自然であるのは誰の目から見ても明らかだし、こうなった理由も明らかだ。

 嫌われているのだ、とくに現代史の教師に。

 「・・・・・・」

 「どうした?何かいいにくいことでもあるのか?」

 「そういえば本田君はボールペンしか使わないよね・・・」

 「ああ。シャープペンシルは消せるから、捏造の危険性があるからだ。」

 宗一の筆記用具には、シャープペンシルはあるにはあるが、ほとんど使わない。、マークテストの時などといった、どうしても使わなくてはならない部分にしか使うことはなく、ノートも全てボールペン。これは彼が徹底した軍国主義に染まっているからであり、同時に書類の捏造の危険性を認識しているからであった。

 「きっと現代史の先生は”ボールペンでテストを受けるとはルール違反だ!”って怒ったんだと思うよ」

 「・・・?分からん。注意書きにはボールペンの使用の規定はされていなかったが」

 「はぁ」

 頭をがっくりと下げてしまう伊南村は、どうやったら宗一が五十嵐先生に嫌われているかを教えるか、その術を見出せずに困ってしまった。彼には罪悪感と言う感情は存在するのだが、その反省が正しいかどうかははっきりしない一面がある。なぜ自分が悪いのかと言う原因が分からないのだ。というか自覚できないのだ。きっと現代史の五十嵐先生は6月のトンデモレポート以来、何かとイチャモンつけて宗一に復讐したがっていたのと容易に想像できる。

 「だが困った。これでは俺も補習を受けなければならない」

 「でも現代史だけでしょ?一教科50分なら大丈夫だよ。」

 補習は、一教科がわるければそれにつき50分の補習が当てられる。5つの教科が悪ければ5時限の授業が続く計算になるわけだ。この所縁が丘高等学校には中間テストや期末テストの概念はなく、月々の月末テストで学校の成績が決まるシステムをとっており、赤点を取ったものには、夏休みに一週間の補習があてられてしまう、恐怖のシステムとなっているのだ。

 4回のテスト全てが悪ければ4週間、つまり夏休みのほぼ全てが補習で埋まる結果となり、楽しい楽しい夏休みが補習で潰されてしまう・・・・・この危機的状況が生徒達を発奮させ、私立所縁が丘高等学校は、入学時の成績は悪いが卒業時の成績はきわめて高くなり、ついていけなくなる生徒は自主退学せざるを得なくなり、はねっかえりの不良はここでふるいに落とされることになる。残った不良もある程度頭がいいし、同時に部分別もわきまえる連中のみとなるので、私立所縁が丘高等学校は治安良し、成績良し、生徒良しの3拍子整った、良質な高校なのである。

 「だがこれでは・・・」

 「これでは?」

 「地下格納庫にある俺のリアロエクスレーターの返還がまた遅れる・・・」

 「・・・・・」

 補習が終わらなければ没収されたものは返されない。つまり4月に没収されたリアロエクスレーターや、5月に没収された電聖ベルトも、7月21日から始まる一週間の補習が完了しないまで帰ってこないのだ。

 「それにだ。どうせ3月5日には核が落ちて全てが吹き飛ぶのだ。どうせ留年などしても―――――」

 どがっ!

 「ぎゃんっ!」

 「!!」

 痛烈な膝蹴りが、宗一のこめかみにクリーンヒット、彼はいくつかの机と椅子を巻き添えにしてそのまま教室のドアに叩きつけられる結果となった。

 「あわわわわ・・・・・」

 伊南村が見たのは、鬼と化した浅岡成美の姿であった。素顔は直視できなかったが、目が赤く輝いており、ヤマンバのように赤いオーラを放ちながら、風が吹いてもいないのに髪がユラユラ揺らめいている・・・元々オレンジ色のシャギーなので、そこから更に日焼けサロンに行けば本物のヤマンバになるのだろうが彼女は伊南村が眼中に入っておらず、そのまま宗一の下に駆け寄ってどつきはじめる。

 「何をする成美!」

 「うるさい!あんた人が留年で悩んでいるときに留年と言うんじゃない!!」

 「だがそれは君の不勉強が――――」

 どがばぎゃぐしゃっ!

 「ぎゃふん!」

 「うるさいったらうるさい!3月5日が何よ!あんたはあたしらがどーなろうと知ったことじゃないっての!?」

 「・・・・だがそう言われてもこれからの時代は学歴ではなくサバイバル技術を会得した方がいい・・・核ミサイルの応酬で地表の森林や農作物がほとんど全滅し・・・わずかな食料をめぐって・・・人間同士で激しい争いが・・・だから君のように格闘術に長けたたくましい方が・・・・」

 がんぼぎゃっ!

 「はうっ!」

 すばらしいコンボが炸裂した。

 「いいかげんにしろ!そんなこといっているからブレイブサーガが実現できないのよ!最悪の未来がやってくるからみんな引いちゃうのよ!そこら辺のところをもう少し配慮しないから!この!この!」

 「・・・・・ぴよぴよぴよ」

 宗一の頭の上にヒヨコが回っているが、成美はまったく気がつかない。

 「へんじしろ!こら!」

 既に宗一は気絶していた。3度も人体急所に必殺の一撃が加えられた衝撃は、幾多の戦場を駆け巡った彼ですらも気絶に追い込むのには十分であったのだが、当の成美はまったくそれには気づかず、ひたすら宗一をどつきつづけ、明美やクラスメイト達の必死の制止を受けた5分後、ようやく宗一は解放されたのであった。





 「ぜぇーはぁーぜぇーはぁ・・・!」

 「ほ、ほらおちついて!ね?」

 明海に必死に止められ、成美はやっと平静さを取り戻した。相変わらず宗一は頭の上にヒヨコが飛んでおり、伊南村が必死で介護している。

 「でも・・・」

 「でもって・・・どうしたの雪枝ちゃん。いつものように唐突に現れて」

 「忘れ物があったので戻ってきただけですよ明美さん。それよりも成美さん」

 「はい?」

 「以前6月でテストが悪いと小遣いが減らされると普段から嘆いていましたよね・・・今回の結果からして大丈夫なのでしょうか?」

 そうだった。普段から成績が悪い成美は親・・・もとい祖父から厳しくされているのだ。7月のテストも悪いなら次のテストの成績がよくなるまで小遣いなしだ!と言われていたので必死にがんばったのであったが・・・

 結果は最悪の成績だった。成美の祖父は旧日本軍の軍人なので約束事には極めて厳しい人物であり、小遣いカットは避けられない事態となったのだ。女子高生にとってこれは、まさに経済危機である。

 「ああどうしよう・・・来週からスマートブレインの新型のケータイが発売されるから新機種交代したいし、新しいゲームが出るからあれもほしいし、空手着がボロッてきたから新しいのがほしいし・・・」

 はぁっ、とため息をつく成美。

 「それにしても雪枝ちゃんはいいよねー。国会議員の娘さんだからさぞかしお小遣いもたくさんなんだろうねぇ・・・」

 「そうでもないですよ成美さん。」

 普通だったら嫌そうな顔をするのだが、雪枝にはそういった妬みに対する嫌悪の感情は存在せず、にっこりとしたまま答えた。

 「へ?」

 「いえ・・・先々月からうちのお父様がなにやら必死になっていまして・・・何でも『どこからから口座から金が吸い取られてる!』だとか『社の専務から受け取った政治資金がなぜなくなる!』だとかで色々と資金めぐりに困っていまして・・・・・」

 「それっていわゆる賄賂じゃ・・・」

 「うちのお父様は清廉潔白な人物ですよ」

 さらりと否定した雪枝だったが、彼女の父が資金難に陥っている原因はある。それはそこで倒れている宗一だ。

 否、正確に言えば「宗一たち」である。これはどういうことかというと、『MISSION APRIL』から本小説を熟読している方なら御存知かもしれないが、宗一たちの活動資金源は、24世紀で発掘された「東京安心銀行」のカードである。そのカードはかつて21世紀で猛威を振るったとある政治家の議員であり、彼はその時代であちらこちらの企業から賄賂を行い、暴利をむさぼっていた。

 だがその最中に2005年3月5日、世界中に核が落ちたために彼は死亡したのだが、予備のために取っておいた銀行のカードがひそかに金庫に隠されており、以後300年間、民間の発掘業者が金庫を手にするまで眠っていた。資金難に陥っていたレジスタンスが、ない予算を搾り取ってどうやってデルタチームを21世紀に派遣するかに困っていた。そもそも24世紀の通貨じゃ使えないし、金塊を持っていってもほとんど残っていないし、ドブに捨てるようなものとして反感を買いかねない、古銭マニアから買い付けるにしても集まる予算はたかが知れるし莫大な値で張られてしまうだろう。

 だが時の権力者である浅岡真崎はこの情報を手に入れ、その業者からカードを買い取った。過去の時代のカードを使ってしまえば元手ゼロで護衛作戦が出来る、その術を見つけたのである。過去の時代の資金を使えば当時の予算は使えるし、ハッキングによる危険のリスクもないし、現地調達も楽になる。

 というわけで現在の宗一たちが家を改造したり、買収したり、ライダースーツの部品買い付けや土地の買占めなどを行っているのはすべてこの予算から来ている。だが皮肉にもその資金源の持ち主が、浅岡成美の親友である本間雪枝であったなどとは、当の宗一たちや成美、雪枝には知る由がなかったのであった・・・

 「ま・・・それはいいとして、バイトするっきゃないわよねぇ・・・」

 「ナルちゃん、バイトするの?」

 「銀行強盗しろっていうの?素手で空手で銀行のお姉さんを脅して?」

 「瓦16枚を簡単に叩き割れるナルちゃんならできるかもよ・・・」

 「・・・」

 じょうだんだ、それは分かっている。

 「まあ、今行くならコンビニが妥当かねぇ・・・放課後に出来るアルバイトはそれだけだし・・・」











7月21日午後4時30分
東京都豊島区かもめ台 コンビニエンスストア「6(シックス)イレブン」かもめ台支店


 「・・・以上で315円になります」

 肩まで届くざんばらの髪の無愛想な店員。

 「・・・320円をお受け取りして、こちら5円のお返しとなります。」

 商品を入れるスピードは迅速だったが、それと共に要求される愛想のよさは皆無といってもいい。

 「ありがとうございました・・・」

 客が出て行き、店内に残ったのは二人の店員だけとなった。

 「・・・んで、あんたが何でここにいるかがわからないのよね・・・」

 彼の隣にはオレンジ色のシャギーヘアーの女子高生の店員がいた。見るからにきつい姿だが、制服を着ているので活発な印象は少々薄らいでいる。

 「・・・なぜといわれてもな、君を守るのが俺の任務だからだ」

 「だからといってアルバイトにまでついてこなくていいじゃないのよ!」

 怒鳴る成美。

 あの後、成美はアルバイトを探し、学校から最も近いかもめ台のコンビニエンスストアで採用面接を受けた。店長は最初難色を示していたのだが、成美が空手で全国優勝した経緯と、隣になぜかいた宗一をみて「こういう人がほしかったんだ!そこにいる男もけっこう強そうだし!」と、意味の不可解な言葉と共に採用されたのである。

 「大体あんた、金なんていくらでもあるでしょうに・・・!」

 「そうでもない。この前バイクたちにしつこく言われたから将棋というものを買ってきた」

 「しょうぎ!?」

 「ああ。だが数日後メイリンにこっぴどく怒られてな。軍の予算を私物化した罰として今月の給料はカットされてしまったのだ。だからこうしてバイトをしている」

 「あんたの給料っていくらなのよ・・・」

 「4500万6500クレジット。日本円に直すと45万6500円だ」

 クレジットとは24世紀で使われている通貨だ。存在しないがレートは100クレジット=1円である。

 「うえっ!?」

 信じられなかった。まさかそんなにたくさんのお金を持っているとは・・・

 「だがうち15万円がライダースーツや銃器の修理整備費に当てられ、さらに10万円が弾薬代、さらに2万円が食費で削られ、さらに3万円がセーフハウスの機材の電気代、本当ならさらに10万円がバイクのメンテや弾薬代になるのだが、最近スーツの損害が激しいからそっちに回されている・・・・」

 どうやら事情は似たようなものらしい。宗一は戦闘ではばんばん銃を使っているが、あの中でもたくさんのお金がかかっているのだ。

 「あんたも苦労しているのね・・・」

 「戦争には金がかかるのだ。今の俺の預金には8億クレジット(800万円)しかない。メイリンならすでに士官だから月給が1億クレジット(100万円)だし、彼女の預金はすでに380億クレジット(3億8000万円)はあると酒の席で言っている。彼女は戦いのプロだから俺よりうまく修理費のやりくりをしているのだが・・・いやまて、俺がここにやってくるまでメイリンと同じようにうまくやりくりできたはずだ。それがなぜここ最近になって・・・」

 そんなのろけ話をしているさなか、サングラスの男が店にやってきた。

 「いらっしゃいませー!」

 「・・・」

 「挨拶をする!さっきもいったでしょ!」

 「・・・いらっしゃいませ」

 やや不器用な言い方であった。宗一には接客というものがあまりなっていなさすぎるのだ。

 「マイルド6をひとつ」

 「はいかしこまりました。」

 成美はカウンターの上にあるタバコケースを開けようとしたその時

 がちゃり、

 腹に何か金属が。

 「へ?」

 「うごくんじゃねえ!」

 強盗・・・だ。ちょうどへその辺りに銃口が突きつけられている。いつの間にかほかの客も一緒にこちらをにらみつけている。

 <東京FMニュースです。昨日未明、豊島区のコンビニエンスストアで強盗を繰り返している5人組の強盗グループがまたコンビニに強盗に押入り、店員1人が頭部を銃で撃たれて死亡、もう1人が肩に撃たれて意識不明の重体となる事件が起こりました・・・・・>

 都合よく店内に流れているラジオがニュースを告げ、この男達の正体を暴いた。そういえばニュースでコンビニをねらった強盗が相次いでいるという。5人ほどのグループで人質をとる、そういうやり口だと聞くがまさかここで出くわすとは・・・!

 <店の被害はレジから60万円が奪われ、商品棚から食品、酒、ジュース類をはじめとした店内の商品から全部で60万円相当が奪われ、コンビニATMからは200万円が奪われるという最悪の事態を迎えました。なお、この強盗グループによる被害総額は今月に入ってから2000万円を超え、その残忍な手口から・・・>

 「聞いての通りだ。命が惜しけりゃそのままでいろ・・・変な動きをしやがったら撃つからな。おいそこにお前」

 「・・・」

 「そこにうつぶせになれ、女撃ち殺すぞ!」

 「言うとおりしろ!昨日は店員が柔道だか空手だかやってるっていきがってたからよ、容赦なく撃ち殺してやったからおれたちゃ気が立ってんだ!」

 「その辺にしておけ、俺達だって好き好んで命とっているわけじゃないんだ・・・だがおめえらがその気ならいつでもやるからな」

 ぞくりとする成美。自分も空手をやっているのでこの犯人達に撃ち殺されかねない・・・

 男たちがナイフとロープを取り出す。その時宗一のスイッチが入った。

 <浅岡成美を狙う輩には殺害をしてはいけない。だが相手が武器を所持していた場合は別とする>





 男達はあっという間に宗一と成美を縛り上げて猿ぐつわをし、レジの中に置き去りにした。

 「よおし、邪魔は消えた。おめえらやるぞ!」

 「へい!」

 リーダーの男はレジの中をいっせいにあさり始め、仲間達は金目のものになりそうな物や酒や食品を次々と持ち出していく。テレビの「犯罪特集」みたいにレジを引っ張ったり持って帰るとかいった荒っぽい手口ではなく、レジを器用に操作してあっさりとあけてしまう。ほとんどプロの犯行だ。

 ちんっ、がしゃがしゃがしゃん!

 レジが開けられ、リーダー各の男が一万円札を握りしめた。

 「っち、これっぽっちかよ・・・」

 あの中に確認した一万円札は10枚ほど入っていたはずだ。それを少ないと見るのは明らかに修羅場を潜り抜けたかのような発言だった。リーダー格の男はすっかり安心したのか、こちらのことなど知ったことかといわんばかりにさらにレジを物色していたその時―――――



 ひゅん!

 どがっ!

 「ぎゃあ!」

 宗一のドロップキックが炸裂した。いつの間にかそこに転がっていた宗一の姿がなかったのだ。器用にもがんじがらめにしたロープをほどいて・・・・・おらず、まるでゴリラの怪力のごとく引きちぎっている。まああいつの馬鹿力だから引きちぎることなど造作もないのだろうか。

 「あ、あにき!」

 「こいつあんなに強く縛ったのにいつの間に!?」

 「てんめぇ〜〜〜!」

 逆上した男は鼻から血を流しながらこちらに銃口を向ける。

 だぎゅうううん!!!

 宗一はよけられなかった。否、避けるまでもなかった。

 「な・・・・・・!?」

 彼は鋼鉄の腕を盾にして銃弾を受け止めたのである。彼の義手に使われている練成レアメタル合金の硬度はこの時代の銃弾で撃ち抜くことなど、到底できない業である。ぷすぷすと腕から細い煙が上がり、コンビニの制服には細い穴が開いている。普通だったら貫通して心臓を直撃している弾道と距離だったはずなのに、しかも一滴の血が流れていないところが男を混乱させる。

 ひゅん!

 どがっ!


 「ぎゃは!」

 宗一の強烈なボディーブローが炸裂。この時の宗一の義手のパワーアシストは最大の3倍に設定していたのでその威力はヘビー級パンチャーのストレート以上だ、リーダー格の男は泡を吹いて一撃で気絶し、持っていた銃を落としてしまった。

 じゃきっ!

 宗一は銃を拾い上げ、男の部下たちに銃を構える。その目つきはまるでバタフライナイフか何かを持った、危ない少年だ。戦場で培われたその殺気をもろに受けた男は、悲鳴を上げる。

 「ひええええ!」

 だぎゅううん!!!

 宗一が発砲。

 「ぎゃああああああ!!!」

 一番手前にいた男の左太ももに、直径数ミリほどの穴が開いた。その直後にその部位から直径数十センチほどの赤い斑点が出来上がり、男は激痛のあまりにバランスを崩して商品棚に倒れ、棚を倒してしまう。

 どがんどがんどがんどがんどがんどがん!

 ドミノ倒しの原理で商品棚が倒れ、次々と男達を巻き添えにしていく。

 「ぎゃ!」

 「ごは!」

 「ぐへ!」

 商品棚の商品は意外に固くて重いものが多い。男達はあっという間に気絶してしまった。宗一は先ほど撃った男の前に立ち

 「ひ・・・・ひええええええ!」

 がんっ!

 「ほぎゃ!」

 ゲンコツを浴びせて男を気絶させてしまった。かくして強盗犯グループは、宗一一人によってあっけなく片付けられたのであった。



 全ての不届きを始末した宗一は、成美の元に帰った。相変わらず猿ぐつわとロープで拘束されており、その姿は見るからに人質、普段の彼女の凶暴な性格が嘘のようにも宗一には見えた。

 「成美、大丈夫か」

 「もが・・・もがー!もがー!」

 「すまない。君の安全を考えて敵の脅威を除去することを優先した」

 「もがもがもがー!もがーもがー!」

 「礼なら気にするな。俺の任務はたとえ首一つだけになろうとも君を死守することにあるし、元々仮面ライダーとして訓練を受けていたからあの程度の輩などどうということはない。」

 「もががー!もがもがもがー!

 「ああこれか。俺の腕は義手だからな。こんなおもちゃ同然の銃で撃ち抜く事などできないし、痛みもない。心配してくれてありがたいが、俺は大丈夫だ。君にも怪我がなくて安心している」

 「もがががががが!もがー!・・・・・ぶはっ!」

 やっと成美はレジのひっかけを駆使して自力で猿ぐつわを解くことに成功した。

 「猿ぐつわ取れー!」

 「・・・すまなかった。ちゃんと言ってくれないと困る」

 猿ぐつわした状態でどうやってしゃべろというのかこの男は!?てか必死に訴えたのにこの有様はなんだ!コイツ絶対に初めてのお買い物でレタスとキャベツを買い間違える5歳児だ!

