西暦2312年6月1日午後2時30分
旧大阪 レジスタンス統合作戦本部ビル前




 畜生あの野郎。ただじゃすまさねえ。

 何がレジスタンスのトップだ。大統領だ。

 あいつのやっていることはただの独裁者でしかないじゃないか。

 人々は愚民となってあいつを「解放者」なんて呼んでいるが、俺から見れば民衆を騙し続けている野郎にしか過ぎねえ。

 第一何がライダー部隊入隊禁止だ!?

 俺のどこが悪いって言うんだ。

 俺はあらゆる特殊部隊を渡り歩いたエリートなんだぞ。そこらにいるへぼの兵士とはわけが違う。

 なのになのに・・・あいつは俺をライダー部隊からはずしやがって・・・・・

 この銃であいつの頭をぶち抜いてやる。

 でも今はまだ奴は出てきていない。

 目の前にあるリムジンと、ライダー兵士をどうにかしねえと・・・



 「・・・・・」

 「そう気張るな新人」

 「でも先輩。大統領を護衛するのが任務でしょう。気を抜いたらやっていけません」

 護衛のライダー兵士は新人とその先輩の構成でできていた。さすがに戦勝国が戦争末期となると、こうした部分に余裕というものが生まれるものであり、またレジスタンスの本拠地ということだけあって安全が補償されているようなものだから、こうした連度が低い兵隊で構成されているのであった。

 「だって大統領って・・・私がまだ5歳のころからテロにやられていたっていうんでしょう。」

 「就任直後からあの方はテロに悩まされていたからな。大統領を直接狙ったテロって3桁いっているって話だ」

 浅岡真崎は天才であることは周囲の誰もが認めていたことだったが、彼がレジスタンスのトップに立つことを認める者は、就任当時ほとんどいなかった。何しろとんでもなく頭の回転が速い上に根回しが異常に早く、しかも武断的な面が非常に強い人物である上に民衆からの人気がすさまじく高い、おまけにとんでもなく美形でかつ恋人がまだいないなど、どれをとっても非の打ち所のない人物であったからだ。

 ゆえに危険であった。何しろ彼ときたら「特権は腐ったミカン」発言をはじめとし、「テロ組織バルラシオンに人権なし」宣言、減税に相次ぐ減税措置、当時1000万にまで膨らんでいたライダー部隊の一斉リストラと再編成、綱紀粛正・・・リストアップするだけでもきりがない。こんなことばかりやっていれば権力者達から見れば、真崎はまさに特権を食い荒らすゴキブリのような存在だったのである。

 で、権力者達はなんとしてでも彼を権力の椅子から蹴り落とそうとしたのだが、全て失敗した。どれだけ賄賂を積み立てても「賄賂の現行犯」で彼直属のライダー親衛隊に捕まえられたり、美女を送り込んでメロメロにしてしまおうとしても逆に女性から「私を捨てないで」と逆にメロメロにしてしまう始末。意図的に彼個人の貯蓄に手を加えようとしても真崎は全てハイリスクノーリターンのボランティア支援基金に出してしまい、ヤクザ使って脅そうとすればライダー部隊を出動させてヤクザもろとも手引きをした者を殲滅してしまっていた。

 あらゆる手段を用いても彼を権力の座から降ろすことはできなかった。

 となればテロしかない。

 彼を殺害すればどうとでもなる!

 というわけで真崎は生涯テロと戦っていた。就任1年目で彼はいきなり爆弾テロに遭ったところから始まり、狙撃テロやNBCテロ、暴動テロや扇動クーデター、誘拐や麻薬まで行われており、過去17年間の就任中で真崎は、実に103回の暗殺テロに遭遇するという、まさに壮絶な戦いをしていたのであった。大体の犯行はテロ組織バルラシオンによるものであったが、中にはそうでない企業独断の行動、政治家の策謀も含まれていたのだが、真崎はそれら全てを「テロリストに人権なし」ということで大粛清を行ったものである。その粛清を受けたものは実に45万人に登った。

 これらから真崎の政治は、一部のものが恐怖政治と呼ぶのは当然であったが、そう呼ぶにはやや短絡的である。真崎は重大な作戦以外は決して報道規制など行わなかったし、マスコミの戦争取材の同行も認めていた。言論の統制もまったく行っていなかったし、自分に対する批判文や集会も否定していない。していたとしてもそれは銃器や爆弾などといった危険物を所持していた場合のみで、実質的には言論の自由は保障している。

 しかも福祉や各地の復興活動、交通機関の充実化などにも力を注いでいたし、真崎以前のレジスタンス時代から明らかに識字率、平均寿命、生活水準が上昇していたのも事実である。しかも民衆からしてみればテロで真崎を殺害して利権を得ようとしていることは明白だったために、テロを行えば行うほど真崎に対する支持を上げてしまう結果となってしまったのである。何しろ各地の戦争では連戦連勝をあげ、次々と人類を機械帝国の手から解放しているのだ。ある意味宗教よりすさまじい存在であった。

 「だから!大統領を守らなければならないのが仕事でしょう」

 「気張りすぎるとアリの子一匹を見逃しちまうからやりすぎるなって言っているんだよ俺は」

 「でも・・・・・あ」

 二人の守衛が討論を終えたのは、その護衛対象が出てきたからであった。

 「御苦労、ライダーの諸君」

 「はっ!」

 二人はトマホークを垂直に掲げて、儀式的な敬礼を行う。真崎の隣には側近と思えるスーツ姿のバーコードヘアー男と、彼直属のライダー親衛隊「シヴァの使徒達」数名が睨みを聞かせている。

 「シヴァの使徒達」とは、真崎がクーデターを起こした際に各部署を制圧した、極秘裏に設立させた特殊部隊である。総兵力は3000名ほどではあるが、いずれも一般のライダー兵とは比べ物にならないほどの戦闘技術やあらゆる技能に精通している精鋭中の精鋭のライダーである。

 「大統領、早くしなければ午後からの予定に間に合いません」

 「それは分かっている」

 「ならばなぜ先日の予定プランどおりに動かなかったのですか!?もう30分以上も・・・」

 真崎は少し間を置いて、腕時計を見ながら、

 「・・・・・ああなるからだ」



 どかあああああああああああん!!!

 「!!」

 爆発、閃光

 飛翔、回転、きりもみ

 落下、衝突、四散

 リムジンはまさにそうなった。

 「私も命は惜しいのでね。」

 「な!?」

 「!!!」

 「ほ・・・ほれ見ろ先輩・・・・・」

 「大統領!お下がりください!」

 「リムジンの周囲を警戒しろ!第2の爆弾が存在するかもしれん!あるいはそれを囮にした暗殺者が大統領を狙うかも知れんぞ!」

 「大統領は至急執務室にお戻りください。狙撃の危険性があります」

 「ビルの駐留ライダー隊は大至急ビル内および近辺をクラスAで封鎖しろ!」

 「アリの子一匹見逃すな!犯人は近くにいるのは明らかだ!」

 「ビル内にも爆弾を仕掛けられた可能性も否定できん、直ちに爆弾調査および暗殺者の捜索調査を急げ!」

 「シヴァの使徒達」が真崎の全方位を取り囲み、疾風のごとく指示を出して彼の壁となろうとする。

 バーコードヘアーの側近はあまりの出来事に腰をぬかしていた。

 警護のライダー兵士二人もびびりまくっていた。

 私怨塊の暗殺者もその光景に戦慄した。

 当の真崎はまるで「またか・・・」といわんばかりの無表情で、燃え盛るリムジンを見つめていた。


ζライダー
MISSION JUNE 「梅雨きたりて梅雨さる」







西暦2004年6月6日午前10時30分
東京都豊島区かもめ台345番地 ”地下”5m


 その部屋は四方が鉄板で囲まれていた。

 ただの鉄板ではない。核シェルターに使われている練成レアメタル合金製であることだ。

 更にその部屋には二人の人影と一台のバイクが携わっていた。一人は16歳ぐらいの日本人男性、もう一人は金髪のショートヘアーのアメリカ人女性だ。見るからに活発そうな印象を与える風貌で、どういうわけかバイクにまたがっている。

  そのバイクもバイクと呼べるような重武装を施していた。前方部にはバルカン方を2基、後方部にはミサイルランチャーが取り付いているという、とてもバイクというより装甲車、あるいは戦車と呼ぶほうがふさわしいかもしれない。

 「アプリケーションライダー・・・起動!モードツェータ!」

 <イエス、システム起動。4次元コンテナ解放・・・モード、ツェータオン。>

 ベルトから光が放たれ、全身を包み込んだ。光が晴れていくと、そこにはロボットを思わせるような姿の青い戦士が立っていた。

 <システムスタンバイ。善システムオールグリーン、仮面ライダーツェータ起動>



 「アプリケーションライダー起動!モードナイトミラージュ!」

 <了解!4次元コンテナ解放、ナイトミラージュスーツ展開!>

 腰周りについたベルトがバイクに接続され、強烈な光がバイクを包み込んだ。光が晴れていくと、そこには赤いスーツに身を纏った、ライダーがそこにいた。

 <うわ〜おう、かっこい〜>

 「あんがと、んじゃあ・・・・・よっと。」

 赤い戦士・・・仮面ライダーナイトミラージュはバイクから降り、バイクに据え付けていたトマホークを構える。

 じゃきっ・・・・

 青い戦士、ツェータも足元のトマホークを拾い上げ、構える。

 じゃきっ・・・・

 やがて二人は動かなくなり、しばらく時が止まった。





 じゃきっ!

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 双方共に同時タイミングで飛び掛った。

 じゃりがっぎいいいいいいいいいいいんっ!!!!!

 トマホーク同士の凄まじい金属の衝突恩が鳴り響く。

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 「おおおおおおおおおおおおおお!!」

 がぎんっ!がぎんっ!がぎんっ!がぎんっ!がぎんっ!

 青い戦士と赤い戦士のトマホークが交差し、その度に轟音が部屋中に鳴り響く。火花が飛び散り、強烈な振動が揺るがす。

 「つおおおお!!」

 青い戦士のトマホークの刃が脳天めがけて振り下ろされる。

 「つうええええいい!」

 しかし赤い戦士はその一撃をかわし、横っ腹に一撃を叩き込もうとする。だがそれを青い戦士はトマホークの柄で防ぎ、はじき、距離を開けた。

 「おおおおおおおおおおおお!!」

 青い戦士が再び飛び掛った。

 がぎぎぎぎんっっっ!

 赤い戦士はトマホークを携えなおし、ツェータの突進を間一髪食い止める。

 がぎぎぎっぎぎっぎっぎっぎっぎっぎっぎぎぎぎ!!!!

 力と力のせめぎあい。

 だがマシンスペックからして力の優れるツェータがナイトミラージュを押し始めた。

 ぎぎっぎぎぎぎっぎ・・・・・!

 ぎっぎぎぎぎぎぎぎぎ・・・・!

 ばきんっ!

 力負けしたナイトミラージュの体勢が崩れる。

 「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 ツェータはトマホークを軸点に回転をはじめ、回し蹴り。ナイトミラージュの横っ腹にたたきつけた。

 どがっ!!!

 「ぐ!」

 数メートル吹き飛ばされ、ナイトミラージュはトマホークを落とした。そこにさらにツェータが突進を仕掛ける。

 「うおおおおおおお!!」

 ひゅん!

 直線的過ぎる動きだった。ナイトミラージュはツェータの攻撃をやすやすと避け、彼の後ろに転がっていたトマホークを拾い上げなおした。

 じゃきっ・・・・

 じゃき・・・・・





 「うわあ・・・・・すんごい迫力」

 オレンジのシャギーの女の子はそう感想を漏らした。

 「ほとんど中世の戦士の時代ですね、成美さん」

 隣にいるロングヘアーの女性が言う。

 「でも・・・都市伝説のライダーっていうのとはちょっと違うなぁ」

 更に隣のポニーテールの女の子も言う。

 「元々ライダーって素手で戦うものだったけど・・・こうやって武器を持っていると何か違うなぁ。見た目もネットのアングラサイトの画像とはあんまり似ていないし・・・。確かに頭部のアイセンサーとか腰のベルトとかの共通点はあるけどね。」

 その隣の眼鏡の少年がそうぼやく。

 「どういうのなの?伊南村君」

 「ほら、こういうのだよ」

 写真のなかには変な格好の姿の戦士たちがいた。宗一たちのライダーと比べるといたってシンプルで勝つ身軽そうな人たちの姿だ。ややピンボケや画像が悪かったりしたものだが、大体の傾向はつかめる。宗一たちのライダーはどう見ても不恰好なのだ。

 「変なの」

 「あ!」

 明美の叫び声と共に考えが打ち消されてしまった。彼女らの光景には青い戦士が赤い戦士の頭を捕らえていたのだ。



 「おおおおおおおおお!」

 脳天を捕らえた!

 「甘いわよソーイチ!」

 がぎん!

 手ごたえはあった。だがその刃が当たっていたのは、柄のほうであった。

 「な!?」

 「おおおおおおお!」

 くさびのように打ち込まれたトマホークの柄を使って、赤い戦士は巧みに鉄棒の回転原理で横回転。青い戦士の横っ腹に強烈な膝蹴りを叩き込む。

 「がっ!?」

 完全無防備。

 直撃。

 必殺の一撃。

 青い戦士は数メートル吹っ飛び、壁に叩きつけられる。

 どがしゃあああああああああんっっっ!!!

 内蔵が痛烈に振動、激烈な鈍痛が襲いかかる。

 「ぐ・・・・・・!」

 <ALART。ボディーにダメージ過多。負荷率89%・・・変身解除を開始>

 ベルトから光が放たれ、強制変身解除が行われ、ツェータはもとの宗一の姿に戻った。

 「甘いわよソーイチ。頭を取ったからってあたしに勝てると思った?」

 「・・・・・」

 「まだまだね・・・白兵戦であたしに勝つにはあと3年ほどかな」

 「・・・みたいだな。」

 赤い戦士に腕を引っ張られ、宗一はようやく起き上がった。





 「あ・・・宗一さん負けちゃいました」

 「あいつ弱いのねぇ」

 失礼なことを言う成美。この日は土曜日で、顧問の先生が身内の命日だということらしいので部活が珍しく休み、なので成美は一同を連れて宗一の家に遊びにいったのである。

 あの日以来、宗一たちの素性を知るのは成美をはじめ雪枝、明美、および伊南村健一だけで、皆その場に居合わせたものだけであった。本来ならば浅岡成美以外の記憶を抹消するはずだったのだが、当の本人と同行している者の記憶を消すわけにはいかず、やむなく秘密にしてもらう約束を取り付けた次第であった。

 「違うな成美ちゃん。ソーイチが弱いんじゃない。あのゴリラ女が馬鹿みたいに強いだけだよ」

 後ろで長髪の金髪男が説明する。腰まで届くサラサラな金髪はモデルのようで、うまくいけばハリウッドスター、あるいは貴族でも十分やっていけるほどの、超美形だ。

 「どうして?アルフ君」

 「あのゴリラ女は白兵戦で負けなし、ライダー部隊の中では勝った奴も引き分けになった奴はいないほどつええんだ。」

 「メイリンさんってそんなに強いの?」

 「ああ。あいつよりパワーやスピードが上の奴なんてゴロゴロいるけどよ、みんなあいつに勝つことができねえ。あのゴリラ女はパワーとスピード、技術、精神、経験いずれもとっても最高レベルでバランスが整っていやがるんだ。ケープタウン湾岸要塞やマダガスカル島要塞、ニューヨーク要塞攻略戦全部あいつは先頭で切り込み隊長やっていやがるし、モスクワ都市要塞攻略戦でもビル突入の先陣を担当、中枢コンピューターを制圧しているしよ。あのマンガの戦闘力で計ったら大体300ぐらいいっているんじゃないのか?」

 それが何の意味かは成美には分からなかった。ちなみに「MISSION April」にて中枢コンピューターを制圧したのは、彼女であり、よく分からない方はぜひ確認していただきたい。

 「それってそんなにすごいことなんですか?」

 「ああすごいぜユキエちゃん。先頭をやるっていることはそれだけ大砲や弾丸が飛び交うからな。真っ先に死んでもおかしくないのに、あのゴリラ女はいつも生き残っていやがるんだ。あいつが切り捨てたロボットのスコアは200を超えているって話だしよ」

 「はぁ・・・そんなにすごいんですか」

 なぜか分かったかのような顔をする雪枝にアルフは、ちょっと変な気分になった。

 「じゃあ本田・・・宗一くんが勝てないのは」

 「勝てっこないだろう・・・そもそもあいつの白兵戦はあのゴリラ女の受け売りだよ、少年」

 「ちょっとアルフ!さっきから人のことをゴリラゴリラ呼んで!」

 「げ!」

 いつの間にかアルフの後ろには、赤い戦士が立っていた。ただ鎧と表現してもいいスーツはそのままで、頭部を守るヘルメットは外している。熱いのか、顔から汗を流していてタオルで拭きながら、右手には凶悪なトマホークを握り締めている。

 「小隊長のあたしとしては、ソーイチだけじゃなくてあんたも鍛えてやらないとねぇ・・・」

 「同感だ。狙撃だけに特化しては近接戦闘に対応できないからな」

 その隣には宗一が立っていた。さっきの戦闘服姿ではなく、普段着のタンクトップにハーフパンツ姿である。

 「・・・・・」

 アルフの顔から生気が失っていき、真っ青になっていく。

 「じゃあいきましょうね?」

 「あいたたたた・・・おなかの調子が!」

 「体調不良時での戦闘はより重要よ。敵はそれを狙ってくるんだからね♪」

 「いやだあああああああ!」

 「男なら覚悟しろ!このケーハクスケベ貴族!そのへっぴり根性を叩きなおしてやるわ!」

 メイリンに引っ張られていくアルフ。ライダースーツの効力はONになっているので、大の大人でも赤子のように扱える。だがメイリンは接近戦では無敵を誇るのでライダースーツの有無に関わらないのであるが・・・

 「うわあ・・・」

 「おろかな男だ。白兵戦技を軽視しているからああなる」

 同僚に対しての同情は全く無いようであった。成美は宗一をちょっと軽薄な男だと思う。

 「で、あんたも勝てないじゃないのよ」

 「当然だ。俺の白兵戦技はメイリンの受け売りだ。」

 「つまり・・・メイリンさんは宗一君の師匠に当たるっていること?」

 「そうなるな。伊南村」



 <ほぎゃあああああああああ!!!>

 <おらおら!そんなへっぴり腰でライダーやれると思っているのか!このへぼ貴族!>

 <ふぎゃああああああ!>

 <ボコされて気絶すれば終わると思ったら大間違いよ!あんたがあたしに一太刀入れられるまで訓練は続けるわよ!>

 <ひゃあああああああああ!!>

 <腕もいでも訓練は終わらないわよ!>

 <はぐあああああ!>

 <逃げる・・・な!>

 メイリンの赤いライダーはアルフの緑色のライダーめがけて手斧を投げつける。

 ひゅんひゅんひゅん!

 ごぎゃっ!

 <ほぎゃ!>

 <遠距離戦闘には持ち込ませないわよ!>

 <はう!>

 <おらおらおらおらおらおらおらおらおら!!>

 まさに一方的だった。

 「もういじめのレベルね・・・あれ」

 「ああも一方的にやられると」

 「ちょっとかわいそうになってくるね」

 「自業自得の面もあるけど・・・」

 「当然の結果だ。」

 そう時間もかからず、ナイトミラージュは勝利を手にしたのであった。

 そんな訓練室の状況とは裏腹に、一方の通信室では違った事態が起こっていた。





 「ええー!どういうことですかぁ!?」

 <どうといわれても言ったまでだ。駆逐艦派遣は来月に先送りだ>

 「だからどうして!」

 がんっ!

 「いたっ!何するんですか中佐!」

 デビッドの鉄拳がパオリンの頭に炸裂した。

 「それはこっちのセリフだ!元帥閣下になんてことを言う貴様!」

 彼の言うとおり、通信の相手はライダー旅団の中で4つの兵科を取り仕切る元帥主席、栗田茂主席元帥が映っていた。彼もまた浅岡真崎から才能を認められてライダー旅団の中では最高の地位である「ライダー旅団総司令官」の地位を得たが、他の師団長と違って戦術や戦略に長けたわけではない。むしろ苦手とするタイプである。
 ただ彼はその高い政治力や調整力、経済手腕を誇っており、そういった点ではミューラー元帥やジェッカー元帥も彼にかなうことができないほどで、専門の政治家も彼の手腕の前では児戯同然。戦後は退役すると自称しているが、恐らくそれはかなわぬ夢であると噂されている。

 「・・・え?この人、元帥だったんですか?」

 がんっ!

 再び鉄拳が炸裂した。だがパオリンの言うとおり、彼はどこからどう見ても60代のじいさんでかつ、典型的日本人の顔である情けないおっさんの顔つきであったため、本質的に威厳というものがまったく無いのだ。真崎の政権下の政治家のほとんどが30〜40代であるのに、彼は60代、陸軍最高指揮官であるジェッカーやミューラーは30代の若さと比べられて華やかさに欠ける、どう考えてもそぐわないのであった。

 「・・・失礼しました閣下。元帥閣下御自身が通信をなさるということはよほどの事態だと見受けられますが・・・」

 <あ、いやその娘のことは気にせんでもいい。まあそれは置いといて・・・実は浅岡真崎大統領閣下がテロにお遭いになってしまった>

 「テ・・・テロですと!?」

 <あ・・・いや驚かれても困る。幸い大統領閣下は御無事で健在だ。ただ3年ぶりのテロということで軍部や立法部の中では今や大騒動でな、大統領は今監禁に等しい保護下の状況だ。一種のアレルギー的反応がこちらで起こったために軍部は今やマヒに等しい状態となったのだ>

 「5月に決着がつくとされたエカデリンブルグ要塞はどうなったのです?」

 <予想外に損害が大きかった。13師団が壊滅的打撃を受けたせいで兵力再編成が必須となって補給物資が運ばれて、到着したと同時にテロだ。また動けなくなってしまったが・・・あちらはジェッカーとミューラーのことだ。恐らく私の期待通りに命令違反をして要塞に攻撃を仕掛けるだろうが、どっちにせよ現時点では兵力に余剰が出ないから駆逐艦派遣は来月に先送りになった。>

 「・・・・・御事情は分かりました。」

 <あ、いや心配せんでもいい。すでに送られたかもしれないが補給物資は通常通りに送られる。駆逐艦シュバルツグリーンは7月に派遣されるわけだが・・・後は聞くことは無いか?>

 「いえ、ありません。サー」

 <あ、いやそう敬礼されても困る。私はそういったのが苦手でな。まあそれはともかくだ、そちらが特に不満点が無ければそれでいい。ではもうじき軍部で仙台出兵の会議が行われるからこれで失礼しよう。>

 「仙台・・・ですか?」

 <あ、いや言い忘れてたすまん。実は先のテロの犯人が仙台にいることが判明してな、軍部が世論に後押しされる形で仙台出兵が決定したのだ。軍部もシビリアンコントロールが崩壊するといって渋っていたが、とうとう限界を超えてしまったのでな・・・必要最小限にとどめるつもりだが、はたして陸軍ライダーのトップ二人がいなくなってしまったから私独りではうまくいくやら。まあ空軍のハーロッドやビル、海軍のチェンや義雄がいるから彼らにやってもらうつもりだ・・・あ、長話になったな、すまん。この通信もただではないからな」

 「い・・・いえお気遣い無く」

 <そういってもらうと助かる。ではそういうことだ、失礼する>

 ぶつんっ。



同時刻 地下格納庫

 <いやあ〜浅岡曹長、負けちゃいましたねぇ>

 <あんな大振りの攻撃をするから大きい隙ができるのに、何だって攻撃したのかしらねぇ>

 <そうそう、ぼくの御主人の戦闘技術はライダー随一なんだよ。頭取ったからって振り下ろした状態から脱出する術なんていくらでもあるだろうにねぇ・・・そういうところが頭が回らないんだよねぇ>

 がんっ!

 <なにすんのよ!>

 <暴力反対!暴力反対!暴力反対!機械にも人権を!バイクにも人権を!てかいつからそこにいた!>

 「うるさい・・・!」

 いつの間にか、そこには宗一が立っていた。彼が格納庫にやってきたのは、先の戦闘で使ったトマホークを置きに来たからであった。

 <物に当たるな!物に当たる人間は心がすさんでいる証拠だぞ曹長!>

 <そうそう・・・ってあなた、さっき人権と言っているのにどうして自分をモノ呼ばわりするの?>

 <いやあ、僕達は都合よくできているからねぇ>

 がんっ!

 <2度もペンチで殴るな!バイクを何だと思っているんだ!>

 「お前達はライダーに使役する立場だ。あれこれ言うな」

 <なんだとぉ!何のために僕達に人格がセットされていると思っているんだ!モノを大切にしろってお父さんお母さんに教えてもらわなかったのか!>

 がんっ!

 <3回目だぞ曹長!君は英国海軍将校か!?>

 「俺に親はいない!」

 <比喩もジョークも知らないのかね曹長君!もっと心に余裕を持った方がいいぞ!そんなんだから3号機は没収されるし、電聖ベルトも没収されるし、浅岡成美には疎んじられるんだぞぉ!>

 <そうよそうよ!3号機は一体いつになったら帰ってくるのよ!>

 ぐさっ!

