西暦2295年6月9日午前8時44分
旧大阪 レジスタンス統合作戦本部ビル




 曇りの空。

 ドームが人工的にそう見せているだけであり、そうすることによって人心の安定化をしているだけである。

 「あーあ・・・暇だなぁ」

 灰色の空の下に聳え立つビル。周囲のビル群とは明らかに出る杭のように聳え立つのはレジスタンス統合作戦本部ビルである。かつて1ヶ月ほど前に前代レジスタンス代表の「浅岡雅彦」がテロによって死亡し、今ではその弟の「浅岡真崎」が新たな代表になったばかりである。

 「このビルだけがさっそうと復旧して、あっちこっちのビルはいまだにボロボロのまんま・・・むなしくなってくるなぁ」

 かつてこの都市に核が撃ち込まれ、雅彦はそのミサイルによって命を失った。ミサイルの爆風はビルというビルを、街という街を完膚なきまでに瓦礫の残土にし、本部は遷都を本気で考えようとしたほどにまでひどい有様であった。だが、

 「しょうがねえだろう。政治屋さん、ここの土建屋とかSBテクノロジー社とかと癒着してるから出るに出られないんだぜ」

 「わーってるよんなこと!だけどそれで割を食うのは俺達だってんだ!」

 この当時のレジスタンスはそれはもう酷い有様であった。議員のほとんどはテロ組織バルラシオンによって傀儡にされた状態であり、彼らに逆らうことはそれすなわち暗殺の対象となる。どれだけ清純な政治家であろうとも、彼らの手にかかれば瞬く間に「政治屋」の完成だ。傀儡となった政治屋はバルラシオンの意のままに操られる一方で「善意」という感情がなくなるらしく、あちこちの土建屋や企業との癒着がしょっちゅう行われるようである。

 ゆえにレジスタンス本部のこのビルは真っ先に直された所以である。

 「でもこれだけ殺風景だと・・・・」

 本部ビルの、かつてここには高さ20〜30mのビルが林のように並んでいた大都市だったのに、今では地平線が見えるほどまでに焦土だ。あるいは瓦礫やひしゃげた電柱や信号機。保険機関が稼動していないのか、焼け焦げた人間の死体がいまだに処理されぬまま放置されており悪臭が漂っている。ずたずたになった道路や壊れたまま放置された自動車、テロから1ヶ月も経っているのに何もかもがそのままの有様であった。

 「まさにこの世の地獄って感じだぜ。」

 「ぼやくなぼやくな。こーやって立っているだけで給料もらえるんだ。見張りも楽な仕事だぜ?」

 「けどよぉ。」

 荒れ狂う空気はライダースーツが遮断しているので二人の見張りには何ともないが、それにしたってこんな外にはいつまでも居たくはない。と、そのとき一人の子供が二人の見張りライダーのまえにやってきた。

 「ん?なんだ?」

 「ライダーさん腹減った。なんかチョーダイ・・・」

 少年はどうやらちゃんと日本語がしゃべれないらしく、片言の言葉で話している。この年代の学校に行ける子供は10代のわずか3%でしか過ぎず、親達も明日を生きるために子供に犯罪を助長させている有様である。

 「だめだだめだ!ボーヤはママのところに帰りな!」

 「パパとママはキョートで死んだ。だからボク、街のあるここにきた、ここのビル一番きれい、だから食べ物ある。ライダーみんなの味方、だからボクの味方、だから助け・・・・」

 どがっ!

 慈悲の一片もない蹴りが、少年の腹部に炸裂。ライダースーツの力で少年は数メートル吹き飛ばされ、コンクリートの大地に叩きつけられた。

 「とっととかえんなクソガキ!」

 「この銃がてめえのドタマぶち抜く前にとっととどっかいけ!」

 二人のライダー兵は抱えていた軽機関銃を少年に向ける。

 「がはっ、ごほっごほっ」

 だが少年は動けなかった。ライダースーツの強烈なキックによって肋骨が折れ、それが内臓の一部に突き刺さっていたからだ。

 「動くつもりがねえなら・・・・・」

 銃の安全装置をはずす。

 「おいおい、ガキ相手にやりすぎだぜ。」

 「かまわねえよ。ガキ一人撃ち殺されたってさ平気さ。配給品めぐっての争いで死ぬっていうケースよくあるだろう?それにこんな殺風景なところで立ちんぼうっていうのも飽きるもんだしよ」

 「うわあお前、嫌なやつだなぁ」

 「じゃあ止めるか?久々に銃が撃てるんだ。『敵はテロ組織バルラシオンの工作員でありました。このビルを爆破しようとしたために小生は撃ち殺したであります!』・・・で、どうかな?」

 「ひゃっはっは!そんなばればれの嘘通じ・・・・・るんだよなぁ。」

 「んじゃあやりましょうやりましょう。」

 ライダー兵の引き金に指が当てられた次の瞬間。



 どぎゅんっ

 「ぐ」

 額に穴が開いた直後、銃を構えていたライダーは、力なくひざまづいて倒れた。

 「な?」

 どぎゅんっ

 もう一人のライダーが状況を理解するコンマ数秒前には、彼の首に向けて衝撃が貫いていた。吹き出す血。

 「・・・・・?」

 荒い呼吸をしながらも少年が周囲を見回すと、はるか後方からトラックの大群が見えてきた。

 ばるるるるるるるるるる・・・・・・

 トラックの総数は50台、中には装甲車まである。そのトラックの大群はビルを覆い囲むように配置され、中から無数のライダーが飛び出す。

 銃だけではない、剣や斧を持ったライダー達である。

 「入り口の確保に成功しました、ジェッカー大尉!」

 「直ちに非常階段およびエレベーターを制圧せよ!ジャミングをかけて通信妨害をかけろ!その後逃げ道を徹底的に封鎖してドブネズミどもをこのビルに閉じ込めた後、突入を敢行する!ASMは逃げようとするヘリには警戒、警告無視の場合は容赦なく撃ち落とせ」

 どどどどどどど・・・・ん

 地平線のあちこちで爆発と轟音が鳴り響く。

 「ミューラー隊も動き出したようです。」

 「ミューラーのやつめ、時間通り・・・完璧だ。敵があちらに陽動されているうちに本隊は突入を敢行する」

 隊長のライダー兵らしき人物はヘルメットをかぶり、斧を手に持ち先頭に立った。

 「全軍俺に続け、目標は40階の議事場だ!」

 「おおおおおおおお!」

 銃や剣で武装した100余名に及ぶライダーがビルに突入していった。少年は何が起こっているのか、理解できなかった。








 「し、侵入者だ!」

 ごがっ!

 「こ、こいつら武器を持っているぞ!」

 ざごっ!

 「クーデターか!?」

 ぼぎょ!

 奇襲、この時代のライダーは思想上、武器を持つなど言語道断であった。ゆえにいくら数が居るとはいえ、武装した侵入者ライダー達の前には死体の山を築き上げていく土壁でしか役割を果たせなかった。

 ピピー

 <地下通路の封鎖、エレベーターの封鎖に成功しました>

 ピピー

 <動力室の制圧に成功。1分後に全電源を停止させます>

 「もろすぎるな・・・・・」

 男、ナイトハルト=ジェッカー大尉はそう感じた。ここまでうまくいくと逆に何かの罠ではないかという錯覚すら覚えてしまう。

 「外部の敵に対してもろすぎるだけでしょう」

 「それにしてはあまりにもあっけなさ過ぎやしないか?」

 やがて電源が落ち、すべての電子ドアのロックが閉鍵される。

 「よおし、これで警備隊の動きは止められた。全軍続け!」

 斧を構えなおしたジェッカー大尉は部下に鼓舞し、突入を再開した。





同時刻
40階 議事場

 突然の停電、その直前の侵入者によって周囲の議員達はパニックを引き起こしていた。

 「ええい警備隊は何をやっている!」

 「圏外だと・・・くそう携帯が通じない!」

 「エレベーターが止まっているだと?それに外には対空ミサイル車両が配備されて何もできんだと!?」

 会場にいる議員の数はおよそ5000人という膨大な数である。議会制が始まった100年前は500人からスタートしたのだが、いくらなんでも議会政治としてはあまりにも多すぎる議員数である。だがしかし、これがまかり通っていたのだからたまったものではなかった。

 「代表!真崎代表!」

 一人の女性議員が自分達のリーダー・・・先月代表になったばかりの20歳の若者の名前を連呼した。

 「・・・」

 「この責任はこのビルの管理していたあなたにあります!この日に限って警備員の3割を休暇に回すなどという非常識な命令を下したあなたに責任があり・・・・」

 「それが何か?」

 言い終える前に、議会の真ん中に座っていた若者は、そう答え、

 「な・・・・・」

 そのあまりにも非常識な言動に対して、周囲の議員は激昂した。

 「責任放棄をするというのか!」

 「この非国民め!」

 「やはりこの男に政権を任せるなど間違っていたのだ!素直に先代代表の息子に政権移譲させればこのようなことにはならなかった!」

 罵声と怒号が会場中にとどろき、それはまるで猛獣の檻を思わせるような有様であった。だが青年はその声など丸で聞こえないかのように、冷めた顔をしたままで言い返した。

 「ほお・・・若干1歳の赤子に人類の命を預けると・・・皆さんはそうおっしゃるのですか」

 「何を・・・!」

 それ以上の返答が帰ってこなかったので青年は続ける。

 「そもそもレジスタンスの法律では『レジスタンス代表には血族の中でもっとも実行支配力に長ける人物が選ばれる』という条項が書き加えられており、私の兄の雅彦以外には浅岡の名を次ぐのはこの私と兄の息子のみ。しかし兄の息子はまだ1歳になったばかりでとてもではありませんが、命を預けるにはまだ幼すぎませんか?ゆえに私が法の適用によってこのように選ばれ、レジスタンスの上に立っているのではないのですか?」

 「法を盾に・・・!」

 「その法を作ったのはあなた達の祖父の代と、私は聞きましたが・・・」

 「ぐ・・・!」

 「ゆえに浅岡の名を次ぐものは次々と消されていき、そしてこの世界に残った浅岡成美の血は私と兄の息子のみ―――でしょう。ちょっと兄があなた達の言うことを利かなかった、たったそれだけの理由でミサイルを撃ち込むとは・・・ねえ」

 「先月のミサイルが我々の仕業だとでも言うのか!」

 「あのミサイルで死亡した議員もおるのだぞ!」

 「そうだ、我々にも生命の危険があったのだぞ!」

 「ええ。彼らごく少数の野党133名全員が都合よくこの議会に残されて、それも安全保障税撤廃の法案の作成中にですね。しかもあなた達は都合よくこうやって今に至っている、変じゃないですかね?」

 「ぐ・・・・・・」

 議会の中央の青年は冷笑しつづけている。まるでうろたえている議員達をあざ笑うかのように。

 「私はね、あなた達が嫌いです。あなた達が私をうざったい存在と思っているように私もそう思っています。いつか撃ち殺したい、売り飛ばしたい、内臓ぶちまけて新聞社に送り付けたい、性奴隷にして一生自分の噤みモノにしたい。そう思っているはずですよね・・・先月より私があなた達の利益に反する発言に対して消したい気持ちが強いのは感じていますし、何より暗殺計画もある程度察知しています。」

 「な・・・」

 「ここまで来ると、わかりますよね?」

 「まさか・・・まさか・・・・・!」

 ばぁん!

 部屋の扉が爆破され、ライダーの大群が会場になだれ込んでいき、議員達を次々に拘束していく。

 「この時代を築くのはあなた達老人ではない、意思を受け継いだ若者達である。引き際は私が作りますので・・・素直に表舞台から引き下がってください。」

 「こ・・・この裏切り者!」

 「裏切り者はどちらかな?人類を売り飛ばすのが裏切り者なのか、それともあなた達を裏切るのが裏切り者なのか・・・私にはその意図がさっぱり読めません。いまや5億を割った人類・・・これ以上あなた達老人が居座れば人類は老衰、そして死滅しかねません。民の声をまったく聞かずして何が民主主義か、何が議会制か、仮面ライダーか・・・私にはどれひとつとしてあなた達が表に立ってからこれらの正義がまともに実行したのはほとんど聞きません。結論を言えばあなた達には政治家としての器量があまりにもなさ過ぎる、この一点につきます。」

 ばんっ!

 「ゆえにあなた達にはこの議会に立つ資格はない。早々にここから退場させていただこう」








同日午後8時43分
議会場


 「警備隊のライダー300名うち死亡者は91名、残りは全員武装解除しました」

 「我が方のライダーは死亡者11名、重軽傷者合わせて120名」

 「・・・・・議員4890名の拘束に成功。うち自殺を図った者は13名、逃亡を企てて殺害された者は192名に上ります。」

 「逃亡に成功した議員は?」

 「いません。このビルから逃げ出せた者は一切いません」

 隊員のライダーから報告を処理するのはジェッカー大尉である。後に17年後、陸軍ライダーの第2師団長元帥の階級を得るが、当時の彼は士官学校を出たばかりの優等生であったために、まだ20歳の大尉である。

 「・・・ここまで完璧だと逆に末恐ろしく感じるものだな?中尉」

 「まったくです。」

 白髪交じりの中尉のライダーはジェッカーより30歳以上年上であったが、彼を卑屈に見るようなことはなく率直に感想を述べた。

 「そういえば・・・」

 「?」

 「突入したときに子供がいたな。あれは?」

 初老の中尉はやや思案してから、思い出した。

 「ああ、あれですか。どうやら狙撃した見張りのライダーに蹴られたらしく、折れた肋骨が肺に突き刺さっていたので直ちに入院させました。」

 その言を聞いたジェッカーは、不快そうな顔をした。

 「・・・ゲスな奴らだ。士官学校では『仮面ライダーは正義のために戦う誇り高き戦士である』と教えられたが、民間人、それも片言の言葉しか話せぬ孤児に暴力を振るうとはな。堕ちるところまで堕ちたものだ」

 「許しがたいものです。ですがそれがまかり通っていたのが今までの時代です」

 「その通りだ。これからの時代は真崎が、彼がやってくれる。」

 「・・・信用できるのでしょうか?」

 「できるさ。あいつはああ見えて負けず嫌いで子供っぽい一途な面があってな、しかも頑固で完璧主義者だ。」

 「・・・純粋とおっしゃるのですか?」

 まかりなりにもこれからのレジスタンスのすべてを握る最高権力者に対して何たる物言いであるか、と中尉は思った。だがジェッカー大尉はまるで子供の悪口のレベルで彼をなじるような言い分で続けた。

 「純粋とは少し違うな。ただあいつは・・・真崎は、信頼に足りる人物だ。それに・・・」

 言いかけている間に一人のライダー兵がジェッカーたちに報告をした。

 「別働隊のミューラー大尉から通信が入りました。本日18:00、政府機関および軍事中枢の各種機関の完全制圧に成功したとのことであります。」

 「なるほど・・・あっちも完璧のようだ」

 ジェッカーは微笑しながら報告を聞いた。

 「ミューラー大尉・・・たしか真崎閣下と大尉の同期とお聞きしましたが・・・」

 「そうだ。あいつは貧乏家の出でな、俺たちの中では人一倍正義感の強い男だ。公明正大を絵に描いたような奴でな、あっちの方が指導者としてなら真崎より向いていると俺は思っている」

 「私も同意だな、ジェッカー」

 中尉が気づいたときには、彼らの背後にスーツ姿の青年が立っていた。驚いた中尉は直ちに敬礼をし、続いてジェッカーも立ち上がって敬礼する。

 「閣下!」

 「こちらの作業はすべて完了しました。マスコミおよびネット配信準備は完了しています。」

 おののく中尉とは対照的にジェッカーは冷静に真崎に状況を伝えている。そんな好対照な二人に真崎は冷笑しつつも、

 「わかった。」

 「・・・ここまで完全にいくとは、あなたも思ってないのでは?」

 ジェッカーは率直に言った。

 「ふっ、バカをいうな。俺が各地の警備隊を怪しまれないように休暇を出した上に、あれこれの機関を休日させたんだ。これでうまくいかなかったら、その指揮官の能力を疑いたくなる。」

 「悪党め」

 つい本音が出たジェッカーだが、真崎は笑いながら言い返した。

 「お前ほどじゃない。そのおかげで死者は抑えられたんだ。」

 「・・・ミューラーの部隊も作戦は成功したが、心配なのは遠征中の正規軍だ。かのアルバート大将が中国戦線から帰ってくるのにあまり時間がない。察知したら5万のライダーと戦う羽目になるぞ」

 「心配いらない。政治屋のばかどものせいであの部隊は補給物資およびルートが尽きている。アルバート大将の性格からして付近の都市要塞から略奪などしない点と、戦意喪失したライダーの2点からして、こっちに帰ってくるころには戦えなくなっているだろうさ。略奪したらしたで連中の正当性は失われるだけだ。」

 ・・・・・この時代のライダー部隊は「1000万人体制」と呼ばれる大兵力の時代であった。その大半が『安全保障税』と呼ばれる税金の存在であり、これを払えぬ者は徴兵の対象となる。かくして経済システムが崩壊した当時のレジスタンスには膨大な人数のライダーが存在したわけであるが、実際の兵としての質はおせじにも一線級に戦えるような戦闘力など持っていない。さらにバルラシオンによってずたずたにされたレジスタンスがそんな大部隊をまかなえるような国力など到底なく、余剰分のライダーは戦線に送られて数へらしのために殺されるという非人道がまかり通っていた。

 アルバート大将もまた、この『口減らしライダー部隊』のいち指揮官であったが公明正大な性格と卓越した戦術家としての手腕から生還するライダーが多い点から、上層部から嫌われているゆえんであった。そのため彼の部隊にはひとりでも多くの戦死者を出すために、しばしばこういった「嫌がらせ」が行われることがある。

 真崎が悪辣な理由は、この政治屋の手口を利用してクーデター・・・正しくは自分が独裁権を握ろうとしたのであった。もともとアルバート大将の遠征は真崎がレジスタンス代表になる前から行われていたことだ、真崎自身に罪はない、だが真崎は知っていて、さらにそれを計算した上でこの計画を実行したのだ。

 「・・・悪党め。」

 「お前ほどじゃないよ。」

 そういい残して真崎は、マスコミが待つ取材会場へと足を運んだ。





午後9時00分
記者会


 ざわ、ざわ、ざわ

 ざわ、ざわ、ざわ

 ざわ、ざわ、ざわ

 記者たちは今回のクーデターについて同様を隠せないようであった。

 なにしろクーデター実行わずか1日でレジスタンスは、あっという間に真崎一人によってのっとられたのだ。腐敗の温床として民から忌み嫌われていたこの組織が砂の城同然の脆さで崩れ去ったのだから無理はない。

 それ以上に問題だったのが、浅岡真崎である。何しろクーデターの主犯がレジスタンスの代表!