 ・・・・だがそれよりも成美の脳内には、末恐ろしい世界が広がっていた。




西暦2004年7月21日未明
テレビヨミウリ 「5時のニュース」

 「たった今ニュースが入りました」
「本日午後4時、東京都豊島区にて、仮面ライダーが逮捕されました。」
「犯人は同区の私立高校に通う高校生A(17歳)で、同級生とコンビニエンスストアでアルバイトしている時に強盗に遭い、拳銃で応戦、一人を射殺した光景が監視カメラに記録されていたために銃刀法違反、傷害の容疑の疑いで逮捕されました。強盗犯はいずれも重傷を負っており、犯人の少年Aは正当防衛を主張しています」
『ああ、あいつ?そりゃあ変な奴だけど・・・別に悪い奴じゃないと思ったけどねぇ(同級生Aの証言)』」
『学校にナイフ持ってきているって噂があるんです・・・(同級生Bの証言)』」
『学校に改造ハーレー持ってきたり、不良の女子とつるんでいました・・・(同級生Cの証言)』
『あいつかぁ。学校の備品を壊しまくっているし、アニメのベルト持ち込んでいるし・・・何かしでかすと思ってたけどさぁ。(同級生Dの証言)』
『ええ問題児でした。学校の風紀を乱し、備品を壊し、生徒に暴力を振るう問題児でした。なまじ成績が良かった上に表では尻尾を見せない生徒だったので・・・よもやこんな形で現れるとは思いませんでした。(先生Aの証言』
「現在少年Aは留置所に収監されており、近く家庭裁判所に出頭する模様です」
「今日はコメンテーターのお菓子屋の間津井さんをお呼びしました。またしても凶悪な事件ですねぇ」
「ええ、こういったキレやすい子供が増えているのは家庭の環境による影響が極めて大きいでしょう」
「拳銃を持っているという点からしてもかなり厳しい処置が下されると思われます」
「どうもこの少年は両親がおらず、叔父と二人暮しをしているそうですね。どうもこの辺あたりに怪しい何かを感じますねぇ」
「あんた、作者の癖に確信犯で言っていませんか・・・?」



西暦2004年7月22日
浅目新聞朝刊一面

 仮面ライダー殺人未遂で逮捕!
 先日午後5時未明、東京都豊島区のコンビニエンスストアでアルバイトをしていた16歳の高校生が、押入った強盗グループともみあい、奪った銃で犯人を銃撃。全治一ヶ月の重傷を負わせ、駆けつけた警察官によって銃刀法違反と殺人未遂の容疑で逮捕されたことがわかった。犯人の高校生Aは仮面ライダーでもあり、正義のために戦う仮面ライダーがこのような形で一般人を傷つけるこの事態は前代未聞として高校は謝罪、ちかくこの生徒を退学処分にする会見をした。仮面ライダーが退学処分されるのは今回がはじめて。



同日発刊
ヨメオレ!新聞朝刊一面

 仮面ライダー、射殺未遂で逮捕
 7月21日午後5時ごろ、東京都豊島区のコンビニエンスストアでアルバイトをしていた高校生兼仮面ライダーの16歳の少年が、押入った強盗から銃を奪い発砲。一人を重傷に負わせるという事件が発生した。その後駆けつけた警察官により少年は傷害と殺人未遂の容疑で逮捕された。少年は仮面ライダーであり、仮面ライダーが銃刀法違反で逮捕されたのは今回がはじめて。



同日発刊
日報新聞朝刊一面

 16歳の仮面ライダー、銃刀法違反で逮捕
 7月21日午後4時50分すぎ、東京都豊島区のコンビニエンスストア「6イレブン」にて、日本人グループの窃盗集団が押入るという事件が発生したが、そのときアルバイト店員として働いていた同区の高校生Aが犯人と格闘の末に拳銃を強奪し、犯人グループに発砲したという前代未聞の事態が発生した。後に監視カメラの記録により少年は銃刀法違反と殺人未遂の疑いで逮捕され、近く取調べが行われる模様。



同日発刊
経産新聞朝刊一面

 犯人返り討ち・・・仮面ライダーが拳銃奪う
 7月21日午後5時ごろ、東京都豊島区のコンビニエンスストアにて近年世間を騒がしているコンビニ専門の強盗集団が押入った。だがその時店員をしていたアルバイトの高校生が突如犯人と格闘戦を繰り広げ、拳銃を強奪して犯人に発砲して重傷を負わせるという事態が発生した。高校生は銃刀法違反と殺人未遂で逮捕され、近く保護者を呼んで家庭裁判所が開かれる模様。


西暦2004年7月21日発行
週刊誌「ヨメウリ!」
高校生ライダー・・・またしても暴虐!今度は強盗を銃殺!
週刊誌「ORERA」
犯人の高校生の精神鑑定結果・・・重度の妄想障害と診断
週刊誌「週刊文集」
極度の精神障害児の高校生・・・学校でバイクを乗り回す
週刊誌「現代」
犯人の高校生の暗い過去「6歳から兵士として戦っていた」と狂言
週刊誌「報道2004」
強盗返り討ちの高校生A、地元チンピラから「悪魔」呼ばわり
週刊誌「報知日本」
銃撃事件の高校生A・・・学校の備品破壊リスト
週刊誌「あすなれ」
両親は死亡と狂言・・・銃撃事件の高校生Aの非礼な態度
週刊誌「HOURI」
高校生Aの弁護士「こいつはもうダメだね。反省の色が見えない」
週刊誌「毎週曜日」
両親見つからず・・・親権者の叔父も以前行方不明
週刊誌「ORETATI」
「俺のどこが悪い」開き直りの強盗射殺の高校生A
週刊誌「ひらきなおり」
「最悪の生活態度」高校生Aの学校での最悪を極める生活態度
週刊誌「ゲンダイニッポン」
判決は無期懲役・・発砲事件の高校生Aの判決はまだ足りない
週刊誌「まついさん」
「納得いかない」、家庭裁判所の判決に不服の高校生A
週刊誌「朝と夜」
「俺は無実だ」、高校生Aが刑務官を殴殺し少年院を脱走!
週刊誌「真相日本」
アルバイトしていた女子高生が重要参考人として警察に出頭





・・・・・嫌だ、そんな現実なんて認めたくない!最近やっている滑舌の悪いライダーだけでさんざんだ!

 ぶんぶんと頭を振り回して脳内ニュースを否定する成美の光景は、一見すると麻薬でやられた人間のように宗一には見えた。

 「・・・成美、どうした」

 「どうしたって、あんたがこれから悲惨な転落人生を歩むって考えると・・・」

 そんな成美の言い方が気に食わなかったのだろう。宗一は少し嫌そうな顔をして、

 「なぜ俺がそんな目にあうのだ?」

 「だって防犯カメラの前で銃を撃ったからでしょ!あの映像が全国お茶の間に流されて、日本中の恥さらし・・・いえ、場合によっちゃ世界中に流されて世界中の恥さらしよ!近所のおばちゃんが「おとなしそうな子だったのに・・・」とか「やったなんて信じられない」なんて嘘っぱちのインタビューやら週刊誌であんなことやこんなことのない馬鹿げた記事にされたり!これからあんたは社会的抹殺を受けると思うとあたしは・・・」

 「・・・ああ、そのことか」

 そのことかって、おい。

 ・・・と、宗一はおもむろにカメラに向かい、カメラのフタを開ける。

 「・・・?」

 ばきゅうん!ばきゅうん!ばきゅうん!!!

 「!!!!!!」

 気がつくと、宗一の手にはさっき奪った拳銃ではなく、13mm口径のアームド・パワーガンが握られていた。その威力はさっきの拳銃が水鉄砲ならばこっちは戦車の主砲の違いもあり、原型をとどめずにコンビニの店内にある監視カメラはすべて破壊された。

 「証拠隠滅完了・・・狡猾な犯人はまず拳銃で俺達を脅し、監視カメラのスイッチを切ってテープを出させ、狡猾にもカメラやテープを再生不可能までにハンマーで破壊した。そして俺が隙を見て犯人ともみ合っているうちに銃が暴発、驚いた犯人は商品棚に下敷きとなった・・・」

 「・・・」

 すばやく銃を元の四次元コンテナに戻し、宗一は続ける。

 「犯人の拳銃に俺の指紋がついていたのは、そのもみ合っている最中にたまたま触れたからであり、そして犯人に銃弾の後があるのもそのもみ合いが原因だ。君は人質に取られていたから何もできずに見るしかできなかった・・・幸運にも店長は外出をしていたからすべてうまく言ったつもりだった。」

 「・・・」

 「・・・だめだ。どうもうまい筋書きができない。真崎ならばもっといい筋書きを作るだろうが・・・どうも俺は・・・・・」

 がんっ!

 「ぎゃうん!」

 成美のキックがが宗一の股関節に炸裂した。未だに両手がロープで縛られていたので足しか使えなかったのが真相であるが、男の最大の弱点はたとえ屈強な戦士であっても鍛えようが無く、宗一は股を手で覆いながらその場で崩れてしまう。

 「鬼かお前は!?」

 「か・・・・き・・・・・・い・・・いたい・・・・・」

 股間を押さえて悶絶しながら宗一はうめく。

 「大体あんたが拳銃を持っているのがいけないんじゃないのよ!それになんなの今のあれは!?犯人に銃を撃つわ、カメラを銃でぶっ壊すわ、あそこで倒れているおっさんの1000000万倍はタチ悪いわよあんた!」

 「・・・・・・・・・・・・そ・・うはいっても・・あう・・・・・君は犯罪者を肯定・・・・・するのか」

 がんっ!

 「はうっ!?」

 「証拠隠滅も肯定するのあんたは!?ああ、こんなのがあたしの子孫だと思うと・・・子供も生みたくなくなるわ・・・」

 そう嘆く成美だったが、2発目の股関節キックすでに宗一は白目むいて気絶していた。



 結局この事件は、このようなストーリーとなった。

 午後4時20分、二人組の犯人がコンビニに押し入り、拳銃でアルバイト店員を脅して拘束。証拠隠滅を図ってカメラを破壊し、レジのカウンターを物色しようとした際に店員の一人が拘束を解いて男の一人ともみ合い、その騒動のさなかで拳銃が暴発、犯人の相方の太ももに命中し、ショックで気絶した。またもみ合っているうちに犯人は店員の股関節に強烈なキックをお見舞いしたが、バランスを崩して商品棚を倒してしまい、下敷きとなって気絶。股関節の一撃があまりにも大きかった店員は、もう一人の店員の拘束を解こうとはいつくばって歩いたが力尽き、店員の足元で気絶したのであった。10分後、店にやってきたお菓子屋主人が拘束されている女性店員から事情を聞き携帯電話で通報し、事件は解決、女性店員の証言は認められ、無事解放されたのであった・・・・・





同日午後6時50分
東京都豊島区 かもめ台警察署前


 「まったく!あんたのせいでバイトクビになっちゃったじゃないのよ!」

 逮捕された犯人たちといっしょに成美と宗一は警察署に連れて行かれ、事件の事情をねほりはほりと話す羽目となった。成美は本当のことを言っちゃうかとも思ったが、さすがに宗一をそこまで陥れるような人物ではなかったので。結局宗一が用意したストーリーそのままで口裏を合わせたのである。

 「君はテロリストや犯罪者を肯定するのか?」

 「そうじゃないわよ!あんたも文句言えるような立場じゃないでしょ!銃をばかすか撃つばかりか証拠隠滅までする被害者がどこにいる!?」

 「だが・・・件の日本人人質はどうなる?奴らはボランティアと称して危険を顧みず紛争地域に乗り込み、三流テロリストに勝手に捕まった挙句に日本政府に多大な迷惑をかけた・・・いまだに批判を受けている理由が分かるか?」



 閑話及第。

 2004年5月に起こった日本人人質テロ事件。今になっても「例の3人」は本を出したり講演会に出て反戦を訴えているが、未だに批判を受けてもいるのには理由がある。それは自分達が自ら危険を顧みずに危険地域であるイラクに乗り込み、そこで過激組織に拉致された原因を「戦争を起こしたアメリカ」や「協力する自衛隊や日本政府」のせいにして、自分達のせいとして受け止めていないからである。確かに悪いのは人質を取ったテロリストだ、だがしかし被害者の立場を利用してやりたい放題をやっているのも事実なのである。

 考えてみてほしい。銃をもって人殺しなどどうと言うことの無い連中がたむろする危ない地域。外務省が「危険地帯」として退避勧告を出している地域であり、危険なテロに巻き込まれる危険が極めて高い地域であり、実際問題外国人が多数殺害されている物凄く危険な地域である。その時点でそんな虎穴に乗り込むこと自体が異常なのである。いくら平和主義を唱えても相手は人殺しなど子犬を殺すことすらぞうさもない思考を持った連中なのだ。基本的に通じない。否、通じる術はまず無いだろう。
 もっと分かりやすく言えば、火事になった家に自ら乗り込んで勝手に火傷するようなものであり、それは自業自得なのだ。

 またテロには絶対に屈してはいけない。たかだか数人、もしくは数十人にしか過ぎない小規模な団体が、暴力的手段で一国家を脅迫し、なおかつそれが成功すれば悪しき前例を作ってしまう。つまりマネして似たようなことをやる連中が出てくるということだし、一国家がテロリストに屈したとなれば世界中から「コイツ自分より弱い連中にペコペコしやがってよわっちいなぁ〜ハハハ」と馬鹿にされてしまい、相手にされなくなる危険性が極めて高い。つまりテロに屈してしまえば国際社会から認められなくなり、国家の威信にかかわるのだ。
過去、日本もペルーの日本大使館人質事件や1977年のダッカハイジャック事件で2回ほど失敗しており、一方は人質の生命を最優先すると発言、もう一方は犯人の要求に屈して捕らえていたテロリストを解放してしまっているのだ。「生命は地球より重い」という言葉は、現在の政権の福田官房長官(現在は退職)の父である福田赳夫である。

 話を戻し、人間の生命は地球より重いというが、3人の生命とテロの危険にさらされる1億2000万人の生命はどちらが重いであろうか?テロリスト相手に交渉するならば、金出しておしまいにしてしまえばいい。一見すればテロに屈しているかのように見えるが、金出して解放してしまえばテロリストは本来の崇高な目的を達成できずに、ただのカツアゲのチンピラ同然に成り下がるからである。実際問題、2004年のフィリピン政府はテロリストの要求に屈してイラクから軍隊を引き上げており、調子に乗ったテロリストが今度は日本を恫喝しているところからもわかるであろう。無論助けなければならないが、助かる保証はないことを肝に銘じていなかったことに批判があつまる原因である。

 仮に平和と唱えてあらゆる攻撃を防ぐATフィールドが出来上がれば乗り込んでもかまわないだろう。だがそういう超常現象が起こるのはアニメやマンガの世界だけなのは子供でも分かる理屈だ。平和と唱えて通じる連中ではなく、むしろ彼らからしてみれば白人の存在こそが平和を脅かすものだという思考が前提である以上、その手先として認識されかねない日本人はとっつかまってくびり殺されても文句は言えないのだ。実際問題、世界中から嫌われている韓国は凶悪なテロリストに捕まって首切り処刑を食らっており、しかもその後「韓国人はイラク入りすればテロ」呼ばわりするぐらいである。凶悪なテロリストであるアルカイダが名指しで韓国を批判する、これは韓国がいかに国際社会の一員として貢献しておらず、皮肉にも危険なテロリストに危険視されているか、如実に分かるものである。

 日本の場合は韓国とかなり違う。歴史的背景から見て中東アジアは白人によっていじめられ放題の歴史を歩んでおり、日本が中東から相当の評価を受けたのは20世紀初頭に起こった日本対ロシアのガチンコ勝負であった日露戦争が元となっている。白人の代表選手、それも史上最強の部類であったロシアが日本軍によってさんざんにやられたことが彼ら中東アジア諸国に「俺達黄色人種でもやれるんだ!」と自信を持たせ、特に日本の明治維新をモデルとしたトルコでは極めて親日派の国家である。第2次大戦後も日本は中東アジア各国に支援金を送っており、各国からパトロンとしてある程度の地位を得ているのである。ただしそのパトロン的行為が中東のテロリストに行き渡ってしまっているのが現実であり、日本人を殺害してしまうと援助打ち切られるか、減らされる可能性が高いために手が出しにくい、今回のテロリストはそういった点で見るとド素人の手口なのが複雑な胸中であるが・・・

 だがこのやり方を先進国が批判した。日本は金出して世界を支配しようとするように見えたのだ。平和平和と唱えているくせに自分達は平和を維持する義務を怠り、カネダシテオシマイ、なのは都合が良すぎる!と批判を受けていたのである。カネダシテオシマイでは国際社会を生き延びれない、だからこそ日本が自衛隊を各地に派遣しているのである。苦し紛れながらも復興事業を行うことで「俺達だってヤバイのを承知でやってるんだ!」と、いうことである。自衛隊派遣を反対している人々は、こういった歴史的背景をまるで見ておらず、単に「憲法違反」として絶対不変のものとして妄信的に怒っているだけでしか過ぎない。日本がかつて手本としたドイツでは「平和を維持するには平和を脅かす存在を討ち取るべし!」という考えが一般的であり、じゃんじゃん憲法を改良しているのは有名である。

 実際問題、日本国憲法を作ったのはGHQ、第2次大戦が終わった1945年のころであり、しかも日本の風土や特性、文化に疎いアメリカ人が作ったものなのだ。そこからして肌に合わないのに日本人はそれにあわせているだけにしか過ぎないのだが、あたかもこの憲法を誇りとしている人たちはアメリカ人の手のひらの上で踊らされている事実など、知る由も無いのである・・・・・?



 別の組織に拉致された「もう二人」がそんなに批判を受けていないのは、彼らはちゃんと「拉致されたのは自分の責任である」として受け止めているからである。殺されても文句はいわねえ!という一貫した方針が世論を納得させているのであり、決して責任逃避をしているわけではない。一方の「3人」はつかまった原因が自分達の行動にあることを認めないという責任転嫁が問題視されているのである。一部では「もう一度イラクに行く」と言い出しており、火事になった家に乗り込んで火傷したにもかかわらず、もう一度火傷しようとするものだ。


 閑話休題終了。政治色強すぎてごめんなさい。





 「君は自ら危険に飛び込んだわけではないが・・・わかるか?俺はあくまでも君の生命を考慮して、証拠隠滅を図ったにしか過ぎない。犯人が発狂したり手違いで銃を発砲して君が撃たれるような事態を避けるためだった。あの隠滅も今後君を守れなくなったら困るから行った、必要悪だ。」

 「う・・・・」

 そこまで考えていたのか、こいつは。

 普通だったら信じられないものだが、こいつの今までの行動と考えを見れば、成美は信用せざるをえなかった。彼、浅岡宗一は自分の子孫であり、自分を完全死守するように命令されているのだ。相手はネオプラントのやばい機械やバケモノだけじゃない、時として日常生活に襲いかかってくる事件や事故もありえるし、有事の際ではこいつがいなければ取り返しのつかない事態となったのは分かってもいる。

 だからといっても・・・

 「バイトクビになっちゃ・・・意味ないわよねぇ・・・・・」

 さすがにあの一件以来、店側の被害が極めて深刻だったことと、イメージダウンを恐れて、二人を解雇してしまったのであった。もちろん1時間分の自給と退職金と口止め料金はしっかりもらったが、所詮1日足らずでしか働いていないので5000円程度だ。命張った金額にしては安すぎるかもしれないが・・・と思ってもしまう。

 「大丈夫だ。作者はバイト10件以上探して見つからなかったそうだ。」

 「そういう問題じゃないと思うんだけど・・・・・はぁ」

 やっぱりこいつは少しも悪いと思っていない、成美は力が抜けてしまった。





 「はっはっは、苦労しているようだね君たち」

 「!?」

 ふいに背後から声がしたので振り返ると、先日宗一が出会ったあの男の姿があった。

 「へ・・・おじさん誰?あたしは身なりはこうでも売春や援助交際は絶対にやらない主義よ」

 「・・・・・」

 「て宗一、あんた何睨んでんのよ。このおじさんと知り合いなの?」

 「・・・そんな所だ。」

 さっきから宗一はすごい顔をしている。どうもこのおじさんとなにか一幕あったかのような印象さえ見られる、そんな感じであった。

 「先ほどから君達はバイトを探しているように見受けられるね」

 「ええ・・・なんで知っているんですか、てのは置いといてそうなんです。」

 「よければうちのところでやってくれないかね?」

 「へ?」

 予想外のおじさんの発言に、成美は豆鉄砲を食らったかのような顔をしてしまった。

 「いやいかがわしいものじゃないよ。こう見えてもおじさんは喫茶店を経営していてね。いつも一人でやっているんだが・・・さすがにこの年になると無理が出始めたんでね。」

 「は・・・はぁ」

 「まあこんなところで中で話すのもなんだ、一度うちに来たまえ」





西暦2004年7月21日午後7時10分
東京都豊島区うみねこ台 喫茶店「ギャラクシー・アミーゴ」


 成美たちが住んでいる「かもめ台」の隣にある「うみねこ台」、その境目にその喫茶店はあった。建てられてまだ1年ほどしか経っていない、新築の建物だったが、それすらも感じさせないれんが造りを模した壁面が印象的だ。全体的な色調も、茶色を基本に落ちついた印象を与え、憩いの場、といった雰囲気のある喫茶店である。

 ただ疑問なのは「ギャラクシー」とは何なのだろうか、というところである。

 「へぇ・・・こんな店あったんだ。」

 思わず声が漏れる成美。このあたりに来たのは幼稚園時代の3年間だけであり、この店の前に建っていたのは何の変哲も無い本屋だったからだ。そのときの記憶では成美は母親に絵本をねだって買ってもらったことがあるが、今ではその母はアメリカだ。

 「・・・・・」

 「そんな怖い顔をしてもらっては困るね、さあ入りたまえ。」

 男は「CLOSED」の看板がかかった戸を開けるとからんっ、と心地よい鈴の音が鳴った。



 店の中も古風溢れる空間が広がっていた。70年代というべきなのだろうか、ていうか成美は70年代の空気なんて知らないのだがともかく古きよき時代の感覚が、その喫茶店の中には確かにあった。70年代もへったくれもない遥かな未来からやってきた宗一は逆に困惑しているほどだ。

 「うわぁ・・・」

 「変な感覚だ。古臭いが、どことなく趣がある印象だ。」

 レトロな印象だが、壁には何やら写真が貼られている。数々の戦場の写真のようだが、教養の足りない成美には誰が誰だか分からない。

 「おじさんはね。昔警察官だったんだ。」

 「はぁ。」

 「今ではこの歳だから退職して、あまり使わなかったお金を使ってこうして店を建てているわけだが・・・意外にも人気があって人手不足なんだ。今日は休みなんだが、意外に盛況だからね、そろそろ店員でも雇いたいと思っているんだ。」

 「そこであたしたちにアルバイトをですか・・・?」

 「うんそうだ。時間や日時はそっちの都合に合わせてもいい。昼間は客も少ないからいいんだが、午後から本格的に客が来るからね。その時間帯から手伝ってほしいんだ。具体的にはコーヒーを炒ったり、簡単な料理を作ったりとかいった簡単な作業だ。どうかな?」

 「・・・・・」

 成美はちょっと考えた。バイトが首になって間もないし、以後この経歴を書かないといけないっぽいので今後のバイトは見つからないかもしれない。とすればこのおじさんの言葉に甘えるのもいいかもしれない、という結論に至った。

 「それにだ、」

 おじさんは宗一をちらりと見た。

 「・・・俺・・・自分に何か用ですか?」

 「ああ。君とは少し話がしたくてね。仮面ライダーくん。」

 「!?」

 成美はぎょっとした。彼の正体を知っているのは宗一の仲間内だけの話だ。いつから宗一の正体をこのおじさんは知ったのだろうか?

