西暦2312年8月1日14時32分
仙台都市要塞



 どがぉん!どがぉん!

 「第8大隊前進!要塞に肉薄せよ!続いて第9大隊もそれにつづけぇ!」

 うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 「地域防衛部隊のライダー隊はそのまま動くな!敵を包囲して逃げ道を作らなければそれでいい!」

 「閣下、第3大隊から通信!要塞の地雷除去に成功した模様です!」

 「よし!地域防衛のライダー隊を前進!要塞との距離を1km圏内まで接近させろ!我が師団はこれより全軍要塞に突入させ、一気にテロリストどもを駆逐する!全軍、私につづけぇ!」

 ライダースーツのヘルメットを装着し終えたトーマスは、トマホークを握り、バイクを巧みに扱い、全軍を奮い立たせた。





同時刻
仙台都市要塞 オフィスビル

 「ええいっ!まだなのか!」

 「もう少しお待ちください!あと少しです!」

 「社長!レジスタンスの軍隊が要塞に突撃を仕かけてきました!」

 「地雷原はどうした!?」

 「処理された模様!」

 「ええい!ライダー隊は何をやっている!レジスタンスのクズどもを早くしとめられないのか!」

 見るからに小太りのおっさんが、数人のデビルライダーを相手になにやらわめいている。だがデビルライダーは「申し訳ありません」とか「善処します」とか「もうじきです」としか返答できず、ただのおっさんにしか見えないこの男に対して平身低頭を繰り返している。

 「社長!脱出潜水艇の準備が完了しました!」

 そのおっさんはボール玉と表現すべき愛くるしい風貌だが、顔そのものは極悪である。身長は作者より低くなおかつ作者より重い体重を誇っているがそんなのは今回は関係ない。

 「よし!あのロケットは!?」

 「すでにカウント5分前です!」

 「よおし!悪いがわしは逃げさせてもらうぞ!お前達はわしが脱出するまで時間を稼げ!」

 「はっ!鈴木社長!お元気で!」





5分後

 都市要塞の中は意外に明るい。要塞全体を覆うカプセル状のドームには擬似的な空を映し出しており、あたかもそれが外の世界であるかのような印象を与える。だが一歩でも要塞から出るとそこは暗黒の地獄地帯である。防護服を着ないと30分で意識不明に陥るほどの、すさまじい環境汚染が外の世界なのである。

 そしてトーマス大将率いる第8ライダー師団は恐るべき強さで要塞内に浸透していく。途中バルラシオンのデビルライダー隊と交戦もあるにはあったが、こちらは2万であちらはたかだか2000名程度程しか確認できず、根本的に数が違いすぎたためにさほど問題ではなかった。

 「全軍すすめすすめぇ!あのビルにバルラシオンの鈴木社長がいる!奴を捕らえて大統領閣下の前に引きずり出してやれ!」

 鈴木社長。その名前以外の全てが一切不明である、テロ組織バルラシオンのトップである。タリバ●でいうビンラ●●ン、オウ●でいう浅●●●にあたるもので、彼はリーダーである。代々「鈴木社長」というのはバルラシオンが始まった21世紀から続く襲名みたいなものであるらしい。300年前に浅岡成美がテロで死亡した際に、彼女に不満を持っていた人類の一部が反発を起こしてテロ組織となり、以後「バルラシオン」という名前が浸透したのである。だがバルラシオンはレジスタンスと比べてパワーバランスが根本的に弱すぎたために、数々のテロを繰り返してレジスタンスを悩ませ、賄賂や麻薬で上層部を洗脳していったことさえあった。

 ところがほんの20年ほど前に、浅岡真崎がトップに立ってからは状況は一変した。その強権を発動してバルラシオンと通じる連中を公私問わずに次々と粛清、弾圧をしたのだ。さらに「バルラシオンに人権なし」発言を行い、数々の凶悪テロを引き起こしたバルラシオンを悪役にすることで人心を統一させたりもし、例え相手が白旗をあげようともそれを受け入れないように全軍は指示されている。

 降伏しようとする連中を殺すとはひどいじゃないかという声もあるにはあるが、それ以前に彼らが何をやってきたか。数々の都市にある原子力発電所を爆破したり、核兵器で容赦なく破壊の限りを尽くした。無茶無謀な閣議決定を脅迫で承認させたり、麻薬を使って世の中を乱れさせたりもした。実際の交戦でも白旗を上げて相手を油断させた隙に総攻撃を仕掛けたり、腐食ガスやら何やらと、それはもうリストアップするのも疲れるほどにまで、彼らは悪事を犯していたのであった。

 ごごごごごごごごごご・・・・・

 「む・・・・・あれは!」

 目の前に強大なミサイル状の物体が飛び立とうとしている。以前の仙台都市要塞にあんなロケット発射台はなかったはずだ。

 「全軍!あのロケットを逃がすなぁ!とつげ・・・・・」

 トーマスがそう命令しようとしたその時、巨大な機械音があたり一面に轟いた。能動的なアクチュエータの動作音は確かにライダーたちの目に耳に伝わっていく。

 がしょんがしょんがしょんがしょんっ!

 ギャオオオオオオオオンッ!


 「・・・・・!」

 「あ、、、アーマーライダーだと!仙台都市要塞には配備されていなかったはずだぞ!?」

 それは巨大なロボットだった。ただロボットというには我々が知るロボットアニメのようにスマートなものではなく、あまりにもあまりにも重心が低く、胸部と腰はあるものの腹部に当たる部位が見当たらない。また頭部にあたる部分にはデビルライダーが代わりに乗っており、そこで操縦しているようにも見える。腕は長く太く、片方の腕がバルカンとなっており、口径は30mmは下らないだろう。下半身は妙に短く、2頭身か3頭身という表現が似合うほどの姿だが、人間の2倍以上の巨体をほこる、脅威だった。

 ちゅいいいいいおおおんっ!

 ちゅおおおおおおお・・・・・・がきんっ!

 アーマーライダーが左腕のバルカン砲を、今まさに突撃しようとする陸軍ライダー隊に向けて構える。

 「いかんっ!全軍ひけぇ!ひけぇ!」

 どっどっどっどっどっどっどっどっどっどっ!

 「ぎゃ!」

 「ぐえ!」

 「げはっ!」

 「うわ!」

 火が吹き、激烈な火砲が襲いかかった。地面がえぐれ、崩れ、ライダーは粉みじんに粉砕される。その火力を目の当たりにしたライダー隊はひるみ、猛進をやめてしまう。

 「ひるむなぁ!」

 だがその時の中隊長だったハマダ大尉はおびえる兵達を鼓舞した。

 「ひるむなあ!お前達はあの程度の大砲でおびえる仮面ライダーか!人を救済する仮面ライダーがあの程度の巨人相手にひるんでどうする!」

 「!」

 「仮面ライダーの名を恥じたくなければ死ぬまで戦え!その名誉を後世に伝えよ!バイク隊を出せ!それまで前衛は奴の注意をひきつけてバイク隊の時間を稼げ!いけええええええ!」

 ・・・・

 ・・・・

 ・・・・

 「う・・・・・うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 トマホークを、剣と盾を持った多くのライダーがロボット、ことアーマーライダーに立ち向かっていく。

 ぶぉう、どがっ!

 「げはっ!」

 勇猛に一番前で戦っていた1人のライダーが宙に殴り飛ばされる。だがライダースーツであっても耐えられない威力であるにも関わらず、ライダー隊は死の恐怖にひるむことなくアーマーライダーに向かって立ち向かい、必死になぐったり斬りつけていく。

 「バイク隊を前進!リアロエクスレーターを前に出してミサイルでしとめろ!歩兵隊は建物の影から奴の後方を狙え!」

 アーマーライダー。22世紀に開発された、人間の2倍以上の全長を誇る、全長3.5mほどの人型ロボットである。といってもスリムなロボットとは程遠く、元は都市建設や工業用に作られた作業ロボットであるためにクレーン車やショベルカーのように目測で距離を捉えて作業を行うようになっている。そのため操縦席は視界が最もよく見える胸部の上、センサーの塊である頭部の代わりにそこに搭乗し、あれこれと操縦を行うようになっている。

 これが軍事転用されてからは、状況が一変した。ライダースーツを使いこなせるようになるには膨大な手間がかかるが、これならばわずか1ヶ月程度で乗りこなすことが出来る上に、生身の人間が仮面ライダーに対抗できる唯一の武器だからだ。実際にはライダースーツの装甲を貫通する銃が開発されているのだが、ライダーの運動性は戦闘機並で銃を当てるのも一苦労である。

 「足元を狙え!集中攻撃しろ!」

 弱点もある。巨体ゆえに動きが鈍く、また戦車と違って車高がばかでっかいために狙われやすいという点だ。瞬発力はあるが足も遅く重く、地盤のゆるい地帯ではつかえないし、他の兵器と一緒に運用するには難しすぎるなど、そこらのロボットアニメのようにかっちょよく活躍できないのだ。ただし障害物の多い地帯では戦車より優位に戦えるという点があり、そのため都市要塞の攻撃や防衛用、山岳地帯や森林地帯などといった遮蔽物の多い地帯での待ち伏せには特に有用であった。

 「バイク隊、展開完了!」

 「うてぇ!」

 このように欠点だらけのアーマーライダーであったが、その破壊力は取るに足るものであった。形状の問題でキックは出来ないが、そのパンチ力はなんと実に200tを誇り、たとえ改造人間であっても一撃で撃滅できるという、その欠点を補って余りある攻撃力の高さであった。また狙われやすいが、120mmレールキャノンの攻撃を21発まで耐えることが出来るという高い防御力も誇り、戦車と違って急に動くことが出来るので接近戦ではこれ以上ない脅威であった。

 どがどがどがどがどがああああんっ!