 それも先代のレジスタンス指導者の弟であり、しかも対立して士官学校に飛び出して絶交したほどの険悪な関係。

 就任時には改革派として保守派から忌み嫌われ、暗殺計画まで持ち上がっていたほどなのだから今回のこのクーデターは彼に大義ありという風潮が高まりつつあった。おまけにこうやってマスコミ関係各省がこうも迅速に集められる辺りがなお一層彼、真崎のイメージをよりよくしているのであった。

 ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ!

 真崎が記者会見場に入ったとたん、彼めがけて100個以上のカメラのフラッシュが浴びせられた。目がくらむ勢いだったが真崎は目で覆うようなことはせず、疾走と席に座った。

 すうっ、と息を吸い込み、

 「・・・・・浅岡真崎です。」

 抑揚もなく彼は答えた。冷静という言葉を具現化したこの発言は周囲のカメラマンと記者を違った意味で戦慄させる。

 「本日午後8時00分、レジスタンス内部に確認されたテロ組織バルラシオン構成員およそ4900名全員を拘束しました。同様に彼らによって制圧された各種機関を制圧し、現政権は本日を持って一時解散、全権限は私、浅岡真崎に暫定ではありますが一任することを決定しました」

 うおおおっ、と記者団から声が上がった。

 「・・・従来より前政権までのレジスタンス内ではテロ組織バルラシオンによって傀儡となった人物が多数確認されていました。ですが与野党問わずそのほとんどが傀儡となった当時では彼らを合法的手段で退くことは出来ず、彼らに対する正義を持った人物はむごく、そして非人道な手段で抹殺されていました。」

 「ではあなたは今回のこのやり口からして前政権のやり方に非を唱えることは出来ないのでは?」

 記者の一人が反論をあげた。夕日新聞、テロ組織バルラシオンによって傀儡となった新聞社の社員だ。

 「・・・否定しません。」

 「ではあなたは――――」

 「ですが――――」

 攻勢に出ようとした記者の動きを読んだかのように、真崎は続けた。

 「・・・・・このような手段を取らない限り、現在の状況を打破することが出来なかったのもまた事実です。度重なる戦争で経済は崩壊し、暴虐とも言える重税で人心は荒廃し、正義の象徴だった仮面ライダーは政権維持と暴徒を黙らせる手段に成り果て、識字率や医療は悪化の一途をたどり、かつてこの大地の上にあった国の時代より酷い有様でした。これに異を唱えるのでしたら今すぐにでもその資料とデータを公開する準備は整えていますので、今は落ち着いていただきたい」

 「う・・・・」

 「しかし前政権までの政治家たちは、自分の利権を守るために数千万のレジスタンスの人々から搾取を続けていた。反抗があればライダーを送り込み、正義という旗本で彼らを駆逐し、報道の自由も禁止した。今こうやって政府の記者会見が開いているのは実に30年ぶりであることも忘れないでいただきたい」

 「・・・・!」

 記者は何も言えずに黙ってしまう。

 「それまでの政権ならばこのような会見を開かずにただ単に戦争の結果のみを公開し、それ以上の詮索を処罰する時代でしたが・・・明日より報道の自由を保障し、医療および教育、福祉政策の徹底重視、都市の復興を約束します。なおその間における軍は出兵はやめて防戦に集中し、1000万人ライダー部隊体制は解体、兵力の再編成に努めます」

 おおっと声が上がったが、一人の記者が挙手した。

 「・・・ですが中国にいるアルバート陸戦隊や今回のこの武力制圧に関して異を唱える軍部による抵抗があると思われますが、そのことに対して真崎閣下はどのように対処するか、具体的にお答えいただきたい」

 「現時点で統帥権は私が握っています。各地に出兵している軍には撤退命令を出し、それに反対し現政権に矛を向ける勢力は反乱因子として認識し、殲滅します。」

 ・・・・・

 「私は武断的手段をとりましたが、このような手段をとってしまったことに対して遺憾の意を表します。ですがこの手段以外でなければ現在の状況を打破することはまず出来ず、外圧以外の手段でなければ変えられようがありませんでした。ですが現在の状況からして外圧―――すなわちネオプラントからの圧力に絶えられないほどにまでレジスタンスは衰退しているのも事実であり、崩壊を意味します。ゆえに私は独自の一個師団を統合作戦本部ビルに突入させ、前政権を破壊しました」

 ・・・・・

 「・・・閣下は具体的な産業プランを立案しましたが、それを実現しえる予算や物資は問題ないのですか?」

 「前政権まで貯められていた秘密予算はおよそ8900京7900兆クレジット(日本円換算:80京9790兆円)に及びます。当初この秘密予算は浅岡成美の時代にまでさかのぼり、最初はレジスタンスの予備費として溜め込まれたものですが、いつしかバルラシオンによって不正の温床と化し、およそ100年以上にわたって溜め込まれていきました。資材や石油などのエネルギーも軍部解体によって見込みがおよそ2000億トン以上にのぼり、そこから捻出します。ライダー部隊は一時100万人にまで削減した後に再編成、現在の3分の1である300万人体制に組み換えを実行に移す予定です」

 ・・・・・

 「私は兄がバルラシオンに傀儡となったことを知ってからは反発し、軍人としての道を歩んでいきました。そして兄は自業自得ともいえる死を遂げ、旧法に従って私は代表に祭り上げられましたが・・・私が見たのは退廃した政治ごっこの世界でした。利権と利権がぶつかり合い、戦争のことをごっこと認識して現状を理解するものはまるでおらず、無謀ともいえる軍拡政策が行き詰れば重税に次ぐ重税政策、とてもではありませんが私が手を下さなければ・・・・・いえ、兄が殺されていなければあと5年足らずでレジスタンス首都のここ大阪は、攻め落とされる可能性が十二分にありました。というのも、軍部プランの中に意図的にここ大阪にまで無血で到達できるルートが作られ、それによってレジスタンスを崩壊させるというものが確認されたからです。詳しい資料は後日公開いたしますが、人類解放という正義の元で立ち上げた浅岡成美の思想を踏みにじり、あまつさえ人類を機械帝国に売り飛ばそうとした前政権およびテロ組織バルラシオンを敵性勢力として認識し、今後一切彼らに対して私、浅岡真崎はいかなる恫喝にもひるまず、徹底的に彼らを駆逐せしめることを宣言します」

 「改めて述べますが、これは人類そのものの生存競争です。このままでは人類は、機械帝国によって種が滅ぼされるのです。仮に彼らが滅ぼさなかったとしても、おそらく養豚や養鶏の要領ですべてが管理された、屈辱に満ちた時代を迎えるのは容易に想像できます。私はそのような最悪の事態は決して許しませんし、人類の代表として機械帝国とテロ組織バルラシオンと真っ向から戦うことをここに宣言します」














西暦2312年11月9日午前6時44分
ユーラシア大陸 ネオプランの首都「ネオエデン」南方300km 仮設陣営


 厳寒のロシアの大地に北風が吹き荒れる。

 かつてこの地にあった超国家はすでになく、今は人類を蹂躙しつくした機械帝国が支配している。かつて―――およそ300年前まで、この地球はその機械帝国の手に落ち、人類はあとわずかで絶滅の危機にあった。

 それを阻止したのが浅岡成美、彼女である。結果的に彼女は暗殺されたのだが、その意思は子孫達や同志に受け継がれ、幾多もの激しい戦乱を繰り広げていったが、やがて人類の一部が保身を理由に裏切る連中が現れた。それがバルラシオンである。

 彼らの手によってレジスタンスは徐々に腐敗の歴史を歩み、一時は組織崩壊の危機にあったわけであるが―――

 「あれから17年・・・・・長いようで短かった」

 一人の男性がテーブルの上のコーヒーを飲み干して、つぶやいた。

 「だがその期間の間で幾多の人間が死に絶えた」

 「しかし、それ以前では年間で100万単位のライダー兵が殺されたのだ。比べるのは愚問だが、犠牲は可能な限り抑えてきたつもりだ。」

 「戦う以上、死者が出るのは避けられない・・・わけですか」

 一人の武官が男性、浅岡真崎に尋ねてみた。

 「その通りだ。死者の出ない戦いなどこの世界にあるか?」

 「無いな。あるとすればあの機械帝国のロボット兵士でしかありえない。」

 ロボット兵士はたとえ1体が完全に動けなくなっても、その壊れ損なったパーツを拾い集めて、故障しかけたロボットが自分の損傷箇所を直してしまうのだ。いうなれば人間が死肉を食らっているようなものであり、そのありえない持久戦闘がネオプラントの恐ろしいところである。

 「速攻戦・・・長くても1週間でけりをつける」

 持久戦を得意とする相手に勝つには、速攻で相手を倒さないといけない。ゆえに真崎の軍隊は恐ろしいスピードで戦闘を終えて相手に反撃の機会を与えないようにしてきたのだ。異常なケースとしてはわずか1日や2日で戦闘の雌雄が決したりしていたりすることもある。だがこれぐらい早くないと相手がすぐに立ち直ってしまうのだ。ぐずぐずしていると再生したロボットの大群が攻め寄せてくる。

 「真崎、本当に自分を囮にするのか?」

 同志、ウォルフガング=ミューラー元帥が真崎を心配した。

 「当然だ。奴らは絶対に俺を狙ってくる」

 「・・・・・」

 「奴らは持久戦をしかけてくる。そうなればまずいのは我々だということぐらいわかっているはずだ」

 「180万の軍を維持する補給線・・・負荷が大きすぎる。こちらがぐずぐずしていると補給に限界がやってくるのは素人でも分かる考えだ。俺がバルラシオン軍の司令官だったらこの補給ルートを封鎖してレジスタンス軍を孤立化させるだろうな」

 「そうだ。だからこそ奴らを動かさないといけない。だが奴らはてこでもうごかんだろうから、俺という餌を目の前にちらつかせて暴走させる。」

 「・・・・・」

 「心配するな。そう簡単に死なない。お前達が守ってくれればいいのだからな」

 「人事を言う」

 「自分の事でもある。」

 「・・・・・」

 ああ言えばこう言う。この男を説得するのはやはり無理だと確信した二人は、敬礼をした。








西暦2312年11月9日午前7時35分
ネオプラント首都南方300km レジスタンス拠点






 ・・・・・

 ・・・・・

 ・・・・・





 いかに時が流れようとも、ユーラシア大陸の北方に位置するこの大地には猛烈な寒気が吹き荒れていくのは変わらない。

 だが現代と違うのは上空の寒波が爆発の影響によってかき回されたため、11月であるにもかかわらずこの地帯にはまだ雪が降っていないことである。とはいえ、1月になれば酸を含んだ酸性雪が降り注ぐため、ライダースーツが侵食されるばかりか、蒸発する際に吹き出る酸性の気体も無視できない。ゆえに真崎は年内決戦にこだわっている理由であった。

 「・・・・・全軍、位置につきました。」

 「閣下。いつでもいけます。」

 ネオプラント。300年前に作られたコンピューターウイルス「IQミリオン」が人間を支配するために作り上げた、擬似的な国家だ。これが誕生する前の人間は文字通りごみくずのように扱われていったが、これが出てきてから協力的な人間―――バルラシオンをはじめとする人類の裏切り者を排出してきた。これまでの戦闘経験で人間を根絶するよりも支配した方が早いという結論に達したIQミリオンは一部の恭順する人間だけを平民階級として扱い、そしてそれ以外の人間を奴隷階級とした、典型的な支配階級社会を作り上げていた。

 以来300年間、ネオプラントは恭順しない人類―――浅岡成美率いるレジスタンスと激しい戦乱を繰り広げていったが、バルラシオンはレジスタンスの上層部に食い込むことによって内部から侵食し、一時人類は崩壊の局面に立たされていった。

 「マイクを」

 「は・・・」

 「全軍に聞こえるようにしろ。」

 「了解・・・どうぞ。」

 その崩壊を救ったのが浅岡真崎であった。西暦2295年、若干20歳でレジスタンスの代表に祭り上げられた彼はわずか1ヶ月でクーデターを敢行、瞬く間にレジスタンスの全権を握るやいなや数々の改革を強行、若干17年ですべてを変えてしまった。素手で戦うのが常識だったライダーたちに武器を持たせ、最悪だった生活水準を回復させ、敗戦続きだった戦争も連戦連勝を繰り返し、そして今となっては敵の本拠地であるネオプラントの本拠地、「ネオエデン」を包囲するに至ったのであった。

 「・・・・すう」

 大きく深呼吸して、一拍おき、真崎はマイクに向かって話した。

 「全軍そのまま。浅岡真崎です。重大な作業を行っているものはそのまま作業を続けながら聞いて欲しい」

 やや一拍置く。どうやら自分の演説が周囲に聞こえていることを確認したようである。やがてそれが分かるやいなや、真崎は続ける。





 「いよいよ我々はネオプラントを追い詰めるに至った。我が軍は当初の予定どおり午前9時に作戦を開始するが、敵は我が軍の5分の1の兵力でしかないと思って甘く見てはならない。苦節300年、愚かな旧人類によって我々は300と12年に及ぶ惨め極まりない、卑劣な尻拭いをさせたれていることを改めて認識してほしいし、同様に我々を裏切ったバルラシオンは愚かな旧人類の成れの果てだということを忘れてはならない。」





 「ゆえに敵は死兵となってかかってくるはずだ。これは我々人類と旧人類による種の存亡をかけた最終戦争であり、旧人類はその存亡をかけて、いかなる手でかかってくるかは分からない。だが彼ら旧人類の尻拭いをしたのはいつも仮面ライダーと呼ばれる血塗られた戦士たちばかりだった。我々はその戦士の名を引き継いでいる以上、決して負けてはならないのである。一兵残らず叩き伏せよ。後腐れがないように完璧を極める心がけで叩き伏せよ。この戦争の結末はまだ決まっていないが、結末次第では今の状況よりさらに悪化する可能性がある以上、ベストを尽くしていただきたい。」





 「最後に、我々の勝利は戦って勝つことではない。ただ勝つだけでは旧人類と同じ無反省と無寛容からくる愚かなサイクルを繰り返すだけである。ゆえに我々は勝利を分かち合い、後世にそれを伝えることこそが真の勝利である。立てよ戦士たち。愚かな歴史のサイクルに終止符を打てるのは仮面ライダーしかいないのであり、その名を受け継いだ諸君らにしか出来ないことである!」





 「う・・・・・」



 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」






 演説が終わった直後、全軍から津波のような喚起の声が戦場中にとどろいた。

 今レジスタンス軍は陸、空、海、および宇宙のライダー師団全兵力120万と、機械化部隊60万、アーマーライダー部隊1万という莫大な兵力を展開していた。対するネオプラントは4月からによる執拗な成層圏レーザーによる絨緞爆撃を受け続けたせいでほとんどの兵力を失っており、確認しただけで30万を割り、しかもその大半がエネルギー不足や整備不良でかろうじて動けるかの瀬戸際状態であった。

 さらにひどいのはバルラシオン率いるデビルライダー達である。先の真崎の演説はどうやら意図的にデビルライダー側に流されたらしく、全軍に衝撃を与えていた。よもや自分達を「戦争の元凶」呼ばわりし、さらに「種の存亡」とまできたのだ。今までだったら殺されることはあっても殺されなければ捕虜として扱われていたが・・・あの演説からして運良く捕虜になったとしても果たしてどんな扱いを受けるのか知れたものではなかった。

 「ど、どうするよ!俺達皆殺し・・・だぞ!」

 「やらなければやられる!」

 「勝てるのかよ!たった5万でどうやって180万の兵力を倒せるってんだ!?」

 「それにスーツも整備不良がほとんどだ・・・エネルギーが持つかどうか・・・」

 「武器だって錆びだらけだ。最新装備と殺す気満々のあいつらとどうやって戦えってんだ!」

 「こ、降伏だ!降伏しよう!」

 「降伏したところで俺達は人間扱いされるのか!?」

 バルラシオンの総動員兵力はわずかに5万弱、これが彼らに残された兵力だった。しかもそのほとんどが整備不良のライダースーツに加え、武器弾薬やエネルギーも尽きかけた状態、さらに生産プラントがネオプラント首都のみとだけあって食糧生産が追いつかず飢えや伝染病まで出てきている有様だった。

 「こうなったら・・・あの野郎をやるしかない!」

 「誰をだよ」

 「決まってんだろう!あの生意気な演説をやったクズ大統領だよ!あいつ一人をやればあの大軍勢は尻尾巻いて逃げるだろうさ」

 「・・・そ、そうか!頭をやればあいつらは崩壊するのか!」

 「よおし!やってやる!あいつらがやるならこっちもやってやる!」



 これが真崎の狙いだった。

 現時点でのレジスタンスはちょうどネオエデンを取り囲むように三日月型の陣を引いており、その中央には浅岡真崎がいる。中央突破による攻撃を仕掛ければ真崎殺害のチャンスがめぐってくるのであり、人類の希望たる彼の殺害はレジスタンスの内部混乱や動乱を決定付けるものだ。バルラシオンやネオプラントがレジスタンスを倒すには、それしか手段がない。

 だがこれこそが真崎の狙いだった。彼は演説をすることによって全軍の士気を奮い立たせるだけでなく、敵に焦りを覚えさせて指揮系統の混乱や末端兵の動揺および暴走を誘発したのだ。自分を自ら囮にすることによって動きが限定化される以上、相手の動きを容易に予測できるのであり、対策や手段をいくらでも練ることが出来るのであった。

 「閣下。お疲れ様です」

 「ああ、例のあれは完璧かな?」

 「万事抜かりなく。」

 側近の一人が真崎にトランシーバーの形をした機械を渡す。

 「番号は4639.入力したらこのスイッチでやれます。」

 「わかった。」

 真崎はうなづき、ライダースーツの着替えを始めた。













同日午前9時00分

 「作戦スタートです。」

 「フェイズ1開始。」

 「Fire!(撃て!)」

 ネオプラント北方500kmの海上に位置する、およそ90隻の大艦隊による16500発の巡航ミサイルによって戦端が開かれた。

 「対空迎撃!」

 「数が多すぎる!こちらの処理能力を超えたミサイルです!うわああああ!」

 「ネオエデン」にあるミサイル迎撃システムは同時4000の目標を瞬時に迎撃できる防空システムを有しているが、それのおよそ4倍という恐ろしい数のミサイルに対する処理能力は有していなかった。誘導ミサイルという名の無慈悲な嵐は敵首都を、飛行場を、警戒飛行していた戦闘機を、防空システムのことごとくを、布陣したネオプラントのロボットを、デビルライダーに降り注ぎ、殺意の炎の中に消し去っていく。