 「・・・どういうことだ」

 「空気というものだ。それでわかる。」

 何がなんだかさっぱりだ。どうも成美は自分が二人の世界から阻害されている印象さえ受ける。

 「・・・」

 「隠す必要はない。君は私がそれまで見た仮面ライダーとはかなり違った感じを受けるが・・・どことなくその血筋が残っている。君のその動きや感覚もどことなく違いを感じるね。」

 「・・・・・」

 宗一の顔に汗が垂れる。

 「君は・・・どうも最近のライダーとも違う。もっと亜流の印象が強いな。あの時の君の発言からして・・・君は一体何者かな?」

 このおじさんは宗一を尋問している、成美はやっとおじさんの確信を理解した。

 「・・・・・」

 「宗一・・・このおじさんとなんかあったの?」

 「いろいろとな」

 宗一はそこで無口になるが、おじさんはそれを許さない。

 「・・・・・そうやって黙ってもらっても困る。どうやら君にも何か事情があってライダーをやっているように見受けられるね。」

 「あ、あのおじさん!ソーイチはね・・・」

 「黙ってろ成美!」

 助け舟を出したつもりだったのだが、宗一にとっては邪魔だったようだ。彼はあくまでも私を守ることを第一としており、自分の将来の素性を明かすわけには行かないのだろう。というかどうやって宗一が300年後から来た人間だということを証明しろというのか。

 「あなたは俺がライダーだと言ってたが、そうだったらどうなんだ。」

 宗一が切り込んだ。

 「そうだったとしたらか・・・」

 おじさんは少し間をおいて、語った。



 「ライダーではない。」

 「!?」

 「ライダーの名を借りた、殺人鬼だ。己の拳に絶対的な正義と信念すら持たず、銃を免罪符として戦う、偽りの戦士でしかない。今現在戦っているライダー達も武器を携えて戦っているが、彼らはそれでも己の拳を武器として戦い、人類のために日夜努力している。だが君は違う。自分の拳すら信じることの出来ない弱い青年だ。たった一人の女の子を守るためならば他はどうなってでもいいというのか。機械に頼りきって君は弱い男でしかない!」

 「・・・・!」

 決して大きい声ではないし、怒気がこもってもいない。だがその一言一言は明らかに鋭い刃物を連想させ、宗一の信念を強く傷つけたように成美にはそう見えた。

 「確かに君は強い。だがその強さは君自身の強さではなく、機械の強さでしかない。自分の強さと機械の強さを区別できず、あたかもそれが自分それ自身だと決め付けている君にはライダーを名乗る資格はない。君は仮面ライダーツェータと言うらしいが・・・・・私から言わせてもらえばζライダーだ」

 「だまれ!」

 「そうやって言霊を荒げるところがらしくないというのだ。真の戦士というのはたとえ侮蔑されようが、阻害されようが決してその正義の信念を貫くものだ。私ごときに論ぜられて気が動転する君には正義を語る資格があるか。」

 「だまれだまれだまれ!」

 「だが私は黙らないよ本田宗一君。なぜなら君はライダーではない、ライダーの名前を使って自分から逃げているからだ。」

 じゃきっ!

 「ちょ・・・ソーイチ!?」

 一体どこから出しているのか、宗一はアームド・パワーガンをおじさんに構えていた。怪人すら吹き飛ばす拳銃だ、人間など一発でミンチになるだろう。

 「・・・・!」

 成美が見た宗一のその目は今まで見たことのない、ありとあらゆる猛獣すらも逃げ出すほどの殺意の極限を極めた目だった。だが銃はがたがたと震えており、焦点がはっきりしていない。

 おじさんは決して銃にひるむことはなかった。

 「・・・もし、今ここで私を、その銃で撃ってみたまえ。君はその銃を免罪符代わりに殺人を犯すことになる。そして君はその事実から逃れるために私という存在すら忘れ、いつしか感情すら認めない弱い男になりきるのだ。」

 「・・・・・」

 「私が君に目をつけたのは、君がライダーになりきっていない戦士だからだ。」

 「どういうことだ・・・」

 「言ったまでだ。君はライダーではない。そのままでいればいつしか君はライダーではない、偽りにつぶされることになる。過去私もそうなった人間を何人も見てきた。助けられたかもしれないがゆえに悔しい。だがきみはまだ若いから十分に何とかなる」

 「だからどうだというのだ」

 「ゆえに私が君を鍛えてやろう。かつて私も君みたいに力におぼれそうになったことがあってね。今の君を見ていると後輩達や昔の自分を垣間見ているように見えるのだ。」

 鍛える?宗一を?このおじさんが?

 「俺がおぼれているというのか。その力に」

 「そうだ。ゆえに君は自分の力を制御し切れていない。今は君自身が力を制御しているというより力を意図的に出し惜しみしているにしかすぎない。」

 成美は思い出した。6月のあのアルマジロっぽい怪人との一戦を。

 確かあの時宗一はツェータの力を生かしていなかったが、いざ発狂したかのように・・・ていうか自分が彼を発奮させたんだが、その時アルマジロの怪人をアルゼンチンなんたらでメチャメチャにしてからへし折った。さらにそれを投げ飛ばして街灯に串刺しにし、とどめにあの凶悪なキックで怪人を砂にしたのだ。自動車ですらふっとばす銃すらも聞かない皮膚や骨を軽々とへし折るツェータのその力は、半端ではない・・・成美はちょっと怖気を感じるのである。

 「・・・・・」

 宗一は銃を下ろした。

 「わかるかな。君は自分のその力が強大すぎるがゆえに恐れているんだ。だから力を出し惜しみしてしまう。」

 確かにそうだと成美は思った。今の今まで宗一は、たいして活躍していない。メイリンさんやアルフさんなどといったライダー達が活躍し、ザコはリアロエクスレーターがバリバリ活躍している。宗一はあくまでも銃でしか活躍していないし、ガチンコとなると怪人に苦戦している光景しか見ていないのであまり強い印象がないのだ。だがアルマジロ戦ではそれを覆すかのような鬼の活躍をしているし、そういった点からして宗一は自分の力を出し惜しみしている感が強いのだ。

 「・・・」

 「ついてきたまえ、本田君。」

 おじさんがそういった直後、宗一は轟いた。

 「ばかばかしい!」

 「!?」

 「俺が誰であろうとお前には関係のないことだ。俺は俺のやり方で進む。今更殴りあったり蹴りあったりする格闘戦に何の意義がある!そうやって無駄死にしたライダーの人数を知らないからお前達は絶滅したのだ!」

 「ちょ・・・ソーイチ!何言ってんのよあんた!」

 成美が必死に静止しようとするが、宗一は止まらない。

 「お前らはその秘匿性を重視しすぎたがゆえに将来滅ぶ運命にある!俺達はそんなお前達の汚点を教訓として今を生きて戦っている!数で攻めてくる相手に対抗するために銃や武器を持って何が悪いというのか!?相手は凶悪な火器を持っているのに自分が武器を捨てて戦うなど自殺にも等しい行為だ!そんな武器を否定する貴様らこそ人を守れない、すなわちライダーではない!」

 「・・・」

 その迫力に、おじさんは目を丸くしていた。滅ぶ?将来?汚点?教訓?

 「帰るぞ成美!ここにいても時間の浪費だけだ!」

 「あ・・・でもバイトは」

 「もう遅いからまた明日だ!帰るぞ!」

 その口調に成美は、どことなく宗一が怖いと感じた。乱暴に喫茶店の戸を開けるその心理は自分がキレた時と同じなのだろうか、それとも戦場育ちだったから本当の姿はああで、今までの宗一は演じていたというのだろうか。

 「・・・・・」

 おじさんは、そんな私達を無言で見送っていった。





 「ソーイチ!ちょっとまってよ!」

 宗一の足取りは速く、成美でも追いつけるのがやっとだった。

 「何でそんなに怒っているのよ!」

 「怒ってなどいない!」

 誰がどう見ても怒っているようにしか見えなかった。

 「ソーイチ、あのおじさんとなんかあったの!?」

 「奴も仮面ライダーだ!それも素手で戦うなどという馬鹿げた考えを持った、馬鹿なライダーだ!」

 「・・・はぁ?」

 「俺達の時代のライダーがなぜ武器を持っているかわかるか成美?相手は人間を簡単に貫通する銃を平然と使っているのだぞ。そんな連中に対抗するには武器が必要だというのにあの男はそれを否定した。素手で戦うという概念を持つのは旧来のライダーを崇拝する狂信者のやることだ!」

 「・・・」

 「この時代に格闘戦を重視するということは、奴は仮面ライダーだ。奴らは絶対数が少なかった上に自分達の存在を秘密にしすぎたために、数で攻めてくるネオプラントの軍隊に負けたのだ。俺達の時代も一時は素手で戦わせてライダーが殺されていった時代もあるし、素手で戦うことが兵士達にとってどれだけ辛らつ極まりない言葉かをもあの男は理解していない!」

 宗一の口調は荒かった。

 「・・・」

 「俺は真崎が嫌いだが、ライダーに武器を持たせたことは賛成だ。奴は奴なりにライダーのためを思って武器を持たせているからな」

 真崎、宗一の父の弟、すなわち叔父にあたる、2312年のレジスタンスを取り仕切る大統領だ。成美はこの見たこともない人物がいかに戦争の天才だとか、政治の神様だとか言われてもいまいちぱっとしないし、なぜ宗一が真崎を嫌っているかなどの理由も理解できない。嫌っている理由を宗一が教えてくれないだけなのだが、少なくとも成美の中で真崎とは「レジスタンスのえらい人で、なんかしらんけどすごい人」という程度の認識しかないのである。

 「あたしにはわからないけど・・・どうして宗一は真崎・・・あんたのおじさんのことが嫌いなの?」

 どうしても気になったので成美は尋ねてみた。

 「血のつながった身内なんでしょ。宗一はお父さんとお母さんがいないから、たった一人の身内なのにどうしてそんなに嫌っているの?そりゃあ、あたしのお父さんやお母さんは駆け落ちで結婚しちゃったから親戚一同から嫌われていたけど、今じゃ家長のおじいちゃんがなんとかしてくれたからそうでもないわよ。」

 「・・・」

 「またそうやって黙っていて。黙っても分からないわよ。せめて理由くらい聞かせても・・・」

 「うるさいだまれ!」

 尋ね終わる直前に、宗一は怒鳴った。その声があまりにも鋭かったために、成美は怖気がした。

 「誰がどうあろうが成美、お前には関係のないことだ!」

 「だめじゃないかぁ、女の子を困らせちゃあ」

 不意に人の声がした。



 「!?」

 「誰だ!?」

 「お前らをぶっ殺す連中さ」

 黒い人が、目の前に現れた。ハンマーのようななんかを持ち、青いアイセンサーをしている、筋肉隆々で一見すればプロレスラーを連想さえさせる体格でもある。

 「・・・デビルライダー!?」

 「へ?」

 

 黒い人だかりが、一斉に現れる。数は・・・20人入るだろうか。いずれもハンマーのような凶悪な武器を携えて、こちらを睨んでいる。

 「ターゲット確認。レジスタンスの護衛が一人いるだけだ。」

 「よし、女を始末しろ。護衛は邪魔をするようならばくびれ」

 「了解。」

 じゃきっ!じゃきじゃきじゃきじゃき!

 黒いライダー達が物騒なハンマーっぽい武器を私に向ける。

 「あ・・・・あの・・・?」

 「悪く思うな。かかれ」

 感情のこもっていない声で、一番前にいたライダーの指示を受け、後ろに整然と並んでいたライダー達が、私めがけてとびかかった。

 びゅおっ!

 ハンマーの一撃は虚空をむなしく作った。宗一が私の腕を引っ張ったからだ。

 「!?!?!?」

 「成美逃げろ!こいつらは並大抵の相手じゃない!」

 「ど・・・どういうこと?」

 「こいつらはレジスタンスを裏切ったバルラシオンのデビルライダーだ!」

 「固有名詞ばっか言わんで分かりやすく説明しろ!」

 「ぐおおおおおおおおおおお!」

 がぎん!

 宗一のナイフが、私の目の前で振り下ろされようとしたハンマーを、食い止めていた。

 「ぎぎぎっぎぎぎぎぎぎ!」

 ばきん!

 ライダースーツの状態と生身の人間、どう考えても宗一に勝ち目はなく、彼のナイフは簡単に折れてしまった。振り下ろされるハンマーを宗一はかろうじてかわしたが、もう一人のデビルライダーが逃げる成美に襲いかかる。

 「うおおおおおおおおお!」

 ばしん!

 「!?」

 ハンマーの一撃を、一人の男が打ちのめした。

 「・・・お、おじさん!?」

 それはさっきの店のおじさんだった。

 「ここは私に任せなさい。お嬢さん」

 「おじさんも逃げてください!こいつら並大抵の奴じゃないんです!」

 「・・・心配は要らないよ、お嬢さん。」

 しかしおじさんは、まったくひるむ様子すら見せなかった。相手は凶悪なとげやらがついた、ライダーだというのに。

 「へっへっへ・・・おっさん。死にたいようだな・・・」

 数人のデビルライダーがおじさんを取り囲む。

 「戦う前から勝利を確信する・・・その思考は敗北者の思考原理だ。」

 アジアカップの日本代表監督であるジーコ監督もそう言っている。PK戦で2点を先取したオマーンチームが日本チームに対して非礼な行いをしたその光景を見て感じたという。

 「んだと!?」

 「生意気言ってんじゃねえ!」

 「やっちまえ!」

 デビルライダーが一斉に飛びかかった。量産型とはいえ・・・この認識は間違いである。量産型とは試作型の安定版だ。試作型はプロトタイプであり、また誤作動や不良箇所が残ったまま使われるので全体的な性能は低く、量産型はそういった不良箇所を解消しつつも試作型の性能をよりよくしたものがほとんどであるため、「量産型>試作型」という不等号が成り立つのである。どこぞの白いモビルスーツもプロトタイプが存在し、さらにタンク型と火力支援型の2機の製作を基にしたデータがあるので、決して「試作型」というわけではない。あくまでもテストタイプなのだ。

 そしてデビルライダー、彼らのライダースーツは第5世代ライダースーツ「雷王」を超える性能を誇っている。単純なパワーなどからしてみればデビルライダーは凄まじいが、部品の耐久性などの観点からしてみれば脆い。ゆえに集団戦法には向かずこうした特殊作戦の方が必然的に向いており、しかも生身の人間では到底勝ち目はないのだ。

 だが・・・

 ひゅん!

 がすっ!


 「ごはっ!」

 おじさんは一人、また一人と鉄拳をあびせ、蹴りを、チョップを叩き込んだ。ハンマーの一撃一撃をたくみにかわし、ライダースーツの急所ともいえる間接部に向けて必殺の一撃を与え、屈服させていく。

 「・・・ちくしょう!なんだこのオヤジ!?」

 「ただのオヤジじゃねえようだ!レジスタンスの護衛か。」

 「野郎ども!コイツをくびり殺せ!」

 宗一の相手を、成美の相手をしていたデビルライダーは一斉におじさんを取り囲んだ。

 「数は・・・大体20といったところか。久々の戦闘としては妥当かもしれないな。」

 「舐めやがってクソジジイ!ぶっ殺してやる!」

 「俺達を誰だと思ってやがる!ライダーだぞライダー!こわくねえのか!?ああ!?」

 「てめえみてえな●●の▲▲野郎なんて一ひねりにぶち殺せるんだぞ!」

 「死にたくなきゃそこで土下座してはいつくばって謝れよ!ハハハハハ!」

 そんなデビルライダー達の罵倒を尻目に、おじさんは両手を水平にかまえ、両腕を左から真上にゆっくりと動かし、右にそろえる。

 「!?」

 「トートー気が狂ったか!?」

 「ライダー・・・・・」

 「なに?」

 「変・・・・身!」

 そう轟いた後、おじさんの下腹部にベルトが現れ、風車が回転を起こし、おじさんは高々とジャンプした。誰もが目にも止まらぬそのスピードで、着地したときにおじさんは、まったく違う姿に変貌していた。黒くぴっちりしたスーツに身を纏いながらも胴体部は緑色の筋肉で隆々とし、頭はまるでバッタか何かを連想させるヘルメットをかぶり、腰には風車のついたベルト、ブーツ、そして赤いマフラーをしていた。

 「・・・・・!?」

 デビルライダー達は状況が読めなかった。よもや目の前でただの人間がこのような姿になるなど、、予想もつかないからだ。レジスタンスでさえ、バイクなしの変身が行えるのはツェータだけだというのに。

 「な、なんなんだおまえは!?」

 「・・・仮面ライダー、1号だ。」

 「!?」

 「て、てめえが仮面ライダーだと!嘘こきやがれこのバッタモンがああああああ!」

 背後からデビルライダーの一人がハンマーを振り下ろした。

 がぎんっ!

 「やった!」

 「なにがだ?」

 ライダーはハンマーを軽々と右手で受け止めていた。ライダースーツの倍力作用によるハンマーの一撃など、誰であっても防ぎようのないものだ。それを片手で防ぐとは・・・!?

 「な!?」

 「ライダー・・・・チョップ!」

 しゅばっ!!!

 左手の手刀がハンマーめがけて叩きつけると、ハンマーはまるで刃物で切ったかのように真っ二つに切り伏せられた。

 「な・・・・なんい!??!?!?」

 「ライダーパンチ!」

 どがっ!

 「ぎゃはご!?」

 開いた右手で1号はデビルライダーの胸部を殴りつける。強靭な装甲を誇るデビルライダーの装甲はそう易々と破壊できないのだが、易々と粉々に破壊され、数人を巻き添えにして吹き飛んだ。

 「てめえ!」

 数人のデビルライダーが襲いかかった。

 ひゅんっ!

 しかし1号ライダーはハンマーの一撃一撃を易々とかわし、次々にチョップの一撃を与えていく。

 どがっ!びしっ!ばすっ!

 「ごはっ!?」

 「がは!?」

 「ぐげ!!」

 瞬く間に3人が倒される。

 「き、貴様!撃て!うてぇええええ!」

 更に逆上した隊長が発射命令を下し、デビルライダー達は銃を構え、1号に向けて正射した。

 がががががががががががががが!!!

 猛連射が1号に浴びせられた・・・はずだった。

 「ライダー・・・キック!」

 しかし1号はその猛連射をジャンプしてかわし、デビルライダーに向かってとび蹴りを放ったのだ。

 どごっ!