 強烈な一言だった。それまで怒っていた宗一の顔から、急速冷凍で生気が失っていく、必殺の一撃だった。

 <あら〜・・・・・>

 <痛いところついちゃったねぇ・・・・2号機くん>

 <あらあら・・・戦闘技術は1流なのにメンタルタフネスは3流ね>

 <しょせんは16歳ってことだよ。アニメみたいに増長して艦長に殴られて子供は成長するんだし、こーゆーふーに自分本位で育ったからものを大切にしないんだよなぁ。>

 <その偏った知識はどこから持ってきたかは分からないけど、浅岡真崎がこのことを知ったら嘆くわねぇ・・・そういえばあの人の教育方針の一つに”節制”という言葉があったわよね。>

 <うんうん。「人が争う理由は強欲にあり、節制を心がければ必然と争いは減るものなり」・・・・・・いい言葉だよ。この時代の中東では二つの宗教が互いの正義を信じてドンパチしているけどさぁ、結局のところあいつらは石油がほしいだけなんだもんねぇ>

 <石油は火を燃やすものだけど、人間の強欲の炎も燃やすものなのね>

 <うまいっ!座布団一枚!>

 やんややんやと漫才を繰り広げる2台のバイクが気づいたときは、宗一の姿は既にそこにはなかった。













西暦2004年6月11日午後1時20分
私立所縁が丘高等学校 屋内プール 男子更衣室


 気温も順調に伸びてくるこの季節。たいていの学校ではプール開きが行われ、無論所縁が丘高等学校も例外ではない。

 だが、所縁が丘高等学校には都の助成金により5年前に温水プールが作られ、旧プールは現在は防火水槽に改造されたので、季節や気温、天候などの影響を受けることはない。しかもそれまで下火だった水泳部が突如都の中で頭角を現していき、現在では全国大会でタメをはれるほどのレベルにまで達していた。

 「ほらあさ・・・・本田君、急いで!」

 「むしろ君の方が急げ!」

 宗一は正論だった。伊南村は瞬く間に廊下の壁に手をつき、激しい粗呼吸を繰り返す。

 「ぜえぜえ・・・」

 「君は体育には出られないのだろう、なら無理して走るな」

 「でももとはと言えば本田君が「現代社会」のレポートにあんなことを書いたからこんなことに・・・」

 私立所縁が丘高等学校の5時限目は1時35分から始まり、予鈴はその5分前と開始時刻の2回に行われる。だがプールは階段やら長い廊下に加えて、生徒棟からかなり離れており、おまけに着替えの時間などを考慮しないと、大隊10分前までに到着しなければならない。しかも体育の山林先生は時間に関しては非常に厳しいことで有名であり、ゲンコツ制裁を当然とする心情の持ち主、一回でも遅刻をするものは理由の如何に問わず成績を”2”以下に確定してしまうほどの、恐ろしい教師である。

 なぜ彼ら、浅岡宗一と伊南村健一が遅刻寸前の危機に陥ったのには原因があった。事の発端は4時限目の授業の現代社会にて、授業中に出された課題が「現代社会の問題点」についてのレポートである。大半の生徒はうんうんと悩みに悩んでやっとこさ出せたものの、当の宗一は「書いても書いても終わらない」と、周囲を不思議がらせていた。

 結局、宗一が課題を出せたのは授業が終わった昼休みのことであり、とりあえず同じように完成して付いてきた伊南村とともに五十嵐先生の所までに出しにいったのだが・・・その結果は1時間近くにわたる激昂と叱咤であった。その原因は宗一のレポートにあり、以下にそれを記してみよう。



現代社会の問題点
2年B組 浅岡宗一

「日本の問題は教育と無知にある」

 ” まず現在の日本社会の問題ですが、極めて多くの問題があります。第一に自虐的な教育ばかりを施したために世界中から日本が低く見られる傾向が非常に強く、結果それが外交では醜態をさらしている結果となっています。またそれに関連して日本では古代史や現代史などの歴史教育の重要性が極めて軽視されており、また南朝鮮地域の正しい歴史教育を徹底して軽んじているために、彼らに内政干渉をさせ、そしてそれに甘んじて何もいえない状態になっています。これで国際社会といえるのでしょうか、少なくとも自分はそうは思えませんし、「靖国神社参拝」が世界中から批判されていると書かれていますが、これは中国と韓国が批判しているだけで、実際には誰も批判していません。一国の首相が国のために戦った戦士達を慰霊に行くのは至極当然のことですし、何よりも第2次大戦の敵国であったはずのアメリカもこの神社にはよく参拝していますし、ほかのアジア諸国も同様です。そればかりかアジアのフィリピンやタイなどはむしろ戦没者を慰霊するこの靖国神社参拝を肯定し、賛美しています。果たしてこれのどこが「世界中から批判されている」のでしょうか?自分にはまるで理解できません。

 また教科書P110ページには「日本の軍事費は世界第2位である」とありますが、極めて文章量が少ないと思います。確かに軍事費は世界的に見れば多いのは事実ですが、日本の自衛隊は志願制です。徴兵制度とは違って国家は隊員に対して給料を支払う義務が存在し、また国土の狭さや物価の影響も遭い重なっており、実質的には予算の7割が隊員の給料などで消えているので、実際には軍事大国と言い切ることはできません。それにこの教科書には「軍事化反対」とありますが・・・・・どうして軍縮させる必然性があるのでしょう。近隣諸国には核ミサイルを配備している中国、日韓基本条約で謝罪と賠償は完了している事実を国民に隠蔽するばかりで反日国家でかつ親日派を弾圧追放する韓国、国民には圧制を強いて日本人を拉致するテロ国家北朝鮮、同様に核兵器を配備するばかりか日本の北方領土を制圧しているロシア・・・誰がどう見ても危険すぎる相手ばかりです。純軍事的に見れば日本はハイテク兵器による性能的優位を誇っているものの、物量から見れば圧倒的に不利です。特に陸軍は物量では圧倒的に勝る中国や韓国の侵攻を許せば、国土が荒廃されるのは誰の目から見ても明らかでしょうし、弾薬や燃料補給を考えると、もし日本が外国から攻められて本土上陸を許せば・・・実質的に4日しか戦線を維持できません。たった4日でどうやって国土防衛をなすのでしょう?しかも連中はどちらも反日国家です、どう考えても非戦闘員や民間人を虐殺、レイプ、徴兵、奴隷、連行、拉致監禁、人身売買をなどを行うのは明白であり、ましてや連中は捏造隠蔽工作は大の得意です。もし日本が彼らに制圧されればどうなるか・・・この世の地獄が待っているでしょう。
個人的には直ちに拳法第9条を改正して「武力は専守防衛のみに行使される」とすべきであると思います。戦争は相手が問答無用で責めてくるから戦争であり、「平和」を唱えて彼らが撤退するとは思えません。かのベトナム戦争も米軍の枯葉剤使用がきっかけで反戦運動が広がっており、実質的に平和が効力を発揮するのはきわめて遅いです。この日本には左翼と呼ばれる派閥が存在するようですが・・・彼らの精神を疑います。話し合いで解決し、それがだめならば降伏しよう・・・非暴力不服従を決め込むとはあまりにもあまりです。彼らは戦争の恐ろしさや民間人暴行の恐ろしさをまるで知りませんし、平和と唱えれば兵士が逃げるものだとも思っています。「ドラゴンクエスト」の「トヘロス」、もしくは「ニフラム」じゃああるまいし・・・仮に「平和平和」と唱えて日本全土にミサイルすら打ち落とす強力なバリアーが形成されれば平和と唱えてもいいでしょう。ですが現実は自分達の生命や財産を守る自衛隊を苦しめているだけにしか過ぎません。しかも「朝目新聞」や「民社党」・・・彼らは何を言っているのでしょう。確か1995年ごろに起こった阪神淡路大震災で救助に行こうとした自衛隊を、民社党は反対しています。なぜ被災地の人々を助けてはならないのでしょう?党首の神経を疑います。
 彼らもそうですが、右翼も右翼であきれ返ります。調べてみれば彼らの構成員のうちの9割が在日朝鮮人ではないですか。最近のニュースで朝鮮人による犯罪が極めて目立ちますが、彼らは日本人を殺害することは名誉だと言う思考が形成されています。第2次大戦で彼らは日本によって散々な目に遭ってきたと言っていますが、これはまったく嘘です。従軍慰安婦や略奪暴行などの戦争犯罪のほとんどは彼ら朝鮮人が自ら起こしているものであり、連合国の裁判でも9万人の朝鮮人が罪に挙げられていますし、慰安婦も連行されたと言いますが、軍部が募集してもむしろあまりが出るほどであり、割合から見ても日本人が5割以上で、朝鮮人はわずかに2割程度、これのどこがひどい目にあったというのでしょうか?給料も前線で戦う兵士よりはるかに良く、医療制度も完璧。兵士達のモラルを調整するのには格好のシステムです。人道的な問題はあるものの、当時の価値観では「植民地」すらも公認されていた時代ですし、ちゃんとした保障制度も整っていましたので非難に値すべき行為ではないかと思います。連行それ自体は朝鮮の悪徳業者がやっていたことで、日本軍はむしろそれを取締りを行っていました。

 しかも90式戦車について自重がありすぎるとか、高すぎるなどと批判しています。時代遅れといっても過言ではありません。この戦車は確かにそれまでの戦車より高いかもしれませんが、第3世代MBT(主力戦車)のなかではアメリカのM1A2エイブラムズやフランスのルクレールと十分互角に渡り合える最強の部類に入る戦車といっても過言ではありません。まず値段が高いとありますが・・・90式は一台につき8億円です。が、アメリカのエイブラムズは7億8000万円、ルクレール戦車は9億7000万円、イギリスのチャレンジャー2は11億3800万円、ドイツのレオパルドツヴァイA5型スウェーデン仕様は10億円と、特別に高いわけではありませんし、これら挙げた外国の戦車の自重は、90式戦車の50トンを超えているものばかりです。さらに90式は特殊なFCSを装備し、走行間射撃の命中精度は100%を誇っていますし、防御力も特殊装甲により、120mm主砲の直撃を7発まで耐えることはできます。これのどこが「弱くて高い戦車」なのでしょうか。少なくともこれを書いた人物は「ゴジラ」や「ウルトラマン」などで歪曲した描写でしか90式戦車を知らないのでしょう。笑わさせてもらいます。

 またこの教科書は「共産主義」の紹介に「医療費は無償」とありますが・・・説明が不十分にもほどがあります。彼らがかつて何をやったかがまるで記されていません。例を挙げれば共産主義は虐殺によって成り立っているものです。「全てにおいて平等である」というのは立派な信念であると思いますが・・・労働者の給料まで平等にしたために労働力が低下した事実が書かれていませんし、一人分の仕事を10人でやっていたという事実も書かれていません。これが何を意味するのか、このシステムがおかしいというのは明白ですが、それではロシア革命を行った政権が脅かされる結果となります。ということで彼らは反対者を虐殺することによって政権を保ち続けていました。これも書かれていません。
しかも国内の不満をそらすために、彼らは国外に向けて侵略を続け、世界中を共産主義に陥れようとしました。虐殺を肯定する政権が世界中に広がれば人類は間違いなく滅びますし、彼らは政権維持や資金維持を行うために麻薬栽培、テロリストの教育、兵器の横流しに大量破壊兵器の製造を行って食いつないでいました。共産主義に陥った国家のほとんどは皆虐殺の歴史をしるしています。例を挙げればカンボジア、この国家は国際情勢を知らずにただ単に資本主義国家のアメリカが嫌いという理由で当時のソ連側につきましたが・・・・・・・・・わずか3ヶ月でカンボジアでは300万人が虐殺されました。たったの三ヶ月で、です。しかも当時のカンボジアの人口は600万人、つまるところカンボジアではわずか3ヶ月で国民の半分が虐殺されたことになるわけですが・・・どうしてそういったことを書いていないのでししょうか?戦争の恐怖を伝えるのは重要ですが、第2次大戦でも日本は10年間の戦争で300万人が死亡していますが、3ヶ月で300万人とは・・・自分にとって恐怖とは戦争より共産主義であると思います。

 しかも「ベトナム戦争」でアメリカ軍を「侵攻した」とありますが、これは完全に違います。当時アメリカは南ベトナムと同盟状態にあり、彼らを助けるために北ベトナムに攻撃を仕かけただけです。確かに枯葉剤の使用による化学兵器犯罪は非難すべき行為に値しますが・・・それだけなのにもかかわらずこの教科書には同盟国家のなすべきことをまるで記しておらず、むしろ戦争=悪の方程式を一方的に押し付けています。仮に中国や韓国、ロシアや北朝鮮が攻め込んできても、自分達を批判する同盟国は助けてくれるのでしょうか?とどめに「共産主義によって人類は解放された」とありますが・・・・・・・・・もはや言葉もありません。この教科書には虐殺を肯定しているのでしょうか?暗殺を肯定しているのでしょうか?麻薬売買や人身売買も肯定しているのでしょうか?はっきり言って末恐ろしいものを感じます・・・・・・。

 またこの戦争において書かれていない事実があります。それは韓国軍参戦のことです。彼ら韓国はアメリカから特に要望は受けていませんでしたが、ベトナム戦に参戦しました。彼らの目的はアメリカから助成金をもらうことにあったのですが・・・・・この教科書にはアメリカは虐殺を行ったとありますが、むしろ虐殺を行ったのは彼らの方です。確かにアメリカ軍も虐殺を行ったことはありますが・・・少なくともそれは軍部のはねっかえりのやったことであり、全体的なアメリカ軍はベトナムにある民間人の村を開放したり、村人との交流を大切にしましたし、村の子供にキャンディーをあげたり遊んであげてもいました。ですが彼らアメリカ軍が撤退した後にやってきた彼ら韓国軍は逆に村ごと虐殺をしました。女達はレイプされ、そして殺害され、妊産婦の腹を胎児が破れ出るまで軍靴で踏み潰しました。おぞましいものです・・・子供は頭をかち割られ、四肢を切断されて火の中に放り込まれました。彼らは自分達以外を人間だと思っていないのでしょうか?村人をトンネルの中にまで追い詰めて、そこに毒ガスを流し込んで窒息死もさせ、住民たちを一戸に追い詰めて銃を乱射した後、家と一緒に死亡者も生存者も全部燃やしてもいます。凄惨なのは、彼ら死者の口の中にはキャンディーやタバコがくわえられており、民間人を安心させて一箇所に集めたという手段が用いられたことです。はっきり言って人間のなすべきことではありませんし、しかもこれはアメリカ軍のようにはねっかえりのやったことではなく、韓国軍全体がやったことであり、この虐殺でベトナム人は30万人が虐殺されました。現在も韓国は謝罪を行っておらず、ベトナムは第2次大戦時の日本に対して謝罪は要らないと言っている位です・・・・・実際問題韓国は世界中から嫌われています。彼らも外国に企業を進出していますが、現地人に対する待遇は最悪であり、すぐに殴りかかったりするようです。黒人に対しても福祉の概念もほとんどないために社会的弱者はさけずまれることも珍しくはありません。
ワールドカップも彼らは対戦国のチームをさんざん罵倒して睡眠妨害でコンディションを下げ、審判を買収し、なおかつ対戦チームの選手に延髄げりや肘打ち、パンチや後頭部めがけてサッカーボールキックも行っています。果たしてこれが五十嵐教諭のいう「韓国に謝罪すべし」なのでしょうか?元々韓国に対する謝罪は60年代の日韓基本条約によってすでに賠償金と謝罪は済んでおり、それ以後の謝罪と賠償は犯罪行為となっています。ですが当時の韓国政権は軍事クーデターによって成り立っていたために現在の韓国政権では認められているもののすっかり忘れられているそうです。つまるところ、謝罪と賠償はする必要などどこにもありません・・・また更に時代をさかのぼればサンフランシスコ平和条約(1952年)で第2次大戦に関する賠償は全て完了し朝鮮半島から撤退、しかも韓国は日本にべったりついていたのにもかかわらずに賠償を請求すると言う某弱無人な行動を行っており、各国は韓国のサンフランシスコ平和条約参加に完全に反対しています。当時の日本の対立国であったイギリスが特に痛烈に反対しているところからもわかるでしょうか。戦争の被害者でもないし加害者でもない、敗戦国でもないし戦勝国でもない、これを「三国人」というのですが・・・東京都の都知事が朝鮮人の犯罪増加に対して「三国人発言」をして反発を買っていますが、批判する在日朝鮮人や朝鮮人はこの三国人の意味すら知らず、単なる差別発言として受け止めているようです。実際問題彼らの犯罪は極めて悪質であることは、最近のニュースを見れば一目瞭然であり、世界中からも忌み嫌われ・・・このことは既に上記に記してあるとおりです。韓国人は差別されるべき行為をやっているから、差別されています。黒人種は宗教的理由や欧州各国の一方的な理屈で植民地支配されていたために不当な差別をされていましたので、完全な別の問題です。第一韓国併合は当時の朝鮮半島の首相からの要請で韓国併合がなされており、その結果、

1・識字率の上昇
2・医療制度の向上
3・人口増加(急激な増加で食糧生産が追いつかなかったが)
4・ハングル語の普及
5・両班・白丁の身分制度が撤廃され法整備の統制。
6・公共機関の充実化

が実現されました。アフリカ諸国やヨーロッパ各国はこの韓国併合を相応に評価しています。確かに植民地政策ではあるが無駄な血が流れず、また朝鮮人にも基本的な人権が保障され(兵役の義務も無い)、その気になれば自ら志願して兵隊になることができ、活躍次第では将官にもなれた。おまけに上記のことが実現されたのはアフリカやアジア諸国を植民地にしていたヨーロッパ各国ができなかったこと、彼らはそれを評価しているのです。にもかかわらずこういった面を無視して自分達の都合のいい日本のマイナス面ばかりをリストアップするのは売国奴と言っても過言ではありません。
そもそも賠償もヘッタクレもあったものではありません。戦後日本軍が朝鮮半島に残してきた財産は現代のお金に換算して16兆円、満州では293兆円を没収されています。これに更に賠償金・・・よく「日本は謝罪と賠償を!」という声がありますが、ではこれら日本の財産はどうしたのでしょう?16兆円や300兆円の莫大な金額すらも彼らは足りないと言い張るのでしょうか?

 五十嵐教諭の授業を受けた感想ですが・・・日本が嫌われているというイメージがあるようですが、実際に日本はアジア諸国では中国韓国北朝鮮を除けば嫌われておらず、むしろ好かれています。日本の技術は確かに発展途上国の発展に貢献していますし、アフリカ諸国でも日本の技術は大いに役立っています。2002年のワールドカップもフェアプレー賞3位を受賞していますし、日本人それ自体は海外でモラルが高いと言われています。先人達の努力があって今の日本は世界中から相応の信頼を会得していますが、現在の教育体制では将来的に見れば間違いなく嫌われてしまうでしょう。大局的に見れば、現代社会の究極の問題は、これら日本人の教育問題にあるのではないでしょうか?中途半端な嘘ばかりの知識のみでの価値観でしか物事を判断できず、近隣の危険国家の言いなりとなって平身低頭の外交のみを行う。これで国際社会でやっていけるのでしょうか?「無知は絶対的な罪ではないが、それを認めないのが罪である」、自分は育ての親である叔父たちからこのように教えられました。さらに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(以後200行以上続くので省略)”




 どう考えたって怒るに決まっている。日本人の教育は自虐的になりすぎており、韓国に対しては謝罪と賠償をしなければならないという考えが強く残っているのだ。

 だが実際にはすでに60年代に謝罪は完了しており、しかも日韓基本条約にも、サンフランシスコ講和条約(第14条)にもそれ以後の謝罪と賠償は犯罪に等しい行為であると記されている。個人レベルでの賠償も終わっているのであって、実際に謝罪と賠償はする必要は、まったくない。むしろそれを要求する方に非があるのである。かつて批判された従軍慰安婦も、「朝鮮人が強制された!」とあるが、実際には自ら志願して慰安婦になっているのであり、しかも慰安婦にされた朝鮮人は、実際には日本人娼婦のおよそ5分の1程度で、ヒステリーになるにはあまりにも行きすぎともいえるのである。

 ・・・・・あまりでかい声では言っちゃまずいのだが、この慰安婦のシステムは軍全体を統制するのには非常に合理的でかつ、画期的なシステムであった。慰安婦制度は彼女ら慰安婦に対する医療制度が整っていたので健康の問題もある程度対応でき、しかも兵隊並みの給料ももらえる。当時は娼婦が非常に多かったので人手不足になることもなく、軍が管理していたので性病の問題もある程度対応できるようになっていたので待遇そのものは悪くはない。兵隊だって人間なので間違いを犯すこともあるし、時として女性を襲うこともある。何しろ最前線で生きるか死ぬかの立場に立っているのであり、常に強烈なストレスにさらされているのだ。そこで慰安婦によってそのはけ口を作れば、ある程度のモラルを保つことはできるので現地での犯罪を減らすことができるなど、メリットが極めて多い制度なのである。

 まあ・・・・・・・実際には人権問題があるのでこんなことなどできないのだが、当時の法律ではそういった女性人権に関することはほとんど定められていなかったので、特に問題はなかった。仮にその後の法律で過去の罪を罰するのならば、それは「事後法」といい、法律が無効化される行為なのである。もしこの事後法が認められれば、過去ヨーロッパ諸国が行ったアフリカや東南アジアに対する植民地政策を完全否定、そして処罰されなければならないし、インディオを虐殺したアメリカも罰せられなければならない。戦争では人殺しが当たり前だが、戦勝国も「殺人容疑」でオナワにならなければならなくなるし、戦争を仕掛けた方が悪となって罰せられなければならない。とてもじゃないが社会が成り立たなくなるのである。



 「あの内容のどこが不服だというのか?君が紹介した「現代の基礎知識2004」を読めといってきたから、その知識をモトにあれを欠いただけにしか過ぎないのだが・・・・・」

 「・・・・・」

 そんなこと宗一に言っても分かるはずはなかった。

 彼は300年後から来た未来人なのだ。現在の日本人が持っている自虐的イメージはまるでないのである。

 むしろ彼の叔父の浅岡真崎が新たな教育制度を施行したので、そういった偏見がまったくないのであった。「無知は罪にあらず、無知を認めぬことこそが罪である」、「礼を持って人に尽くせ、尽くさぬ者は幾千年の永劫の差別地獄に苦しむ」、「人は知恵を持つ獣にあり。されど獣より抑制を知らぬ獣なり。」、「宗教は詐欺であり、逃避である。神ではなく己を信じ、神ではなく人を信じてこそ社会は成り立つのである」・・・・これらの名言はいまやレジスタンスの常識事項である。

 ていうか彼らの時代では総人口が一時1億人を割り切ったこともあり、絶滅を防ぐために何とか数を増やそうと、なりふりかまわず民族的差別や血族主義を捨てさざるを得なくなり、現在ではものすんごく血が混ざりまくっているのが現状である。確かに肌の色や髪の色の違いはあることはあるが、別段それはおかしいことではなくなっており、差別の概念は少なくとも薄らいでいるのであった。実際に宗一は日本系の血が色濃くあるものの、実際には台湾人やロシア人、アメリカ人や中東系など・・・ごちゃまぜになっているが、これは彼の父浅岡雅彦の妻がそういう血筋であっただけで、雅彦それ自体は純粋な日本人だったようである。レジスタンスの方針で指導者は純粋な日本人であることが決められていたからなのであろうが、こうもごちゃ混ぜになった民族がいる世界で実際そうかどうかは定かでない。

 そんな環境下で育った宗一にとって現代日本は、あまりにも異質すぎる世界に見えたのである。

 こう説明している間にも宗一たちは走り、ようやく更衣室にたどり着くことができた。さっそく宗一はロッカーに着替えを放り込み、指定の競泳パンツを取り出て着替えを始める。

 「本田君、たしかお腹の中に四次元コンテナというのがあるんだよね」

 「ああ、質量をそのまま維持しつつも、物体をデータ化させるシステムだ。アルフやメイリンはそれがないから、バイクにある四次元コンテナと接続しないと変身ができない」

 「でも・・・そんなの体につけて水の中に入っても平気なの?」

 着替えながら宗一は答える。

 「大丈夫だ。機械それ自体は防水性があり、しかも密閉は完全だから問題はない」

 「そうじゃなくて・・・質量がそのままってことは、本田君。あのスーツって何キログラムあるの?」

 ちなみに宗一の体内には2種類のスーツが内蔵されている。一つは電聖の全身スーツ140kg、もう一つはツェータのボディーアーマーとヘルメットおよそ100kgだ。腕と足はそれ自体がツェータに使用されるのでカウントされないが、片足につき60kg、両腕あわせて40kg。しかも銃や弾薬の質量を加えると、実際の宗一の自重はなんと350kgを超えるのである。

 「・・・と作者がこう言っているが?」

 「水の中に入ったら間違いなく沈むと思うんだけど・・・」

 よくもまあ関節部のモーターが焼ききれないものだと伊南村は思ったが、それも300年後の科学力は半端ではない証拠である。バイクはしゃべるし、普通だったら2輪は転ぶはずなのに無人でぶいぶい走るし、おまけに凶悪な火器をハリネズミのように装備している。ライダーは1万や2万の集団戦法で戦うし、使う火器も凶悪だ。思えばこの学校の地下には4月に没収されたバイクがあるのだ。リアロエクスレーターは一台一台に感情や知能が備わっていると言うことだが、果たして3ヶ月も一人寂しく地下で閉じ込められて何を思っているのやら・・・・・

 「問題ない。水中では推進システムが働くから沈むことはない」

 「ふーん・・・」

 ようやく上の半そでを脱いだ宗一の上半身があらわになったとき、伊南村は戦慄した。

 「!!!!!!」

 「・・・・どうした?すごい汗だぞ」

 指摘どおり、伊南村の顔はまるで猛獣に遭遇した人類のごとく、凄まじい何かを見たかのような顔をしている。

 「う、ううん・・・な、なんでもないよ」

 「・・・?」

 いやたしか彼は6歳から戦場で戦っていると聞いた。だからあのぐらいの傷なんて当たり前なのであろう。スポーツテストのときは彼の上はTシャツの体操着だったから見えなかったが、そういえば思い出すと首筋の辺りがちょっと変だったような・・・いやあの時はあまり気に留めることはなかったんだけど・・・・・だけど同世代からみると・・・・・あの体は・・・いくらなんでも・・・異常だ・・・!

 「よし、いくぞ伊南村」

 着替えが終わり、競泳パンツ一丁になった宗一だったが、その時

 き〜んこ〜んか〜んこ〜ん・・・・・

 「・・・まずい!」

 タイムリミットを意味するチャイムが学校中に鳴り響いたのであった。









 「出席を取るぞ!まずA組から!一番安東!」

 (あ〜あ・・・はじまっちゃったよ)

 成美は諦めざるを得なかった。

 この鬼教師の山林(やまばやし)信彦教諭は、恐ろしいことで有名だ。ちょっとでも自分の気に入らないことがあればすぐにその生徒の成績を”2”にしてしまう、徹底した制裁主義の鬼教師であった。2年ほど前、彼はとある公立高校に赴任していたのだが、その教育方針がマスコミにバッシングされ、あっという間に追い出されてしまった経緯を持っていた。

 それで反省すればいいものを、彼がいまだにこの教育体制を続けているのは、その直後に所縁が丘高等学校に編入できたからであった。当時の所縁が丘高等学校では体育教師が怪我で退職し、ちょうどよく体育教師の空きができていたのである。そこでたまたま追い出された山林が赴任してきたのである。彼がこの体制をやめないのは、高校が自分を求めているという、勘違いの自己陶酔である。

 無論高校も、この男がどういう男であるかを分かっていたのだが、当時は6月、彼以外に体育教師の候補がいなかったし採用募集する季節でもなかったためにやむを得ず採用せざるを得なくなったのである。他校に転勤させようとしても、どこもこの男をほしがるものなどいなかったし、新任の体育教師もこの男の悪評を恐れて入ってこない、やめさせようにもこの男は極めて執念深く、かつ生徒達も恐れて密告の類もまったくできないし、しかも暴力沙汰をおこさないなど、ある意味ガン細胞のような存在であった。

 「よしB組!一番赤沢!」

 (ああ、とうとうきちゃったよ・・・!)

