西暦2312年4月10日午後13時00分
旧大阪 ライダー師団総合作戦本部
「総員、大統領に敬礼!」
ザザッ!
広い会議室にはたくさんの軍人が集まっていた。いずれも立派な将校の服を着ており、勇猛な顔や端正な顔、いろいろな人種がごちゃまぜに集まっている。首筋にある階級賞は、皆大将を示す3つの鳩の3本ラインマーク、一部には4つの鳩のマークもあったが、それは元帥を示すマークであり、5つになると何らかの役職についていることを示している。
そんな彼らが敬礼する先の扉を開いたのは、浅岡真崎であった。もともと軍閥出身であり、彼らの作戦会議に参加するのは至極当然なのである。
真崎が中央の席にたどりつき、いすに座った。
「楽にしていただきたい。」
真崎の一番手前の席にいる元帥が唱えた。
「総員・・・着席!」
ざざっ!
「諸君、モスクワ都市要塞攻略の件はごくろうであった。だが諸君らも分かっている通りこの勝利に浮かれている暇は、まだない。次はネオプラント首都に続く、このエカンデリブルク要塞を攻略しなければならないのは言うまでもないだろう。そこで議会で要塞攻略作戦の決定許可が下りたが、実際の作戦はまだ立てられていない。よって本日集まったのはここで要塞攻略戦の作戦会議ということになる。前もって連絡をしたはずなのですでに作戦案をいくつか用意している将官もいるであろうが、活発な討議を期待したい。」
エカンデリブルク要塞、モスクワ都市要塞とネオプラント第2都市をつなぐ要塞である。設備や兵力そのものはモスクワ都市要塞より規模が小さいものの、各種交通の中継点をつないでいるポイントであるためにミサイル攻撃は完全に御法度、ここを破られない限りネオプラント首都「エデン」攻略ができないのである。これまではモスクワ都市要塞があったので兵力がそれほど多くはなかったのであったが、近年モスクワ都市要塞が堕ちてしまったので、ここには総兵力20万の機械兵士が終結しているのである。
隣に座る元帥が真崎に話しかける。
「大統領、すでにいくつか作戦案が出されていますので提示しますか?」
「出させてくれ」
「はっ」
超巨大な円卓テーブルの中央から地球儀が出て、赤や青の矢印や三角形、点線や赤色に塗られたユーラシア大陸と青色の大陸の地図が浮かんでくる。
「まずこの案を提出したのは第7ライダー師団参謀長であるマサル中将です。説明を!」
「はっ!」
やや黒っぽい日本人士官が立ち上がる。
「私が提案した作戦は、まずモスクワ都市要塞と中東アジアの各種要塞や都市からライダー部隊を出撃させ、各方位からの包囲殲滅戦法をとることにあります。この作戦のメリットは・・・・・」
午後18時00分
会議が終わり、将校たちは部屋から出て行った。部屋に残っているのは、真崎とジェッカー元帥、ミューラー元帥だけである。
「本作戦、うまくいくとお思いですか?」
「うまくいかせるのが君の仕事だ。私の役割は、なるべく君らがやりやすいようにお膳立てをすることだ。」
「相変わらず変わっていませんな。」
「そう、私は変わっていない、元帥。あの日以来な・・・」
西暦2294年5月1日午後4時03分
旧大阪
どがああああああああん!!!
爆発、閃光
燃え上がる人々、崩れ行く建物
瓦礫が人々を巻き込む。
車がコントロールを失い、瓦礫につぶされる。
嘆きと業火が、全てを飲み込んでいく。
「うわあああああん!うわああああああん!」
「おかあさーん!おかあさーん!」
「友美!友美!どこいったんだ友美!」
「ママ、何で目を覚まさないの?お外で寝ちゃだめだってママ言ってたでしょ、ねえおきてよママ・・・」
「弘明!弘明があの瓦礫に!」
悲鳴が、都市を包み込んでいく。
炎が、全てを焼き焦がしていく。
全てが、狂っていく。
「ううう・・・・・・」
一人のライダー兵が立ち上がる。頭部を守るヘルメットは完全に砕け散り、頭から血も流している。
ライダースーツも全身もひびが入って使い物にならなくなっており、パワーアシスト機能も壊れてしまったために鎧が異常に重い。
だが彼は探さなければならなかった。
この悲鳴と悲劇の原因たる、その存在を。
「閣下!閣下!お気を確かに!」
そのライダー兵が、必死に各坐したリムジンから一人の男性を引き上げる。
「ううう・・・・・・」
あごひげが印象的な、大柄のスーツ姿の男性だった。
「閣下!」
「もう・・・・・・・・わたしは・・・・・だめだ。」
「閣下!救急ヘリが到着します!」
これは嘘であった。あまりの業火でヘリは近づけないのだったのだが、それを当の彼は分かっている。だがこうやってでも言わなければ希望は出ないのだ。
「・・・・・・・・・すべて。私の・・・・・・責任。バルラシオンに・・・・・・・・・・・・・・・・・おびえ、屈した・・・・・・・・・・・私の・・・・・責任。生きる・・・・・資格が・・・どこに・・ある。ばるらしおん・・・・・・やつらが・・・・私が・・・裏切ろうとしたから・・・・・消しにはいった・・・・・・のだ・・・」
血を吐きながら、彼は力なくうめく。
「閣下!」
「まさきを・・・・・・真崎を!あいつにやらせ・・・・・ろ!あいつなら・・・・・・・・・・すべてが・・・・・・・・・」
その直後、彼は血を吐いて絶命した。
「閣下!閣下!眼をお覚まし下さい、閣下!」
いくらゆすっても、目は覚まさない。
白目をむいて、彼は肉塊と化した。
「ああ・・・・・・・」
彼は絶望した。
いくらなんでもあんまりだ。
レジスタンスの指導者がこんな形で殺されるなんて。
「う・・・・・・・」
「うわあん!ままぁ!ままぁ!」
「おじいちゃんが!おじいちゃんが!」
「誰か助けてよぉ・・・・熱いよぉ・・・熱いよぉ・・・・・」
「ライダーさん、ライダーさんはどこだよ!はやくあの瓦礫を何とかしてくれよぉ!」
「水をくれぇ・・・・水をくれぇ・・・・・・・・!
絶望が、大阪を飲み込んでいく。
もはや考える力など、誰にもなかった。
彼が絶望した直後、
「うわあああああああああああん!」
各坐したリムジンから赤ん坊の泣き声。
よくみると、一人の夫人らしき女性がいたが、絶命している。
だがその遺体が抱えている赤ん坊は、大泣きしながら、生きていた。
「うわああああああああああん!うわあああああああああん!うわああああああああん!!うわあああん!!!うわああああああああああああん!うわああああああああああん!うわあああああああああん!うわああああああああああん!うわあああああああああん!!!」
ζライダー
Misson May −スポーツテスト−
西暦2004年5月13日午前7時30分
東京都豊島区 かもめ台3−3−4
「う・・・・・・・・」
またこの夢だ。
人々が業火に包まれて悲鳴を上げていく夢。赤ん坊が泣き叫んで夢は終わる、なんだってこのような夢を見るのだろうか。
「おーい、ソーイチ。朝だぞー!」
部屋の外からアルフの声がする。
「寝坊しちまうぞ〜」
「もう起きている!」
「おこっちゃいやーん」
「ふざけるな!」
あの夢の直後、宗一は非常に機嫌が悪くなるのだ。なぜかあの赤ん坊が自分だと思ってしまうからである。
同日同時刻
東京都豊島区かもめ台3−3−2 「浅岡源蔵」
「お姉ちゃん、朝だよ!早く起きて!」
「うう〜」
「犬みたいに唸っていないで早く起きて!」
彼女の名は浅岡ゆり子。公立かもめ中学校に通う、ことし中学2年になる女子中学生だ。姉の成美とは5歳離れており、成美とは違って手続きをしっかりしたために、ダブったりはしていない、ごく普通の女の子である。
「うう〜」
「ほらおきて!」
布団ごところがされる成美。そこで彼女はようやく起きる。
「ほらおきて、起きたらまずトイレに・・・てそっちは2階!はいはいはい・・・洗面所に行って顔を洗って歯を磨いて!もうお風呂は沸かしてあるからさくさく入って!・・・・・ってパジャマのままで入っちゃだめだっておねえちゃん!」
成美は本当に朝に弱い。寝ぼけまくっているのだ。
「う〜」
はんば寝ぼけで成美はパジャマと下着を脱ぎ、湯船に入ったその直後―――――
「ぶあっちいいいいいいいいいいいいいい!」
風呂の温度は45度、熱湯であった。
午前8時05分
「ああ・・・・・ったくゆり子め。実の姉を熱湯地獄にかけるとは・・・」
着替えをしながらぶつくさという成美。そうでもしないと起きないからである。
「ってゆり子?どこいったの?」
「もう学校行ったよ」
部屋の外から老人の声。
「あ、おじいちゃん。そうなの?」
彼の名は浅岡源蔵。今年68になる老人だが、ただの老人ではない。彼はかつて東京オリンピック予選で「幻の金メダリスト」と言われる、空手家であった。お彼の父である浅岡俊之陸軍中将は、来るべき日本本土決戦において、アメリカ兵と対抗すべく編み出した「浅岡流殺人空手術」の創始者である。たとえ相手が銃を持とうが素手で対抗できるという、一見すればムチャにもほどがある、歴史初の幻の軍隊格闘術であった。
だが実際はアメリカ軍が広島と長崎に核を落としたために組織的抵抗力を失い、日本は敗戦、あっという間にこの空手は使い物にならなくなってしまったものの、俊之はどうしてもこの空手を長引かせたかったので、それを息子の源蔵に伝授したのである。
結果はすさまじかった。ありとあらゆる格闘家を葬り去り、源蔵はオリンピック選手の候補に挙がったのである。オリンピック予選でも彼はダントツで優勝し、日本の誰もが現像は空手代表になるものだと確信していた。だが当時の彼は空手のルールに違反したためにリストからはずされ、結果それが彼を「幻の金メダリスト」と呼ぶゆえんなのである。
で、彼はこの空手術を娘に習わせようとしたのだが、当の娘はそんな空手なんて習いたくなかったので、アメリカ大使館の職員とかけおちの形で結婚してしまったのである。だがどうしても諦めきれない源蔵は、かけおち結婚を許す代わりに、その息子娘たちに空手をやらせる約束を取り付けたのであった。
それが、浅岡成美だった。
妹のゆり子は虚弱体質であったために習えなかったのだが、彼女はあっという間に空手術を習得し、今では高校のインターハイで優勝するほどにまで伸びているのだ。源蔵は彼女ならこの空手術の栄光を取り戻せるかもしれん・・・・と涙ながらに期待しているのであった。
「もう準備はできているからっていってたよ」
「うんわかった。それじゃあいってきまーす」
ふすまを開けて、成美は玄関に飛び出した。
だがその直後、
「げ・・・・!」
玄関から飛び出したその直後、成美の視界にあいつが写った。
肩まで届くざんばらの髪型に無表情。何か燃え上がるような熱い瞳の男。
そして転校初日に改造ハーレーで学校に登校して没収され、自分のことを「守ってやる」とか何とか言いやがった、むかつくあいつ、本田宗一だ。
「珍しいな、こんな朝から会えるとは」
ものすごく不快な言い方に成美は頭に血が上る。
「ぐぎぎ・・・何であんたがここにいるのよ!」
「何でといわれても・・・あそこが俺の家だからだ」
宗一が指差す先は、成美の家のお向かいさんの左となりの家だった。こんな近くに住んでいやがったとは・・・!
「な、何であんたがあそこに住んでんのよ!あそこは間津井さんちだったのよ!」
「ちゃんと示談してある。あそこの住人は俺の・・・父親の知り合いだったからだ」
「〜〜〜〜〜」
もう何もいえなかった。こんな改造ハーレーストーカー馬鹿につきあっているとこちらが馬鹿になりそうだ。
ちなみに宗一が言っていることは、半分あっていて半分嘘である。彼らが2004年に来る際に問題となったのはセーフハウスであった。なるべく護衛対象の近くがいいということで決定したのだが、彼女の家は住宅地の真っ只中、しかもマンションなどの建物はここら辺の建築規準に違反しているので建てられない有様だった。
なので前もって2004年に潜入した「スペクター」が活躍した。彼は準備した資金(およそ10億円)を使って、成美の家のお向かいさんの隣家を買ったのだ。もちろん住民は建てたときよりはるかに高い値が転がり込む結果となったので快諾、そのままいずこかへと引っ越してしまったのである。
で、その家をスペクターや宗一たちは大改造を施した。
テレビのアンテナに見せかけた、半径200km四方を完全に把握するレーダーシステム。
ミサイルの直撃を受けてもびくともしない耐超振動工法。
侵入者に容赦なく攻撃を仕掛けてくるセントリー・レーザーガンと武装シェパードロボットandドーベルマンロボット。
衛星「イージス」からの情報を受信、もしくは発信する超高感度レーザー通信システム。
庭には登録者以外のものにしか反応する電撃や指向性地雷。
一見するとただの壁に見えるが、実はミサイルの爆風にも耐えられる錬成レアメタル合金製の塀。
核兵器に対応した、深度300mの地下核シェルター。
および地下に作られた射撃訓練場、白兵戦訓練場に各種武器を取り揃えた武器庫、重症治療用に作られた無人集中治療室。
一機の戦闘ヘリコプターまで地下の格納庫に保管。
1億キロワットまで発電できる小型発電施設。
NBC兵器対策として完全密閉式への変換機構や、酸素発生装置や全室の空調をコントロールするエアコンシステム。
完全自給自足を可能にした、たんぱく質と太陽光から作り出す人工食品プラントおよび地下水浄水システム・・・
などなど、数えただけでもきりがない。一見すればただの家なのだが、実際にはあらゆる警備会社や泥棒でも舌を巻くほどの設備を誇る、史上最強のセーフハウスなのである。うかつに侵入しようとすれば、命はない。
「・・・・・」
「顔色が悪いな。どうした」
「あんたの顔を見たからよ!」
「・・・・・何か病気にでもなったのか?」
「ちがわい!てかついてくるな!」
「だが学校までの道のりは君と同じだ。リアロエクスレーターが没収された今では公共交通機関を使わないと学校にはたどり着けないのだが」
「いちいち御託をならべるなっ!」
「御託ではない、どうやって学校に行くべきかを答えただけだ。」
「うるさいっ!あたしの前に立つな!」
「今君の隣にいるだけなのだが・・・・・」
「屁理屈を言うんじゃない!」
同時刻 セーフハウス1階
<屁理屈を言うんじゃない!>
「・・・・・ものすんごく難物ですねぇ。浅岡成美っている人は」
「まったく、写真で見たときも驚いたが、それ以上に難物だったな」
そのように感想を漏らす二人が見るテレビには成美が宗一を怒号している光景が映っている。彼女の周囲を飛んでいる超小型ハエ型のロボットが彼女の同行をがっちりマークしているのだ。動画だけではなく、音声もちゃんと送ることができる。パオリンは宗一やアルフ、メイリンを24時間体制で監視することができ、デビッドは未だにやってこない駆逐艦シュバルツグリーンが来るまでここの指揮を行わなければならなかった。
もちろん彼らが学校に行くなど、やってはいけないのである。
<君にはどこか自分が美人に見えるような態度が感じられるな。それは完全な思い上がりだ>
<なんですってぇ!>
<どがっ!>
<ぎゃふん!>
「うわー・・・今かばんの角で・・・痛そう」
「・・・もっとも彼女ではなく、ソーイチの奴が原因があるな」
「ですよねぇ・・・・・年頃の女の子に言うセリフじゃないですよ。思い上がりなんて言葉。」
画面には、たんこぶをつけて倒れている宗一の姿があった。
西暦2004年5月15日午前8時20分
私立所縁が丘高等学校校門前
「だからついてくるな!」
「だからついてきているのではなく、君と同じルートでしか学校には行けないのだ。」
あれから成美はこんなことばかり言っていて、宗一はこんな風にしか彼女に言っていない。
成美の怒りはヒートアップする一方だ。
しかもその原因たる宗一は、そのことにまったく自覚していない。
むしろ彼女が起こる心理がまったく理解できていない有様だ。
おまけに周囲からはこんな言葉がささやかれている。
「おやおや、相変わらず仲がいいようで」
「いちゃいちゃしてんなぁあの二人」
「成美って硬派だと思ってたんだけどねぇ」
「あんなに軟派だったとはなぁ」
「あのストーカーにはまんざらでもないんじゃない?」
「あんなにべっとりといっしょにいるしなぁ」
「~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
もう限界だった。彼女の怒りのキャパシティーはジャイアン並だった。そして辺りにわめき散らそうとしたそのとき、
「ちょっとー!あなた学校にタバコ持ってくるなんてどういうこと!?」
いきなり女性の大声が、周囲を沈黙させる。
「い・・・いやそれはその・・・」
「理由はここじゃなくて、職員室で!」
「ああちょっと〜!」
体育教師と思われる人物にその男子生徒は力なく引っ張られて行く。風紀委員担当の女教師である合田佐代子(30)がたびたび行う不定期恒例行事、持ち物検査のいけにえがまた出てきたのだ。一説には彼女が何らかの形で振られたりした時に起こるとされるが、真相は定かではない。
「やば・・・今日持ち物検査だったんだ!」
成美の顔が青ざめる。彼女のかばんには明美から借りたゲームや、雪枝から借りたCDが入っているのだ。どう考えても没収対象になること請け合いなし。あっという間に彼女達の仲は戦争状態になってしまう・・・!