 猛烈な火線がアーマーライダーに殺到し、その場に倒れかける。

 「第2射、うてぇ!」

 リアロエクスレーターの仮想敵は、まさにこのアーマーライダーであった。火力重視の理由も、決戦たる機械帝国ネオプラントの本拠地攻撃に必要だからであるが、その中でもアーマーライダーは普通のライダーの100人分の戦闘力を誇るため、こういった火力支援が不可欠なのだ。

 どがどがどがどがどがどがどがあああああん!

 「うわあああああああああ!」

 操縦者のデビルライダーが操縦席から投げ出され、アーマーライダーはその場で各坐した。






 「状況はどうだ!?」

 「は、我が軍の勝利は確実ですが、ロケット発射台がアーマーライダーによって阻まれ、突破に時間がかかります。」

 「敵交戦開始から30分が経過しましたが、どこの部隊も苦戦している模様!」

 独力によるロケット制圧が不可能と判断したトーマスは、空軍を頼ることにした。

 「空軍ライダーに連絡!直ちにロケットを撃墜せよとな!」

 「空軍からの通信!あのロケットを地上か都市要塞上空で破壊すれば爆発による1次災害と、残骸による2次災害がおこり攻撃できないと言うことです!」

 「ならばロケットの翼かエンジンを狙って不時着させろ!海軍も海上封鎖を徹底させろ!第4から第6大隊は市街地地域を制圧後、ロケット基地を攻撃している第1〜3大隊を支援にあたれ!第7大隊は要塞入り口付近を確保、残りは私の直属部隊と共にビルを制圧するぞ!俺に続け!」

 トーマスはトマホークを携え、部隊を引き連れて突進した。














同日午後8時00分

 仙台都市要塞陥落の報が世界中に知れ渡った。

 元々あそこは反乱因子が終結しており、地域のライダー守備隊では対処できないほどの勢力にまで膨れ上がっていた。浅岡真崎を狙った実行犯が民間人の空路や海路を封鎖していたときに唯一脱出できるルートがその仙台地域のみであったために、実行犯がそこにいたのは明白だったのである。しかもそこには、なんとバルラシオンのトップである鈴木社長がおり、しかも配備されていなかったはずのアーマーライダーが合計で30体も確認され、戦死者数は実に1300名を数えた。これら壮絶なる戦いと衝撃、テロリストの親玉が仙台にいたというその事実は世界中に震撼たらしめるのには十分だった。

 だが・・・

 だんっ!

 「取り逃がしただと!」

 「は・・・捕縛したデビルライダーの証言によれば、自分達は鈴木社長の脱出ルートを確保するために時間稼ぎをしたのだと・・・」

 「ではその鈴木社長は・・・」

 「潜水艦を使って脱出した模様です」

 ヘドロ状の海とはいえ、航行できないわけではない。だが海路は海軍が封鎖していたはずだ。それを通り抜けたというのは監視を怠った海軍のミスである。

 「閣下!大変なことが分かりました!」

 「なんだ」

 「空軍が先ほど取り逃がしたロケットですが・・・尋問の結果、あのロケットにはテロリストの実行犯が乗っていたということです!」

 この作戦は、陸軍のトーマスを総指揮官とした、空軍と海軍の連携作戦であった。真崎の命令書により、トーマスは年上の同僚を従わせることが出来たのだが、やはり気に食わなかったのだろうか、日和見というべきなのか、テロリストの親玉とテロの実行犯を同時に取り逃がすという大失態をトーマスにかぶせてしまったのであった。これが陸軍トップのミューラー元帥だったらどうだっただろうか、という意見が後世から出ているが、彼はこのとき陸軍の再編成や要塞攻略戦の戦後処理などでそれどころではなく、真崎から期待されていたトーマスにその白羽の矢が立ったのである。

 「何たる醜態だ!大統領閣下に対して合わせる顔がない・・・」

 悔しそうにトーマスは、机を叩いて悔しがった。

 その机には、テロリストの実行犯と断定された、少女の写真が映し出されていた。








ζライダー
MISSION SEPTEMBER 白雪姫はテロリスト







西暦2004年8月31日午後9時00分
東京都豊島区うみねこ台 喫茶店「ギャラクシーアミーゴ」


 「はい、おつかれさま」

 8月最後の日が終わりに近づき、成美と宗一のアルバイトも今日でおしまいだ。明日からは新学期で、ここの喫茶店にも新しい人がやってくるということで、宗一たちはもとの生活に戻るのであった。

 「・・・色々とありがとうございました。本郷さん」

 「・・・・・」

 がんっ!

 「あんたもしっかりいいなさいっ!おじさんのおかげであんたはいい経験したんだから!」

 「・・・1ヶ月間ありがとうございました」

 「ははは。君もよくがんばってくれたね。なにやら8月は大変だったみたいだが・・・とりあえず君は君の正しいと思う何かを見つけなさい。」

 「・・・正しいと思う何か?」

 「そうだ。君は今まで誰かを愛したことはないといっていたね。その人を見つけるのが君の次にやるべきことだ。誰も愛することが出来ないのはライダーではない、君は仮面ライダーではないのは、まだ誰かを絶対に守ってあげるという信念がまだないからだ。今守っているこの子も、君はまだ仕事の感情でしか守っていないしね。」

 「・・・・・」

 「給料はあさって振り込んでおくからね」





 夜もすっかり遅くなり、二人はのんきに夜の道をとぼとぼと歩いていく。

 「あーあ。夏休みも今日でおしまいかー長かったような短かったような」

 「補習がクリアできたそうだな成美」

 「そりゃあなんとかねぇ。これで留年は免れたけど、まだおじいちゃんの制裁は終わってないのよこれが・・・・・次のテストで赤点取らなければ小遣いをもらえるようになるんだけどさー」

 「・・・・・経済制裁か。」

 ・・・・・

 ・・・・・

 ・・・・・

 「ねえソーイチ、ちょっち聞きたいことがあるんだけどさ」

 「なんだ」

 「あんた、本当に誰かを好きになったことってないの?」

 「ない」

 と、きっぱり言われても成美にはそれが信じられないことだった。まあこいつの境遇はよく知っている。親がテロで死んで、叔父によって戦士にされて人間らしい生活を何一つ送っていないのだ。確かこの前のテレビで生後間もない子猫が目隠しされると目が見えなくなるとあったけど、宗一のそれも同じようなものなのかもしれない。

 だがここにきて半年がたち、宗一はどことなくそうでもないような気がしてきた。環境に適応してきたというのだろうか。まあボケや失敗やらかすことはよくあったが、ここ最近ではそういったことはあまりない。バイトのときも1週間ほどでメニューを覚えたし、元々戦場育ちだ、食べ物に困って成長したのか料理も完璧だし、味も最初はひどかったがすぐにちゃんとした味付けに修正できてもいる。

 最近では音楽CDとか芸能人の名前も覚えてきているし、なんというか、この21世紀の空気に同調してきているのだ。単にここ最近戦いらしい戦いがないために宗一の殺気が薄らいでいるだけかもしれないし、宗一の知識も伊南村君や明美、雪枝たちの努力の賜物だ。それにしたって最初はボケと馬鹿で表現できる、硝煙と火薬の香りと殺気を漂わせる危険な兵士だったが、今や見ようによっては普通の高校生として見ることが出来るのだ。

 「・・・・・でもさ、それってつまんなくない?」

 「・・・・・」

 「そりゃああたしだって初恋をしたものよ。まあお隣さんのお兄さんだったんだけどね、もう引っ越してどこ行ったかわからないけど・・・なんちゅーか、そのー・・・誰かに没頭できる、というのをちょっとは知ったほうがいいんじゃないの?」

 「とは言われてもな・・・」

 「?」

 「俺は7歳の時点で人を殺している。当時俺の面倒を見てくれていたライダー兵を殺害したデビルライダーの顔面めがけてニードルガンで殺害し、仇をとった。だがあの日の俺はしばらく眠ることが出来なかった。何の罪もないと言うわけでもないが、他人の人生を終わらせてしまったその罪が確かに俺にあるのだ。他人を殺めておいて自分はその恋とやらをしてもいいのか・・・俺は時々それに苦しむのだ」

 ・・・・・

 宗一が恋をしたことがない理由は、恐らく幼少時におけるその経験が原因であるのかもしれないな、と成美は思った。だが、

 「・・・ようやく話してくれたね、ソーイチ」

 「?」

 「あんた、今までだったらそのことについて聞いたら怒っちゃってたのにさ、今は何とでもないじゃない。」

 「・・・・・」

 「なんちゅーか、そうやって自覚できてればいいんじゃない?昔のあんたはそうかもしれないけどさ、昔に縛られたって面白くもなんともないじゃん。たしかに昔のことは大切かもしれないけどさ、大切なのは今じゃないの?今のことで昔のことを引きずったってろくなことがないんだしさ。」