 「ごがああああああ!」

 隊長らしきデビルライダーの胸部にとび蹴りが炸裂、やはり装甲を易々と打ち抜かれて絶叫。そのまま仰向けに倒れ爆発する。

 「な・・・・なんなんだこいつ!?」

 「君たちこそ何者だ。夜一人で歩いている女子高校生を集団で、しかもそんな格好で銃や凶器をもってで襲いかかってくることそれ自体が普通じゃない。」

 勝てないと判断したのだろう、根本的に戦闘技量が違いすぎることを判断したデビルライダー達は、

 「ひ・・・ひけぇひけえ!」

 負傷者達を抱え、デビルライダーは去っていった。

 よもや誰もが思わなかった。

 彼らが相手したそのライダーこそ、自分達の起源でかつ先祖であり、かつもっとも偉大だった初代仮面ライダーだったということを・・・





 宗一は絶句せざるをえなかった。

 成美も絶句せざるをえなかった。

 よもやただのおじさんだとおもっていたあの人が、仮面ライダーだというその事実だけではなく、300年後から来た圧倒的技術力を誇るライダー達をいともあっさりと打ち破ったその実力を。

 「・・・・・」

 「正体を見られたからには仕方がないね。本田宗一君。」

 「お・・・お前は何なんだ!?」

 「隠す必要もないだろう。私は本郷武、仮面ライダー1号といい、かつて悪の組織と戦った男だ。」

 「仮面ライダー・・・1号」

 「そう、私は改造人間としてこのような姿にされた。後に私と同じ境遇を者が増え始め、いつしか一番最初に改造された私が1号となったのだ。」

 「・・・・・」

 宗一はもしや自分はとんでもない人間と出会ったのではないのだろうか、という印象を覚えた。よもや目の前にいるこの男こそ、レジスタンスの主力たるライダー部隊の祖であることを、ようやく理解し始めたのだ。

 「君も隠す必要はないだろう。なぜあの子があんな物騒な連中に付け狙われるのかね?そして君は本当は何者なのかね?奴らは一体何者なのか?これ以上隠し事をしていても君は失うものもないはずだ。」

 「・・・・・」

 「宗一・・・本当のことはなそうよ。この人はあなた達の先祖みたいなもんでしょ。」
 
 「・・・先祖?」





午後8時35分
喫茶店「ギャラクシーアミーゴ」


 「・・・・・なるほど、彼は未来から・・・」

 隠すわけにも、また隠す術もなかったので、仕方なく宗一たちは自分の事情をおじさんに話したのだった。普通だったら「未来から〜」の時点で精神異常者か妄想癖の電波人間として避けずまれそうなものだが、おじさんにはそういった価値観は存在しなかったらしく、素直に信じている。

 宗一も21世紀にやってきて4ヶ月たち、あれこれと自分の振る舞いや社会的な態度も理解してきた。なので自分が未来人だと言っても馬鹿にされることなども分かってきたので、こう言い返した。

 「信じてくれとは言わない。元々言っていることそれ自体が異常だからだ。だが俺が未来から来たのは事実だ」

 がごっ!

 「ぎゃんっ!」

 「失礼なこというんじゃない!この人はあんた達の祖先でしょ!もっとちゃんとした態度で接しなさい!」

 成美にステンレスの灰皿で後頭部を思いっきりぶん殴られて悶絶する宗一。こうやって殴られていくたびに宗一は自分の振る舞いに何か問題があるのだと考えて判断、そして次からはそういった間違いはしないように理解するのだが、この場合は殴った方の成美にも非があることを、当の宗一は知る術もなかった。

 「はっはっは・・・だがそうすれば君のその考えや隠していた理由、そして君がライダーらしからぬ行動も説明がつくね。」

 おじさん・・・本郷さんは一瞬でその考えを論じた。

 「300年もたてば考えや習慣も変わるだろう、君の叔父の浅岡真崎という人の考えも十分分かる。レジスタンスという組織が一時腐敗したのをその人は復興させ、ライダー達に統制能力を持たせるために武器を持たせた。そして快進撃を続けて後一歩で勝利、という状況で・・・敵のネオプラントがこの子を殺害してタイムパラドックスを起こそうとやっきになっているわけか。そしてさきほどの・・・デビルライダーといったね、彼らもその一味というわけで、本田・・・浅岡君は御先祖のこの子を守るためにこうして身分を隠して護衛している、そういうことだね」

 「すんご・・・・い。」

 成美はたったあれだけの会話で宗一たちの世界の事情や自分が付け狙われている理由を説明しきった、本郷さんの知能に驚いた。

 「だが浅岡君は銃弾を受けたために改造人間となり、腹部に質量を維持したままライダースーツを格納できるシステムを持つことで他のライダー達にはできない単独変身や銃器の携行を実現している。質量保存の法則をちゃんと守っているのは君ぐらいなものだね。まあそれはそうとして・・・」

 本郷さんの口調が変わった。

 「宗一君。このままだと君は彼女を守りきれないな。」

 「・・・」

 「君もあれで十分分かっただろう。敵はいつ襲ってくるか分からないし、君の変身システムは護衛にはいいかもしれないが、ああいった奇襲になるとどうしても不利になるし、君の戦い方や信念はまだ弱い。」

 本郷の一言一言が宗一に深く突き刺さるが、反論できない。これがメイリンだったら納得できるのだが、こうも実力の格差を思い知らされては彼の言を認知せざるを得ないのだ。単体から見たスペックは一号が圧倒的にツェータに劣るが、戦闘技量は一号が圧倒的、ひょっとしたらメイリンを遥かに上回るかもしれない。

 「私が徹底的に鍛えてやろう。宗一君。」

 「・・・」

 「時間はこのアルバイトの時間だけでも十分だ、その間だけでも君を徹底的に鍛え上げよう。」

 宗一は拒否する理由が見つからなかった。





西暦2004年7月29日午後5時00分
東京都豊島区うみねこ台 「ギャラクシー・アミーゴ」


 「こんにちはー。」

 「やあ、今日も頼むよ。」

 あれから一週間がたっていた。宗一は一時限目が終わったらさっさと帰ってここで働き、私がアルバイトにやってくる午後5時になると本郷さんと二人で裏路地に行ってしまうのだ。後を追いかけようにも店をほっぽるワケにもいかないので諦めざるを得ないし、宗一も宗一で学校で会うたびに疲弊した顔になっている。

 「・・・ソーイチ。あんた大丈夫?」

 「大丈夫だ・・・」

 最後の「だ・・・」からして大丈夫のように見えないのは私にも分かる、彼は嘘が苦手なのだろう。本郷さんと二人で何やってんのと聞いても教えてくれない。いかがわしい事やっているのかと聞いても、

 「そんなことはやっていない」

 の一点張りだ。突破口が見つからないのである。仕方ないのでこうして店を切り盛りしているわけなのだが、予想外にも私はこの店に適応しているらしく、料理のメニューややり方云々をマスターしてしまったのである。

 「あ、いらっしゃいませー」

 「あれ?いつものマスターは?」

 「ええ、ちょっと用がありまして今日は私です。」

 「ふーん、ならいいや。コーヒー1つ」

 実際問題、客はまばらだった。一時間に数人やってくるかどうかのレベルなのでそんなに忙しいというわけではない。たまに隣町の高校の部活が集団でやってくるということもあるにはあるが、まあそれはいい。だがこれで午後9時まで働いて自給が1200円というのはあまりにも高給だ。そんなに仕事をしているというわけではないのにちょいと割に合わないのである。

 成美はあのおじさん、本郷という人は本当は何者なのだろうかと疑問に持つようになった。いやライダーだというのは分かるし、宗一たちのライダーの先祖でもあることは理解可能。だが過去に警察官やっていたとか、この喫茶店の雰囲気やらとか、自分がドータラコータラとか・・・うーむ、いまいち説明がつかない。ともかくどうして私ごときにこんな店を任せているのだろうか?その理由は宗一を鍛えているという名目だが、私には見せないということなのだろうか。それともこうやって私を固定させて相手に手を出させないためなのだろうか。

 「ちょっと考えすぎかな・・・」

 炒ったコーヒーをカップに注ぎ客に出す。

 「あー・・・ここのコーヒーがいいんだ。あのころが懐かしい。」

 「はぁ」

 どうやら常連さんのようだ。まあ喫茶店なんて大体常連が来るものなのかもしれない。

 「ここのマスターは最近姿を見ないようだけど・・・どうしたんです?」

 「あ・・・ええとちょっと色々ありまして、閉店にならないと帰ってこないんです。」

 「ん・・・まあいいや。じゃあマスターが帰ってきたらこの写真渡して置いといて。」

 写真といっても普段見る小さい写真じゃない。でっかくて分厚い封筒まるごと手渡されたのだ。そこからしてただの写真じゃないということはよく分かるし、よくよくみればその人も本郷さんにどことなく似ている雰囲気がある。

 「それじゃお金ここにおいて置くから」

 250円をそこに置いたその客は店を立ち去った。



午後9時00分

 閉店時間となった。普通だったら10分前ぐらいから本郷さんや宗一が帰ってくるものだが、今日はその時間になっても帰ってこない。仕方ないので閉店の作業をやって掃除してあれやこれやと片づけをやった午後9時20分になっても帰ってこない。

 <次のニュースです。東京都豊島区においてまたしても銃撃事件が発生、17歳の少年3人が死亡するという事件がありました。少年はいずれも頭に銃弾を撃ちこまれているものの、撃たれたと思われる頭部が原形をとどめていないという残酷なその手口から、警察は先々週から発生している同一の銃撃事件と断定し、ちかく特別捜査本部を設置するという会見を発表いたしました。今月に入ってからすでに30人以上の若者が殺害されており、死亡推定時刻が午後9時台である点から、警察は午後9時からの未成年の外出は避けるように・・・>

 ぶつんっ

 「あーあ・・・何やってんだろ・・・」

 つけっぱなしだったラジオも、どこも銃撃事件のニュースばかりだからつまらない。このまま帰るのは明らかに危険なので帰るわけにもいかない。だからといってここでぼけっと待っているのもじっとするのが苦手な自分には少々酷だ。

 「・・・・」

 今の今までずっと気になっていたのだが、二人は一体何をやっているのだろうか、みてやろうか、このとき成美には宗一が一体何やっているのだろうかという好奇心が再燃したのである。

 「確か・・・」

 どがっ!びしっ!ばしっ!

 「!?」

 人が殴る音。

 「がっ!」

 そして宗一の、聞きなれたやられ声。

 「・・・・」

 その庭は決して狭いとは言い切ることは出来なかった。いや正確に言えば庭ではなく、庭の下にある特訓施設みたいなところがあったのだ。

 「どうした?いくら技術に優れていても有効打がなければ敵は倒れないぞ!」

 「・・・・・」

 「君は銃がなければ何も出来ないのか?」

 「!」

 「銃の力で自分を強くしても、それは銃の力でしかない。君の力ではない!」

 「だまれ!」

 がずっ!どがっ!びしっ!

 「君の欠点はそうやって挑発に乗りやすく、さらに精神的に追い詰められやすいところだ。」

 「うおおおおおおおお!」

 がすっ!どがっ!びしっ!

 「感情の情緒が不安定になったとき、君は君自身が持っている本来の戦闘技量を発揮できなくなる!ライダーパンチ!」

 どがっ!

 「ごは!」

 瞬く間に宗一・・・仮面ライダーツェータはライダー1号に吹き飛ばされる。ツェータの一撃一撃は1号によって軽くあしらわれ、そして一号のパンチによって吹き飛ばされる。どう見ても1号の戦闘技量は宗一のそれを圧倒しているように、成美には見えた。

 「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・」

 「それに君の体は重すぎる。一撃一撃の威力を重視しているのだろうが、私ごときに苦戦しているようでは実際の戦闘には役立たないぞ。」

 「うおおおおおおお!」

 ツェータは突進、1号に組みかかった。

 「!」

 「おおおおおおおお!!」

 ツェータの一万馬力は瞬く間にライダー1号を持ち上げ、壁に向かって投げ飛ばす。

 びゅおおおお!

 しかし1号はあっさりと着地し、攻撃を無力化させる。

 「!」

 「また力技か。その一点張りでは戦術が限られるぞ!」

 「うおおおおおおおおお!!!!!」

 がしっ!

 1号の言葉に反するかのごとく、ツェータは突進、1号に再び組みかかる。

 「・・・!!!」

 ぎりぎりぎり!

 「ライダー・・・返し!」

 ひゅお!

 ツェータは、350kgの自重を無視するかのごとく、まるで紙くずのように投げ飛ばされた。

 がしゃあああああんっ!!!

 <ALERT!機体ダメージ89%!!!>

 地面に叩きつけられ、ツェータの電子音は悲鳴を上げる。目の前にいるライダーは、左腕を封印して右腕と足のみで戦っているというのに!

 「なぜだ・・・・・なぜ勝てない!」

 「先ほども言ったはずだ。力だけでは何も出来ない。君は力だけを使って全てを何とかしようとする考えでしか行動できないからだ。自分の技量を超える問題に当たったときは、特に君は動揺し、私のような最旧型のライダーに負けせしめるのだ。」

 ツェータは西暦2312年7月現在でも、最高の性能を誇る最新型のライダーである。一方のライダー1号は、歴代ライダーの最旧型であり、性能もツェータと比べれば自転車と750CCバイクの差ほどもある。メイリンことライダーナイトミラージュはツェータより力はないものの、量産型と比べれば圧倒的なカスタマイズを施されているので、ツェータの次に力のあるライダーとして認識される。

 そしてメイリンは宗一の実質的な白兵戦技術の師匠である。無論素手による白兵戦も学んでいるし、その技術も一流だ。だが宗一がメイリンに勝てないのはその戦闘技量の差として認識することが出来る。だがツェータが1号にこうもこてんぱんにやられるということは・・・

 「誰かを守るということは大切だ。だがそれは職務から来る義務感からでは意味がない。消防士や救命士は義務感からもあるが、それ以上に人間を救いたいという確固たる信念があるから、人を救うことが出来る。君の場合は義務感のみで行動しているからこそ衝突や失敗が起こり、またその自覚もないためにその失敗を生かすことも出来ずに同じ過ちを犯してしまう。」

 「・・・・・」

 「君は・・・恋とかしたことはあるかな?」

 宗一はこのセリフを、どこかで聞いたような気がした。確か6月だったような・・・

 「ない。毎日が弾丸が飛び交う戦場だったからそれどころではなかった。」

 「ならば仕方がない・・・」

 「俺も恋とは何かが分からない。あらゆる義務感を超越する、遺伝的な本能からくる誰かを守る絶対的な信念だと思っているつもりだ」

 こういう宗一だったが、自信はなかった。

 「・・・理解しようとするその意思は認める。だが、守るべき者がいない人間は、その力におぼれることとなる。君は周囲に優秀な人たちが君を見ているからまだおぼれていないようだが、いずれそんな人たちでも止められない、力におぼれる人間になるだろう。」

 「・・・なぜ、お前は・・・そんなに強い」

 「守るべきものがあるからだ。誰かを守るという意思は憎しみの力を凌駕する。たとえそれが負の意思であっても、守るべきものがいれば正義すらも打ち砕く」

 「俺は叔父にこう言われた。『正義とは勝った人間が決めるものであり、第3者は批判することは出来ても決められるものではない』と。故に悪が勝てばそれが正義となり、正義が負ければ悪となる。叔父は宗教が嫌いだというが、その理由が人間の信仰の自由を強い宗教が踏みにじるからだという。過去キリスト教もユダヤ教のイシュタルという愛の女神を性欲の悪魔として陥れて人々を絶望させたという。こういうものでは人間がゆがむから宗教が嫌いだといっていた。」

 「その言は正しいね。ただし・・・そう言う風に言う人間達は自分以外に守るべき何かがないから、そうやるのだろう」

 「それに見たこともないのに神とやらを信じて、そして見たことも会ったことのない神に忠誠を尽くして、それを免罪符に悪を行う。人間の功績なのに神のおかげだと言い張って自分を怠惰させる宗教こそ真の悪だと言っていた・・・だから人間を信じるのは人間だけだ。だから俺は俺を信じていたのに・・・なぜ勝てないのだ」

 「過去私が戦った組織もそうだった。自分を神と称して罪のない人間を次々と虐殺していった、地も涙もない連中と、我々ライダーは戦っていたのだ。君たちの時代では私のようなライダーはいないと聞いたが、不安だ」

 「?」

 「浅岡真崎といったね。彼は確かに為政者としては最高の部類に入るだろう。だが・・・」

 本郷は、浅岡真崎の本性を、どことなく確信していた。見たこともないのになぜ分かるのだろうか、と自問もしたが・・・今までの連中と同じなのだ。

 「いや、やめておこう。ともかくだ、君は武器を持って戦うのはあまりしない方がいい。」

 「相手は銃火器を持っている相手だぞ。どうやって破壊しろというのだ」

 「・・・」

 キックの習慣すらもなくなっているのか、と思うと本郷は落胆せざるを得なかった。

 「ならいいだろう・・・宗一君」

 「なんだ」

 「私を蹴り飛ばしたまえ」

 「”!?」

 予想もつかない言葉の前に、ツェータは驚いた。自分を蹴ろとはどういうことなのか?

 「デビルライダーと戦ったとき、私が連中にキックを浴びせただろう。それをやるんだ」

 「・・・・・」

 当然ながら、ツェータはそれを拒んだ。だが本郷ライダーはそれを許さない。

 「どうした、蹴る勇気もないのか。凶悪な相手を前に飛びかかる勇気もなければ、彼女を守ることが出来ないぞ・・・!」

 「・・・・・」

 「それとも私のことを思ってためらっているのか?それこそ愚か傲慢だ。君のように格闘戦すらまともに出来ない男にわたしがやられるとでも思うかね?」

 そうではない。ツェータが、宗一がためらっている原因は、あのキックである。



 スプラッシャーキック―――――

 対象の原子間結合を極限にまで弱めて、相手の強度を限りなくゼロにして自分の運動エネルギーを叩きつける。そうなった物体にキックを防ぐ術は事実上存在せず、粉々、もしくは風化して砂になるのだ。このキックから生き延びる術は逃げるしかない。

 「・・・」

 <スプラッシャーキック?スタンバイ>

 左足が熱くなってくる。戦闘システムが昂ぶってエネルギーを足に溜め込んでいるのだ。

 「・・・・・だめだ!」

 「・・・」

 ライダー1号は瞬時に分かった。彼が力に恐怖している理由はそのキックにあるということを。

 「君のその技は危険すぎる。」

 戦いの匂いというものを感じたのだろう。1号は手を当てる。

 「どうしろという」

 「何もせずに、そう・・・普通に蹴るのだ」

 つまり普通に飛び蹴りをしろというのだ。先週1号がデビルライダーに向けてやったように。

 「・・・いいのか」

 「やりたまえ、私の胸にめがけて蹴り飛ばしてみたまえ」



 しばらくツェータと1号との間に時が止まったが、ツェータの左足の光が収まった。

 「キックのシステムは切った・・・いくぞ」

 急にしゃがみこみ、跳躍。元々高さは3mほどしかないのであっという間に天上にぶつかりそうになったが、背中のバーニアがそれを防ぎ、奇妙な起動と角度で1号に向かっていく。

 「ぐ!」

 「勇気を出せ!相手が怪我することを恐れてはならない!武器がないからといって逃げてはならない!」

 「おおおおおおおおおお!!」



 その瞬間、1号はツェータの蹴りを受け止めていた。

 ずざざざざざざざざざざっ!