その心理状態は周囲も同じだった。この持ち物検査ほど、所縁が丘高等学校で怖いものはそうそうない。ある生徒はいそいそと電話をかけて明日にしてくれといい、またある生徒は一生懸命穴を掘って、またある生徒は木の中に隠し、更にまたある生徒は巧妙にワイシャツの中に隠したりと、それはもうこっけいな情景が広がっていた。
「ちょっとあなた・・・」
やばっ!きたっ!
心拍数が急激に上昇。感覚神経が凄まじく研ぎ澄まされる。
額から汗が出てきて、全身に寒気が発生。体温計で計ったら30度になってしまうのではというぐらいだ。
顔が青ざめてマンガだったら無数の黒い縦線が落ちているところだろうか。
「君ね。あの改造ハーレーでやってきたというのは?」
「い、いえ自分は・・・」
「この学校ではこういった持ち物検査が慣例でねぇ。特に君みたいな問題生徒をどうにかするためにやっているの、わかる?」
「・・・分かりません」
合田先生の指名したのは成美ではなく、宗一であった。改造ハーレーで学校に登校した4月以来、宗一は学校からマークされているのだ。
「じゃあこれからあたしがやろうとしていることは正当だということはわかる?」
「・・・・・」
「じゃあそのかばんを出しなさい!」
ばっ!
早業だった。宗一は抵抗する間もなくかばんを取り上げられてしまう。
「あ!」
焦燥感が宗一の顔に浮かびあがる。
(・・・こいつって何持ってんだろ)
成美は思った。どこぞの小説のように銃器やナイフ、爆弾を持っているのだろうか。
ばっ!
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
かばんから出てきたのは、チャンピオンベルトのような物体であった。全体的に灰色なのだが、中央は赤い風車か何かみたいになっている。女性でも片手身もてるところからそれほど重くはないようだ。
「・・・・・・あなたねぇ」
「はい」
「これは何です?」
「はい、東雲製作所が製作し、ガーデック・テクノロジー社が生産し・・・」
「はいはい。こういうおもちゃは没収します」
「おもちゃではありません。大切なものです」
これは宗一が、仮面ライダー・電聖に変身するために必要な変身ベルトである。本当ならばバイクに搭乗して、このベルトを四次元コンテナに接続しなければ変身はできないのだが、宗一の場合は体内に四次元コンテナが埋め込まれているので、そこの中に各種装備がしこたま入れられている。なのでバイクに乗らなくても変身はできるのだが、変身のキーとなるベルトがないと、電聖には変身できないのである。
もっとも、このベルトがなくても宗一は、義手義足を戦闘レベルに開放して、最初から装備されているベルトを使えば、仮面ライダーζになることはできる。だがあの形態は負担が異常に大きく、コントロールが非常に難しいので、普段は電聖に変身するのである。
「へぇ・・・・・どういう時が大切なの?これで何をするの・・・?」
宗一は口ごもる。
「親の形見とかいうオチでもなさそうですしねぇ」
「伯父から預けられたものです」
これは嘘ではない。彼の伯父は浅岡真崎、レジスタンスの指導者であり、彼にこのライダースーツベルトを預けたのは本当だ。
「・・・・・」
宗一の目は、嘘をついている目には見えない。
「で、その伯父さんから預けられたものをどうして持ってきたの?」
「それが無いと困るからです」
「だから無いとなんで困るの?」
「そ・・・それは・・・・・」
どうしても言えない。4月の騒動以来、ライダーであることを秘密にするようにデビッドから強く言われたのだ。
「・・・夏休みには返すからねぇ。」
ベルトがダンボール製の没収箱に乱暴に入れられる。
「う・・・・・」
「他には・・・?」
後は特に無い。携帯電話の所持は認められているし、バイクのキーも別段問題は無い。
怪しげな通信機もないし、銃器やナイフも無い。いたって普通のかばんの中身だった。
「・・・・・まあいいわ、いってよし」
「ベルトはなるべく早く返してください。あと勝手に機動スイッチを押したり腰にセットしてはなりません。勝手にやろうとすれば100万ボルトの電撃が走って・・・・・」
「はいはい、わかったからいきなさいっ」
分かっていない・・・・・宗一は不安になる。
「ところでなる・・・」
宗一は振り向いたが、彼女の姿は見当たらなかった。
同日午前9時35分
1時限目:生物・生物室
「・・・・・はい、班に分かれましたね。皆さんの班の机にはちゃんとカエルがありますね。」
「う・・・」
一同は固唾を飲み込む。
「このカエルの解剖で心臓や胃の動きを把握して、どういう特徴かをノートに記録してください。やり方はプリントにあるとおり・・・」
そんなこといわれても・・・と成美は思う。
私は生物学者とか医者にはならんよ・・・でも何だってこんな残酷なことをやらなきゃいけないのだ。
カエルさんがかわいそうだよ。
人間って残酷だね・・・。
「ナルちゃん・・・何ひとり言言ってるの?」
「え?なんでもないなんでもない。」
「ナルミ、やってくれない?カエルのハラワタ・・・」
生きているカエル。見るからにグロテスクだ。
女の子の天敵といってもいい。私は別に嫌いじゃないが、隣にいる明美や女子生徒Aはカエルが苦手だ。
「うう・・・・・」
メスを手に取り、カエルを押さえつけるが、切る勇気がわかない。
「・・・・・」
カエルの目が訴えている。
(僕をどうするの?お姉ちゃん何もっているの?それで僕の腹を切っちゃうの?)
いや、切ることは切るんだけど・・・・・
(嫌だよ、僕死にたくない)
あたしだって殺したくはない。殺したくはなかったのにー!
(せっかく梅雨が近いのに、僕を殺すの?)
う・・・・・
(自然に帰して。僕を川に帰して)
実際そう言ってはいないのだろうが、ためらいが生じる。いくら勉強のためとはいえ、カエルを殺すという事実には変わりはない。
「ナルちゃん、早くやってよ・・・」
そういわれても・・・・・と思った直後、男子班からざわめきが上がった。
「う、うおおお・・・・・」
さくっ、さくさくさく。
ぴん、ぷしゅ。
さくさくさくっさくさくっさくっ、さくさくっ、ぷすぷす。
きりきりきり、ぷすっ。たん、たたん。
すばやい動き、カエルのハラワタがあっという間に開き、手早く固定される。
しゅっしゅっしゅ、
ぴんっ、ぷすっぷすぷすぷす。
ぱちん、ぽんっ。
「すげえ・・・本田、こういう才能あったのか。」
「ブラックジャックみてえ・・・」
同じ班の福本吉行(16)と星川克(16)。至って普通の生徒であったが、宗一はこう答えた。
「いや、別に才能の問題ではない。いかにして手早くやるかがこの実習の問題であろう」
「・・・・・」
宗一は戦場で怪我をした兵士を何十人、何百人も助けている。血など既に見慣れているし、麻酔の配分もしっかり覚えている。
具体的には撃ちこまれた銃弾をメスで解剖して取り出したり、対人劣化ウラン弾で腐りかけた足の一部を切断したり、各坐して脱げなくなったライダースーツを電動のこぎりで中の人を傷つけないようにうまく剥がしたりと、治療の腕はプロの領域に入っている。そんな宗一が、たかがカエルごときでひるんだりなどはまったくなく、あっさりと解剖ができたゆえんである。
ぱちん、ぱちんぱちん。
ぷすっ
ぱちんぱちん
「できたぞ、はやくプリントのスケッチ欄にメモをするのだ」
「あ、ああ・・・」
鮮やかにカエルはハラワタが開き、両手両脚は固定された。心臓や内臓は全く傷ついていない、教科書に記載されている写真並みの、完璧な状態であった。解剖を始めて実に3分42秒の出来事である。
「福本、はやくカメラ機材でカエルの心臓の動きを取るのだ。」
「あ、そうだったな」
既にカエルは固定されているが、まだ生きている。他の班はかなり手間取っており、中には誤ってカエルの心臓を傷つけて慌てふためいている班もあるし、女子の班は未だにカエルを切ることに抵抗をもって何もできないでいる。
そんな中であっさりと解剖を完了しているのは宗一の班だけであった。
「あー本田・・・」
「なんだ」
隣の班の男子が尋ねてくる。
「できたら俺の班もやってくれない・・・?」
「しかし・・・」
「あ、俺の班も!」
「本田くん・・・あたし達の班のカエルをお願いできる・・・?」
やんややんやの人気である。成美はそれが気に食わなかった。
同日午前11時55分
4時限目:数学U
「であるからしてここの三平方の定理により・・・」
わけわからん。
なんだってサンカッケーがサンヘーホーのテーリを使ってああいう原理になるんだ。
ていうかあんなのはいったい何に使うんだ、あたしゃ建築家になるつもりはない。
そもそも数学というやつがわからない。やたらめったら小難しい数字ばかり並べて苦しめる、そのやり方が汚いと思う。
だいたいああいうのは・・・
「えーとここの問題は・・・はい成美さん、」
「へ?」
「教科書29ページの問3(2)をやってみて」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
できん。
サンカッケーがあって線の上に数字がある、それで問題は「ここの長さを求めろ」とある。
しったことか!私にはわからないよ!どうしろというんだ!
「・・・」
もちろんそんなことは顔には出せないし口にも出せない。だからあたしは沈黙せざるを得ないのである。素直に「わかりません」というのはどうも苦手である。
「う〜んと・・・えーと・・・」
「説明聞いてましたか成美さん?ていうか教科書はちゃんと取っていましたか・・・」
返答を聞く前に、やや呆れ顔な先生は仕方なく回答者を変える。
「ではその隣の本田君」
「はい、問3(2)の答えは3√√4です。なぜなら・・・」
でもって昼休み。
「だああああああ!」
「ナルちゃん、いつからアントニオ猪木になったの?」
「ちがわい!」
意地悪く聞いた明美はとっくにその答えはわかっていた。宗一の事が超気になって仕方ないのだ。目の上のたんこぶ、寝床の蚊、そんな感情なのだろうということは容易に想像できる。なんかとても気に食わないのだろう。
「畜生目あのハーレーオタク野郎!ただのオタクやろうだと思ったら何だってあんなに頭がいいのよもぅ!」
「でもあの問題、授業聞いていたらちゃんとできましたよ成美さん」
「う・・・どうやったらアルファにベータかけたらイプシロンなのよ」
「ネタがわからないです成美さん」
律儀に突っ込む雪枝に成美はなんともいえない。イラつきながらパンをほおばるその姿は可憐な女の子には程遠い。
「でも確かに校内1位は・・・驚異的だよね」
私立所縁が丘高等学校には、中間テストや期末テストの概念が存在しない。毎月の月末に行われる小テストの平均点で成績が決まる形式になっているのだ。中間テストや期末テストだと遊ぶやからがいることは間違いなく、また中途半端に一夜漬けをやってくる連中もいるので正しい成績が測れない・・・というのがその理由らしい。
で、そのにくき本田宗一はとんでもない成績を誇ったのである。
4月27日月末テスト結果発表
2年生
1位 B組03番 伊南村健一 500点
1位 B組12番 本田宗一 500点
1位 B組28番 本間雪枝 500点
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48位 H組09番 五十嵐功 380点
48位 A組15番 山本敏夫 380点
50位 B組17番 金本明美 379点
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239位 F組11番 間津井店長 112点
240位 B組19番 浅岡成美 110点
「だああああ!!思い出しただけでも頭に来るあんの野郎!大体何だって作者より下なのよあたしの成績は!てか大学生だろあいつは!」
「作者って何のことですか成美さん」
律儀に突っ込む雪枝。悪意がない分たちが悪い。
「まあ・・・それはいいとしてだよナルちゃん、5月のテストも悪いと夏休み削られるんだよ・・・大丈夫?」
「う・・・」
そうである。この高校には月末のテストが4回行われるわけであるが、1回悪すぎる度に一週間の補修が夏休みに組まれるプログラムになっているのだ。夏休み満喫したければがんばって勉強してくださいな、という学校からの暖かいメッセージなのである。だから生徒たちは必死になって勉強をせざるを得ないのであり、結果それが学習意欲を高めているのであるが・・・
同時刻屋上。
ここの風はいい。さわやかな風だ。
あの世界の外は今は何とか生身で歩ける程度にまで回復したが、それでも汚物とイオンだらけの大気は酸欠になりそうだからだ。
土が腐り、植物もない世界。
空は赤く、海はヘドロのような粘着。
風は汚物、雲は酸性雨の塊。
ひどすぎる世界なのだ。
それに比べればこの世界はなんという美しさなのだろうか。
青い空、白い雲。
土は生きて、青々と茂った雑草。
風はさわやか、雲は雨になる。
自分たちの世界と比べれば天国のような環境なのだから、宗一はここの屋上が好きなのだ。
購買でパンを買って屋上で食べるのが彼の日課だったのだが、今日は少々事情が違っていた。
「おい!金出せやボケ!」
「か、かねなのてないよ・・・・」
ドガッ!
「うあ!」
屋上の扉を開けた宗一の目に飛び込んできたのは、少年が自分の足元に吹っ飛ばされた光景だった。
目の前にはいかつい男たち。
1人は金髪の長髪のつり目男、もう1人はいまどき珍しい180cm長のリーゼント男、もう1人は木刀を持っているハゲ頭の男、ほかにも数人ほどいたが宗一の印象に入ってきたのはこの3人である。
「ううう・・・返してよ」
「んだとぼけ!」
「てめえが俺たちのバイクを告げ口しやがったからだろうが!」
「ち・・・ちがうよ・・・」
「だまれぼけ!」
宗一にはこの状況が読めなかった。どうも察するに自分の足元で鼻血出しているこの男は、目の前にいるチンピラに何か因縁をつけられているようだ、とまでしかわからない。周りにいるほかの生徒たちはこの状況から目をそらすかのように風景を一生懸命眺めている・・・・・
「だってあの時僕はトイレにいたんだよ!それがなんでトイレの外に置いてあったバイクしっていることになるんだよ!」
「うるせえなぁ!あそこにいたのがお前だったからお前しかいねえだろうが!よくもセンコウに告げ口しやがって・・・」
どうもバイクをめぐるトラブルのようだ。とその時男が話しかけてくる。
「うるせえ!おいてめえ!」
「?俺のことか?」
「てめえ以外に誰がいるんだよ!」
周囲は必死に目をそらしている。
「・・正論だ。で、何だ」
「おめえはどっちが悪いと思う!バイクを告げ口したこのやろうと、バイクに乗っている俺たち!」
宗一はちょっと考えた。
「君たちだな」
「んだと!」
おお、かっこいいやつだ、と少年は思った。
「生徒手帳を見ていないのか。校則第7章「通学に関するバイクの使用について(3)」を」
「・。・」
「そこにはこう書いてある。「通学に使用するバイクは原動付自転車のみに限り通学を認め、50cc以上のバイクの通学を認めない。万が一それを破る者がいた場合、見つけ次第没収する」。」
「O。O」
「顔文字で表現されても困る。つまり君たちはこの学校にバイクで登校してきたようだが、その行為は学校が定めた校則に違反していることとなり、つまりその時点で君たちに非があるということになる。仮に彼がバイクの件で通報したとしてもだ、それは学校という集団生活の秩序と風紀を守るために行った、至極当然な行為となる。すなわち、君たちが悪いということになるのだ。にもかかわらず彼はバイクのことを知らないという、学校に対して風紀を促すという立派な行為は本来虚偽してでもとるものだが彼はあえてとろうとしない、つまり彼は本当に何も知らないことになるわけだが・・・」
この発言の後、宗一はリアロエクスレーターのことが気になった。
そういえばあのバイクはちゃんと50ccモードで動かしていたし、60km/hまでしか出ないようにした。あの当時はヘルメットもしていたし偽造した免許証も持っていた。念には念を入れてパオリン伍長があちらこちらの国家機関のコンピューターにハッキングして免許をとったことにしているから完璧。にも関わらずなぜとられるのだ・・・
「てんめぇ〜・・・・・」
茶髪男が顔を真っ赤にしている。
「俺たちのバイクをよくも・・・!」
リーゼント男はまるでタコのように真っ赤になっている。
「馬鹿にしやがったなぁ!」
ハゲ頭男も同様だ。
「俺は君たちや君たちのバイクについては馬鹿にはしていない。君たちの行為それ自体にに非があるということを言っただけあり、君らそのものを否定しているわけではない。なぜそこで問題を昇華させることができるかどうかが疑問だが・・・」
「あわあわあわ・・・」
足元にいる少年は顔を真っ青にしている。なんて無神経な奴なんだ。
「もうゆるさねえ!ぶっ殺したる!」
「屋上から叩き落して病院送りだ!」
「病院に爆弾しかけたろうかボケ!」
最後のハゲ頭男の発言、宗一の闘争心に火をつけた。
<ネオプラント以外で浅岡成美を狙う輩に対しては絶対に手を出さないこと。しかし対象が武器を持っていた場合は例外とする>
爆弾→武器→広範囲→被害者多数→成美も巻き込まれる危険性がある・・・!