 「・・・かもしれないな。だがレジスタンスが勝てば俺は帰らなければならない。」

 「帰ったら帰ったで今のことを生かしてやりゃあいいじゃないの。どうもあんたは境遇が悪いと言うか何というか、ネガティブ思考の塊なのよねー。もうちっとポジティブに考えたらどうなの?」

 「だが君はどうなのだ。来年の3月に核が落ち、人類は300年間に及ぶ戦乱を繰り広げるのだぞ。俺より君のほうがよほど辛い未来かもしれないのだが」

 「そんときゃそん時に考えりゃいいってもんよソーイチ。未来のことなんてあたしには知ったこっちゃないわ。まあ本当は嫌だけど・・・はぁ」

 「どうした」

 がっくしと肩を落としながら成美は、

 「あんたに付き合っていくうちにあたしまでネガティブになっちゃったじゃないのよ・・・レジスタンス作って、そこで戦って、そして爆弾テロで死ぬんでしょあたし?こんな壮絶な人生歩む予定の女子高生はそうはいないってことよ・・・・・まったく」

 とか何とかしていくうちに二人は、それぞれの家にたどり着いた。

 「ま、今は今で何とかしないとね、そんじゃソーイチ、また明日ね」

 「ああ。」







西暦2004年9月1日午前8時30分
私立所縁が丘高等学校 2年B組教室


 「起立!礼!おはようございまーす」

 「おはようございます」

 クラスの担任たる崎田先生はお辞儀をし、挨拶をする。

 「着席!」

 「皆さん、夏休みは楽しく過ごせましたか?ですが今日から学校生活が始まるので、いつものような調子で行かないように!夏休み明けはどうしてもだらけてしまいがちですので遅刻したり忘れ物しやすくなりますが、バリバリいきますので皆さんもその覚悟をしてくださいね」

 「はーい」

 夏休みが明け、元の学校生活が戻ってきた。クラスメイトの中には真っ黒になっている者もいるし、中には真っ白のままの者もいる。外国に行ってきたらしき生徒もいれば、何かのイベントで疲弊している者、徹夜で目の下にクマ作っているものなど・・・いろいろだ。

 「さて皆さん、早速ですが今日から転校生がやってきます」

 転校生。かつて4月に宗一がやってきたときもそうだったが、この学校では地理的な条件や学校の校風からして転校生の受け入れを活発にしている。ゆえに素性のはっきりしない宗一も入れたし、また追い出されるようなことはめったにないため、別段珍しいことではなかった。

 「さあ、入って。」

 先生の指示にうかのように扉は開き、女子生徒が入ってきた。

 「・・・・・」

 なんと形容すればいいのだろう。一言で言い表せば「無」と表現することが出来る雰囲気だった。身長は150cm台をギリギリ入っていると言うべきか。だが清楚そうなウェーブロングヘアーはおとなしげな印象を与え、また人によっては実年齢より2,3歳上に見られるのではないかとも取れる、幼い顔つきと混在している外見である。だが決して子犬のように活動的に人間に近づいたり、ネコのようにじゃれ付いたりするような愛想のよさはまったく感じさせず、むしろ美人顔と評した方が適当な答えになっていたかもしれない。

 これらを総称して、彼女は「無」、もしくは「人形」と表現できる、そういうイメージがぴったりな女の子だった。おもむろに彼女は黒板に自分の名前を書いて漢字を連ねる。

 「・・・・・館川・・・里奈です。」

 「館川さんは先月まで宮城県仙台市の学校にいましたが、両親の仕事の都合で東京に引越ししてました。東京に来て1ヶ月ほどですが、皆さん、仲良くしてあげてくださいね。」

 「はーい」

 「特に!」

 崎田先生の鋭い視線がある生徒に突き刺さる。だがその生徒はまったく気がつくようなことはなかった。

 「・・・?」

 「本田君!」

 「・・・なんでしょう」

 名指しで呼ばれて、彼、本田宗一は初めて自分が視線を感じていたことに気がついた。

 「変な騒動を起こして迷惑をかけないこと!いいですね!」

 先生の言葉の意味を理解できなかった宗一は、こう言い返した。

 「お言葉ですが先生。自分は今までそれらしい問題は起こした覚えはないのですが・・・」

 (こいつ、まったく自覚していないのか・・・・・)

 そう、クラス中の誰もが思った。本田宗一という人間は何かと変な騒動を引き起こしているのだ。5月のスポーツテストにおける学校機材を次々と破壊せしめる事件や、6月の山林先生の罷免問題の張本人となり、すでにクラス中の誰もが知っている7月のコンビニ強盗撃退の一件などなど・・・彼、本田宗一が関わると何かと変な事件が起こるものであり、いわゆるトラブルメーカーとして教師達から危険視されていたのだが・・・逆に生徒達からは刺激の少ないこの学校においては何か事件を起こすので一種のエンターテイナー的な役割も果たしてもいた。

 「ともかく・・・・・・・わかりましたね!」

 「わかりました。」

 釈然としなかったが、とりあえず宗一はそう答えることにした。

 「じゃあ館川さんは・・・あの後ろの席に座ってくださいね。では、夏休みの宿題を提出してください・・・・読書感想文はここに、夏休みのドリルは・・・」





午前10時05分(HR)
私立所縁が丘高等学校 2年B組教室

 「ねぇねぇ、館川さん!」

 クラスの女子生徒の1人が話しかけてきた。この学校の風潮は人見知りしないところにある。もちろん個人差はあるが、それでも他の学校と比べればここの生徒はのんびりというかなんというか、そういう空気の人間しかいない。ゆえにそんな空気なんて知ったこっちゃない宗一や、成美のような存在が珍しがられる理由である。

 「・・・」

 「館川さんの前の学校はどういうところだったの?」

 よくある質問。彼女は一拍置いて、

 「・・・特に・・・それらしいものはない。ごく普通の学校だったから・・・」

 「うーん・・・じゃあなんで東京に来たの?お父さんは何の仕事をやってるの?」

 切込めるきっかけがなかったために、他の女子生徒が話題を変えてきた。

 「・・・テロリスト」

 「・・・へ?」

 一瞬凍りつく空気。だが、

 「・・・・・と戦う自衛官。仙台から東京に配属が変わったから・・・私も一緒についてきたの・・・」

 「へ、へぇ・・・自衛隊の人なんだぁ」

 どうもつかみ所が見つからない。さらに別の女子生徒が切り込んできた。

 「前の学校では何をやっていたの?」

 「・・・・・色々・・・でもあまり長くやっていたものはないから・・・そんなに得意というものは・・・」

 やっぱりというか、話が続かない。どうもこの人当たりの悪さは、宗一と通じるところがある。だがあっちの場合は半分笑いを誘う要素があるのでネタにはなるが、こっちの場合はそれすらもない。これではオウムや九官鳥の方がよほど会話になるものだ。

 「む・・・」

 どうしても切り込み口が見つからないため、一時硬直した。






 「・・・なんかあの子。こっちに来たばかりのころのソーイチと似てるね」

 「・・・そうか?」

 唐突に成美に言われて宗一は少し嫌な気分になった。自分があんなに愛想の悪い人間だったのだろうかと思っていなかったからだ。

 「ぜったいそうよ。あの「・・・」口調やら説明口調、かみ合わない話やら、何から何までそっくり。もしかしたらカバンの中にライダースーツのベルトとか拳銃とか入っているんじゃないの?」

 「俺はカバンの中に拳銃は入れていないのだが・・・」

 実際問題、宗一は他人の手がつく危険性のあるところに拳銃は置いていない。普段は自分の義足の太もも部分に拳銃を収納しているのであって、ひそかに制服のズボンを改造してポケットから出せるようにしているのでカバンに入れる必要がないからだ。

 「それに電聖のベルトもあれ以来バイクに預けたし、自分のコンテナの中にも入れてある。どちらかがなくなっても変身出来るようにしているから問題はない。」

 「一度聞きたかったんだけど・・・どうしてあんた灰色の方ばっかなのよ。普段から・・・なんか知らんけどギリシャ文字のほうでやればいいのに」

 「ζは体の負担が大きいのだ。義手義足をフル稼働させるから思った以上に疲れるし、メンテナンスも大変だ」

 宗一がなぜか電聖を使いたがる理由はこれである。彼の義手義足の稼動のエネルギーは、当然宗一それ自身でまかなわれる。正確に言えば宗一の体内の四次元コンテナや数々の電子機器は、やはり体内に入っているジェネレーターの発電によってまかなわれる。が、そのジェネレーターの稼動もエネルギーが必要であり、そのときは宗一それ自身のカロリーが起電用や出力アップさせるために消耗されるのである。

 無論こうなれば身体の消耗も激しくなるし、下手すれば骨と皮だけになってしまう。理論上(スペック)では72時間ほど動けるが、そういう理由でツェータはわずか1時間程度しか動けないのである。一応リアロエクスレーターがあればそのエネルギーの補給などはできるが、そのバイクは8月まで没収されたために宗一は今まで四苦八苦してやりくりしていたのである。宗一が戦闘で格闘戦をやりたがらない理由は、単に格闘戦の考えが廃れたからだけではなく、激しくエネルギーを消耗する格闘戦をやれば体が持たずに衰弱死してしまう危険性があったからである。