 うち数発のミサイルが「ネオエデン」の外気から中を守る天井のドームに直撃、乱雑な大穴を作り出し、さらにそこに数十発のミサイルがむき出しになった都市部に振りそそいだ。

 「うわああああああああああ!!」

 内部を守っていたバルラシオンおよびネオプラントのアーマーライダー部隊の大半がこのミサイルの直撃と爆風を直に受け、灼熱の業火に消え去っていく。いくら力自慢のアーマーライダーといえども上空に対する防御手段は有していない。ましてやミサイルに対する防御手段を持つ防空システムが完膚なきまでに破壊された以上、実質上ネオプラントの制空権は今のミサイルの飽和攻撃によって完全に奪われる結果となった。 その間にも陸軍は前進をはじめ、海軍ライダー率いる海兵隊も「ネオエデン」の北方めがけて猛進を始める。迎撃しようにも北方と南方の両サイドから挟み撃ちに攻められるばかりか、ミサイル飽和攻撃による混乱はネオプラント軍の出鼻をくじかせた。





午後3時23分

 「フェイズ2!」

 続いて出てきたのは空軍である。既に壊滅した防空システムおよび制空権。上空から舞い降りる爆撃から全軍を守るすべは事実上存在せず、猛烈な鉄の嵐が降り注がれ、ネオプラント軍はますます混乱に拍車をかけた。

 そのうち、数十機の輸送機が空挺降下をはじめた。

 「行けえ!奴らの要塞の開門をしろぉ!」

 「ネオエデン」に限らず、この時代の都市要塞には対核シェルター並の強力な外壁によって守られており、突き破るには莫大な時間もしくは労力を有する。以前エカデリンブルク要塞がナイトハルト=ジェッカー率いる突入部隊によって外壁が破壊されたが、あれはリアロエクスレーターによる猛烈な集中火力や爆破作業の賜物であるが、今回は外壁を守るように布陣するロボットの軍勢がいる以上、まだ攻城戦に至る段階ではなかった。何より猛烈な抵抗がある以上、被害を時間の浪費を防ぎながら開城する手段、すなわちがら空きになった要塞上空からによる突入部隊が鍵を握るわけである。

 「まずい!中に突入された!」

 直ちに全軍は要塞内に戻ろうとするが、目の前には莫大な数のレジスタンス軍が迫っている。

 「奴らは後どれぐらいで接触する?」

 「あの速度ですとおそらくあと1時間後!」

 長いようで短い時間。たった1時間で中の侵入者を一掃出来るわけがない。

 「ええい!」

 かくなる上は敵を撃退せしめる―――すなわち真崎を叩けば中に入った空挺部隊を孤立化させることが出来る。

 「全軍突撃!中央の真崎の首を叩き落せ!」

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 殺意と希望が混同するという奇妙な感情を持ちながら、デビルライダーの一団が突撃を敢行した。狙うは中央突破、堂々と真ん中にいる浅岡真崎の部隊だ。

 「敵はわずか5000!叩けるぞぉ!」

 このとき真崎の陣営には彼率いる親衛隊およそ5000がいるだけであった。真崎は我ながら残酷だと思いつつ、

 「ひるむな、敵は狂った死兵でしかない!あわてずにシールドを構えて防御陣を引け!後退しつつもけん制射撃戦闘!」

 5000対5万、いかに烏合の衆とはいえ10倍の兵力差を覆せるほど親衛隊は強くはない。真崎はまともにぶつかるつもりなど毛頭なく、部隊を徐々に後退させていく。

 「逃がすなぁ、突撃!」

 逃がさんとばかりにデビルライダーの大部隊が真崎の直属部隊めがけて殺到。続いてそれを追うかのようにロボットの大部隊が殺到し始める。



 ・・・しかし一向に戦端が開かれるようなことはなかった。一定の間隔を空けたまま両軍は追走をしているだけであり、白兵戦闘らしい戦闘はまったく起こらなかった。せいぜい銃撃によるけん制射撃戦闘が行われるだけで血と肉が踊る殺戮は未だに起こらない。

 「深追いするな、何かの罠かもしれない」

 デビルライダーの一部隊の将軍がこの不可解な現象に気づき突出をやめるように命令を出したが、末端の兵士まで頭に血の上りきったデビルライダーたちは一向に激走をやめようとしない。兵達は目の前の総大将が臆病風に吹かれて逃げ腰になっているものとすっかり勘違いしており、司令官の命令も聞くことすらかなわなかった。

 やがて猛烈な突撃に疲れたのか、デビルライダー隊が速度を落として距離が開くと、追っている真崎直属の部隊から重火器による射撃戦闘が行われた。

 「あいつら俺達が疲れるのを待ってやがる!」

 「臆病な大統領の連中らしい外道な戦法だ!」

 「あいつらにはライダーの誇りはないのか!叩き潰してやる!」

 怒気が疲労を凌駕し、再び両軍は追走劇を再開した。










追撃戦が始まっておよそ23時間が経過


 すでに追走劇は80kmにおよぶ長い行程に及んでいた。デビルライダー部隊やそれに追走するネオプラント本軍は本拠地からかなり離れてしまっている。

 「・・・そろそろいいかな」

 バイクの後部座席に座りながら様子を眺めている真崎はころあいを見計らったようである。

 4639

 手に取った発信機に番号を入力した10秒後、



 ばごおおおおおおおおおん!



 突如デビルライダーのいる地点のやや後方から、追走劇が始まった付近までの間に大爆発が起こった。

 「な、なんだ!?」

 長蛇の列となって追走していたデビルライダー部隊+αはその爆発に巻き込まれて混乱を起こし、そして自分達がはめられていたことにようやく気づいた。だが時すでに遅し、

 「7時と5時の方向より敵師団が急速接近!数およそそれぞれ2万!」

 「4万の部隊にはさまれただと!?」

 混乱の渦中を狙ってきたかのように陸軍ライダー師団が強襲を駆けてきたのだ。長時間に及ぶ追走劇によってデビルライダー全軍は疲弊した結果、隊列の長蛇化と密集率の低下を引き起こしていた。その途中で起爆地雷による混乱の渦中を襲ってくるとは・・・・・!

 「全軍突撃!6月の借りを返してやる・・・!」

 「わが師団汚名返上の絶好の機会・・・一兵残らず叩き伏せよ!」

 5月の前哨戦で多大な損害を被った第13ライダー師団大将ハロルド=フォッカー大将は左翼、6月のエカデリンブルグ要塞攻略戦において壊滅的損害を被った第11ライダー師団メアリー大将の右翼による2個師団の挟撃は殺戮的な破壊力を生み出した。両軍共に攻撃的な性格の強い師団であり、増して両者は前の戦闘で屈辱的な大敗を受けたのだ。両者のその敗北の恨みは非常に強く、怒りの矛先はデビルライダーに向けられた。

 「全軍後退!こうたーーいい!」

 直ちにデビルライダー隊は後退を始めたが、爆発の影響があってか混乱状態で統制が取れなくて動くことが出来ず、無防備状態のまま戦端が開かれた。

 「うぎゃあ!」

 「うご!」

 「ぎゃああ!」

 まさに釣りであった。防御に徹していたネオプラント軍を攻撃に踏み切らせた浅岡真崎、という餌は非常に魅力的だったようである。本来の戦略を見誤って突撃をしてしまったのだ。ただでさえエネルギー不足で兵站が維持することが出来ない最悪のコンディションであるにもかかわらず、である。逆に見ればそこまで彼らは追い詰められていたことであるが、それを見極めた真崎の戦略眼は常軌を逸脱していたと言うしかなかった。

 そんなデビルライダー隊は猛攻撃に晒される中、やっと後退をし始めたわけであるが、
 
 「3時と9時の方向より新たな敵影!師団クラスの大兵団です!」

 「ばかな・・・!」

 「1時と11方向にも敵影を確認!両翼ともに2万の大群です!距離およそ8000!」

 将兵はやっと気づいた。自分達は包囲されている・・・!

 さらにその直後、はるか後方、首都で爆発と閃光が起こった。ミサイルによるものではない。

 「まさか!」

 がら空き状態となったネオプラント首都への敵の侵入を許してしまった。こうなる可能性は十二分にあったのに目の前の目標に惑わされてしまったのだ。追いかけていくうちに次第に首都から引き離され、その隙に別働隊による侵入作戦が・・・!

 だが時は既に遅かった。半径10km圏内は敵軍に包囲されてしまっている。ネオプラント本部隊10万とバルラシオン5万合わせて15万に対して相手は10万弱、数の上では圧倒的に有利だったが兵の質や士気は明らかにレジスタンス軍の方が圧倒的に上であった。

 「閣下。」

 「全軍攻撃を開始。後の指揮はウォルフガング・ミューラー元帥に委任する」

 真崎の本部隊が後退すると同時に攻撃が開始された。





同時刻


 「うてぇ!うてぇ!」

 開門されたネオプラント首都要塞から30万以上の大部隊、そして1万のアーマーライダーによる機甲師団がなだれ込んでいく。内部にいる防衛部隊は勇敢に戦ったが根本的に数が違いすぎていた。

 武器の質も違いすぎたし、士気も違いすぎた。

 戦闘指揮官の質も違いすぎていた。

 「全軍、目標は敵首都の中央管制センターだ。そこを抑えれば我が軍の勝利である。なお、先ほど大統領閣下が外の敵の包囲に成功したとの報が入った。もはや中の敵は烏合の衆でしかない。人類を絶滅しかけたネオプラントの機械どもを一体残らず駆逐し、人類の未来を切り開けよ!」

 別働隊を指揮するのはナイトハルト=ジェッカー元帥である。彼の卓越したその指揮は敵首都に入っても全軍の足並みをそろえさせ、興奮のあまりに命令系統の混乱を一切起こすことはなかった。むしろ敵の本拠地に入って全軍の気が引き締まったかのような印象さえ受けてしまうほどだ。

 「第10師団に命令。テロ組織バルラシオンの本社ビルを制圧、鈴木社長をはじめとする幹部の全員拘束せよ。」

 ネオプラント首都にはテロ組織バルラシオンの本拠地がある。当然中にはそのボスである鈴木社長がいるわけであり、制宙権や制空権を完全掌握した今では彼は宇宙に飛び立つことも出来ずにこの地に閉じ込められているようになっているわけだ。彼の存在はテロの再発を意味するものであり、拘束はこのネオプラント首都制圧に匹敵する重大な意味を持っていた。

 第10師団はあっという間に本社ビルを取り囲む。ありの子一匹すら通ることが許されぬ厳重な包囲陣は地下の脱出路にまで及んでいた。逃げるとすればヘリか何かで空を飛ぶしかない。

 <テロ組織バルラシオンに継ぐ!貴様らは完全に包囲された、直ちに武装解除をし投降せよ!従わない場合はこのビルごと吹き飛ばす!>

 第10ライダー師団長トーマス大将直々の投降勧告がなされたが、本社ビルは一向にしんとしたままだ。

 「・・・中に人は?」

 「居ます。サーモグラフィにも二酸化炭素反応からみても500〜1000人単位の人間が居ることが分かっています」

 「・・・ロケットで脅しをかけよ!」

 砲兵部隊によるロケットがビルの近辺で行われた。爆裂が地響きを引き起こし中の人間を恐怖に至らしめる。

 そのうち1人の砲兵が操作ミスを引き起こし、一発のロケット弾がビルめがけて殺到―――――




約3分前
ネオプラント首都 テロ組織バルラシオン本社ビル 50階社長室


 「いいかげんにしろぉ!一体いつになったら小娘をやれるんだ!」

 <すまねえなシャチョーさん。どうやらあいつらは作者の加護を受けているらしくてさ、ライダーハンターも2つもやられちまった>

 「このくず!ろくでなし!むのう!お前がぐずぐずしているからこっちは大変なことになってんだぞぉ!」

 <俺だって逃げるので精一杯だったんだぜ。それに通信越しじゃ状況は分かりませんなぁ>

 <テロ組織バルラシオンに継ぐ!貴様らは完全に包囲された、直ちに武装解除をし投降せよ!従わない場合はこのビルごと吹き飛ばす!>

 「ばっきゃろー!こっちは30万のライダーが要塞内に入ってきてんだ!しかも制空権まで完璧に奪われて空に逃げることも出来ん!お前のいるそっち(21世紀)とは比べ物にならんほど悲惨な状況だってんのがわかんねぇのかよぉ!」

 どごぉん!どごぉん!どごどごどごぉおおおん!

 <何ですか今の?花火でもやってんですか?くくく・・・>

 「社長!砲撃が始まりました!レジスタンスどもがロケットの威嚇を・・・!」

 「うぬぬぬぬぬぬ・・・・うううう!?」

 通信しながら怒っている鈴木社長の目に飛び込んできたのは、自分めがけて殺到してくる先ほどのロケット弾であった。

 「うああああああああああああああああ!!」

 ばごおおおおおおおおおおおんっ!

























ζライダー
MISSION NORVEMBER「決着の体育祭」

第1週「復讐の出会い系テイクアウト〜浅岡宗一最期の日!?〜」















 きゅういいいいいん、

 ちゅいいいいいん、

 がちょ、がちょがちょちょん、

 しゅおん、しゅおんしゅおおおおん、がちゃちゃん

 きゅるるるるるるるるるるるうううう

 がちょんがちょん

 「最終負荷テストクリア。テストオールオーバー。お疲れ様です少尉」

 地下の薄暗い空間、左腕が露骨に機械になっている金髪の女性がいた。

 「・・・たく。機械の腕っていうのはどーも変な気分ね。」

 メイリン=ルイ、先月の戦闘でアーマーライダーに握りつぶされた際に左腕を失っていた彼女は、今ここで新しい腕をつけてもらっていた。無骨な機械の腕は人間の肌色とはまったくミスマッチである。本来ならばこの義手の表面に人の肌と同じたんぱく質や肉を植え込むのだが、神経接続や負荷テストを実施中であるためにまだむき出しの状態でしかない。

 別にこれは珍しいことではない。激しい戦闘を続けていけば腕や足がなくなってもおかしくはない。だが問題なのは「腕や足が欠損しただけで」優秀な兵士が前線から遠ざかることを危惧した真崎が軍令部に命令して発案した措置だ。ライダー兵の補充には限界があるし、訓練や装備品などの「維持費」など馬鹿にならない。普通の人間の兵科の3倍以上のコストがかかっているのだ、おいそれと「はい、怪我したからもうやめていいよ」というわけには行かないのだ。

 「戦争中ですからね」

 「"ここ"は、戦争地帯じゃないわよ」

 整備員の発言を皮肉るメイリン。戦争で問題になるのは兵士だ。機械帝国ネオプラントはそこらの機械をかき集めて軍隊を作っており、一体を倒しても倒したロボットの部品を再利用して補填しているのだ。言うなれば人間の死肉を食って補給しているようなものである。無論こんな「ありえない」手を使ってくる相手である以上、こちらは可能な限り兵士の数や質を維持しなければならないのだ。

 「じゃあ少尉、腕の電源を落とします。そこの椅子に座ってください。」

 機械の腕に肉付けするため、メイリンは機械の腕をテーブルの上に乗せると、腕のモーターが止まった。感覚がなくなった腕はすぐさま「重い鉛」に変貌して彼女の体の制御から離れた。

 「おもっ」

 「そりゃあ15kgはありますからね。神経接続カットよし、外します」

 ということで未来のライダー兵のことごとくは、負傷して体の一部を失ったら即刻義手や義足をつけるように義務付けられているのである。負傷した兵士を可能な限り早く復帰させて戦線を維持させるためにはこれしか手段がないのだ。まさか死んだ人間の腕をくっつけるわけにはいかないし、24世紀では実際それが出来るがその手術費用やコストは義手義足の数倍に跳ね上がる。真崎はこれをベストな手段とは思っていないが、少なくとも「ベター」であると自負しているつもりだそうだ。

 「よっと。じゃあ肉付けのたんぱく質をつけてきます。夕方には肉付けが終わる予定ですのでしばらくお休みになってください」

 「そーさせてもらうわ。」

 存亡をかけた状況は、この手の「非人道行為」を発生させる。裏切り、虐殺、その他色々だ。だが滅亡してしまっては非難されることもないが、することも出来ない以上、真崎は「じゃあ他にもっといい手段があったら言ってみろ」と言うのである。かくして真崎のこのやり方は不服ではあるが賛同され、ライダー兵のことごとくは怪我したら機械の腕や足がつけられているのであった。





 「・・・ふー」

 やがて右手一本のメイリンは、さっきまでいた工作室に隣接している休憩所に入って一服していた。右手一本は正直精神衛生によくない。いつもの感覚での生活を送れない以上、気分がよろしくないのだ。だが腕を一本失うことを認めないメイリンではないのでしばらく我慢していたが、今まで自分が惨殺してきたデビルライダー兵のことを少し考えてしまう。

 「ロボットや生体兵器はともかく・・・デビルライダーの中にも五体不満足な奴らはどれだけいるのかしらねぇ」

 デビルライダー兵は人間である。ただし機械帝国ネオプラントとの共存を目指して人類を裏切った憎むべき存在である。彼らが所属するテロ組織バルラシオンの発祥は2040年、浅岡成美がテロによって死亡した時に彼女に対する不満因子が集結して産まれたというそうだ。気持ちは分からなくは無い、何しろそれまでの人類は容赦なく核兵器によって無残に消されていったのだ。生き延びるためには彼らと戦うのではなくて彼らとの融和の道を図る、それも一手であろう。

 だがメイリンが許せないのは、融和を図るためにそれまで恩義にしていた人たちをバルラシオンは売り飛ばしたことだ。ネオプラントと同じことをやって彼らに危険因子では無いことを証明しようとしていたのが許せないのだ。同じ人間に向かって核兵器や毒ガスを打ち込んだり、政府要人や企業の重役を次々と脅迫や暗殺したりとおおよそ人間であるならば吐き気を催すような悪行を彼らはやってきたのだ。