 物凄い衝撃が1号の両手にのしかかってきたが、1号は壁際までにツェータの衝撃を食い止めた。

 「どうした!そのていどなのか!」

 「!?」

 「その程度で仮面ライダーと名乗れるというのか!悪を打ち倒せないぞ!」

 「うおおおおおおおおおおおお!!!」

 背中のバーニアが更に火を噴き、1号は壁に激突した。





 「・・・・・」

 やっと起き上がった1号の手を貸すツェータ。

 「・・・まだ、だな。」

 「?」

 「まだ殻を破りきっていない。だが・・・これで君はいつでも殻を破ることが出来るようになった」

 「殻?」

 「前にも言ったが、君はツェータライダーだ。だが、いつか君は仮面ライダーとして戦うことが出来る日が来るということだ。そのキックは私に向けて放った勇気を実現した、証拠だ。」

 「・・・」

 <アラート、活動限界・・・変身解除します>

 ツェータのベルトから光が走り、ツェータはもとの宗一に戻っていく。

 「君はまだ本当の実力を発揮できていないからだ。そしてその力をうまく扱いきれていない。だがあのキックならば君のその力を発揮できるだろう」

 「・・・」

 「今度から君はあのキックを使いなさい。銃がなくても君にはキックという武器があるからだ」

 「・・・・わかった。」

 このとき宗一は、まだこのキックを使うかどうかの自覚に欠けていたが、少なくともこのキックが一つの選択として確立したということだけは自覚していた。ライダーとは何なのか、その答えはまだ見いだせていないが、彼の中で何かが掴みかけている状態である。ここから先、その何かを手にするかどうかは自分次第であることを1号は宗一にゆだねたのだ。これ以上でしゃばっては彼のためにならないことを1号はわかっていたからである。

 その光景を見ていた成美は、自分がでしゃばるのはいけないと思い、ばれないようにこっそりとその場を後にした。







西暦2004年7月29日午後9時40分
東京都豊島区かもめ台 1−3−4


 「・・・・・」

 「ちょっとソーイチ、あんた大丈夫なの?そんなにふらふらして」

 夏とはいえ夜もすっかり遅くなってしまった。家から徒歩20分圏内であるものの、連日の特訓で宗一の体力は限界に近づいており、その距離であろうとも宗一のとっては数百キロの感覚であった。

 「大丈夫だ・・・イスラマバード都市要塞奪還作戦でも20日間炎天下の中でも俺は・・・」

 「はいはい、昔はいいから今のことに目を向けようね」

 本当は未来のことなのだが、そこら辺のところは成美は考えないことにした。

 「まったく・・・」

 本当にフラフラと歩いていて、どうも頼りなさそうに見える。

 「・・・」

 「ちょっと・・・最近このあたりで銃撃事件が起こっているって言ってたわよ。そうなったらあんただけが頼りなんだからね」

 「・・・」

 「ってきいてる!?」



 その時、路地裏からきらり、と何かが光ったその瞬間、

 だぎゅうううんっ!

 強烈な風圧が私の目の前をかすめた・・・のではない。とっさに宗一が私の腕を引っ張った勢いで風圧が起こっただけだ。

 「な・・・なにすんのよ!」

 そう怒ったのだが、その直後、

 だぎゅうううんっ!

 再び轟音が鳴り響いた。何回も聞いているのでこの銃声はなんだかがよく分かるようになってしまった。宗一の持つ銃、アームド・パワーガンの発砲音だ。銃声の音が分かるようになっては私も戦闘凶に染まりつつあるのだろうかとも印象が出てしまう。

 「ソーイチ、今のって」

 「そうだ、俺の時代の銃だ。」

 「普通だったらソーイチたちじゃないと持ってないわよね」

 「ああ、盗用や盗難を防止するために登録者以外が使おうとすると電撃が走って相手を気絶させるようになっている。テロ組織バルラシオンが使ったという記録はない」

 「・・・じゃあ今の誰が撃ったのよ」

 宗一が撃ったわけではないのは明白だった。ていうか宗一たちが撃つ理由はないのだが・・・



 「へ、へへへへへ・・・・」

 不気味な声と共に路地から人影が現れる。その姿には、成美も宗一も見覚えがあった。

 「や・・・山林先生!?」

 山林信彦。先月まで所縁が丘高等学校で体育教師をしていた教員だ。だがプールの授業で泳げない宗一を無理強いさせて飛び込ませて溺れさせたことを理由に、責任をとらされて引責辞任された経緯を持つ、鉄拳制裁至上主義の鬼教師だ・・・った。

 「成美、あれは山林という人物だ。教職員免許を剥奪された今、彼はもう教師ではないし、そう呼ぶこともない。」

 「ああ〜そうさ、俺はお前らのせいでセンセをクビになっちまったんだ」

 これが完全な逆恨みであることなど、当の山林は知る良しがない、というより思考停止状態である。自分の考えを否定された人間が起こす行動といえば、大体が反発もしくは自爆であり、協調という選択肢はめったに出てこないものである。

 「何をしに来た。」

 「決まってんだろう。お前らみたいなろくな大人にならねえガキンチョどもを教育してやるのが目的ってモンだ。」

 「・・・狂ってる」

 「狂ってるのはお前らクソガキのほうだ!俺達教師はガキンチョどもに舐められたら最後、ガキンチョが図に乗ってやりたい放題する悪党になっちまうことを止められなくなっちまう!だから俺は徹底してガキンチョどもをしごいてやろうと思ったのにテメエらは・・・」

 山林の一方的な論理は続く。

 「そもそもだ、こんな腐った世界がいけねえんだ。大人は狂ってガキどもにゆがんだ教育や考えを押し付けて洗脳し、ガキどもはそれで暴れて国が乱れ、結局だめなクソヤロウどもしかいなくなる。まともなガキもそんなクズどもに潰されて何もいえなくなる。そんなのは俺が絶対にゆるさねえんだ!」

 「まるで正義の味方気取りだな。」

 「嗚呼俺は正義の味方だ、せいぎのみかたのかめんらいだーなのさ・・・へへへへへ!」

 「!?」

 宗一の顔に驚きの色が浮かび上がる。そもそも彼は情緒不安定な人間だと思っていたが、特徴があまりにもあまりに合致している。

 「!」

 山林はどこからともなくライダーのベルトを取り出す。灰色でかつ赤い風車のついた、まさしく「電聖」のベルト!

 「まさか!」

 「へ〜ん、しん!」

 がしゃんっ!

 普通だったらありえない現象が起こっていた。ライダー変身システムは、何らかの形で質量を維持しなければならず、ライダースーツの質量は電聖でも140kgだ。とてもじゃないが携行用のベルトにその質量を維持させられない。何らかの形でその質量に耐えうる物体にそれを預けなければならなくなる。

 ・・・ということで目につけられたのがバイクである。質量1トンを誇るリアロエクスレーターの馬力ならば100kgぐらい増えたところでどうということはなく、あれの最大積載量は2000kg、銃器弾薬の質量がおよそ1トンでかつリアロエクスレーターそれ自体の自重はおよそ400kgはあるので余裕でライダースーツを詰め込むことが出来るのだ。とはいえいつもバイクが付きっ切りでなければならないし、1トンもあるバイクを押して進まなければならないのは酷だ。

 だからリアロエクスレーターには自分の意思を持たせて自走できるようにしてあるのである。こうすることで運用の負担を減らし、また戦闘時にはライダーの火力支援を行え、また話し相手として精神的な安定性をライダー達に自覚させられる、一石三丁のシステムなのである。とはいえこのシステムが用いられたのは電聖からで、現在レジスタンスで使われている「雷王」、およびバイク「疾風」はこのシステムはまだ用いられていない、いわば彼ら宗一たちがこうやって変身するのは一種の実験的性格が強いのである。

 だからこそ、山林が電聖のベルトを・・・そもそもレジスタンスの最新機種のベルトを持っていることそれ自体も問題だし、なにより140kgの質量を誇るライダースーツがないのに変身するとは・・・・・!?

 ぎゅいいいいいいん!

 光が収まると、そこには電聖が立っていた。レジスタンス最新型ライダースーツであり、まだ軍の配備が始まっていない高性能機だ。しかもただの電聖ではない。電聖特有の灰色のボディーが真っ黒に染まっており、アイセンサーは青から赤になっている点である。宗一たちとはまったく関係のない20世紀の人間がなぜ24世紀の技術を知っているのか、持っているのか?



 「なぜ・・・それを?!」

 「くくくくく!俺は正義の仮面ライダーだ!この世の中にはこびる悪を討ち取る正義の教師だ!この俺の考えをあの方は認めてくれ、俺をこのような偉大な姿になれるようにしてくださったのだ!」

 「・・・」

 「さあ本田宗一、浅岡成美!俺は貴様らのような洗脳教育で染まったクズどもを処分しなければならない!」

 じゃきっ!

 どがんどがんどがん!

 「伏せろ!」

 と、言われる前に成美は突き飛ばされてしまった。どうも彼の言と行動が合致しないのだと思いつつ、思いっきりしりもちをついてしまった。

 「あいつつつつ・・・」

 「ここは逃げるぞ、奴が使っているのはAPG、アームドパワーガンだ」

 「ソーイチが使ってるあの拳銃?」

 「そうだ。人間などかすっただけで即死する威力を持っている銃だ。直撃を受ければミンチになる」

 とはいえ成美にはその言葉があまり信用できなかった。なぜなら先月の狼にその銃で撃っても・・・大したダメージを与えていないのを見ていたからだ。

 「こらぁ浅岡!避けるんじゃねぇ!」

 「ソーイチ!?」

 宗一の両腕には、成美の斜線上に壁を作るかのごとくに腕に3発の銃弾が撃ち込まれていた。銃弾跡の煙がたちこめる。

 「・・・・・・」

 「ほぉ・・・本田、お前それは一体どういうことだ!?」

 山林もこの銃の威力を分かっている様子だった。恐らく件の連続銃撃事件の犯人は彼なのだろう。

 「なぜお前がその銃を持っている。誰から渡された」

 「ふん!お前ごときの不良に教える同義はないし、お前のような輩をやるために使っているだけのどこが悪い!」

 「ならば無理にでも聞いてやる。アプリケーションライダー起動!モードツェータ!」

 <システム起動・・・アラート、スーツ損傷率70%。最大稼働率63%・・・十分な戦闘を行うのは難しいです>

 今の今までの特訓の損傷がひどいのだろう。だが、

 「かまわん!起動!」

 <了解、四次元コンテナ開放・・・>

 腹部からベルトが皮膚を突き破って現れ、光が全身を包み込んだ。

 <アラート、安全装置稼動に問題。スプラッシャーキック使用不能・・・全アクチュエーター動作完了。スーツ装着完了・・・起動します>

 光が収まり、青い無骨な戦士が黒い電聖の前に立ちはだかった。



 「は!てめえやっぱり問題生徒だったか!」

 ツェータの姿を目の当たりにした山林は、銃を構え、発砲。

 どがんどがんどがんっ!

 山林ライダーが発砲、ツェータのボディーに直撃したが、まったく効果がない。

 「!?」

 錬成レアチタン合金より上位の錬成レアメタル合金で出来たライダースーツは、アームドパワーガンであっても貫くことが出来なかった。が、

 <アラート、機体ダメージ過多。>

 「ち!」

 たちまちツェータの胴体に小さいヒビが走った。これまでの訓練でツェータのボディーが過労し、金属疲労を引き起こしていたのだ。本当だったら家に帰って地下でスーツの修理をするはずなのだが、その帰宅途中に山林ライダーに阻まれたために、ツェータのスーツは調子が悪いままだった。

 「ふんっ!この銃じゃダメってことか!」

 びゅんっ!

 「!」

 山林は銃をツェータに向けて放り投げた。

 「!」

 「うおおおおお!」

 ツェータがそれを払いのけた瞬間、突進してきた山林ライダーの左ストレートがツェータの頭に直撃する。電聖のパンチ力の全てが頭部に炸裂し、ツェータは数歩のけぞった。

 「ぐ・・・・!!」

 <頭部ダメージ!強心剤投入!>

 ぶしゅっ、と宗一の首元に薬物入りの注射が刺された。頭をやられて気を失いそうになったため、システムが無理やり宗一の意識を保たせようとしたのだ。

 「もういっちょおおお!!」

 続いて山林ライダーは右ストレートを放ってきた。

 ひゅんっ!!

 ツェータはそれをうまくかわしたが、

 ざごっ!

 いつのまにか山林の左手には、ナイフが握られていた。それもライダースーツを破壊するために作られた特殊ナイフ・フレアメタルナイフだ。

 ツェータの胴体が高熱によって焼ききられ、赤い斜めの縦筋が青いボディーを彩った。

 <アラート!胴体部にダメージ過多!これ以上の損傷は危険です!>

 「ち!」

 もう容赦は出来ない、宗一はそれを悟り、銃を構える。

 「おっせええんだよ!」

 ざごっ!

 その言の通り、山林の一太刀はツェータより早く、銃身を切り落としてしまった。ここでツェータはショットガンを出そうとも考えたが、それができないと確信もする。なぜなら体内のコンテナから銃を出すときはどうしても隙が出てしまう上に、ベルトを光らせるというシグナルがあるために、敵にその行動を読まれてしまうからである。

 そして思ったより山林の速度が速いのだ。訓練を受けていないただの人間がライダースーツを着ても、そのパワーに振り回されたりコントロールできずに苦労するのが当たり前なのに、山林はそれを難なくこなしている。たとえば歩いただけでもライダースーツの倍力作用が太ももや足に働いて大ジャンプして天井に激突するか、おもいっきり前に飛びかかって人にぶつかってしまって行進が出来なくなる、体重とスーツの自重合わせて200kgの物体が衝突したら目も当てられない事態になる。

 腕立て伏せをしようとしても、腕に力が入ってその場で大回転を起こすわ、階段上ろうとしたら段差を潰してしまうわ、駆け寄ってきた子供に握手をすれば子供の手を握りつぶして骨を粉々にしてしまった事故もある。ドアノブを回したらねじ切るわ、肩を触っただけでも相手を脱臼させる、ひどい場合は相棒のバイクをキックさせたら壊したりとか、アクセル吹かしたらアクセル壊すなど、とてもじゃないがまともに生活が出来なくなるのだ。

 だからこそ訓練が必要なのであり、ライダーになるには十分な戦闘経験や階級が必要となる。最低でも5年以上の従軍と伍長以上の階級が、ライダー部隊に入る必要条件であり、そこから超絶的な選抜試験で選ばれて、さらに数ヶ月のライダースーツの着用訓練を受けてライダーとなることが出来る。その教育費用は実に3億クレジット(日本円換算300万円)にのぼり、真崎の政権では予算圧迫の原因としてライダー部隊への一般公募は中止されるようになり、以後軍部から推薦される形での編入が決定したのである。



 それにさっきから見られる彼の情緒不安定性は間違いなくあれだ。

 『スカルイリュージョン』―――――通称『SI麻薬』

 それはバルラシオンがレジスタンスを傀儡にするために広めた、強力な麻薬だ。どれだけ強靭な精神力をもった人間であっても一発打たれれば極大の快楽と無痛覚、超絶的な身体能力を得られる代償として、わずか1時間で禁断症状を引き起こす、悪魔の麻薬だ。たとえ死して白骨になろうとも幻想を見られる、その例えからその名が作られた経緯を持つ。こうなった人間は常に麻薬を摂取しなければ生きていけないほどにまで精神が荒廃してしまう。

 確かに山林は鬼教師だ。だが少なくとも悪意的な行動は引き起こさない独善的な人間であることを宗一は思っていたし、彼自身も学校秩序を歌いまくっていたので麻薬などという彼の思考原理とは正反対なものを取り入れることはないはずだ。だが・・・

 「ぐへへへへ・・・・・おまえをむっころす!」

 ただの戦闘恐怖症とは一線を賀するこの滑舌の悪さや、たった一ヶ月の間にこうまでまともに動ける機敏さといい、到底訓練ではやっていけない能力を発揮しているのだ。普通のライダーでさえここまで動けるようになるのは入隊最低でも1年はかかるというのに。

 「貴様・・・麻薬をやっているな!」

 「ぐはははははは!麻薬!?これは麻薬じゃない!俺を強くする栄養剤だ!」

 「麻薬をやっている人間の決まり文句だな。」

 「麻薬麻薬うるセえ!そーいう奴が麻薬やってるってもんだよ!」

 山林ライダーはナイフを腰に構え、突進してきた。

 「!」

 避けることが出来ない。もしここで避けたら山林は間違いなく後ろにいる成美に襲いかかる形となるため、避けたら彼女が犠牲となる。

 がしんっ!



 ツェータの左わき腹に、ナイフが突き刺さった。ナイフの高熱による破断作用が働き、スーツの層を超えて宗一の腹部に達する。

 「ぎあああ”!!」

 猛烈な激痛がツェータに襲いかかった。宗一は両腕両足が機械で出来ているが、胴体部と頭部は生身のままだ。腹部の中には機械を制御する装置や人工内臓、および四次元コンテナが入っているが、装甲としての役割は果たしていない。

 「ぐ・・・・・!」

 その場でツェータは仰向けに倒れこんだ。彼のわき腹から血がにじみ出て、スーツの刺された部位からあふれ出てくる。

 「クはははははははああああはははははは!!ちだ!ちだでたぞぉ!さあほんだそういち!おまえはきょういくにねっしんなこのおれをおとしいれたじゃあくなせいとだ!じゃあくなせいとはしょうらいじゃあくなはんざいしゃとなってなんのつみもないむじつのにげんをころすあくまとなる!だからこそおれはじゃあくたるおまえをむっころし、しゃかいのほうしをするのだあああああああああ!!!」

 奇声を上げた山林ライダーがマウントポジションの形でツェータに乗りかかる。

 「!!!!!」

 「さあしねえ!」

 山林ライダーはナイフを両手に握り、ツェータの頭めがげて振り下ろそうとしたその時―――



 どがぉん!

 刃が吹き飛んだ。

 「!!!」

 「あ、あたっちゃった・・・」

 刃を吹き飛ばした原因は浅岡成美だった。彼女の両手には、先ほど山林ライダーが投げ捨てた銃が握られている。尻餅をついたらしく、そのばにへしゃっており、また女の子には酷過ぎる発射衝撃と銃声の大きさに放心状態となっていた。

 「・・・・・・」

 成美は、今生まれて初めて発砲したのだと思った。アメリカでは銃をたまに見る程度だったし、じっさいに握ることはあってもそれは弾薬が無い場合だったのでそれほど感心していなかったし、ゲームセンターのガンシューティングゲームなら5面中4面をクリアする程度の腕だったので、銃それ自体には関心がなかった。

 だが弾丸が入った状態で撃った衝撃は、確実に彼女の心に強く刻み込んだ。しかもそれがナイフにあたった。おまけにモンのすんごい衝撃で宗一はいつもこんな銃を使っているのかと思うと怖気もする。以前宗一は登録された人間以外が銃を持てば電撃が食らうぞと言っていたが・・・きっとこの銃にはそんな仕掛けはないのだろう。

 「あさおかぁ」

 「!」

 気持ち悪いぐらいの声の発生源は山林であった。ツェータにまたがりながらもその恐ろしい口調は成美を恐怖に陥れる。

 「いけないじゃないかぁ・・・おんなのこがそんな銃をもっちゃぁああああ・・・・」

 「あ、あんただってこんな馬鹿みたいな銃を持っているのに人のこといえないじゃないのよ!」

 「ウルセえ黙れ!教育の教ってのはなぁ、教師がムチを持って生徒に教えるって意味なんだよ!」

 実際はちょっと違う。教える人間が子供に教鞭をもって知恵を授けるという意味である。だが鬼教師山林にとってはそんなことは関係ない。

 「どーでもいい!銃を持つ女子高生などもってのほかだ!まずはおまえをむっころしてやる!」

 すっく、と山林は立ち上がり、成美に向かって歩いてきた。

 「!!!」

 「あんしんしろぉあさおか。ちょっとくびをひねってねじきってやるからいたみなんてすぐにかんじねえぞぉ」

 成美に恐怖が走った。相手が殺意むきだしで襲いかかってきたのだ。いつもは宗一が守ってくれていたからあまり感じなかったのだが、今の彼はわき腹をナイフで刺されているために、どうしようもない恐怖心が全身を包み込む。

 「うわああああああああ!来るな来るなぁ!」

 どがぉん!

 再び引き金を引いた。彼女が出来る唯一の防衛手段だ。だが恐怖でコントロールができなくなっていた銃口は震えていたために照準が合わず、あさっての方向に銃弾が飛んでしまった。おまけに衝撃で思いっきりのけぞってしまい、仰向けに倒れてしまう。

 「ぐげははははははははははは!」

 下腹部に山林ライダーが乗りかかる。まるで象に踏まれたかのような強烈な圧迫感が襲いかかる。

 「あ・・・・・あ・・・」

 「ひはははははははは!」

 簡単に銃が取り上げられた。いくら格闘をやっても、ライダーが相手ではどうしようもない。たちまち成美は頭を握られ、ねじり始め・・・

 「しねええええええええ!!!」

 「いやああああああああ!!!」



 がごっ!