 とどめに、ツェータは無茶苦茶なスペックを持つ分、電子機器やパワーアシストユニットの部品の磨耗が著しくひどくなるのだ。ということは長く戦うのには不向きなのである。電聖や前モデル「雷王」はその点を考慮して、長時間の行軍や戦闘にも耐えられるように、技術上可能な限りのパンチやキックの威力を抑えて、長時間戦えるようになっているのである。とりあえず先月に付け替えられた新しい義手義足はより効率性と整備性を増した改良版と聞いているが、宗一としてはあまり信用していなかった。

 「・・・ふーん。ダイエットに使えそうね」

 「無茶を言うな。」

 その点、プロテクター的な意味合いが強いライダースーツ「電聖」では、そのエネルギーは電聖のバッテリーそれだけでまかなわれるので、宗一の体力を無駄に消耗するようなことにはならない。燃費もいいし、火器管制やインターフェースも親切だ。ただ音声マニュアルや自動ロックオンシステムは宗一にとっては不要であったので、先月それを取り払ったのだが・・・

 「・・・ふーん。」

 「そういうことだ。だが・・・」

 こういう話をしても、周囲には単にゲームの中の話という認識で捉えられていたので別段怪しまれるようなことはなかった。

 ただ1人を除いてだが・・・・




 「・・・・」

 じっと見つめるのは転校生の館川であった。

 (・・・似ている)

 「あ、あれ。浅岡成美さんだよ」

 「・・・浅岡・・・成美?」

 不意にクラスメイトの女子が話しかけてきたので彼女は確信を得た。

 「そう、で、あっちにいるのが彼氏の本田君。見た目は静かなるワイルドな感じだけど、ああ見えて結構情熱っぽいところがあるのよね」

 「そうそう。浅岡さんにぞっこんラブでいつもべったり。」

 「5月に一度破局したっていうけど、結果はあれだもんね。7月も強盗から彼女を守るために勇敢に戦ったって話よ」

 「・・・・・」

 「いい話よねー。元暴走族のリーダーだけあって拳銃に全くひるまなかったって話だし、ああいう一途なところが結構よさげも・・・」

 「そう、いつもラブラブーだけど・・・」



 ごんぼぎゃっ!

 「ぎゃうんっ!」

 「やめんか!あんたいつもそんなこと考えてるの!もうちっと女の子の気持ちを考えたらドーなの!?」

 「うう・・・だが・・・君が1人になるときが一番危険で・・・」

 がすぼがぎゃばぎっ!(7HIT!)

 「だからってこんな●●●ー●のようなものを渡すな!どっからどうみてもこれってやばい薬じゃないのよ!」

 「・・・ぴよぴよぴよ」

 「またヒヨコ出して!なんでそう簡単に気絶できるのよあんたは!うがー!」

 「どうどうどう!ナルちゃん押さえて押さえて!」

 「これ以上やったら、あさ・・・本田君が死んじゃうよ!」

 「ああ・・・ヒヨコが6匹も飛んでいますね・・・かわいい」

 「雪枝ちゃんも変なこと言わないでナルちゃんを抑えて!伊南村くんも急いで!」

 「うがー!がおー!」

 怪獣のような雄たけびを上げて気絶する宗一に殴る蹴るの暴行を加え続ける成美。

 「・・・・・」

 「毎回あれだもんね」

 宗一がなにか馬鹿をやって成美がぼこぼこにして、それを友人の雪枝や明美が必死に成美を抑え、宗一の友達の伊南村が必死に看病する。いつしかこのパターンが確立されてしまっており、しかもこの光景が見られると近いうちに何かしらかの事件が必ず起こっているため、クラスでは「事件が起こる前兆」として一種の風物詩ともなっていた。

 「8月に一度破局の危機があったみたいだけど、あれってデマだったみたいだし」

 「いつもべったりくっついていたから、しばらくいなかったから不思議に思われたんだよ、きっと」

 「空手部の子も余計な噂立てちゃってさ・・・」

 もうすでにクラスでは、否、学校では宗一と成美はカップルであるという認識が定着しきっていた。だからああいったドンチャン騒ぎも一種の暖かい風景には見えたのだった。










同日午後9時00分
東京都豊島区かもめ台 セーフハウス
 居間

 「・・・というわけだが、ベンジャム軍曹。なぜ成美は怒ったと思う?」

 「HAHAHAHAHA!曹長そりゃあ怒るってもんですぜ!年頃の女の子に避●●そっくりの治療剤を渡すってのはいかれポンチのやることですぜ!」

 「HAHAHAHAHAHA!ソーチョー君も活発だねぇ!お姉さん嫉妬しちゃう!」

 その日は宗一たち第1小隊20人のライダーが詰めかけていた。宗一は曹長なので、部隊の中ではナンバーツー。数人のライダーを率いることが出来る権限を持っている。そのため、自分の部下にこのことを聞いてみたのだが、酒が入っている部下達から馬鹿にされてしまっただけだった。

 不機嫌になるのも無理はないが、宗一は自分が若いことをよく知っているので自分の部下たちが自分に対しての態度というものを別に気にしてはいない。が、どうもまともに相手にされていないのが気に食わないのも事実である。一応宗一の部屋も数人の兵士が寝泊まりするし、隊長のメイリンの部屋にも女性ライダー数人が一緒に寝泊まりしている。ある者は居間でごろ寝しているし、またある者はバイクと一緒に寝ているし、またある者は賭けで負けて庭で寂しく寝て風邪を引いていたりもしている、そういう世界である。

 「・・・」

 「まああまり気にするな!明日になればころっと忘れているからよ」

 「そうそう。女心は秋の空って言うしねぇ」

 「ほらあんたたち!明日は6時から仕事でしょ!さくさく寝なさい!」

 その場にいた者はメイリンからせかされて嫌そうな顔をしたが、メイリンの腕っ節の強さをよく知っているのでさからえない。元々彼女は少尉だし、チームのリーダーだ、さからうわけにも行かないので、一同は酒が入ったまま部屋に戻り、その場に残ったのは宗一とメイリンだけになった。

 「・・・たくあいつらはまともなのに、酒が入るとすぐあれだ。ソーイチもソーイチよ、あんた最近、おかしいわよ」

 「おかしい・・・?おれが?」

 予想外の言葉がやってきたことに狼狽する宗一。

 「そりゃそうにきまってんでしょうが。あんた、最近になって自分から動くようになってさ、今までは「受け」だったのに、ここ最近は自分から能動的になっちゃって・・・」

 「・・・」

 「8月にバイトしたり、成美がとっ捕まったときも発信機を渡してたり、まったくもってあんたらしい行動じゃないって言ってるのよ。今までだったら成美にべったりくっついて拉致って来たやつらを追い返すとかするだろうし、今回もまた同じよ。あんた、なんかあったの?」

 メイリンの観察力は鋭かった。宗一がここ最近になって心境が変わってきたことに気がついたのだ。仮にも小隊長だし、軍隊に入る前は心理学専攻の大学生だったのでばっちり分かる。ましてや宗一は基本的に嘘をつくことが大の苦手だし、すぐに顔に出たり行動に出てしまうし、メイリンは宗一を部下にして5年経つのだ。分からないはずがない。

 「・・・」

 「言いたくなきゃそれでいいけどねソーイチ、あたしらは成美を守るために動いてるのよ。成美が自分で守らせるというのはありかもしれないけど、あの子銃すら撃ったことないのよ。」

 7月にあった山林の一件、山林がライダーだと言うことはメイリンは知っているが、その時成美が銃を撃ったことは彼女はしらない。

 「いくら空手やってスパナたたきることが出来てもね、相手はバケモノやロボットよ、あの子じゃどうしようもないでしょ。だからあたしらが守ってやるのが筋だし、護衛という立場上、彼女に迷惑をかけてはいけないのに、ここ最近のあんたはその趣旨から外れまくり、下手すりゃ軍法会議モンよ。」

 「・・・・・」

 「まあ、もちっと考えてみなさいってことだけど・・・・・」

 どたどたどた!がちゃっ!