 (本田君、間に合わなかったね・・・)

 (せめてこの間にも来てくれれば・・・)

 「3番伊南村!・・・いないのか伊南村!いねえなら2だ!」

 「ああ、かわいそうな伊南村くん・・・」

 成美はそうつぶやいたが、山林には聞こえない。

 無論、伊南村が悪いわけではないし、彼自身、心臓が一回り半ほど小さいために運動そのものができないので、彼が2を取ってしまうのはある種の必然でもあるが、はっきり言って差別でもある。彼が悪いわけでもないのに、不当な評価を、山林は知らぬうちに下しているのである。

 「14番橋本!15番福本!16番本田!」

 「ああ、とうとう・・・」

 「本田いねえのか!本田!いねえなら・・・・」

 「遅くなってしまい、申し訳ありません」

 間一髪だったが、周囲が声の主を確認したと同時に、戦慄が走ったのである。





 本田宗一 16歳。

 問題児として学校から見られているものの、具体的に凶悪的な問題を起こしているわけではなく、あくまでもイレギュラーな事態でトラブルを起こしているだけあって決して悪行を行っているわけではない。某小説のように授業中にスタングレネードを投げつけたり、発砲したりなどはしていないし、刃物を持っているという噂もあるにはあるが、タチの悪いヤンキー(MISSION MAY参照)からの証言なのであてにはできないし、何より持ち物検査でもそれに類する凶器も持っていないことも確認されている。転校初日に改造ハーレーでやってきたという件も、彼があちらこちらの海外で育ってきたという理由が広く浸透していたのでさほどヒステリーに受け入れられておらず、アニメのベルトが没収された件もおそらく日本の文化を勘違いしているのだろうという考えが浸透していたので、軽い笑い話として受け止められていたし、この学校の偏差値はそこそこ高いので露骨な差別を行うものは、まずいない。

 彼が驚異的な運動神経を持っていたことも知れ渡っていたが、別にそれを鼻持ちするようなことを彼はしていないし、むしろ体育の授業での競技科目になると、彼は引っ張りだこである。成績も全国模試1位を誇る伊南村健一に匹敵するほどであるにもかかわらず、決して鼻持ちするようなことをしないので嫌われてはいないし、むしろ勉強を分かりやすく、かつ何度も、おまけにノートを貸してくれたりコピーをくれたり、教えてくれるのでクラス中から頼りにされていた。決して不細工ではない、むしろワイルドの美形と取れる風貌で、かつ彼は余計な騒乱を起こさないためにも無口だんまりを決め込んでいたので「クールな男」として女子からの人気も結構高い。5月のスポーツテストの一件以来、周囲は「浅岡成美に振られた」という既成事実(?)が周囲に同情心を持たせることになり、知らぬうちに彼はクラスの中で自分の位置を確立していたのである。

 ただ基本的な常識をあまり知らないので周囲からは「愛すべきバカ」というイメージで捉えられていたのであったのだが、山林からみれば、「何をしでかすか分からない危険な生徒」という第一印象が備わっていたのである。無論これはほかの教師、特に担任の崎田教諭は問題児を抱えてしまったいう心理的影響が極めて強く、一時ノイローゼ直前まで倒れたものである。

 そして彼は、その印象が間違っていないことを確信したのである。

 「・・・・・・・・!!!!」

 「・・・あの・・・自分に何か変なところがあるのでしょうか?」

 「本田、その体は何だ」

 山林が宗一の体についてたずねてきた。

 「何だといわれましても・・・何か変なところがあるのでしょうか」

 「その胴体の傷は何だといっているのが分からんのか!?」



 山林の指摘どおり、宗一の胴体は物凄い傷跡があった。

 切り傷、刃物による刀傷跡、銃で撃たれた弾痕の痕、痕、痕。刺し傷に継ぎはぎの跡、赤や青のマダラ模様に染まった皮膚に鈍器で殴られたような跡、火傷跡にただれた皮膚の跡。ツギハギツギハギ、ボディービルダーのようなすさまじくはないが筋肉隆々で極めて引き締まっているものの、それをまったく感じさせないまでにいたる体の傷跡の壁画は常識を逸脱していた。・・・・・首から下が凄まじい状態だったのだ。カオスといってもいい、そんな状態であった。それだけならまだましだったが、不自然に腕や足などの四肢が、凄惨な状況の胴体とはうってかわって傷がまったくない、きれいな状態であることだった。

 まるで四肢と胴体が別のものであるかのような錯覚すら取れる・・・ほどにまでギャップがあったのである。これが全身の規模でかつ彼に普通の家族がいれば「家庭内暴力」として受け止められたのであろうが、ここでの彼の肩書きは叔父と息子の父子家庭としてまかり通っているし、彼自身は早々と独立していると言うことなのでますます分からなくなってくる。

 「・・・・・これは自分が過去にいくばくか戦った戦傷痕です。詳しいことはいえませんが・・・」

 この宗一の発言に誰もが思った。

 本田宗一は実はとんでもない暴走族のヘッドだった!

 ざわざわざわ・・・

 困惑と疑惑がクラス中を駆け巡った。

 「おいおい、何なんだよあの傷は・・・」
 「絶対あれ、死線を乗り越えてきたかのような傷だぞ・・・」
 「それも100や200は当たり前・・・かも」
 「・・・ていうことはさ、本田がああも無口なのは・・・他人と交わるのが嫌だからなのか!?」
 「だからヤンキーたちもこいつにはさからおうとしないわけだ」
 「あの改造ハーレーもきっと・・・」
 「いやいやいや、元々あの女ッ気のない浅岡成美にほれるのもわかるぜ。ワイルドな世界にいたからワイルドな女が好みなんだろ」
 「いや、どちらかというと反動でむしろ清楚な女にほれるもんじゃないのか?」
 「お前それは小説の中の世界だけだぜ。現実を見ろよ」
 「でも族の頭だったなんでああも頭がいいの?」
 「運動抜群なのも理由がわからないなぁ」
 「うーん・・・・・」
 「実は金持ちの息子だったけど、家庭の事情ですさんだとか?」
 「じゃ、じゃああの体の傷は何よ」
 「海外で育ったから撃たれることもあるんじゃないのかかしら?」
 「でもあのバイクは説明できないでしょ」

 「おまえらうるせえぞ!だまらねえと全員2にするぞ!」

 もはや職権乱用であることを、山林は自覚していなかった。よくもまあ教員免許を剥奪されないものである。だが成績低下を恐れる生徒達は一同に黙らざるを得なかった。この男を追い出すことができないのはわかっているからだ。

 「・・・・・」

 「まあいい、本田。今日のところはギリギリ間に合ったから大目に見てやる」

 「はっ、」

 「だが次はないと思え!俺はお前が大嫌いだ、お前をいびりぬくことこそが俺の喜びだということを忘れるな!」

 「はっ、了解しました」

 むぎぃ!と山林は思ったが、顔に露骨に出たの感情丸見え、周囲は呆れ返っていた。軍隊風の返答をする宗一が気に食わなかったのが原因であるが、山林としてはないて謝ってほしかったところである・・・のだが、どうも双方のTPOが欠けているようにも見える。

 「全員たって間隔を取れ!準備体操を始めるぞ!」

 怒号同然の合図が下り、周囲はばらばらと広がっていった。その途中で宗一は周囲から、

 「大丈夫だったか本田?」
 「お前度胸あるなぁ・・・」
 「あの山林相手によくもまあ・・・」
 「さすがに族の頭だけあって肝が据わっているよなぁ・・・」

 そういわれても宗一はわからない顔をしながら

 「・・・ゾク?カシラ?・・・成美、何のことだ?」

 「・・・・・しらん」

 成美は力なく答えるしかなかった。



 やがて体操が終わり、一同は競技用にプラスチックのポールで区別されていない、広い部分のプールに入った。温水プールだけあって水温は常時27〜28度に固定されている上に、塩素を使わなくても清潔さは保たれているものの、やはり雑菌の類は完全に防ぐことができない。

 元々塩素は劇物である。プールに塩素を入れるのは殺菌を目的としており、プールで目が痛くなる原因はこの塩素にあるといっても過言ではない。目は人体で唯一露出した内臓であるため、どうしても外からの影響を受ける性質から目は消耗品となってしまうからだ。だからと言って塩素をまかなければ・・・目が悪くなるかならないかの問題ではなく、それ以前にバイキンの餌食となって病気になるし、伝染病・・・と言うのは大げさではあるが、病気が流行って学校の管理問題となるため、使わざるを得ないのである。

 近年アトピー性皮膚炎や、皮膚病の類が増えているが、その原因がこういった塩素や、洗剤に使われている界面活性剤にある。というのもこれらは「真っ白になる!」という宣伝文句を売りにしているが・・・実際には”汚くなった繊維の部分をまるごと、洗剤の粒子のカッターで削り取っている”のである。洗濯すればするほどシャツが薄くなったり、靴下に穴が開きやすくなる原因はまさにこれであり、繊維が洗剤によって弱められてしまっているのである。

 それだけではない。この削り取られた部分の繊維はまるで刃物のように先端が鋭くなるばかりか、人体に有害な塩素やら薬物やらが付着しているために、人間が着脱するだけで皮膚にダメージを与えているのである。これが皮膚病の原因であり、悪質化すれば「治すには10年と1000万円がかかる」ガンの遠因にもなるのであり、最悪の場合だと皮膚のDNAを傷つけてしまうために、自分の子供や孫がアトピーなどになってしまう可能性も・・・・・かなり低いがゼロ%ではない。



 「・・・」

 宗一は、風呂以外では初めてまともに水に入ったと、自覚していた。

 なぜなら24世紀の海と言えば「ヘドロ」の一言で済ませることができるほどにまで汚染されているからであり、地下水や源泉の類も、雨それ自体が酸性雨となって地面にしみこんでいるために、とてもではないが飲めるものではない。なので浄水技術や汚水処理施設の性能はうなぎのぼりに発達したのだが・・・都市が機能するには最低限の水資源しか確保できていないために、プールの類や風呂などは、本来ありえないのである。

 そんなわけで24世紀では体を洗うのはシャワーか、もしくは水に代わる「赤外線殺菌風呂」と呼ばれる、風呂に入ったかのような感触と効果を受けられるものしか手段は存在しないのだが、宗一が21世紀にやってきたときはこの「お湯の入った風呂」の存在は極めて大きかった。200リットルもの湯を注ぎ、なおかつそれを平然と捨てられる・・・・・こんなに贅沢でいいのか!?

 と自問自答さえしたほどだが・・・それ以上の規模を誇るプールと言うのは、まさにカルチャーショックだったのである。

 「こんな贅沢が許されるのだろうか・・・」

 「何か言ったか本田?」

 「いや、なんでもない」

 このことを成美たちや伊南村に聞いたところ、笑われたのは言うまでもなかったし、同時に深刻にさせたのも言うまでもなかった。まず彼が風呂に入るという概念がまったくなかったと言うのは不潔に値したのだが、それ以上に彼らが風呂に入れる余裕もないほどまでに水が不足しているという事実が24世紀には存在しているということが、戦慄させたのである。

 だが何と言おうが、宗一がこのプールには異様にびびっていたのは言うまでもない。



 「・・・ねえナルちゃん?」

 「なに?」

 ポールで男子と区分けされた女子側のプールで、明美が尋ねてきた。

 「本田君ってお風呂の類を知らないんでしょ」

 「そうでしょ、この前あいつの家に行った時に言ってたじゃないのよ、」

 「じゃあこのプールを見るととんでもないカルチャーショックを受けるんじゃないのかなぁ」

 ・・・・・ちらり、

 ・・・・・・

 なるほど、確かに受けている。

 「まあ、あいつらしいと言えばらしいけどねえ。」

 「おめえら!25mを泳ぐぞ!一度上がって準備しろ!泳げねえ奴はビート板使ってもかまわねえからさっさとしろ!」

 山林の罵声がプール中に轟く。鬼軍曹と言う言葉は彼にぴったり合うような、口調だ。

 「全員飛込みのみだ!プールに入ってからのスタートは認めんぞ!」

 もはや無茶苦茶だ、と誰もが思った。泳げない奴はどうしろと!?何だってこんな男がやめさせられないのだろう・・・?



 「よし、次!」

 いくばくか巡回して宗一の番となった。運動神経はオリンピッククラスで学校中から著名を集めているばかりか、学校の成績も抜群にいい、ただ基礎知識をあまり知らない愛すべきバカだ。

 「・・・・・」

 宗一の手には、ビート板が握られていない。

 自信があるのだろうか。

 「でもソーイチさんは・・・泳げるのでしょうか?」

 ふいと雪枝が漏らした。

 「・・・どういうこと?雪枝ちゃん」

 「だって宗一さんやアルフレットさん、メイリンさんは・・・水泳の概念がない未来から来たのでしょう。でしたら泳ぎのノウハウを知らないのではないかと・・・」

 「・・・・・」

 雪枝の懸念は、正しかった。



 ピーーーー!

 スタート合図の笛が鳴り響き、宗一がプール台から飛び込んだ。

 ばっしゃああああん!

 天井にまで届かんばかりにまで水柱が上がったと思ったら、

 がすんっ!

 「がすん?」

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・













































 あまりにもあまりにも鈍い音と共に、沈黙がプールを包み込んだ。

 誰もが動けなかったのだ。

 よもや彼が泳げないという事実を、その場にいる一同は知る由もなかった。

 だが彼らの目の前にあるのは、事実。

 動きようもない事実だった。

 それを受け入れなかった心理が、一同の全神経及び感情回路をマヒさせたのである。

 ぶくぶくぶくぶく・・・・・・

 飛び込み台から数メートル先の水上に、何かの気泡が浮かび上がっている。その沈黙を撃ち破ったのは、金本明美であったのは、誰もが自覚できなかったのだが、彼女がいなければ本田宗一は水死していたかもしれないのは誰もが認めている。

 「ナルちゃん・・・あの気泡ってまさかまさかと思うんだけど・・・」

 「まさかもへったくれも・・・・・」

 「うわあああああああああああああああああああああ!!」


 「本田が溺れたぞぉ!」

 「何であいつは泳げねえんだよ!」

 「しるかそんなの!」

 「救急車だ救急車!」

 「誰か本田を引き上げろ!」

 「先生、先生!はやく本田君を!」

 「あわわわわわ・・・・・」

 「タンカだ!医者だ!保健室の先生を呼べ!」

 ざっぱぁああん!

 「おいおい!プールの底にヒビが入っているぞ!」

 「誰でもいいから早く助けてよ!」

 「ぐぎぎぎぎぎぎ!」

 「うぬぬぬぬぬぬぬ!」

 「・・・・・だめだ!宗一が重すぎて引き上げられない!」

 「こいつ何キロあるんだよ!」

 「スポーツテストのときも相撲部が勧誘に来ていたわよね!こいつ!」

 「そんなの関係ないだろ!早く引き上げないと本田が溺死しちまうぞ!」

 「ナルちゃん!このロープ使って!」

 「プールの仕切り用のロープじゃないのよ!こんなのでどうするの!」

 「本田君を縛って引き上げるんだよ!」

 「よっしゃ浅岡!俺に任せろ!・・・・・・・・」



 「よし、できたぞ!」

 水の中で沈んだままの宗一の体には、プールのコースを作るために使うプラスチック製のロープが縛られていた。どういうことか頭がプールに突き刺さっている形で浮かんでこない宗一を救うには、一同が協力して綱引きの原理で彼を引き上げるしかない。

 ひゅん!

 ロープがプールサイドに投げつけられる。

 「みんな引っ張って!」

 「よっしゃいくぞ!せーの・・・・・・!」

 私立所縁が丘高等学校のクラスメイトは、一クラスにつき30人であり、現在体育の科目では2クラスが共同で参加することになっている。よって自重350kgの宗一を引き上げるのは60人の高校生のみと極めて非力であるが、これしか手段がない。

 「うおおおおおおおおおおおお!」

 「オーエス!オーエス!オーエス!オーエス!」

 団結力とはすばらしいものだった。350kgの宗一は徐々にではあるが、60人の高校生による必死のサルベージ作業によって徐々に引き上げられていく。宗一が浮かび上がるたびに、痛烈なロープの悲鳴が響き渡っていく。

 「くそうこいつ!なんて重いんだ!」
 「身体測定のときに体重計破壊したって話だぞ」
 「相撲部が乗っても壊れない体重計を!?」
 「オーエス、オーエス!」
 
 不満たらたらなのは分かるが、ここで見捨てるような人間はこの学校には存在しなかった。

 ただ状況を認めたくない教師こと山林信彦は、既にこの場にはおらず、一同はなぜ彼がいないのかなど、気に求めなった。

 「よし!あとちょっと!」
 
 「みんながんばれ!」

 「オーエス!オーエス!」

 ざ・・・・・ざざざざばあん!

 宗一の傷とマダラ模様の背中が水面から出てきた。

 「やった!」

 「あとひといき!」

 「オーエス!オーエス!」

 ざっぱああん!

 脱力した人間は自らの体重のバランスが取れないので、普段より重く感じるものである。ましてや350kgの宗一だとそれはもっとも顕著に現れるものだが、それすらも感じさせないほどに彼の体はプールサイドに打ち上げられた。相変わらずマダラ模様の胴体は不気味だが、そんなことを言っている場合ではない。

 「ほら蘇生作業!」

 「心臓マッサージってどうやるんだったっけ?」

 「てか人工呼吸誰がやるんだよ!?」

 誰が言ったかは分からなかったが、この発言は周囲を困惑させてしまった。言うなれば人工呼吸=接吻だからだ。

 「・・・・・・」

 一同は互いの顔を見回し、お前がやれよ、という無言の発言を繰り返す。だが誰もが「いや、おまえがやれよ」という無言の発言を言い返すのでこう着状態に陥るのはそう時間のかかることではなかった。こういうとき体育の先生にやってもらうのが一番無難なのだが、なぜかその山林先生は姿がなく、事態の収拾がつかなくなっていた。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「・・・・・そ、そうだ!浅岡!おまえがやれ!」

 「うえ!?」

 発案者は同じB組の伊藤五十六、通称「56(ゴーロク)」のあだ名で親しまれた男子生徒である。茶髪に中途半端なロングヘアー、中途半端に日焼けした肌など、明らかに遊び人な印象を見せる男である。

 「な、なんであたしが!?」

 動揺しまくる成美を追い立てるかのようにゴーロクは続ける。

 「いやあ・・・だって本田君は・・・きみに・・・ねぇ」

 「・・・・・」

 「それに5月の一件以来、どうも君達二人はあの後ケンカしたとは思えないほど親しい間柄のように僕達には見えるんだよ」

 「うんうん」

 「うう・・・・・」

 なぜか納得する一同

 「普通だったら君の方から彼から離れるのが常識なのに、君が彼を否定しないところからして世間は君と本田君がかっ・・・」

 どがばぎぐしゃっ(12HIT)!! 

 言い終わる直前、成美の怒りのコンボがゴーロクに炸裂。彼はその場でKOした。

 「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・」

 「うう・・・・・・」

 このとき成美は本能的に怒り狂ったのだが、周囲からしてみれば本音を疲れてツイ手が出てしまったかのように見えたのは言うまでも無い。数瞬を用いて成美が我に帰ったときにはすでに彼女も周囲の空気を読んでしまい、悲鳴に近い非難の声を上げてしまう。

 「・・・・・な、なんだってみんなあたしを!?そんなにあたしのことが嫌いなの!?」

 「悪いことは言わない。素直にやってくれ」

 「うう・・・・・」

 「ひどい!あんたたちはあたしがどうなってもいいというの!?」

 「1人の命と60人の命を天秤にかければ、君はどっちを選ぶ?」

 「・・・・・」

 「さあ、彼に人工呼吸をするんだ!!」

 なんだか知らないが事態は変な流れになっていた。周囲からしてみればこれを気に二人をくっつけようという画策が働いていたのだろうが、よもや二人が子孫と先祖の間柄であることなど、成美の親友や伊南村を除いて知る由も無く、成美が宗一を認めないのはまさに自分と宗一のその関係であった。まさか自分の子孫に欲情するなどとはばかばかしいし、何より成美はこういったワイルドな男など眼中にも無いのだ。

 「うう・・・・・」

 しかし周囲は宗一が浅岡成美にべたほれであると、思っていたので、彼女の心理などそっちのけであった。成美からしてみれば周囲の視線と要求がまるで拷問のように見え、またリンチのようにも見え、

 「うう・・・・・・やればいいんでしょやれば!」

 もはや半泣き状態で成美はやけくそになり、宗一の顔に接近する。

 「うう・・・・・・」

 ああ神よ許してください。私はここで近親相姦という馬鹿げた真似をやってしまうのです・・・・・たとえここでキスで終わったとしてもその既成事実が後の将来に強く強く響くこととなり、私は乙女の心に強いトラウマを残すのか、あるいは自分自身に強い後悔の念、もしくは発狂して彼に恋をするという最悪のシナリオを作ってしまうのです。

 「うう・・・・・・」

 成美はアメリカの中学校に通っていたので、根っからというわけでもないがキリスト教をそれなりに信じるタイプである。キリスト教では同性愛や近親愛は大悪であるため、彼女はものすごく今の自分に罪悪感を植え付けていたのである。

 「うう・・・・・・」

 「ん?」

 さっきからどこから聞こえるうめき声。口論している時はそれほど気にならなかったが、最近になってなんだか出所が気になる。

 「うう・・・・」

 「ん!?」

 出所をたどると、さっき溺れ死にそうになった彼に行き着く。

 <緊急蘇生システム起動。肺に強制圧力・・・心臓に10Vの直接電圧を負荷します>

 びくんっ!ばりっ!びくびくびくん!

 宗一の体がいくばくかけいれんを起こし、彼の鼻と口から大量の水が吐き出された。

 「ごほっ!がはっがはっがはっ!」

 それは宗一の体内にあった四次元コンテナ及びベルトシステムの一環である、緊急蘇生システムであった。何らかの事態で生命の危機に陥った際、ベルトが4次元コンテナに内蔵された適切な医療器具を自動的に展開させ、その状況にあわせた医療措置を行うようになっているのである。今回の場合は溺死寸前であったので、変身システムにかかる圧力を駆使して肺や胃に強制的に圧力をかけて水を吐き出させ、同時に心臓に電圧を与えて心臓マッサージ、さらに全身に酸素を行き渡らせて蘇生措置を行ったのである。

 <脳波確認・・・肺及び胃に残留する水は確認されず。骨・・・内臓・・・神経・・・共に異常なし。蘇生措置完了>

 たとえ戦闘で重傷を負っても宗一は一時的な仮死状態に陥るだけで、銃で撃たれても自動的に弾丸が摘出されて部位をたんぱく質と消毒剤と麻酔で固めて応急補修され、骨折しても強化シリコンが骨折した部位に当てられるので戦闘に支障が無いようになっている。まさに改造人間ならではの、そして300年後の技術のなせる技であった。

 「がばっ、がはっがはっ・・・・・・・死ぬかと思った・・・・・・・・・・・・・・って成美。何をしようとしている?」

 「・・・・・」

 「俺が馬鹿だった。よもや自分の自重を計算しないで飛び込んだのが失敗だった。せめて水の中に入ってからなら何とかなったのだが・・・」

 がんっ!

 「はうっ!」

 理由も分からぬまま宗一は、成美からの一撃を受けて再び気絶。その直後に山林先生が保健室の先生を連れてやってきたのだが、あいにく彼はタンカに乗せるにはあまりにも重過ぎたため、その場で気を戻すまで安静にするしかなかった。結局宗一が立ち直ったのは授業が終わる5分前であったのだが、すでに授業を続けるのは不可能な事態に陥っていたのである。



 というのも山林先生の対応のあまりのまずさがバッシングされたのである。生徒が泳げないことを考慮せずに飛び込みを強要し、しかも溺れさせた。さらに救助作業を行わず、本来生徒にやらせるべきであった保健室の先生を呼ぶ作業を自分ひとりで独断で行い、責任から逃れているように周囲には見えていたのである。結果的に宗一は命を取り戻したのだが、結果はどうあれ生徒を生命の危機に陥れた事実は変わらなかった。

 もともと山林はその制裁主義的な教育方針が嫌われており、また彼が鉄拳制裁主義でもあったことが事態を加速化させる。翌日になるとさっそく会議が開かれ、山林の弾劾案が満場一致で可決されてしまったのだ。今の今まで彼は嫌われていたのだが追い出す理由が見出せない状況だったので、今回の水難事故を理由に学校が彼を不定期の停職処分を下したのである。

 更に翌日、今度は教育委員会が彼の教員免許を剥奪するという事態が起こった。やはり教育委員会も彼を追い出したいという強い意志が働いていたのだろう。更に翌日になると山林のアパートにはマスコミが連日押しかけ、彼をノイローゼに陥れた。また私立所縁が丘高等学校にもマスコミが幾らかやってきたのだが、学校側は彼を懲戒免職処分したと発言、山林教諭を完全に切り捨てたのである。すでに事態は誰であっても止めることはできないほどにまで大きくなっており、自然に収まるのを待つしかなかったのである。








西暦2004年6月18日午前8時20分
私立所縁が丘高等学校 2年B組教室


 「なんだかたいへんなことになっちゃったねぇ・・・・・・」

 事件から一週間たち、さすがにマスコミも学校に来なくなった。新しい話題が見つかったのでそっちに集中するようになっただけで、しょせんマスコミなんてそんなものである。ただ学校にそれなりに震撼が走ったのは紛れも無い事実であり、やはり大変なことであったのは変わりない。

 「この時代も大変だな。新しい話題が出るとマスコミは目の前が見えなくなるらしい」

 本事件の首謀者と言うか、被害者と言うか当の宗一はまるで知ったことか、といわんばかりである。あの後病院に行くように言われたが、そんなことしたら自分の改造人間がばれてしまう。なのでこっそりと家に帰って自宅地下の治療室でメンテナンスを受けて事なきを得ることができたのだった。

 「あんたもあんたで泳げないって素直に言いなさいよ・・・」

 「俺達の時代はみんな泳げないぞ。メイリンもアルフも、大佐もパオリンも、真崎も泳げない。」

 「あんたらはモンゴル人か・・・・・せめてビート板使えばよかったじゃないのよ」

 モンゴルは内陸国家であるため、泳げない国民が非常に多いし、シャワーも苦手である。

 「そうは言われてもな・・・ビート板がどういうものかも俺は知らなかったんだ」

 そう言う宗一だったが彼はまだましである。宗一は特殊作戦で人工爆撃衛星の制圧作戦に従事したことがあり、宇宙飛行の経験があるので練習さえすればすぐに泳げるであろう。だが宇宙ライダー師団および海軍ライダー師団の一部を除く24世紀の人類は、誰も泳ぐことができないのだ。海それ自体がヘドロ状態なので泳げないし、水資源も最低限しか確保されていないので風呂やプールの概念も存在しない。泳げなくなって当然の理由があるのだ。

 「はぁ・・・・」

 「まあそれはいいから、今日の5時限目はきちんとやろうね。あさ・・・本田君」

 「ああ」

 先週の事故で宗一が破壊したプールの底は、今日になって復旧作業が完了し、プール授業が再開されたのだった。普通だったら破壊した宗一を恨むものだろうが、彼は意図的に破壊したわけではなく山林先生によってやられただけの被害者の認識が非常に強かったため、誰も宗一を責める者はいなかった。

 ただ一人を除いて・・・





西暦2004年6月1?日
東京都豊島区 バー「うまいや」


 町外れにあるひっそりとした小さなバー。人通りも少なく、客も少ないが、仕入れている酒は一級品者ばかりでかつ値段も安いということで、マニアにとって穴場として珍重されているところがあった。

 "今日も"
そこには一人の男が酔いつぶれていた。角刈りのごつい顔、ゴリラと称するにはぴったりの風貌だ。

 「ええいちくしょうめ!あのクソ野郎のせいでおれは・・・・・おれはぁ・・・」

 「お客さん、今日も荒れてるねぇ。お酒の飲みすぎはよろしくないですよ」

 「うるせばかやろ!俺だってこの教育体制のわりーところを直そうと必死だったんだ!いまどきのガキは教師が手を出せないからってすぐに付け込んできやがるんだ!」

 ぐびぐびぐびっ!