 「ごげ!」

 外力が山林ライダーに襲いかかった。たちまち彼は吹き飛び、成美から離れていった。

 「ぜぇえええ・・・・・・ぜぇ・・・・・・・・!!」

 悲鳴を止めた成美が見たのは、ツェータだった。下腹部から強烈な血が流れ出ている。

 「大丈夫か・・・・・・なるみ・・・・」

 「あ、あんたはどうなのよ・・・・!」

 大丈夫じゃなかった。ツェータに搭載されている、生命維持システムが、先のナイフによってやられた為に稼動せず、傷がふさがらなくなっていたのだ。麻酔も入らなくなっていたので宗一は、気力のみで立っているのも同然だった。

 「・・・ちょっとあんた、それってしゃれになってないわよ!はやくメイリンさんとアルフさんの二人呼びなさいよ!」

 物凄い量の血が、ツェータから流れ出て足元に滴っている。下手すれば失血死ものだ。てかいつもすばやくやってくるあの二人、なぜ今回は来ないのだろうか。

 「無理だ。さっきからやってみたが、ここら一帯に電波妨害がされている。回線を開こうとすればノイズで耳がやられる」

 「・・・ほんとだ。圏外になってる」

 成美も携帯電話の電波を見て理解した。・・・つまり、ここまでうまくやられているのは相手の作戦に乗せられているのだ。今の今までがうまくいったのは宗一たちの仲間による働きが大きかったのは成美が一番よく知るところだが、その二人を封じ込んで戦いに持ち込む相手の知恵が恐ろしいものだと思う。

 それにこうしている間にいつデビルライダーがやってくるかがわからないが、こうやって追い詰められるのならばなぜデビルライダー達は山林と協調して仕留めるのが一番効率がであるはずだ。にもかかわらず彼らは一切顔を出してこない疑問に、ツェータは疑問に持った。

 「えええ・・・・い!この不良どもめ!」

 頭から壁に叩きつけられた山林ライダーは、頭を押さえながら怒鳴り散らす。脳震盪にきているのだろう、立ち上がろうとしてもすぐにバランスを崩してまた倒れてしまい、あたかも生まれたばかりの子馬を連想させる有様だった。

 「どうするの?」

 「逃げたところでこの傷だと逃げ切れん。ならば」

 じゃきん!

 ショットガンを取り出すツェータ。

 「また銃を・・・」

 成美はいつもツェータがどこから武器を取り出すのかがいつも分からないので、目を凝らしてみたのだがわからなかった。ベルトから取り出しているというが、どうみてもいきなり虚空から銃が現れているのだ。いつも使っているアームド・パワーガンは小さいし、太ももに内蔵しているのでまだわかる。だがショットガンなどといった大きくてかさばる武器は無理なので、どうしても体内のコンテナに入れなければならない。だがドラえもんのように出しているわけではないし、ベルトが光ってニョキッ、と出るわけでもないし、煙が晴れた持っていたというわけでもない。そういった「出すモーション」が皆無であるためにますますわからないのだ。

 だがそんな成美の心理とは裏腹に、ツェータはこれまでの考えと反する行動を取ったのである。

 (タタカエ・・・)

 「・・・・・」

 がしゃんっ

 「へ?」

 銃を捨てたのである。あまりにもあっさりとした行動に、言葉も出なくなった。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 ツェータも無言だった。何かの声に聞きほれているかのようでもある。

 「ぐぎ・・・・!おまえらぁ!」

 ようやく立ちなおした山林ライダーの罵声を受けても、ツェータはしゃべろうとしなかった。

 (タタカエ・・・・・

 「・・・・・」

 今までの宗一の行動原理と反するがごとく、ツェータはクロスコンバットの構えを、山林ライダーの前にする。

 「てんめぇ・・・!」

 成美から取り返した銃を構え、発砲。

 どがぉんどがぉんどがぉん!

 「!」

 ごく一瞬過ぎる出来事だった。ツェータは避けなかったので山林は当たったと確信した。成美も確信した。

 だが・・・

 ぶしゅうううう・・・・

 「!?」

 「ぎえっ!?」

 銃弾を、手で受け止めていたのだ。3発の銃弾は、ツェータが握りこぶしを解くと、パラパラと地面に落ちていく。

 <メインシステム・・・近接戦闘モード発動率50%。前回起動時より40%の上昇を確認>

 「ちょ・・・ソーイチ?何なの今の?」

 「わからん。自分の中の何かが出来ると確信したからやってみたら・・・出来たのだ。」

 この超絶的な行動は、当の双一それ自身も理解しきれていなかった。無意識の行動というのだろうか、それとも・・・?

 <マシンナリーアナライズよりツェータへ。バトルプログラムの効率が前回起動時よりはるかに向上しています。>

 「・・・」

 <考えられる要因として、この一週間の間に行われた訓練にて、あなたが無自覚ながらも接近戦におけるノウハウ及び経験を習得したため、近接戦闘システムの効率性が上昇したと推測されます。>

 「・・・」

 よもやあんな特訓が自分をこのようなことをさせた、というのだろうか。

 「お、おにょれぇえええええ!!」

 逆上した山林が再びツェータに向けて発砲。

 どがぉんどがぉんどがぉんどがぉんどがぉんどがぉんっ!!

 どがぉんどがぉんどがぉんどがぉんどがぉんどがぉんどがぉん!!!

 やたらめったら、人間をミンチにする威力を持った弾丸が四方八方に放たれる。

 だが、ツェータはその弾丸を全て受け止めていく。まるでそこらに飛んでいる蚊を潰していく光景を連想させるかのようである。

 「!!!!!!」

 「ば、ばけものか・・・!」

 思わず山林ライダーからこぼれた。だがツェータはこう言い返す。

 「・・・かもしれないな。だが俺は・・・ツェータライダーだ。」

 「?」

 「まだ仮面ライダーと名乗る資格はない・・・だが・・・」

 急にその場にしゃがみこんだとおもったら、構えなおし、

 「この一週間で得た何かはつかめたような気がする。大切な何かを守るという気持ちはまだ分からない。誰かのために戦うという気持ちもまだ分からない。だがそれでも俺は・・・!」

 言い終わる前にツェータはジャンプする。

 「!」

 「せめて俺はライダーとしてお前を倒す!」

 背中のバックブースターが発動し、ツェータは山林に向かって急降下を始める。

 「う、うおおおおおおおおおお!!?」

 「ツェータ・・・キイイイイイイイイイッック!!!!!」

 どがしゃん!

 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 ただでさえ350kgの自重を誇るツェータだ。運動エネルギーを得てその一撃を左足に収束すれば、いかなる存在であってもただではすまなかった。

 キックは山林ライダーのベルトに突き刺さり、山林は悲鳴を上げた・・・

 どがぉん!

 爆発、四散。山林ライダーはベルトをやられてしまった。

 <アラート、ベルトブロークン・・・安全装置起動、変身強制解除>

 がしゃん、

 がしゃんがしゃんがしゃんがしゃん、

 山林の体から、まるで完成したパズルが壊れていくかのごとくに次々とライダースーツが外れていく。

 「あ・・・」

 そして山林ライダーは、元の山林信彦に戻っていった。

 「・・・・・」

 だが彼の体には、もう人間に戻れないものがあった。

 「ソーイチ、先生の腹にあるあれって・・・」

 山林の皮膚が破け、おびただしい血が流れている中で見えているのは、スパークしながら稼動しているラグビーボール状の物体だった。血が滴っているものの、全体は真っ白で、なにやら英文やら日本語やらがその表面に書かれているようだったが、先のキックの損傷が激しかったために読むことは出来なかった。

 バチバチ・・・バチバチ・・・・

 「四次元コンテナだ。俺の中にも入っている」

 バチバチ・・・バチバチ・・・

 「もしないとどうなるの?」

 「科学者によればこれを失った人間は質量暴走を引き起こして筋肉や骨の重さが爆発的に増大し、骨や筋肉が自分の肉体を支えきれずに圧死する」

 「・・・よくわかんないよ。もっと分かりやすく言って」

 「つまりコンテナに預けている重さが暴れて、その衝撃で死ぬのだ」

 バチバチ・・・バチバチ・・・

 「ふーん・・・でも、先生をどうするの?このまま放って置いたら・・・」

 山林は気絶している。このまま放っておいても不審者として警察に連行されるだろうが、それ以前に彼の体から露出した四次元コンテナについてあれこれと言及されるだろうし、なにしろ執念深い山林のことだろうから自分たちのことをばらしたりするかもしれない。

 「・・・連れて帰る。」

 「うえ!?」

 「連れて帰って尋問する。スーツはどこから入手したのか、誰に改造されたのか、それに奴は戦闘の素人にも関わらずにあのありさまだ、麻薬をしている可能性が高い。」

 そう言ってツェータは山林のライダースーツの残骸を拾い、それをベルトの中に入れる。

 「今何やったの?」

 「俺のコンテナに入れただけだ。家に帰って分析させてもらう。」

 「人間は入れないの?」

 「無理を言うな。コンテナに入れるということは物体をデータ化させる、つまり一旦バラバラにして質量に還元するのだ。もし人間を入れてみろ、一度バラバラにして入れたら死ぬぞ。」

 「う・・・」

 「ともかく通信してアルフかメイリンに運ばせて・・・」





 「伏せろ!」

 とたんにツェータは、成美を突き飛ばした。ツェータの怪力であったために成美は数メートル飛ばされてしまう。

 「だから突き飛ば・・・・」

 言い終わる直前、山林の体が光に包まれた。

 どがおおおおおおおおおおおぉん!

 「!?」

 「な・・・」

 「ちっ・・・やっぱ人間は使えねぇか」

 不意に声がしたので見回すと、周囲に黒いライダーがいた。

 「・・・・・」

 「まああのおっさんにしてはよくやったと思っているぜ。やっかいなツェータをここまでボロボロにしてくれたんだからよぉ」

 「もっとも、そこまでやられたんなら治すより殺した方が早いってモンだ」

 「口封じにもなるしな、ハハハハハハ!!!」

 「あそこまで燃えれば炭クズになって発見されるだろうし、焼身自殺ってことで片がつくしなぁ!」

 好き勝手なことばかり言いまくるデビルライダーたち。

 「きさまら・・・!」

 「人間をなんだと思っている?だろ。あんなの人間じゃねえよ、真の人間はこの俺達バルラシオンさ!」

 「俺の言ったとおりだろ。後でおごれよな」

 「ちっ、あの馬鹿にかけた俺が間違いだったぜ」

 ようやく宗一は、バルラシオンの本音を知った。相手は陽動作戦でもなんでもなく、単にツェータが殺されるか山林がやられるかの賭けをしていたのだ。だから彼らは出てこなかったのであり、その非人道さが怒りに変換されてくる。

 「当然てめえも人間じゃない。ということはサーチアンドデストローイ!」

 デビルライダーが飛びかかってきた。ツェータはそれをよけたが、

 がしっ!

 背後から仲間のデビルライダー数名によって押さえられてしまった。関節部から押さえられたために抵抗すらも出来ない。

 「ぐ!!」

 「これよーり、バルラシオン裁判を始めマース!」

 「被告、この野郎は我らバルラシオンおよび偉大なるネオプラント様の崇高なる行いを次々と邪魔した容疑がかかっていまーす!」

 「それは残虐だなぁ!」

 「現在までこいつは4体の怪人様をぶちころし、多くのミュータントとロボットをぶち殺すというとてつもない殺人犯でーす!」

 「よって判決!四肢を切断してから首を切り落とす惨殺死刑と処する!」

 「いえええええいい!」

 びゅん!

 ざごっ!

 奇声を上げたデビルライダーが、トマホークを抱え上げて、ツェータの左肩を切り落とした。赤い液体が、切り口から噴出してくる。

 「うああああああああああああああああああああああ!!!!」

 「うう〜ん、いい悲鳴ですねぇ」

 「では次は右腕を」

 ざごっ!

 「あああああああああああああああああ!!!!!」

 「ありゃぁ〜、間違って肩越えちゃったよぉ!」

 「どうせ死刑だから気にすんなって!次は俺が・・・」

 「やめて!」

 残虐すぎる・・・その光景に成美は悲鳴に等しい懇願を叫んだ。するとデビルライダー達は、まるでそれを待っていたかのような声をだした。

 「ほぉ〜。弁護人はこの判決に不服と?」

 「何が弁護人よ!この最低最悪のクズ野郎!怪我して動けないソーイチいたぶってそんなに楽しいの!?」

 「あーあ、楽しいさぁ!こいつらは俺達真なる人類を滅ぼそうとしている、邪悪な民族なのだからなぁ!」

 ぞくっ!

 ざごっ!

 「ぎゃああああああああああああああ!!}

 「左足ゲットー!」

 ざごっ!

 「がああああああああああああ!!!!」

 「右足ゲットだぜ!びっびがじゅうう!」

 「おいおい、もう首と体だけしかねえぜ!」

 「ひゃっはっは!おじょうちゃん!俺達が怖いのかなぁ!?おおかみさんが食べちゃうぞぉ!」

 「おいおいやめとけよ!おじょうちゃん、こいつはねぇ昔レジスタンスでライダーやってたんだけどよ、奪い取った都市要塞にいた婦女子どもを10人ほどやりまくったもんだぜ!必死に泣き叫びぶ女の服を破いては捨てて破いては捨てて顔面めがけて―――」

 「きゃ〜はずかち〜!でも俺っておじょうちゃんみたいな年齢はストライクゾーンなんだよねぇ〜」

 じゃきっ!

 「おいおい!心臓狙うんじゃねえぞ!」

 「わかってるって!」

 「あそこにいるライダーみたいに、抵抗する手と足を切り刻んで、そこからお楽しみするのが趣味なんだよねぇ〜あいつ」

 「軍法会議で処刑されそうになって逃げてきて〜久々の獲物〜」

 じりじりと、近寄ってくるその黒いライダーに、成美は今度こそ生命の危機を感じた。

 「ひぃ!」

 「いいねぇその顔〜レジスタンスを作った女をおれがはじめてだなんて・・・ひっひひひひっひ!」

 「こいつを殺したくなければおとなしくやられな、おじょうちゃん?」

 「ひゃははははは!もうその決定権はねえですぜ隊長!」

 ばっ!





 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 「ぎゃはぐげ!?」

 空中で変な軌道を描いて、成美に向かってジャンプしたデビルライダーはミンチと化した。

 「だ、だれだ!?」

 ドガガガガガガガガガガガガガガ!!

 「ごぐが!」

 「ひがほ!」

 「ぎはあ!」

 何者かをたずねると、弾丸が答えてきた。

 「・・・最ッ低の連中ね、アルフ」

 「おお、ひでえ連中だ。俺だったらもうちっと子女の扱いに自信があるぜ。すくなくとも女性の意見は尊重するからよ」

 がごっ!

 「バカ言ってないで助けるわよ!エロ貴族!」

 「あいよ・・・」

 声の正体は、アルフこと仮面ライダー]V、およびメイリンこと仮面ライダーナイトミラージュだった。さらに後ろには2台のリアロエクスレーターがたたずんでいる。

 「バイク!いけ!」

 <了解!>

 「あんたも行きなさい!」

 <りょうかい!>

 じゃきっ!

 ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 「リ、リアロエクスレーターだ!」

 どがががががががががががががががががががががが!

 「ぎゃは!」

 「ごげっ!」

 「ぎゃああああ!!」

 「ぐが!」

 「ほげええ!!」 

 リアロエクスレーターの一斉射撃は、デビルライダーの大群を血祭にあげる。数人は抵抗するが、リアロエクスレーターの装甲を貫くなど到底出来ず、地獄の門を潜り抜けていく運命となった。

 <このセンソー犯罪人め、ボクが成敗してくれる〜!>

 「なめやがっ・・・」

 どがががががががが!!

 「ぐごは!」

 ツェータを取り囲んでいた連中の最後の1人も叩き潰し、NT(ナイトミラージュ)の方のリアロがツェータに駆け寄った。

 <いやぁ曹長。ずたぼろですねぇ〜>

 「バカ言っていないで・・・早くしろ・・・」

 <無茶言わないでくださいよ。って、あ〜あ、間接ユニットからぶっ壊されてれる。これじゃ予備のアームユニットやレッグユニットはつけられませんって。>

 「・・・・」

 <御心配なく。ちゃあんと直りますから>

 よっこらしょっ、とリアロは、サイドカーのマニュピーレータを使って、四肢のなくなったボロボロのツェータを格納した。

 一方の成美も、もう一台のリアロに

 <ほら成美さん。早くお乗りになって。>

 「え・・・その・・・」

 <曹長なら大丈夫よ。直すところがあるから。>

 「え・・・うん。」

 渋々というわけではないが、やや心配そうに成美はサイドカーに乗り込んだ。

 「よぉーし!一旦撤収するわよ!」

 <了解!>

 <りょうかい!>

 「アラホラサッサー!」

 メイリンの指示を受けたツェータと成美を乗せた2台のリアロエクスレーターは、その場を後にしたが・・・



 「逃がすなぁ!」

 茂みから無尽蔵のバイクの大群が飛び出した。

 <うげっ!あいつらまだこんなにいたの!センサーにも引っかからなかったのに〜!>

 <識別信号不明ってことは、あいつら・・・てか見たところ30台はいるわよ・・・ちょっちやばいかもしれない・・・>

 「ゴチャゴチャ言うんじゃない!バイク急ぎなさい!」

 <了解!>

 <りょうかい!>

 ぶおおおおおおおおおおおおおおお!!

 リアロエクスレーターは猛烈なスピードを上げ、都市郊外方面に向かう。

 「で・・・あたしたちどこに行くの?」

 「とりあえずシュバルツグリーンまで逃げるのよ。家に帰ったらあんたの居場所が分かっちゃうからね」

 「しゅばるつ・・・?」

 <ガンダムのあれじゃないからねぇ〜>

 「バカ言ってんじゃないわよ。あたし達の旗艦よ。イージス駆逐艦」

 「いーじす!?」

 成美も聞いたことがある。確か日本の自衛隊も持っている戦艦だかなんだか知らないけど、そらおっかないもの持っている船だ。

 「逃がすなぁ!うてぇ!うてぇ!」

 ダダダダダダダダダダダダダダダダ!

 <あわわわわ!少尉、あいつらタイヤ狙ってきます〜!>

 「街中で容赦ねえ連中だ!」

 <パンクしたらあたしたち減速しなきゃまずいから・・・大ピンチよ!>

 デビルライダーの執拗な攻撃が続く。

 <アナライズ完了、少尉、あいつら『疾風』の同型機を使ってます!>

 疾風、リアロエクスレーターの前任の主力戦闘バイクだ。最高速度はおよそ1400km/h、リアロエクスレーターの20分の1程度だが、市街地で馬鹿みたいな速度が出せない以上、瞬発力や旋回性、加速性に劣るリアロのほうが圧倒的に不利である。

 「あれってどこからどう見ても疾風じゃないわよ・・?」

 確かにフォルムは疾風ではない。みょうちくりんにごつごつしているのだが、リアロエクスレーターの目はごまかせなかった。

 <偽装してるんですよ!エンジンの音もごまかしていますけど、あのトルクの振動パターンやらタイヤの摩擦音やらは僕達にはごまかせません!>

 アルフは舌打ちした。

 「ちっ!レジスタンスの中にはまだ小遣い稼ぎしている馬鹿がいるってことか!」

 <そういうことね・・・>

 「んだったら・・・あいつらに〜」

 不意にアルフこと]Vは立ち上がり、

 「バイク!ちょっち自動運転しろ!」

 <どうなさるんです?>

 「あの黒いゴキブリどもに一泡吹かせてやるんだよ!」

 アクセルから手を離したアルフは、バイクにつけていたバルカン砲を持ち上げ、後部座席にたった。

 <あのーそれはまだ試作だから撃たない方が・・・>

 バイクが打たないように進言したが、アルフは否定した。

 「じゃあ今がテストだ。」

 じゃきんっ!ぶろろろろろろろ!!

 痛烈なエンジン音が街中に轟く。

 「!」

 にやぁ!

 「ほらデビルライダーのゴキブリども!くらいやがれぇええええええ!!!」

 どががががががががががががががが!!!



 無尽蔵の弾丸が、そのバルカン砲から放たれた。ガトリング・シュピーゲル、それは20mm口径の8つの銃身を持つ、特製のバルカン砲である。リアロエクスレーターにも似たようなものがあるが、あれとは根本的に違うといってもいい。リアロエクスレーターは戦闘機の通常弾を撃つのに対して、こっちはただの弾丸ではなく、一発一発が着弾と同時に爆発する炸裂弾を放つのだ。

 どががどがだっがっがっがっががががっが!

 ぼきゅぼきゅぼきゅきゅぼきゅうううん!!!

 「ごは!」

 「わああああああああ!!」

 「ひぎゃあああああ!!」

 次々と、炸裂した。バイク「疾風」は対弾性に優れるが、疾風に見せないように偽装したために装甲をお粗末なものにしたらしい。たちまち弾丸の一発一発の爆発にまきこまれてデビルライダーのバイク軍団は爆発の中に消えていく。一部には転んで仲間を巻き添えにしていくライダーもおり、あたり一面は地獄絵図と化した。

 「ひゃほー!」

 <すごい!今ので半分ぐらいやっつけましたよ!>

 「なに、まだ半分なのかよ!全部ぶっ潰そうとしたのに!」

 「ごくろうさんアルフ、もういいわよ!」

 「なんで!」

 不満をはいたアルフが前を見たときは、その理由を理解した。

 目の前が海だったからだ。現在の速度は時速540km/h、間違いなく海にダイブする!