 メイリンもバルラシオンの被害者の1人である。彼女はライダー兵になる前にはアメリカミシガンにあった大学の心理学科であった。そこで彼女は「素敵な男性」と出会って電撃的な恋をして、在学中であるにもかかわらずついに結婚するまでに至った。両親は結婚には賛成だったが「せめて卒業してから」と難色を占めていていたがメイリンはごり押しの形でその男性と結婚をしようとしたのだ。

 それがまずかった。メイリンにとって忘れもしない西暦2303年4月7日、その日はメイリンの結婚式であった。戦争中で疲弊していた世の中でこの結婚式は彼女だけではなく多くの人にとって希望という意味のあるものであった。だがその式の最中、一発の核ミサイルが飛んできたのだ。恐らくはその式が政治的な意味を持っていることを恐れたバルラシオンが放ったそうであるがそんなことは関係ない。定員オーバーのシェルターにメイリンは、婚約者男性からかばわれる形で放り込まれたのだ。

 「・・・・・はー」

 2本目に火をつけるメイリン。どうも右手一本では火をつけるのも難儀だ。

 核の結果は悲惨だった。シェルターから出てきたメイリンが最初に見たのは、核によって吹き飛ばされた世界だった。メイリンをかばう形でシェルターから出ていた婚約者は、核の炎で黒焦げになってその素顔も分からない有様だった。唯一判別できるのは彼の手につけられていた結婚指輪それだけであり、騒動のどさくさでシェルターに逃げ遅れた彼女の知人両親、大学の親友や講師、そのほか色々彼女を取り巻く全てが奪われたのだ、たった1発の核兵器によって。

 そこからメイリンの復讐が始まった。ライダーになって自分から全てを奪った奴に復讐をしてやる。かくしてメイリンは命を懸けて日本に渡り(当時アメリカはまだネオプラントの勢力下であった)、レジスタンスの軍隊に入ったのである。通常ライダー兵は5年の兵役以上が条件になるのだが、どうやらメイリンには白兵戦の才能があったらしい。軍に入ってわずか3年でメイリンはライダーとなり、そこで事情をまったく知らない宗一やアルフと出会ったのだ。

 「・・・・・・」

 タバコをすってぼけーっとしている間、部屋に宗一が入ってきた。

 「・・・・・・」

 「あ・・・ソーイチ」

 メイリンはその後に「どうしたの」と言うつもりだったが、その前に宗一が答えた。

 「腕のメンテナンスに来ただけだ」

 「あらそう」

 先を越されたこの気分、メイリンは気に食わなかったが顔には出さないことにした。

 「メイリンは腕は大丈夫なのか?」

 「さあねぇ。実際つけてまだ3日そこらじゃ何ともいえないわよ」

 どことなく宗一の言には悲しみが浮かんでいる、ここ2週間はずっとこの調子だ。

 「そうか。では」

 そういい終えた宗一はその場を後にして休憩所にはメイリンひとりだけとなった。

 「・・・・・・・・はぁ」

 がっくしと肩を落とす。無理もない。あいつは私を今まで信頼していた以上、よもや先月のアレで嫌な過去を暴露されれば、近寄りがたい印象もあってしかるべきだろう。確かに自分はライダー兵になった理由は復讐であり、実際問題あの殺人凶の言うとおりのことをやっていた。ソーイチはそのことは知らなくても私の過去をある程度知っていたことはこっちでも分かる理屈であったし、そのことについて深くつっこまない性格であることも理解していた。大方私の事情は、アルフから聞いているのだろう。あいつは初めてライダーになっての付き合いなので、信頼に足りる人物だから周囲のライダー兵以上に私の事情をしっている。だからこそ、暴露された時のショックは計り知れないのだろう。

 だからといって何で自分が気を落とさなきゃならんのか。その何ともいえぬ不処理感をメイリンに襲っていた。元はといえばあの殺人凶たるナイト=ポールがいけないではないか。あいつが核を落とさなきゃ私は今頃結婚してそれなりに幸せな家庭を送っていたし、ライダーにならなかったかもしれない。たった一発の爆弾で人生が狂ったのは宗一だけではなく、私もまた同じなのだ。だからこのむかつき感が取れなくて仕方がない。

 「ああもう!たく!」

 行き場のない怒りを壁にぶつけたメイリンは休憩所を後にしようと扉を開けたその時、





 <あ〜る〜はれた〜、ひーるーさがりー>

 <みーらーいーへつづーくみち〜>

 <マーシーンが、ゴーゴーゴーと>

 <ぼくらをのせていく〜>

 <かわいいぼくらが、部品にな〜る〜よ〜>

 <かなしいひとみで だれもみてな〜い〜>

 <どらどらど〜ら、ど〜〜ら〜〜>

 <ぼくらをの〜せ〜て〜〜〜>

 <どらどらど〜ら、ど〜〜ら〜〜>

 <マシンがゆ〜れ〜る〜>



 その奇妙な歌声がますますメイリンの神経に障っていた。バイク格納庫と休憩所は隣接した場所にあり、工作室に行くにはこのバイク格納庫を通らないといけない。

 メイリンはこの格納庫が嫌いだ。何というか、わがままバイクが自分勝手にやりたいことをやって秩序というものがない。まるで浮浪者ばかりのダウンタウンそのものだ。なまじライダー兵より力がある以上、こっちの方が余計にたちが悪いったらありゃしないし、何よりバイクたちは自分に対して反感を持っている印象さえあるのだから。

 「・・・・・」

 <あ、メイリン隊長!>

 まるで確信犯のレベルで、一台のバイク、11号機がメイリンの元にやってきた。

 「あんたら・・・その歌の意味分かってんの?」

 <やだなぁ〜。子馬が売られちゃう歌でしょ>

 <自己の存在を継続してゆく上で、人が重要視するのは心情よりも経済的な因子って事でしょう?>

 <そうそう、友情が貧困に負けちゃうんだよね>

 口々に言うバイクたちにメイリンは疑問をぶつけた。

 「・・・そもそもあんたら、歌の歌詞が違ってんだけどさ」

 だがバイクは一蹴した。

 <やだなぁ隊長は。だってこの歌って、悪の組織のJESRAG(ジェスラッグ)に登録されてるんでしょ?>

 <うんうん。元々は日本の歌じゃないのにさ、何で日本人の曲の翻訳者に著作権があるんだろう?>

 <大体この歌の作者のフォスターってさ1800年代の人だろう?この時代の1世紀前の歌にまで著作権かける普通?>

 <その理屈ならベートーベンとかモーツァルトとかさ、他の曲にだって著作権かけられるよねぇ>

 <かの有名なネズミーマウスも著作権を伸ばしほうだいしてるけどさー>

 <あっちは作者が一度パクられたうえに裁判でも負けた歴史的背景があるからまだ仕方ないさ〜、それに比べてジェスラッグときたら・・・>

 <そうそう。あいつら作曲家までに著作権料をふんだくどろうとしてたしねぇ>

 <他人が勝手に使うならまだしも、自分が作った曲で自分が演奏するのなら問題ないのにさ〜>

 <浅岡真崎の「特権は腐ったミカン」発言そのものだよ〜。>

 <あーあれだろう。「組織の腐敗は1人の特権を享受する人間から始まる」っていうあれ>

 <そうそう。公平をきたすために特権者をどんどん増やしていくうちに、最終的には特権そのものが自らに課せられた使命であることに論点が摩り替わっていって、結果それが組織の腐敗につながっていくんでしょ。システムもその特権のために正常に機能しなくなって、最終的にはその特権者によって社会全体が混沌化していくんでしょう?>

 <まさにそれは一個の腐ったミカンのカビから他のミカンにまで浸透していく。本当に的を得た発言だよねあの政治家は>

 <そのひがみ根性が人間が5000年以上経っても精神面で発達していない根拠なんだよねぇ>

 <こう考えるとネオプラントってある意味この特権システムが完全排除化された社会体制だよね。あいつら全体がシステムだから貧富もないし差別もない、究極の共産主義社会だなぁ>

 <そもそもあいつらにとって人間なんてゴミクズみたいなものだし、そういうのとはちょっと違うんじゃないかな>

 <バルラシオンはその中での特権者を目指そうとして僕達の敵になってんでしょ。>

 <これまた特権は腐ったミカンそのものだね。>

 <大体あいつらは共産主義の究極形態だろう。ボクには共産主義という考えそのものが分からない。人間一人一人の能力には個人差があるんだからその時点で貧富の差をなくすというやり方が無茶だと思うんだ。僕らだって一体一体に性格の違いがあるんだから8号機みたいにマンガで大成する奴だっているし、プラモデルで成功する奴だっている。こういう能力がバラバラだからこそ社会が成り立つのであって完全平等化された社会というのは・・・>

 「はいはい、おしゃべりはそこまで!」

 収拾のつかなくなったバイクたちの謎の論議をメイリンは怒鳴った。もはや主人の居なくなったバイクは思考回路をデリートし、バラして部品にしなければならないのだ。別に補給はちゃんと来ているのでからそうしろという命令や軍規はないしその必要性は無い。だが・・・

 (こいつらにも少しは命令違反というものを分からせてやる必要がある)

 彼女の考えはこれ一点であった。バイクたちのこれ以上の狼藉を許してはならないため、メイリンは主人のいなくなったバイクをバラバラにして部品用に回すように上層部に上申したのだ。上層部も補給物資が余って変な疑惑でもかけられたら困ると消極的ではあったが、メイリンのごり押し戦法に音をあげて、バイク部品化にこぎつけたのであった。

 <やだなぁ〜少尉。この歌じゃ不服ですか?>

 <それじゃあアレいきますか?>

 <あおいふく〜き〜ていた〜いーいーおーとーこ〜〜、ハってん・・・>

 だんだんだん!

 「やめんかそんな気色の悪い替え歌は!」

 <わー怒った!>

 <そうやってすぐ乱射するクセは目玉のつながったおまわりさんと同レベ・・・>

 だんだんだん!

 <きゃあ〜〜〜>

 <怖いよ〜にげろぉ〜!>

 「さっさといけえ!」






 光の消えたバイクを見送ったメイリンは格納庫の一角でまたしても軍規違反バイクを確認した。

 「あんた!またプラモやってんの!」

 <どきっ!>

 バイク17号機、メイリンの小隊に所属しているバイクだ。作業用マニュピレーターを器用に動かして紫色のプラスチック模型を組み立てている最中であった。

 <やめてほしいなぁ少尉!これはボクのライダーが買ってきたマスターグレード:ゴールデンホームランガンダムで限定1000個しかない超レアのプラモでマニがっ!

 うんちくの途中でメイリンはその組み立て中のプラモを蹴り飛ばしてしまう。反論してきたためにキレたのが真相だ。その強烈な足蹴りはプラスチックのプラモをバラバラにし、地面に叩きつけ、上半身と下半身のプラスチックが見事に割れた。

 <アーーーーーーーーーーー!>

 「レアだかチーズだかアンパンマンだかどうでもいい!いいかげんになさい!あんたらは軍隊に所属しているのよ!こーゆー趣味的なのは影でこっそりやるモンでしょうし、そもそもあんたらのプログラムにはプラモデル組み立てが軍規より優先されているわけ!?一回ばらして再構成してみようかしら!?」

 <ひ・・・・ひ・・・・ひどい!ひどすぎる!このガンプラはボクのライダーがボクのために買ってきてくれた限定プラモデルだったのにーーーー!うわああああああああああああん!>

 <なーかしたー!なーかしたー!>

 その一部始終を見たバイク60号機が罵声を上げ始め、続いて付近のバイクたちもいっせいにメイリンを非難した。

 <イクラなんでもあれは酷い!軍規違反だからとはいえあそこまでやることはないじゃないか!>

 <せめて取り上げるぐらいならまだしも!あれは本当に価値のあるプラモだったんだぞ!>

 <マニア市場では5万円で取引されている超レアプラモデル!僕達の時代だったら2,3年は遊んで食べていけるほどの価値のある・・・!17号機の主人のトム伍長は発売前日の深夜からおもちゃ屋にまだかまだかと待っていたんだぞぉ!>

 <あれで風邪引いちゃったんだよね。トム君は>

 <まあ微熱で済んだんだけどさ>

 <それにそのプラモはトム君が惜しんでバイクにあげた信頼と友情の証なんだぞぉ!>

 <それを少尉はものの見事なサッカーボールキックで天空に飛ばして粉々にした!>

 <なんてヤロウだ!酷すぎる!>

 <ヤロウじゃなくてジョロウだ!それでも酷すぎる!>

 <ぎゃーぎゃー!>

 <わーわー!>

 <うわああああああああん!うわああああああああん!>

 <やっぱ人間なんてこんなもんさー!>

 <曹長君もそうだけど!メイリン少尉はバイクに対する扱いが余りにも酷すぎる!>

 <過重労働だ!>

 <いくら僕らが重装甲重武装だからといってこれではまるでフランス革命以前の農民そのものだ!>

 <ライダーとバイクの連携を深めるためにはまずライダーとの融和が必要であるはず!それをプラモデルという形で実行しようとしていたのに少尉と来たらデリカシーのデの字もない!まるで少尉はバイク排斥運動の指導者のようである!>

 <あえて言おう!カスであると!>

 罵声の大合唱。これまでの不満が爆発したかのようなバイクたちの罵声大合唱はイライラがたまっていたメイリンの神経を切るかのように、まるで雨の日のカエルを思わせるかのように格納庫中にとどろいていく。下手したら鼓膜が破れるのではないかという勢いだ。

 「ただいまぁバイク」

 その時格納庫から今回の事件の元凶ともいえるトム伍長が入ってきた。右手には自分と同僚と上官のためにコンビニで買ってきた弁当の入った袋、左手にはおもちゃ屋で買ってきたプラモデルの入った紙袋が握られていたが、その格納庫の異常な状況は彼にはすぐに理解できなかった。

 「な・・・何?」

 がちゃん

 「がちゃん?」

 トムが一歩足を踏み入れたその時、彼は何かを踏みつけていた。足を上げるとそれはかつて自分が風邪をひいてまで買ってあげたプラモデルの上半身があった。このときトムは無意識に体重をかけて踏みつけていたので右腕と腰のパーツがボロボロになって折れてしまっている。

 「ア・・・・ええ・・・え・・・・?」

 トムは状況をまったくよめなかった。否、読めたがその状況が頭の中で大渋滞を引き起こして行動を起こすのに至らなかっただけである。そんな中、一台のバイクの85号機が叫んだ。

 <聞いてよトム君!メイリン少尉が君がバイクに買ってあげた限定プラモを足蹴にして粉々にしたんだ!>

 <そうだ!バイクと人間との交流を目指していた僕らを少尉は文字通り見事に足蹴にした!>

 「な・・・」

 信じがたい発言、否、信じるに足りる発言であった。メイリンはバイクの趣味を次々に弾劾、排除しているバイクたち曰く「バイク人権運動反対協会会長」とか、「バイク虐待奨励委員長」とか、「機械人権撤廃指導者」とか、「虐待ライダー推進委員会会長」とかいった不名誉なあだ名までつけられている。今の状況から見てもそれはどこからどうみてもメイリンがその不名誉なあだ名に恥じぬ行いをしたものであることは、トムにもわかることであった。

 「トム!あんたまたこんなくだらないおもちゃ買って・・・!それでもあんたライダーなの!?」

 だがそんなトムやバイクたちの胸中の斜め上を行くかのごとく、メイリンは部下のトムに怒鳴った。

 「・・・」

 「先月あのドタバタであたしら小隊長クラスがどれだけ神経尖らせてるか分かってんの!?」

 これは事実であった。機動兵器アーマーライダーはおろか常識外れの新型兵器「ゲテモノライダー」の出現によってレジスタンスの護衛部隊の中では今後の対策について話し合いが行われたが、有効な対策が出てこない以上、こちらが圧倒的不利であるという結論が出ている。もはや相手はなりふり構わず成美を殺害しようとしてくる以上、どうがんばっても被害は免れないのだ。こっちは自分達の存在そのものを秘匿化しているのに対し、追い詰められた相手はそういった社会的関心など気にもしなくなっているレベルに達している以上、それにアーマーライダーなどという厄介なものを秘匿に処理するのは事実上不可能なのだ。

 「・・・」

 「あのバケモノみたいなライダーが出てきたせいであたしらがどれだけ苦労しているか理解しているの?!またあいつが出てきたらどうやってあいつを叩き殺すか毎日苦労しているっていうのに!ソーイチのだってポンポン撃てる代物じゃないのよ!それに・・・!」

 「分かってないのはあんたのほうです!少尉!」

 「!」

 トムが怒鳴った。メイリンは温厚で知られるトムの怒りにむしろ驚いているが、彼は続けた。

 「あの戦いで生き残ったのは自分とソーイチ曹長とアルフ曹長、あとカールだけ!しかもカールは・・・四肢を失って戦争恐怖症になった!自分は・・・自分は・・・・・アレほどライダーを辞めたいと思ったことはありません!」

 トムはメイリン直属の小隊に所属しており、先月の修学旅行の一件でも率先して前に出ていたライダー兵の1人である。アーマーライダーで部隊の中で多数の死者が出たに飽き足らず、今度は前代未聞の「ゲテモノライダー」の出現によってトムは、同僚のカールを除く全ての仲間を失ったのである。これがアーマーライダーだったら対処のしようがあるし、復讐心などから再戦の意思もあっただろう。だが、

 「自分は・・・もう一度あいつと出くわしたら・・・今度は・・・カールみたいに・・・・・ああああ・・・」

 トムは「ゲテモノライダー」の対人拡散ミサイルの直撃は避けたものの、破片で右腕と左足、そして左目を失っており、欠損した部位は全て義手義足義眼に交換されていた。だが同僚のカールは宗一同様四肢を失った挙句に両目の視力まで失ってしまい、ショックのあまりに戦線復帰は望めない状態になっていた。いかなる攻撃すらも通用しない「ゲテモノライダー」の存在は、一般兵たるトムたちの戦意を奪っていたのである。

 <トム君・・・>

 17号機がマニュピレーターを使って涙を流すトムの涙をぬぐった。トムは自分が涙を流していることを自覚していなかったらしく、

 「あ、ありがとうバイク。自分だって・・・死にたくないです。でもあのゲテモノライダーに会ったら・・・自分は・・・ああ・・・・」

 「・・・」

 「自分だって生きたいです。でも・・・仲間達は皆死んだんです。カールも自分が今どこにいるかも分からなくなって・・・自分が出来ることといったらせめて仲間のバイクの面倒を見てやりたい、それだけなんです!自分が何かおかしいことをやっていますか!?」

 トムの一言一句に、メイリンの心はずきずき痛んだ。さっきバイクを解体してしまったのでトムの心理に反することをやっているのだ。仲間の遺品を火の中に放り込んでいるような真似をしている自分にメイリンは言葉が出なくなる。

 「少尉・・・自分が言うのもなんですが・・・・・」

 「もーいい」

 いてもいられなくなったメイリンはそういい残し、逃げるようにその場を去っていった。





同時刻
下級士官休憩所


 「ああもう!」

 がんっ!とメイリンは壁にキックして怒りをぶつけた。

 あーそうさ!どーせあたしは復讐心ばかりで動いている人間失格ライダーの1人さ!たまたま斧の才能があっただけであたしはピノキオみたいに鼻を伸ばしていつしかライダー最強になって有頂天になってたさ!少尉になって給料アップしてラッキーとも思ってたさ!ええそうですともあたしは守銭奴さ!これから中尉になってさらに給料アップして!さらに大尉になれば中隊長になって給料は20000万クレジット(200万円)になってたさ!それで適当に相手見つけて結婚して!後は悠々自適の生活を送りたくて何がわるいってんだコンチクショー!こっちとら結婚式の日に核ミサイルが落っこちて人生台無しにされたクチなんだぞ!ああそうさ!あたしはそのゲテモノライダーをまったく見てないからでかい口が言えるのよ!でもこっちにはこっちの苦労ってのがあるんだってんだバッキャロー!だけど実際少尉になったらどーだ!?わがままや騒動起こす部下やバイクを怒鳴り散らして、上官からはいつも怒鳴られればそりゃあイラつきたくもなるわよまったく!かぁ〜〜〜〜はらたつわねぇええええええ!