 「あーあ、あんなに高い酒を・・・お客さん。あたしからいっちゃなんですがね、飲みすぎて生活費潰しちゃ意味ないですよ」

 「うるせだまってろ!だからおれはああいったチンピラどもを殴って成長させることが正し教育だと思ってるんだ!殴られた回数だけ人間は成長するってもんだ!違うかマスター!?」

 「山林さんの言ってることはどうも極端だと思うんですけどねぇ・・・」

 「ええい!現代教育の最悪も極まっちまったかよ!こんなおっさんすらもだまされちまうんなんて!ガキって言うのはだなぁ・・・ひっく!なにがいいくてなにがわるいかのくべつ・・・じゃにゃい!くべつじゃなくてその二つをどうじにやっちまうのがわるいんだひっく!」

 「でもねお客さん・・・世の中に出れば悪いこともしちゃうモンですよ。いいことばかりやって世の中が動けばいいですけど、そうもいきませんからねぇ」

 「だから!この世界は悪い奴らが多すぎるってもんだ!ひっく!だから俺はそういう悪い奴等を一人でも減らそうとガキどもに教えているんだ!それがよ・・・あの本田とかいうガキのせいで・・・聞いてくれよマスター!あいつ暴走族の頭のクセに成績が校内1位あんですよ!チンピラどももあいつに美日っているところからしてあいつはぜったいに何かしでかしているにちがいないとおもわんかあ!?」

 「おきゃくさん・・・だいぶお酒が回ってきましたね。そろそろ止めないとまたゲロしちゃいますよ・・・掃除するの私なんですから」

 「だまってろぇおおおい!あの本田とかについている女も女だ!空手で日本一を取っているくせに成績は最悪だわ風紀も最悪だわでいいところなんて一つもない最悪女だ!ああいうのが鼻伸ばして悪をするのが世の中だってんだばーろー!」

 「・・・・・」

 「へぇ・・・面白い話じゃない」

 「!?」

 気がつくと、山林の隣に、ひとりの客が座っていた。あまりにもいきなりだったのでマスターも混乱してしまった。

 「あ・・・いらっしゃいませ!御注文は?」

 「ううん、私はこの人に用事があるのでして・・・ね?山林信彦さん」

 「なんだぁ〜おめえはぁ〜」

 目がうつろになっていたのでその顔ははっきり見えなかったが、声からして女性の声だ。

 「あなた、うちで働いてみませんか?」

 「おまえさんのところってがっこーなのかい?」

 「ええ、そんなところです。聞くと山林さん、アルバイトも見つからないようで大変苦労なさっているとか」

 「ああ〜たいへんさぁ。くびになっちまったから退職金も無いしよぉ〜」

 「この人ずっとうちでツケなんですよ。」

 「ええ、ですから私達のところで働いてみません?私達は新たな時代を築き上げる崇高な社会を目指す子供達を作り上げるところです。あなたのように教育に熱心な方を探しているのですがこれがなかなか見つからなくて・・・・」

 「おお〜、おれはきょういくにねっしんだぁ。そこらのせんせはすぐにせいとにびびっちまうもんだが、おれは逆にせいとをびびらせることができーる、数少ない教師だ!」

 「ええすばらしい教師です。よろしければ御一緒願いませんか?実は店の外にタクシーを置いているので・・・」

 「おお〜いいだろう!」

 「もちろん給料は前の職場の2倍を保証します。あなたのような優秀な教師を我々は手放したくはありません」

 「ああおおお!!!すんばらしいかんがえだすなぁ。今いきましょういきましょう!」

 「ありがとうございます。マスター、これはあの人の分の代金と私の迷惑料です。おつりはいりません。」

 どさっ、と女性はカウンターに一万円の札束を叩きつける。100万円はあるだろうか、山林の1週間分の酒大は十分に元が取れる値段である。

 「あ、ああどうも」

 山林は力なく立ち上がり、隣にいるサングラスの女性と共に外に出て行った。

 だがマスターにとって山林を見たのは、これが最後であった。










西暦2004年6月21日 午後6時40分
私立所縁が丘高等学校 空手場


 「どあああああああああ!!」

 びゅおっ!

 ばぎゃっ!

 だだんっ!

 「あう!」

 「一本!それまで!」

 今日も空手が冴えている、と成美は確信した。上段回し蹴りの鋭さが若干ゆるいような気がしたが、恐らく疲れからだろう。

 「・・・・・」

 「どうだい本田君?成美はただの暴力女じゃないってモンだ」

 「うむ・・・・・たいした格闘術だ。技の切れといい重さといい、他の部員より格段の違いがあるな」

 宗一は常に成美を護衛しなければならない。だがこの空手場は成美がどうしてもくるな!と強く強く念を押されていたので入ることができず練習が終わってからストーカーのように付きまとわなければならなかったのだが、さすがに成美もそれは勘弁せざるを得なくなったので、こうして空手場での見学を認めてやっただけなのであった。

 だが宗一は今日はじめて、成美がただの暴力女でないことを理解した。祖父から空手を習ったと聞くが、こうまで練達しているとは思わなかったからだし、今まで自分に殴ったり蹴ったりしたのはそれなりに手加減をしているのも良く分かる。時折ぶちきれたときはそうではないのだが、そのときは怒りのあまりに急所を当てられないので有効打が決まらないだけである。おそらくライダー部隊の訓練を受ければ瞬く間にトップエースとして君臨するかもしれない。

 「ほお、分かるのか空手?」

 「いえ、空手は分かりませんが、大体の格闘術は身に着けているつもりなのでそういったものは大体分かるつもりです」

 「ふーん・・・」

 噂だと彼、本田宗一はチンピラ3人か4人を素手で叩き伏せたとか言う。だが噂の出所がチンピラどもからなので当てにはできない。だがスポーツテストのあの圧倒的な成績からして、少なくとも常人以上の肉体を持っているのは創造に固くないし、チンピラどもの件もそこから派生したのだろうと顧問の松田先生は思った。

 「よおし、時間も時間だからきょうはこれまで!」

 「はあーい!」

 女子部員達30人の声が同情中に響く。私立所縁が丘高等学校には空手部があるが、女子部しかない。その理由が一年前に成美が全国大会で優勝したために男子部の面目がつぶれてしまって消滅し、知名度と人気が上がって女子のみしかないのだ。この空手場も成美が全国大会で優勝したので学校が急遽立てたもので、先月になってようやく完成した、新品だ。畳はきちんとしているし、扇風機や同時10人使用可能のシャワー、鍵付ロッカー、果ては冷蔵庫まであるというすばらしい施設である。

 「全員掃除!」

 「はぁーい!」

 解職された山林にかわって体育教師となった松田先生は、本当は国語担当の教師である。彼は大学卒業後も社会人でも空手一本道であったのだが、足首の筋が故障して再起不能となったため、引退せざるを得なくなった経緯を持つ。会社を退職後、この学校にやってきて国語を教えていたのだが、山林の一件以来空きのあいた体育教師の枠を暫定的に埋めるため、過去の経歴を買われて急遽体育教師を兼任せざるを得なくなった。腕っ節は強いが、足首がやられているので踏ん張ることができないのが欠点である。

 「では自分も手伝います」

 「おいおい本田君。こういうのは空手部がやったんだから空手部で片づけをするもんだ。部外者の君はそこにいなさい。」

 「・・・はい。」

 こうして素直だ。彼は暴走族の過去があるという噂もあるが、間違いだと思う。きっと手が早いのだろうが、その割には意外と素直な一面が強いのはムジュンしているし、大体成績が校内1位という時点で、勉学と暴力と両立はできないからだ。自分を鍛え上げる勉学と自分の欲望のままに動く暴力は相反するものだからであり、自己のために鍛える運動は両立ができるものである。

 「先生、終わりました!」

 「よおーし、全員集合・・・・・いよいよ7月には全国大会の地区予選が開かれる!去年は浅岡が全国取ったが、相手も去年の反省を生かしてくるだろうから毎回うまくいくとは思うな!勝って兜の緒を締めるということわざのように、一度勝ったからって浮かれないで次の試合に心がけること!」

 「はいっ!」

 「他のみんなもだいぶうまくなってきた!だが全国の壁はまだまだ厚い!浅岡と同じ階級の者は彼女を倒す勢いで、違う階級の者は浅岡のように全国を取る勢いで試合に臨むこと!」

 「はいっ!」

 「明日の練習は俺が病院に行くから休みになるが、その代わり土曜日の午前9時に繰り上げるから、各自は弁当をもつように。参加ができない者は部長の佐藤に連絡すること!では解散!」

 「はいっ!ありがとうございました!」
 
 山林と違って松田先生は明らかに生徒から支持されている。彼と違って松田先生は武道を志した者、倫理に関してはきちんとした考えを持っているからである。また踏ん張れないもののそのパンチ技やキック技はオリンピッククラスの実力を誇り、またその制御の仕方を良く心得ているので生徒達から畏怖もされているし尊敬もされているからであった。



 「どう?宗一」

 「たいしたものだ。君にあんな才能があったとは」

 「・・・・・」

 「君なら正式なライダーの訓練を受ければメイリンに負けない優秀なライダー兵になれるだろう」

 「・・・誉め言葉なのそれ?」

 きっとそうなのだろう。彼はいまどきの軟派でも使わない女のご機嫌どりの心得というものをまったく知らないからだ。

 「・・・?まあいい。早く帰ろう」

 「着替えが終わったらね。言っとくけど、覗くんじゃないわよ」

 「なぜ覗く必要がある?」

 宗一のこの言葉に成美の女心はちょっとカチンと来た。

 「それってどういう意味?」

 「いや、なぜ女の裸を見るような真似をするのかということだ?別に俺はそんなのには見慣れている」

 「!?!?!!?」

 一瞬にして成美の顔はタコのように真っ赤になってしまった。

 「過去俺の同僚だった女性ライダー兵が40mm弾を撃ち込まれた時とか、榴弾の直撃を受けて大火傷を負った女性兵士を応急治療するときに脱がしたこととか、そういった例はいくらでもある。」

 「・・・・・」

 「助からなかった者もいたが、助かった彼女らは決まってこう言う。『・・・・・は秘密にしてくれ』と。なぜ彼女らは自分の―――――」

 どがっ!

 「ぎゃんっ!」

 どがどがどがばぎぎぎばぎぐしゃ(16HIT)!

 「はぐあっ!」

 目にも見えぬ早業だ。地面に伏せていた宗一の体は再び宙に舞いあがり、空中で不自然な軌道を描いて大地に叩きつけられる。

 「いーかげんにしろ!それ以上口から言葉を出すなっ!それ以上言ったら小説が載せられなくなる!」

 成美は頭が完全にオーバーヒートだったが、宗一がここまで女に関心が無いのは、やはり浅岡真崎によって作り上げられた感情の無い戦闘マシーンゆえの性なのだろうか。彼の上司であるメイリンも宗一のそういった特性を理解しているから、平気で裸体でいられるのだろうし、きっと宗一はエロスとは本質的に無縁なのだろう。

 だが成美がその考えに至るのには、今では不可能だった。

 「少しでも心許したあたしが馬鹿だった!あんたなんてだいっ嫌い!半径5メートル以内に近づくんじゃないわよ!」

 部室中に轟く大声で、倒れている宗一をほっとく形で成美はのっしのっしと更衣室に戻っていった。





午後7時00分

 女子高生が一人で歩くには遅い時刻、成美は一人で帰路についていた。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「・・・・・ええーい!とっとと出て来いストーカーライダー!」

 がさがさがさがさっ!

 まるでその声に反応したかのように、宗一が背後から現れた。

 「よくわかったな。」

 「分かるに決まってんでしょ・・・あんたの行動パターンぐらい」

 「そうか」

 すんなり答える宗一。男としてはあまりにもあっさり過ぎるその感情に成美は不快感を強めた。

 「・・・あんたっていつもそういう態度なの?」

 「上官に対してならば敬意を払う。公式の面前でなくても真崎には敬語を使っている・・・てどこにいく」

 どうもこういう敬語口調が苦手だ。こういう時は成美はさっさと家に帰って帰ってゲームやって寝ることにしており、さっさと家に帰らなければならない。

 宗一も必死に追いかけて、

 「君ももう少し自分のみを大切にしてほしい。敵は君ががら空きになった時を狙って現れるのだ。せめて家に着くまでは一緒に・・・」

 「そういって現れたのは5月以来ずっと無いじゃない。敵なんてもういないんじゃないの?」

 「って走らないでまってくれ。そうやって君が油断したときを狙って・・・」

 「うるせえやい!そうやってあんたはあたしのぷらいべーとをいつまでも・・・・」

 どがっ!

 夜遅かった上によそ見して歩いていたので、暗闇で誰かにぶつかってしまった。あまりにも走っていたので成美はその場でしりもちをついてしまう。

 「あいてててて・・・、どこ見て歩いてんのよ!」

 今のはどう見てもよそ見していた成美が悪いのだが、相手は話が通じない相手だった。

 チンピラや外国人にぶつかったという解釈論ではない、むしろそれすらも通じない相手だったのだ。





 「ぐるるるるる・・・・・」

 「へ?」

 暗闇に目が慣れはじめたとき、成美はそれが人外であることを察知するのに時間がかかった。狼を連想させる体系にふさふさの毛、見るからにオーカミ男な風体の怪物だ。

 「ぐわぉおおお!!!」

 だんだんだんだんっ!

 不意打ちとも言えるタイミングで怪物の頭に数発の弾丸が撃ち込まれた。ひるんでいる隙を見越して私は謎の力に引っ張られてその場を走り去っていく。

 「ソーイチ!?」

 謎の力の正体は宗一だった。いつのまにか右手に銃を携えて、物凄い力で私の腕を引っ張っていたのだ。あまりの力だったのでツイ声をあげてしまう。

 「いたいいたいいたあああああああい!いたいったら!てかカバンはどうした!?あたしもカバン落とした!」

 「がまんしろ!それどころじゃない!」

 右手に拳銃を握っていたらカバンは左手に持つしかない。だが左手は私の腕を引っ張っているから両手は塞がれている。じゃあカバンはどこにいったのだろうか?かく言う私もさっきの騒動でカバンを落としてしまい、両手は手ぶら状態だ。

 「後で回収する!今は生命の安全を最優先だ!二人を呼んだから後はどうとでもなる!」

 「明日までの数学の課題が!」

 「命と補習授業のどっちが大切だ!」

 「補習だ!また赤点だとおじいちゃんにしかられるし小遣いを減らされるし夏休みを削られるし・・・!」

 両者の会話内容と状況がここまで食い違っている例も珍しい。

 「ぐわおおおおおおお!」

 はるか後ろで咆哮が鳴り響いたと思ったら、さっきの怪物が物凄い勢いで追いかけてきた。

 「わわわっ!きたきたきた!」

 「ち!」

 だんだんだん、だだだんっ!

 的確な射撃運動によって狼の頭に数発また撃ち込まれた。走りながら、しかも左手で私の腕を引っ張っりながらでかかわらずだ。弾丸の数発は狼の頭に命中、再び狼は失速したが、

 「ぐるるるるる・・・・・」

 狼は再び立ち上がり、打ち込まれた部位から青白い細い煙を上げながら追いかけ始めたのだ。

 「ぜんぜんだめじゃないのよ!そのオンボロ拳銃じゃ!」

 「オンボロではない!」

 対怪人用に開発された13mm口径自動拳銃『アームド・パワーガン』。圧縮式電磁加速器を搭載し、反動があまりない銃として軍用に配給されている、銃器では定評のあるガーデック・テクノロジー社が開発した新型の拳銃だ。元々この会社は20世紀末に未確認生命体の多発事件において国家機関が開発したライダースーツの開発に携わっており、2005年3月5日によって研究機関は滅んだものの、その生き残りが再び集まって立ち上げた企業だ。兵器開発技術はライバルのSBテクノロジー社やBNエンパイア社、宇宙開発工業(株)よりはるかに優れ、最近ではリアロエクスレーターのFCSや各種兵器の開発も行っている、大企業である。

 この拳銃の威力は生身の人間が扱えるハンドガンの中では最上位に位置し、一撃でロボットの装甲を貫通できるほどの威力をもつ。怪人の腕や足を吹き飛ばすなど造作も無いが、決定打となるにはややパワーに欠けるのが現実である。怪人を銃で倒すには怪人の再生力を超えるダメージを与える攻撃、すなわちライダーでなければ耐えられないほどの火力と衝撃力を有する銃器が必要となるのである。

 「でもおっかけてきてるじゃん!あのおおかみみたいの!?」

 あの怪人の再生力はただの怪人をはるかに凌駕している。暗殺用に改良されたタイプなのだろう。とはいえ単に暗殺するには豪華する性能だ。この時代の火器では怪人の体に傷一つつけられないので再生能力は必要ないはずだ。そうでなくても驚異的な再生能力を誇るロボットに任せればいいが、そうというわけでもない。

 「・・・わからん」

 「なにが?」

 いつのまにか宗一たちは公園の中にいた。

 「なんでもない。そろそろくるぞ」

 「なにが?」

 はるか前の方から2つの光がこちらにやってきて・・・咆哮をあげた。

 ブオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 ドガガガガガガガガガガガ!!!

 発射マズルと共に弾丸・・・もはや砲弾と読んでもいいだろうが飛んできて、怪人の足元に炸裂する。地しぶきがあがり、怪人は思いっきりひるんだ。

 「・・・・・」

 「よー、間に合ったみたいだなソーイチ」

 「あんたもいい加減女心をわかってやりなさいよ・・・・・さっきの会話聞いてたけどさ」

 <そうだそうだ!そこらにいる軟派男の方がよっぽどましだぞ!>

 <上っ面ばかりでろくでなしが多いんだけどね、その場合>

 聞き覚えのある声。宗一の同僚のアルフと上官のメイリン、そして彼らに使役する2台のバイクたちだった。

 「遅いぞ!」

 「あのね。あたしらはあんたと違って仕事があるのよ。仕事場から抜け出すのにどれだけ苦労したことやら」

 「教員免許剥奪されそうだぜ、まったく」

 <そうそう。君が3号機を没収されなければ二人は苦労していないんだぞ>

 <彼、いい加減目立たないと失語障害になりそうね>

 <そうそう。こういうところで目立たないといつしか忘れ去られるかも>

 <でも夏休みにならないと帰ってこないのよねぇ・・・

 びゅおうう!

 「ぐるるるるるる・・・・!」

 狼の怪人がこちらにやってきた。更に彼の後ろから無数のロボットやミュータントが出てきた。数は大体30といったところだろうか。

 「・・・・・よくもまああそこまで集めたものね」

 「でも女の子守りながら戦うにはちょっとばっかし手に余る数だな・・・よっと」

 「きゃっ!?」

 不意にアルフが成美の背中を持ち上げ、サイドカーに乗せた。引き続いて宗一もバイクの後部座席のほうに座り込む。

 「よし、姉さんはそこで食い止めてくれないか。俺達は姫様を連れて逃げるからよ。本当ならヤローが後ろに座るのは嫌だけどよ、我慢してやる」

 「本当ならあんたが足止めするもんだけど・・・わかったわ」

 アルフはバイクに乗り込み、その場を立ち去った。怪人たちは彼らを追いかけようとしたが、

 どがががががががががががががががががが!!

 「あいつら追っかけるなら、私が相手しましょうか?バケモノさん。」

 リアロエクスレーターの20mmが唸り、怪人たちの前に立ちはだかる。メイリンは乗り込みベルトを腰まわりにつけて叫んだ。





 「バイク!」

 <了解!アプリケーションライダー起動!四次元コンテナ接続!>

 メイリンの腰周りにシートベルトとも取れるベルトが取り付き、前方部の接続ユニットにバイクが接合する。

 <電聖と幻影、どっちにします?>

 「幻影にして。」 

 <了解!四次元コンテナ開放・・・ナイトミラージュ!>

 バイクが叫んだ瞬間、メイリンの全身が光り輝く。彼女の体に赤い金属物質が取り付けられ、あっという間に変身が完了した。

 <アプリケーションライダー・・・変身完了、全エネルギー、アクチュエーター起動確認。ナイトミラージュ起動!>

 がごん、とバイクから伸びていた接続端子がベルト前方部から外れていき、ナイトミラージュの緑色のアイセンサーが光り輝いた。ナイトミラージュはバイクに据え付けていたハルバートを持ち上げ、怪人軍団の前に立ちはだかる。

 「ぐぐるるるるるるる・・・・・」

 「ぐるるるるるるるるる・・・・」

 <ハイパーマシンナリーアナライズ完了。少尉、敵はタイプγ生態兵器。ナンバー12の狼型後期生産型です。両太ももにグレネードランチャーが装備されて火力面では極めて驚異的な敵です。また両腕には第五世代ライダースーツ「雷王」の装甲を貫いたとされる強力な爪が主武装となっているばかりか、すばやい動きで敵を翻弄して仕留める戦法を得意とします。>

 ナイトミラージュは振り向かないままで答えた。

 「敵の武装はそれだけ?」

 <以前敵の近接能力を奪うために両手を切り落としたライダーがいましたが、そのとき腕に貫通弾仕様のマシンガンが仕込まれていたそうです。また5月に交戦したカマキリタイプのように強烈な再生能力を持っている可能性もあるので気をつけてください>

 「あいよ・・・!」

 そう言ってナイトミラージュが飛び出そうとしたそのとき、

 <少尉、敵増援を確認。タイプα対人ロボット15体、タイプβミュータント20体が僕たちを取り囲む形で布陣しています。衛星「イージス」によるとこれを仕掛けた連中は現在デルタ3と4を追跡している模様!>

 メイリンはライダースーツの中で舌打ちしながら、

 「はめられたってわけね・・・・・」

 <ごめんなさい・・・>

 「あんたが謝ってどうするのよ。こいつらをとっととぶっ潰して追いかけるわよ。」

 <了解!>

 威勢良くバイクは答え、ナイトミラージュの背後に回る。

 「ぐるるるるるるるる・・・・・」

 「fじゃksdklfじゃs;らいえいい!」

 「亜sdjfかjsdl;fj;だl!!」

 「いらおえりをあp@!」

 <うるさいなぁ。言語中枢をやられたからって無理にしゃべってもうるさいだけなのにネ>

 人間の頭蓋骨に穴を開け、そこから人間の電気信号を流し込む電極をぶち込むことで、ネオプラントは人間をのっとることができる。そのため彼らミュータントの特徴はヘルメットのような機械を被って頭から血を流し、生気の無い顔をしているのが一般的だ。当然そんな乱暴なやり方だと人間は思考を失い、言葉も話せなくなる。外科的な処理がなされているために彼らを助ける術は皆無なのである。

 <ようはこうだ!『狙うなら確実に心臓か頭をぶち抜け。こいつらとて好きこのんでバケモノになった訳ではない。一度「こう」なってしまった人間を元に戻す方法はない。速やかにぶち殺してやるのが、こいつらの為というものだ』だねっ!>

 「あんたもうるさいわよ・・・・・漫画ばかり読んでいるとろくなバイクになれないわよ

 <はーい>

 「あたしはこっちをやるから、あんたはあたしの後ろの敵を始末しなさい」

 <はぁい>





 その後ナイトミラージュは沈黙、一言もしゃべらなくなった。

 「・・・・・・」

 ハルバートをかまえて精神統一、数時静止をした直後、

 びゅおう!

 赤い閃光が疾風のごとく飛び出していった。

 「ぐぐぎ!?」

 「うおおおおおおおお!」

 ざごんっ!ざござごんっ!

 狼型生態兵器は脳天から股にかけて、見事に真っ二つに両断され、更に間髪いれずに上半身を真横に切断され、とどめに脳天を水平に斬られてしまった。あまりに早業に狼型生態兵器はまったく動くともなく、そしてその能力を発揮することもないまま、絶命した。

 ぶしゅううううううううううううううううううううう!

 「klふぁd:kldsk:あ!!!」

 数人のミュータントがとびかかる。

 びゆぉ!

 ざごっ!

 「「ふぁdsdfkさj;fldkj!!」

 ナイトミラージュはハルバートの先端に飛び掛ったミュータントの一体を突き刺しながら、

 「おおおおおおおおおおおおお!!」

 びゅおう!

 どがっ!


 「がkrだlsrかうぇk!!!」

 「おおおおおおお!」

 びゅおう!

 ざごんっ!


 ぶしゅうううううううううううううううう!

 「dふぁsjfkds;じゃkdfjlk;!!!」

 「fdじゃkふぁjs;あdsl!!!」

 「ふぁsdfjかさkls;!!!」

 これまた早業だった。ナイトミラージュは突き刺したミュータントを群れに向けて振り飛ばしてぶち倒し、間髪いれずに突進。まとめて4体ハルバートで切り落としたのである。ミュータントはもとは人間であるために、強烈な鮮血と内臓が壊れた噴水のように噴出し、赤いナイトミラージュのボディーを更に赤く染め上げていった。



 <まっけないぞぉ!>

 じゃこんっ!

 どがががががががががががががががががががが!!! 

 「dふぁsjkflさdjk;l!」
 「kdfljg化;ldsfじゅいおあうぇう!!」
 「fだskfじゃdskjlfd;あ!」
 「fだsjふぁsdjkl;f;l!!」
 『れおwぱいr@ql;ふぁsd!」

 リアロエクスレーターの先端のチェーンガンが火を噴き、ミュータントの大群を血祭りにあげていく。

 「00010101010011111!」

 背後から対人ロボットがマシンガンを構え、

 じゃきっ!

 パパパパパパパパパパ!

 かぎゅかきゅかきゅかきゅぎゅぎゅぎゅぎゅうんっ!


 <わわわわわわ!こいつぅ!>

 猛烈な弾幕がバイクを襲ったが、ミサイルの直撃にすら耐えるリアロエクスレーターシリーズにとっては、水鉄砲同然だ。

 じゃき

 どががががががががががががががが!

 「10101011111!?」

 <日本語しゃべろ!>

 バイクは強烈な加速をかけてロボットに突進する。1トンをゆうに超える自重が、ロボットに襲い掛かった。

 ぶぉう!

 どがっ!


 「000000001111010!!!」

 <とどめだあ!>

 バイクの先端が開き、巨大な砲口が姿を見せる。対物兵器として使用される40mm口径レールショットキャノンだ。

 どがんっ!

 殺戮の炎が繰り出される。

 ばごおおおおん!

 哀れ、ロボットは微塵のかけらもないほどにまで粉砕されたのであった。





 「おおおおおおおおおお!」

 ざごんっ!ざごんっ!ざごんっ!

 「0101010101011111!」
 「1111111000010101!」
 「10101010000000・・・・!」

 ハルバートの一撃一撃は、確実に致命傷としてロボットを一体一体破壊していく。

 ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ!

 ひゅんっ!

 ざごんっ!

 「00100101011111!」

 弾丸すらも避けてしまう程にまで、彼女の戦闘技術は卓越していた。今年で29歳を迎えるメイリン=ルイ少尉は、精鋭極まるライダー部隊の中でも最高レベルの戦闘力を誇る、女性ライダーである。何かに特化した戦闘力を持っているわけではなく、単純に腕力やスピード、技術だけを見るのならば彼女を上回る兵士はいくらでもいる。

 だが彼女ほど心、技、体それぞれが最高レベルで、かつバランスよく整っているライダーはいなかった。数々の要塞攻略戦で彼女は死亡率が著しく高いとされる最先頭の突撃隊に所属しながらも、全て生き残ったつわものである。

 「おおおおおおおおお!」

 ざごんっ!ざごんっ!

 ざごんっ、ざごんっ、ざごんっ、ざごんっ!

 ぶしゅううううううううううううううう!!

 「01010101111111111!」

 次々と切り伏せていくうちに、オイルやガソリンの血しぶきがナイトミラージュを包み込んでいく。すでに10対以上のロボットをなまず切りにしたのにもかかわらず、ロボット達は再生を始めている。やられたロボット同士が、まるでスライムのごとくに合体し、やられた部分を補って立ち上がっているのだ。

 「ちっ・・・・・・」

 これが奴らの恐怖である。IQウイルスに感染した機械は、電子基盤を一つ残さず破壊しない限り、再生を繰り返すのだ。どんなに強烈な火力を叩き込んでも、奴らは復活してくる。たとえ絶対数が減ろうとも、全体的な戦闘力は増してくるのだから極めてたちが悪い。たとえ戦車の砲撃を食らわせて破壊しても、少しでも生き残っている部分があればまた動き出し、今度はその戦車を奪ってより強大に・・・・なんていう例も少なくないし、それが戦車が戦場から消えた理由である。過去、ライダーと呼ばれる戦士達がネオプラントの軍隊に圧倒されたのは、まさにこのロボット達の強烈な再生能力からくる消耗戦にあった。

 あの当時のライダー達はすべて老人だった。かつてこの時代ではライダー達は戦いに疲れ、老化を理由に、後世のライダー達にその役割を引き継がせたというが、2005年3月におこった「カタストロフ・デイ」が原因で、老いた彼らも戦いの場に引きずり出される結果となったのだ。戦闘技量はあったかもしれない。だが肉体的限界が彼らライダーを負けせしめたのだ。

 つまりロボットを完全に破壊するには、こういった武器が必要なのである。

 ぴんっ、ひゅんっ!

 ぶしゅううううううううううううううううう!!!!!