 「少尉!少尉!メイリン少尉!」

 居間に駆け込んできたのは、同じ小隊の部下であるマサヒロ伍長である。孤児出身なので苗字はないが、そんなのは関係ないものごっつい、気の小さい男である。

 「なによマサヒロ。」

 「実は・・・これを!」

 マサヒロが出したのは、毎週月曜日に発売している週刊少年誌「少年ステップ」だった。昔は人気漫画を沢山出していたのだが、最近では「少年サタデー」や「少年キャベツ」などに押されてしまっているが、それもあまり関係ない。

 「・・・マンガなんか出してどうしたのよ」

 「そうじゃありません!このページですこのページ!」

 マサヒロが必死になってページをめくり、出した先は「新人マンガ大賞コーナー」であった。ここは毎月募集しているマンガを審査、発表し、素人からプロを発掘するコーナーであるが・・・

 「・・・これがどうしたってのよ」

 「この名前を見てください!」





作品名「亀ライダー」
作者:マサヒロ8号機





同日同時刻
バイク地下格納庫


 <どうだー、すごいだろー!これが証拠ダー!>

 <8号機!お前本当にマンガ大賞を取ったのか!>

 <この間の電話は嘘っぱちだと思ってたけどね・・・>

 <どういうストーリーなんだそれ?>





 『西暦2005年、悪の組織に改造された少年「マツイくん」は、亀ライダーとなってしまった!悪の組織を倒そうとやっきになるが、いつも失敗ばかりして・・・』





 『論評』


 『これほど面白いマンガは見たことがない。読者に読むことを前提に考えたストーリーは圧倒され、後半の展開には驚かされた。』

 『まず驚かされたのが作画。まるで少女漫画のように細かく細い線であるが極めて力強く、そして機械のように極めて緻密にかつきめ細やかに、丁寧に描かれているのがすごい。スクリーントーンの使い方はもはや芸術レベルだ。その圧倒的な作画に読者は引き込まれ、ストーリーのつよさに読者はもうとりこになるだろう』

 『これで本当に素人というのだろうか?プロが冷やかしにやったのではと勘違いしたくなるほどの高い完成度だ。』

 『ページ数も170ページというすさまじさながらも、まったく疲れを見せないその緻密すぎる作画には驚嘆すべきものがある。前半なんともいえない一言が、後半になって物凄い怒涛の展開を暗示しているなど、伏線もばっちりである。』

 『タイトルやあらすじを馬鹿にしたら絶対に損する内容だ。作画もすごいが、170ページも描いてまったくストーリーがへばっていないのが他の作品と一線を賀するものである。』

 『これで執筆期間が1ヶ月と言うのだから驚きだ。1000年に1度現れるか否かの逸材である』

 『作画、ストーリー、台詞回し、キャラクター・・・・・雑というべき要素が何一つない。新人特有のダイヤの原石というべきものは全く感じさせず、すでに完成されたダイヤそのものだ』

 『無駄な要素がまったくない、完璧な作品だ。作者の自己満足ではどうしても作者が第1に読んでしまうような作風になってしまうが、これは読者を引き込む力がある』

 『最後のクライマックスに泣いた。よもや主人公が・・・・・』





 <・・・・・>

 <機械のように緻密な作画って・・・そりゃ僕たち機械だからね。>

 <でもよー、このストーリーってさ、俺達の時代の『ハーメット・ストライダー』のパクリじゃないか?>

 『ハーメット・ストライダー』とは2312年で大ヒットしているSFマンガである。ハーメットという人物が恋人を殺され、挙句の果てにモンスターにされてしまい、その元凶たる男と激しく辛い戦いをしながら旅を続ける物語だ。その緻密なストーリーは読者の心をひきつけて離さない、現在まで30巻が発売され、累計600万部の売り上げを誇っているモンスター作品だ。

 <・・・・・い、いいじゃないか!隊長だって言ってただろ!『金が使いたければ自分で稼げ』って!メイリン隊長は僕らがこんなナリだからって何も出来ないとタカをくくっていたんだし、合法的に稼いでいるからいいじゃないか!>

 <なるほど、確かにそうだ>

 <あたしたちがコンビニでレジ打ちとか出来ないからってタカをくくったのがそもそもの失敗ね>

 <そうよそうよ!あたしらはわるくない!>

 <合法的に金稼いでいるんだから文句は言えないしねぇ>

 <賞金っていくらなんだ?>

 <17ヶ月も大賞が出てなかったから、賞金はどんどん積み重なって・・・180万円+審査員特別賞20万円=200万円だね。>

 <すげー!お前200万も稼いだのかよ!>

 <オ、俺もマンガ描いてみようかな?>

 <アシスタントやらせてやらせてー!>

 <こんど編集長がやってくるみたいだから、原稿料で荒稼ぎさ!1ページ10万円でどうかな?>





同時刻
セーフハウス 居間


 「・・・・・というわけなんですよぉ!さっき俺がバイクの整備に行こうとしたらいきなり俺の8号機がマンガもって・・・」

 「やってくれたわね・・・あいつら!」

 メイリンのこめかみがぴくぴくしているのを宗一は気づいた。これはメイリンがマジで怒っている証拠だ。7月に自分が将棋を買ってからメイリンが「予算の私物化」という理由でバイクたちの活動を阻止していたのだが、8月には勝手にバイクたちがどんどん趣味を増やし、そして今回はこれだ・・・。8月はライダーの給料から使い込んでいたことが分かったのでそいつら全員に給料カットの処分を下したが、よもやバイクが稼ぐなど・・・!

 どたどたどた!がちゃ!

 「うああああああ!たいちょー!」

 「どうした美由紀伍長。あんたまで」

 「あたしのバイクが・・・あたしの9号機が!」





同時刻
バイク地下格納庫


 <すげー!お前もか!>

 <どうだすごいだろう!我輩の『バイクたちの憂鬱』が間津井賞を受賞したのだ!>

 木尚賞とは、明治12年に文豪として大成した間津井店長という作家の名をもじった小説家の大賞である(嘘)。

 <なになに・・・ボクはバイクだ。バイクだからはしる。バイクは主人の言うことを聞いて走り、そして壊される・・・>



 ・・・・・

 読み終えたバイクたちは、一斉にして涙した。涙など流れないのだが、確かに涙した。

 <うーん・・・いい話だ。>

 <僕らの心境をよく読んだ作品だ!>

 <受賞理由は・・・普段使っているバイクのありがたみが非常によく分かる、すばらしい作品だ。暴走族として使われているバイクも彼らは主人のために働き、そして壊されても文句は言えない・・・彼らバイクはバイクだからこそバイクの生き方しか出来ない。それが哀愁を誘うのだ・・・>

 <審査委員長は話がわかる方だ!僕らバイク人権団体の会長になってもらおう!>

 <賛成!>

 <今は亡きアークチェイサーくんにも読ませてやりたい!>

 <どうでもいいけどよー、アークチェイサーって誰だ?>

 <賞金100万円だけど・・・こっちは対象が大人だから印税でがっぽがっぽだ!>



同時刻
セーフハウス 居間


 「・・・というわけなんですよぉ!さっきオイル交換しようと行ったら・・・」

 「・・・こっちもかい」

 メイリンがあきれ果てていることを、宗一は理解した。こうまでバイクたちが予想もしないことをやらかしているのだ、あきれたくもなるだろう。

 どたどたどた!がちゃ!

 「たいちょーたいちょー!」

 「ボブ軍曹・・・」

 「俺のバイク13号機が・・・!俺のバイクが・・・」



同時刻
バイク地下格納庫


 <何!お前あれに受賞したのか!>

 <HODDY JAPANのオレグフ選手権の金賞だぜ金賞!ほらこれ見ろよ!>

 <うわー派手派手なホームランガンダム・・・>

 そこに映っているのは、派手と言うより毒々しい色で染まっている、改造プラモデルであった。どっちかというとデビルガ●●●そのものだ。他の作品と比べると明らかに浮きまくっているが・・・

 <受賞理由は・・・『ここまで作品を大きくするのはもはや芸術である。一見すればひどい作品に見えるかもしれないが、よく見ると色合いや塗り方、エッジの使い方などはプロもはだしで逃げてしまうのではないかと言うほどの技術だ。プラモデルの概念を根本的に覆すセンスがないとこの思い切った色使いは絶対に出来ないだろう。あちこちのプラモデルを使用しているが、これが妙にマッチしており、奇妙なまでの力強さを見せている。』>

 <要は珍しいからってことじゃないの?>

 <ナ・・・何を言うんだ!ぼくのこの作品をこの人は認めてくれたってことだよ!バイクの感性が人間に認められたってことはぼくらは十分人間社会でもやっていけるんじゃないかな!>

 <うーん・・・確かにそう取れるかもしれないけどさー。でもそうなると面倒なことにもなるんだよなー>

 <納税の義務とか労働の義務とかさー・・・バイクのままのほうがよほど気楽じゃないの?>

 <な、何を言うんだ!諸君!ぼくらが自立すれば人間にも対等に話が出来る権利が与えられるのだ!ぼくらは人類から独立してバイクのみによる独立国家を建てることだって可能なんだ!税金もない国にだって出来る!>

 <こいつ、こんなキャラだったっけ?>

 <でもさー、税金がないのにどうやって国を運営するんだ?>

 <あ・・・あのー?ぼくの作品、みんなどうなの?>



 「・・・ということです。先ほどトレーニングが終わったのでトマホーク片付けに行こうと格納庫を通りかかった時に・・・」

 「漫画家に小説家に、今度はプラモデラーかい・・・趣味が実益になってるっていうのも珍しい現象よね・・・」

 もうメイリンはあきれ果てていると言うより納得してしまっている印象を、宗一は感じた。確かにバイクがここまで人間社会で自分の感性を発揮しているのだから意外とやっていけるのかもしれないとか思っているのかもしれない。

 どたどたどた!がちゃ!