 「あの〜あねさん」

 「何よ!」

 「全部聞こえてんだけどさ・・・」

 気がつくとメイリンの怒りの一部始終見ていたアルフがそこに立っていた。怒りのあまりにメイリンは部屋に入ってきたことすらも気づかなかったようだ。

 「まるで成美ちゃんみたいだぜ、その怒りっぷり」

 「えーまったくそーよ・・・あのコのイラつく理由が分かったかのような気がしたわ」

 そのすごいヒステリーにひるみながらもアルフは続ける。

 「上官からいびられて、部下は騒動を起こすわ、中間はそれの処理でいつも苦労。中間管理職にはなりたくないねぇ・・・俺、ライダー辞めてとっとと悠々自適の貴族生活に戻ろうかなぁ」

 「大体あんた、何でライダーになったってのよ!」

 「怒るなよぉ・・・文句があるならオヤジ達に言ってくれ。おれはあねさん同様なりたくてなったわけじゃないんだからさ」

 アルフはヨーロッパレジスタンスの名家たるオスカー公爵家の分家である。この家は現在でもレジスタンスの財政の1割を握っている財力を誇っており、真崎がヨーロッパに進出するまで絶大な権力を誇っていた。だが一方で武家として名高いイルステッド公爵家との激しい政争の末、後からやってきた真崎に漁夫の利を取られてしまい、今ではしぶしぶ従っているのが現実であった。

 その後、真崎の命令によりヨーロッパの各政財界の著名人たちからも徴兵が課せられることになり、ライバルのイルステッド公爵家と対抗するために一族からライダーを引っ張り出す必要が生まれてきた。その白羽の矢がアルフレット=フォン=オスカーに当たったのである。元々彼は公爵家の中でも何の変哲もない、あるとすれば超美形な男であるだけだ、政治材料にはうってつけの存在だった。もっとも軍隊に入ってからは射撃の達人、狙撃の名手としての才能が開花して今に至るわけではあるが、どっちにせよアルフも「望まぬしてライダーになった」人物なのである。

 「・・・・・」

 「作者ご苦労。な、落ち着けって。ソーイチからは俺が何とか言うし。トムたちにもわかるように言ってやるからさ」

 こういうとき、メイリンが頼れるのはアルフだけであった。宗一と違って自分と年齢が近いし、3年来の付き合いだ。双方ともに信頼関係が生まれているし、何よりアルフはヨーロッパ財閥の息子だ。お家の威光の影響力もそうだが、彼自身が明るい性格なので部下の兵士達からは人気もある。「大統領の甥」という肩書きを持っているが宗一の方はデリカシーも何もない男なので、ある意味こいつの方が隊長に向いているんじゃないのかと思いたくなるほどであった。

 「・・・ええ、そーしてもらうわ」

 「あねさんの気持ちはよーくわかるぜ、でもあねさんもあのゲテモノライダー・・・正直俺だってあいつに勝てるかどうか分かったモンじゃねえ。」

 「あんたまでそんな弱気なこというの?」

 自信家のアルフのらしくない発言に異議を唱えたが、アルフは続けた。

 「無茶言うなよ。俺のライフルもそーだけどさ、ライダー達のトマホークのことごとくが、まるで氷の表面みてえにつるつる滑っちまうんだぞ。これが「何たらバリアー!」だったら火力でバリアを破れるぜ。」

 「だが相手はそんな簡単に打ち破れるバリアーを持っていない、と?」

 「そうさ・・リアロたちの一斉砲火にもけろりとしていたんだぜ。ドリル持っている利き手にもバリアー張れるしよ・・・ぶっちゃけあいつを確実に仕留められる手段といったらソーイチ以外にはないぜ?」

 その言は、メイリンの胸中に的確だった。アルフはゲテモノライダーと対峙してその実力を知る人物だからだ。スナイパー特有の観察力と洞察力によってバリア?の特性を看破し、ゲテモノライダーの手にバリアが張られていないことを見抜いた。実際初弾は通用していたのでメイリンとしてはアルフのこの観察力と計算力は只者ではないと認めている。

 そこの傷から内部でやれば倒せないんじゃないのかと思いきや、よもやその傷口にもバリアーが張れるとあってはどうしようもない。ミサイル撃つわ、戦車の主砲まで撃つわ、目がビガッと光ってセンサーを潰すわ、攻撃という攻撃はまったく通用しないわと、最悪の相手である。この最悪の相手を駆除するには、いかなる物体すらも消滅せしめる宗一のスプラッシャーキック、アレ以外にはないのだが・・・

 「それにあいつ、量産されてんだよなぁ・・・」

 問題なのはこれである。あの時3体も出てきたのだ。一台のアーマーライダーから3体も出てきたということは、ひょっとしたら量産されているかもしれないのだ。現時点でも量産されているアーマーライダーと比べれば製造コストははるかに安く取れるはずであり、第一ナイト=ポールの「宗一のスプラッシャーキックの撃てる回数を想定して3体持ってきた」という発言からしても、間違いなく量産されていると見てもいい。攻撃は通じない、やたらと強い、こんなのが沢山出てきたら一体どうなるか・・・宗一のスプラッシャーキックは3発が限界、それも3発目は無理して放つ一撃だから4発目はないのだ。

 「どーしたもんだか。えらいさんは一体何考えてんだろうねぇ」

 「スペクターのヤロウだってあいつ回収してたから分析してんだろうけどさ、とっとと弱点見つけて欲しいもんだぜ」

 アルフにとって不可解なのはスペクターであった。あのエージェントが命令でゲテモノライダーを回収したということは、恐らく上層部はこのゲテモノライダーの存在を知っていたのだ。だがトム伍長の一件から分かるように、こんな対処しようのない敵が兵達に知れ渡ったらどうなるか・・・パニックを起こした軍隊は文字通り烏合の衆になるのは言うまでもない。だがアルフとしては「回収するって言うならせめて俺達にも話せよ!」と訴えたくなる気分なのである。そうすればそれなりに対処できた・・・かもしれないし、死者だって抑えられたはずだ。だが知られていなかったから第1小隊は壊滅的損害を受けて多くのライダーが死に、そして戦争恐怖症に陥った兵士達がちらほらと出てきているのだから、陰でこそこそやるよりあらかじめ教えてもらった方がデメリットが少なくて済むのに。

 「はぁ。難題ぞろいね」

 「あねさん疲れてんな。仮眠取ったら?」

 「そーさせてもらうわ」

 メイリンはアルフの好意を素直に受諾した。











午後9時00分

 仮眠を終えたメイリンは再びタバコをすっているとき、部屋に整備兵がやってきた。

 「少尉、バイクの解体が完了しました。」

 「ごくろうさん」

 「解体に生じた余剰パーツで各種修理をはじめたのですが・・・その・・・・・」

 だがその女性整備兵は何か言いづらそうな目をしながら、メイリンに話し続ける。

 「まーた・・・ワガママバイク?あいつらやっと嘘企画の出演が実現したからっていい気になってんのよ。」

 「いえ、”今回は”そういったのとは違うんです。」

 「へ?」

 毎度のパターンである「バイクが趣味に走って秩序がなくなっているネタ」ではない・・・作者も知恵がついたものだ。

 「今回は我々整備兵の不手際から起こったものであり責任は私達にありますが・・・今回の事態は前例がないことで・・・・・その・・・」

 女性整備兵はどこか、どう説明すればいいか分からないような、そんな雰囲気である。その気持ちを察したメイリンはベッドから起き上がり、

 「わーかった。ガツンと言ってくる」

 「あーでも少し言い過ぎるのは・・・」

 「あんたら整備兵はバイクのしつけってのがなってないのよ!」

 「ライダーの性格の安定性の維持のためにはああいった馬の合う性格が逐一更新されていくんですよ!バイクの趣味嗜好はライダーの願望を代行しているだけにしか過ぎません!」

 リアロエクスレーターは自立性を持ったバイクだ。ライダーとの連携性を重視しているので性格は一台一台異なってくる。最大限の戦闘能力を発揮するために最高のメンタルコンディションを維持させる―――すなわち「馬のあった性格」が形成されるのだが・・・

 「・・・まったく!」

 この21世紀になってから部隊内では環境の変化で士気が下がりつつある。この時代は自然環境においてはきれい過ぎる一方で社会環境の悪さから、ライダー達に多大なストレスがかかっているのだ。24世紀は自然環境こそ最悪だが社会環境は浅岡真崎、彼によって完璧にされているのでライダー達は自信を持って闘うことが出来ていた。

 だが任務が始まって半年が経ち、ホームシックやそれに類する状態のライダーが徐々に増え始め、先月の戦闘では初めての犠牲者が出た。無論任務である以上死者が出るのは当然であるが、「守るべきもの」、すなわち浅岡成美に対してライダーが死してまで守るに値するべきなのか、任務の正当性が薄らいできたのだ。

 「18歳の小娘ちゃんに何もできっこないってのに・・・!」

 いそいそとウェアを着込むメイリン。後に成美は自分達の祖となる組織を作る人物だが、現時点ではただの女子高生にしか過ぎない。彼女の子孫である浅岡真崎は守に値する実力や実績を示しているのに対して彼女は、「やたらと宗一に対して乱暴をふるう粗野な女」という印象が部隊内に蔓延していた。彼女の暴力によって近所のだみ声ガキ大将の暴力を受けたかのように毎回ボロボロになって帰ってくる宗一を見ていれば誰だってそう思うかもしれない。

 無論宗一が悪いのは分かるがそれにしたってあまりにも手が早すぎるではないかとか、口よりも先に手が出るのはいかがなものかとか、本当に彼女は自分達の組織を立ち上げる人物なのかとか、実は浅岡真崎は注意をひきつけるためにまったく関係のない同姓同名の彼女を囮にしているんじゃないのかとかいうあらぬ噂まで立っている始末だ。

 ああもう馬鹿馬鹿しい。メイリンは考えるのをやめて格納庫へと足を運んだ。






同日同時刻
バイク格納庫


 「いい加減にしろバイク!」

 <それはこっちのせりふです曹長!>

 広々としたバイク格納庫の中で罵声と罵声の殴り合い。

 「お前が俺のことをそんな風に考えているなど初めて知ったぞ!」

 <いつもいつもあんなぞんざいな扱いをされて・・・そう思わない方が異常ダ!>

 <そうだー!3号機の方が正しいぞ!>

 <曹長君はバイクに対する愛情と言うものがまったく感じられない!>

 ・・・だが罵声と罵声の殴り合いは、どちらかと言えば人間側が不利のようである。

 「早く電源停止しろ!今のお前は電子頭脳が干渉していつ壊れるか分からないんだぞ!」

 <これは私の意志である!複数のバイクの意思を持って何がいけないか!>

 <そうだそうだー!>



 事の発端は今から1時間前のことであった。

 10月の交戦で宗一の専用マシンたるリアロエクスレーター3号機は敵の攻撃によって破壊されたため、新しいバイクを用意する必要が生まれた。敵のアーマーライダーの火炎放射で燃やされてしまったので、直すより新しくしたほうが早いという意見がバイクの持ち主たる宗一含めて、意見が全員一致した。それはいいだろう。
 
 もともと量産体制が確立したリアロエクスレーターなので同型機を用意するのは至極簡単だが、11月の決戦で予備役にまわしていた同型バイクがほとんど見つからず、今日のお昼ごろに何台かのバイクを解体したのでそれのパーツで組み立てたのだが、問題が生じていた。リアロエクスレーターは従来のバイクと違ってバイクの意思がなければ動くことが出来ないのだ。

 正確に言えば動かすことは出来る。だが火器管制やナビゲートなどの重要な部分はAIなしでは作動することは一切できず、そうなるとリアロの最大の長所である火力が無意味となってしまう。だが宗一はこれまでの交戦記録やバイクの記憶中枢を統合、整理して1から生まれ変わらせようとしたのだが、誤算が生じてしまった。

 <曹長君は3号機が覚えている彼に対する仕打ちを忘れさせようとしている!>

 バイクたちの反論が上がったのだ。データ入力作業の合間のトイレの隙に、他のバイクたちがいっせいに3号機と共有していたデータや記憶を移植してしまったのだ。そして宗一が帰ってきたときにはすでに手遅れ、事情を知りながら生き返った?3号機はこうやって宗一に食ってかかってきたわけである。

 <バイクを何だと思ってる!>

 <曹長君は3号機の嫌なメモリーを消して過去の出来事をなかったことにしようとしている!>

 <これは明らかなライダーの横暴だ!>

 <仮面ライダーの名に恥ずべき卑しい行為である!>

 <おに!あくま!ひとでなし!>

 <たとえ3号機が忘れようとも僕らは3号機が今まで受けた精神的苦痛を忘れはしない!>

 40台以上のバイクの非難ごうごうが宗一に殺到する。

 「確かに曹長はバイクの扱いが悪いよなぁ」

 「言えてるぜそれ」

 「バイクを単なる足としか思ってない。バイクにも意思があるんだからちょっとは大切に扱ってもいいと思うよなぁ」

 しかも一部のライダー達もバイクの擁護に回る始末だ。情勢は明らかに宗一が不利である。実際問題宗一は4月から8月までの間に自分のバイクに対してやった所業の一件を抹消しようとしていたので非難できない。宗一のバイクは他のリアロたちと違って接した期間がまだ短く、バイクの性格形成がまだ不十分な状態のまま人格が固定されてしまったのだ。他のライダー達の場合は接する時間が長い分バイクのライダーに対するデータが蓄積され、今に至るわけであるが・・・

 <もっといったれ三号機!>

 <こんなろくでもない主人についていく道理はないぞ!>

 <・・・・・>

 3号機の問題は宗一が言うとおり、AIの擬似人格を複数混在している状態であった。通常リアロエクスレーターには1台に1つの人格が定着しているのに対してこの3号機は、まだ人格の形成が途中のままに複数のバイクの記憶と性格の一部を移植してしまったために、記憶の一部が人格プログラムと干渉を起こしてしまっている。その証拠に3号機の口調が安定しないのがそれだ。

 <つまり僕らのデータの一部が3号機の人格形成に悪影響を与えたと言いたいんだな曹長君は!>

 「そうだ!」

 <だがそれは違う!大体3号機は他のと違って自己主張があまり出来ないかわいそうなバイクだった!>

 「バイクが自己主張するな!」

 <言ったな!>

 <そういったライダー至上主義的な思想が僕らバイクが家畜以下の扱いを受ける根拠になっているんだぞぉ!>

 <ライダーを戦場にまで運ぶのは誰だと思ってその発言だ!>

 <僕らが要らないというのなら1人でアーマーライダーをやっつけてみろ!もちろん素手でだ!>

 <そうだそうだー!>

 <それでも本当にライダーなのかぁ!?戦士としての誇りがないのかぁ!?>

 「曹長いくらなんでも今の発言はまずいですよぉ」

 <その通り!曹長君の発言はライダー達からも批判の対象でしかない!>

 いつの間にかライダー達もバイクの擁護に回ってしまっている。状況は宗一1人VSバイク120台+ライダー兵の構図にへと変換してしまっている。宗一はこのライダー兵たちがたるんでいることに痛みを感じながらもにらみつける。

 「う・・・」

 <暴力だ!主人公の特権の乱用だ!>

 <よくこんな奴がライダーになれたなぁ!>

 <僕らはライダーとの連携をするために、そしてライダーのメンタルコンディションを維持するために性格が形成されている!曹長君がバイクの性格を否定することは僕らのコンセプトどころか軍の方針に反することだぞぉ!>

 <そうだそうだー!あとちょっとでレジスタンスが勝てるっていうのに、曹長君は理敵行為をしているんだぞ、僕らが何か間違ったことを言っているか!?>

 「お前達は自分の非を棚にあげて他人の非難をしているだけだ!軍規に従うのならばお前達は全機解体処分ものだぞ!」

 <ぐ・・・・・!>

 宗一はやっと反撃の糸口を見つけた。バイクたちは一斉にどもってしまう。

 「軍の方針なら軍規に従うのが常識だ!メイリンの言うとおりお前達が軍規に従うと言うのならば軍法会議に出頭させてしかるべき処分を下して新しいバイクを用意させるだけの話だ!だがなぜお前達はそうされないのか分かるのか?それはお前達は人間のつもりだろうが所詮は機械だからだ!機械である以上人間に従うのは道理だ、だがそれを破ると言うのであればお前達はネオプラントのロボットどもとなんら変わらん!」





 ぶちん!