 「01010101001011111111111111111!」
 「1111011010100101101010000000!!!」
 「010101011!!!!!!」
 「0101010100110100101010!!!」
 「0010101010101010101011!!!!!」
 
 人類は生き残るために狡猾となった。ロボットの電子基盤を完全に破壊するために作られた、強烈な酸の煙を発生させる硫酸手榴弾がロボットの塊を包み込んでいき、全てをサビと鉄くずの塊にせしめていく。苦しみもだえていくその姿は、まるで小動物の命乞いを連想させるが、奴らはプログラムだ。慈悲をやる心は自分の中には存在しない。

 「010010・・・・・・・・・010・・1・・・・・・・」

 がしゃん、という音とともに、ロボット達は機能を停止した。

 周囲にはすでに敵は確認できない、殲滅完了・・・



 「バイク、そっちおわった?」

 さっきまで戦っていたとは思えない、あっけらかんとした声でナイトミラージュはたずねた。

 <はーい、終わりました。レーダーでは敵増援の確認はできませんね。>

 バイクの前には、肉の塊となったミュータントの山、鉄くずとなって原形をとどめないほどにまで壊れたロボットの山が出来上がっている。

 「よし、じゃあソーイチを追っかけるわよ」

 「了解!」











同時刻

 「いやっほぉおおおい!」

 どがんっ!どがんっどがんっ!

 自動車と融合したロボット兵士が執拗にこちらに向けて発砲してくる。

 「浮かれてないで早く走れ!」

 <無茶言わないでよ。これ以上のスピード出したら街中で大惨事よ>

 バイクのメーターは120km/hを記録している。筆者はいつも思うのだが120km/hだけでも十分なのに、それ以上の速度出したら間違いなく曲がれないと思うし、のろのろ走っている車に激突する危険性が非常に高い。にもかかわらずなぜ暴力的な速度を平気で出せるのだろうか?

 <何考えてるの?ここはあたし達の時代と違うのよ>

 24世紀では核戦争の影響で地上が完璧に荒地となり、障害物となるようなものはほとんどなくなっている。川とか山はあるにはあるが、そういったところには要塞が必ず建てられているのであまり問題にはならないし、行軍や電撃戦を行うためにバイクの速度はうなぎのぼりに向上しているのである。リアロエクスレーターは異常と言えばそれまでだが、元々リアロエクスレーターは負傷者搬送用や伝令用に開発されたのだ。それが技術者が欲に狩られてしまい、今では無尽蔵に火器が満載した戦車バイクと変貌したのである。

 ぶおおおおおおおお!

 自動車がスピードを上げてきた。

 「まずいよっ!横につけられそう!」

 サイドカーに座っている成美が悲痛の声を上げる。

 「バイク!」

 <レーザー地雷射出!>

 がこっ

 ぼしゅうううん!!

 今の今まで使いようの無かったかのような、後部のトランクを連想させる所から数発の光球が放たれた。光球はバイクのはるか前方の道路に突き刺さり、青白い炎をあげはじめる。

 ぶおおおおおお!!

 瞬く間にバイクは炎を横切る形となったが、横につけていた自動車はその炎に包み込まれ、

 きゅいいいいんっ!

 どがああああああああああああああああああん!!!!

 痛烈な爆裂と共に、自動車は木っ端微塵に粉砕されてしまった。成美がそれまで見たリアロエクスレーターの火器の中ではもっとも強力な武器じゃないだろうか、と思わせてしまうほどの強力な火器であった。。

 「あれってなに!?」

 <平行追撃迎撃レーザー射出地雷です。ミス成美。凝縮した加粒子を地雷のように地面にばら撒き、対象が上を通った瞬間に風圧が粒子を引火させ、どかんっ!です。>

 「どかんっ・・・て」

 <私達の時代の人工衛星砲台の主力火器をよりコンパクトにしたものです。オリジナルのレーザー水爆投下爆弾はこれを大規模にしたもので、半径数キロを容赦なくクレーターにします。実際に要塞を潰したら軍隊の拠点がなくなるので、大体は敵軍の威嚇や侵攻ルートを潰したりしているのが現状ですけどね>

 「う・・・・・・」

 怖気がした。このバイクは口調そのものは宗一よりはるかに優れているが、持っている火器は並じゃない。ネットで見た「怪人」は銃も通用しない、というのが常識だと伊南村くんは言っているが、怪人すら撃ち抜く火器を持っているところからして彼らはおっかない連中だとおもってしまう。そうこうしているうちにバイクは追っ手を振り切り、山道の直前に入ろうとしていたそのとき―――

 <・・・アラート!>

 「どした!?」

 <追い詰められました・・・ここから先5kmは山道なので私では行けません。>

 「なんだと!?」

 リアロエクスレーターは平地での使用を想定したバイクだ。山道の踏破能力は優れていはいるが、もともと1トンを超える超大型バイクなので山道のような小回りの必要な悪路や地質がゆるいところでは前世代バイク「疾風(製作:ガーデックテクノロジー社)」や「レッドパルサー(製作:SBテクノロジー社)」、「ヘルズブレイカー(製作:BNエンパイア社)」などにはるかに劣るのである。

 <申し訳ありませんがミス成美。ここから先は徒歩で行ってください>

 「う・・・・・」

 <本当でしたら不本意なのですが・・・現状が現状です。追手はここで食い止めますので>

 食い止める、という言葉にアルフは嫌そうな顔をする。

 「う・・・・まあいい宗一。こっから先は俺が食い止めてやるからよ。お前さんは我らが姫様を連れて愛の逃避行をしたまえ」

 祖のおちゃらけた口調に宗一は口を荒げる。

 「馬鹿をいうなっ!」

 しかしアルフはそれを見越したかのようだったらしく、

 「まーたまた、お前の悪いところはそうやっていっつもクソマジメなところだ。いい加減にふざけという奴を覚えろこの戦闘マシーン」

 「・・・・・言いたいほうだいね」

 「こんぐらい言わなきゃこの馬鹿はわからねえんだよ。ほれ、さっさと走ってけ!」

 まるで野良犬を追い払うかのようにしっし、と払いのけるアルフに、二人は山道に入っていった。









 それからどれ位時が経ったのだろうか。

 「・・・もう9時半よ。もうあれから2時間も逃げてんのねあたし達」

 携帯電話の時計を見ながら成美はしゃべったが、宗一は沈黙したままだ。

 「・・・・・」

 「アルフさんやメイリンさんはだいじょうぶかしらね」

 「・・・・・ああ大丈夫だ」

 「もし追っ手が来なかったら二人が迎えにきてくれるんでしょ

 「・・・そうだ」

 そっけなく返答する宗一。さっきからこういう態度を取られ続けている成美は、イライラを募らせてくる。

 「・・・ひょっとして、あの時のことまだ怒ってんの?」

 「・・・・・怒っていない」

 「じゃあなんで積極的に・・・というか、今みたいに消極的にしか話そうとしないのよ」

 「君に嫌われているからだ。俺が何か行動を起こせば君がイラついて迷惑するから、俺は何も言わないのだ」

 彼なりの気遣いなのだろう、と成美は思った。確かに自分は怒りのキャパシティーがあまりにも低いことを自覚していたし、宗一が無尽な行動を起こして怒りを爆発させるのは過去の実例から明らかだ。だから彼はクラスでもだんまりを決め込んでいる、成美はようやく彼の行動原理を理解したような気がした。

 だがよくよく考えると自分が悪いのだ。と成美は思う。イラつきなんて我慢すればいいのにすぐに外にぶつけようとする自分が悪いのだ。宗一はあくまでも300年後の世界からやってきた未来人、価値観が違って当然だろう。自分は本質的に心が狭いのだろうか?差別主義者なのだろうか?暴力で何でも解決してしまっているのだろうか?そう思うと自分が情けなくなってきてしまい、宗一のように自分から動きたくなくなってしまう。

 「・・・・・」

 「・・・どうした。何止まっている?」

 気がつくと歩みを止めていた。

 「・・・ううん。なんでもない」

 「そうか。早く行くぞ」

 だめだ、どうしてもいえなかった。ここで素直にごめんと言えばこの心のどこかに引っかかっている石っころが払いのけるというのに、いざ言おうとしてもいえなくなってしまう。自分は腕っ節は強いが心があまりにも弱すぎる。最低の女なのかもしれない。

 「・・・どうした?足でも痛いのか?」

 また止まっていた。言い訳するのもめんどくさかったので成美はこういった。

 「ううん・・・よくわかんない」

 「???」

 予想外の返答をされたのか、宗一は困ったかのような顔をしてしまった。恐らく彼はマニュアル通りにしか動かない、ターミネーターのような青年なのだろう。だから決められた反応パターンが無ければ、彼は困っている、のかもしれない。

 「宗一」

 「なんだ」

 「あんた、誰か好きになったことってある?」

 ああ、何を言っているのだろうか。自分は今の状況を楽しんでいるのかもしれない。

 「・・・ないな」

 「一度ぐらいはあるんじゃないの?怪我をした女の子を助けたりーとか、上官がもんのすんごい爆乳のオネーチャンだったー!とかさ」

 「ない」

 「正直に言ってよ。秘密にするから」

 「・・・ない。恋をする暇も無いし、考える暇も無い毎日を過ごしてきた。」

 そこから、私は、宗一の過去を少し知ることとなったのだった。



 「俺は生まれてすぐ両親がテロで死に、叔父の真崎によって戦闘マシーンに仕上げられた」

 真崎という単語は成美は知っている。宗一の叔父でもあり、将来自分が立てるレジスタンスの未来のリーダーだ。

 「そこで俺はあらゆる考えを棄却した。なぜ自分は戦うのか、なぜ自分はこの年齢であって軍隊にいられるのか。国語算数理科社会と軍隊格闘術や殺人術、サバイバル技術を全て叩き込まれ、6歳のころに弾薬補給の名目で線上に借り出された」

 「・・・」

 「俺はあの日のことを一切忘れていない。目の前でライダーが撃たれて死ぬ光景。ネオプラントのロボット兵士が触手を伸ばして死にかけたライダーの脳髄に穴を開けてミュータントにした光景、恋人の名前を言いながら死んでいくライダー、俺をかばって銃弾を受けて死んだライダー・・・数え切れない死を目の当たりにした。」

 恐らくそれは、成美でなくても想像にもできない地獄だったのかもしれない。そんな環境の中で宗一は育ち、今に至るのだ。当然、常識の類は戦闘技術がらみのものしかないだろうし、彼に非難すべき理由は無い。恨むのならば叔父である真崎を恨むべきであるはずだ。

 「戦場で生き残るためには最後まで生きるという意志が必要だということを俺は学んだ。救助した女性ライダー・・・さっき君に話したあれだ。彼女は恋人がライダーだったのだが戦闘で足を失って病院に送り込まれたが、その男は極めて貧困な経済力しかなく家族を養わなければならなかったため、戦傷手当てや保険で生活ができない有様だった。彼女はそれを助けようとライダー隊に志願して戦い・・・」

 「戦い?」

 成美がせかすかのように反復すると、宗一は

 「死んだ。彼女は男にも負けないいい兵士だった。俺は彼女を生かそうと必死に下腹部に埋まった劣化ウラン弾の応急摘出をしようとしたのだが、彼女はそれを拒否した。『自分は孤児だから家族はいない。だから戦傷手当てや保険は彼に渡してくれ』と言い残してこの世を去った。」

 「・・・・・」

 あの下品な話の裏にそんなことがあったとは。我ながら短絡的過ぎであることを成美は反省せざるを得なかった。

 「その女兵士の仲間の中に助かった者いたが、死んだ人間の方が圧倒的だった。俺は死んだあの女兵士の彼氏に対する献身振りが理解できなかった。それを聞くと彼女は俺に『恋をすればわかる』と言いのこしてそれっきりわからないのだ。なぜそこまでして彼女は男に尽くせるのかが・・・俺にはわからない」

 「それが恋だからよ。」

 えらそうなことを言ったのかもしれない。自分も恋をしたことが無いくせに。

 「俺もそう思う。だが俺はその恋というものを知らないのにその一言で決めてもいいのだろうか。今日までに生きてきたが、俺はそれがまだわからないのだ。それに・・・・・・」

 宗一の話はそこで途切れた。






 話のその先には、無数の人影が立ちはだかっていた。

 否、人ではない。かつて人間だった人間だ。文章がおかしく見えるかもしれないが、かつて人権を得ていた人間が、今ではロボットどもに肉体をのっとられてその手先と化し、しかも考える力も失われているために彼らは人間ではないのだ。

 そしてそれを操っているのは、これまた変な怪人だった。全体的な特徴として皮膚が乾燥しているような茶色か黄土色をしており、5本の爪は鋭く尖り、さらに甲羅のような硬そうな鎧かプロテクターのような物体を体中のあちこちに着けている。

 「ぎぎい・・・・・」

 「うっそぉ・・・」

 思わず声を上げる成美だったが、無理もない。こうも敵に先手を取られるのは普通ありあえないことだと宗一は思った。なぜこうも行く先行く先に敵が待ち受けているのだろうか、バイクで逃げた一件やこうして山に追い詰められた点からして、明らかにこちらの情報が筒抜けだ。

 「下がっていろ」

 「言われなくたって下がるわよ・・・」

 そうは言いつつもどうも自分は彼に対して冷たすぎるのではないか、と成美は自問自答した。まかりなりにも自分を守ろうとするナイトであるにもかかわらず、自分はそれを否定しているかのような考えが今までの自分の彼に対する態度からして強く位置づけられているからである。

 「ミュータント18、ロボット兵士は車型5、怪人は1・・・」

 一方の宗一はたいした数をよこしたものだと思った。彼女一人を暗殺するには豪勢過ぎる兵力といっても過言ではない。おそらくネオプラント側もこちらが護衛をよこしたことを察知して、このような数を送り込んだのであろう。
それにこれだけの数を集めるのは、かなり周到だったのだろう。ここの山道は外灯はあるし、二車線あるから車も走れる。だがこの山を越えると隣の市に行けるのだが、実際に使われているのは市街地の交通量の多い広い道路だ。ここは地元出身しか使わない裏道みたいなものなので、交通量は非常に少ない。にもかかわらずここに車を5台も集めたのは・・・

 「最初から俺たちをここに誘い込むつもりだったか・・・」

 これまでの単純なネオプラントとは思えない周到な作戦だ。おそらくこの作戦を立案したのはテロ組織バルラシオンのほうであろう。奴らのような狡猾な連中ならばこのような用意周到な策を用意するのは造作でもないだろうから。

 「ぎぎいいいいい!!」
 「10101010111111!!!」
 「0010011111!!!!」
 「fじゃsd;kぁるあうぇいおら!!!」
 「kgヵsd:;あsdkd:!!!!」

 相変わらずわけのわからない叫び声をあげている。ここが人里離れた山奥なのをいいことに奇声を上げるのはそこらにいるチンピラと変わらない。ただこれは奴らが人間に対して威嚇的な行動だと最近の研究で分析されているかららしいが、真相はどうなのだろうか、と宗一は思う。

 とはいえここでこいつらを始末しない限り、成美は間違いなく殺されるのは明白だ。

 宗一は轟いた。

 「アプリケーションライダー起動!」

 <了解・・・四次元コンテナ起動、ベルトスタンバイ>

 電子音声と共にべりっ、という生生しい音が宗一の皮膚を突き破り、変身ベルトが露出する。

 <ベルトスタンバイ完了。コマンド?>

 「ツェータ」

 <了解。四次元コンテナ開放・・・変身開始>

 風車のオブジェが回転をはじめ、無数の緑色の光の線が洪水のようにあふれ出、瞬く間に宗一の全身を覆った。

 <システムオールグリーン。通常戦闘モード・・・>

 <全アチュエーター・・・OK>

 <アーム、レッグユニット・・・戦闘レベルに設定完了>

 <アーマー、ヘルメット装着完了>

 <全システム同期完了。オールグリーン・・・稼動開始>

 やがて光の束がベルトに収束し、そこにあらわれたのは青い戦士であった。



 じゃこんっ!

 どこから出したのか、いつの間にかツェータはショットガン・・・ハイリニアショットガンを構え、不意打ちとも言えるタイミングと速度で発砲した。

 どがぉん!どがぉんっ!どがぉんっどがんどがんどがんどがぉおおおん!!!!

 「ぎゃば!?」
 「ぎゅfかlsr;!!」
 「hかlr:あえ!!」
 「101010!!」
 「jgかsdjkfl;うぇじゃ!!」
 「kふぁs;ld!!!」

 相変わらずものすごい轟音だ。ミュータントの体が容赦なく吹っ飛ぶその光景を、成美は徐々に見慣れつつあった。

 思えば、彼らは体や知能をのっとられているとはいえ、元はといえば人間だったのだ。にもかかわらず宗一たちは彼らを容赦なく殺している。徹底的に、かつ完膚なきまでにだ。以前メイリンさんにそのことを聞いてみると、彼女はこう言ってきた。

 「ナルミ。あなたの言いたいことはわかるけどね、やらなければあなたが殺されるのよ。人間は血を流して歴史を作っているのはどうしてだと思う?それは人間が馬鹿だからよ。馬鹿だから仲良くできずに人をいじめ抜いて殺す、そんな馬鹿を止めるために人間は血を流して止めなければならないの。」

 「・・・・・」

 「私のライダースーツはね、もともとは青だったの。でも赤にしたのはアホなソーイチとかぶるからじゃなくて、血を浴びるから色なんて関係ない。だけど赤くすれば赤い地を気にしなくて戦えるから赤くしているのよ」





 ツェータは弾を入れ替える。

 がきんっ!

 がしゃんっ!じゃきっ!

 どがぉんっ!どがぉんっ!どがぉんっ!どがぉんっ!

 「fdkぁs;:あ!!!!!」
 「0110011111!!!!!!!」
 「0111011010101111111!!!!」
 「101010010101110000!!!!」
 
 かっ!

 どがぉおおおおおおん!!!!

 3台の自動車にショットガンの弾丸が直撃した直後、自動車が容赦なく区連の炎と爆炎にさらされた。特殊弾の爆裂火炎弾を使ったのだ。自動車に寄生していたロボット兵士は炎に包まれ爆発を繰り返し、ほかの自動車を巻き添えにして2度目の大爆発を起こし、さらにミュータントを巻き添えにしていき、夜の山奥を明るく照らした。

 どがんっ!

 爆発にひるむ怪物に避ける隙を与えぬうちに弾丸を放った。宗一によればこの銃の弾丸の質量は1kgあるということで、1〜10グラムがあたりまえな世界で異常すぎる重さだ。そんなにあるんだと聞くと「怪人の装甲を貫くには最低500gの質量でなければならない」かららしい。実際前の闘いでもこのショットガンは怪人の胴体や頭を軽く撃ち抜いているところからも、その威力はただの銃など足元に及ばないのだろう。

 だが、

 がぎゅうん!

 痛烈な弾丸は怪物を貫くどころか、逆に怪物の体でつぶれてしまった。

 「!?」

 どがんっ!どがんどがんっ!

 がぎゅううん!がぎゅがぎゅうううん!

 引き続いて数発の弾丸が放たれたが、やはり怪物の筋肉の表面でつぶれてしまう。そのうちの一発が怪人で跳弾をおこして公園の街灯を直撃、無情にも倒れてしまった。

 「・・・どういうことだ」

 ハイリニア・ショットガンから放たれた弾丸がたとえ通用しなくても、着弾時の衝撃力は半端ではなく、全身の表面を簡単に撃ち崩せるか、あるいは内臓への振動ダメージは半端ではないはずだ。にもかかわらず目の前にいる怪人は、それすらも感じさせないのはどういうことなのか。

 「ぐわおおおおお!」

 アルマジロの怪人が飛びかかった。

 「!!」

 がしゃあん!

 避けるのは造作でもなかったのだが、思いのほか怪人のスピードが速く、かすっただけでショットガンがばらばらに崩れてしまった。

 「ちいい!」

 再び距離をとったツェータは、またどこから取りだしたのか、今度は・・・ショットガンに似た武器を取りだす。

 パパパパパパパパパパパパパパパパパ!

 スペル・スカル・ピストル。威力こそショットガンに劣るものの、恐ろしい連射性能を誇るマシンピストルである。本当ならばバイクことリアロエクスレーターが近くにいないとあっという間に玉切れをおこしてしまうのだが、どうやら体内にコンテナを詰めこんでいるツェータは例外であるらしく、マガジン交換なしで連射が続けられる。

 パパパパパパパパパパパパパパパパパパ!

 「ぎ・・・ぎぎぎ・・・・」

 正確無比な猛連射はアルマジロの怪物の頭を執拗に襲い続き、動きがとまる。本当は他のライダー達と共同で、怪人やロボットを足止めするか、強力な火器が存在しない状況で相手の動きを止めつつもなぶりごろす形で仕留めるのが本来の役わりなのだが、ショットガンが壊れた今、パワーガン以外で火力に自信のある火器がこれしかない今、状況が状況なので仕方が無い。

 パパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!

 パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!

 パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!

 本当はこうやって時間を稼いで、メイリンやアルフの到着を待つつもりだった。自分はそんなに強くはないと自負しているので、確実に敵を撃破するには自分ひとりだけでは無理だとツェータは考えていたのである。

 だが彼の考えは脆くも崩れ去る

 「ぐわおおおおおおお!」

 怒り狂った怪物がマシンピストルの連射の嵐を潜り抜けて突進してきた。

 どがっ!

 「!!!」

 強烈な一撃は350kgのツェータを軽くつき飛ばし、山林道のの大木を貫通、そのまま失速して倒れた。

 「・・・・ちい、」

 <アラート、SSPオーバーヒート。これ以上の射撃は銃が焼けついて使用できなくなります>

 <マシンナリーアナライズよりツェータへ。敵タイプγ、後期生産型アルマジロタイプと確認・・・あらゆる銃器を受けつけない強力な装甲を有しており、質量およそ600kgと推定。その質量を生かした突進攻撃、もしくは爪による引っかき攻撃をおこなうものと推測されます。これ以上の射撃攻撃は無意味であると判断します。>

 「・・・・・どうしろと?」

 <マシンアナライズよりツェータへ、近接戦闘システム起動>

 「!?」



Main system Application Raider・・・・・

Contact ok

Battle programing change start・・・・・


がしゃん、がしゃんかしゃん。

かしゃかしゃかしゃかしゃん!


それまで腰や背中につけていた銃器や手榴弾の類が、強制的にはずされる。

 「何をする!」

 Battle programming infighting-mode・・・・・ok

 shooting weapon takeoff・・・・・ok

 Roket booster firering・・・・・ok

 Electoronic generater・・・・・power50%→95%

 Refrigeration・・・・・power35%→97%

 Auto shooting lock system・・・・・off

 Main system Application Raider・・・・・All green!

 Sprassyer kick・・・・・ok!


 <全システム、近接戦闘モードへの切り替えが完了しました>

 「ナイフも捨ててでか!?」

 <YES,敵は打撃でしかダメージを与えられません。素手による直接攻撃を推奨します>

 ・・・・・

 「ぎぎぎ・・・・・・」

 過去、潜入作戦でも宗一は幾度かこのタイプの対戦したことはあるが、それがどういう相手かもわかっているし、弱点も熟知している。しかしだからと言って銃まで捨てる意味が分からないのだ。明らかに戦闘力を自ら捨てているようなものだ。

 <システムよりライダーへ。これより近接戦闘に移行します。これより専用FCSのロックした箇所に肉弾戦攻撃を仕掛けてください。回避指示はこちらが自動で行います。>

 「・・・・・つまりパンチやキックをしろというのか」

 <イエス。>

 そっけなく答える戦闘システムに、宗一は不快感を覚える。いっそのこと銃を拾ってやろうとも考えたのだが、射撃システムが勝手にOFFにされたために、たとえ銃を拾っても引き金がロックされて使えないのは明白だった。

 「・・・・」

 このシステムを作った連中は、何を考えているのだ。



 <敵接近!>

 「グワォウ!」

 怪物は強烈な右ストレートパンチを繰り出してきたが、宗一は軽く避ける。

 「ぐわぉ!」

 続いて数発のパンチを連続でかましてきたが、これも難なく避けるが、反撃の暇を敵は与えてくれない。

 「ちい!」

 <9時方向ステップ!>

 「だまっていろ!」

 「ぐわぉう!」

 どがっ!

 怪人の右フックがツェータの頭に命中。

 どがっ!どがっ!どがっ!

 続いて2発のフックが腹に入り、まともに食らったツェータは、最後に左ストレートを腹部に打ち込まれて吹っ飛び、コンクリート製の壁に叩きつけられる。

 「・・・・・!」

 <ALART ダメージ15%。これ以上の過負荷は危険です。>

 「わかっている!」

 つい声を荒げてしまう。元々宗一はクロスコンバット(素手による白兵戦)においてはかなりの実力をもっている。元々遺伝子強化を施されているので筋力面では大人でも彼にかなう事はまず無理だ。戦闘技術も白兵戦の達人メイリン=ルイ少尉直伝であるため、周囲のライダー達からも一目は置かれている。

 ・・・のだが、たった一つだけ彼が他の大人たちに劣る点があった。

 <心拍数上昇。ノルアドレナリン分泌量が基準値オーバー。アラート・・・>

 彼はプレッシャーにはきわめて強いのだが、イレギュラーな事態、特に銃が無い状態での心理的耐久力に著しい問題があることだった。これまでにも彼はいつも銃を片手放さない位置に持っていたのだが、いざ銃がなくなると非常に狼狽してしまうのである。無論これは他のライダー兵にも言えることなのだが、特に宗一の場合はその影響が著しかったのである。

 その原因が浅岡真崎であった。彼がライダーに銃や武器を持たせることを義務付けた理由の一つが、戦場における心理的な安定感をもたせることにあった。これまでのライダーは皆素手で戦うと言う「悪しき伝統」が蔓延しており、浅岡真崎の政権以前までは無防備の状態でライダーが戦場に送られ、死に至らしめたのである。過去第2次大戦時代にもソビエトは、数を生かして無防備状態の兵士達をナチスドイツ軍率いる軍隊に突撃させたが、あれと根本的に同じなのである。

 何しろ相手は銃を持つロボットや、捕まった人間が機械漬けにされたミュータント、驚異的な戦闘力を誇る怪人など、単体での戦闘力差に歴然とした差があったし、何よりライダー達は生身の人間である。「伝説の時代」と言われたライダー達は有機的改造を施されたものがほとんどであり、そのファクターによる戦闘力がライダーたる由縁であったのだが・・・倫理的問題や技術、コストの問題が遭い重なり24世紀のライダー達はみな生身の人間が強化服を着ているだけにしか過ぎず、この時点で「伝説の時代」のライダーと比べて明らかに劣っているのである。

 しかも妄信的に「ライダーは素手で戦うべし」という伝統が引きずられ、レジスタンスのライダー達は勝つこともあるにはあったが、負けた際の被害が凄まじかった。生き残った兵員も心理障害を煩い、皆退役してしまう有様である。かつての時代のような少数精鋭であればよかった、だがこの時代は違い1万単位の集団線が基本となっており、ミサイルの電波兵器の類は大気の電子ノイズの影響が著しくひどいために撃つこともままならない。元々単独行動を行うことが前提のライダーが集団戦を行うこと自体、無理があったのだ。

 そこで集団としての単位を持たせるべく、真崎はライダー達に白兵戦用の武器を持たせることにしたのである。元々怪力を発揮できるライダーが武器を持てばロボットの硬い装甲や、触手や電撃などで戦う怪人よりはるかに有利に戦えるし、武器を持つという事実が兵士達を勇気付ける。銃と違って生々しい殺しを実感させるために必然的に規律や使命感を持たせられるなど、メリットづくしであった。ただライダーが武器を持って暴行を行うと言う事件もあるにはあり、そういった面ではまだ不完全ともいえたのだが・・・これら時代背景から、この時代のライダーにとって無防備状態とは、まさに考えられない状態だったのである。

 <マシンナリーアナライズよりツェータに・・・戦闘の意思はありますか?>

 「・・・・・」

 返答できなかった。恐怖になっているわけではない。

 (どうすればいい・・・!)