 「おわ!ちょっとまって!止まって止まって!」

 成美は悲痛な声を上げるが、バイクはあっさりと否定する。

 <御心配なく!>

 <ジャンプ!>

 ぶおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 2台のバイクが、柵を越えて海にダイブした・・・・かのようにみえた。



 「う・・・・・・・!」

 「息しても大丈夫よ成美」

 <僕達沈んでいないよ。>

 言われたので目を開けてみると、成美の目の前には信じられない光景が広がっていた。

 「バイクが・・・海の上を走ってる!」

 海風が鼻に浸透し、まるでサーフィンをやっているかのような感覚すら受ける、まさにリアロエクスレーターたちは海の上をサーフィンのごとく颯爽と走っているのである。しかも周囲に水しぶきはまったく飛んでおらず、あたかもアメンボのように静かな音を立てて、すいすいと走っている。

 <えっへん!僕たちリアロエクスレーターはね、タイヤにちょっとした仕掛けをすれば海の上を走ることなんて造作ではないんだよ!>

 <あいつらの使っている「疾風」にはまだ水上走行ができないからはてさてどうなるやら・・・>

 がしゃん!

 がしゃがしゃがしゃん!

 ぼしゃああああああん!

 ぼしゃぼしゃぼしゃあああああああん!!


 はるか後方から、水しぶきと金属の壊れる音が同時にした。

 <あーあ、馬鹿みたいに走っているから・・・>

 <ぼくたちのように水の上を走れないくせに・・・>

 水の上を走れない→宗一は泳げない、ここで成美は思い出したので聞いてみた。

 「あの・・・メイリンさん。」

 「ん、なに?」

 「メイリンさんやアルフさんって、泳げるんですか?以前ソーイチがおぼれた時にそんなこといってたんで・・・」

 メイリンはちょっと間をおいて、

 「・・・・・正直、泳げないわよ。」

 <失礼なこと言っちゃ困るよなるみちゃーん!僕たちの時代は君らのようにプールがなければ、今走っている海が全部どろどろのヘドロになっているんだよ!水資源だってちょっとしかないし・・・失礼なこといっちゃこまるよぉ!>

 「あ・・・その・・・ごめんなさい。でも・・・」

 <でも?>

 「いまあっちでおぼれたデビルライダーは・・・」

 <御心配なく、あいつらも泳げませーん!しかもやたらめったら重いライダースーツのせいで、仮に泳げたとしても沈みやすくなっているし、あいつらのライダースーツには機密性がないから溺れ死んじゃうんだろうね!「疾風」も山岳地帯専用だし、海に落っこちるなんてぶっちゃけありえなーい!>

 怖いことをさらりと言いのけるこのバイク。おしゃべりな分、こういう発言はどことなく子供特有の無自覚の残酷さをも連想させる。

 「ま、そういうことね。あたし達の海だったら泥沼みたいなもんだからすぐには沈まないし、助けられる時間はあるけど、ここの海は純粋な水だからねぇ・・・助けることも出来ないわよ。まあそれでもあいつらのやってきたことと比べれば些細なものよ」

 「・・・・・」

 「あなたも分かったでしょ。あれがあたし達の真の敵。ネオプラントの機械もやっかいだけど、あっちは機械だから善悪の判断をしないだけで、なまじ判断できるあいつらのほうがはるかに残虐さは上よ。長崎に核爆発で消し飛ばすわ、広島都市要塞に核ミサイルを落とすわ、旧東京にやら仙台やらアメリカミシガンや・・・数えられないほどあいつらは核ミサイルを使ってあたし達を皆殺しにしているわ」

 今まで日本地名だったのに最後のアメリカミシガン、という単語が成美に引っかかったが、怖気がする。

 「なんだってそんなひどいことするの・・・」

 「それが人間だからよ・・・」

 それっきり、メイリンは何も言わなくなった。彼女の全身にぶすぶすとした何か殺気めいたものが取り巻いており、格闘術やっている成美にはそれがひしひしと伝わっているのがわかる。核で何か嫌なことを経験したのだろうか。

 <あの〜成美ちゃん。しりとりしない?>

 そんな成美やメイリンの心情を案じたのだろう、リアロエクスレーターが話題をそらしに来た。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 <じゃ、じゃあぼくから・・・イチゴ!>

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 <・・・・・・・・・・・・あのぉ・・・そのぉ・・・・・えーとっと・・・・・ゴリラ!>

 「ゴリラ言うな!」

 打開点が見つからず、リアロエクスレーターは黙り込んでしまった。



 一方の2号機ことアルフ組。こちらも似たような会話を繰り広げていた。

 「うーん・・・だめだなぁ。もうちっと銃身を良くしないと・・・」

 <炸裂弾をマシンガンのように乱射するんだから、どれだけやっても焼け付いちゃいますよ>

 「まあそりゃそうか。家の地下じゃこれぶっ放すわけにはいかねえし、試撃ちできただけでもありがたいと思わなきゃな、なあソーイチ?」

 「あいかわらず・・・お前は無茶苦茶な男だ・・・ドイツ名門財閥のオスカー家の名が泣くぞ・・・」

 「おめーのほうがよっぽど無茶苦茶だよソーイチ。浅岡真崎が泣くぞ。それに頭と首だけになって生きているそれ自体が異常だし何で俺達呼ばなかったんだよ」

 「通信妨害が・・・されていたからだ・・・」

 「妨害?お前の声はちゃんと聞こえていたぞ。でも発信源がどうしてもはっきりしなくてよ、あっちゃこっちゃ探してようやく見つけたらお前さんはこの有様で、成美ちゃんはバージンの危機。まったくマジで焦ったぞ・・・お前さんあっちこっち動いていたんじゃないのか?」

 「俺はあまりあの場から動いていない。動こうにも歩けない状態だった」

 「なっさけねホーケーだ。」

 「・・・お前、本当に貴族か?」

 「ああ貴族さ!ドイツの名門財閥で著名なオスカー公爵家!レジスタンスの民間財政の12%を、軍事財政の15%を占めている、最強の財閥!おれは分家だけどれっきとした高貴な身分の男だぜ!今度血族証明書みせよっか?」

 「いい。じゃあなぜ貴族のお前がライダーをやっている」

 「きまってんだろ。ライバルのイルステッド公爵家に対抗するために狩りだされたんだよ。」

 「・・・」

 「で結局、おまえさんのおっさんにその両家は操られるまま。まったく、ナンパか酒がなきゃやってらんねえぜ。でも、この時代の人工じゃない天然のワインはうまいからまだがまんしているが、それがなきゃとっくにライダーやめてるよ」

 「・・・」

 「まあそれ以上しゃべりなさんな。生命維持装置ぶっ壊れてんだろ」

 <今こっちも必死で応急修理にいそしんでいるんですけどね>

 「心配すんな。こいつ全身に劣化ウラン弾撃ち込まれて死ななかったんだからよ。今更腕と足がなくなったところで死ぬタマかよ。」

 「腹も刺されているんだぞ俺は・・・!」

 「おまえ、相手のナイフを受け止めるってこと考えなかったのかよ・・・?」

 <だからこうやって腹部の殺菌処理やら縫合処置やらやってるんでしょ。じゃあたんぱく質と強心剤入れるから>

 ぶしゅっ!

 「うぐっ!」

 「首筋に打たれたからっていちいちうめき声出すんじゃねえ。お前さんモスクワでも覚せい剤使って命保ってたんだろ。」

 <そうそう。腕がないから首筋に打ってやっただけなのに・・・>

 リアロエクスレーターは元々救助専用のコンセプトで作られたバイクだ。だが『決戦はロシア、ゆえに重武装が必要だ!』という技術者の欲望により戦車バイクとなったが、それでも当初の開発コンセプトは無視されておらず、今サイドエクスレーターの方で、ツェータこと宗一は治療を受けているのだ。応急処置とはいえ麻酔や切開手術、殺菌処理や各種薬物の注入、骨折の場合は代理のカルシウム液体金属を流し込んで治してしまうほど、高度な手術が可能である。

 「・・・」

 「ありゃ?おーい」

 <起きないわよ。さっき打った麻酔が効いてきたみたい。



 それからどれだけ走っただろうか。日本列島がかなり小さくなり始めたころ、水平線から光がともってきた。

 「あ、あれなに?」

 「あれが俺達の旗艦だぜ成美ちゃん」

 「バイク、通信を」

 <了解!こちらデルタチーム・・・識別照合F−0034A001。リアロエクスレーター1号機です。オーバー?>

 今まで子供っぽい口調だったリアロエクスレーターは、突如律儀な口調に変貌した。

 <オーバー。こちらシュバルツグリーン、識別照合確認・・・一人称号のない人間が乗っているようだが?>

 <リアロよりシュバルツへ。彼女は浅岡成美、事情により彼女の保護を優先するために同乗を申請します>

 <オーバー。こちらシュバルツグリーン。申請を受諾した。強襲揚陸低を派遣した直ちに合流して搭乗せよ>

 <リアロよりシュバルツへ。了解しました!>

 5分もたたないうちに水上からごっついホバークラフトが現れ、シャッターが開き、そして私達はそれに乗り込んだ。





西暦2004年7月29日午後10時32分
伊豆大島海上 東南50km 駆逐艦「シュバルツ・グリーン」艦内


 5分の工程を終え、私達はシュバルツ・グリーンの内部に到着した。

 もんのすんごくだだっぴろい空間には、見たことのない飛行機やら戦車やらが所狭しと並んでおり、何に使うか分からないものまである。

 「あ!あれ・・・」

 そのうちの一角に、リアロエクスレーターがあった。だがその数が半端ではない。

 自転車置き場のように無尽蔵にしきつめられたそこは、戦車や戦闘機に匹敵するスペースを確保している。大きさそのものは戦闘機や戦車より圧倒的に小さいのにもかかわらずにだ。

 「あれって何台あるんですか・・・」

 「えーっと、戦闘人員が・・・一個小隊20人で、一個中隊が10個小隊だから200人ぐらいで、それが2つあるから・・・大体400台かな。まああそこにあるのはほんの一部だから、60台ぐらいかな。のこりは全部コンテナに格納されているし、あそこにある分はすぐに出動できるようにスタンバっている連中よ」

 「よ、よんひゃく・・・!」

 つまるところ、400人の仮面ライダーが確認されることになる。気が遠くなってしまう。

 「あ、きた」

 「な、なにが?」

 ざっざっざっざっざっざっざっざ・・・・・

 どやどやどやどやどやどや・・・・・・・

 わらわらわらわらわらわらわらわら・・・・・

 通り道と呼ばれるところなら全ての場所から、大量の人が出てきた。数え切れない人数だ。

 「え・・・えっと・・・」

 やがて人の流れが止まり、格納庫一面が人間で敷き詰められた。うち一番先頭にいる、立派な軍服を着た男が私の前に立ち、中世の騎士のごとくその場にひざまづいた。

 「初めましてミス成美。私はこの艦シュバルツグリーンの副艦長をしているイルステッド=フォン=ジオ少佐であります。」

 切れ目の瞳に190オーバーの長身、高貴なイメージはどことなく貴族のような風貌であり、その声は深々と美しい。このようなかしこまった態度、しかも年上の人間から言われる習慣のない成美はたじろいでしまう。

 「は・・・はぁ」

 「貴女の御子孫である浅岡真崎大統領からの直々の御命令により、仔細ながらも我が駆逐艦の兵力500名が、レジスタンスの誇りと名誉をもって貴女を最後まで護衛いたします」

 「え・・・えーっと」

 「私はヨーロッパの部門の家柄であるがゆえに礼儀に事欠くこともありますがお許しいただけたい。ですが貴女のような女性を守ることは我がイルステッド家の名誉と誇りにかけて―――――」

 「いーかげんにしろ、このへぼ貴族」

 外から横槍が入った。その現況はアルフレッド=フォン=オスカーである。ジオはその場に立ち上がり、

 「誰がへぼ貴族だ。この無能貴族め」

 「んだと!?」

 「貴様が無能だからこのような美しい子女を何度危険な目にあわせたと思っている。貴様が有能ならば危険が及ぶ前に敵を打ち砕くのが常であろうが」

 「ばっきゃろー!どっからか出てくるかもわからねえ敵が相手じゃどうしようもねえだろうが!それともなんだ、オメエならできると言うのかよ!」

 「ああできるさ。貴様が無能だから浅岡の小僧がそんなズタボロなのだろう・・・おい、はやく浅岡曹長を医療班に回せ!」

 「てんめえ〜!」

 「才女の前で私闘をするか貴様は?」

 激しい応酬が繰り広げられた。そっちのけにされている成美は隣にいるメイリンに聞いてみる。

 「・・・なんでこの人たち、こんなに仲が悪いの」

 「ヨーロピアンレジスタンス出身だからね。」



説明:
 レジスタンスといっても浅岡成美が立てたレジスタンスだけではない。ヨーロッパの有力者が立てたレジスタンスや、アメリカのレジスタンスなどがそれぞれ存在し、その中にもいくつか派閥というものが存在する。アルフレット=フォン=オスカーはそのヨーロピアンレジスタンスの中で財政を司っているオスカー公爵家、そしてこのシュバルツグリーンの副艦長であるジオは武門の家柄であるイルステッド公爵家であり、双方共に拮抗した大勢力であったために双方は激しく対立しているのである。

 300年近くに及ぶ激しい対立の結果、それがヨーロッパの解放を遅らせる結果となった。浅岡真崎率いるアジアンレジスタンスが、そんな両家から掠め取るようにヨーロッパを解放したことにより双方の面子は完全につぶれてしまい、今では浅岡真崎の部下となってしまったのである。仕方がないので両家は渋々従っているのだが、いざこうして両家がぶつかると激しい弁舌合戦、ひどければ殴り合いにまで発展する大合戦が繰り広げられるのであった。

 「まあこっちにとっちゃはた迷惑なだけなんだけどね」

 元々このタイムパラドックス阻止部隊は、レジスタンスの命がかかっているということだけあってその任務を全うすれば、その名を轟かせることが出来る。ゆえに多くの有力者達はこぞって支援し、ついにSBテクノロジー社は駆逐艦の無償の修理を、ガーデック・テクノロジー社はリアロエクスレーターの大量譲与を、BNエンパイア社は技術スタッフと戦闘機もろともを派遣し、あちらこちらの企業はこぞって資金提供をする事態にまでなった。ヨーロッパの有力貴族であるオスカー公爵家とイルステッド公爵家も自分達の家柄の出身者をあてがうこととなったのだが・・・衝突を起こすのは火を見るより明らかだ。

 「この××の●●が!」

 「だまれこの▲▲の■■貴族が!」

 「んだとてめえ!」

 「やるか!?」

 すでにこっちのことなど、双方等もに眼中にない有様だった。その場にいるクルー達も、浅岡成美もこう思った。

 (こんな人たちで大丈夫なのだろうか・・・)
















西暦2312年7月1日午後9時00分
旧大阪 レジスタンス統合作戦本部ビル 40階


 「ですから!いくら元帥閣下であろうとも大統領閣下にお会いさせることは出来ません!」

 「いい加減にしろ!貴様この方を誰だと思っている!ウォルフガング・ミューラー元帥閣下がじきじきに大統領閣下の下に馳せ参じまいられたというのに、会わせられないとはどういう了見だ!我々陸軍を舐めているというのか!?」

 「う・・・・・」

 高層ビルの入り口で激しく対立する両者。一方は若い師団長と数名のライダー兵を連れているが、もう一方、真崎直属の親衛隊「シヴァの使徒達」は階段、エレベーター、非常階段全てに護衛兵士を無尽蔵に配備し、臨戦態勢だ。数も根本的に違い、ミューラーたちは10人に対して親衛隊は300名、同考えても勝ち目はなかった。

 「・・・・・」

 「私と大統領との仲を貴官は知らないわけではないだろう。そこを通せ」

 ライダー旅団のナンバーワンであるウォルフガング・ミューラー元帥は、第10ライダー師団長であるトーマス大将を引き連れて、エカデリンブルグ要塞から帰還したのだが、報告すらもままならないレジスタンスの親衛隊のしつこい石頭に悩まされていた。いくら戦果を報告しようとしても、あれからずっとこの調子だ。

 「・・・ど、どうあろうとも・・・閣下をお通しすることは出来ま・・・せん」

 ウォルフガング・ミューラーと、現在エカデリンブルグ要塞で指揮を取っているナイトハルト・ジェッカーと浅岡真崎。この3人は士官学校から親しい間柄だというのは誰もが知っていることである。これだけならば親友というだけで元帥の称号を得たのだと陰口を叩かれるものだが、この3人は真崎がクーデターを起こしたときから常に最前線に立ち、当人達以外では誰もが足元に及ばぬ膨大な功績を打ち立てているのだ。真崎も軍部に信頼できる将軍はもっとたくさんいるが、寝室までの立ち入りや、将軍で唯一リムジンへの同乗を許されるのは事実上、この3人の間でしか許されていない所からも、以下に真崎が二人を信頼しているかがよく分かるであろうか。

 「・・・ふん!ならまた明日出向くまでだ。それまで正式に大統領閣下の耳にちゃんと伝えろ!このウォルフガング・ミューラーがじきじきに大統領閣下の下に馳せ参じたとな!」

 そう言い残して、ミューラーたちは帰っていった。親衛隊一同はそれにほっとしたが、次からは逃げられないと確信した。何しろ大統領の信頼がもっとも厚い人物を追い返してしまったのだから。





5分後
リムジン内


 「まったく、けしからん連中です!元帥閣下であっても大統領閣下との面会をお許しにならないとは」

 「・・・まったくだ。大統領閣下が監禁に等しい保護下に入っていると聞いていたが、ここまでとはな・・・」

 ミューラーが憤慨するのも分かることだったが、彼はそんなに怒っているようには見えなかった。

 「ですが閣下・・・」

 「そう怒るな。元はといえばテロを行ったバルラシオンが全て悪いのだ。『シヴァの使徒達』はそれに過敏に反応しているだけに過ぎないし、奴らはそれを狙って来ただけにしか過ぎない。どうも最近は親衛隊が悪いという風潮が高まってきているようだが、問題の本質を忘れてはいけないぞ」

 「は・・・はぁ・・・失礼しま・・・・!!!!!!」

 言い終わる直前、窓を見ていたトーマスの顔色が変貌した。それまで控えめな顔つきだった彼の顔から生気が失われる。

 「・・・どうした?車酔いでもしたのか。貴官らしくない」

 「車を止めてくれ!」

 いきなり車を止めろと叫ぶトーマス。若手の中ではもっとも冷静である彼が、明らかに動揺しているのだ。

 「お、おいどうした!?」

 「閣下、今しがた大統領閣下が・・・あの店に・・・!」

 「な!?」

 トーマスが驚く理由は簡単だった。監禁状態の大統領が、よもや街中に出ているとは知る由もなかったのだ。

 「き、貴官のみ間違え・・・とは言えんな」

 トーマスの動体視力は2.0。彼自身がライダーでもあるので当然であるし、いつも時速200km/h以上のバイクに乗り回しているので、たかだか時速60km/hで走行している車から人の顔を見分けることなど、造作でもないのだ。そんな彼が真崎の姿を目にするとは・・・

 ブレーキをかけ、リムジンは街中に止まる。

 「お前達は先に帰っていろ。」

 「ですが護衛は・・・」

 「護衛などつけたら目立つだろう!後で呼ぶ!」

 ミューラーはサングラスをかけ、目立つ元帥マントをはずす。トーマスも同様にサングラスをかけ、銃の弾薬をチェックしてミューラーの後に続いた。





同時刻
旧大阪 ナンバシティ レストラン『クイダオレ』


 街はきらめくパッションフルーツであるのはこの時代も変わらない。多くの人種が街中を歩き、騒ぎ、笑う。人々の顔には笑顔が見え、明らかに自分の政治がうまく言っていることを男は確信した。

 「さて・・・」

 もっとも真崎が独裁者となる前の20年前は、それはひどい有様だった。エネルギー生産が追いつかないために街からは光が消え、警察システムが働かないために売春強盗不良は跋扈し、福祉政策がすっからかんだったために子供や老人はおびえながら暮らす日々を送っていた。経済も崩壊していたために都市部でありながらも貧困や飢餓が当たり前のようにあったし、医療システムも弱体化していたので疫病で街が滅ぶことすらもあった。

 それがたったの20年で、ここまで回復したのは、明らかに真崎自身の政治力がなせる業だった。犯罪発生率は90%以上もダウンし、検挙率も上昇、福祉医療制度の充実も徹底し、戦争に連戦連勝をしたおかげで人々は生きる希望を見出したのだ。復興事業で経済は回復し、社会システムの回復はめざましいものがあった。現在の真崎の内閣支持率は実に91%に及び、20年間の政権でこれだけ高い水準を維持しているのは、ごくまれな出来事である。



 「人民にとってもっとも良い政体とは何か」、身もフタもない言い方をすればその答えは「善君による専制政治」である。独断的とはいえ、王の決定の邪魔をする貴官の存在しない専制政治はドラスティックさや改革のスピードは民主主義のそれを圧倒するからだ。専制政治とはつまり独裁政治、独裁者と聞くと聞こえが悪い。ナチスドイツのヒトラーや、古代ローマの暴君ネロをはじめとした悪例があるからどうしても専制政治は悪いというイメージがあるが、独裁者で善君だったケースもある。