 「たいちょー!たいちょー!」

 「パオリンは違うでしょ!あんたバイクもってないだろうが!」

 「・・・違いますよ!本部からの緊急通信!」

 どうもここ最近のバイクたちが、勝手な行動を起こして困ってしまった。バイクたちは「レジスタンスの金を使わない」という約束だったのを逆手に取り、「自分で稼いだ金」で趣味をやろうとしているのだ。たしかにこれなら文句は言えないが・・・頭が痛くなってくる。そう思いつつもメイリンは通信室に入っていった。



 「・・・はい、こちらメイリン=ルイ少尉。どうぞ?」

 『・・・なにやら疲れているような顔をしているが、まあいい。』

 通信相手は栗田茂主席元帥だった。ライダーの全軍を統括する、事実上の軍隊のトップだ。メイリンは敬礼を終えると、元帥は話を始めた。

 『早速だが本題に入ろう。8月1日に仙台都市要塞が陥落したのはわかっているな?』

 「はい。それがなにか?」

 『そこで諸君らのところに真崎大統領の命を狙ったやからがそちらにいることが判明した。』

 「!21世紀にですか」

 『そうだ。名前は河内奈美(かわちなみ)16歳。大統領閣下が就任した直後の・・・今から15年前に河内議員の娘がバルラシオンに拉致されてな、その娘がテロリストとして養成されて閣下の命を狙ったわけだ。』

 「・・・・・」

 『あ、いやそんな顔をされても困る・・・あのころの真崎閣下の政治体制はまだ不安定だったから、誘拐や脅迫など当たり前の時代だったのだ。それはいいとして、彼女の目的は明らかに浅岡成美、むこうでは偽名として館川里奈という名前で通っているらしいが、一応3Dデータを出しておこう』

 ブンッ

 「・・・そっち系にウケそうな顔の女の子ですね。ていうか何で今になってわかったんです?」

 『私の孫娘のほうが愛嬌があってよほど可愛いがな。それはいいとして彼女はロケットに乗って逃げ出したのだ。当初は衛星軌道から別の大陸に逃げるものだと公算していたのだが・・・途中でどうしても消息が断ってしまい、消去法と尋問から分析した結果、そちらにいることがわかったのだ。爆弾テロまでやった女、浅岡成美の命を狙ってくることは明白だ。今後彼女を見つけしだい、直ちに捕まえるか殺害せよ。大統領閣下は捕まえてほしいと言っているが・・・あっちは何するか分からんテロリストだ、自爆もありえるだろうから殺害も考慮に入れるように・・・』

 「了解しました。直ちに衛星に3Dデータを転送させて調べさせます。このことは中佐はご存知でしょうか」

 『先ほどから通信したのだが・・・どうも無線封鎖をしているのか、どうしても繋がらなくてな、やむなくこちらにつなげただけにしか過ぎん。繋がり次第彼らに連絡してくれ。』

 「了解しました」

 『夜分遅くすまんな。そういえばさっきパオリンとか言う女性がいただろう。実は彼女にいい見合い相手が・・・』

 「失礼します」

 『あ、ちょっ・・・』

 ぶつんっ





 「・・・・・」

 「あらソーイチ、どったの?」

 気がつくと宗一が背後に立っていた。彼は映像に映し出された少女をまじまじと見ている。それを見たメイリンは、

 「・・・あんた、こーゆーのがタイプなの?趣味悪っ・・・・」

 「違う。こいつは今日俺のクラスに転校してきた女そのものだ。」

 「!?!?!」

 いきなり凄まじいことを言い放つ宗一に、メイリンは驚きの表情を隠せない。

 「どことなく怪しい感覚を受けていたが・・・まさかテロリストだったとはな」

 「ちょ・・・・・マジそれ!?あんたのクラスにこいつがいるっての!?」

 メイリンは学校で教師をやっているが、彼女は1年生担当なので、2年生の宗一のクラスを請け負っていないので分からなかったのである。おまけに所縁が丘高等学校では個人情報を保護するために、生徒の個人情報は同じ学年同士でしか見ることが出来ず色々な学年が混在するクラブ活動ではその顧問の先生でしか個人情報を手にすることが出来ないのだ、知りようがない。

 「そうだ。」

 「・・・・・・・」

 よりにもよって厄介なところに潜りこんだものだ、とメイリンは思った。ここから学校までの道のりはライダー達によって堅牢な防衛体制が確立し、従来のようにネオプラントがやってきても3分以内に現場に急行が完了できるようになっている。つまり襲撃に対しての事前措置が完璧であり、パトロール体制も整ったためにネオプラントのロボット兵士達が仲間を増やす前にしとめたりと、今までとは比べ物にならないほどだ。

 だが、よりにもよってこの学校に直接仕掛けるとは盲点だった。学校だから合法的な理由がない限り外部のものが入ることは許されないし、現在護衛についているのは宗一とメイリンとアルフの、合計たったの3人だ。つまり護衛が手薄の中を敵は見抜いたのか、暗殺者を生徒に仕立て上げて送り込んだのだ。かつて宗一たちがこの学校にもぐりこんだのと同じ手口で。

 「ソーイチ」

 「なんだ。いいたいことは大体分かるが」

 「今後、成美から嫌われないように徹底マークすること!」

 「・・・・・」

 ぴっ、がしょんっ

 途端にメイリンは通信室に電子ロックをかけた。ついでに監視カメラやマイクも電源を切って周囲から隔離し、続けた。



 「それとソーイチ。ここから話すことは他言無用よ」

 「ああ」

 何やら重大な空気が流れていることを宗一は確信した。

 「これはあたしが信頼できる奴にしか言わないけど・・・・・あたしらの中にスパイがいる」

 「!」

 スパイ!情報をリークしている者がいるというのか。

 「これまでの戦いややり口を、駆逐艦にいるイルステッド少佐や中佐、他の小隊長と中隊長と分析した結果、あたしらの中にあたしらの情報を敵に流している奴がいる公算が極めて高いのよ。あんたも変だと思わない、あんたが成美にぼこられて彼女が1人になった時に敵は執拗に狙ってきている」

 「ああ」

 「7月はあんたがへばっていた時に狙ってきたし、その時はガッコのセンセだったでしょ。あの山林が24世紀の麻薬を使っていたことや電聖のライダースーツを使っていたことからも変だと思わない?」

 「そうだ。その電聖のライダースーツの分析はどうなったのだ」

 メイリンはコンピューターを操作して、分析結果のレポートを映した。

 「あたしらのところからライダースーツ「電聖」が一着、なくなっててね、分析の結果それがなくなった電聖スーツと一致した」

 「!」

 「でもいつなくなったかは分からないし、監視カメラで目ン玉が千切れるほどにまでみたけど、怪しい奴はいなかった。でも分析したら、あたしらのライダースーツの計算がどうしても1着足りなくてね・・・・・」

 「・・・・・」

 「それ以上に問題なのがソーイチ。あんたのその体を何でデビルライダーの連中が知っていたのかってことよ!」

 「!」

 意外すぎる盲点だった。宗一の義手義足は極秘事項となっており、それを知るものは仲間内でしか知らされていない。新しい義手義足を付け替えた時も科学者達は詳しいことを知らなかったようだし、宗一の心に引っかかっていた疑問がようやく取れるきっかけが出来たのである。

 「あんたの戦闘データの音声ではね、デビルライダーの発言の中に「ζ」という単語もしっかり入っていた。あんたは自分から名乗っていないのはわかっているし、向こうのデータでもUNKNOWNと出るはずなのに、どういうわけかあいつらはあんたを知っている。しかもあんたの特徴をしっかり知っていたのか、腕と足をジョイント部分からトマホークで切り落としていたし、まったく・・・・・どうなってんだか」

 「・・・・・」

 7月の戦いを宗一は思い出していた。

 山林がライダースーツを、それも味方の方を着ていたこと。

 山林が麻薬使っていたこと。

 その直後デビルライダーがタイミングよく現れたこと。

 腕と足を切り捨てられ、何も出来なくなったこと。

 「・・・・・・・・」

 「状況証拠ばかりとはいえ、ここまでそろっていりゃあ言うまでもないわ。あたしらの中に裏切り者がいるの」

 「・・・・・信じたくはないな」

 「でもここまであるといると考えざるを得ないでしょ。敵は成美がこの辺りにいることは知っていても具体的な住所や学校は分からなかったし、17〜8歳の成美の顔も知らないのよ。にも関わらず敵は成美を正確に狙ってきている。そして今回は学校、おまけにクラスまでの情報をがっちり掴んでるところからして、明らかに情報がだだ漏れよ。」

 「・・・」

 「アルフはああいう性格だし、オスカー公爵家の息子だからそんな馬鹿な真似は出来ない。あんたは読者でも分かるような馬鹿だし、中佐やパオリンも見たところ怪しいところはなかったわ。あたしだって小隊長だし、ソーイチやアルフとはそれなりに長い付き合いでしょ」

 ・・・・・

 ここで宗一は、8月に不可解な言葉を残した「スペクター」のことを思い出した。

 「あるお方の命令だ」

 この言葉がどうしても引っかかる。7月までの襲撃がスパイによる手引きだったとしても、8月のあれは、スペクターの言葉をしらなければ偶発性の誘拐だったはずだ。実際メイリンもそう思っているし、尋問でもろくな証言は得ていない。だが宗一はスペクターのあの言葉を聞いて以来、あの誘拐は偶然から起こったものではなく、何か策謀めいた何かを強く感じてしまう。

 「ああ」

 「犯人がここにいるとは限らないし、24世紀のタイムパラドックス阻止計画のスタッフ内にいる可能性だってある。だからソーイチ、わかるわね」

 「ああ。ここでうかつに疑心暗鬼になれば俺達は瓦解するということだな」

 「そうよ。いつもどおり、あんたはバカやってスパイに感づかれないようにしなさい。」

 「そのバカというのはどういうことだ」

 「・・・・・」

 こいつ、本当に自覚していないようだ。ちょっち痛めつけてやるか、と意地悪な思考をしたメイリンは宗一の腕を引っ張り、

 「ソーイチ、内緒話はここまで、これから訓練してやるわ」

 「今9時だぞ」

 「かんけーない。そういえばアームド・パワーガンが2丁ほどなくなっているのはどういうことかしら?」

 「う”」

 「という訳で中佐にばらされたくなかったら・・・分かってるわねソーイチ?