 行動にためらいが生じたのだ。トマホークさえ持っていればまだよかったかもしれないが、竿状の柄の長い武器は、体内に入っている四次元コンテナに入れられないので、バイクにいつも取り付けているのだが・・・あいにく彼のバイクは今ここには無く、学校の地下に眠ったままである。

 「ぐるるるる・・・・」

 怪物が一歩前に出ると、ツェータは一歩後ずさる。逃げに徹していると思われても仕方ないかもしれないが、実際逃げている。こちらでは打つ術が無いから、距離をとってけん制し、メイリンやアルフの援護を待つしかないのだが・・・

 「・・・・・」

 ただこのこう着状態を気に食わない者もいた。



 「こらあ!ソーイチ!」

 「!?」

 振り返ると、さっき物陰に隠れていたはずの成美が、いつの間にか自分の後ろに立っていた。

 「何をやっている!逃げろ!」

 「あんたも逃げてんじゃないわよ!このぼけなす!」

 「ぼけなす?」

 予想外の罵声を受けて、ツェータは困惑してしまう。

 「誰が見たってボケナス以外なんていえばいいのよ!」

 無茶苦茶だ、と成美自身も思いながら、続ける。

 「あたしもね・・・宗一。”仮面ライダー”っていうやつを調べてみたのよ。伊南村君や明美たちに手伝ってもらったけどね・・・」

 「・・・・・」

 宗一は黙っていたので成美は続ける。

 「仮面ライダーって言うのは、たとえ相手が武器を持っても自分の拳でそれを打ち破るそうよ、でも何よ今のあんた!あんた銃持たなきゃただのへっぴり腰じゃないのよ!そんなのライダーじゃない、ただの臆病者よ!」

 「俺が・・・臆病?」

 <接近警報!>

 「ぐわおおおお!」

 アルマジロの怪人が成美めがけて飛び掛ってきたが、成美のおでこ一歩寸前まで怪人の爪が止まった。

 「・・・・?!」

 良く見ると、ツェータが怪人の左腕を思い切りつかみ、必死に成美から引き剥がそうとしている。

 ぎりぎりぎりぎりぎりぎりっ!

 「逃げろと・・・言ったはずだ・・・・!御託は後でいくらでも聞いてやる!」

 脅迫めいた口調と、殺意むき出しの怪人の行動で、成美はひるんだが、彼女は崩れ落ちることは無かった。

 「御託じゃないわよ!このトーヘンボク!」

 「!?」

 「それでもあんたライダーなの!?男だったらそんなへんちくりんなのとっとと片付けなさいよ!」

 宗一はますますワケが分からなくなっていく。当の成美すらもそうだったが、いったん切れた彼女はマシンガンのように罵声を続ける。

 「あたしは逃げないわよ!・・・どんな風になってもあたしは逃げないで最後まで戦う主義なの。たとえあんた達の時代がやってきてメチャメチャになってもね、あたしは絶対に逃げないわよ。あたしは逃げることがだいっ嫌いなんだからね。」

 「バカを言うな!命が惜しくないのか!?」

 「ぐわおおおおおおお!」

 「ぐわぐわうるせえこのモグラ!あたしが言いたいのはね宗一!・・・・・なんで銃で戦うあんたの体に格闘戦で戦うプログラムみたいなのがあるかっていうことなのよ!普通おかしいと思わない!?」

 「・・・・」

 「まだわからないの!?あんたのおじさんだかなんだか知らないけどさ!少なくとも武器で戦ってばかりじゃいけないっていうメッセージじゃないのそれは!?誰が造ったか知らないけどね宗一、少なくともあんた達の時代があたしらの知っているライダーの真似をしているってことが分からない?あんたらはあたしらの時代のライダーの子孫みたいなものなんでしょ・・・・・先祖の恥をかかせたくないでしょ!」

 「・・・・・」

 「だからあんたの先祖のあたしは逃げないの。あんたが逃げていてあたしも逃げていたら意味が無いし、それじゃあたしもいつか殺される。だから最後まで抵抗して殺された方がまだましよ。」

 このとき宗一は圧倒され続けていた。

 6歳のころから銃弾飛び交う戦場で戦いつづけ、少々のことでは驚くことが無かったはずだったが、いま2歳年上の女に自分の痛いところを突かれ、そして自分が情けなく感じつつあった。自分より年上の大人たちは余るほどいたし、自分より先に死ぬ大人も子供も腐るほど見てきた。だが一度も人が死ぬ光景を見ない、たった一人の女性に自分が圧倒され続けているのだ。

 「確か前に言ってたわよね、あんたが死のうがあたしが生きてりゃレジスタンスは大丈夫だって。それってつまりあんたが死んでもドーでもいいってことなのよ?あんたはそれでいいの!?」

 「・・・・・」

 「何とかいえタコナス!」

 「いい訳が・・・ない!」

 宗一は憎悪を覚えていた。なぜかは分からないが、自分を戦闘マシーンに仕立て上げた自分の叔父に対して、うまく説明ができない憎悪がこみ上げてきたのだ。いや、説明はつくのだろうが、今の自分では説明ができないのだ。あの男こと浅岡真崎に対する憎悪。裏では汚いことをやっているが、決してそれを表に出そうとしない卑劣な男、そしてその天才的な話術力のまえに誰一人として彼を論破したものはいないのだが・・・その責任を自分以外の誰かに押し付ける悪辣な男だ!

 「うおおおおおおおおおお!!!!」

 <アラート!間接部に過負荷!>

 OSが悲鳴に近い警告音を発するが、ツェータは腕の力を急激に強めていく。

 びゅおう!

 「ぎ・・・・・・!」

 600kgを超える怪人の体は、ツェータによって軽々と持ち上げられた。最初怪人は両肩に乗せられていた形だったが、一瞬にして頭は左手、股先は右手で強く掴まれ、体の支配権が完全にツェータに移る状態となる。

 「おおおおおおおお!」

 ばきばばきばきばきばきぃぃぃぃ!

 「!!!!!!」

 ぶしゅうううううううううううううううううううううっっっっっっっ!

 アルゼンチン・バックブリーカー。相手の腰を支点にして首と脚を締め付けてエビゾリにし、背骨をいためるつけるという、プロレスの中でも豪快な技だ。過去の超人漫画ではそのまま背骨をへし折るというとんでもないことがあったが、浅岡成美の目の前でそれが実現されたのである。ライダーの怪力作用ならばそれを可能にできたのだが、それにしてもショットガンすらもうけつけなかったアルマジロ型の怪人は背中と足がくっつくかの勢いで背骨を折られ、はちきれた腹部から赤い噴水が噴出する。

 ばきんっ!

 にぶい金属の悲鳴がこだまし、ツェータはその場で膝まついてしまう。

 <アラート!左膝損傷!姿勢制御率54%に低下!>

 「まだだ!」

 さっきの銃撃戦で破壊した街灯の先端に向けて、ツェータは渾身の力を込めてアルマジロを投げ飛ばした。

 ざごっ!

 「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」

 串刺しとなり、この世のものとは思えぬ悲鳴を上げるアルマジロ。いかに分厚い装甲があるとはいえ、間接部だけはどうしようもない。宗一はそこに目をつけて、相手の腰骨を折る策を労したのだ。結果自分の左足が使えなくなったが、それまで銃が通用しなかった敵がこうも叩き伏せられたのは偉業とも取れるものだと自負もしている。

 <メインシステムよりツェータへ。左脚部損傷により電圧の逆流が発生。3分以内に換装が無い場合は過負荷消費の危険性が発生、稼働時間のこり5分!>

 <マシンナリーアナライズよりツェータへ、敵大量出血と再生を同時確認。致命的ダメージを与えない限り戦闘はこちらが不利です>

 <メインシステムよりツェータへ。電圧逆流が発生。左足部を切除しない場合は爆発の危険性があります>

 <マシンナリーアナライズよりツェータへ。攻撃を!>

 「こらあ宗一!バケモンがひるんでるぞ!さっさととどめさせえ!」

 <メインシステムよりツェータへ。計算システム過負荷>

 <マシンナリーアナライズよりツェータへ・・・>

 「ぼさっとすんな!さくさくとどめ刺さないとまた復活するわよ!」

 「うるさい!」

 あちらこちらからいろいろ言われて、彼の脳の演算処理能力が限界を超えた直後、彼は怒鳴った。つい怒鳴り声を挙げる辺りが、メイリンやデビッド、アルフからまだ未熟だと言われるゆえんだったが、今の宗一にはまだ自覚することができない。

 「メインシステム!アラート報告の音声オフにしてシグナルレッド以外のアラートは無視で文字のみ!マシンナリーアナライズは戦闘システムに集中して余分な推測システムは計算をするな!成美は少し黙って集中させろ!」

 <・・・・・>

 <・・・・・>

 「・・・・・・」

 すごい剣幕で怒鳴る宗一の迫力の前に、一同は発言力を失ってしまう。

 「アナライズ!」

 <イエス?>

 怒鳴り口調のまま、宗一はアナライズに質問をする。

 「現状で奴を完全に沈黙する術を提示しろ!」

 <了解・・・・・>

 目の前ではアルマジロが必死に体を貫通している街灯を引き抜こうとしているが、思いのほか自分の強化骨格および装甲が邪魔となって引っかかっているためにうまく引き抜くことができないでいた。そんな中でもやられている箇所が白い煙を上げており、その部位がわずかずつではあるが傷がふさいでいるところからして、今の自分の有利な状況が覆される危険性はいくらでもあった。

 <アナライズ完了。ウエポン”スプラッシャーキック”>

 「?スプラッシャー?」

 <イエス。いわゆるとび蹴りです。左足に内蔵された攻撃システムが対象を沈黙させられる唯一の手段と言っても過言ではありません>

 「・・・・・」

 宗一はまたしても白兵戦をしなければならないのか、という後ろめたさを覚えたのだが、今となっては後に引くことができないと判断し、やむを得ず従うことにした。

 「わかった。スプラッシャーキックを使う」

 <了解>

 がしゃん、

 不意に背中のランドセルが稼動する。

 <ロケットブースター展開。>

 「!?」

 <飛びます。上空50mからのとび蹴りです。左足で蹴るキックなので右足を使わないでください。>

 「!?!?」

 <ブースター点火・・・・・飛翔!>

 びゅごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 350kgの質量を誇るツェータを、ロケットブースターは軽々と持ちあげ、ツェータは飛翔した。

 <FCS,ロック!>

 「無茶苦茶だ!」

 <高度47,48,49,50!スプラッシャーキック!>

 左足が熱くなってきたので見ると、左足が異常なまでに青白く輝き、不気味なオーラのような光を帯びている。

 <降下開始!ターゲットロック!>

 「!!!!」

 もうどうにでもなれ、と宗一は思いつつ、さけんだ。

 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 物凄い勢いの急降下が、ツェータを大地に落としていく。



 「ぎ・・・・・!?」

 ようやく街灯を体から引きぬいた怪人が気づいたときは、全てが遅かった。

 どがんっ!

 強烈な運動エネルギーがアルマジロ怪人の腹部を打ちつけた。

 「ぎゃああああああああああああああああ!!」

 350kgの自重と、ロケットブースターを使った急降下による運動エネルギーは、ハイリニア・ショットガンの威力をはるかに上回り、致命的打撃であった。だがそれだけではない。左足に収束されたエネルギーが怪人の体に劇的な変化をおこしていたのだ。

 ドギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!

 怪物の体にヒビが入っていき、茶色い胴体色が変色しはじめたのだ。ミサイルの直撃を受け付けないはずのアルマジロの怪人にとっては、ありえない現象が宗一ことツェータの目の前で起こっていた。

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!

 怪人の装甲に走る亀裂と共に破片があちこちに飛び散り、周囲に被害を与えていく。

 バリバリバリバリバリバリバリバリッ!

 しかし不可解なことに、ツェータと怪人は密着状態のまま、離れることが無いのだ。キックが怪人の体に突き刺さっているわけではないのだが、突き刺さっているかのように、さながら磁石のように引っ付いて離れない、といった方がいいだろうか。怪人も怪人で必死にツェータの左足を引き剥がそうと両手を駆使しようとするが、

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!

 青白く輝く左足に触れると、触れた部位が猛烈なスピードでヒビが入っていくのだ。さながらメデューサのごとく、怪人の体が石化現象が進むのだ。

 やがて怪人の体は灰色に変色しきり、全身にヒビが入り、やがて粉状になっていく。

 「ぎ・・・・・が・・・・・」

 もはや声を出すのも精一杯なのだろうか、だが声の音波だけでも崩れるほどにまで、怪人の体は脆くなっていた。やがて怪人の頭も灰色に変色し、粉の塊に変貌し、そよ風が吹く。

 ざああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・

 そよ風が吹いたと共に、怪人の体は風と共に去っていった。



 <アナライズよりツェータへ。敵の殲滅を確認。半径5km圏内に敵対勢力の存在を確認できず・・・戦闘終了と定義します>

 「・・・・・・」

 何もいえなかった。

 自分の体にこのような恐ろしいものが入っていたなど、想像だにしなかったからだ。

 「アナライズ」

 <イエス?>

 「さっきのは何だったんだ?」

<説明:スプラッシャーキック。>
<ツェータの基本コンセプトとして、あらゆる状況下でも最大限の戦闘力を発揮できることにあります>
<体内に4次元コンテナを搭載することによりオプション装備の携行を容易にし、弾薬補給もバイクの依存なしでも実現、同時に近接時での質量増加により、接近戦でも有利なウエイトで戦うことができるようになっています。>
<また、今回の射撃兵器が通用しない敵と遭遇した場合、ツェータには近接戦闘プログラムが組み込まれており、相手に対して必殺の一撃を与えられるスプラッシャーキックが決め手として使用されます>
<スプラッシャーキックとは、左右どちらかの足に電磁力場を発生させ、高度50mからの急降下。ツェータの質量と速度を生かした運動エネルギー時の全てを対象に叩きつけると同時に電磁力場を展開、対象を分子間結合を極限にまで弱め、同時に強烈な酸化風化現象を引き起こして対象の物体を更に弱めます。その状態でさきほどの運動エネルギーを防ぐ術は皆無、対象を完全に破壊します>
<本システムの欠点はエネルギー消費が極めて激しいために、ツェータの稼動に著しい制限を課してしまうことにあります。今回のようにこのキックは一撃必中を保障できる状況下でのみにしか放つことができません。最低でも1発、2発目を放つ際は戦闘システムは電力低下を引き起こし、変身が強制解除されるので御留意してください。>

 「・・・・・」

 こんなシステムなど、宗一は教えられていなかったし、今初めて知った。

 これもあの男の仕業と言うのだろうか。

 <アラート。左足に異常発熱。これ以上の稼動は危険であるため、強制射出します>

 「!?」

 ぼしゅううん!

 高温の蒸気と共に猛烈な勢いで左足が勝手に吹き飛んだ。思わず宗一はバランスが取れずにその場でしりもちをついてしまう。

 <メインシステム、活動限界。戦闘システム強制解除します・・・変身解除開始>

 下腹部のベルトのフタが開き、無数の緑色のワイヤーフレームが飛び出し、ツェータを包み込んだ。それは緑色に輝く繭を連想させ、ツェータの装甲を元のデータに戻していくが、都合よく質量だけはそのままであり、実体化させるためにこのワイヤーフレームが形成及び分解に使用されるのである。

 やがて光がベルトに吸い込まれていき、ツェータは、元の宗一の姿に戻ったのだった。



 「・・・・・」

 終わったかな、と確信した成美は物陰から再び姿を現して宗一に近づいた。

 「ソーイチ、大丈夫?」

 「大丈夫だ」

 いつものようにそっけなく答えるが、彼なりに冷静を装って、自分を安心させているのかもしれない、と成美は思った。

 「そうじゃなくて、左足が股からなくなっているじゃないの・・・痛くないの?」

 成美の指摘どおり、ツェータこと宗一の左足は、股から先がさっきの射出のせいでなくなっており、元の制服姿なのにその部位だけが不自然に”ない”のである。で、その左足は公園の壁に突き刺さる形で赤く発熱しており、見るからに危なそう、と言う印象さえ受ける状態だった。

 「痛みは無い。神経接続はされているが射出時は強制的に麻酔がかかるから平気だ」

 「そう・・・でもなんだって左足をああもふっとばすの?電源切っちゃえば大丈夫なんじゃないの?」

 「そうでもないらしい。あと・・・」

 「ん?」

 「3・・・2・・・1・・・ゼロ」

 どがあああああああああん!!!!!

 爆発と閃光が同時に起こり、ツェータの左足は木っ端微塵に吹き飛んだ。キノコのような爆煙が周囲を業火の炎に飲み込み、爆発の半径内にあったありとあらゆる物体巻き添えにしてその場に残ったのは、深さ1mに及ぶ巨大なクレーターであった。

 「・・・・・!!!」

 「強制チャージとさっきの損傷で無茶をしすぎたからな。冷却装置と冷却材が故障したせいで異常発熱がおこり、稼動用に使うニトロ水銀が自然発火する熱量にまで上がったのだろう。通常チャージをすればああも爆発をすることはないんだが・・・成美?」

 「〜〜〜〜〜〜〜〜ばたっ」

 宗一が気づいたときには、成美は立ったまま気絶、そのまま彼の体の上に倒れる形で崩れていった。

 無理も無い、よもや核爆発が目の前でおこるなどと誰が予想できたであろうか?宗一たちの時代では核爆発などテロで日常茶半時に起こっているので、彼にとっては別に珍しいことではないのだが、当の宗一はそんなことすら気づかずに、立とうとしても左足が無い上に300kgの自重で立つに立てず、成美を起こせずに困惑するばかりであった。

 結局彼が解放されたのは5分後、メイリンとアルフ,、そして二人に使役するバイクたちが到着するころであったが、

 その後2人と2台にさんざんおちょくられたのは後日の話である―――




































西暦2312年6月11日午後9時00分
旧大阪 レジスタンス統合作戦本部ビル 45階VIP宿泊ルーム


 なにやら数名のライダー兵と、一人のスーツ姿の男が激しく言い争っている光景がそこで起こっていた。

 「ですから閣下!我々が犯人を拘束するまでここでおとなしくしていただかないと困ります!」

 「そういわれてもな・・・こんな部屋で閉じ込められても・・・外のレストランで食べたいのだがね」

 片方の男はスーツ姿で、オールバックのロングヘアーが印象的な美形である。肉食動物を思わせる鋭い瞳に長い顔つき、180cmはあろうかという長身は20代後半の風貌さえ思わせるほどであった。一方の男達はライダースーツに身を固めた、身長2mはあろうかというほどの大男たちであった。頭はヘルメットで覆われているので素顔こそ見えないが、左手には殺意の象徴たる長竿武器のトマホーク、腰にはハンドガンが据え付けられ、見るからに威圧的な印象を与えている。

 「もっと御自分の身分とお体を大切になさってください・・・・・ただでさえテロで我々が神経すり減らしていると言う状況下で、閣下が誘拐でもされたら遠征が無意味になります!」

 「・・・じゃあせめて食事ぐらいはどうにかしてくれないか。毎日が冷飯だと気が滅入る」

 「申し訳ありませんが・・・毒物混入の疑いがあるので・・・」

 「〜〜〜〜〜〜」

 またこれだ、スーツ姿の男、浅岡真崎は頭を抱える。

 「それに以前閣下の御相手のご婦人を閣下は拒否なさったではないですか。」

 「(冗談も通じないのかこいつらは・・・)ジェッカーもミューラーも遠征で困っていると言うじゃないか、せめて部屋に通信をまわしてくれないか。それに海軍ライダー師団や空軍ライダー師団との連携作戦が近々行われるし、宙軍ライダー師団も月面都市開発計画が・・・」

 「盗聴の危険性があります。元々あのテロは極秘裏としていたヨーロッパ財閥との密会談のスケジュールを知った内部犯の犯行が高いのです。閣下は外部から隔離しなければ安全を保障できません」

 (ただの偶然だと思うんだが・・・)

 「なにかおっしゃいましたか?」

 「・・・いや、いい。ともかく食事だけは何とかしてくれないか。毎日が冷えた飯や味噌汁、パンやスープだけだと発狂しそうだ。」

 「・・・わかりました。バリエーションを増やすように総務部に要求いたします。では」

 (結局冷えたものしか食べられないということか)

 無情の電子ロックが、真崎を外部から隔離した。





 あのテロから3日、真崎は暇をもてあまさざるを得なくなった。

 「大統領閣下は御自分をもっと大切になさってください」
 「勝利に近づきつつある我々人類を導くあなたがお亡くなりになれば、レジスタンスは瓦解します」
 「閣下のお命を狙った愚劣なテロリストは我々が調査し、徹底的に追い詰めてご覧に入れます」
 「すでに議会や企業、国民は大統領閣下の安否を優先し、演説やスケジュールの延期を了承しています。」
 「民事的な決定事項はすでに完了いたしておりますのでどうか部屋にいてください」
 「必要なものがあれば何でもお持ちいたします。」
 「主犯が逮捕されるまではどうか!部屋を出ないようにお願いいたします」

 彼を直接狙ったテロが3年ぶりに起こったために、真崎を完全死守することに命をかけている特殊ライダー部隊”シヴァの使徒たち”が彼を部屋から出させないからだ。そればかりかマスコミや国民までもが、

 <大統領は自分の体を大切にすべきだ!>
 <にくきテロリストから大統領を守れ!>
 <真崎大統領がいなくなれば議会は崩壊してしまうぞ!>
 <テロリスト、バルラシオンを許すな!>
 <大統領万歳!レジスタンス万歳!>

・・・・・と、狂ったかのように彼の身柄を拘束することを公認する発言まで出ている始末だ。もっとも彼らの気持ちも分からなくもない。何しろ真崎は、レジスタンスの最高権力を手にして20年で、実に104回もの暗殺テロに遭っているからである。逆に言えば、それだけやられても生き延びている真崎の方が、末恐ろしい何かを感じるものではあるが・・・。

 「・・・・・とはいえな」

 こいつらのやっていることは、完全な監禁だ。

 外に出ることも許されない。だが彼らが自分に対しては非常に厚遇しているのは分かる。

 部屋はそこらの金持ちも御満足するほどの、絢爛豪華な40畳のスイートルームである。運動不足を招かないようにランニングマシンは置いているし、ライフルや鉄鋼弾すらも貫けない超強化ガラス越しの夜景もいいが、真崎はこういった”豪華なもの”は苦手だ。彼からしてみれば6畳でもいいから生活味のある空間のほうが落ち着く。

 トイレはちゃんと部屋にあるし、ほしい物は外の衛兵に頼めば何でも持ってきてくれる。昨日もためしに冗談半分に「女を連れてきてくれ」と言ったときは、「シヴァの使徒たち」は外を守るライダー兵を全員女性兵に変えた挙句に、私服の女性ライダー兵を10人も集めて部屋に入れてきたほどだ。

 「閣下、御要望通りになさいました。以後はこの者たちが閣下の御暇のお相手をなさりますのでどうぞ・・・・・」

 「・・・・・」

 真崎としては「御冗談を」とか「どのような目的で女性を部屋に?」とか「か、かしこまりました!」とかいった返答や反応を期待していたのだが・・・どうも自分が思っていることとは現実は違うらしい。もしくはて「閣下もお好きですねぇ・・・ひひひ・・・・・」とかいう下心が見えた反応とか「・・・・・」とかいった軽蔑のまなざしもしてほしいところだったのだが、それすらもないので、困惑せざるを得なかった。せめて人間らしい感情を見せてほしかったのである。

 まあさすがにこれには真崎も閉口したために元に戻し、今では沸々とした毎日を過ごしている次第であった。彼は38才にしていまだに独身だが、別に同性愛者でもないし、女嫌いというわけでもない。むしろ士官学校時代は「女殺しの真崎」とか「優等生の赤頭巾ハンター」や「ジャッカル真崎」とか「コンパの帝王」とかいったあだ名までつけられていたほど女性交流は活発だったので、女性との付き合いを知らないというわけでもない。親友との約束で結婚しないというわけでもないし、初恋に破れからとかいった、何か特別な事情があるわけでもない。

 彼が結婚しないのは実に現実的で、妻や子供が誘拐や暗殺の標的となるため、そして私人としての暇を作ってはレジスタンスが成り立たないなど、マイナス要素にしかなりかねないからだ。実際に兄の浅岡雅彦は、息子や妻がテロによって狙われており、最期は家族もろとも爆死された。唯一生き残った宗一は宗一で自分にとっては厄介な存在であるために、政治的効果のない特殊部隊専門の戦闘マシーンにも仕立て上げた。

 「・・・・・」

 下はズボン、上ははだけたワイシャツ姿になって超高級ベッドに転がり込み、天上を見渡す。

 こんな姿など、誰にも見せられないな、と真崎は思った。

 天上にはレジスタンスの象徴である、青いハトの紋章が刻まれている。

 元々はレジスタンス浅岡成美が学生だった当時に通っていた高校の校章が由来であるそうだ。平和と自由を意味するものらしいが、今まさにそれは、本当にあと少しで現実のものになる。そしてそれを行ってきたのは、ほかでもない、浅岡真崎その人である。

 「平和と自由・・・・・人は私を英雄と見るか、支配者と見るか、それとも反乱者300万人を殺してきた大量虐殺者と見るか」

 そうつぶやいたが、その答えを問うものは誰もいない。

 「いや、ばかげているな」

 仮にその場に答えるものがいたとしても、その全ては間違いなく一番最初の英雄を選ぶであろう。実際問題、真崎はレジスタンス指導者として成り上がった直後にクーデターを起こし、独裁権を完全に握るまでに、徹底して軍部の反対者や政治犯、プロガバンダや捏造情報を流す広報部および情報部、それに従うマスコミなどを完膚なきまでに弾圧しまくり、その犠牲者は実に300万人に上る。うち死刑となった者は100万人らしく、真崎やその関係者であっても正確な数は分からないほどであった。虐殺者と言われる由縁はあってもそれは「人類を裏切った者」としての烙印を押されて意見封殺されるだけだ。

 「・・・・馬鹿げている。これではファシズムだ」

 そう、真崎は痛感しているのだ。言論の自由は認めているし、彼個人を否定した意見や報道、スキャンダルは別段、規制はしていない。していたとしてもそれはバルラシオンによる工作であった場合や、重要作戦の非公開のみで、実質的には言論の自由をちゃんと保障しているのだ。不当逮捕されたり、社会的に批判されても、彼はちゃんと言論の自由を理由に釈放したり、批判している者に対してもわざわざ弁論を行っているほどだ。まあ実際にバルラシオンが迫害されているのは、真崎が「バルラシオンに人権なし」宣言をしてしまったのが原因ではある。

 だが彼の地位にある者がどれだけ言っても、結局は多数決の問題だ。どうやっても意見封殺は起こってしまう。この世界にあっているだけのものも、間違っただけというものも存在しない。良いところと悪いところは表裏一体だからだ。問題なのはその表裏一体のバランスをどうとるかにある。

 「とすれば、人類はもともと統一をしたがる存在なのかもしれない。」

 実際、今のレジスタンスは余計な民族問題を起こさないために、徹底した民族融合政策をとっている。宗教が崩壊したこの時代において、人々は神に頼って生きるということはしない。ていうか拝みに拝んだ神がその無力を証明されてしまったのだからどうしようもない。その上、人類そのものが絶滅寸前にまで追い込まれたために、あちらこちらの民族が各地で合流し、ミックスジュースのように混ざりこみすぎたために●●民族というものも存在しない。ただ顔の特徴や髪型などから「日本系」とか「アメリカ系」、「ヨーロッパ系」という区別でしかないし、「あなた、日本生まれ・・・へぇ〜」とか「フランス系の方?似ているから分からないですね」といった、過去の云々については300年間の分厚い壁があるので激しい民族対立もないし、いまさらそんなことをいっても「あんた、いつの時代のこと言ってんの?」と冷笑されて相手にされないのがオチなのだ。