 ケマル=パシャ。第1次大戦時代にトルコに民主政治を実現させた人物である。彼の場合は民主化を進めようとしても、男女差別を前提としたイスラム教によりことごとく苦労させられ、独裁者ゆえに後継者に適当な人物がおらず、その能力が仇となって死ぬまで大統領をやらざるを得なかった人物である。だが西欧諸国の脅威からトルコを守り、イスラム国家でありながら唯一政教分離を果たし、女性差別がない国家を確立したとして、トルコ建国の父と言われる人物である。実際問題、トルコの生活水準は中東ながらも最高水準に位置しており、中東とヨーロッパの通り道という地政学的な条件を含めても西欧諸国から一目をおかれる存在である。

 独裁者が善君か悪君かの明暗を分けるのは、その人物の死の前後からとれる。晩年のケマル氏が病気に伏せたとき、彼を看病しようと心配する市民の大群がつめかけ、大統領官邸の門を破壊してしまっている。死体をさらされて焼かれた三国志のドウタク、愛人と共に爆死したヒトラー、皇帝の座を追われて自殺したネロ・・・時代がどれだけ進んでも、頭の使い方が違うだけで、人間の精神性はちっとも進化していないのだ。

 こればかりはどうしようもない。真崎としては、少なくとも自分の後継者を確立しなければならなかった。少なくとも自分が死ねば、人類は有力者達を中心に集まり、戦国時代のような内乱状態になるのは明白であるため、死ぬわけには行かないのだ。ゆえにバルラシオンはそれを狙い、親衛隊はそれを阻止センがために真崎を監禁状態に追い込まざるを得ないのだ。真崎としては仮に自分が死んでも政体に異常が起こらない、強力な政体を作らなければならなかった。



 「・・・」

 男は帽子を深く被り、閉店となった店の戸を開ける。

 「あ、いらっしゃいませ。すいませんがうちは9時までの営業なので・・・」

 「そこを何とかお願いいたしたい。」

 「そうは言われましても・・・また明日お願いします」

 「明日はないのです。無理を承知でお願いします」

 「ですから・・・店は他にもあるでしょう。うちは午後9時までの営業なので・・・」

 「他の店ではまずいのです。客がいないあなたの店で食べたいのです」

 「・・・営業時間を無視するわけにはいかないんですが」

 「それは承知しています。ですが私はとある事情であまり多くの人と顔をあわせたくはないのです。」

 男は一向に引く様子もないので、店長は口を荒げる。

 「ですから!」

 「お願いしたい」

 深々と帽子を被っていた男は、それをはずした。それまで見えなかった素顔があらわになり、店長は驚愕した。

 「あ・・・」



 オールバックのヘアーに全てを見透かすような鋭い目、20代後半の美貌・・・そしてテレビや新聞などのメディアでその顔が出ない日はないといわれるほど、人々の記憶に強く残る人物だった。レジスタンスの人民5億を導き、その圧倒的な政治力で人類を立ち直らせ、数々の戦争で勝利に導いている人物だったのだ。

 「あああああああああああ!!浅岡真崎!?」

 「いかにも、そうです。夜分失礼ですが、私のような身分の人間ではそこらにある店で食べるわけには行かないのです。」

 「ででででででですが!なぜ大統領閣下は!?もっとよろしいものを食べているでしょう!」

 「でもない。」

 真崎がこっそりとビルから抜け出した理由、それは毎日の食事に嫌気がさしたからであった。飯のバリエーションは増えたが、毎日が冷えたご飯やパン、べろべろに伸びきった麺類、がちがちに固まったおかずが一ヶ月も続けば、誰だって嫌気が刺すものである。何度訴えても親衛隊はそれを聞き入れず、ついに我慢の限界に達した真崎は今回の暴挙に出たのであった。

 「・・・・・そんなにご苦労なさっていたのですか」

 「私も本懐ではない。だが・・・」

 「わ、わかりました。とりあえずそこの席にお座りを・・・」

 「大統領閣下!」

 更に声がした。その正体に店長は、またしても驚愕する。レジスタンスのライダー軍の責任者であり、戦争の天才でもあり、浅岡真崎の盟友としてその名を知られるウォルフガング=ミューラー元帥が現れたのだ。その隣には対象の階級章を肩につける最年少の将軍、トーマス=シュトライト大将もいた。

 「・・・ミューラーではないか。なぜ貴官がここに?」

 「それ以前になぜ閣下がこのような店にいるのです。御自分の食事すらにも嫌気が差したのですか」

 「そんなところだね。」

 久々の親友との再会に、真崎は苦笑いをした。





 「・・・なるほど、そちらの事情は理解した。」

 「13師団に続き11師団も壊滅的打撃を被っただけでなく、指揮官も負傷するという大事態・・・自分の不徳がなしたことです」

 「戦いに行く以上、兵士に死者が出るのは止められないことだ。それでもその程度の損害で済んだのは幸いだったかもしれないね」

 「は・・・はぁ。」

 「とはいえ軍部ではあの程度の小さい要塞、という認識が広まっている。だが実際に戦えば2個師団が壊滅するという大打撃を被った。モスクワ都市要塞での戦勝気分で浮かれている政治屋やクソマスゴミどもにはこれ異常ない溜飲だろう。戦争を甘く見ているからああなったのであり、補給をおろそかにした軍本部に責任がある。」

 ずるずるとスパゲティーミートソースをほおばる真崎。冷飯ばかりで熱い食材に相当飢えていたのだろう、瞬く間に食べきってしまう。

 「マスター、ステーキを頼みたい。時間はいくらでもかかっていいから、この人工牛のビーフステーキ300gのミディアムを」

 「は、はい!」

 パスタ一枚をたいらげたというのに物凄い食欲だ。冷えた肉類は基本的に固くなるので、真崎は肉にも飢えているようである。続いて真崎は二つ目のパスタ、ナポリタンに手をつけ始める。

 ちなみにこの時代では生き残った牛やブタなどはほとんど希少種であるために、「人工牛」とはクローンで増やされた意味である。

 「それにだ・・・ミューラー元帥。その指揮官が怪我したとはいえ、死に至らなったのはちょっとまずいかもしれない」

 「食べながらしゃべるのは止めていただきたい。それはいいとしても兵士はたくさん死んだのに指揮官がのうのうと生きているのは何事だ!とマスコミがうるさそうですね」

 「・・・」

 同席していたトーマスは黙りこくった。その11師団のメアリー大将を救ったのは、紛れもない自分自身なのだ。

 「分かりやすい思考原理だが、ばかげてもいる。組織というのは指揮官が生き残れば再生や責任を取らせることは可能だ。だが指揮官が死ねば再生は出来なくなる。その原理を連中は完膚なきまでに無視しやがって・・・笑わせてくれるな。その指揮官が自分だけ逃げおおせようとしたのなら話はわかるが、作戦遂行中にしにかけたとあってはそうもいかんだろうしな」

 「・・・」

 「トーマス大将、貴官の働きは十分理解した。同胞を救い、自らも危険を承知でデビルライダーどもに果敢に挑んだその勇気は賞賛に値する」

 「はっ、閣下のお言葉だけでも頭が上がらない思いです。」

 トーマスの意外な態度に、真崎は一泊おいて、

 「貴官は歳はいくつだったかな・・・たしか30か・・・」

 「31です。」

 「そうか、私やミューラーより6歳も下か。その年代の将官といえば若さゆえに命令を聞かないわがままばかりだが、貴官はそうでもないようだな。私より年上ならば生意気なキザとして言うことを聞かんし、まったく政治やら年功序列やらは面倒だ。実力主義にするのもいいが、そうすればすればで成果を取れない才能ある人物が活躍できなくなるし・・・」

 「ステーキ出来ました。」

 ステーキの横槍が入り、真崎の思考回路は食欲にシフトした。

 「ああ久々の肉だ・・・うまい。本当にうまい・・・一ヶ月ぶりにまともな肉を食べられることがこんなにいいとは・・・」

 器用にナイフでステーキをさばき、真崎は自らの食欲に忠実となった。

 「・・・そんなに食事に苦労なさっていたのですか」

 「ああ。冷えた飯はまずいし、毒見をしているやつら(親衛隊)のほうが俺よりいいものを食べているんだぞ。まともな話相手もいないし、俺が冗談を言ってもあいつらは本気で受け止めるから会話にもならん。俺は江戸時代の殿様か・・・それに比べればこの店のステーキのほうがはるかにいい」

 「お・・・恐れ入ります」

 大統領のお墨付きをもらった、マスターはそんな気分だった。

 「こうして思うと、修行僧というのは本当に我慢強い連中だと思う。肉を食べることを禁止するのはこんなに辛いことなど、身をもって味わったからな。親衛隊の連中は俺に冷えて固くなった肉を食べさせるんだぞ。食べられるものじゃない。」

 「600年前の仏教徒は肉を食べられないことを腹を立てて、がんもどきと言う乳製品で鶏肉を食べられないうっぷんを晴らしていたそうです。他にもたぬき汁や塩あじの豆腐のキジ焼きなどもあるそうで」

 「なるほど、僧侶といえどもしょせんは人間ということか。はっはっは」

 「そんなところです」

 陸軍の最高責任者と人類の最高責任者が街中のレストランでこのようになごんでいる光景は、ある意味シュールだ。笑い終わったところで真崎が先に切り出した。

 「それはいいとして、こうやって毎回毎回抜け出して食べるわけにはいかない。主席元帥が仙台の討伐派遣計画を立てているようだが、空軍と海軍が渋っている。」

 「未だになされていないのですか・・・海軍と空軍は何をしているのです」

 「両軍共にシビリアン・コントロールを破りたくないと渋っていてな。悪しき前例を作りなくないと文句を言っている。予算がないだとか、次の都市要塞攻略作戦があるからイヤだとか・・・言っていることは正しいがあいつらめ、俺が食事でどれだけ苦労していると思ってそんな口を叩いていやがるんだ」

 苦笑する真崎だったが、その顔は明るくない。

 「・・・」

 「だがこうも言っていられないな。あれ以上まずい冷飯を食べさせられるとなればそうも言ってられん。ちょうどいい人選もいる」

 「人選ですか。誰がいるのです」

 「トーマス大将、君にやってもらおう」

 「!?」

 行儀悪い真崎に手に持っていたフォークで指名されただけでなく、びっくりするトーマス。無理もない、空軍と海軍が、表向きにも討伐しようとしているのにそれを掠め取るような真似をしようというのだ。

 「で・・・ですが!」

 「シビリアンだろ。私が許可した。貴官は11師団を救出した功績があるし、こうしてまともに話してみたが、貴官が他の将帥と比べて謙虚である面が気に入った。その度量も十分だ」

 真崎は懐から手紙を取り出し、ペンでさらさらっ、と何かを書く。

 「・・・それは?」

 「命令書だよ。戦時法で大統領命令は絶対だからこれで法的根拠はばっちりだ。ミューラー元帥は主席元帥の所まで行ってこのことを伝えてくれないか。」

 「・・・ですが大統領。外界から隔離されている閣下が我々と会うことを証明するようなものは・・・」

 ミューラーが危惧したが、真崎はばっさり切り落とす。

 「貴官と俺の仲だろう。そんなのはへったくれだ。」

 真崎は内心怒っているようにも見えた。一度彼を怒らせれば、相手はそのプライドをずたずたに引き裂かれるまで真崎の毒舌の嵐にしてやられるのだ。その毒舌ぶりは特に有名である。以前真崎はテレビの討論番組に出演したことがあり、いいかげんな論理で攻めてくる男を、完膚なきまでの毒舌で、放送中にストレス性脳内出血にまで追いやり、病院送りにさせたことがあるほどだ。

 「空軍と海軍がうるさくなりそうですが・・・」

 「あいつらは何も言わんし彼らも内心はホッとしているだろう。私の命令で許可なく攻撃をしかける事は絶対に出来んのだからな」

 「・・・」

 「主席元帥が言っていたぞ。ミューラーたちは自分のもくろみ通りに命令違反を犯して要塞に攻撃をしてくれるだろうとな。結果的に要塞は陥落し、バルラシオンのテロリストどもは失敗したと泣き崩れているだろうしな」

 「・・・そのことですが」

 「心配するな。テロの前日までに私はお前達に許可を与えていたのだ。いざとなればいくらでも弁論してやる」

 そうじゃなくて、ミューラーが言いたかったのは、バルラシオンの画策を真崎が読み取っていたかどうかの真意を聞きたかっただけであった。だがこうやって話している以上、自分を封じ込めて攻撃を遅らせ、年内の決戦を先延ばしにするばかりか、浅岡成美の暗殺のチャンスを増やそうとしていることを、真崎はちゃんと理解していたのであった。だからミューラーたちの無許可の攻撃は理的行為でも法律違反でもなんでもなく、ちゃんと理にかなった行動だったのだ。

 あれ以上攻撃を遅らせれば、間違いなくネオプラントとの決戦は1月か2月のブリザード下の決戦となり、膨大な戦費と死者がでるからである。モスクワ都市要塞戦は、あえて敵の裏をかくためと、少数によるおとり及び特殊部隊による中枢部制圧作戦だったのでほぼ1日ぐらいで済んだ。しかしネオプラント本拠地となればそうも行かない。更に遅れればネオプラントは兵力を再編成するだろうし、バルラシオンもテロをするし、浅岡成美の危険も増えるのだから、ミューラーの攻撃は至極当然なのだ。このペースで行けば11月に決戦が間に合うだろう。

 「・・・了解しました」

 「まあそれはいいが・・・マスター、次はこの「シーチキンピザ」のLサイズとワインを、それとチーズとホットサラダを」

 「まだ食べるんですか!?しかもそんなに」

 「当たり前だろう。貴官らもまだ食べていないのだろう?どうだ?」

 「ではありがたくいただきますが・・・・・それにしても閣下、どうやってその部屋から抜け出したのです?」

 真崎の密会と食事は午後11時まで続いた。後にこの店は真崎が解放されてから「大統領名誉賞」と共に報奨金20億クレジット(およそ2000万円)を与えられ、店長は真崎が死ぬまで専属のシェフとしてレジスタンス御用達の店舗として脚光を浴びることとなる。

 その後この店は大統領御用達の店として高級料理店としてチェーン展開し、その名を世界中に轟かせることとなるが、それはまた別の話である。
















次回予告



「・・・どういう敵が来たのかね?」
「ぎぃ・・・ぎーぎぎっぎぎぎ!」
「・・・それは本当なのかね?スカルスコーピオンの戦闘員?」
「ぎいぎぎい!」
「日本では我々の邪魔をしていたようだが・・・・・その君たちが我々の元にやってくるとはねぇ?」



「ぎぎぎ、ぎぎーぎぎ!」
「ほう・・・」
「ぎぎーぎぎ!ぎぎっぎぎぎぎ!」
「同盟関係にあったわが組織にかけこんだ事情はわかったよ。だが・・・マユツバっぽいね」
「ぎーぎーぎー!ぎぎぎぎ!」



「ぎーぎーぎー!ぎぎぎぎ!」
「ふざけるな!戦闘員の分際で!」
「何がライダーの大群だ!我々を侮辱しているのか!?」
「ただでさえ陰陽寮の処置に苦労しているというのに・・・貴様!」
「まあまて、ミサイルまで所持しているライダーの大群とは、どういうことか説明をしてもらえるかな?」



崩壊したとある組織、生き延びた戦闘員はいずれもそう述懐した。
「ぎーっぎぎっぎっぎぎぎぎぎ!」



次回「ツェータライダー」
MISSION JULY:「やりすぎの壊滅大作戦:あくのひみつそしきスカルスコーピオンのさいご!」



編集後記




夏が暑くて暑くて日干しになりそうな間津井店長です。前回公開が8月1日だったので、一ヶ月に一話のペースを維持させるために、急遽といいますか、やっきになってといいますか、ともかくも疾風のごとくに書き上げました。はっきりいって出来はハチャメチャですが・・・ここを読んでいるということはもう残りHPが足りなくなっているかもしれません。実際は7月20日から始まり、8月4日に完成していたのですが(うえ!?)、さすがに公開から3日後にやってはどうだろうということで、期間を考えて今日に至りました。
基本的に今回のお話は特訓やら覚醒やら何やらと、色んな意味で仮面ライダーたる実験がこめられています。個人的には実験じゃなくて自分なりに試してみたという感じですが・・・うまくいってませんね、うん。とりあえず言いたいことを下に書き連ねて見ましょう。


・山林が怪人じゃない理由
単純に怪人にしては面白くないと思い、あえて仮面ライダーということでやってみましたが、完全なかませ犬です。仮面ライダーが大量生産されているツェータの世界ではああいったのが当たり前だよ、と言う設定を最大限に利用したのと、ツェータの世界では改造人間の技術は衰退していることになっているので、怪人を作るより仮面ライダーの変身技術のほうが簡単に済むということになっています。細かいツッコミがあるやもしれませんが、そのあたりのところは後々のお話で明らかとなるでしょう。
ちなみに山林ですが、掲示板にお答えしたように実在のモデルがいます。普通だったら脚色してあんな性格じゃないやい、と言われそうですが・・・実際いたんです。山林のような性格の先生が・・・。もっとも中学時代のお話でして、今はなんでもつらい状況にいるようで・・・うーん。不謹慎だ。

・仮面ライダー逮捕!?
元ネタはお分かりですよね。「仮面ライダーブレイド」の剣崎君オロ●ミンC窃盗事件(笑)における彼の脳内世界です。でも個人的にあれって・・・井上さん結構すべっているような気がしてなりません。ネタはいいのですが、どうも演出が足りないというか・・・ということでそのオマージュ?を成美の脳内で再現してみました。こっちは16歳なのでちゃんと「高校生A」と書けますし、週刊誌や新聞にあらぬことをかかれて社会的抹殺を受けてしまうのは・・・世の常かもしれません。だから犯罪者の人権がドウタラコウタラとなるわけですが・・・どっちかというと被害者の人権が軽視されているのが現実です。
文章のあちこちがおかしいのは成美の脳内の出来事として処理してください。彼女は新聞なんて読まないので(苦)。

・デビルライダー
これは戦争における民間人暴行をテーマにしてやってみました。過去の歴史を紐解けばわかるとおり、占領された都市や街ではああいった婦女暴行が公然と行われることになります。近年でもイラクを占領したアメリカ軍が捕虜を暴行したというニュースがありますよね。毎日が死と隣り合わせの日常を送る人間っていうのはああいう精神になっちゃうものです。普段から殺されるか殺すかの瀬戸際にたたされているものだから、人間一人を殺すかどうかなんていう感情はすでになくなっていますし・・・。戦争で負けちゃうとそうなっちゃうということを、反戦団体はもうちっとわかってほしいものです。反戦マンガで有名な「はだしのゲン」だってそういう描写はあるのに・・・ねぇ。

・特訓
これは・・・やりすぎかもしれませんし、個人的にはうまくいかなかったかもしれません。反省。本郷さん、The杖ィさん勝手に設定使ってごめんなさい。その気となれば腹をくくる覚悟は・・・ないです。
ただ宗一は戦闘技量は優れていても銃がない状態だとへっぴり腰、おまけにまだ16歳なので精神的に未熟すぎる面が強いうえに、年齢が年齢であるためにまだ視野が狭いので、その成長のきっかけとしてこの特訓を行ったのが真意です。以後ツェータはスプラッシャーキックではなく、ツェータキックが必殺キックとして使われることになります。スプラッシャーキックは・・・威力がありすぎてやばいので、今後出てくるかどうかは・・・たぶん出るでしょう。ちなみに後半デビルライダーにズタボロにされましたが、ツェータの一種のターニングポイントなのでまあ次回からはきっと大丈夫でしょう。
両腕両脚切られても彼は死にませんし。

・浅岡真崎
毎回毎回未来パートが戦争ものばかりだと食痛を起こしかねないので、あんな感じになりました。絶望の未来を立て直したという功績で彼は主人公と言うわけではないのですが・・・戦闘シーンが皆無だとこんなに楽だというのは、指が狂ってキーボードに書くことも出来ません。真崎の性格は「冷徹な独裁者だけどおちゃめ」な性格なので、個人的にはまああんなものかもしれません。どうやって厳戒体制の部屋から出たんだとかいう理由や、あれこれな謎な部分は今後明らかとなる・・・と思います。

・次回予告
ええと・・・次回は完全なるギャグです。せっかく400人のライダーがやってきたんだから、それでいろいろとお遊びをやろうということです。
それ以上は何も言わせんでくださいっ!



長くなりましたが今日はここでおいとまさせていただきます。次回は9月に・・・なるやも知れません。
それではでは。


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