「おんどりゃああ!」
茶髪男が殴ってきた。
ガスッ!
茶髪男のパンチが顔面に炸裂!
だが・・・
「・・・」
「イテエエエエエエ!」
殴ったほうの男が痛がっている。
「どうした、その程度か。パンチというものはこうやるのだ」
ドガァ!
「ふげあ!」
強烈なパンチが男のあご下を炸裂。ボクシングで言う”チン”というポイントに寸分狂いなく捉えた、必殺の一撃。茶髪男は吹っ飛んでいく途中で3回ほどきりもみ空中回転をし、顔面から地面にたたき伏せられた。
「くらえやぼけえ!」
リーゼント男が木刀で殴りつけてきた。
ジョギャアアア!
・・・からんっ
「・・・・・あわわわわ」
宗一の手にはいつの間に巨大な、巨大なナイフが握られていた。刃渡りは軽く見積もっても50cmはあるだろうか。見たことのないサメの歯を連想させるようなデザインに分厚い刃。全体重を乗っけても折れそうもない頑丈さ。何でも切り伏せられそうなすばらしい切れ味を思わせる刃渡りの長さだった。
「こなくそぉ!」
3人目のハゲ頭がナイフで切りつけてきた。もはやヤケクソになっているのだろう。
ガッ!
しかし宗一はナイフの一突きを軽くよけ、ハゲ頭男の右腕をつかみ上げてねじり締め上げる。
ぎりぎりぎりぎりぎりぎりっ
「うぎぎっぎぎっぎっぎぎぎっっっつ!」
ものすごい力だ。腕の骨がねじりきられて骨折するのではないかというぐらいのものすごい力だった。
そしてハゲ頭男の手からナイフが落ちる。
「あきらめろ。君たちが俺に勝てる可能性など寸分もない。命が惜しければこの場から立ち去るんだな」
ヤンキーたちは見るも情けない姿で、ものすんごいスピードで逃げ帰っていった。御丁寧に財布もその場に投げ捨てている。
「怪我はないか。」
「あ、ありがとう・・・ってどこかで聞いた声と見た顔だと思ったら」
少年はめがねをしていた。どことなく頼りない姿だったが、かなり童顔だ。背は自分と同じぐらいの165センチといったところだが、腕はかなり細く、顔もどこかやや白っぽさも見られる。ガリベンくんというようなものとは違うが、勉強ができるというような雰囲気はある。
「同じクラスの・・・本田君じゃないか」
「・・・」
宗一はやや間をおいて思考回路を集中させる。
「2年B組の伊南村健一だな」
「・・・だから同じクラスだって言っているでしょう・・・」
「そうだな」
会話になっていない。宗一は人とあまり接していないので会話の仕方がなっていないのだ。
「本田君は勉強ができるだけじゃなくてけんかもすごいんだね。まるでくに●くんみたい」
「当然だ。ライダー部隊では素手による白兵戦の戦闘訓練がもっとも辛いのだ。俺より屈強な男などいくらでもいるが、そいつらに限ってパワーばかりでごまかしているようなものだからスタミナの絶対値が足りないために倒れる輩などいくらでもいる。力も大切だが、それをコントロールする技術と精神力、長く続けられるスタミナがあってこそ、勝負は初めて勝てるのだ」
「・・・・・なんだかよくわからないけど宗一君がすごいっていうことはわかったよ宗一君は無敵なんだね。」
「いや、やつらの勝ちだ」
「何で?」
宗一は後ろを振り返り去っていく・・・のではなく、入り口においていた”潰れたパン”を拾い上げる。
「あ・・・」
「食料をやられた。戦術的には俺の勝ちだが、戦略的にはやつらの勝ちということになる・・・・・」
西暦2312年
時刻、場所その他詳細は機密事項であるために不明
「”伊南村”博士!」
「ん・・・どうした」
「大統領が来ています。直ちに面会をしたいと・・・」
「まったく・・・わかった、すぐに応接室に迎えて」
よっこらしょっと伊南村は腰を上げる。腕は細いがそれにはわけがある。
根本的に彼ら一族は心臓が弱いのだ。遺伝子的な欠陥というものであろうか、彼ら一族は代々心臓に何らかの欠陥があり、いずれもそれが原因で激しい運動ができなくなっている。しかしその引き換えというのだろうか、なぜか彼ら一族からはIQ200越えする人物が当たり前のように出てきており、一種の天才一家ではないのだろうか・・・とまで言われる。
その智謀を生かして伊南村一族の初代党首”伊南村健一”は、浅岡成美の強い支援を受けて漢和プログラミングを完成、英語プログラミングよりはるかに柔軟でかつ応用が利き、しかもネオプラントの侵食がまったくないというすばらしい発明をしたのである。その子孫もライダースーツの開発やバイク技術、プラント技術、その他考えられる限りの高度な技術を次々と生んでおり、レジスタンスにとっては最高機密に値する大きな理由なのであった。
「浅岡さん、どうしましたか」
「うむ、実は5月の侵攻後に派遣する部隊のことなのだが・・・」
西暦2004年5月13日午後3時50分
私立所縁が丘高等学校 2年B組教室
6時限目がやっと終わり、ようやく学校は放課後と呼ばれる時間帯に入ろうとしてきた。最近では週休二日制という、月曜から土曜日まで授業がみっちりがっちり入っている世代の作者からしてみればなんてうらやましいんだこんちくしょう、な体制である。しかし蓋を開ければ毎日が6時限授業というそれはそれは大変なスケジュールであり、どっちもどっちである。
「はーい皆さん、プリント回りましたね?」
「はーい」
「よろしい、皆さんご存知のとおり、明日はスポーツテストがあります。そこで明日は午前9時から始めるので8時までに登校をしてくださいね。」
スポーツテスト、それは小学校から大学までに行われる身体測定であり、文部科学省が青少年のスポーツ振興や運動意欲を向上させるために行う行事だ。大体は比較的すごしやすい陽気の5,6月か10月に行われるのがほとんどで、一日かけて勉強をしなくてもいい上にアトラクションのようにあちこち回れる、ある意味生徒たちにとっては一大イベントといってもいいかもしれない。
「それでB組はまず50m走から始まりますので、ちゃんと場所を間違えないで着てくださいね。」
「はーい。」
「では何か質問は?」
当然ない。
「では今日はこれまで」
きりーつ、れい!と日直の指示とともに一同は挨拶をし、先生は教室から出て行った。
「ふうっふっふっふ・・・・・」
「太田さん?」
「違う!何だってそのネタになるの明美は!」
不気味に笑っているのだ。下手すれば悪の組織の幹部になるんじゃないかというぐらいに。
「で・・・なんでそんなに笑っているの」
「決まっているでしょ。いい顔しているあの野郎に一泡吹かせてやるのよ。もうこれ以上太刀打ちできないっていうぐらいにあたしの運動神経を見せまくって・・・がははははは!」
成美の脳裏には1位を取って偉そうにしている自分と、なきながら「君はなんてすごいんだ!」と泣きながら謝っている宗一の姿があった。
「成美さんってなんだかお嬢様学校の意地悪な幹部生徒みたいですね」
「・・・・・そんなこといわないでよ。あたし性格悪いと思われる」
「(性格悪いと思うんですけど・・・)」
「(根が正直すぎるんだよナルちゃんは。性格が悪いのとはちょっと違うと思うけど・・・)」
「(ではなんでああもズバズバ言うんでしょう)」
「(きっとストレスを溜め込むのが苦手なんだよ)」
「(まるでヤーさんみたいですね)」
「(ヤーさんって・・・)」
「何いってんの?」
「ううんなんでもない、じゃあ早く帰ろ・・・ってナルちゃんはだめだったね」
「うん、あたし部活で明日のテストの設置手伝いしなきゃいけないから」
「わかりました、残念ですね」
一見聞くといやみな奴の言葉に聞こえかねないのだが、雪枝だからこそ許せるのだ、と成美は思う。彼女は本当に悪意がない、だが明美のように本音をすさまじく突いてくるのだ。明美の場合はふざけ半分で突いてくるのに対して彼女は悪意がない分、余計に辛いのだが、本音を話せる相手として許せるのである。
「それじゃあね」
「うん、ばいばい」
西暦2004年5月14日午前9時00分
私立所縁が丘高等学校 校庭グラウンド
雲ひとつない快晴だった。
今日の天気予報では最高気温は22度まで上がり夜まで降水確率は0%、湿度31%、東からの風は風速0.3m。
すずめはさえずり飛行機は空を飛ぶ、完璧すぎるスポーツテスト日和であった。
「ふっふっふ・・・・・」
そんな中で笑う一人の女子生徒がいた。オレンジ色に染まったシャギーヘアが異様に目立つ、妙に力が入った表情をしている。ブルマーなどはしておらず、上は体操着、下はハーフパンツ。これは所縁が丘高等学校が1994年に採用している指定の体操着であり、一部男性読者諸君が望んでいるようなブルマは、すでにない。
この御時世でブルマーというのはもはや御法度である。一部ではセクハラだとか性的虐待だとか言われることもあるが、実際にブルマというのはセクハラとは対極のコンセプトで作られたことはほとんど知られていない。
元々ブルマというものは1850年代、アメリカの女性解放運動家であるアメリア=ジェンクス=ブルーマー婦人によって考案されたものである。当時の女性はコルセットやら絢爛豪華な洋服を着ることが常識であり、同氏は女性を拘束する格好に反発して活発に動ける服を開発したのである。当時は今のようなものではなく、足首に絞ったズボンの上に短いスカートをはく形式であり、当時はその珍妙な姿に論議を呼び、当のブルーマー婦人は女性解放の論議がずれてしまう事を恐れて、7〜8年ほどでやめてしまっている。
しかし女性でも男性のように活発に動けるその服は流行し、19世紀末には乗馬やサイクリングをはじめとするスポーツの普及に伴って多くの女性が着るようになった。日本には20世紀初頭に入り、俗に言うカボチャ型のようなすそのない形になっていたが、一時はその上からスカートをはく形式であった。今のような形になったのは、1964年に東京オリンピックが開催され、バレーボールの日本チームに現代のショーツ型のブルマを着用したことがきっかけであった。当時はバレーボールがブームであった上に東京オリンピックの真っ只中、しかもその代表の選手たちが外国人選手が着用していたブルマを見て高い評価をし、これらをきっかけに全国に普及していったのである。
問題が起こったのが1993年8月上旬、東京にてブルセラショップの摘発ニュースが全国に知れ渡り、俗に言う「ブルセラ」の存在が表ざたになったことからであった。これを機に全国の女性は「ブルマ→男たちハフハフの性的願望→気持ち悪い→恥ずかしい」という方程式が出来上がり、おまけにこういう批判大好きマスコミの苛烈な報道とPTAの凄まじい猛攻の前に、学校はブルマーを廃止させ、その後ハーフパンツが出てくると一斉にそれを採用、その存在は漫画やアニメとほんのごく一部の学校を除き、一挙に廃れていったのである。
別段こんな説明をしたからって作者が変態だというわけではない。ブルマというものに対してなんら偏見やらハフハフ・・・しているわけではなく、あくまでも歴史を語っているだけに過ぎない。ブルマというものはもともと女性開放と権利を目的としたものであり、それが何の間違いかハフハフする対象としての汚名を着てしまったのである。もともとは女性解放の象徴として作られたブルマが、今ではその女性が引き目を感じている、これも時代の流れかもしれない。だが当のブルーマー婦人がこのことを知ったらどのような顔をするであろうか。墓の下で泣いているに違いない。
歴史を学ぶという目的はまさにこれである。ブルマだけに限らず、全ての物事には必ず歴史があり、それを知ることによって物事の本質を知ることにあり、今を生きる糧となり、偏見を捨てることができ、また過去の過ちを犯さないように出来るのである。だが実際の歴史は戦勝国=正義という歴史によって証拠捏造や証拠を消されたりしまっており、正しい歴史は学べないのが現状である。実際悪魔のレッテルを貼られているナチスも、実際にフタをあければあらびっくりぎょうてん、実は動物愛護運動をやっていたし、頼りにならないイタリアを救っていたり、元々プロセイン騎士の流れを汲む誇り高い組織であったので、いや実際に虐待の事実はあったけどそんなことした奴はきちんと軍法会議で即刻銃殺刑、なんとユダヤ人将校まで存在していたというからどういうことやねん、だってヒトラーってユダヤ人大嫌いでナチスってユダヤ人を絶滅しようとしていてこれっていわゆる「ムジュン」・・・?となるわけである。
だが実際にそれをやろうとすれば、ユダヤ人たちから「なにいってやがる!」とものすんごいことを言われまくり、ドイツではナチスの正当性を言うことは大犯罪なのであり、ネオナチの烙印を押されて社会的抹殺されるのがオチである。このように仮に本当の歴史を教えようとすればどこからともなく圧力や暴力がかかり、黙らざるを得ない。そうしなければ自国の国民が反乱を起こしたり、あるいは政権を脅かされてしまう。一時話題になった「日本の歴史」も、どこから反対意見が出たかは周知の通りであろう。言論の自由だといわれているが、実際の日本は世界から見れば、「反対意見を封殺アンド滅殺アンド社会的抹殺するファシズム」なのである。ペンは剣よりも強し、されど時としてペンすら折ってしまう、それが戦争なのであり、暴力なのである。
閑話休題終了。ごめんなさい。
(ただのスポーツ馬鹿にしか見えないんだけどなぁ・・・)
そう思う明美もハーフパンツである。さすがに本人がいるところでそんなことを口に出せるほど、彼女は短慮な人物ではない。
(でも今日の成美さんっていつも以上に殺伐としていませんか?)
(どうしてそういえるの雪枝ちゃん?)
(ええ、どうも今日はいつも以上に力が入っているように見えるので・・・)
「何の話してんの?」
「いえ、50m走が終わったら次はどこに行こうかということで話をしていました」
にっこり微笑む雪枝は嘘も得意であり、成美のコントロールにも長けている。
「そう、じゃあこれが終わったら幅跳びのところ行こうか?」
「うん、そうしよう」
一方の宗一は、
「・・・・・」
「どうしたの本田君?そんなにキョロキョロして」
「いや、何でもない」
嘘である。狙撃の心配をしているのである。
あれから伊南村はすっかり宗一と一緒に行動するようになった。彼についていけば守ってもらえるからという考えもあるが、それ以上に彼が宗一に対して非常に強い憧れを持ってしまったからである。
「しかし君は・・・運動できないのか?」
宗一が言うとおり、伊南村は白いブレザー、指定の制服姿であった。
「うん。僕、心臓がほかの人より一回りか二回りほど小さくて、酸素や血液がうまく全身にいきわたらないから激しい運動が出来ないんだ」
事実、彼の心臓は一般人より一回り半ほど小さくそれが血液の循環能力がほかの人より劣っているのである。で、人間が運動をするには血液が全身を巡回しなければならず、筋肉や内臓の働きを正常に行わせてはじめて、人間は運動ができる。彼は肺の大きさは普通なのだが、その肺が機能するために送る血液の絶対量が心臓障害によって足りないのでうまく機能せず、またほかの内臓や筋肉に送る血液の絶対量も不足。その為運動しようとしてもすぐに酸欠状態+身体の機能不全ですぐに倒れてしまうのだ。
「そうか、君も大変なのだな」
宗一のほうも宗一で、彼はあの後伊南村からパンを譲ってもらったので、すっかり伊南村の事を恩人だと思い込んでいる。補給の大切さをデビッドに叩き込まれたこともあるが、それ以上に彼が実践でそのことを身を持って知っているので、食料を出した伊南村を恩人と呼ぶ所以なのである。
そしてスポーツテストが始まった。B組はまず、50m走からだ。
スタートのガンを鳴らすのは、英語担当のアルフレット=フォン=オスカー先生である。いくらか順番が回って、成美の番になる。
「いちについて、ようい、」
ばあん!