 例外としてはイギリスの武門の家柄であるイルステッド公爵家、有力な軍事財閥であるフランス貴族オスカー公爵家、イタリアの福祉で有名なゲーリッツ男爵家、バイク製造で名を上げた日系ドイツ出身のイガラシ子爵家、などといった家柄はあるにはある。ただあちらは徐々にではあるが純血性が失われつつある。まあかく言う自分も100%濃度の日本人なのだが、これは浅岡成美が日本人と結婚したことが原因で一部の議員が血統を重視する発言が原因であるし、自分の亡き兄である浅岡雅彦の妻は他民族の血が混ざっており、宗一は純潔ではないのだ。

 そもそも●●が嫌いだか▲▲について、●●がやったらからやり返す。戦争が起こる原因や建前はほとんどが民族がらみであり、生活をはじめとした、何事においても自分たちの民族をよりよいものにしようとするがゆえに、ほかの民族を滅ぼそうとしたり、弱めたりする。真崎が恐れていることとして、ネオプラントとの戦争が終わった戦後、こういった民族主義が再燃することによってレジスタンスがその権威を落とし、戦国時代の到来を招いてしまうところにある。過去にも国際連盟も、国際連合も似たような失敗を犯し、取り返しのつかない結果を招いてもいるのだ。あのナチスも、元はといえば国際連盟や各国が敗戦国ドイツに賠償金を絞りぬいたからこそ起こったようなものであり、唯一日本はその敗戦国や植民地の搾取をやめるように世界に意見した、史上初の人道的な発言を行った国家である。

 それが有名な5000円札の人、新渡戸稲造である。日本人は彼の功績をあまり知らないのである。

 へぇへぇへぇへぇへぇへぇへぇへぇへぇへぇへぇへぇへぇへぇへぇ(15へぇ)。

 頭の中でへぇボタンを押し終わったところで、

 「何としてでも、戦後処理だけはうまくやらないといけないな」

 しかしこればかりは自分だけでは処理できない。各地域を統治している首脳陣とよく話し合って、その決定を元にうまく行動しなければならないのだ。軍部は皆彼の指示に従うので問題はないのだが、下手すればクーデターを招きかねないし、独断で戦後処理を行えば、その地域の住民を怒らせる結果になりかねないし、またそれが民族主義を再燃させかねないのだ。もっとも真崎は民族主義を否定しているわけではないが、せっかく一度なくなったのだから、歴史を逆行させるような真似だけはしたくはないだけである。下手したら後世に何を言われるか。「戦争一流、戦後三流」とバカにされるのがオチだろう。

 それで民衆の信頼を失ってしまえば全てが水泡となる。どいつもこいつも政治力がないために(自画自賛)、内乱になって第二のバルラシオンやネオプラントを生み出す結果になりかねない。そうなれば人類はどうどう巡りの悪循環をめぐることになり、本気で文明崩壊が起こりかねないのだ。ごくわずかしかない土地と資源をめぐって争いが起こる・・・そうなれば人類は本当に絶滅するだろう。だからこそ、自分は今ここで死ぬわけにはいかないのだ。

 ボーン・・・・ボーン・・・・・・

 午後10時の時計のチャイムがなる。本当ならまだ起きている時間・・・ていうか彼の睡眠時間は不規則だ。

 一週間合計の睡眠時間はたったの14時間程度でしかなく、寝ているとしてもせいぜい30分程度。それもあちこちの地域に出向く際に使用する車や飛行機で眠る位なものだし、寝ない時は栄養剤をがんがん飲みまくっている。それだけ滅茶苦茶忙しいのだ。

 (大統領閣下、ご就寝の時間です。23時には消灯されますので、ご就寝の準備をお願いします。)

 「俺はいつから中学生になったのだ・・・」

 真崎は悪態をついたが、消灯されるとなっては寝ざるを得ない。真崎は贅沢の象徴であるシャワーを浴び、ガウン姿となって再び布団に転がった。

 「・・・・・それにしても、」

 だがこうしてまともにベッドで寝るのは何年ぶりだろうか。

 彼にとってまともに寝付いたのは最後にテロにあった3年以来の休暇である。

 いや実際に最後の休暇は、彼がクーデターを起こした前日の日だった。その日から自分は灼熱のように動いてきたのだが・・・

 やることがないのだ。体がうずいて仕方がない。

 というか、眠れない・・・

 毎日の激務が日課で・・・・・否、日常であった彼からしてみれば、この何もやることのないことは、ある種の苦痛でもある。

 資料に毒が塗られているかも知れないという理由でデスクワークは幹部が全て行っている。まあこれはいいだろう、今まで自分がやってきたことを、自分がいない状況下で部下にやらせれば能力向上につながるだろうし、自分なしでもやっていける自信も持たせられる。

 食事も悪くはないが、「シヴァの使徒たち」が毒見を行っており、毒は時間が経ってから起こるかもしれないということで、冷たい飯しか食べられない。俺は江戸時代の殿様か・・・ていうか部屋に電子レンジぐらい置かせろ・・・・・と言ったのだが、そういった機械類に盗聴器や爆弾の危険性があるとかないとかで却下される始末だ。頭が固いにも程がある。

 連日マスコミ団体からねぎらいの言葉や手紙が山のように届いているそうだが、部屋にあるパソコンでしかそれを確認する術がない。まあパソコンぐらいは置かせてはもらっているのだが、情報発信をすることができないのでそれもまた不満だ。

 ニュースもニュースで、

 <大統領を狙った暗殺者はバルラシオンか、当局部で混乱>
 <バルラシオンの遍歴を振り返る>
 <3年ぶりのテロで周囲は困惑・・・大統領は冷静>
 <記録更新・・・真崎大統領の被テロ回数104回。実は大統領は104人いた!?>
 <リムジンを爆破した爆弾の残骸からSBテクノロジー製の部品多数見つかる>
 <株価下落・・・平均株価、一時500万クレジットにまで落ち込む>
 <民間自警団「ガーディアン・レジスタンスズ」が住民に警戒呼びかけ>
 <ガーデック・テクノロジー社、テロを理由に新型ライダースーツの発表公開を延期>
 <市民の間で不安の声・・・バルラシオンの次のターゲットは民間人?>
 <真崎大統領の退陣を狙ったテロの危険性?>
 <来月10日に行われるヨーロッパで開催される次世代ライダースーツショー”RAIDER―SHOW”、延期をしない模様>
 <海軍ライダー師団、テロを理由に海上封鎖>
 <各交通機関で地域警備ライダー部隊による検問が開始>
 <大統領にねぎらいの言葉・・・障害者施設から千羽鶴が送られる>
 <暗殺者自殺?雑居ビルで首吊り自殺>
 <非道!大統領は監禁生活を強いられている!>
 <大統領開放派のデモ団がライダー警察部隊と衝突・・・怪我人30名>
 <日本支部防衛ライダー部隊、テロ組織がはこびる仙台への遠征準備を発表>
 <次世代ライダースーツ量産試作型「電聖」、欠陥箇所が見つかる・・・・・兵士たちから音声FCSに不満の声>
 <青年の集団が軍事務部に「ライダー部隊に志願」殺到・・・>
 <かっこいいぞ!DODO提供のソーセージ、7月プレゼントのフィギュア発表>
 <パン屋チェーン店の間津井店長、ドラ焼きカレーはうまいと絶賛>


 最後のはなんだか気になったがどうでもいいことだ。それにしても関係するニュースは自分がらみのものばかりで面白みがない。

 彼が最も信頼し、「親友」と認めるジェッカー元帥やミューラー元帥ですらも面会も、盗聴を理由に光速通信の類も許されないのだ。

 大体は以下のような門前払いを食らうようである。

 <はい、先日お伝えしたとおり・・・・・たとえ両元帥閣下であっても、現在大統領へはお取次ぎできない状況にありますので、申し訳ありませんが、本日はお引取りを願うようにお願いいたします・・・・・はい、その件ですが我々では責任をもてません。お手数ですがまた後日にお願いいたします。>





同日同時刻
ロシア エカンデリブルク要塞南方300km 前線仮設基地


 ぶつんっ。

 「・・・・・だそうだ、ミューラー。また後日とはいつのことだろうな。」

 嫌な感情と悪態、皮肉とともに、ジェッカーは灰色に染まった通信機を見下ろした。

 「また門前払いか・・・おそらくは一ヵ月後だろう。3年ぶりの暗殺テロだと聞くが、ここまで来るともはやアレルギー以外の何者でもないな」

 「笑い話のレベルでもあるがな」

 後の歴史家が言う「エカデリンブルグ要塞前哨戦」からすでに2週間が経っていた。補給物資が届き兵力の再編成も完了したのでいざ侵攻しようとした直前に真崎がテロに遭ってしまったために、軍は動くことができなくなったのだ。余計な混乱を招かないためにも中級将校や下級将校、兵士達には知らせておらず、大隊編成や師団編成を行う上級将校のみしか知らない。だがさすがにここまで動かないとなると兵士達の間で不満の声が出てきたり、統制ができなくなり始めてきている。

 今日も二人は大統領や司令部に侵攻開始の報告をしようとしたのだが、議会や軍部は真崎が不在だということもあって侵攻作戦の類などの重要な決定は下せなくなっていた。レジスタンスは民主主義だとよく言われるが、実際は真崎がいなければこの有様。真崎の政権は実質的には独裁制なのである。

 「同感だが・・・・どうする。議会や軍部がマヒしたとあってはまたしても我々は安易に動けんぞ」

 「しかし・・・戦略的に見ればこれ以上の遅延は年内の決戦に間に合わなくなる。来年にまでずれ込んで、ロシアでもっとも辛く、そしてもっとも不利になる零下40度のブリザード下の決戦となるな」

 「それはまずい。まさかとは思っていたが、バルラシオンの真の目的はこれか。」

 「そうだ。真崎大統領を殺せなくても、あの方を動けなくさえすれば時間稼ぎにはなりうることを看破した奴がいるということだ。その時間を稼いでいる間も21世紀にいる小娘一人の生命の危険が増えることになる」

 レジスタンスを立てた浅岡成美を小娘呼ばわりするとは、ナイトハルト=ジェッカーという男は不敵である。真崎のクーデター政権以前ならば一撃必殺で不敬罪として断頭台の上に立っていたことであろう。

 「敵にも食えない奴がいたものだ・・・一度会ってみたいものだ」

 「そのテロリストの思惑通りに我々が手をこまねいていれば、ネオプラントの機械どもは要塞への援軍が完了し、攻略が難しくなる。そもそもこうしている間にも補給物資が一戦分を食い始めかねないし、そればかりか好機を逃して長期化させた責任を取らされて軍法会議、結果的に我々は戦力を削がれてしまうから万々歳ということさ。だが軍の許可を降りられない状態で攻め込み、それで要塞攻略して軍法会議にかけられるのとどっちがましだと思うか」

 「そんなことは言うまでもない。だが我々はあくまでも民主主義の軍隊だ。軍部の許可なしに攻撃を開始すれば、大統領が何を言われるか分からんぞ」

 「民主主義か、ならば我々で決めようではないか。多数決でな」



西暦2312年6月12日午後1時00分

 「・・・・・というわけで多忙の中、諸君らに集まったわけだが、異論はあるのならば遠慮なく言ってほしい。」

 「・・・ばかばかしいのは重々承知だ。だがしかし、このような手続きがなければ軍としての正当性が成り立たんのでな」

 会議テーブルには全8個師団の師団長が一同に会している。軍部がマヒしているためにうかつに動けないという前提の中、建前をとって攻撃にはもっとも好機である今を逃がすか、実を取るために攻撃をかけるか、そのどちらかをとれということであった。

 「・・・・言うまでもなかろう。攻撃をするに限る」

 第9師団長の橋本昌弘大将は高々に口にした。

 「名をとるか、実を取るか・・・歴史では時々ばかげたことだとののしられますな。私は断じて実をとるほうに賛成する」

 第6師団長ホーカー=マーガット大将も賛成した。

 「・・・・・・少なくとも引けば、レジスタンスにとってこれ以上ない汚名をきざるをえなくなる。この駐屯地を防衛するわが師団の代表として言うのであれば・・・断固として侵攻すべきであると進言する。」

 第12ライダー師団長のアンドー大将も賛同した。

 「論議の問題ではない、というより論議の時間も無意味だ。直ちに攻撃を仕掛けるべきだ!」

 第7師団長ケビン大将は怒号と共に賛同した。

 「法的な理由で好機を逃すのは、かえって利敵行為になると私は思います。私も攻撃には賛成します」

 第10師団長でもあり、この中では最年少のトーマス大将も賛成した。

 「逆に攻撃を仕掛けないで撤退をすれば、トーマス大将の言うとおりに利敵行為となり、軍部の信用は失墜します。攻撃には賛成します」

 第11師団長メアリー大将も同意だ。

 「同感、撤退案は、現在負傷兵を引き連れて撤退しているハロルド大将の善意を裏切ることになります。」

 第14師団長ヒロカワ大将の賛成も得られた。

 「・・・事後承諾の形にはなりますが、そのときになれば議会は認めると自分は思います。正直言いますと小官は攻撃にはためらいがあります・・・・・・ですが同時に撤退にはそれ以上のためらいを覚えています。攻撃を行った際の法的責任は攻撃を行わなかった時より問われるとは思いませんし、大統領閣下がテロに遭う前日までは攻撃許可が通っておりましたので特に問題はないかと思います。」

 第8ライダー師団長で最年長のアルバート大将の発言も強烈だ。彼の発言は師団の中でも強い影響力を持つ。


 アルバート=グーデリアン大将。今年で64を迎え、真崎の政権下の軍隊では最年長の将軍として有名な人物である。彼は元々浅岡真崎のクーデター政権以前では少将の階級にあり、旧体制下出身ではハロルド大将と同じ経緯を持つが、ゲリラ戦術でかく乱したハロルドと異なり、真崎のクーデター政権の軍隊とは真正面に、かつ最も激しく交戦した、老将だ。旧体制から現在に至るまでの44年以上に及ぶ戦闘経験から裏打ちされる戦術的手腕や戦略眼は誰でも認められるほどの評価を持ち、また本人もその評価に驕りを覚えない、誠実な人物である。

 かつて「1000万人体制」とまで言われ、数の調整のために死地に送られたライダー師団の中でも特に高い生存率を誇るところからも、彼の兵士に対する扱いのよさや、兵法における攻守の無駄のなさは特に有名であり、かの浅岡真崎ですら「非人道主義体制の中でもこの老将軍だけは例外である」とまで言わしめたほどの人物でもあった。彼は真崎が5個師団をぶつけてきたときはたったの1個師団で迎え撃ったのだが、その巧妙な戦術は実に3個師団を打ち破り、真崎が重用していた将軍を3人も屠っている。だが補給が完全に途絶えた中での戦闘だったために戦闘不能に陥った際は、余計な死者を出すことを否定し、躊躇もなく降伏を受諾した。

 その精鋭さは当の彼や彼の軍隊は敵兵であった真崎の軍隊からも恐れられ、そして敬愛もされていたので殺されたり虐待されることは一切なかった。また彼自身も捕虜の扱いを徹底していたので、「旧体制の法に従っただけにしか過ぎない」ということで罪に問われることはなく、そのまま真崎の軍隊へ編入されていった経緯を持つのである。もっとも旧体制下出身であるので、目だった役職は与えられてはいないのだが、それでも各師団長や軍部からは、その誠実な人柄と潔い性格から重鎮として扱われているのであった。


 最後のアルバート大将の発言で、血気盛んだった指揮官たちは黙りこくった。思慮が甘かったことを反省したのだろうか。

 「満場一致・・・いやこれは既にわかっていたことではあった。余計な手間をかけさせていただいて申し訳ない」

 「いえ、我々のような一介の戦闘指揮官の意見に耳を傾けていただけるのは、すばらしいことだと私は思います。元々我々は閣下の指示に従うのが任務であり、またそれがレジスタンスのためであることを重々承知しています。」

 「トーマス大将の言うとおり、我々は民主主義によって立ち上がった軍隊であります。理由はどうあれ、このように小官らの意見を聞き入れてくださったことにはその原則に充分則ったことであり、閣下のその思慮には私は理解を示すと同時に、重々に感謝しているしだいであります」

 「・・・・・感謝します。トーマス大将、アルバート大将」

 大胆不敵な性格で知られるジェッカー元帥ですら、この老将には経緯を払う。

 「では先日立てた作戦通り、午後4時には侵攻を開始する。各師団はそれまで待機の指示を与えよ」

 「はっ!レジスタンスに勝利を!」

 「レジスタンスに勝利を!」

 一同は立ち上がり、敬礼をし、席を外した。





西暦2312年6月12日午後4時00分

 時間となった。ミューラー率いる第一師団は4個師団を統率する役割だが、彼の盟友たるジェッカー元帥の師団はそこにはいない。

 「閣下、ヘルメットの着用を!」

 「ああ」

 すでにミューラーは、ライダースーツを着用していたが、最新型の「電聖」ではなく、青いボディーが印象的な第5世代ライダースーツの「雷王」であった。電聖はまだ試作モデルが量産体制に入ったばかりで、その先行版がタイムパラドックス阻止部隊デルタチームに3000着支給されているだけである。しかもその大半は部品用や修理用として潰される予定なので、まだ完全な新型ライダースーツとは言いがたい。

 がしんっ、

 ヘルメットを被ったミューラーのライダーは、他と違って両肩が赤く塗装され、黄金の鳩の紋章が彫られ、赤いマントをしているのが特徴である。この時代の指揮官はみんなライダースーツを着用して戦場に行くために、その識別が非常に困難になる。角をつけてもライダーはみんなヘルメットそれ自体にアンテナがついているのでかえってややこしくなるので、その識別にはあれこれと苦労をかけるのである。

 例を挙げれば小隊長は両肩のカバーを赤く塗装して小隊ナンバーを書き込んだり、中隊指揮官はそこにさらに指揮のためにまたがるバイクにフラグを取り付けている。大隊指揮官だとより巨大な旗をバイクに取り付けて、戦場での識別を容易にしようと努力をしているのだが・・・

 「・・・・・」

 「閣下、作戦開始時刻です。」

 「よし・・・・・全師団、要塞に向けて進行せよ!」

 ざざざっ!

 総兵力”7万”4500名のライダーが前進を開始する。

 要塞に設置されている砲台の射程ギリギリに展開した部隊はいっせいに射程内になだれ込んでいく。

 がこんっ

 60mm口径の砲台の山がこちらを振り向き、砲口を構える。

 どがんっ!

 砲門が咆哮をあげる。

 ひゅるるるるううううううううう・・・・・どがんっ!

 「敵砲台、第14ライダー師団に向けて砲撃を開始!」

 「敵もばかではないということだ。囮部隊は最も損害が激しいからな。各個撃破を狙っている。第14ライダー師団に伝令、”作戦通りに可能な限り要塞砲台をひきつけろ”とな」

 「は・・・了解!」

 ごごごごごご・・・・・

 要塞の門が開き、ロボットの大群が一斉に躍り出てきた。

 「閣下、要塞から敵の実戦部隊が出撃した模様です。総兵力・・・およそ2万!」

 「衛星の情報どおりではなさそうだな・・・地下格納庫か、それとも援軍かは分からんが・・・よし、第7師団に突撃命令を!」

 「了解!」



同時刻 第7師団直属部隊

 「閣下、突撃命令です!」

 「よしきたか!」

 師団長、ケビンはうれしそうな声を上げたと思うと、参謀からマイクを乱暴に取り上げる。

 「全軍!敵部隊に突撃!・・・戦功を立てるチャンスだぞ、一気に機械どもをガラクタにしてやれ!」

 うおおおおおおおおおおおおおお!!

 司令官の怒号に一同は奮い立ち、敵の部隊に向けて突撃を開始する。

 第7師団長ケビン大将。アメリカ系の血を引くが、孤児出身であるために苗字が存在しない将軍の一人である。入隊後は「ケビン=ファラ」という正式な名前が与えられたものの、好戦的である彼の性格から一般的に「荒武者ケビン」の異名の方が軍隊に浸透している。その異名どおりに彼の部隊のライダーたちは、どれも精強でかつ荒々しい人物で構成されており、弾幕や戦車相手でも死を恐れない精鋭部隊である。

 要塞砲台の一部が、突出する第7ライダー師団に向けて砲門を唸らせる。

 どがあん!

 どがあん!

 どがあん!


 <ひるむなぁ!全軍進め進め!>

 「ひるむかよ、バーカ!」

 「ははははは!そりゃそうだ!砲台が怖くてライダーがやってられるか!」

 司令官の怒号を皮肉って笑うのがこの部隊の習慣である。だが先月のハロルド率いる第13ライダー師団の若手とは違い、彼らの場合はある程度歳をとっているので視野もあり、司令官に陶酔している面があり、犬社会のように上官にはがっちり言うことを聞く風潮があるので、その部分が違いである。

 どがあん!

 「最前線の第7-5-1ー2小隊が敵部隊と接触!交戦開始したもよう!」

 「よおし!その小隊は生き残ったら全員一階級昇格させろと伝えろ!それと全軍に伝達!敵の大将を破壊した奴は家一つ建てられるぐらいの報奨金をやるぞ!機械どもに情け容赦は無用だ!ネジの一本残さずに屠ってやれぇ!」

 うおおおおおおおおおお!!

 別に部隊内での人事は、その師団長の権限にゆだねられているので問題はない。ただ大隊指揮官になると、軍部から正式な審査が必要となるので、勝手にはできなくなっているのだが・・・

 (またこの人は勝手に・・・)

 こうした勝手な人事で苦労するのは参謀のヒロスエヨシオ中将であった。彼は日本系の民族ではあるもののやはり孤児出身、精確な漢字が不明であるためにカタカナ表記されてしまっているのが特徴である。前任の参謀がストレス性胃潰瘍で退任したために、副参謀から昇格される形で参謀となったのだが・・・いや、彼は決して悪人ではないことは重々分かっているし、悪意的な噂もほとんどないし、嫌みも嫌がらせも決して行おうとしない。だが・・・

 「どうしたヒロスエ参謀?胃の調子が悪いのか?そおーいう時はレバ刺し食ってスタミナつけたほうがいいぞ。」

 鈍感なのだこの人は・・・





午後5時12分

 ざごんっ!

 「jkふぁdsjlふぁslkjklkkkkkkkkk!!!」

 「よっしゃああ!大将の首獲ったぞぉ!」

 まさにカミカゼだった。第7ライダー師団は交戦開始一時間弱で、ロボット兵士部隊20000を玉砕せしめることに成功した。特に功績が大きかったのは、敵ロボット兵士部隊の思考型ロボットの首を獲った第7師団第5大隊第5中隊第3小隊、略称7553隊のベッカー軍曹であった。彼の怒号と共にライダー兵は一同に奮起し、さらに勢いを高める結果となる。と同時に、要塞から更にロボット兵士の援軍が攻め込んできはじめた。

 「よおし、全軍・・・」

 ヒロスエ参謀が割って入った。

 「閣下!一時後退を!現在の我々は統制が乱れきっています・・・いかに猛者といえどもこのままでは弱兵、後退して再編成を具申します!」

 事実である。だがまさに「突撃!」と言おうとしていたケビンは物凄く嫌そうな顔をしながら、

 「わかっている!それ言おうとしたんだ今!」

 (本当かなぁ・・・)

 物凄い疑り部会目をしている参謀から目をそむけるようにケビンは指示を出す。

 「・・・・・全軍、一時後退せよ!統制が乱れている!」

 これは事実であった。第7師団の欠点は、攻撃力の高さに反比例した防御力の低さにある。何しろ他のライダー師団と違って荒くれ者ぞろいであるために、個人プレーに走りやすい血気盛んなライダーで構成されているからである。当然、目の前の出来事が見えなくなることも多々あり、ケビン大将の前任者であった司令官のほとんどは、失脚の原因が玉砕の一歩手前まで追い詰められた大打撃を被っている場合がほとんどである。その点ではケビンは、他の師団長ほどではないにしても、歴代の師団長から見れば最高レベルの政治的視野と戦術眼をもった、非常に有能な将軍だったのである。

 「おい聞いたか!下がろうぜ!」
 「ああ、ケビンさんはおっかねえからな」
 「でも何だって今になって引くんだ?」
 「俺達と違ってケビンさんは道理にかなった動きをするからな・・・ってよく見れば俺達って全員違う小隊じゃないか!」
 「やべえぞ俺達!小隊長はどこにいやがるんだ!?」

 無論、ライダー達もケビンがいるからこそ自分達が成り立っていることを重々承知しているので、一同は命令に従って一斉後退、小隊レベルでの再編成を開始した。何しろ第7ライダー師団は、他のライダー師団で暴力沙汰を起こしたライダーが集まる、一種のトラの穴、もしくは左遷先として有名である。たいていそこに飛ばされたライダーは、先住民達によって徹底的にしごかれ、ほとんどが除隊を申請したがるほどの凄まじい待遇で心身を荒廃させられてしまう。一部のインテリがこの行為を訴えても、暴力沙汰も「交流」の漢字二文字で処理されてしまうために、泣き寝入りをする羽目となる。こういった既成事実が、命令違反を行ったり敵前逃亡を行ったり物資横流しをしたりする軍規違反を犯すライダー達の規律と統制さをたもたたせているのである。



午後5時45分

 「たいした速度だ・・・」

 その無駄のない動きに、ミューラーは確信した。

 「敵援軍、数およそ10000!ケビン師団に向かって突撃をかけています!」

 「第7ライダー師団、要塞の砲台射程から離脱!要塞駐留部隊も追撃しています!」

 「第12、第9ライダー師団、両翼についた模様!」

 「作戦通りだ。よし・・・両師団、攻撃開始!」

 戦慄が戦場を走った。3方向、およそ5万7千のライダーの大群が、1万弱のロボットの軍隊を圧倒した。こともあろうに一見、狂騒的に逃げる第7ライダー師団を弱兵と誤認したのが全ての誤りで、素直に追撃を諦めれればそれでよかった。だが撃滅のチャンスとばかりに猛進したのが彼らロボットの失敗であり、結果それがこの有様である。

 もはや勝負は決まったも同然であった。57000対12000、単純な引き算から考えても、ロボットに勝ち目はないし、退路も第14ライダー師団によって断たれている。もはやすでに退路は断たれており、要塞駐留部隊は壊滅下も同然であった。



午後6時51分
包囲殲滅作戦から1時間経過


 どがあん!

 「全師団突撃せよ!要塞内に敵兵はもはやいない!」

 ナイトハルト=ジェッカー元帥率いる、3個師団編成の別働部隊、およそ6万のライダーが突撃をかけ始めたのだ。

 「うおおおおおおお!!」

 彼らはいずれもバイクにまたがっているが、リアロエクスレーターではない。第5世代ライダースーツと共に開発された大型モトクロッサー型バイク「疾風」である。武装は12.7mm機関砲2門だけと貧弱だが、取り回しのよさと機敏さは超大型のハーレー型バイクのリアロエクスレーターをはるかに凌駕する。無論リアロエクスレーターもあるにはあるが、要塞に穴を開ける役割の方が向いているために、突入部隊には編成されていない。

 60トンと1時間の大作業に及ぶ指向性爆薬が、要塞に強大な穴を開けた。もはや穴と呼べるものではなく、要塞の壁そのものが崩れ落ちたと表現した方が分かりやすいであろう。そこに建てかけられた仮設用の橋を通じて、6万のライダーが一気になだれ込む。

 パパパパパパパ!

 未だに残っていたロボット兵士が射撃を開始する。

 ブゥオオオオオオオオオ!

 「つぶれろぉ!」

 ざごっ!