 <もう我慢の限界だ・・・・!>

 「?」

 <あなたに仕えて早9ヶ月。いや3月にきたときにはまだ私の人格形成が成されていないから実質的には8ヶ月・・・4月からぞんざいに扱われていたのをずっと我慢していましたがもう限界だ!>

 「何がだ」

 <なぜそうやってあなたは平然と他人に迷惑をかけるような言動や行動を行えるのですか・・・いや、それがあなたの本質なのでしょう・・・だから私はずっとあなたの某弱無尽な行為をずっと黙認しましたが・・・!>

 機械音声であるにもかかわらず、怒りという感情がふつふつと伝わってくる。人工知能がエラーを起こしているために、口調がころころ変わってしまっている。

 <年齢的に見ても、その生い立ちから見ても・・・あなたのそれまでの行為は常軌を逸脱しているのは万人が認めるもの・・・!>

 「・・・回りくどいことはいい。何がいいたいバイク」

 だがその怒りは明らかに宗一には伝わっていなかった。そしてこの発言がバイクの引き金を引いた。

 <ここまでいってまだ分からないというのですか!もう私はあなたに仕える気がないということです!>

 「・・・」

 <先月だって・・・先月だって・・・!私は身を挺して浅岡成美嬢の命を守ったというのに・・・そしてその時もあなたは「よくやった」とか「すまなかった」といってくれましたが・・・!アレはその場しのぎの言葉としてしか捉えることが出来ませんね・・・!>

 「だからどうしろというのだ」

 この発言がさらにバイクの怒りを爆発させた。

 <ですから本当にあなたは私を大切に使っているのかと言いたい!ついこの間もあなたは定刻どおりに私のメンテナンスをしなかったし!前にも私が張り込んでいるときに連絡を忘れて三日三晩放置されたり!確かにずっと戦闘がないのは好ましいことかもしれませんが・・・・だからといってあなたのその態度はあんまりだといいたいのです!2号機を見て!>

 <え、あたし?>

 その時中立を決め込んで、争いから離れて同型機とオセロを楽しんでいた2号機はきょとんとした。彼女?はこの一連の争いからは手を出すつもりはまったくなかったのだ。何しろ1号機バイクは虐待ライダー派として名高いメイリンのバイクだし、3号機は虐待ライダー浅岡宗一の被害者だ、対して2号機バイクはこの両者?とは対照的に目立った対立と言うものがおきておらず、その理由は以下の通りである。

 <彼女のボディーを見てください!いつもぴかぴかです!駆動音を聞いてください!いつも快適な音です!今は取り外されていますがバルカンやミサイルの武装を見てください!整備は完璧です!タイヤの磨耗具合を見てください!いつも完璧です!これだけ完璧な整備をされているというのに私はどうか!?4ヶ月学校に放置されたせいで整備はぜんぜんされていないし!戦闘ではちっとも活躍していないし!いや元々あなたがバイクご無用の戦闘ばかりをやっているのがそもそもの原因!本来私たちはバイクの火力とライダーの行動力は合わせて初めて高い戦闘力が発揮されるというのにお前と来たら改造人間であることを花を高くして私にまったく気を使ってくれねえんだ!>

 「・・・」

 <私だって将棋ぐらいはしたい!ガンプラだって作りてえ!ネットをやりたいし料理もしたいです!他の皆はそれに応ずる任務を果たしているというのに私はそれをまったく果たしていない!否、果たせない!>

 それはバイクの、宗一のバイクの不満全てであった。宗一がバイクの扱いの悪さはすでに周知に知れていることであり、また「バイク労働組合」なる非公認団体に槍玉に上げられている根拠である。リアロエクスレーターたちはバイクとライダーとの連携を最優先しているのでそれぞれ「息のあった」擬似的な人格が形成されており、非戦闘時でもその人格プログラム同士が交流することによっていつしかバイクたちの社会が形成されていったのは言うまでもない。

 未来の科学者たちはこの一連のリアロエクスレーターたちの行動に強い感心を示しており、「人格を持った無機物であっても社会を形成しうる可能性がある」という結論に達しており、研究を進めているそうであるが、元々宗一たちは護衛が任務だ。バイクの趣味に付き合う道理など最初からない。

 「・・・・・わがままバイクめ」

 リアロエクスレーターとライダーは、基本的には従属関係である。バイクはライダーのいうことには絶対逆らえないようにプログラミングされているが、意見を言うことはできるし、バイクからライダーに対して要求も出来る。一見するとこれら意味のなさそうな、むしろ混乱を招きそうな行動だが、戦乱の時代において擬似的であってもライダーが人間としての尊厳を忘れぬために配慮したコミュニケーション活動の一環であるとされているそうである。

 だが・・・





 ぶちっ!

 何かが切れる音がした。

 <おい19号機、何か切れた音しなかったか?>

 <ああ、どっかのケーブルが切れたのかねえ、81号機?>

 <いーや、ケーブルが切れた音じゃないなアレ。どっちかと言うと・・・人間の血管の切れる音とよく似たテイストだねぇ・・・31号機>

 口々にバイクたちが音の異変に気づく。

 「おいなんか聞こえなかったか?」

 「プッツン、とした感じの音だったような・・・」

 「でもなんかやばい予感・・・」

 バイクを整備していた付近のライダーたちも気づいていたが、ただ1人宗一だけには聞こえなかったようである。

 <もう限界だ・・・・!でてってやる・・・>

 「?よく聞こえなかった。バイク?」

 <でてってやるーーーーーー!>

 ばるるるるるるるる!ばおおおおおおおおおおおおおおおお!

 どがっ!


 「ぎゃおう!」

 不意に近づいた宗一は暴走するバイク3号機に跳ね飛ばされ、バイクはそのまま格納庫のエレベーターに駆け込んでいく。

 「ま・・・待てバイク!」

 後頭部を思い切りぶつけてしまったために宗一の意識は朦朧としてしまっている。

 <行ってこい3号機!自由を謳歌しろ!>

 <君のその行動は敬意に値する!>

 「ちょ・・・ま・・まて・・・!」

 宗一が意識を失ったのはその直後であった。メイリンがやってきたときには既に事が済んでいた後のであり、意識を失っている宗一の看病をするハメになった。



同日午後7時40分
セーフハウス 居間

 「お前が悪い!」

 アルフとメイリン、そして他の小隊の部下たちの発言はみなこうだった。

 「・・・なぜだ」

 「ソーイチ、お前にも一理あるが、バイクたちにも一理ある。」

 「ソーイチ曹長はどっちかが折れるまで諦めない頑固な考えであると自分は思います」

 「うんうん」

 宗一を除く一同がその場でうなづく。

 「・・・」

 「せめて折衷案とか、バイクを大切にすることを約束させるか、とにかく何らかの形でバイクとの融和を図るべきだと自分は思います」

 「それがガンプラか。」

 トムの発言を痛烈に皮肉る宗一。

 「う・・・」

 「いやトムのやり方は間違ってないと俺は思うな」

 そんなトムに助け舟を出したのは副隊長のアルフであった。

 「確かにトムはやり方が正しいとはいえないけどさ、バイクは俺達の精神状態を安定させるために趣味をやらせているんだよな。ホビー、まあすなわち「遊び」を通じて俺達ライダーを元気付けているわけだ。実際合切俺達はバイクたちにはかなり助けられているぜ?俺達の足だし、監視の時にもバイクのレーダーが役に立っているし、いざドンパチが始まればあいつらは身を挺してまで俺達と一緒に闘ってくれる、俺達が持てないような強い武器を携えて闘ってくれる、いわば戦友だぜ?そんな戦友の気遣いを否定するのはいけないと、俺は思うなぁ」

 「・・・」

 軽薄な男だがやるときにはやる、それがアルフレット=フォン=オスカーという人物である。女には手を出すが「女の子」には決して手を出さないことを信条とする彼はメイリンや宗一と違って意外としっかりとした人物なのは小隊の内外では有名な話だ。いかに道楽息子とはいえ名家の出、自分の事ぐらい自分で出来るのだ。これは宗一やメイリン、他のライダー兵たちにはない要素であった。

 「まあ様子を見たほうがいいんじゃないかな。3号機の位置は衛星でばっちり分かるんだろパオリンちゃん」

 「え、ええ。」

 「それにバイクだって自分ひとりじゃ出来ないことぐらい、わかっているはずさ。3号機は頭に血が上っているけど、それだけだ。いつかそれに気づいて猫みたいにひょっこり帰ってくるだろうから、しばらく様子見ってことでどうかな?あねさん」

 いつのまにか討論の主導権はアルフに握られていた。さっきまでの殺伐としたムードはいずこかへと消え去り、微妙に和やかな雰囲気になっている。もしかしらたら彼はムードメーカーとしての才能があるのかもしれない。

 「・・・そうね。でも3号機が何かやばい事したらソーイチはおろかあたしやあんた、中佐や他のみんなにも迷惑がかかるわよ?」

 「まあその時はその時だ、ソーイチ」

 「?」

 話を振られた宗一はきょとんとする。

 「自分のケツは自分で拭くことぐらい・・・わかるよな?俺が言いたいこと、分かる?」

 「ああ、責任を持てということか?」

 「それが分かれば十分だ。けどお前さんも17の青二才だ、1人で抱え込まないでたまにはハメはずすのも大事だぜ?今の3号機みたいにさ」

 「・・・・・」

 結局この時のミーティングは、三号機は監視しつつも様子見と言うことで結論付けられ自然解散となった。





翌日

 土曜日、私立校は休みではないが私立所縁が丘高等学校では特別に休みが設けられた。どうやら学校で食中毒事件が起こったらしく、原因調査として学校から休校がされたようである。

 恐らくはスペクターの差し金かと宗一は思った。時間帯的に昨日の一件が理由ではないはずだ、となれば彼が調査しているゲテモノライダーについて何らかの動きがあり、それが成美や自分達の行動に制限をつけて動きを止めようということであろう。

 だがこれは憶測のレベルだ、実際本当に食中毒があったかもしれないし、スペクターがやったという証拠はない。しかしこうもタイミングよく事を進めるのがスペクターの仕事のひとつだ。彼は彼なりにゲテモノライダーの調査を行っており、その間他の人間が動いたら面倒だから、ということである。かくしてこの不可解ながらも設けられた休日に宗一は自宅待機することになっていた。

 本当ならバイクの捜索をしたいところだが、あいにく今の時点ではまた喧嘩別れしてしまうのは火を見るより明らかであったため、宗一は待機命令を受け、メイリンの義手の手伝いをしていた。

 「・・・そーそー、このフィーリングよ」

 「俺のデータがここで役に立つとはな」

 宗一の義手のこれまでのデータがメイリンの義手訓練に大幅に役に立っていた。激しい戦闘に耐えうるデータは宗一が逐次行っているのだ、普段の生活でも成美による過剰暴力が耐久テストに役立っているのか、メイリンの義手は宗一のより2割り増しの強度と3割り増しの出力を実現することが出来たのである。

 ぶん!ぶん!ぶん!ひゅんひゅんひゅん!

 「よーし、斧持っても間隔はよし」

 愛用の斧を振り回してもなんら違和感はない。自分の腕がまるでトカゲの尻尾のようになっている感覚をメイリンは覚えていた。なくなったはずの腕がまた出てくるというのはこういう間隔なのかもしれない、と自問自答しつつ、悠々としていた。

 「もうこれで調整はいいんじゃないの?」

 「いえ。あとこれに外部バッテリー用の接続器をつけます。それの負荷テストをしないといけません」

 整備兵のこの言にメイリンはまだ片腕の日々が続くと思うとげんなりした。もうここ1ヶ月近く斧を振っていないので体がうずいて仕方がないのだ。

 「では俺はこれで」

 「はい曹長、お疲れ様でした」

 整備兵が敬礼をする。

 「メイリン、先に失礼する」

 「あー、はいはい。」

 形式的な敬礼をしたメイリンを見た宗一は、その場を後にした。









午後2時34分
バイク格納庫


 工作室と休憩室を通り、宗一はバイク格納庫にやってきた。昨日の一件以来、バイクたちの視線が痛々しく感じる。まるで<二度とこいつなんかに席に座らせるな!>といわんばかりの威圧すらも感じる。果たしてここまでバイクとライダーの対立が深刻化したケースはあっただろうか。下手したらバルカンの一斉射撃でミンチになってしまいかねないほどだ。

 しかしそんな殺伐とした空気の中、一台のバイク28号機が宗一の前にやってきた。

 <そうちょうくん!>

 「・・・」

 <僕らでも話し合いをした結果、昨日の一件は僕らにも非があることを認める。>

 この予想外の発言に宗一はあっけに取られてしまった。自己中心的なバイクが自ら非を認めることなど、天地が狂ってもありえないと思っていたからだ。

 <そこでだ曹長君。今日は曹長君を僕らの輪の中にいれたいと思って誘いたいと思っているのだ!どうだろう>

 宗一は少し考えた。

 ・・・・・今ここでさらに火種を起こしてはメイリンたちに何を言われるか分かったものではないし、3号機の説得に当たらせるには他のバイクたちを味方につけたほうがいいだろう。それに今後のためにもバイクの理解を得られれば戦闘の効率もよくなるはずだ。多少の我侭も我慢すればいいことだし、表面上うまく付き合っていけばアルフと2号機みたいにそれなりの友好的な関係を築いていけるかもしれない・・・・・・

 「わかった。」

 <おお〜さすが曹長君!>

 早速宗一はバイクに服のすそを引っ張られて案内されていった。





 <みんな〜曹長君を連れて来たよぉ〜>

 <おお〜。>

 昨日の騒動とはうってかわって友好的な態度のバイクたちに宗一は戸惑いを隠せないと同時に何か嫌な予感がした。

 「・・・」

 <曹長君は僕らが信用できないと思っているだろうけどそんなことはない!>

 <僕らだって戦闘の役に立つには、ライダーのメンタルコンディションの維持には彼らとの融和が必要だ!>

 <そこでライダー達に趣味を持たせて彼らのストレスを可能な限りに抑えているわけだ!それはわかるな!>

 「・・・ああ」

 宗一はこの時「ふざけるな!」と怒鳴りたかったが、我慢して口裏を合わせた。

 <おお〜よかったよかった。曹長君も分かってくれた!>

 <バイクとライダーとの連携は非常に重要なものだとは分かるね!>

 <そこで曹長君、曹長君に少し見てもらいたいものがある!>

 バイク189号機が一冊の本を取り出した。先月の戦闘でなくなった9号機が執筆した「バイクたちの憂鬱」だ。宗一は最初は読む気にもなれなかったが状況が状況だ、彼らとうまく付き合うために少し読んでみた。







P89 <僕と暴走族>

僕の主人は17歳。

高校2年生だ。

でも主人は学校には行かない。

決まって夜になって僕に乗って遊びに行く。

行き先は繁華街。そこには僕と似たようなバイクや主人がたくさん集まっている

主人はきまってヨロシクとさけぶと、ほかの主人もヨロシクとさけぶ。



僕らは主人を乗せて国道に乗っていく。

狭い道路を、車があふれかえっている道路を僕らは駆け抜けていく。

主人は鉄パイプを持って自動車に殴りつけたり、通行人を通り魔のように叩いていく。

頭が赤く光る自動車にも主人は容赦しない。あっというまに赤い光の自動車も電柱にぶつけて壊してしまった。

主人が言うにはこれで12台目だという。主人はこれが誇りだという。

何が誇りなのかがよく分からないが、他の主人も主人をたたえていることだからこれはきっと名誉なことなのだろう。



しかしあるとき、主人が居なくなった。

理由は分からない。僕もどこかへ連れて行かれ、ナンバープレートが取られてしまった。

せまい、くらい、何もないところに押し込められて、僕は延々と閉じ込められていく。

僕は何か悪いことをしたのだろうか。

主人は何か悪いことをしたのだろうか。僕は主人のためを思って走っていたのに、主人はなぜ僕の元を去り閉じ込めたのか。

ぼくにはわからない。



どれだけのときがたったのだろうか。

主人が帰ってきたときには主人ははげていた。

坊主になっていたのだ。

そして変化は僕にもおきていた。

僕はもう走ることが出来ないほどにまで錆びていた。

主人は僕をトラックに乗せていく。

たどり着いたのは僕の仲間の死体がたくさんあるところだった。

僕はその中の穴に放り捨てられめちゃめちゃに潰された。

僕は一体何をしたのだろうか。

僕は何か悪いことをしたのだろうか。

僕はもう走れない。だが走りたい。

主人を乗せて走りたい。

でも主人が僕を使うことは未来永劫、なかったのだった。






 「・・・・・・」

 <どうかな曹長君!僕の仲間がこれを作ったのだ!バイクだってその気になれば心打つ詩を作る事だって出来るんだ!>

 宗一は微妙な感傷に浸った。

 <そこで不肖ながら僕71号機も彼みたいなポエムを作ろうとしたのはいいんだけど、あいにくながら僕には9号機みたいな文章力は持っていないのが難点だ。そこで僕は曹長君たち以外の、小説を書いているクリエイティブな人間とのコミュニケーションを行おうとした!9号機の彼の意思を引き継ごうと、僕たちも人間を理解することこそがライダーとバイクの連携を深める重要な要因だとね!でも・・・>

 「でも?」

 最後のバイクの発言に宗一は疑問を投げかけた。

 <どういうことか人間は僕たちを一向に理解してくれないんだ。>

 「???どういうことだ」

 <ちょっとこれを見て欲しいんだ。>

 バイク71号機はマニュピレーターを巧みに操ってパソコンを持ってきた。ゴミ捨て場にあったものを超科学で修理したものだ。

 「『堂々鳥の巣の中で』・・・?」

 見事なマニュピレーターさばきでバイクはマウスを動かし、あっという間にインターネットにつなげてしまった。どうやら無線LANを独自に構築したらしく、回線なしでも余裕で動いている。

 <ここのサイトはすごいレベルの小説があってね、僕は彼らの技術を参考に9号機の小説みたいなすばらしい作品を作ろうとしたんだ!そこでここの掲示板コーナーの『視聴者はかく語りき』で話をしようとしたんだ。>


すげえぜこれ! 投稿者:No.71  投稿日: 10月28日(木)22時52分45秒

はじめまして。No.71といいます。ドラえもんがらみのリンクを渡り歩いてたどり着きましたが、
あなたのサイトの小説がとてもすばらしい作品であることにいたく感服しました。まだ全部読み終わっていませんが、
これからもよろしくお願いいたします。

レス 投稿者:シャドームーン@管理人  投稿日: 10月28日(木)22時50分30秒

はじめまして、管理人のシャドームーンといいます。高校時代からずっと書き続けてきたこの小説は未だに未熟な部分がありますが、
ネットという環境は多くの人に見てもらうすばらしいものだということを実感して早6年、切磋琢磨に書かせてもらっています。これからもよろしくお願いします。

>苦労人パープルさん








 「・・・別にこの時は何ともないな。」

 文化に対して愚鈍な宗一でも、この時はいたって平凡な、そんな会話であることぐらい分かる話である。

 <最初はこういった和やかな会話が続いていたんだ!それが・・・>






わかったぜ! 投稿者:71  投稿日: 10月31日(水)21時03分6秒

 次の「仮面ライダー血」の小説の内容が分かったぜ!ついにライダー天使とライダー吸血鬼が利害の一致から意気投合して怪人の根暗蟻姫と戦うんだぜ!下のリンクを見ろ!