「おりゃああああああああああ!」
疾風とは彼女、浅岡成美のためにある言葉であった。なみいる男子を次々と追い抜いていく。無論男子がへっぴりではなく、むしろ陸上部やサッカー部、バスケ部などといった瞬発力バリバリのスポーツ選手を相手に圧倒しているのである。
だだだだだだだだだっ!
かちっ!
「すごい・・・5秒41!」
思わず記録員の女子生徒が声を上げてしまう。
「あたしなんて8秒台なのに・・・」
「オリンピック出られますね成美さん」
「なんのなんの、ぐははははは!」
3年間アメリカに滞在していた彼女は、そこで思いっきりスポーツに打ち込んでいた。特に足の速さにはアメリカ人も脱帽者であり、「シップーナルミ」とか「カミカゼナルミ」とかいう、一歩違えば危ないあだ名までつけられていたほどである。
ものすごい下品な笑い声。女の子とは思えない粗野な姿、それが浅岡成美であった。
そんな中でいくつかが巡回し、宗一の番になる。
その時スタートのガンを発射するアルフ先生はわざとガンを落とて宗一に近づき、
(いいかソーイチ)
(なんだ)
(手加減しろよ。おもいっきりだ)
(・・・どうしてだ)
(お前今の体がどういう体かを忘れているだろう。その力でやったら誰でもバケモノ扱いされちまうぞ)
(つまりは目立たないように、ということか)
(そうだ。おもいっきりだぞ)
(わかった)
「いちについて、ようい、」
ばあん!
「!!!!!」
びゅごおおおおおおお!
「な!?」
「うえ!?」
疾風とはまさに彼、本田宗一のためにあるような言葉であった。とても高校生が、否。人間が出せる速度とは思えぬ、快速。並み居る男子を次々と追い抜いていく。無論男子がへっぴりではなく、むしろラグビー部や野球部、テニス部などといった瞬発力バリバリのスポーツ選手を相手に圧倒しているのである。
びゅごおおお!
かちっ
「・・・・・・・」
「あの野郎・・・あれほど手加減しろって言ったのに・・・!」
その時50m走のタイムを計っていた体育委員の沢田友美(17)は、我が目を疑った。いや確かに正確にスイッチは押した。体の中心が白いラインに入ったときにスイッチを押すのだ、そう自分はそれを忠実に実行したのだ、と心の中で言い聞かせていたのだが、彼女の義務感をはるかに越えた既成事実が彼女に冷静さを失わせていたのである。正気を保て自分、これは現実なんだ、でも計りまちがえちゃったのかなぁ・・・いやでもタイムはちゃんと計った!という葛藤が彼女を困惑の迷宮に陥れていく。
「ちょっと!タイムはいくつなのよ!」
成美は乱暴にストップウォッチを取り上げたが、やはり彼女もその目を疑った。
<4秒43>
「な・・・・・・!?」
なんということだ。この学校にオリンピック級の人物がいたとは。
「・・・・・い、インチキよ!絶対インチキよ!てか測り間違えたのよこれは!」
「インチキであんな速度でないよナルちゃん・・・」
「そもそもあの速度はどう見ても成美さんの記録より早かったですし・・・モビルスーツみたい推進器を使っていませんでしたし、ローラー走行もしていませんし・・・」
「じゃあなんなの!?あのバカのダチョウみたいな早足は!」
閑話休題2。
実はこのとき宗一は、本当に自分の力で走っていたのである。
設定を熟読している読者にはすでにお分かりかもしれないが、宗一の両腕両足は、戦闘用に特化した機械の義手義足となっている。特に左太ももには近接戦闘用に使用するフレアメタルナイフ、右太ももには生身でも使用できるハンドガンが収納されている。持ち物検査でベルトを取られているのにもかかわらず、彼がどこからともなく、没収される可能性100%なナイフや銃を出せる理由は、まさにこれである。
しかもその義手義足には表面に人工の皮膚が覆っているのでうまく人体にカモフラージュできており、一見すればただの人間とほとんど変わらない。さらにこの戦闘用義手義足、宗一の3倍の力を発揮することができるようになっている。実は常人の50倍の力を発揮できるのだが、平時でそこまでの力を発揮する必要は皆無であるために、常時は最高3倍の力でセービングをされている。カーテンを閉めたらカーテンを破ってしまった鉄腕アトムのように力が暴走する、というようなことはまず起こらないのである。
で、問題なのは宗一の身体的な運動能力である。先に言ったように彼は本当に自分の力で走ったのだ。ここで疑問になるのが「自分の体についている機械なのだから自分の力で走った」という解釈論だが、その時宗一は義足のパワーアシスト機能の倍率を1倍に設定していた。彼がモスクワ都市要塞攻略において負傷する以前の力で走ったといったほうがわかりやすいだろうか。もともとこの義足は”彼の力の3倍”を出すことができるというスペックであり、もともとこの義足は片足だけでも60kg近くはある。パワーアシスト機能をカットしたら、宗一は歩けなくなってしまう。なのでパワーアシスト機能を彼本来の運動神経にあわせた1倍に設定しており、それで宗一は走ったのである。
もともと宗一は幼少時から遺伝子改良を施されたばかりか大人でも音を上げる、超絶的な訓練をしてきており、若干17歳(現在16才)でほかの大人たちをはるかに凌駕している、超人である。彼に匹敵する身体能力の持ち主は、宗一に白兵戦を教えたメイリン=ルイ少尉、彼の上官のデビッド=ベイルダム中佐ぐらいなもので、彼に匹敵するものはあまりいない。つまりそこいらの高校生の運動神経など彼の足元にも及ばない、そればかりか世界のアスリートすらも凌駕する運動神経の持ち主なのである。誤解をしてほしくはないのが、彼は改造人間でありながらも、もともとの人間の力で手加減して走ったという点に尽きるのである。
休題終了。
「でも100mに換算したら倍の2倍で・・・8秒86だよナルちゃん。オリンピック制覇できちゃうよ・・・それもぶっちぎりで」
「壊れたスニーカーを履きなおした●悟●みたいですね。亀●●にはまだまだ見たいですけど」
もしパワーアシスト機能を3倍にしたら、完全に●●人を超えてしまうであろう。
「ありえない・・・・・これが現実なんて・・・あたしは認めたくはない・・・!」
そう青ざめる成美であった。そこいらの男子の運動神経を凌駕する彼女の目の前に、驚異的な壁が立ちぶさがったのである。
一方そのころ宗一は、50m走を監督していたアルフ先生にこっぴどくしかられていた。
「ばか!あれほど手加減しろといっただろう!」
「手加減はしたぞ。パワーアシスト機能は等倍に設定したから、あれは俺本来の力なのだ。機械の力ではない」
「だからなお前・・・お前の年代の運動神経はよぉ、お前よりはるかに下回っているんだよ。ていうかお前の運動神経が異常すぎるんだ!」
「・・・そうなのか」
「そうだよドアホ。しかもこんな衆目集めやがって・・・・・!」
一大事件であることには変わりはない。一見すればただの高校生が、世界に通用する運動神経を垣間見せたのだ。ざわつきや驚きの声、果てはドーピング疑惑まで浮上している。だがどうやれば高校生がドーピングで4秒台をたたき出せるのか、だったらあいつはなんなんだよとか、ただのハーレーバカじゃなかったのかとか、オタク野郎じゃなかったのかとか、成績一位をとってこの運動神経は完璧超人じゃないかとか、何であいつは恵まれて俺はだめなんだとか、天才とバカは紙一重とはこのことを言うんだとか、変な奴だけど頭はいいしスポーツはできるし顔もそこそこいいから恋人にはうってつけではないかとか、いやいやアニメのベルト学校に持ち出している時点で危ない奴だからやめておけとかとか・・・・・ともかくそういうざわつきがあったのである。
「・・・・・わかった。今度からは手加減をする」
「ほんとうに手加減しろよ」
「ああ、確か一般社会で怪物的な腕力を持った、空を飛び原子力で動く裸の怪力少年が阻害されていたな。いくら平気だからとはいえ、何で服を着ないのだろうか。TPOというものをまるで考えていないから阻害されていると俺は思うのだが・・・・・いやまて、そもそも周囲はその少年が原子力で動くこと自体が危険であることを危惧して距離をとっていただけだとしていたと俺は思うのだが、お前はどう思うか?」
「・・・・・」
その後もこんな調子である。たとえばハンドボール投げ。
びゅごおおおおおおおお!
どかっ!
「おいおい・・・野球のネットを貫通しなかったか今?」
「いや見間違えだ!」
反論したのは山村広一(18)であった。彼はこの学校では・・・否、高校野球界では優秀な外野手であり、また強打者である。恵まれた強肩を誇り、いかなる走者であっても彼の強肩の前にホームベースを揺るがしたことは一度もない、通称「鉄壁山村」の異名を誇る男である。打率は平凡でホームランはあまり出さないが、チャンスにはめっぽう強く、特に走者がいるときのタイムリーヒット率は実に9割を誇り、チームを勝利に導くアベレージヒッター、あまつさえ甲子園第3回戦まで学校を進めた、まさに名選手であった。もし彼がデッドボールで退場さえしなければ所縁が丘高等学校は甲子園優勝したのでは、とまでささやかれ、プロ野球からもスカウトがかかっているのである。
「大体野球部でもハンドボール投げのテストは40mがいいところなんだぞ!プロ野球からスカウトの声がかかり始めている俺の記録を軽々と・・・」
「認めているんじゃないかお前・・・」
いくらゴムでできているボールでも、やり方しだいではネットを貫くことは可能である。ただ問題なのはそのやり方を実現できるか否かである。
「記録員・・・」
「え・・・?」
あっけにとられている記録員に、宗一が話しかけた。
「今の記録は何mになるのだ」
「・・・・・どう見ても45mを超えちゃっているし・・・どうしよう」
ネットを突き破ったボールは見事なまでにパンクをしている。測りなおしたら似たような現象が起こるのは明白だ。
「・・・つまり計測不能と?もう一度測らなければならないのか?」
「いや・・・最高の50mということで記録しておきます・・・・・」
だだだだだだっ!
びゅお!
跳躍、飛翔。
どさあああ!
着地。
「・・・・・・・」
「なあ、今俺の目に映っている光景ってさ、どう見てもお前より距離を飛んだように見えたんだけど・・・」
「そんなバカな話はない!」
彼の名は石塚正行。陸上界ではちょっとした有名人である。特に幅跳びにおいては高校タイ記録保持者で、実に7m55cmを飛ぶ、飛翔者である。
「俺に怒鳴るなよ・・・そもそも50m4秒で走るような奴がああもジャンプできないわけないだろう・・・」
比類なき跳躍力。それは学校の幅跳びの砂場を軽々と超え、うまい具合に砂場を区切るレンガの上に宗一は立っていた。
「記録は・・・?」
「この砂場の幅いっぱいの11mということで・・・」
力なく記録員は答えた。
その後もこんな調子が続き、宗一の記録は以下のとおりになった。
50m走 | 4.21秒 |
走り幅跳び | 11.00m |
ハンドボール投げ | 50m |
握力 | 左85kg、右89kg |
垂直飛び | 2.5m |
持久走 | 2.35分 |
立位体前屈 | 90cm |
反復横飛び | 250回 |
上体起こし | 102回 |
「・・・・・」
「本田君」
伊南村が彼の元にやってきた。
「なんだ」
「実は本田君はスーパーマンの親戚だとか言わないよね・・・」
「何を言っている。俺はれっきとした日本人男性だ。せいれき22・・・西暦1987年9月生まれの16歳だ」
何か途中が怪しかったが、伊南村は気にはしなかった。
「・・・でもどうやったらこんな記録が出せるのさ・・・どう考えても高校生が、いや人間が出せる記録じゃないよこれは」
「この程度の記録など、手加減して出したに過ぎない」
「これで手加減なの・・・!?」
「そうだが?」
伊南村は自分がかけていた思いっきりメガネがずれてしまった。これをグラフにあらわしたら一体どういうことになるのだろうか。全ての面においてメーターが振り切れるのは明らかで、もしかしたら「嘘書いているんじゃありませんか?」と突っ込みも入りそうな気がするし、これを聞きつけた教育委員界が彼をオリンピック選手やらサッカー選手やらにしてしまうかもしれないし・・・と妄想が走っていく。
「本田君!」
後ろから声。振り向くと上級生であった。
「・・・何か?」
「君を野球部に迎えたい」
(早速きたか・・・)と伊南村は思った。どう考えてもこんな人材、喉から手が出るのは言うまでもなかろうか。
「いや!その脚力を生かして我がサッカー部に」
「その跳躍力は天が恵んだ才能!我がバスケット部ならその才能を十分に生かせるぞ!」
「反復横飛びの瞬発力を見せてもらったよ本田君。それを生かして私と花園を目指さないかね?」
「いやいやいや・・・陸上部に入れば君はスーパースターだ!オリンピック選手にもなれるぞ!」
「何を言う!我がサッカー部に入ればFIFAやアテネ、第二のナカタになれるのだぞ!」
「剣道部などはどうかね!」
「日本人初のNBA選手に君はなれる!」
「メジャーリーガーもいいぞ!」
「テニス部もいいぞ!女の子にもてもてだ!」
「君こそ今の日本の救世主!バレー部に入れば日本の栄光を取り戻せる!」
「そのバネを見込んだぞ!わが柔道部に入れば君は究極の強さを得られる!」
「相撲部なんてどうかね?その瞬発力は第二の前の海になれるでごわす!」
どやどやどや・・・
右を見ても、左を見ても、人だかり。
「・・・すごい人気だねぇ本田君」
「・・・・・」
しかし宗一の顔は浮かない。
「どうしたの?」
「いや・・・・・ないのか?」
「何が?」
「剣道部、柔道部があるのならば空手部もやってくると思ったのだが・・・なぜかこの場には空手部がいないのだ」
そう。今までのハチャメチャな宗一の行動にはちゃんとした根拠があった。こうやって目立てばこのように部活動の勧誘が山のように入ってくる。4月にストレートに空手部に入れば成美に警戒心をもたれたり、彼女の反対を受けてしまうのは明白。だからあまり積極的に行動を起こさないでいれば自ら能動的に部活に入るわけではなく、外から祭り上げられて入る形ならば自然に行くだろう・・・という彼なりの思案であった。もちろんこれは”スペクター”がもってきた漫画の知識からなのだが・・・。
だがこの学校には空手部はあったはずだ。実際成美は空手部に入っている。なのにその勧誘がやってこない。彼女が空手部部長だというわけではないのはすでに確認済みなのに一体どういうことなのか・・・?