同日午後9時01分
セーフハウス 地下バイク格納庫


 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 <さあさあ!こんな時間だけど試合が始まったよー!>

 <第1小隊隊長であり、全ライダーの中でも最強と歌われるメイリン=ルイ少尉と、改造人間浅岡宗一曹長がやってるよー!さあはったはった!>

 <どうせメイリンが勝っちゃうよ>

 <そうそう、未熟の曹長君がかてっこないでしょ>

 <同じ電聖スーツ同士だけど戦闘技量はメイリンの方が圧倒的じゃないか。賭けにならないよ〜>

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 <・・・・・>

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 <おいおい・・・・打ち合い始まってどれぐらいになる?>

 <6分と12秒経過ー>

 <最高記録じゃないか。今までだったら2,3分で蹴りついてたのにさー>

 <現在のオッズはメイリン1.2倍、曹長君は62倍だ!>

 <・・・・・>

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 <おい、結構いい勝負してるぞ今日は>

 <もしかしたらもしかすると?>

 <たまたまだってたまたまー!>

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 がぎんがぎんがぎんっ!

 <さあ、トマホーク同士の激しい交差が繰り返しています!今日の曹長君はいつもの曹長君じゃありませんね!>

 <お・・・おれ曹長にかけてみようか・・・な?>

 がっぎいいいいいいんっ!

 <あ!トマホークが!>



午後9時7分
セーフハウス 地下訓練所

 ひゅんひゅんひゅんっ!ざごっ!

 トマホーク同士の激しい応酬の末に勝ったのは、メイリン電聖であった。宗一電聖の手首を確実に捕らえた一撃は彼のトマホークを弾き飛ばし、彼の後ろ4mに突き刺さる。

 「ぜえはあぜえはあ・・・・・」

 肩で息をしながらメイリンは思った。

 こいつ、ここまで強くなってるとは。先月以来ずっとやりあわなかったけど、たった1ヶ月でここまで上達するとは一体どういうことなのか?実際にはまだまだだけど、今日のこいつは今までと違って今日は明らかに攻撃的要素が強くなっている・・・・・・

 じゃきっ!

 「・・・!」

 「結構強くなったじゃないのよソーイチ。でもあたしに勝つにはまだまだ・・・・」

 ひゅんっ!がんっ!

 「!」

 途端に宗一電聖はバク転の要領で飛び上がり、メイリン電聖の構えるトマホークを蹴り上げ、天上に突き刺してしまった。そのまま宗一電聖はバク転を続け、さっき自分が弾き飛ばされたトマホークを引っこ抜いて構えなおす。

 じゃきっ

 「・・・・・・・!」

 「今日は俺の勝ちだメイリ・・・・」

 勝利を確信した時にはすでに遅かった。恐ろしいまでの反応速度を発揮したメイリン電聖はすでに宗一のまん前に殺到し、彼のトマホークの柄を握っていたのである。

 ぐぎっ!

 「ぎゃあ!」

 さっき手首を叩いていたのでメイリンはそこを狙い、宗一電聖の手首をねじる形でトマホークを取り上げてしまう。

 「往生際が・・・・悪いっ!」

 がんっ!

 「ぎゃんっ!」

 訓練のルールの「一本」たるトマホーク脳天打ち一本で、宗一は昏倒した。





午後9時30分
セーフハウス 地下施設 女子シャワー室前

 しゃあああああ・・・・・・

 がらがらがら・・・・・・・

 「よおあねさん。今日は一杯取られたな」

 けらけらと笑うのは、2本のビール缶を持つアルフレッド=フォン=オスカーであった。彼は片手に持つ冷えたビールを投げ、メイリンはそれを受け止めてフタを開ける。

 「・・・・・」

 「たくソーイチの野郎、ありゃ一体なんだったんだ?」

 ぐいっと飲んで一息入れた後、メイリンは話した。

 「たくマジでびびったわ。あいつにあんな根性があったとはねぇ」

 「・・・タイミングよし、蹴りの角度よし、その後の動きよし、ありゃあどこからどう見ても完璧すぎる動きだったぜ。今までのソーイチらしくねえ」

 「・・・・・気に食わないね」

 「俺のことがか?」

 「女用のシャワー室の前に陣取ってるあんたもそうだけど、ソーイチよ。ここ最近のあいつ、変だと思わない?

 「・・・・・」

 二人はビールでもう一杯ぐいっと飲み、一息ついて

 「変だな、うん」

 「でしょ」

 「どーいうことだかしらんけど格闘系の雑誌とか番組をよく見るようになったし」

 「アテネオリンピックの競技をよく見るし」

 「この間なんか俺にビデオ録画頼んでたぜ」

 「義手義足のクセに筋トレばっかやってるし」

 「1人でトマホークの素振りとか色々やってたし」

 「午前中はバイクの整備そっちのけで自分の部下使ってクロスコンバットばかりやってるし」

 「午後は午後でバイトから帰ってきたらヘロヘロだしよ。あいつの体力から考えてぶっちゃけ何やってんだか」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 もう一度二人はビールをぐいっと飲んで更に一息。

 「やっぱおかしいな」

 「ええそうね。」

 「でも8月のドンパチは別に何ともないように見えたんだけどなぁ」

 「7月の山林の戦闘記録を見たけど、あん時のキックはエネルギーを温存するためだと思ってたけど、どうもそうじゃないような」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 更にもう一度二人はビールをぐいっと飲み、缶を空にして握力で潰してしまう。

 「さすがにちょっちまずいな、あねさん」

 「ええ、」




5分後

 「・・・・・と言われてもな、俺はただ単にバイトをやっていただけなのだが」

 いそいそと宗一は、部屋であれこれと学校の準備をしていた。教科書やら伊南村から借りたCDをかばんに詰め込み、拳銃や弾薬やらナイフやら手りゅう弾やら何やら物騒なもの色々をいそいそと自分の体内にある四次元コンテナに詰め込みながら、アルフとメイリンの尋問を受けていた。

 「そうかしら、ここ最近のあんた、変よ」

 「変?」

 「あたりめえだろ。最近のお前さん、どうも物騒な感覚を受けるんだよ」

 「今日の訓練だって、今までだったらあそこで降参していたのが今までのあんただったけど」

 「それが何だあの見事なバク転は。完璧すぎるフォームにテクニックだぞ。ありゃあ。そんじょそこらの反応じゃあんな真似、できねえぞ絶対」

 二人は宗一が、本郷のおじさんに連日特訓を受けていることを知らなかった。単に「ギャラクシー・アミーゴ」でアルバイトをしているということしか知らず、また、世間体を妙に気にしている本郷のおじさんから「他言無用」と言われていたので言わなかったのだ。

 「・・・・・」

 「どうもここ最近のあんた、接近戦にこだわってきてるんじゃないの?」

 「そうそう。お前さんの得意は射撃や潜入だろ。接近戦は2の次じゃなかったのか?」

 そう、宗一は格闘より射撃が得意で、かつ潜入を専門とするプロなのである。狙撃の腕はアルフが、接近戦はメイリンがそれぞれ卓越しており、宗一はそれらの分野は二人の直伝であるため2の次だ。2の次とはいえ接近戦はメイリン直伝であるために他のライダー兵より優れているが、それでもいざ本番ではあまり役に立たないことがほとんどである。

 「・・・・・俺は」

 「俺は?」

 「分からなくなってきているのだ」

 いきなり意味不明の言葉を言い放つ宗一。

 「何がよ」

 「確かに今までの俺はあそこで降参していたのだが・・・なぜか知らないが、「まだやれる」という感情が出てきたのだ。ならばどうする、と思ったら、まずメイリンの武器をはじいてしまえば同じ条件になれる、そしてすぐさま後ろのトマホークを取れば有利になれる、それをあてがえば降参すると計算したのだ」

 「でも失敗しただろ」

 「ああ。行動を起こす前にそれを心配したのだが、なぜかあの行動が優先してしまった。同じ目にあって武器をはじかれる可能性もある、そう思ったのだがそれ以上に勝つと言う感情が先走って―――――」

 「ストップ」

 メイリンが止めた。

 「?」

 「ソーイチ、あんたに何があったかは聞かないし、あんたも言う気が無いようだけど、こいつだけは言わせてもらうわよ。むやみやたらに接近戦にこだわると、あんた死ぬわよ」

 「・・・・・」

 「接近戦てのは射撃と違って逃げる隙を見出しにくいもんだし、個人的な技量が露骨に出ちゃうのよ。刃が付きたてられたらどんな胆力のある奴だって一瞬ひるむもんだし、もしあれがゴム製の刃じゃなくて本物の刃だったら、あんた、あれができる自信がある?まかり間違えて蹴りの角度をミスって自分のところに飛んできたら?」

 「・・・・・」

 「別に自信あれば何も言わないけどね。でも今のあんたじゃ・・・あれみたいなことをやってたらいつか失敗して死ぬ原因になるわよ」

 「冒険は必要、だけど実戦は相手に勝つより生き残ることを最優先しなきゃ、今を考えられねえんだぞソーイチ。仲間を呼ぶのは卑怯じゃない、むしろ今を生きるのには当然過ぎる行為だぞ」