HTTP://まずいべーかりーどっとネット/ひみつのファイル

なにぃ!? 投稿者:ステッキじいさん 投稿日: 10月31日(水)21時09分57秒

マジかそれ!?

疑問 投稿者:レジェンドヒーロー  投稿日: 10月31日(水)21時24分16秒

<血
ちょっとお聞きしたいことがあります。なぜあなたが管理人様の作品を知っているのですか?







 「・・・・・どういうことなんだこれは」

 宗一が率直な疑問をぶつけた。文化に疎い宗一でも、映画の先のストーリーをネタバレされた時にはイラつくものである。

 <いやぁちょっと作者のパソコンにハックしてね、まだ編集中の作品を覗いたんだ!だって作者がぜんぜん小説を更新しないから僕の執筆のさんこうにできなくてさぁ・・・>

 さらりと恐ろしいことをいうバイク71号機。

 「・・・・・」






いいかげんにしろ! 投稿者:ステッキじいさん 投稿日: 11月1日(木)20時01分57秒

下のリンクを見てきましたが・・・あなた作者の作品をおおっぴらに公開するのはいくらなんでもあんまりではないですか!

そもそも 投稿者:レジェンドヒーロー  投稿日: 11月1日(木)20時04分16秒

<血
ひょっとしてNo.71さん。あなたは作者のパソコンにハックしたんですか?

タイーホ 投稿者:巨人機械 投稿日: 11月9日(木)20時09分57秒

うわぁやっちまったよこの人。電波何たら法で逮捕だ逮捕だ!通報しますた。

・・・・・ 投稿者:苦労人パープル  投稿日: 11月1日(木)20時24分16秒

この掲示板もだいぶ荒れてきましたね・・・No.13さん。なぜあなたはそこまで作品をさらし上げるのですか?そういえばこの間私のパソコンもハッキングされましたが、ひょっとして・・・

俺もやられたぜ 投稿者:ステッキじいさん 投稿日: 11月1日(木)21時09分57秒

俺もやられた。つい昨日の夕方のことだ。

こっちもやられました 投稿者:間津井店長  投稿日: 11月1日(木)20時24分16秒

過去の経験から言うには、これって絶対「アレ」だなぁ・・・ちなみに私もやられてmission octoberが消されました。

うっせえ! 投稿者:NO.71 投稿日: 11月1日(木)21時09分57秒

魔津居の作品何ざ参考にしてねえよボケ!酷すぎて消しちまったさヒャハハ!

ひ、ひでえ・・・ 投稿者:巨人機械 投稿日: 11月1日(木)21時09分57秒

俺はまだやられてないけどさ、作品出したくなくなっちゃったよ・・・

(無題) 投稿者:村の住人  投稿日: 11月1日(木)21時24分16秒

なんだか他の作者様が次々とハッキングされてますね・・・・・これって本当にまずいんじゃないんでしょうか。
私も皆さんの作品を楽しみにしているのに、こんな形で公開されてもちっともうれしくありません。







 「・・・・バイク」

 <なんでなんでさぁ!僕は出し渋る作者に代わって作品を公開しただけじゃないかぁ!>

 まるで悪気を感じていないバイク。文化に疎い宗一であっても、もはやここまで来ると悪意ではなく無邪気さすらも感じてしまうほどであった。







なんだなんだ 投稿者:No.71 投稿日: 11月1日(木)21時39分57秒

僕は作者が出し渋るから、代わりに作品を公開しただけじゃないか!何が悪いんだ!

レス 投稿者:シャドームーン@管理人  投稿日: 11月1日(木)21時55分16秒

先週、パソコンが急に故障して、やっと復旧いたしました。中のデータはすべて壊れてしまったので作品はまた最初から作り直すことになりました。今回のNo.71さんの一件については、完全な「荒らし」として認識するしかありません。まことに残念ですが、以後No71さんのサイト立ち入りは禁止させていただきます。
なお、今回の一件は警察に提出して、しかるべき処置をしてもらいます。

・・・・・ 投稿者:ステッキじいさん 投稿日: 11月1日(木)22時09分57秒

とうとう公安の問題か・・・・

・・・・・ 投稿者:レジェンドヒーロー  投稿日: 11月1日(木)22時24分16秒

何ともコメントしがたいですね







 「それで、もうだめになったということか」

 <そうさ!ネット犯罪者のIPを身代わりで使ってたからさ、結局その人が逮捕されたってことで全て決着がついたんだけどさぁ・・・>

 まだ続きがあるのか、宗一は呆れた。というか決着がついているのかすら疑問だが。

 <このままじゃバイクとしての尊厳が傷つけられたままだ!だから・・・>








面白いサイト 投稿者:ナンバー71 投稿日: 11月2日(木)21時09分57秒

面白いサイトを見つけました。
HTTP://×××。ねっと

 投稿者:間津井店長  投稿日: 11月2日(木)20時24分16秒

ぐわやられた!上のサイトはブラクラです!

ひでえ 投稿者:苦労人パープル 投稿日: 11月2日(木)21時09分57秒

私もやられました。ひどい人ですね。

プッ 投稿者:ナンバー71 投稿日: 11月2日(木)21時09分57秒

引っかかった奴はアフォだねぇ(プ

キモオタ 投稿者:ナンバー71 投稿日: 11月2日(木)21時09分57秒

間津井はデブオタでキモクていい年してるのに未だにドラえもんを見ている真性のキモオタだぜヒャハハハハハハハアハハ!死ね死ね死ね〜死ね〜死ね〜死ね死ね死ね死ね死んじまえ〜死ね死ね死ね〜死ね〜死ね〜死ね死ね死ね死ね死んじまえ〜死ね死ね死ね〜死ね〜死ね〜死ね死ね死ね死ね死んじまえ〜







 「・・・・・・・」

 以後この調子の文体が以後100項目以上続いていく。そして11月5日を最後にその後の書き込みは一切なくなっている。

 <いやぁこれですっきりしたものさ!人間ってのは必要以上に尊厳を傷つけられると意気消沈して何も出来なくなるからね!いくら書き込みを消してもこっちは疲れ知らずだから、いつか絶対音を上げてジ、エンドさ!IPも毎日変わるところを使っているから僕を絶対にアク禁できない!もはや完璧だね!>

 まるで悪意を感じないこのバイク71号機が、悪魔の生まれ変わりであるように宗一にはそう見えた。「死ね」の文章が延々と続く掲示板、アクセスカウンターは92343921というデタラメな数値でずっと止まったままだ。

 <ちなみにそのカウンターもF5攻撃でメチャメチャにしたのさ!1秒間160連射の猛スピードで!それを延々とまる1週間!>

 「・・・・・」

 もうほとんど韓●人のような所業を行うバイク71号機に宗一は返す言葉がなかったが、なぜメイリンがバイクのインターネットを禁止させるか、その理由がようやく分かったような気がした。

 「容赦ない奴らだ」

 そう、こいつらは、社会にとっては迷惑以外の何者でもないのだ。人間と違って疲れを知らないし、何より「てかげん」を知らない。悪意や善意もプログラム上で決める、思い込んだら一直線、人間と人間との間に生ずるコミュニケーショントラブルもへったくれも、こいつらバイクは何も感じないのだ。バイク同士の間には情報がネットワークでつながっているので分かり合えるという概念が完成しており、バイク同士の関係に限定されるが、人間のような「疑惑」というものも、「疑念」というものも、まったく表れない。

 <そうちょうく〜ん〜〜>

 そんな中、一台のバイク、バイク46号機が宗一の服のすそを引っ張る。

 「何だバイク。」

 <いやぁちょっと曹長君に頼みたいことがあるんだけどさぁ・・・>

 「変な声で頼むな。お前の主人のカタヤマ伍長にやらせればいいじゃないか>

 「いやぁこれは曹長君じゃないと出来ない問題なんだ、さ、さ!」

 マニュピレーターで無理やりかつぎ込まれた宗一は、バイクにそのまま連行されていった。











 

気の合う方募集中 10/20(木) 23:56
名前 ジュド  [メール] [削除] 高校生 17才 東京都
はじめましてこんにちは。

本日は気の会う女の子と出会いたくて書き込み致しました。
仲良くなってよくよくは秋葉原とか渋谷とか行ったりしたいです。
あ、でも僕の仕事の休みは土日なので合わせられる方が理想です。
気楽に明るく行きましょう!

僕の今ブームな作品はテイルズオブジェルドラド、メジャーリーグガンダムです。
ガンダムシリーズは大好きなのですが前作はキャラデザインが非常に女性向けでしたので受け入れるのに時間がかかってしまったのが正直な感想です。
ちなみに好きなキャラはキラヨシカゲ、ジアカ、イサクです。
メジャーリーグも遅れを取り戻す為観ています。
なにげにヤンキースガンダムのプラモ放置三か月目突入記録更新中だったりします(笑)

あとはテイルズプレイ中です!
ユジーン&ティレイ最高にかっこいいですね。

他に好きな作品はフルバ、ゼウスさまはみてる小説版、いつつばと、ビバップ、ショーグンチャンプル、などなど。
最近はプロネテス、ビリをねらえ2が観たいなって思っています。
楽しみなゲームはFF15とエンジェルサーガ2です。

えっと、こんな感じかな・・・
趣味が合いそうな方がいらっしゃいましたら気楽にメールくださればと思います。
そして何度もすみませんメジャーリーグ系だとジアカとイサクかっこいいですね!
男らしい顔してますし。

そんな感じで失礼致します。
長い文読んでくれてありがとうございました。


 「・・・・なんだこれは」

 <出会い系サイト!>

 さらりと恐ろしいことを言うバイク46号機。46号機のライダーであるカタヤマ伍長は、隊の中でも極めてカタブツであることで有名な隊員だ。だが問題の本質はそんなことではない。

 「カタヤマ伍長は女だぞ!なんで男表記になっている!?」

 それであった。宗一の指摘通り、カタヤマ伍長は女性隊員なのだ。それも戦争で夫を失った、メイリンと同じいわゆる「未亡人ライダー」の部類に入る。この手のライダーのほとんどは「復讐」がライダーの動機であるためにこのような私欲めいた行動は一切しないのが通説である。

 <いやぁ・・・ネカマをやっていくうちにどんどんのめりこんでいって・・・>

 「お前らに性別の概念などないだろう!」

 珍しい宗一の正論にバイクは一瞬ひるんだ。

 <・・・こういうときに限ってもっともらしいことを言うんだね曹長君は。そもそも僕のライダーは女ッ気がなさすぎる!>

 「伍長の境遇はお前も知っているはずだ!」

 <でもさぁ〜おたくの小隊のメイリン少尉みたいに復讐フルスロットルで生きても面白くないじゃん人生は。だからせめて・・・こういった明るい話題を無理難題に吹っかけて矯正しようかと・・・>

 「バイクごときが人生論を語るな!」

 <差別発言だそれは!男だから、女だからの区別で差別するんじゃないっ!>

 だったら女表記でやればいいだろ、と宗一は思った。そもそもバイクなのに人間の人生論を論じるのは果たしていかがなものか、恐らくバイクは気づいていないのだろうがバイクは自分が人間だと思い込んでいるような、そんな発言であったが両者ともにそれに気づいていないようである。ちなみにカタヤマ伍長はメイリンの小隊ではないが、その性格のきつさは他の小隊からでも有名だ。

 <問題なのはこれなんだ。>

 そんな宗一の心境を無視するかのごとく、バイクはメールを開いた。

ジュドさんへ
はじめまして!
掲示板の写真を見せてもらいました!すっごくかっこいいですね♪本当に高校生ですかw?
私も都内の高校に通っている女子高生で、ジュドさんと同い年です!
私も最初はアニメ好きの女の子は嫌われるんじゃないかと思われるかもしれませんが勇気を出してメールを出させてもらいました!
もしよろしければメールの返信をよろしくお願いします!
 
ユミミ1等兵さんへ
はじめまして。私もあなたみたいな聡明な方からメールを頂いたことに嬉しく思います。
趣味のことはあまり気にしなくてもよろしいでしょうし、私も恐らくユミミ伍長さんと同じ嗜好でしょうから、そんなに恐縮しなくてもいいですよ。

次回のガンダムも結構面白かったので、今後メールで感想を言い合いませんか?
私のほうは学校の課題が幾つかあるので実際にお会いするのにはまだちょっと無理ですが、メールのやり取りでも実際に会うより気軽にお話が出来るでしょうから、もしよろしければお返事を待たせていただきます。

ジュドさんへ
こんにちは!素早い返信ありがとうございました!
そうですか・・・学校がそんなに大変なんですね(>M<;)
でも学校の方が大切でしょうし、そんなに気になさらなくても結構ですよ!
この前のガンダムはついに大気圏突入しましたけど、すごく迫力がありましたね!それと・・・・

・・・いたって普通の?会話である。以後の会話の往信もアニメに関する話題ばかりでいたって?健康的な会話内容が続いている。

 <けどねぇ・・・>

 バイクは43通目のメールを開いた。

ジュドさんへ
どうして今更そんなことを言うのですか!

ユミミ1等兵さんへ
ですから私は学業に専念しないとこれからの成績に支障が生じてしまうので、しばらくメールは勘弁していただけないでしょうか。
お気持ちは分かりますが、私にも事情と言うものがありまして・・・大変申し訳ありませんが、しばらくメール交換は勘弁してください。
可能な限りお答えしますが、テストが近いと言うこともありますので、返答には時間がかかってコミュニケーション以前の問題になってしまうので・・・

ジュドさんへ
いくらなんでも一方的!
テストなんてどうとでもいいじゃない!

それとも私を遊びの女だと思ってフッたのね!酷い!

ユミミ一等兵さんへ
少し冷静になって考えてください。メールを送ってわずか3分で送り返してくるのはさすがにどうかと思うのですが。
それと論理が飛躍しすぎです。元々遊びで始まった交流ですから・・・

ユミミ一等兵さんも私みたいな状況に置かされたらどのような行動がベストかを考えて見てください。

ジュドさんへ
鬼!悪魔!人でなし!

だったらせめて一目あわせてください!それだったらその後諦めますので!

ユミミ一等兵さんへ
むちゃくちゃ言わないでください。

ジュドさんへ
あなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたいあなたに会いたい

 「・・・・・」

 <というわけなんだ>

 「どういうわけだ。俺はこのことには一切関係ない。お前達で処理しろ」

 画面には似たような文面のメールが20件ほど届いており、宗一は考えるのも億劫になるほど呆れていた。宗一の概念でもこのメールの相手がいかに非常識で危険思想の持ち主であることぐらい分かる話であり、この一件から手を引こうと画策した発言だった。だが、

 <そういうわけにも行かないんだ。ほら>

 「・・・・・!」

 バイクのマニュピレーターが器用にマウスを動かし、目の前のディスプレイに現れたのは・・・自分だった。

 「・・・・・ど、どういうことだ」

 <いやぁ僕らじゃこの”いでたち”は無理だしねぇ。>

 宗一は、だんだんバイクたちが自分を当てにしているのではなく、自分をダシに色々とやっているような気がしてならない。そんな胸中をよそにしてバイクは続ける。

 <それに他のライダー達も話題性にも上らないし、何より日系人が少ない!日系人のことごとくもおっさんばかりでこの任務を達成できるのは君だけだ曹長君!君ならそれなりにさまになるし、おっさんだと変なオタクだと思われて逆に怪しまれる!だから若い君の写真を勝手に使わせてもらったのだ!>

 さっきのメール内容を宗一は思い出した。「すっごくかっこいいですね!」というメール相手のあの内容を・・・・・

 <それで明日、彼女に会う約束をしてしまったんだ。僕らのピンチを救ってくれ!拒否権はない・・・わかるね非人道ライダーの宗一曹長君?>


























西暦2004年11月12日午前9時57分
新宿駅


 「・・・なんて量の人間だ」

 人ごみに続く人ごみ、24世紀の街でもここまで往来の激しい道など一切ない。駅や交差点などといった往来の激しい地帯では地面が自動歩道になっているので歩く必要はなく、結果それが人ごみ渋滞の問題が解決しているからだ。要は車の交差点と同じである。

 どやどやどやと歩くその光景は、宗一は余り好きではない。あの中にネオプラント、もしくはバルラシオンの刺客がもぐりこんでいたらどうするか、あの人数の中では見抜けないからだ。仮に見抜けても奴らのことだ、周辺の人間を巻き添えにするなど朝飯前だからこっちは手も足も出ない。

 今、浅岡宗一はバイクの依頼?を受けてデート代理人の任務を遂行中である。黒い革ジャンにジーパンのいでたち、元々同年代の男の子の中では美形に属する外見だ。およそ10年に及ぶ戦闘経験から裏打ちされるガッチリとした体つき、ややセミロングの髪型がワイルドさを物語っており、それがどうやら女性の性的欲求を刺激するそうである。だが時折非常識な行動を取るために「かっこいいけど近寄りがたい」というイメージが学校で通っているが、少なくとも第一印象では「美形ワイルド系」と捉えられることがほとんどであった。

 <いいかい曹長君、相手の女の子は君の顔を知っているからそのままでいたまえ!>

 バイクからの通信が入った。宗一は支給された携帯電話を握り、電話をするつもりでバイクと会話する。

 「どうでもいいが、なぜ相手の顔ぐらい見せてくれないんだ・・・バイク」

 <だってー、ネットじゃ互いの素顔を見せないのが常識だよ?僕達も知りません〜>

 「では俺の顔を見せたお前らは非常識ということになるな」

 <出会い系サイトの常識だよ〜>

 「相手も素顔を見せる義務ぐらいあるはずだ」

 <そんなの人間が勝手に思い込んでいるありもしない決まりごとさ。自分が見せたから相手も見せるっていうのはあんまり好きじゃないなぁぼくは>

 <いいこといったな23号機。そういったやったらやり返す精神が人間の精神的発達の阻害の原因なんだ。そういう根性でいるからいつまで経っても人間は戦争と平和と腐敗のサイクルを延々と続けるんだぞ>