「あのさ本田君・・・」
「なんだ」
「期待しているようで悪いんだけど・・・この学校の空手部は女子空手部しかないんだよ」
「・・・・・今、何といった?」
宗一の顔に焦りが出る。まるで計算違いが発覚したかのような焦燥であった。
「だから、この学校の空手部は女子の部しかないんだよ」
「・・・・・・・な、なぜだ!?なぜないのだ」
知らぬうちに口調が荒くなっていることに宗一は気づかなかった。動揺が彼に冷静さを奪っている。
「うん、それは・・・・・・」
「男はだらしなくてつぶれちゃったからよ」
女の声、振り返るとそこには成美の姿があった。
「何か変だと思っていたけど、そういうことだったのね・・・」
彼女には宗一の目的を完全に読み取っていたかのようであった。
「・・・どういうことだ、成美」
「去年、あたしが空手部に入ったときには男子空手部は3年生2人だけだったの。ろくな成績を出していなかったしあたしたちがインターハイに出場してその部室のっとる形で追い出しちゃったし、今年になって男子空手部は廃部になっちゃったのよ」
「しかし部活勧誘チラシにはしっかりと空手部と書いているのだが・・・・・」
「あああれね。学校からまだ正式に”女子空手部”の名称をもらっていないからなの。単に男子空手部とか女子空手部とかはあたしたちが勝手に呼んでいるだけで、元々両方とも同じ部活内だったから単純に空手部って言われてただけなの。まあ通称みたいなもんね。」
宗一の顔から生気がなくなっていく。
「だから男子空手部はないの。ごめんなさいねぇ〜空手部が女子だけで」
してやったり、と成美は確信した。宗一の顔が真っ青になっていくその有様はすがすがしさを誘発するには十分すぎるものである。勉強もスポーツもこの男には負けたが、一矢報いてやったその事実は揺るぎようがなかったのは事実である。
「・・・そうだったのか。」
「転校生だから仕方ないとはいえ本田君、君は説明書を読まないタイプだね」
事実であった。習うより慣れろ、これはデビッドから叩き込まれてきたことで彼は説明書をあまり読まないタイプなのだ。
「・・・ならば成美」
「またいった。なんであんたは私のことをファーストネームで呼び捨てにするのよ。普通に”浅岡さん”とかって言えないの?」
痛いところを突かれた。成美は知る由はないのだが宗一にとっては同じ浅岡性であるので(ここでは本田だが)、”浅岡さん”と言うのはどうも不自然さを隠せなかったのである。だから自然に呼べる”成美”と彼は彼女のことを呼んでいるだけに過ぎない。自分が24世紀からやってきたなど到底言えない。
「い・・・・・いやそれは・・・」
「あたし、あんたみたいなストーカー野郎はだいっ嫌いだからね。二度と公式の面前以外であたしの視界から姿見せるんじゃないわよ」
「・・・」
「もしなれなれしく成美って呼んだり視界から姿見せたら、容赦ないからね、わかった・・・?」
殺意むき出しの口調で、成美はその場から立ち去っていった。
「・・・・・怖かった。」
伊南村の本音がぽろりと出る。
そこらのチンピラからは成美は非常に恐れられている。手が早いだけではなくその異常な強さ、凶暴な性格などなどが合い重なっているからでなく、アメリカ仕込みのガン飛ばしも日本人にとっては恐怖の対象で、そこいらにいる男はそれだけで震え上がってしまうのである。
「・・・・・」
しかし宗一はそんなふうにはまったく見えなかった。むしろ先ほどのショックのダメージのほうが大きそうだ。
「・・・でも本田君、なんでそこまで浅岡さんに付きまとうの?」
「・・・・・」
無反応。宗一の目先の視界を手でぶるって確認したが、まったく反応しない。
(惚れていたからなのかなぁ・・・)
そう思ったのは伊南村だけではない、さっきまで勧誘していた周囲の視線もどこか同情交じりだ。
「・・・・・」
「ふられちゃったからって気を落としちゃダメだよ本田君。帰りになんかおごってあげるからさ」
「・・・・・」
無反応。このままだとずっとこの場に立ちそうだ、と判断した伊南村はとりあえず彼の腕を引っ張って教室に帰ることにした。
周囲もなぜか「気を落とすんじゃないよ」とか「女なんて他にもいるからさ」とか「そうそう。初恋敗れて男は成長するものさ・・・」とかとかいった同情発言があったが、そのねぎらいは宗一の耳には入らなかったのであった。
西暦2004年5月14日午後17時50分
私立所縁が丘高等学校
スポーツテストは思ったより早く終わり、そしてその片付けは思ったより遅く終わったのであった。
「ナルちゃん!」
「んー、こんな時間まで待ってくれてたの?」
すでに一般生徒の下校時刻は過ぎている。にもかかわらずこの二人は待ってくれている。まったくもっていい人たちだよ、と成美は思う。
「片付けは思ったより遅かったみたいですね」
「そうよ、たくあのハーレーバカが・・・・・」
「どうして本田君なの?」
それは彼がハンドボール投げにて、容赦なく野球場のネットを突き破ったからである。その補修は野球部で行うはずだったのに「あんたのクラスメイトがやらかしたんだぞ!」という分かりやすいけど理不尽な理由でやらされたからである。
それだけではない。ゴリラに匹敵するんじゃないかといわんばかりの握力で握力測定計を破壊し(その時の計測は下2ケタであった)、背筋力計測計もチェーンごと引きちぎり、そのときは誰も気づいていなかったのだがそのバケモノじみた跳躍力で幅跳びのブロックを破壊したのだ。あいつは一体何キロあるんだといわんばかりに垂直飛びの計測場所は奴の体重で体育館の床ごと陥没し、同時に行っていた身体測定も体重計をぶっこわした有様だった。どうりで相撲部が勧誘に来たわけだ・・・本当なら3時で撤収が終わるはずだったのに、これらの事情からこんな時間にまで延びてしまったのである。
「・・・・・たくあいつはゴリラか、ゴジラか、ウルトラマンか」
「ま、まあそうだったの。」
「ほかの皆さんは帰ってしまいましたけど・・・私たちだけでも行きましょうか」
「うん」
本当にいい奴だ、あんたたちはいい奴だよ・・・と成美は心の中で叫びながら学校の門を潜ったのであった。
同時刻
生徒指導室
「・・・なるほどねぇ。こんどスペクターの野郎に会ったら文句のひとつぐらい言ってやるよ」
新聞を読みながらソファーに踏ん反りがえるアルフ。
「あんたなりに考えた策だろうけど・・・はっきり言って支離滅裂よ。」
同じく、タバコを吸いながら宗一に追求をするメイリン。
「・・・・・」
そして宗一、彼はあの後二人に呼び出されたしだいである。建前はそれまでのスポーツテストで彼が破壊した物品についてであった。
「こーゆーふーに漫画からだけの知識で行動するから日本の若人の犯罪は増大するんだよ。みろこの顔。今のお前そっくりだ」
夕刊「夜日新聞」の社会紙にはでかでかと「またしても凶行!少年、バットで間津井店長を殴打し重傷。パソコンゲーム影響?原因は新メニュー”ドラ焼きのケチャップとマスタード和え”のトラブルか!?」という記事が載っており、犯人と思しき少年は見るからに悪そうな面構え(ていうか似顔絵)をしており、どことなく宗一に似てもいる。
「作者もかわいそうに・・・まあそれはいいとして、あんたこれからどうするのよ?」
「・・・・・」
「中佐も甘やかしすぎなんだよなぁ・・・」
「護衛対象と仲良くなるのはあまり良いとはいえないけど・・・仲が最悪っているのはもっとよろしくないわよ。」
ものすごく気がしょぼくれていることは、アルフとメイリンにも分かっている。だがここでこうやって強く言わないと、この青二才はこうしたミスを何度も起こして取り返しの付かないことになるだろう。だからこうやって彼に強く言っているのである。
「・・・申し訳ない」
「さっきからそればっかり、もうちっとボキャブラリーを増やしたらどうだ?今度からは俺たちがあの子を守ってやるからよ、お前さんは戦闘時以外はあの子に近づくな」
「そういうこと、今後あんたは成美に近づかないこと。いいわね」
当然の判断だった。ここでまた騒動を起こされては困りものだ。
「・・・・」
「返事なさい」
「・・・了解」
宗一はそう言わざるを得なかった。
宗一が生徒指導室から出てくると、伊南村が待っていた。
「ずいぶん長かったね。何しでかしたの?」
「ああ、体育館を陥没させたことについてだった。」
「あああれね・・・。じゃあ帰ろうか」
「ああ。」
やはり力がない宗一に、伊南村は同情してもいいのだろうかという感情が芽生えていた。
西暦2004年5月14日午後18時25分
東京都豊島区かもめ台3−3−1 はやし公園前
「いやまったくあのハーレーバカが・・・・・・・・」
「さっきからそればかりですね成美さん」
「ボキャブラリーが少なくなってきているの?」
5月とはいえまだ上旬。すでに薄暗くなってきており、人気もだんだん少なくなってきている。さすがに門限の問題があったので当初の約束のファーストフード店に行くことはなかったのだが、それ以上になぜか成美がファーストフード店に行きたがらないというのが大きい理由であった。無論二人は4月に成美がとんでもない目にあったことなどを知る術も由もなかったために疑問符がついたままだった。元々成美が何も言わなかったのが全てといえばそれまでだが、3人は途中のクレープ屋で「ケチャップとマスタードソース和えクレープ」を買って帰ることにしたしだいである。
「・・・・・でもあんにゃろうにキツク言ってやったから、もう大丈夫だと思うけどね。」
「?」「?」
二人はその場にいなかったので、成美の発言の意味が分からなかった。
「ああ、あと昨日忘れてたけど、これ」
今の今までずっと機会がなかったのだが、成美は以前貸してもらったCD、ゲームを出す。
「あー、よかった。ずっと待ってたんだよ」
「これがないと帰れないところでした」
「・・・・・」
ひょっとしてこいつら、このためにあたしを待っていたのか・・・!?
無論そうなのかもしれないが、それを知る術は成美にはない。近道をすべく、3人は公園の中に入っていった。
同時刻同場所
「・・・・・意外といけるな」
「本田君、本気でそれ言っているの?」
「ああ。この”醤油とラー油と酢の和えたクレープ”だが、なかなかいけるぞ」
宗一の手にはなんだか茶色く染まった、ぐちゃ〜っとしたクレープがあった。紙容器が醤油で染まっており、見るからにまずそうな印象を与える。
ていうか、まずい。作って食べた作者本人が言っているんだから間違いない。
「・・・・・」
一体彼はいつも何を食べているんだろう、と伊南村は考えた。プロテインばかり食べているからあんな怪力が出るものだと思っていたのだが、作者が途中で断念したほどの不味さを誇るお菓子を美味いといっている以上、彼の味覚を疑いたくなる。
「じゃあ聞くけど・・・どこがいいの?それ」
「うむ、具体的に言えばまずショウユという調味料が甘みを打ち消している点にある。それとラーユという調味料がほどよくショーユとマッチしている上に甘さをさらに打ち消しているし、酢の酸味がより一層の味を引き立てている。」
「本田君・・・甘いの苦手なの?」
「甘い食べ物は苦手だ」
「・・・そう」
こりゃ本当に味覚音痴だな・・・
「どうした。浮かない顔をして」
「・・・なんでもないよ」
どうも自分は彼のことを神格化しすぎたところがあったのでは、と伊南村は思った。よく考えれば彼はバケモノじみた怪力ではあるのだが、そんなに粗暴というわけでもない、それはいいのだが彼はそれをまったく自覚していない。頭も非常にいいが、どうも常識というものが欠落している。おとなしいようだが、実際はただ無謀なことをして自爆しているだけにしか過ぎない。
つまりこれらを要約すれば、バカなのだ、こいつは。
「ところで伊南村。君もこの辺りに住んでいるのか?」
「うん、去年仙台から引っ越してきて、両親が学校に近いところがいいだろうって・・・」
「君は運がいいな」
「へ?」
「2005年3月にはあそこは灰燼となるところだ。北海道の自衛隊駐屯所を破壊しようとしたある組織が核弾頭を撃ち込んで、その巻き添えをもっとも食ったところなのだ。首都大阪からも遠いだけあって治安もあまりよくないばかりか、テロ組織が多数潜伏している、それはもう凄まじいところだ。」
「・・・・・」
そんなかみ合わない会話が長々と続き、公園を通りかかろうとしたその直後。
「きゃああああああああああああああああああ!」
悲鳴。
数は3人。
場所は中の公園。状況不明。
「!?」
「本田君、今のって・・・・」
その時伊南村は、宗一に恐怖した。
いつもの彼ではない、殺意むき出しの雰囲気を放っているのだ。
「音声照合確認・・・護衛対象浅岡成美と判断。同クラスメート二人も判断。気温および周波数・・・方角、天候・・・計測完了、場所は公園内北北西と確認。電波探知システム起動・・・動体反応確認、数12・・・生体反応3、サブ生体反応6、アンチ生体反応1,タイプα型反応2・・・後3者配置パターン、状況Aと確認。デルタ2とデルタ3にデータリンク開始・・・アプリケーションライダー起動、四次元コンテナ強制開放・・・」
なにやらわけの分からないことをものすごい速さでしゃべっている。その速度のあまりに伊南村は全て聞き取ることができない。
かしゃん、
どこからともなく、宗一の体から機械音がした。
「待っていろ。」
「あ、ちょっと・・・・・・・!?」
伊南村は、宗一が別人になったかのような錯覚を受けた。普段から何か分厚い刃物のような目をしていたのだが、今はまさにそれだ。正しく言えばいままでの瞳は鞘に収められていたナイフだったが、今はそれが抜かれた状態、そんな感覚である。
「fだsjlkjfds化jkfぁ;せdjr;あlw!?」
「dfさkjlkふぁsl;b。cvぁえw「い!!!」
「歩rウェπおr。、dc。・xfdsかjjfはdsjkl!???」
まただ、あれは偶然ではなかったのか。
嫌な感覚が成美を襲う。
あれでおしまいだったのではないのか。
「な、なるちゃん・・・・・・・・」
明美が必死に私の腕にしがみつく。彼女は格闘の知識なんてからっきしだから、私を頼っているのだろう。雪枝も同様に、知らぬうちに私の後ろにじりじり下がりつつあるが、さすがに私を当てにするのは精神的にためらっているようだ。
目の前にいるのは、4月に出くわした、バケモノだ。頭には機械がぶっきらぼうに埋め込まれ、顔からは生気が喪失、まるでゾンビかフランケンシュタインかのように意思などほとんどない危険な存在。だが、それはあの時とは違い、子供やらその親っぽい人やら、近くを通っていたサラリーマンぽい人、ランニングをしていた若い人、果てはおばあちゃんや野良猫までなっている、無秩序な編成だった。
その後ろには、なんだか知らんが自動車に手足がついたかのような、しっちゃかめっちゃかなロボット・・・と呼んでいいのだろうか、な存在と、公園内にある街灯や自動販売機が無秩序に固まってかろうじて人間の形をした存在。
そしてさらにその後ろにいるのが―――
「ふしゅうるるるるるるるるっるる・・・・・」
きったないヨダレをたらしている、カマキリのような奴だ。
まるで特撮アニメに出てきそうな、見るからにやばそうな奴。
青々とした体に両手ははさみのような形状をした鎌、頭にはまるで噛み殺して食べちまうぞー、見たいなかんじのアゴとカマキリそのもの真っ赤な目。
普通だったら羽がついているようなものだが、ジェットエンジンぽいものが背中に二つほど張り付いていて、羽がばいきんまんみたいなちいさい羽。
そのほかいろいろな特徴を挙げればいっぱい出てくるのだろうが、そんな余裕なんて、今の私にはなかった。
「あああ・・・・」
どうしよう。すでに後ろは子供が野球の練習をする壁で追い詰められている。まさかあたしは壁をぶち破って「さあ逃げろ!」とかできない。
「djふぁksl;jだsfjljふぁskdl;jkl;!」
「だjklf;あcxz、。ああああああ!」
「ンmvcxzンmfなsdmrンmうぇんmmらうぇんm。、!!!」
歩みつつある人のようなバケモノは何を言っているか分からない雄たけびを上げながら、鈍器と化した手を振り回しながら、近づいていく。
いくらあたしでも、こんなバカみたいなやつ、勝てるわけがない。
ヤンキーならある程度ぼこぼこにしてしまえば尻尾巻いて逃げるのだが・・・
こいつらはヤンキーじゃない。ジャンキーでラリッたやばい奴以上にヤバイ。
仮に逃げられるのだろうか。前には余計やばそうなやつもいるし・・・
じりじり近づくヤバイやつら。
そして、
「カカレェ!」
「gkytァjdさkljfdさklふぁ、。まsd、。・!!!!!」
誰が言ったかは分からないが、多分あのカマキリみたいな奴だということだと成美は思った。
気がついたら雪枝は私の後ろにいるし、明美も私に捕まったまま、周囲が見えていない。
「dfじゃk;fdjさ;lkjふぁdsk!!!」
「ぎゃれあだssfdさkl;:!!!」
怪物たちが飛び掛ったその直後―――――
どかあん!
爆発、閃光。
周囲に煙が発ちこめて、きらきら光る粒が辺りを覆いつくす。
「うぎゃれあkl:あsd!!!〜」
「ひれふぁdls;あdk〜〜〜〜!」
「ぎがががががががが!?」
なぜかフランケンシュタインもどきのバケモノは混乱してうずくまり、その後ろにいたロボットのようなやつら・・・ええいめんどくさい、ロボットも酒飲んで酔っ払ったサラリーマンみたいにふらついて、転んだ。
周囲がまったく見えなくなったその時。
「アプリケーションライダー・緊急モード、戦闘モードに開放!」
「イエス、モード設定・・・アラート、電聖ユニット未装着。ζ変身のみになります。よろしいですか?」
「そうだ」
「了解。装備開始します・・・・・・・」
男の電子音はともかくあの声、どっかで聞いたことある。
そう、あのハーレーバカだ・・・!
どかぁん!どかぁん!どかぁん!どかぁん!どかぁん!どかぁん!どかぁん!
銃声・・・なのか。私はそれを知らない。だがそれが銃声だということを連想することはできた。
「ぎゃdl;sfdさ!!」
「ふげだ1」
「sだふぁらえwwwwq!」
「ぎにゃだ!」
「けっちゃこ!」
「ふろえああls!」
「mレアうら;skljklsdj!!!」
明らかに悲鳴があがったが、煙が晴れていなかったので状況が読めなかった。だがさっき見たバケモノの数と、銃声の数、そして悲鳴の数からして多分バケモノがやられたんだろうか。
「ううう・・・ナルちゃんどうなってるの」
「な、何がどうなっているんです・・・・・・?」
「あ・・・あたしに聞かないでよ」
そういわざるを得ない。てかそれ以外どういえというのか。
ようやく煙が晴れたとき、私以外の二人は卒倒寸前になったのは言うまでもない。
目の前には真っ赤な血を流している人間が倒れていたからだ。
それもゾンビみたいにびくびく動いて。
「ううううう・・・・!!」
「!!」
二人はその現実から逃れようと、必死にあたしにすがりつくが、私自身も同じだ。
「・・・・・・う!」
嘔吐感が全身を奪う。
寒気が感覚中枢を奪い、平衡感覚がなくなりつつある。
今すぐ逃げたい、でも逃げられない。
ここで倒れたら多分あたしは死ぬ。ていうか絶対死ぬ。
だったらここで倒れないのがせめての役割じゃないのか・・・・!