 ライダーの手には、ランスと呼ばれる巨大な槍があった。これは中世ヨーロッパで大々的に流行った、騎馬隊の突撃武器である。馬の体重500kgと鎧含めた騎士の体重100kg、そして馬の速度から繰り出される運動により、その衝撃はバイクにはねられるに等しい威力を誇る。だがその騎馬隊は、全長5mに及ぶ長大な歩兵用槍「パイク」の出現によって迎撃されるようになり、また鉄砲の誕生によって射程外から撃たれるという新たな戦術によって、騎馬隊は闇雲に突撃できなくなったのである。

 だが馬より早く重く、そして人間を簡単に屠れるライダーは話は別だった。「疾風」は最高速度1600km/hと、当時のほかのバイクと比べると明らかに遅すぎた。だが旋回速度や機動力、加速性、ジャンプ力や安定性においては他の追従を許さず、搭乗時の快適性もリアロエクスレーター以上であり、また防弾性能も高い。つまり銃の類が効かないのだ。そんな性能を誇るバイクと200kg以上の自重を誇るライダーの質量によって追突されたら、耐えられる術はまずない。

 「第10師団は要塞砲台の制圧、第11師団は要塞正門の開錠!我が第2師団は残敵相当にあたれ!任務が終わった師団は同様に残敵相当を開始せよ!敵は寡兵だが死兵だ、子犬の首を縊り取るように情け容赦なく攻め取れ!」

 バイクの運転をしながら専用のスピーカーで、まったく舌がからまずに物凄い速度でまくしたてるジェッカーの指示は完璧だった。彼も例外なくライダースーツを着用し、自らの身をもって突撃をかけている、その状況下にも関わらずにだ。

 だがそうだったらよかった。

 実は要塞内には、ジェッカーですらも察知できなかった敵がいたのだ。








 「きやがったぞ・・・」

 漆黒のスーツを身に纏った戦士達がいた。

 彼らはいずれもバイクにまたがり、ハンマーと槍が一体化したような武器を携えている。

 赤い瞳に長い角は、ある意味鬼を連想させるような感じだった。

 「全ライダー隊突撃開始!要塞開門をしようとしている連中の背後を貫けぇ!」

 おおおおおおおおおおおおお!!

 ごごごごごごごごご・・・・・・・!

 「何だあれは!?」

 ジェッカ-の目の前で信じられない現象が起こった。

 地下から建物が飛び出してきたのだ。

 さらにそこから無数の黒いライダー達が飛び出し、自分達を無視する形であさっての方向に逃げていく。

 「閣下あれは!」

 参謀のマーガレット中佐が悲鳴同然の叫び声をあげる。

 「・・・・・デビルライダー隊!」



 デビルライダー隊。

 それはテロ組織バルラシオンが誇る精鋭のライダー部隊である。

 いずれも真っ黒いライダースーツにハンマーを模した武器を携え、バイクによる強襲戦法を得意とする恐怖の部隊であった。

 その指揮官はかつて真崎が就任する以前のレジスタンスにおいて、長崎の街を核弾頭ミサイルによって壊滅させた、ナイト=ポール大将である。彼ほど残忍な性格を誇るライダーは他にはおらず、また狡猾な男としても有名である。

 「ふあはははははは!一気に殲滅しろぉ!」

 第11ライダー師団は完全に背後を突かれた形となった。ハンマーと槍を一体化した、ルツェンハンマーと呼ばれる打撃武器は、たとえライダースーツの装甲であっても衝撃を通じて、中の人間を撲殺する、最強の打撃武器である。増してやライダーの倍力作用がその威力を増し、想像を絶する威力を誇るのだ。

 どが!

 「ぎゃあああ!」

 ライダーの一人が、デビルライダー隊の放ったハンマーの一撃によって、壁ごと吹き飛ばされた。打ち込まれた部位がスーツごと粉々に砕け散り、勢い余って体を貫通してしまっている。

 「・・・・まずい!全部隊後退しろ!」

 だが師団長メアリー大将の判断は若干遅かった。ごくわずかながらデビルライダー隊との先端が開かれたからだ。デビルライダー隊の戦闘力は、1個師団の規模ながら実に3個師団に匹敵する戦闘力を誇り、その強襲性能を最大限に生かし、過去レジスタンスの軍隊を屠り続けた恐怖の部隊である。瞬く間に第11ライダー師団は、わずか1時間で総兵力の20%である4000名のライダーを失っていった。

 「うおおおおおおおおおおおお!」

 瞬く間に乱戦状態となっていく。単体から見る戦闘力はデビルライダー隊のほうが圧倒的に有利となり、各個撃破の餌食となっていった。わずか2時間足らずで第11ライダー師団は総兵力の50%を失い、なおも撃ち減らされていく。

 「第11-6大隊壊滅、ベイカー少将・・・戦死のもよう!」

 「第11−4−4中隊壊滅!」

 「第11-9大隊瓦解、マグリ少将負傷!戦線を維持できません!」

 「まずい・・・全軍なんとしてでも防戦せよ!その命に代えても要塞正門を死守しろ!」

 第11ライダー師団の任務は、要塞正門を開門させ、外にいるミューラー元帥率いるライダー4個師団のルートを確立することにある。だが背後からデビルライダー隊の猛烈な攻撃を受け、瓦解せざるを得ない状況下におかされつつあった。

 「第11-1ー3中隊壊滅!」

 「まずい!直属部隊ががら空きか!?」

 「デビルライダー隊、本隊に急接近!」

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 「まずい・・・逃げるしか!」

 「全員逃げるな!死兵となって後退しつつ耐えろ!生き残った大隊中隊は敵を深く誘い込んで包囲殲滅せよ!」

 強がっていた。それは自分でも分かっていたのだが、逃げるという選択を彼女はとることはできなかった。最初から一時撤退して兵力を再編成さえすれば、第11ライダー師団は兵力を失わずにすんだのだが、過ぎたことを言ってそれが実現すれば誰も文句は言わないだろう。だが独力で奮戦して玉砕するより他の師団と合流して応戦した方が良策であったために、明らかに彼女の対応は失策であったのは言うまでもない。

 「あれだ!敵師団長確認!」

 「首をもぎ取れ!」

 「誰を敵に回したかをレジスタンスのクソどもに思い知らせろ!」

 黒いバイクにまたがった、黒いライダーの大群が第11師団の指揮官部隊に狙いを定め、突進をかけようとしたその時―――――

 どがぉん!

 まさに卑劣ともいえるタイミングで、11師団とデビルライダー隊の間にミサイルが撃ち込まれた。爆砕の後に生じたクレーターや噴煙、熱気により、両軍は接触できない状況に追い込まれたのだ。

 「成功です、閣下!」

 「パーカー中将め・・・うまいポイントを突いてくれた!」

 先頭に立つライダーは、ヘルメットの防弾マスクをセットし、続けた。

 「敵が止まったぞ、チャンスだ!第1から第4ライダー大隊は副師団長パーカー中将の指揮に従い砲台の制圧に向かえ。残った大隊は我が本隊と続き、デビルライダー隊の側面を突くぞ!」

 「了解!」

 「味方を見殺しにするなぁ!見殺しにすれば生涯消えぬ屈辱と恥を背負うことになる!それが嫌ならば俺につづけぇ!」

 「おおおおおおおおおおおおおお!」

 救援に向かったのは、第10ライダー師団長のトーマス大将率いる半個師団のライダー部隊だった。司令官自らライダースーツを着込みながらバイクにまたがり、そしてトマホークを携えて最先頭に立ち、背後からデビルライダー部隊に向かって特攻同然の突撃をかけはじめた。突如ともいえる背後からの攻撃をかけられたデビルライダー隊は、瞬く間に崩れていき、組織力を失っていく。

 ざごんっ!

 「ぎゃあ!」

 「う、うわああああああ!!」

 デビルライダーの一人が上半身を水平に切断された。憎しみと苦痛を象徴する血の噴水が原から下の下半身から噴出され、足元に水溜りを作り上げた。上半身は固まっていた数人のデビルライダー達にぶつかり、その非人道的な姿に思わず悲鳴を上げてしまう。

 「敵の師団長が自ら突撃!?」

 「なをあげるちゃんす・・・・」

 ざごんっざごんっ!

 「ふげ!」

 「ごはっ!」

 瞬く間に二人のデビルライダー瞬殺される。一人は左肩から右はらわたにかけて斜めに切り落とされ、もう一人はバランスを崩す間もなく器用に股下から首筋に至るまでに中途半端に切り伏せる。彼らから発せられる赤い体液が次々とトーマスのライダースーツを塗装していく。師団長の識別を意味する、トーマスの青いマントは血塗られた色に変色していく。

 「つ、つええぞあいつ!」

 「全軍突撃突撃突撃突撃突撃いいいいいいいいい!売国の悪魔にひるむなぁ!」

 「!!!!!」

 「一兵残らずくびり殺して地獄に叩き落せぇっ!目の前にいるのは人間の姿をした俗物だ!人間ならば奴らを絶滅させろおおおおおおおおお!!!!!」

 喉がはちきれんばかりの怒号をあげ、トーマス率いる半個師団は、瞬く間にデビルライダー隊を押し返していく。師団長自ら駆けた突撃は兵士達を奮い立たせ、同時にデビルライダー隊を震え上がらせ、絵に描いたかのような押し戻しが行われていく。

 トーマス=シュトライト大将。士官学校のエリートとして若干22歳で第10ライダー師団の前任師団長に見出され、26歳で参謀長、28歳で副師団長となり、前任の師団長が戦傷で引退したために繰り上がりの形で29歳で師団長となったため、ライダー旅団史上最速の師団長就任の記録を打ち立てた人物である。

 それから2年ほどたち現在彼は31歳という、ライダー旅団の中では最年少の大将の階級を持つ将軍だが、年齢に似合わず冷静沈着、また礼儀正しい性格の持ち主、なおかつそれまでの若手と違って無謀とは無縁の人物として将来を渇望されている有能な人物である。だがいざ戦闘になるとその温和な性格が嘘みたいに豹変したかのような獅子の強さを誇り、特に防戦における攻撃力は他の追従を許さないほどの高い戦闘力を誇る、第7ライダー師団の「荒武者ケビン」に勝るとも劣らない、猛将でもあった。

 「!!!」

 「うおおおおおおおおおおおお!」

 「全軍ひるむなぁ!目の前の奴らを潰して橋を落とせばどうとでもなる!」

 「全軍完全死守!第10ライダー師団と協調して奴らを駆逐しろ!」

 「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 「左翼薄すぎるぞおおおお!もっと押し立てろ!」

 「右がきているぞ!戦力集中させろ!」

 「いまだ!中央突破で大将の首を取れええええええ!」

 「死守せよ死守せよ死守せよ!」

 「一撃で敵を討ち取るように斧を振り回すことも忘れたかばか野郎!!」

 「第8ー2大隊突撃!デビルライダーの中枢部を叩けえ!」

 「突破口が開かれたぞぉ!師団長を死守しろおおおお!」

 「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 「第11-3大隊再編成!5大隊と6大隊の残存兵力と合流して10分で兵力を立て直せ!」

 「今だ!敵の動きが止まったぞおお!」

 「とっかーん!突貫せよ!」

 「第4大隊突撃!11師団に攻撃を仕掛けるデビルライダーの側面をたたけぇ!」

 「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 「後退しろ!そのままだと側面をやられるぞ!」

 「第211中隊が敵と交戦を開始!側面を突かれたために混乱状態に陥っている模様!」

 「ちいいい!!」

 「第3大隊からバイク伝令!再編成完了です!」

 「突撃開始!目の前のデビルライダーを一人残らず駆逐せよ!」

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」






 まさに死力と死力がぶつかる死力戦だった。一人が殺されればもう一人が殺される。それを殺したものが更に殺され、そしてそれを殺したライダーはまたしても殺されていき、いつしか死体の山が築き上げられていく。双方共にそれが自分達が作ったものであることをまったく自覚することすらできないほど、戦場となった要塞の正門前は血で血を染める地獄絵図と化した。

 彼らデビルライダー師団は、正確には「バルラシオン共存ライダー師団」、通称ネオレジスタンスと言われる。バルラシオン本来の目的は人類と機械の共存を目指しており、機械帝国ネオプラントを滅ぼそうとしているレジスタンスとは相反するものであり、建前とはいえ本質的には彼らは人類のために戦っているのだ。

 だが一方のレジスタンスは「機械帝国からの人類解放」を目的としており、バルラシオンは人類を機械帝国に売り飛ばそうとしている売国奴のようにしか見えない。一方のバルラシオンもレジスタンスを「帝国主義の野蛮民族」としてしか見られず、こうした二つの正義と正義が互いにぶつかっているのが戦争であった。だからこそレジスタンスは彼らを「悪魔」と称してデビルライダー師団と呼ぶのである。

 「ちい・・・・・!」

 デビルライダー師団長のナイト=ポールは焦った。

 双方の兵力は同じぐらいなのにもかかわらず、明らかに自分達が押されているという事実を受け止めていたからである。

 大体、士気が違いすぎる。あちらは機械から人類の解放を目的としており、人心が完全に好戦ムードと化している上にあと少しで完全勝利の戦況だ。だがそれに対してこちらは敗戦続きで補給物資もままならず、こうして無駄な抵抗を行うだけ・・・どう考えても不利としかいいようがないし、現にあとすこしで、

 「第222中隊壊滅!」
 「第134中隊全滅!」
 「第1210中隊隊長ホーウッド大尉戦死!」

 次々と中隊単位がやられつつある。このままではここで玉砕してしまい、自分は勝てもしない戦争裁判に立たされて、さんざん罵倒された挙句に毒殺されるのだ。そんなのは割に合わん!

 「全軍、引くぞ!ここで玉砕しても何の徳は無い!」
 
 まさにその通りだったが、それはレジスタンス側のライダー師団も似たようなものだった。死力と死力がぶつかる戦いはいつしか消耗戦と化していたのでこのままでは双方共につぶれてしまうのは火を見るより明らかだったのだ。

 「閣下!デビルライダーが引いていきます!」

 「うまくいったか・・・」

 敵が引いていく光景を見るトーマスの顔は、ライダーのヘルメットで隠れているので表情が見えないのだが、なぜか安堵感を感じさせる。全身血だらけでかつ肉片がこびりつき、師団長専用のマントはぼろぼろに破れ血で赤く染まり、スーツの装甲にヒビが入っているその姿は、まさしく鬼と称すべき姿にもかかわらずだ。

 「はぁ?」

 「ここで奴らを全滅させることはできるが、その場合は俺や貴官の命、11師団の壊滅を意味するものだ。無線封鎖を解除、直営の伝令バイク小隊を使って伝令、無謀な突撃はここまでにして陣形再編成を行え」

 「了解!」

 一方の11師団も似たようなもので、

 「全軍、敵の退路を開け・・・!敵に死兵にさせる必要はない!」

 そういう命令が下ったが、第11ライダー師団には組織的な戦闘力はほとんど残っていなかった。そのまま第10ライダー師団と協力してデビルライダー部隊を殲滅することはできなくはなかったが、その場合だと第11ライダー師団は壊滅的打撃を被り、再起不能なまでの打撃を被る結果となる。そのために会えて敵を逃がす選択をしたのであった。

 「・・・ちい、全軍・・・引くぞ!」

 敵もそれを承知したのか、痛み分けの形でデビルライダー部隊は去っていく。

 「閣下、追撃命令を!」

 一部の中隊が交戦の継続を要求したが、トーマスは否定した。

 「だめだ!ここで奴等を追い詰めれば、逆ギレを起こして消耗戦になりかねん。そうなればこちらも相応の被害を被る結果となり余計な死者を増やすだけだ・・・それとも貴官は13師団の2の舞を味わいたいのか」

 トーマスの通信は怒気がこもっていなかったが、聞き手には十分な畏怖を与えるには十分すぎる迫力があった。

 「・・・も、申し訳ありません。」

 「わかればいい、なるべく奴らを追い立てろ、だが追い立てすぎて反撃の機会を与えないように、一定の距離をとって追撃。第11ライダー師団との距離を取らせろ」

 物凄く難しいことを言うトーマスだったが、ほぼ理想的な形でデビルライダー隊と第10ライダー師団は一定間隔の距離をとりつつ、要塞正門の反対側にある裏門に逃がしていった。途中本部隊の第2ライダー師団の形を横切る形となったが、ジェッカー元帥も状況をよく読んでいたために無謀な突撃を控えさせ、それ以上の被害を出さないようにつとめあげることに成功。生き残ったロボットの軍隊もデビルライダー隊の動きと同調して撤退し、かくしてエカデリンブルグ要塞は陥落したのであった。








 ゴキブリを連想させる真っ黒い集団が、要塞から離れていく。

 「敵、撤退していきます。」

 「よし・・・バイク伝令、第11師団と連絡。”我、敵を撤退に追いやることに成功”とな」

 「了解・・・閣下、そろそろスーツの活動限界です。ヘルメットをお取りになってください」

 あの猛攻撃で、トーマスのライダースーツは活動限界を迎えていた。これ以上スーツの活動を続ければ、熱中症と酸欠で体が持たない。

 ぷしゅう。

 ヘルメットの気圧を解除し、トーマスはヘルメットを脱ぎ取った。猛烈な汗と熱気が金髪に滴って地面に落ちていく。

 ・・・・・

 深呼吸もしたくないほど、よどんでいる空気。

 「相変わらず、外の空気は濁っている・・・」

 従者から酸素ボンベと栄養氷水、タオルを取り、トーマスはようやく安堵できるようになった。この時代の空気は300年間ヘドロのような臭いと成分で汚染されており、ほんの10数年前までは酸素ボンベなしでは生きていけない有様だった。最近になってようやく呼吸ができるようになったが、それでも毒ガスの中にいるようなもので、鍛えた人間でなければすぐに酸欠で気絶するほど、大気が汚染されているのである。

 「閣下、第11師団よりバイク伝令が到着!」

 「通せ」

 通信システムが電波かく乱で無力化された状況で通信をするにはアナログ的手段に頼るしかない。かといって旗の合図や動きなどのアクションでは敵に察知されるため、各師団にはバイク伝令部隊という、命令系統を伝達する役割が存在する。彼らが戦場を走って各大隊、中隊に連絡させて命令系統を統制、編成する重要な役割であり、また他の師団と連携するためには不可欠な存在である。

 「第11師団司令官直営部隊所属のヤマダ軍曹であります!このような失礼な姿ながらも司令官閣下の御命令によりメアリー大将から伝令文を届けに参りましたことをお許しください!」

 ぼろぼろのライダースーツに血だらけの姿で師団長に出向く、ヤマダ軍曹が失礼と言う理由がそれだったが、トーマスはそんな形式よりもメアリー大将の安否が気になっていた。バイク伝令がやってきたということは、師団長部隊の近くにいる向こうの通信部隊が全滅している可能性が非常に高いのだ。

 「先の奮戦はご苦労だった。ところで貴官の司令官であるメアリー大将は?」

 「は!御健在で命に別状はありませんが・・・・・その・・・」

 「その?」

 「先の戦闘でデビルライダーの攻撃を受けてバイクから転落し、左足首と左腕を骨折なされました・・・詳しいことはこの文を」

 手紙の内容は伝令部隊は読むことは許されていないが、司令官が口頭でヤマダ軍曹に内容を伝えていたので、彼は手紙の内容を知っていた。彼から手紙を受け取ったトーマスは手紙を読み上げる。

 <拝啓:第10師団長トーマス=シュトライト大将。貴官の奮戦によりわが師団は壊滅の危機を逃れたことを感謝する。だが本隊は先の戦闘で半数以上の兵員が負傷、特に医療部隊の7割以上が戦死したために治療や死体回収に追いつかない現状であり、情けないことにも私も負傷してしまった。現在は副師団長のロバート中将に一任をしているが、彼だけでは手に余る事態である。貴官に申し訳ないのだが、負傷者の搬送および物資の提供、医療部隊の支援をを求む・・・>

 事態は思っていたよりも深刻であることが、トーマスは理解した。

 「よしわかった。伝令バイク隊、第3大隊長ヴァレントに伝令、11師団を救援させるように医療部隊を派遣させろ。それと物資はジェッカー元帥に頼んで何とかしてもらうように伝令を送れ。」

 「副師団長パーカー中将から伝令バイク・・・”要塞内の制御コンピューターの制圧完了。全砲台の制圧に成功。要塞の完全沈黙に成功”とのことです」

 「よし、本隊に伝令バイク。我、砲台を制圧せりとな。むこうはまだ戦闘しているから電波通信は一切するな。ヤマダ軍曹はそのことを11師団に伝えて帰還せよ」

 「は!閣下のご厚意に感謝します!」

 今ではマスクがなくてもある程度の生活はできないことはないが・・・それでも30分間外気を吸い込めば嘔吐は覚悟しなければならないし、目脂もすさまじくなる。この時代では都市といえばカプセルのように外気から完全遮断した形となっており、こういった都市要塞の類は外気から隔離するカプセルが存在しないため、酸素マスクは必需品なのであった。





 「それにしても・・・・・」

 ヤマダ軍曹がその場から立ち去った後、トーマスは思った。

 戦争はまもなく終わる。だが戦って勝っても人類は同じ過ちを繰り返すのだろうか。

 古代の歴史から人は争いと繁栄を繰り返し、時として取り返しのつかない事態を作ったこともあった。核兵器、差別、虐殺、それの正当化のための他民族スケープゴート、麻薬に人体実験、誘拐虐殺、毒ガス兵器に奴隷制度、自己正当化犯罪に狂信者による世界征服・・・数え上げればきりがない。

 だが自分の時代もやはり過ちを犯したからこそ、今もこうして酸素マスクがなければ生きていけないほどの環境汚染が進んだ地球を作り上げてしまった。おそらく人類が滅んでも償いきれない巨大すぎる罪であることは明白だが、人類が再び数を増やせば、資源が枯れきって荒れ果てたこの星地球、いずれ住めなくなるであろう。

 「この戦争が終わったら、人類はどうなるのだろうか・・・」

 「・・・何かおっしゃいましたか?」

 「いや、なんでもない・・・それにしても空がいつもより暗いな」

 「ええ、雨でも降るのではないのでしょうか?」

 空を見上げると、確かにいつも以上に暗くなっている。2312年の地球は大気が汚染されており、海もヘドロのように毒々しい緑色に染まっている。西暦2210年、とある宇宙飛行士が宇宙資源発掘調査のためにロケットに乗り込んで宇宙に出たが、そのとき彼が見たのは、かつて青い星と呼ばれていた地球ではなく、緑色の星だった。その宇宙飛行士アルバート=ロンメル少尉はそのときの感想にて「ヘドロの星」と口から漏れたほどで、人類が地球をメタメタにしたということに痛感したという。

 空が青いのは、基本的に太陽から光が舞い降りた際、青い光のみが他の光と違って唯一水の分子に反射されるため、空が青く見えるのである。だが核の炎が地球上に炸裂した2005年3月5日こと「カタストロフデイ」、翌数年にわたる人類絶滅危機こと「デストロイド・イヤー」以来、地球の大気は歪みに歪み、太陽の光もほとんど入ってこない有様となった。

 当然気温も下がり、植物も全てだめになり、大気の循環や温室効果もしっちゃかめっちゃか、海全体が放射能で汚染されたために雨粒そのものにも放射能反応が出る有様となり、更に植物や作物、生き物が汚染されて数を減らした。かつて恐竜絶滅の原因となった隕石落下による氷河期のパワーアップバージョンを、人類は自分たちが原因で味わうことになったのだ。体毛がほとんど存在しない恐竜達はそのまま絶滅したが、人類は都市にガラスやアクリル状のドームをつけ、そこで酸性雨や放射能から身を守って生活しているのが現状である。それでも太陽から光が入ってくるので厳密には真っ暗というわけではないのだが、雨の時には雨雲ができるので余計に暗くなるのである。

 ぽたっ、ぽたっ・・・・・・

 地面に自分の汗ではない水の痕ができはじめてきた。

 「閣下、酸性雨です。早く建物内に」

 「ああ、今行く。」









NEXT MISSION・・・・・


次回予告

「君はライダーではない!ライダーの名を借りた殺人鬼だ!」
「・・・・・・!」
「銃が無ければ君は何もできないのか、人を守れないのか!?」
強烈な一言が宗一を震撼させる。
彼は自分達の先祖でもあり、かつて「仮面ライダー」と呼ばれた戦士に出くわし、痛烈な批判を受ける。


「ふははははははは!あの小娘一人八つ裂きにすれば我らの勝利だ!」
「たとえ首だけになろうとも・・・俺が彼女は殺させん!」
悪魔と呼ばれたライダー部隊が成美に牙を向ける。
だが自分に戦士を気取らせる自信があるかどうか、葛藤が彼を揺さぶらせる。


「ミサイル発射台開け、対地低周波ミサイル発射用意!」
「目標、デビルライダー隊!ロック完了!」
「一番発射!」
ついに派遣された駆逐艦「シュバルツグリーン」。
たった一人の少女を守るために、彼らは鬼となる。
そしてライダーの名を汚すものと非難されても、彼らは彼らで行き続けなければならない。
たとえ鬼畜と呼ばれようとも。


次回「ζライダー」
MISSION JULY:「追試テスト」


編集後記




アニョハセヨな間津井店長です。無茶苦茶暑いですが生きておいででしょうか。



それにしても3回目でやっとライダーキックが出せましたが・・・ほんとうにこいつらは・・・らしくありません。ていうか元ネタは「天空●Vの字●●」・・・もしくは「超電磁●●●」・・・というのは口が裂けてもひみつだぞ!前より少なくなりますといっているくせに前より多くなっているし・・・読みづらくてごめんなさい。
今回は梅雨といえば鬱なのでそれをテーマに書いてみましたが・・・てか書いたのはばっちり7月なのはひみつだぞ!

皆さんが疑問に思っている「仮面ライダーζ」と、このタイトル「ζライダー」・・・なんで違うんだというのは、ちゃんとした意味がありまして今はまだいえません。理由は・・・まあ・・きっと察しの良い皆様なら分かるでしょう。
次回は「ゼン」と同じように、主人公が自分達の先人達と出くわしたというお話になる予定です。てかこいつらってライダーのクセに「マスクドライダー」以上にバカスカ撃ちまくっていて、格闘戦も武器を使ってでしか行わない、孤独な戦士じゃなくて数百数戦の単位の集団戦で戦う・・・・・ライダーと名乗る資格があるのでしょうか?意地悪にもそこに一石を投じてみたいと思います。



ところではじめの方で言っている「宗一レポート」ですが・・・歴史をしらねえと本当に恐ろしいです。韓国が賠償しろ賠償しろと言っても、賠償の類は日韓基本条約やサンフランシスコ平和条約でケリがついているんです。それ以後の賠償請求は条約違反となり罰せられるのですが・・・現実を見ればわかりますよねぇ。歴史の重要さはまさに「国家レベルのサギから身を守る術」と言っても過言じゃありません。今のワケーモンは歴史を知らない方が多いらしく、金なんて腐るほどあるんだからテキトーに謝って賠償すればいいだろ、てな感じの考えが浸透しているようですが・・・今の状況だとヤミ金融並みにぼったくられてしまうんです。
靖国神社参拝で世界中が批判していると言っても・・・実際に批判しているのは中国韓国ぐらいなものですし、世界中から日本はそんなに嫌われているわけではありません。どういう形であれ、日本のために戦った戦士達を批判する権利は・・・誰にもないと思ったりもしますし、第2次大戦の日本の蛮行は日本人国籍の朝鮮人の犯行だとGHQも認めていますが・・・だあれもそういうところを見てもらえません。ていうか見せると都合が悪いのも程があるので、みせてくれませんので自分で調べるしかありません。嗚呼。

そんなわけで次回のMISSION JULYもお楽しみ。ではでは。


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