 「・・・・・」

 こいつらには理屈など通用しない。そう感じた宗一は携帯電話を折りたたんでその場に待った。





 その後約束の時間が過ぎて3分ほどたっていた。

 「・・・・遅い」

 宗一は時間厳守の男だ。軍隊生活が長すぎたために軍規が身に染みており、遅刻は彼の神経に最も障る行為である。それが原因で彼が仕事を手抜きしたりするようなことは一切ないが、二度とその人物と仕事をやらない癖を持っている。

 「・・・帰るぞ。バイク」

 どしんどしんどしんどしんどしん

 <あっれ〜おっかしいなぁ。まだ帰っちゃダメだよ!>

 「会ったことも無い上に時間通りにこれない女など信用できるか!」

 どしんどしんどしんどしんどしん

 <まったく女心がわかってないなぁ曹長君は・・・こーいうとき女の子は「ゴメーン、待ったー?」とやってくるのだから「いいや、今来たばかりだから」と度量を見せてやるのがやさしさってものだぞぉ>

 どしんどしんどしんどしんどしん

 <まったくそんなんだから学校でも女の子から避けられているんだな!デリカシーさがないからいつもいっつもいいっ〜〜〜つも成美ちゃんにも殴られたりけられたりするパターンが構築されているわけだ!作者も楽できるわけだなウン!>

 <黙ってりゃそれなりにいい面構えなのにさぁ〜>

 どしんどしんどしんどしんどしん

 「・・・・」

 もうこいつらののろけ話には付き合ってられない。そう思って宗一が帰ろうとしたその時、

 どしんどしんどしんどしんどしん

 先ほどからはるか遠くから地響きが起こっていた。駅前だが電車の地響きではない。まるで巨大生物の歩く音だ。

 「アーマーライダー!?まさかこんなところに・・・!?」

 宗一風に解釈するとこの地響きはそう聞こえたが、もちろんそんなのはここにはいない。こんな人ごみの、おまけに建物内に4m近くの機動兵器が現れるなど、ありえないからだ。

 どしんどしんどしんどしんどしんどしん

 「あらぁん!」

 それはいかなる獅子すらも、まるで子猫と化して逃げ出すような、そんな声で、改札口から1人の女性が現れた。

 「〜〜〜〜!?」





 それは宗一が今まで見てきた女性の中では明らかに異質すぎる女性であった。

 胴長短足、大根足で顔の輪郭がお饅頭を連想させるようなふっくらとしており、牛乳瓶メガネ、ぶっとい唇、太くて短い腕。「パッチリ」を通り越してまるでカエルかカメレオンと形容した方がいいほどにまでぎょろっとした目つき・・・・・これだけならまだそのあたりで見かける中年女性だが、年齢が宗一とほぼ同じに見えるような雰囲気だ。さらに服装はそこら辺を歩いている女性とは・・・・・というか普段着の若者とは明らかに異質、真っ黒のゴスロリータなワンピースにフリフリつきのミニスカートは明らかに異世界の人間を思わせる風貌だ。歩き方もスタスタ歩くのではなく「どしんどしん!」というような擬音が聞こえそうな、まるで重戦車か巨像を思わせるかのような、おおよそ女性とは思えないパワフルさすらも感じさせた。

 「ひょっとして・・・『ジュド』たん!?」

 これまで宗一が見てきた女性というとメイリンや成美のような能動的な人物ばかりであったため、宗一の中には「女性=活動的なもの」という概念ができていた。また、今まで女ッ毛のほとんど無い世界にいた彼にとって女性のいるこの世界で見ると、率直ではあるが人を見る目が常人より厳しい評価を下してしまうようである。最初から見ていたメイリンは中性的な感じだったが、改めてこの世界の女性と同じ土俵に立つと美人の部類に入る。一方の成美は宗一としては「しっかり化粧をすれば平均以上ではないか」と考えているし、周囲にいる成美の女友達も平均以上ばかりだ。 だが周囲に歩いている女性達は「宗一の平均」を下回る女性ばかりであるし、その評定以下の女性には彼氏連れのもいる。どうやら宗一は自分の基準が少々厳しすぎたものだと自戒していた。もっとも宗一が自分の価値基準がまだ誤ったものであることを認めるのはもう少し先の話になるが、今はそれを論じるときではない。

 「ううう・・・・・」

 額に汗が流れていることに気づかないほど、宗一の心理は深刻だった。恐らくは彼でなくても引いてしまうような、一般人よりはるかに厳しいと思われる「宗一の平均」でなくても0点になりかねないような、容貌であった。別に宗一は味覚が常人よりはるかにおかしいが、美的感覚は人並みである。たまにマンガで見る「ブサイク」と呼ばれるキャラがいるが、宗一の目の前にいるのはまさにそのキャラだ。ブタのように鼻が強調され、カバのように歯が見事に欠け、トドのように3重にも4重にも形成されたあご、つながった厚さ1cmはありそうなぶっとい眉毛、実物のタラコ以上に太いタラコくちびる、関取のような3重にも4重にも形成された、ワンピースをはちきれんとばかりに飛び出した太鼓腹にアクセントのでべそは視認しただけでもピンポン玉並の直径を誇る。顔だけでもさんざんなのに全身にはにきびとも失神ともとらえかねない謎の吹き出物が浮き出ており、おおよそ女とは思えぬぶっきらぼうさだ。

 「外見で判断してはいけない、という話をよく聞くが、第一印象をよくするにはやはり外見をしっかりしないといけない」。これは宗一が真崎から教えてもらったことだ。外見の乱れは精神の乱れを表していることであり、真崎の言う「外見」は服装の値段ではなく整えてあるかと言うことだ。他人と接するにあたって相手に不快な思いをさせぬ事こそが重要なのだと言う。だから同じ女のメイリンも化粧をしないこともあるしシャワーを浴びない日が1週間以上あるが、宗一は彼女が不潔な印象を持っていない。あっちはライダー兵と言う職業であるために仕方がないし、軍隊の作戦行動中は1ヶ月以上シャワーを浴びない日があるのだからシャワーの余裕もへったくれもないわけだが、それにしたってメイリンと比較にならない肌の管理のずさんぶりには呆れを通り越してしまう。

 とどめに一歩歩いたり・・・・否、呼吸の動作だけでもその太鼓腹やトドのアゴが「ぶるんぶるんっ!」と威勢良くゆれる。横幅は人間の倍以上を誇っており、これが男だったら横綱クラスの体格だ。よくあれで自動改札口を出られたな、と宗一はいやいやながらも感心した。

 「ジュドきゅん・・・ハァハァ」

 意味の分からない単語と息切れ・・・否、興奮の息遣いが宗一に伝わる。さっきまで餃子でも食べていたのであろうか、納豆とキムチとニンニクとニラのにおいが鼻に触って仕方がない。おおよそ初対面の人間と会うにはあまりにも無礼すぎる行為だ。もし真崎が似たような状況に立たされていたら、間違いなく彼の親衛隊ライダーが部屋から叩き出してしまうだろう。

 ひらひら

 スカートは短くて下着が見えている。宗一はそれを漫画で覚えたがその後成美にたずねたことがある。

 「君はそういうのをやらないのか?」

 
がごっ!

 「この変態がっ!」

 授業料は殴打であった。顔を真っ赤にしながら暴力を受けたところからしてどうやら失礼に値する行為らしい。宗一が聞いたのは「男性に対する性的興奮を誘発する下着・・・」すなわち勝負下着もしくはミセパンであり、それは普通の女子がやらないことを身をもって理解したが、おぞましさを2倍にも3倍にも増大させているだけであった。髪型は古風あふれる三つ編だが古風どころか逆に不気味さを強調している始末である。

 「・・・・・はぁ、写真のどおりだったのねぇん♪あたし騙されてるかと思ったけどぉん」

 むしろ騙されていたのはこっちであると宗一は思った。どこか浮世離れというか、微妙に男じゃないのかと疑いたくなるような太い声。おまけに餃子のニンニク臭があまりにもきつすぎて黄土色の気体が見えてしまうような錯覚すらも覚えてしまう。ブリブリしたその聞いただけでも吐き気と寒気が同時に発生するようなしゃべり方は宗一を戦慄させる。

 「あらごめんなさぁいん、わたし”ユミミ1等兵”でぇ〜すっ!あなたがジュドさんでしょぉんやっぱ見た目どおりのいい男だわぁん!萌えもえ〜〜〜」

 ぐさっ!

 それは見えないが、人であれば誰でも見ることも感じることもできるピンク色の凶器だった。背中にしょっている天使の羽をモチーフにしたアクセサリーつきの小さなリュックがパタパタ揺れるのが余計に神経に障る。しゃべるたびに奇妙なポーズをとって「キャピッ!」とするそのしぐさ、「チョミョミョ〜ン!」とするその謎のしぐさは誰であろうとも殺意を覚えると同時に逃げ出したくなるようなおぞましさすらを覚えさせた。恐らく百獣の王のライオンすらも尻尾巻いて逃げてしまうだろう。しかもその動作一つ一つに脂肪がブルンブルンゆれるその光景がなおかつおぞましさを倍化させる!実際合切、宗一とその女性の半径3mは謎のオーラが発しているのか、誰も近づこうとしなかった。否、近づけなかった。

 大体、近づくことすらも危険だ。だがこの危険というニュアンスはちょっと違う。アーマーライダーは動きは鈍重だがその圧倒的なパワーとパンチやキックのスピードは人間の理解をはるかに超えている。つまり危ないので近づけないのだが、この目の前にいる女?はそれ以前の問題だ。頭がフケとツヤで酷すぎるのだ。おまけに汗やワキガ、その他色々な悪臭が彼女を中心とした半径10m以内に発生していることを宗一の体内に装備されているマシンナリーアナライズ機能がそれを証明していた。成分そのものはありふれた悪臭の物質だが、その毒性は24世紀の外気に匹敵するほどの毒性を分析している。

 24世紀は核戦争で大気がめちゃくちゃになって汚染されており、生身の人間がその外気に当たると30分足らずで意識不明の重体に陥るほどだ。皮膚病にもなるし、地域によっては放射能汚染を受けるために丸1日外に居たら生命の保証は無いのだ。最近になってやっと大気が安定し始めてきているが、それにしたってまだ人間が生身で外を歩くのは無理であるため、各都市には地下鉄や飛行機などといった移動が基本となるわけであり、ライダースーツが完全密閉型になっているのもこれが根拠である。

 そして問題なのはだ、宗一の目の前にいるその女が発している悪臭はその24世紀の外気に匹敵する殺傷力を持っていることだ。既に辺りにいる人たちが咳き込んでいたりくしゃみを16連発したり、涙や痰を出したり、中には蕁麻疹や失神を起こしている者すらもいる。宗一は改造人間なのでそういった毒素には耐えられるが、恐らくこの女は・・・!

 ピピーッ、

 <曹長君・・・君の生まれの不幸を呪うがいい>

 突如バイクから通信が入った。この意味の分からない発言に宗一は条件反射で答える。

 「・・・生まれの不幸だと!?」

 <君はいい友人・・・いや、嫌なライダーだったが、君がいけないのだよ。あえて言えば君の叔父さんも多分に悪いかもしれないが>

 ここで宗一はバイクの本性を知った。

 こいつらは俺をはめた!

 「!? 貴様!!!謀ったな!バイク!!!」

 「何独り言いってるのジュドきゅんさあカラオケ行きましょぶっ続けでアニソンたっくさんうたいましょーねはぁはぁ」

 ぐいっ、と宗一の腕が引っ張られる。体重450kgの改造人間であるにもかかわらずその女性のパワーは凄まじく、宗一はのけぞってしまう。

 「や、やめろっ俺はそういう趣味はない!」

 そもそも体格が違いすぎる!関取の超重クラスの体格の、それもすさまじい容姿と中身を両立した女となれば!いかに宗一といえどもその本来の戦闘力を発揮できないのである!

 「あら私は恥ずかしくないわよんむしろあたしたちのラヴラヴっぷりをみせつけちゃおーよだ・ぁ・り・んっ

 「!!!」

 浅岡宗一、生を受けて17年経ったがこれほどまでに女性に対して嫌悪感と恐怖心を覚えるのはこの日がはじめてであった!彼の本能が「危険人物だ、逃げろ、撃ち殺せ!」と警報音を鳴らしているが、利き腕を完全に取られている以上何も出来ない!訓練でメイリンにトマホークを目前で構えられている時の数百倍の恐怖心、かの1月のモスクワ都市要塞における劣化ウラン弾による死の恐怖心の、そんな恐怖が彼を、宗一に襲っている!もしこの状況がかの有名なセクハラ教授であったら間違いなく回れ右して卒倒していてもおかしくはない!

 「やめろひっつくな、離れて歩けぇ!」

 「ハァハァ。そうそう、こういうこっぱずかしさがあなたみたいでかわいいわぁんでゅっふん」

 「ひぃやあぁあぁあぁぁぁぁぁ!

 男とは思えぬ悲鳴を上げる宗一!ここまで彼が動揺したケースは後にも先にも見当たらないだろう!

 それに恐らくは、意図的にであろう・・・その女性は宗一の利き腕を体に密着させるかのように押さえ込んでいる。男性諸君ならばそれは嬉しいハプニングかもしれないが、今の宗一にとってそれは・・・・・訂正、男は愚か女でも寒気とおぞましさで気絶してもおかしくないような状況である。このときの宗一にとって今の状況は人食いザメに片腕を食われているのと同義語であった。

 「やめろ!やめろ!やめろ!ばいくううううううううううううううううううううううううううううう!!!

 宗一の金切り声に等しい悲鳴は、駅中にとどろいただけであった。なぜならその声を聞いたものはいても彼を助けるものは誰もおらず、道行く人はその光景をまるでお地蔵様のごとく静観せざるをえなかったからである。

 まるで戦闘員に引きずられていくかのように連れて行かれる宗一が聞いたバイクのフレーズは以下の様である。

 <復讐は果たした>

 <さらば曹長君、君の最期は3号機にしかと伝えておこう・・・>

 <おててのシワとシワを合わせて幸せ。>

 <なーむー>


















11月2週に続く


後書き?



 どどどどどどどど・・・・

 がちゃばたん!

 「くそ!やはりここにもいない!」

 「たいちょう、ここに書置きが」



 『書くのに疲れました。さようなら、探さないでください』



 「作者の分際で・・・探せ!草の根分けても探し出せ!見つけ出したら頭蓋骨刳り抜いて漢方薬にしてやる!」

 どどどどどどど・・・・・





 「こんにちは読者諸君。私は浅岡真崎。いつも後書きには作者の長ったらしいコメントが入るものなのだが、どうやら彼は行方不明のようだ。現在親衛隊が全力を持って捜索中だが・・・ではこれは誰が書いているのかだと?それ以上の追求は大統領命令により却下する。命令違反の者に対しては親衛隊ライダーが君の元にやってきてこの世のものとは思えぬ仕打ちをするであろうから覚悟したまえ。」

 「さてそれはいいだろう。今回ここまで長引いた理由を代弁すると、作品内のストーリーが佳境を迎えているからだ。見ての通り未来編はついにネオプラントと我が軍の総決戦が始まったわけだが、つまりこれは最終回の決戦に当たるわけだ。無論先月ビジターや他の作者一同を震え上がらせた、ライダーハンターも次回登場する。現時点では甥のスプラッシャーキックでしか倒せないわけだが・・・」

 「おっと口が滑るところだった。さっき言った様に今回はストーリーが大きく動く訳であり、完成には異常に時間がかかってしまうわけだ。容量も前中後編の3篇に分けてしまうと500kbという冗談ではない量になりかねないのでやむなく3部作に分けることになった次第だ。・・・まったくもう少し文章力をあげて欲しいものだ、量が多ければいいというものではないのをいつになったら理解できるのか・・・」

 「・・・愚痴になってしまったようで申し訳ない。まったくなぜ私が作者の代弁をしないといけないのか・・・今回のヒロインコンテストの参加者を発表しよう」





・浅岡成美
救世主の・・・予定の少女。短気で粗暴な性格はおおよそヒロインと言うより汚れ役。しかし悲惨な未来が待ちうけ、それに立ち向かわなければならない彼女ほどヒロインとしてふさわしい存在は居ないだろう。今の段階ではまだその自覚はなくても・・・



・メイリン=ルイ
全てを奪ったテロリストに復讐をすべくライダーとなった女性ライダー。その実力は一騎当千、9年間に及ぶ戦闘経験は作品中内でも最強クラスの実力を誇る。彼女の斧で倒された敵は数知れず、その強さと大人の魅力で優勝を狙えるか!?





 「ふむ、こんなところだろう・・・む、何だこれは」

・ユミミ一等兵(仮名)
流星のごとく現れたスーパー腐女子。おおよそ人間とは思えぬその風貌と迫力はヒロインの座にふさわしいキャラといえよう。性に関して無関心な宗一すらも戦慄させた彼女の実力は言うまでもなくドードー作品集の中でも最強!応援してくれた方は熱い抱擁が待っています。





 「・・・・・これは確か甥の宗一が酷い目にあったという女性か。まさか出るつもりか、”これ”が。」

 「・・・・・」

 「どうしたかね川地君。」

 「私は出られないのでしょうか・・・一応女性ですし」

 「残念ながら今回の出番はない。君も1人の女性としてはヒロインコンテストに出られる資格があるわけだが、あいにくダメ作者のせいで君のキャラの掘り下げがあまりなされていない以上、出ても健闘は望めないだろう。それともユミミ一等兵とやらのような強烈な個性や売りというものがないからには・・・」

 「・・・」

 「泣かないでくれ。君のためを思っている。もし最下位やその辺りになったら君の尊厳が傷ついてしまう。私とて1人の男だ、君が傷ついてしまうようなことには巻き込みたくない一心で言っているのだ。大統領として君の立場を守りたいし、一人の男として君の女性としての立場を守りたい、わかるかな」

 「・・・はい。今回は閣下の通りに遠慮させてもらいます」

 「ありがとう川地君。話がうまくまとまったので今日はこの辺にしよう。では次回のζも楽しみに待っていただきたい、そして最後に、次回の大統領選挙には私、浅岡真崎に一票お願いしたい、では」


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