「・・・あ、あまり見ちゃだめだよ・・・」
本当は私も見たくはないのだ。
だけど見なければならない先に見てはならないものが一緒にあるだけだ。
そしてその見てはならないものの先にあった、見なければならないものというのは・・・・・・・青い戦士だった。
全身真っ青で、無骨なスマートなロボットみたいな奴だった。
後ろを振り向いているので背中しか分からないが、ロボットアニメに出てきそうな「ランドセル」とかいう奴を背中にくっつけている。
<・・・・・タイプγターゲット、全て沈黙。アプリケーションライダー緊急モードで完全に起動しました。モード戦闘に移行完了。マシンナリーアナライズ機能ON>
「・・・わかった。電聖のときよりは融通が利くみたいだな」
<本システムはツェータ専用です。電聖では最低限の機能しか使用できませんので>
「わかった」
振り向いた。青いヘルメットには赤い二つの瞳がともっている。口っぽいところはバイクのライダーが被るマスクとは大きく違って、よく分からん、まああえて言えばアメフト選手のようになっているとしか言いようがない。
「・・・」
「大丈夫か」
男の声だったが、マスク越しであったので、あのハーレーバカかどうかは分からない。
「え、ええ・・・」
「危ないから後ろの壁に隠れていろ。」
じゃきっ、と銃を装填し直す青い戦士。よく見るとショットガンっぽいが、映画で見るようなものより、銃口がムチャでかい・・・。
だが私はその人に従わざるを得なかった。
「・・・・・・ほら明美、雪枝」
「う。うん」
「・・・・・」
すでに二人は腰が抜けているようである。私も本当なら腰を抜かしているところなのだろうが・・・とりあえず二人を壁の後ろ側に送ってあげる。
<護衛対象、避難完了>
「細かく言うな。」
<申し訳ありません。チャフの効果があと3秒で切れます。>
「わかった、アナライズは完了しているか。」
<すでに。指定ポイントに撃ちこめば一撃で破壊できます。>
「分かった。」
なぜだろうか。自分はこのOSを信頼している。以前電聖で戦ったときは余計なお世話だったのに、今でもその感情は変わっていない。だが妙に信頼できるのだ。
じゃきっ
<2・・・1・・・チャフ、切れました。敵車型ロボット、エンジン吹かしました。ATTACK!>
どかんっ!
ばすっ!
・・・・・・・
どがああああああああああああん!
エンジン部に打ち込まれた自動車型のロボットは、一撃で粉砕された。
<敵ロボット、燃料オイルの引火を確認、爆発しました。>
「これを狙っていたのか。さっきまで散々撃つなといっていたのは」
<はい、申し訳ありません。ですがガソリンエンジン車がエンジンを吹かした直後に撃ちこめば、確実に破壊することができますので。>
「このショットガンは一撃で車を破壊できるといっていたが?」
<時と場合、当たった場所にもよります。特に再装填した直後は過熱の影響もあるので若干威力と精度が下がってしまうので・・・それに弾と労力をなるべく節約しつつも護衛対象を守ることを最優先しました。>
「何も言わん。」
<了解。あと1分でデルタ2、デルタ3は到着します>
じゃきっ!
どかんっ!
「dajkslf;slakj;klfjsda!!!!」
100キロはあるはずであろう、自動販売機ロボットは容赦なく吹っ飛び、風穴があく。
どかんっ!どかんっ!どかんっ!
ばすん!ばすん!ばすん!
一撃ごとに何十センチあろうかという穴が開き、チーズのように穴だらけになっていく。
やがて自動販売機は平衡感覚を失い、倒れる。
ぴんっ
ひゅんっ、
どがあん!
爆発、閃光。
投げつけられた手榴弾によって自動販売機は容赦なく吹っ飛んだ。
「す・・・すご・・・」
あっという間だった。あの青い人は持っていた銃や手榴弾で容赦なく、そして鮮やかにロボットを破壊する光景。
成美にとってこれは映画だけの出来事かと思った。
あるいはテレビでやっている戦争がらみの出来事だけかと思ってもいた。
だがこれは現実だ。
平和な日本で、こんなバケモノが暴れ狂って、そして銃を持った変な青い奴がドンパチしている。
ここって日本だったっけ。
いくらほっぺたをひっぱっても痛覚だけしか残らない。つまりは現実である。
というかほっぺたつねって現実か夢かを判断するのって誰が思いついたんだろう・・・。
青い戦士がこちらを振り向く。
「まだ危険だ、そこに隠れていろ」
だがその時、
<アラート!後方接近警報!>
「!」
鎌を持った、おっかないのが飛びかかってきたのだ。
「ち!」
間一髪斬撃を避ける。だがさっきまで持っていたショットガンの銃身が切り落とされてしまった。
「ぐしゅるるるるる・・・・・・・」
<タイプγ:生態兵器No.21と酷似。型は後期生産型。蟷螂をモチーフとした鎌を扱う、接近戦では非常に強力なタイプです。統計で過去約4500体が生産され、14512名のライダー兵が殺害されています。キルレシオ比は3.28。背中部のジェットとウイングにより高い飛行性能を持ち、またそれを利用することによって非常に高い運動性を確保しています。>
「・・・・・」
おせっかいすぎる電聖のときよりはかなり柔軟に説明をしている。
<また頭部には硬度10の金属物質すらも噛み砕く、強力なあごが脅威です。密着戦闘時には気をつけてください。>
「つまり接近させなければいいのだろう」
しゅいん
じゃきっ!
ライダーの太ももから銃が飛び出す。
どかん、どかん、どかん!
15mm口径オートガン、「アームド・パワー・ガン」。元々は人間でも怪人や対人ロボットを確実にしとめるべく開発された、大口径銃である。リニア発射機構により反動は火薬銃並程度で、ライダーの強化筋力でなければ使えないというわけでもない。だがやっぱり反動は大きいほうなので、それなりの訓練を要するのも事実である。
「ぎゃはう!?」
弾丸が頭部に命中。撃ち込まれた部位に穴が開く。
いかなる生物であっても頭を撃ち抜けば倒すことはできる。だが・・・
しゅおおおおお・・・・・
怪人の頭が再生していく。
「!?」
「ぐげ!」
怪人が肉薄。鎌を振りかぶる。避けられない。
がごっ!
銃が右二の腕ごと切り落とされる。
「ち!」
<ALART!ライトアーム、損傷!電極逆流発生、稼働率73%に低下!>
ばすん!
切り残された部位を取り外す。
「ぎぎぎ・・・・・・・・!」
武器はただひとつ、左太ももに収納されたフレアメタルナイフのみだが、
(接近戦においては奴のほうが有利だ)
とてもナイフのみでは勝つことはできない。相手はそれより長いリーチを持つ鎌を装備しているのだ。
「ギギギ・・・・しねぇ!」
怪人が飛び上がり、切りつけようとしたその時―――――
どがぉん!
「ぎゃはぉう!」
空中で怪物が爆発した。
否。違う。
(狙撃された!?)
「よおソーイチ、難儀しているな?」
「アルフか!」
茂みから現れたのは、狙撃銃を持った、灰色の戦士。青い瞳に、左目は光学センサーを取り付けているのが印象的な、仮面ライダーであった。
「たくあのカマキリはどっからナルミの居所が分かったんだろうな」
「・・・しらん。」
「お前に聞いてねえよ。あの怪物をぶっ殺す前に締め上げておこうぜ、なあ姉さん」
「ああそうね。」
続いて女の声。
公園の入り口から現れたのは、巨大な斧を持った、これまた灰色の戦士である。
「あんた、ここ乗り越えられる?」
<問題ないでーす、少尉>
<あたし、幅跳びの名手なのよ、ばかにしてなくて?>
ぶぉう!どがっ!
暗闇から2台の巨大なバイクが現れ、地面に着地する。
「あ!あれ・・・・!」
あのハーレーバカの奴と同じバイクだ・・・それも2台、と成美は確信する。あのごっつい外見には共通点が見られるが、違うのは前方部におっそろしいバルカン砲が取り付けられていたり、後ろにはミサイル撃ちそうなやつが取り付いている点に尽きる。
というより、以前持ち物検査であいつがとられた玩具のベルトをしていることに成美は気づいた。そっくりじゃないか、どういうことだ。無人でバイクは勝手に走るし、しゃべったりもするし・・・
<着地成功!>
<見たデルタ3、あたしの跳躍力を?>
「みたぜ、相変わらず美人だなお前は」
「ちゃっちゃとあいつに腕出してあげなさい」
<了解!ライトアーム射出!>
ヴゅおおおおおおお!
ばしゅうん!
バイクの先端の空間がゆがみ、電気がスパークを起こし、何か物体が飛び出した。
がしゃあん!
ぎゅいいいいいん!
がしん!
それは青い戦士の、さっき切り落とされた右腕に取り付き、回転、蒸気を出して固定される。
<ライトアームドッキング完了。稼働率73%から99%に回復>
<つづいてショットガンもだしちゃいましょう!>
ヴゅおおおおおおおおおお!
ばしゅうんん!
またしても先端の空間がゆがみ、今度はさっきやられたショットガンを発射する。
がしっ、
じゃきん!
<HRS,ショットガン装備完了。>
「すまん!」
「礼とか謝りは後よ、さっさとあのバケモンをしとめるわよ!」
「了解!」
「バイク!突入!」
<りょうかい!>
<了解!>
2台のバイクが前面に飛び出し、走りながら前面のバルカン砲を正射する。
どががががががががががががが!!!
「がらはぐ!」
ひるむ隙も与えず、1台目の座席部に立ち上がっているトマホークを持った灰色の戦士は飛びあがった。
びゅおう!
人間の胴体並にある刃渡りのトマホークが月の光で怪しく光る。
「ぎぎ!?」
ざごっ!
「ぎゃがらららあああああああああ!」
「ちっ、はずしたか」
一撃必殺。カマキリの怪人は左半身を切り捨てられ、真っ赤な鮮血が飛びちり、灰色のボディーに返り血が飛び散る。
「デルタ4!」
「了解!」
じゃきっ
どかん、どかんどかんどかんどかんどかん!
「がはらぐええええええ!」
間髪いれずにショットガンの弾丸が次々に怪物に命中、あちこちに穴があいていく。
「ぎ、ぎぎぎ・・・・・・!」
しかしカマキリの怪人は何とか立ち上がり、腰についているパックを開こうとするが、
「させっかよ!ボケナス」
どかんっ!
ばすん!
「!!!!!!」
パックの中に入っているのは、機械を操るコンピューターウイルスマシンであった。これを何でもいいので機械に取り付けると、C言語が勝手に改ざんされて対人ロボットとなるのだ。
だがそれは、さっきの狙撃銃を持った銀色の戦士によって、右手ごと撃ちぬかれたのであった。
「ぎぎ・・・・・・・!」
しかし怪物は、煙を上げながら切られた部位を再生しようとする。
「たく、なんて再生力だい。タイプ25のトカゲ型怪人じゃないの?」
<NO。あれは確かにタイプ21です。>
「頭に撃ちこんでもあれだ。どうすればいいと思う。」
「だったら・・・・・バイク?」
<あの〜、どっちのバイクのことを言っているんです?>
「あんたよ、あたし担当の」
<あらごめんなさい。どうもわからないわねぇ>
<で少尉。何でしょう?あいつをひき殺しちゃうんですか?>
「ううん、指向性硫酸弾を一発あいつにぶちかますのよ」
<え?いいんですか?>
「やっちゃって。」
<了解!>
バイクの先端部が開き、中からどでかい大砲が出てきた。
<ターゲットロック・・・発射!>
ばしゅん!
砲門から、一発のヤジリみたいな砲弾が飛び出し、怪人の体に突き刺さる。
どごっ!
・・・・・・・ぶしゅうううううううううううううううう!
「ギ、ぎぎぎぎぎぎぎいいいいいいいいいいい!」
青白い煙が怪人を包み込み、怪人が苦しみだす。これはトカゲ型怪人などといった高い再生力を持ったり、ヤドクガエル型のように触っただけで毒に冒されるなどといった、うかつに近づけない怪人に対して使用される、酸性の煙を放つ化学兵器である。たちまち皮膚は酸化して溶けてしまい、これを逃れる術は、ほぼないのだが、風速や風の向きによっては自分も巻き添えを食ってしまうので使いどころが難しい兵器である。
「ぎゃらが!はぐら!ぎらrだだ!!カl;fkだs:;fかsd:;!d化ls;f:dkskふぁ;l!!!!kfぇ;あdksぁsf;あ!ひがえあr!!!!kれあklr:w!!!dfl;kfkふぁ;lkkkkkk!ぎららえだい!!!!」
のた打ち回り、煙を消そうと闇雲に腕を振り回すが、無意味だった。運動すればするほど、もがけばもがくほど、肺が強烈な硫酸の煙を吸い込み、全身を溶かしていく。
「・・・が・・・・・ぐえ・・・・・」
瞬く間に怪人は、真っ黒くなっていく。
<うわぁざんこくだなぁ>
<それを撃ったあんたが言う資格はないと私は思うんだけど>
<そんなこといわないでよ。だって僕ちゃんと「撃っていいか?」って許可を求めたもん>
<でもあんたが撃ったんでしょ。上官命令でも撃った奴に言う資格はないわよ>
<じゃあ聞くけど、もしデルタ3が撃てと言ったら、撃つの?>
<撃つわね。>
<その時文句とかは言わないの??>
<私、バイクよ。主人の命令には絶対に従うのがその目的なんだから文句を言うのはナンセンス>
<主従関係かぁ。僕そういうのにがてだなぁ>
2台のバイクが会話をしている、一見すれば変な光景であった。
「おしゃべりはそこまでよ。もう終わった」
トマホークを持ったほうの戦士が言うとおり、怪人はすでに灰となっていた。
「まあ、回収はできなかったけど・・・仕方ないわね」
<硫酸弾を撃たなければ良かったと思うんだけど・・・>
「おだまり、回収してもどうしようもないわよ、あれ。」
<そうね。回収して調べているうちに復活して大暴れ、てのがオチだしね>
<了解・・・って少尉!>
子供声のバイクが叫ぶ
「な、何よ?」
<デルタ4のスーツが!>
見ると青い戦士のスーツが、がたがたと振動を起こしている。
「どういうことだ!?」
<アラート、緊急モードで起動したために稼動時間が限界を迎えました。各種アクチュエーター、非戦闘レベルに設定変更開始>
「ちょっと待て!」
<NO。止められません。全システムOFF,四次元コンテナ開放、ライダースーツの収納開始・・・>
青い表面が光だし、ベルトに光が吸い込まれていき、元の学生服の姿に戻っていく。
「あ・・・・・・・・」
がしゃん、という音とともにベルトの蓋が閉まる。
<変身解除完了。四次元コンテナ強制閉鎖。チャージ開始・・・次回変身までに3時間の充電を要します。>
電子音が無情に答えた。
なんてこった。こんなベタベタな展開があっていいのか。
「ちょ・・・・本田君・・・・」
「う・・・・・」
見てしまった。あいつがあの青い戦士だという事実を。
「・・・・・」
「・・・・・」
てか明美も雪枝もしっかり見ている。気絶してみてなかったというオチもない。しっかりその目で見ていたのだ。
焦燥感が彼の顔に映りだす。まるでえっちな本が母親に見つかってしまった、というタイトルがぴったり合うような、表情だ。
<あーあ、ばれちゃった>
「あんたは黙ってなさい!てかしゃべるな!」
<・・・はぁい>
灰色の戦士に言われ、バイクはしょんぼりする。
「あちゃ〜、こうも早くばれちまうとはどうしたもんか・・・。」
少しはなれたところで、狙撃銃を持ったライダー”デルタ3”はつぶやく。
「・・・・・あのー?」
「!」
気がつくと後ろには少年が立っている。メガネをかけているのが特徴としか言いようがない少年だ。
「い、伊南村!」
不意に大声を上げてしまう宗一。
「今まで、ずっと見ていたのか?」
「う、うん。あれだけ激しくやってたら見ちゃうよ・・・」
確かにそうである。銃ではげしくドンパチをし、トマホークでざこっと切り裂き、バイクはしゃべって無人走行、しかも武器がついている始末だ。ここら近辺は道路しかない上に人気もあまりないので、彼ら以外にギャラリーはいないのは幸いだったのかもしれない。
「でもそのデュアルセンサーに頭の角(?)、腰のベルトにバイク・・・ひょっとして本田君って・・・・・仮面ライダーなの?」
ライダーの一同はその場に凍りつかざるを得なかった。
「あ、聞いたことあるよあたし。」
明美が突然言い出した。
「何でもバイクに乗って現れて、素手で怪物を倒して、それでこの世界にはこびる悪を倒す孤独な戦士の都市伝説でしょ?」
「・・・そうなの?」
「都市伝説の怪談じゃあ有名だよナルちゃん。口裂け女みたいに時代ごとに特長とかがぜんぜん違うし、最近でもあちこちで見られているし、ネットじゃ有名だよ」
「でも・・・あんたが言っているその伝説と、こいつらって・・・」
ぜんぜん違う。
まず素手で戦うというところから違っている。こいつらは銃とか斧とかを平然と扱っている。
バイクにも乗ってきて現れていない。いや実際に乗ってきたのだろうが、そのバイクが勝手に動いて戦ってもいる。
孤独な戦士、もぜんぜん違う。てかこいつらは全部で3人だ・・・。
「・・・・・で、どうしてあんたがあたしを付きまとっていたのかは、大体分かったと思うけど、どういうことか説明してくれる?」
「・・・・・」
こんな怪物に2度も殺されそうになり、そしてこいつらはライダーらしくないライダーで、しかもその正体がこのハーレーオタク・・・・・どうにも合点がいかない。なんだって「君を守るためだ」と4月で言ったのだろうか。もう隠しようがないのは宗一たちにも十二分に分かることであった。
西暦2312年5月28日午後1時29分
旧ロシア エカデリンブルグ要塞南方300km
「全軍、展開完了しました。」
「元帥閣下、いつでもいけます」
「・・・わかった。では1時40分に作戦を開始する。全軍それまで待機」
「了解しました・サー」
ライダースーツ姿の隊員が敬礼をして、仮設の野営本部から出て行く。
「・・・・・」
「どうしたミューラー元帥?」
隣に座っていた同僚のジェッカー元帥が尋ねてきた。
「考えていたのだ、この戦争が終わったら我々はどうなるのだろうということを」
「考えるまでもなかろう。あの方は戦後も我々を使ってくれるだろうさ。実際にあの時もそうだったではないか。」
「そうかもしれんが・・・俺や貴官らならともかく、部下たちはどうなるのだろうと思ってな」
「平時における軍隊ほど財政を圧迫しかねんもの・・・か。リストラにはうってつけかもしれん」
「それが心配なのだ俺は。あの方は政治家としてみても俺たちと比べ物にならん政治力を持っている。だがリアリストだからこそ、部下が路頭に迷うのではないかと思うと・・・・な」
「兵士の生活のためにあえて戦争を長引かせようというのか貴官は?」
「そうではない。戦争が終われば兵士は故郷に帰れる。だがそれがいない兵士もいるのだ。人は1人では生きていけん・・・」
人間のミュータント化、核攻撃、相次ぐ自殺者・・・終わりを知らぬ暗黒の時代は人々に絶望を与え続けていた。明日の食分を確保するために親は子を殺し、子は親を殺す、それが当たり前だった時代もある。また親に捨てられた子は犯罪に走り、捕まり、ライダー部隊に入れられた、そんな時代もあった。無能な政治屋の懐をああたためるために作られた「安全保障税」から逃れるために、ライダー部隊は一時1000万人にまで肥大していた時代もある。真崎がクーデターを起こした理由、それはそんな時代に歯止めをかけたいが故であった。
そんな中、数々の不正を切り倒し、弱兵だったライダー部隊を鍛え上げ、憎き機械との戦いを勝利に導いてきた真崎。人々にとっては真崎は太陽のような存在なのだ。彼がやってきたからやれる、彼は自分たちの望みをかなえてくれる、やらなければ彼を裏切るのだ。そういう心理が人々を勇気付け、人類は再び立ち上がりつつあるのだが、それまでの負債があまりにも大きすぎて行方不明になった家族や売り飛ばされた家族、果ては極刑に処された者もいる。そんな境遇のライダーも存在するのだ。
「・・・・・気持ちはわかるぞミューラー元帥。だがあの方はわかってくれるさ。どうにかしてくれる。我々もあの方に意見が言える立場なのだし、意見を聞き入れないような視野の狭い方ではないことはわかっているだろう。」
「かもしれん・・・・・」
「ならいいだろう。明日の狸の数を数えるより、今目の前にいる狸を仕留めることに専念しようではないか。」
午後1時40分
「3・・・2・・・1・・・作戦開始!」
オペレーターが時刻を読み上げ、警報音が鳴り響く。作戦開始の合図だ。
ミューラー元帥は指揮机から立ち上がり、命令を発する。
「本営の前に布陣している第13、14ライダー師団を前進させろ。それと左翼の第6ライダー師団と右翼の第9ライダー師団をあの迂回ルートで時速250km/hで前進させろ!」
「イエス・サー!第6ライダー師団本部に通達します」
「第9師団に通達完了!前進を始めました」
同時にジェッカー元帥も立ち上がる。
「続いてさらに左翼の第7ライダー師団と右翼の第10ライダー師団も敵に気づかれんように時速250km/h前進させろ。それ以上の速度もそれ以下の速度も許さん。250km/hでいくのだ」
「イエス・サー!」
「第7、第10師団同タイミングで前進を開始。時速250km/hです」
「さらに第8と第11ライダー師団にも通達、時速250km/hで進撃せよ。」
「イエス・サー!」
この作戦は二人の元帥が同時に指揮を行っている、きわめて特殊な作戦であった。それぞれが複数の師団を指揮するというのは本来は異常なのだ、下手すれば・・・というより、ほぼ間違いなく連携が取れなくなるし、なにより戦功を優先しようとする心理が働くので、必然的に総司令官は1人になるのだ。
だがこの二人は違った。浅岡真崎がクーデターを起こす際にそれぞれ分隊を率いたところから始まり、以後数々の戦いでレジスタンスを勝利に導いた名将中の名将なのだ。しかも彼らは軍学校から続く盟友であり、双方の利害関係や信頼関係を完璧に把握している上に私生活上でも親友と呼び合う関係、それは全将兵の一部から「やおいじゃないのか?」と陰口をたたかれるほどにまでに親しい関係なのだ。もっともミューラー元帥もジェッカー元帥も家庭を持っているし、子供もいるのでそんなわけはないのだが。
双方とも公明正大でかつ名将、下士官や一般兵士、果ては国民の人気が非常に高い将軍である。互いに功績を争うということをせずに分かち合ったことから、双方の兵士は互いに争うということは本当になく、この同時作戦が実現できたのはまさに信頼関係から成り立つものであった。
「元帥閣下、本営の守りが薄くなります!」
ミューラー元帥直属の部下であるアケチ大佐が進言した。ミューラー直属の中では最も若く、勇猛な第一師団所属の第三大隊指揮官だ。
「敵正面は20万、対する我々は第13と14師団、それと第1師団と第2師団で8万、万が一敵が突撃開始すれば本営を突かれます」
「そこが狙いなのだ中将。この作戦の内容を覚えているだろう」
「はぁ・・・ですが敵をひきつけるのに自らを囮にするのはかなりの危険ですが・・・」
「かもな。だが敵はこの一戦で負ければその後の要塞戦での敗北が必死だ。だからこそ奴らに一発逆転を狙わせるのだ」
午後2時00分
「第13ライダー師団が敵正面と接触しました!」
本営から報告が入った。だがそんな簡素な報告とは裏腹に、現場はすさまじい状況である。
「うおおおおおおおお!」
ざごっ!
どかあああん!
ライダーの1人が勇猛果敢に猪突する。
彼らもわかっているのだ。
この戦争が終われば出世のチャンスはなくなる。だからこそ活躍をしなければならない。
これまでに多くの同胞が中隊指揮官や大隊指揮官に成り上がっている、出世意欲を刺激されまくっても不思議ではないのだ。
だがそれは、戦場において冷静さを失う結果にもなる。
どごんっ!
「ぎゃあぅ!」
やはりというか、ロボット兵士の対戦車砲をもろに受けてしまった。
「前方の部隊は何をやっていやがる・・・本作戦は敵を陽動するのが役割であっただろう!」
「は!申し訳ありません・・・」
「貴官は作戦前に命令を通達しただろう、何を謝る必要がある・・・!」
味方が思ったより士気が高まりすぎている。第13ライダー師団総司令官のハロルド大将はそう感じている。連戦連勝は味方に対して過信を生み出しているのだ。自らいちいち指揮をしなければ奴らはやれないのだろうか、とまで考えたくはなるが・・・
「最前線のハーバード少将に通信を!出すぎるな、と言え!」
「了解しました!」
「それと1420時に全軍を引かせるように伝聞もな。」
「作戦通りに敵の猪突を陽動するのですか?」
「聞けばわかるだろう参謀長!」
「も、申し訳ありません!」
そうあやまりつつ参謀長、グレッド中将は司令官ハロルドがイラついていることを十分理解していた。どうも全軍のムードが好戦的になりすぎているのだ。酒を飲んで酔っ払っているような現象がおきているといってもいい。以前のモスクワ都市要塞戦では真冬のロシア、しかも難攻不落の都市要塞ということだけあって総員の気がかなり引き締まっていた。だが今回の野戦は比較的温暖な5月でかつ貧弱な要塞攻略戦の前哨戦、どうも味方全体に楽勝ムードが漂っているのだ。前回の勝利といい、今回の楽さをを甘く見ているのであろう。
「これは相当にやばいかもしれないな」
午後14時20分
第13ライダー師団は攻撃をやめて一斉後退を始めた。それに呼応するかのように敵のロボット兵士の大群は猛烈な追撃戦を始めたのである。
「うおおおおお!」
「ひけぇ、ひけぇ!」
どごっごごごごごっごごごご!
ロボット兵士はここぞとばかりに連射をする。
いやむしろ乱射といったほうがいいかもしれない。
「何いっているのだ・・・われらが司令官はたかがあの程度の攻撃で引く命令を出すのか?」
「何かの聞き間違いだ、前進しろ!」
しかし一部の味方部隊は後退どころか、かえって前進をしてしまう。だがこれにはわけがある。
第13ライダー師団総司令官ハロルド=フォッカー大将、今年で齢37になる将軍であり、浅岡真崎がクーデターを起こした際に最後まで抵抗した人物で有名である。同氏は2290年代当時のクーデター政権に対抗するために、最も得意とする速攻戦法で後方をさんざんかく乱し、真崎率いる軍隊を悩ませたものである。
しかし当時彼は中隊指揮官であったために絶対数が足らず、真崎率いる5個大隊による包囲殲滅戦法によって捕らえられ、反乱因子として軍法会議にかけられた。だが彼が敵対したのは私欲に狩られたからではなく、あくまでも旧体制の軍規に従っただけに過ぎず、その潔い性格を認められてライダー師団の司令官を司ることを認められた経緯を持っている。
師団編成となった今でも彼の得意とする速攻戦法は部隊兵士に強く浸透していたのだが、2311年4月に行われたデトロイド工業要塞攻略作戦において彼の部隊は予想外の大打撃を負い、今日に至るまで兵力再編成を強いられていた。精強な兵士は皆死んでしまい、あるいは怪我により退役してしまったために、彼の部隊は若い兵士しかいない。「敵が攻撃する前に急所を突く」、一見するとかっこよく聞こえるが、そのポイントを精確に突き、そして緻密なルートで脱出する、本当の速攻戦法は繊細さと緻密さが要求されるのであり、彼はそれを持ち合わせていた優秀な戦術指揮官である・・・・・のだが、若い兵士たちは彼の経歴をほとんど知らず、単に「猛将」というイメージしか捉えられていない。つまり下士官や兵士たちはコントロールが難しくなっていたのである。
ドぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!
「ぎゃああああああ!」
「うわ!」
「ごぐは!」
案の定、勢いに逆らった一部の中隊はロボット兵士たちの猛攻をもろに受けてしまった。
「第3-3-5中隊、損傷率80%突破!」
「あの中隊指揮官は誰だ!」
「は・・・3-3-5中隊指揮官はエドワード=フォン=ロベルト大尉であります」
「ちい・・・!」
エドワード=フォン=ロベルト、若手士官の中では有名な人物だ。軍事的才能が豊かで将来期待がもてるホープだと聞くが・・・
「所詮若手か。」
とハロルドは確信した。若くて司令官というのはどいつもこいつもこうだ。突進すれば勝てると思っていやがる。突進にはタイミングがあり、また後退にもタイミングがある。戦術家は全体を見回す目が必要なのだが、それを養うには実践しかない。俺も齢35になるまでは戦術レベルでしか物事を見れないと自負したものだ・・・
そう思いつつハロルドマイクを取り、
<全軍ひけぇ、これは命令だ!>
司令官の怒号は一兵一兵に確実に届いた。だが、それが逆にロボットたちの進撃を刺激してしまう結果となってしまう。
(そんなのはわかっている。)
と、ハロルドは考えている。だがこうでもしなければ血気さかんすぎる味方部隊は止まらないのだ。まったくもって計算違いがでたものだ・・・
同時刻 大本営
本営の机には、戦況をリアルタイムで報告する地図が広がっている。青い三角形が二回り大きい赤い三角形に押されており、青い三角形の後ろには3つほど三角形がある。チェスのコマが勝手に動いていると表現したほうがわかりやすいであろうか。
「ハロルドの奴、だいぶ苦労しているようだ」
「無理もない。奴の部隊は以前の8月の戦いで損害を受けているのだ。補充兵は皆20代前半の若手ばかり、ハロルドには少々手に余る」
「だが崩壊に至っていないのは奴なりの手腕だな。」
「敵の騙しとしてはこれ以上ない演技かもしれん。いや彼からしてみれば演技をする余裕などないかもしれないがな」
「同感だ。そろそろ反転迎撃をさせよう」
ハロルドの率いる第13ライダー師団は、確実に、ネオプラントの軍隊総兵力20万を、徐々に徐々に、奥地に引きずり込んでいった。
15時35分
第13ライダー師団は完全に押されている。すでに総兵力の4割が失われており、続いて第14ライダー師団も押されている。あと数キロで大本営に直撃してしまうところにまで押されており、ここをやられればレジスタンスは事実上、敗北である。
しかしそれをさせるのが目的なのだ。
どがどがどがっぁん!
突如後方からライダーの大群が、ネオプラントの軍勢の背後や側面から回って、突撃してきたのである。
無数の弾丸が飛び交い、ロボットたちを貫いていく。
うおおおおおおおおおおおお!!!!!
大轟音が後方から強襲し、戦場を包みこむ。
「今だ!一気に突破して敵を突き崩せぇ!」
「第9ライダー師団に遅れを取るな!第6ライダー師団、突撃をかけろ!」
「敵を一兵たりとも逃がすな・・・!第7ライダー師団全軍突撃!」
「弾薬を惜しむなぁ!撃って撃って撃ちまくれ!目の前にいるものは全部敵だ、破壊しろ!」
後方と側面から、先に前進をかけたライダー師団がネオプラントの軍団の後方を強襲したのである。前進しろというのは、それを欺くためであった。
「来たか!本営にいる部隊を全突入させるのだ!」
4方から大軍を取り囲む、ネオプラントの総兵力20万に対して、こちらは全8個師団の16万、どう考えてもレジスタンス側が不利ではあるのだが、数の不利を駆逐するためにはこうした包囲戦が効果的であった。あらかじめ敵に気づかれないようにライダー部隊を前進させて、敵に数が少ないように見せかけて敵を戦場におびき出す。元々エカデリンブルグ要塞は1万ほどの兵力しか収納できず、残された20万の軍隊は要塞の外に待機せざるを得なかったのだが。
一部の味方が敵をひきつけるために陽動、そして十分ひきつけたところで転進して一気に取り囲んで殲滅する戦術であった。当然これを実現するにはタイミングが重大であり、各指揮官の歩調やタイミングが合わなければできない業である。だがそれを実現できたのはまさに各指揮官の優秀さと、ジェッカー・ミューラー元帥の巧みな指揮が所以であった。
退路も立たれたネオプラントは混乱を極めてしまう。前進すれば確かに総大将の首を取ることはできる、だが4方からの総攻撃の前には攻撃を行うこともすることもままならなくなりつつあった。
ドガォン!
司令官のロボットが迫撃弾を受けてやられてしまった。
これで勝敗は決したも同然となった。統率、思考するロボットがいなくなったことで軍団は動けなくなるからだ。ネオプラントの軍隊は効率最優先であり、ロボット兵士一人一人がデータリンク機能を持ち、戦術指揮官ロボットがそのデータを受信して戦況を読み取り、発信、支持を出すようになっている。その中継を行うのが分隊指揮官ロボットであるが、彼らの処理能力には限界があり、戦術処理が行うことができない。つまり総司令官がやられたら彼らは何もできないのであり、本当なら総司令官ロボットは戦場の一番はじっこ、もしくは要塞にいるものである。
だが敵兵力が自分の兵力より少なかったために戦場に引きずり出される結果となり、退路を断たれた上に破壊される、こうなったらロボット兵士たちは適当に、やたらめったら、目に付いたものを敵とみなせ、という命令が最優先で動くようになり、結果同士討ちを始めてしまう。内部崩壊と外部からの総攻撃による混乱が3時間続いた午後18時54分、ネオプラントの軍勢20万は玉砕したのであった。
西暦2312年5月29日午後2時4分
攻略要塞作戦仮設本営
戦後処理が進む中で、攻略作戦の司令官であるジェッカー元帥とミューラー元帥は、各ライダー師団の団長を呼び出していた。
「各師団長ともにご苦労だった。敵残存兵力はもはや組織的抵抗を失っている」
「そこで各師団長に集まってもらったのは他でもない。各師団が受けた被害を提示してほしい。」
各師団長が次々に資料を提出していく。中にはこういった紙仕事が苦手な者もおり、同行させた参謀にやらせている者までいた。
「俺のライダー部隊の被害はおよそ1800だ。けが人約3200名、結果5000ほどを失っているが集団としての戦闘力に支障はない」
「私の師団も4300名が戦闘不能ですが、順次撤退させるように準備を整えています。」
「自分のライダー師団は一個大隊が壊滅した程度で、生き残った兵員は各大隊に編入が完了、損傷した部分は埋め合わせたので全体的な集団兵力に支障はありません。」
「第10師団は被害は500・・軽微ですが、バイクの損傷が思ったより激しい。一晩で何とかなるが兵士たちの負担が大きくなりそうなのだが・・・」
「私の部隊の死亡者からあまったバイクをそちらに提供しましょう。こちらもバイクが余って困っていたところです」
「すまない、トーマス大将」
わいわい、がやがや
それぞれの師団長は被害報告を出していた。そこで数えられる限りの兵力を再編成する必要があったのである。
「なるほどな・・・」
「全体的な戦闘力は思ったほど低下していない。数えただけでも失った兵力はおよそ3万・・・」
「敵の要塞に残っている兵力はどれぐらいなのでしょう、元帥閣下?」
「およそ10000にしか過ぎん。我々の総兵力はおよそ13万、兵法のセオリーで行けば5倍以上だから十分に叩けるだろう」
「出撃はいつになるのですか?自分の師団はすでに出撃が可能ですが」
「あせるなトーマス大将。3日後を予定としているが・・・そのまえにやらねばならんことがある」
そういって一堂の視線が集まる先は、ハロルドであった。
「申し訳ない・・・俺のせいで犠牲者を増やしてしまった」
「貴官は悪くはないと俺は思うぞ。だが・・・」とミューラー元帥であったが、
「総兵力のおよそ7割を失うのは感化はできん。」とジェッカー元帥による厳しい指弾がされていた。
第13ライダー師団の被害は甚大であった。ライダー部隊は一個師団につきおよそ2万人の将兵が預けられるのだが、最初の猪突をかましてしまった第13ライダー師団は絶対数の欠落を招き、結果それが総兵力のおよそ75%である1万4千651人の犠牲者を作り出してしまったのである。各師団の平均的な死亡者は大体4000名に対してハロルドはその3倍の犠牲者、どう考えても責任が重くなってしまう。
怪我人も甚大で、実質的に戦闘できる兵力はたったの985人、とてもではないが半個中隊では全体の兵力として考えるには無理がありすぎる。もっともその原因は若手仕官や兵士たちの暴走であったが、監督責任として師団長にも責任がのしかかってきたのであった。
「すまんが、貴官らの部隊は各師団の怪我人を引き連れて本国に戻れ。その有様では集団としての戦闘力は期待できんからな。」
「・・・・・了解した。直ちに撤収作業に当たらせる」
「瓦解しなかっただけでも貴官を評価しているのだ。俺からも大統領閣下に何とか言ってもらおう」
「恐縮です・・・」
畜生、とハロルドは思った。
貧乏くじを引かされたな、とミューラーは思った。
若手仕官や兵団が多すぎるな、あの方も苦労なさっているのだろうとジェッカーは思うのであった。
ハロルドが撤退の準備を行うためにその場から立ち去ると、ジェッカーは明言した。
「全軍に伝えよ。敵は窮鼠と化している。以後勝手な行動を起こせば理由のいかんを問わずに極刑に処す、とな」
「・・・ハロルド大将には申し訳ないですが見せしめになってしまいましたな。元帥閣下」
「そうだトーマス大将。我が軍の将兵はモスクワ都市要塞を攻略したために、全軍に余計な余裕のあるムードが漂いつつある。真崎大統領はそれを見越して要塞の総兵力より少な目の兵力を我々に貸し与えてくれたが・・・どうも現実は違うらしい」
「貴官らの若手仕官にも厳しく言っておくのだ。ハロルドの二の舞になりたくなければな」
「・・・」
ハロルドは降格はされないだろうが、僻地に回されるのだろうか、とトーマス大将は思った。攻守において優秀なハロルドがああも被害をこうむるのは意外すぎる出来事だったので、心配で仕方ない。自分はまだ31だがハロルドは37、気を引き締めないと考えたのであった。
同日午後18時00分
旧大阪 作戦指令本部
「そうか。要塞の守備部隊はほぼ駆逐した。だがこちらも相応の損害をこうむった・・・というわけだな」
<申し訳ありません大統領。>
「・・・比率から見ればモスクワ都市要塞の犠牲者以下だろう。だが絶対数においてはモスクワ以上だ。」
<おっしゃるとおりです。怪我人および死者はハロルド大将が率いて本国に帰頭させていますが、なにぶん彼の罪については寛大な処置を願います>
「ハロルド大将は優秀なのはわかっているし彼ほどの人材は早々見つからないのはわかる。今回受け取った書類にも若手士官たちの暴走が原因だということも十分にわかった。だが信賞必罰がなければ軍隊は成り立たないのも事実だが・・・私が何とかしてみよう」
「ありがとうございます大統領」
その直後、真崎の表情と口調が同時に変わった。
「だが、こうする以上貴官らはなんとしてでも要塞を奪取するのだ。ここで余計な失敗をしたら貴官らといえども相応の制裁措置を与えることを忘れるな。貴官らほどの人物ならそれをわかっているだろう」
「・・・存じております。」
「全力を尽くさせていただきます、サー」
「期待しよう。では」
通信はそこで途切れた。
「・・・・・やれやれだな」
「ああ、あの方は同僚の失敗でも容赦しない方だからな」
「だが、あのころからはまったく変わっていないな」
西暦”2294”年5月1日
旧東京 士官学校宿舎15F 1504号室
「チェック!」
ポーンがキングを追い詰めた。
「な!?」
「これで15戦15勝だな。ジェッカー。次の合コンにはちゃんといい娘を紹介しろ」
釣り目の日本人男性が不適に笑う。
「ち・・・・・」
「また負けたのか、ジェッカー」
金髪の男性が笑いながら答えた。
「チェスで負け知らずの真崎とどんな賭け事をしたんだ?」
「・・・次の合コンで誘う相手を賭けていたのだ」
「おまえなぁ・・」
当時20歳、彼らは士官候補生であり、この宿舎は優秀な成績を修めれば修めるほど、上の階に上がるシステムとなっている。上の階になるほど部屋の設備はしっかりしたものになって行き、皆それで必死になってがんばる・・・という慣例が当時のレジスタンスの風潮であった。
「で、一戦ごとに一人の女を紹介することになっていたのだが・・・」
「真崎!お前まさか!」
「私は狡猾だよ。ジェッカー、15人の女を紹介するんだぞ。君は美形だからな」
「・・・・・」
なんて奴だ、とミューラーは思った。真崎は士官学校の主席であり、軍略、軍事経済、補給システム、射撃訓練、治療法・・・どれをとっても完璧を誇る模範生であり、チェスで彼に勝ったものも引き分けに持ち込んだものは、まだ誰もいない、黙っていれば優秀すぎる人物なのである。
だが実際はこうである。時として人をからかったり、合コンに誘ったりと、年頃の若者と変わりなかったのであった。多くの者は彼の本性にあきれ返っていたのだが、ジェッカーとミューラーだけは、彼の意外さに引かれ、このようになっているしだいである。
そんな会話が交わされていたとき、
ゴンゴン。
部屋の外からノック。
「どうぞ。」
「お休みのところを失礼します。浅岡真崎さんはこちらですか?」
部屋に入ってきたのは、一人のライダー兵であった。素手で、何も持っていない。
「私がそうですが・・・何か?」
ライダーは少々口ごもり、こう語る。
「はい、申し上げます。本日午後4時未明、大阪で大規模な爆弾テロが起こりました」
「!」
その場にいたものの表情が一変する。
「指導者の浅岡雅彦氏はその爆弾テロにあい死亡しました・・・・・」
「あの男が死んだのか!?」
一同が驚いたのは真崎の発言である。よりにもよって実の兄を「あの男」呼ばわりするとは何たることか。
「は・・・はあ、そこでレジスタンス議会は、レジスタンス法第13章124条により、明日付けで浅岡真崎氏をレジスタンス指導者として就任しました。明日午後1時から演説が始まりますので、直ちに大阪に向かっていただきたいとこのことです」
「・・・・・!」
「ま・・・真崎・・・・・」
真崎は表情が変わっていた。まるで鬼のような怒りが燈っている、凄まじい顔つきだ。
「う・・・・・」
ライダー兵はあまりの剣幕に一歩引いてしまった。彼はなぜ怒っているのかもしるよしもない。
「・・・わかった、直ちに荷物を詰める。しばらく待ってもらおう」
真崎は部屋の中に入っていった。
「・・・・・どうするのだ真崎。」
ジェッカーがたずねる。
「お前はレジスタンス指導者が嫌いだから士官学校に入ったのだろう。だが今、お前はそのレジスタンス指導者になろうとしている。」
「そうだ。もしここで拒否すれば真崎は処刑されてしまう・・・どうするのだ?」
「・・・・・」
真崎はしばらく考え込み、こう答えた。
「面白い・・・・・」
「!?」
「俺がレジスタンスの指導者か・・・・・・」
「真崎?」
「俺は思っていたのだ。300年間も続くばかげた戦争をどうすれば終わらせるかということをな。無駄すぎる徴兵制度に悪逆な政治屋どもに企業屋ども、テロ組織バルラシオンの跳梁跋扈にな。」
「それは俺もそう思うが」
「だが今のレジスタンス指導者はただの飾りにしか過ぎん。だが俺は違うぞ・・・」
「真崎・・・お前まさか!」
「そうだジェッカー、ミューラー。俺はレジスタンス指導者に就任したら、クーデターを起こしてやる」
「!!!」「!!!」
「俺は気は狂っていない。むしろ狂っているのは今のレジスタンスだ。人の死をなんとも思わん連中がごろごろいるからな。雅彦の奴はテロ組織や政治屋どもにぺこぺこして、カンペばかり読んでいたからああなったのだ。所詮奴は操り人形にしか過ぎんが、俺は違う。俺は俺のやり方でレジスタンスを導き、人類を解放してやるのだ・・・・・」
冷静沈着な真崎の発言とはとても思えなかったが、この男は言ったことは絶対に実行することを、二人は一番良く知っている。
「真崎、どうするんだ」
「レジスタンス指導者になろう。だがクーデターを起こし、独裁権を握る」
「成功する保障はあるのか?」
「ああ。今の軍隊は腑抜けた連中しかいないからな絶対に成功できる。そのときになったらお前らを使わせてやるからな」
「・・・・・面白い」
「ジェッカー!?」
「面白いとは思わんか、ミューラー。この惰性的な世界を変えるチャンスなのだ。真崎はそれを実行できる人物であるし、我々はそれに協力ができる、歴史に名が残るかも知れんぞ」
「・・・・・そうかもしれんが」
「お前も家が貧乏だからこそ、士官学校に入っているのだろう。成功さえすればこのような生活を捨て去れるのだし、元々貧乏に追い込んでいるのは誰だ?レジスタンスの今の体制だろう。安全保障税とか抜かしているが、実際は年間100万クレジットの納税を義務付ける、搾取にしか過ぎんだろう。払えなければライダー部隊に無理やり入れられ、そして殺されるのがオチだ。お前はそれでもいいのか?」
安全保障税、それは西暦2204年から始まった、国防予算の確保を名目に作られた税金である。15歳以上になると年間100万クレジットの税金を納めなければならず、もし払えない場合は税金未納容疑で逮捕、懲役3年刑にされてしまう。だがライダー部隊に入れば税金は免除されるので、若者たちは税金逃れのためにライダー部隊に入りまくり、ライダー部隊の兵員は一時1000万人にまで膨れ上がったこともあった。
だが1000万人のライダーを食わせるだけの余裕など、当時のレジスタンスも今のレジスタンスもない。しかしライダー志願者はどんどん入ってくるし、安全保障税の真の目的はライダー兵の確保であったので、いまさらやめるわけにはいかない。なので軍部や議会では、時としてムチャな作戦を立ち上げて、彼らライダー部隊を戦場に送り込み、死なせていったのであった。
だが安全保障税の真の目的はこれだけではない。実のところは政治屋やテロ組織バルラシオンへの上納金、企業への賄賂など、いうなれば税金を私物化することにあったのだ。この事実が知れ渡ったのは西暦2254年、とある若手議員がマスコミにこの事実を暴露したのだが、その翌日、彼は「原因不明の心臓病」でこの世を去っている。
「・・・・・わかった。真崎、俺にも協力させてくれ。」
ミューラーは深々と頭を下げた。
「ああ。」
翌日、真崎はレジスタンスのリーダーとして就任し、その一ヵ月後にクーデターを起こし、独裁者となったのである。
だがこの話はまた別の物語となっていく。
<NEXT MISSION・・・・・>
次回予告
「なめんじゃないわよ・・・!」
「あの赤は彼女の罪の色だ」
トマホークを振り回す、妖しく輝く赤き幻影
鮮血が赤い戦士を染め上げていく
「ソーイチ、お前はそこで見てな」
「奴から狙撃を取ったらただのスケベに過ぎん。だが奴の狙撃ほど背中の信頼ができるものはない。」
狙撃の天才と呼ばれた黒き戦士
彼はまたロボットを貫いていく
その名前の由来を知るものは彼らのうちには存在しない
「急がねばならん。全ライダー部隊、突撃!」
「要塞に装備されている砲台を突き崩せ!」
総兵力13万のライダーが要塞を飲み込んでいく
戦いは終わりを迎えるが、人々の中には戦いを続けたい欲望が確かに存在した
次回「ツェータライダー」
MISSION JUNE:梅雨きたりて?
編集後記
むむむむむむ・・・バイトが見つからない。
バイトが見つかるまでは自分のHP作業をおろそかにしていた間津井店長です。
皆さんいかがお過ごしでしょうか。私はあまりいかが過ごしていません。
それにしても今回もギャップがひどいですねぇ。とても同じ人間が書いたとは到底思えません。
が、同じ人が書いているんですよ。ええほんとうに。こういうジェットコースターのようなギャップを楽しむのがツェータの面白さ、とでも言うべきなのかもしれません。実際楽しんで書いているし・・・・・このぐらいギャップがあったほうがギャグとシリアスのメリハリがつかなくて、単に私の筆力がへっぽこだからです。
反省。てかライダーの癖にライダーキックでしとめないのはどうしてだよ!!とツッコミがでてきそうです。急いで作ったのでしっちゃかめっちゃかな部分も多いし・・・うーん。
あいかわらず今回もハチャメチャしてますねぇ。ライダーが校則違反でバイク取られるに飽き足らず、今度は変身ベルトを持ち物検査で取られる・・・改造人間のくせに人間のパワーで手加減していない、それに途中で書かれているブルマの話から世界史の話につなげた人って世界捜しても私だけなのでしょうか。あ、でも私はハフハフ・・・する意思は滅相もありません。阻害されているものの歴史を調べるのは面白いっていうことを言いたかっただけです。たとえがあまりにも悪すぎたかもしれませんが・・・・(おい)。一部で成美さんはひどい野郎・・・女郎だという声も出てきそうですが、ちょっと考えると初対面の変態に付けまとわれては誰だってああいう態度はとるかもしれません。しかも彼女はアメリカ育ち、日本人にはストレートすぎる・・・かもしれませんが。とりあえず早くも正体がばれちゃったわけですが、この後一体どうなるのでしょうか。次回予告もあいまいだしなぁ・・・
ちなみにこの主人公は実際は3人です。一人は浅岡成美、もう一人は浅岡宗一。最後は浅岡真崎だったりします。最後の蛇足的な内容がまさにそれで、肉体的にはたいしたことはなくても、戦略レベルや政治レベルでは人類を導く最強キャラなので、ということです。なので次回からは真崎の壮絶なる戦いが記される予定・・・・だったらいいなぁ。というより次回は視点を変えて宗一主体ではなく、彼の周囲の人たちがメインになる予定です。
それでは次回もお楽しみに。