 「人は一人で生きていけないし一人じゃ弱いもんよ。でもね、群がった人間ほど恐ろしいものは存在しない。だから人間は過去の生物を絶滅させたり、今だってネオプラントのロボットどもを圧倒しているんでしょ」

 「そうそう」

 「結局あたしが言いたいのはソーイチ。一人でなんでも解決するようなことはやめろってことよ。狙撃のアルフに射撃の宗一、そして接近戦はあたしがやって初めて完璧になる。けど今のあんたはそのチームワークを乱しかねなくなってるのよ」

 「俺たちは組織戦だぞ?お前さん、わすれてねえかい?」

 一見すれば二人は、宗一が仮面ライダーたる自覚を阻害しているように見えるが、むしろ逆に言えば集団戦を重んじる未来のライダーたる戦法を宗一は破っているのだ。昔の野菜をうまいと言う人間がいるが、その人は「いつの昔の野菜」を食べてそういっているのか。昔と言う範疇ならば昨日食べた野菜だって「昔の野菜」になるのだから、はっきりいってこういったフレーズはいい加減なものだし、そもそも昔の人の味覚と今の人の味覚は違うのだから、常に常識や価値観は変化していくものである。

 そしてそれはライダーでも同じことであった。過去、仮面ライダーが機械帝国ネオプラントに敗れたのは、相手が集団で、それも1000万や2000万の単位で襲いかかってくるのに対してわずか2,3人程度でしか立ち向かおうとする個人戦至上主義からであった。おまけにその当時の仮面ライダーはすでに60代〜90代ばかりと、すでに全盛期と比べてあまりにも老衰が著しかった。故に仮面ライダーは迫りくる物量に破れ、一時は機械帝国ネオプラントが地球を覇権したのである。

 集団で、それも非力な人間が立ち向かうにはこちらも群がうしかない。そういうわけで24世紀の仮面ライダーは皆武器を手に取り、そして集団戦で戦うようになったのである。集団戦をするには当然均一化された兵装や能力が必要だし、何かに特化した者ならば少数精鋭による特殊部隊のほうが向いている。故に宗一は一時ライダー部隊から潜入専門の特殊部隊に引き抜かれた経緯を持っている。なので一人でやたらめったら突撃していく考えは、むしろ忌み嫌われるのであり、24世紀の娯楽たるライダー同士の格闘技でしか歓迎されないものである。

 「・・・・・」

 「悪いとは言わないわよ。接近戦の自信をつけられたんならそれはそれでいいと思うわ。でもね、周囲のこともちゃんと考えなさいって言ってるだけよ。」

 「そうそう、お前さんは一度そうだと思うと周囲のことを全く見ない悪い癖持ってるからなぁ」

 「そんだけよソーイチ、わかった?」

 「・・・・・わかった」

 「じゃあまた明日」

 「・・・ああ。」

 「またガッコでな。グッドナイト!」

 ばたんっ

 ・・・・・

 とはいえ、宗一はそれでも自信をもてなかった。確かに二人のいうことのほうが正しいのは自分でも分かっている。だが・・・

 (武器を持たせずに兵士を戦場に送ること以上に残酷性があるか!?故に私はライダーに武器を持たせたのだ)
 (こらあ宗一!それでも仮面ライダーか!)
 (銃に頼ってはいつしか君は自分を制御できなくなるぞ、宗一君)
 (ホンゴウノオジサンニカンカサレタヨウダナ・・・ソウイチ)
 (ちょっとは周囲のことを考えなさい)

 ・・・・・相反する考えが水と油の関係で反発しあい、宗一を悩ましていく。

 ・・・・・

 「わからない!」

 どっちが正しいのだ!?何が正しく何が正しくないのか!?俺は常に正しいと思う方を選択してそれを実行しようとしていた!だが・・・だが・・・どちらを実行してもどちらとも間違いだと周囲から指摘されてしまい、結局どちらが正しいのか分からなくなってしまう!俺そのものが間違いなのか!?それとも周囲が間違っているのか!?

 分からない・・・分からない・・・・・


 卑怯を承知で仲間を呼んで集団で倒すのか、

 危険を承知で一人で相手を倒すのか、

 果たしてどちらが「平和を守れる」仮面ライダーなのだろうか。


 「・・・・・」

 考えをやめようとしてもやめられない。今までだったら考える暇が無かったし、それを紛らわせることができた。が、どうしてもこれだけは紛らわせることができないし、自分の骨に染み付いてしまっているかのごとくに宗一の命題と化してしまっていた。その答えが出てくるには、今の宗一ではまだ不可能であった。


















西暦2004年9月2日午前8時12分
東京都豊島区かもめ台 東京環状線「高校前」駅 電気店前






 「なーまーずーはうーろーこーがなーーーーーーーいっ!」
 「曲がりかど、まがあったら、おかーねー持ちになれたらああああ、あああいーーーーなあああああーーー・・・・」





 こんにちは、ぼくドラえもんです!
 2005年3月、ぼくの映画26作目「ドラえもん対6人のドラえもん」
 
 <なっ、何これ!? ドラえもんが二人!?>
 <僕の首輪のこの真っ赤な赤は、熱い血の色、正義の色だ!
 <>
 <地獄の千本ノック砲、スタンバイ! しっかりキャッチしろよ! エラーなんかしたやつは、殺してやるから
 <ロケットめりこみパーンチ!!」
 <こ、このブサイクゥゥゥ!!よくも僕のしずかちゃんのふりをして、僕をたぶらかしたなぁぁぁぁぁ!!
 <や、安雄・・・? 安雄ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!>
 <はる夫ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
 <悪霊たいさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!>


 スタッフを入れ替え、今までの映画よりパワーアップ!
 アクションあり、恋愛あり、ギャグあり、面白さ120%アップ!

 なんと今回はぼくが6人も出てきます。
 みんなぼくのようなそうでないようなのばっかり、ぼくはいったいどうなっちゃうの〜?




 ドララッド♪(ミニドラ3人の掛け声イントロ)




 同時上映「HELLえもん」
 
 <こめかみでパンを食べてやるよ!>
 <ウギャアアアアアアアアアアアアア!! ゾ、ゾンビだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!>
 <クッ、ククッ・・・クカカカカッ!!>
 <タヌキっていうなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!>
 ドゴォォォォォォォォォォォォン!!
 <パーフェクトだ。人間の身で、これを扱うとはな・・・>
 
 <GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!>
 <このままじゃうるさいね、のび太君。さっさと黙らせよう>
 <クククッククククク! さあ!! 殺ろうぜ日本の少年(ジャパニーズボーイ)!!>
 <そして・・・このぼくこそが史上最強の超主役・・・その名も、「のびえもん」だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!>
 
 90分のハードスペクタクル!
 ぼくが、のび太君が、スネ夫君とこめかみでパンを食べる勝負で珍しいものをさがしにイギリスに!
 そこでぼくらは、とんでもないものとであってしまった〜!
 ゾンビと戦うハードアクション!
 ドラえもんのファンから噂されていた、禁断の武器が次々と登場!
 原作者が同人デビューを果たしたという、快(怪?)作が今初の映像化!
 きみはこの戦いをいきのこれるか〜!?



 公開は2005年3月5日
 映画予約チケット購入のおともだちには、お湯をつけると赤くなる「シャア専用ドラえもん」をプレゼント。
 さらに抽選で5000人のお友達には、100分の1マスターグレード「ジャイタンク」プラモデルをプレゼント!
 映画チケットに「あたり」のマークがあったら、その場で「原寸大帽子忍法:安雄の帽子」をプレゼント!
 18歳以上のお友達には「1/1モデルガン ジャンボガン」を抽選で100人にプレゼント!
 みんな、みにきてね〜!



 「なーまーずーのーひーげーはぐーるーーーーーーーめっめっめっめっめ・・・・・!



 「・・・・・あーあれ、マジやるんだ・・・」

 「・・・・・・」

 電気店のテレビが、ネットでの最悪の評判たるドラえもんEDテーマ「ナマズハウロコガナイ」をBGMをバックにしながら、来年のドラえもんの映画予告のCMを流しているのをみながら、成美は漏らした。周囲の高校生もその”威容”過ぎる映画予告に足を止めるほどの存在感をたらしめ「大丈夫かねぇ」とか「いいのか、あれ?」とか「とうとうふっきれたか・・・」、「ワタ●●、ついに狂ったな」などと口々にしている。

 「関係ないけどこの小説の作者って、身内にドラえもんの作画スタッフがいるのよね(超実話)・・・・・最近批評をやらない理由が身内叩きになっちゃうからって気が病んでいるらしいけど・・・・来年の映画は本気であれなのかしら」

 「・・・・・・」

 例のごとく、彼女の隣には宗一がたたずんでいる。職業柄上、ハードアクション映画が好きな宗一にとってはどちらかというとHELLえもんに興味を抱いている―――ように見える。

 「今までのドラえもん映画ってさ、ああいった過激な作品って、昔のしかなかったじゃない。最近になってむだ〜に感動を呼ぶような作品になっちゃってさ、批判が集まっていく中でいきなりあれよ?あんなアクションばかりで受けるのかしら?」

 「うけるんじゃないの・・・?」

 「!」

 気がつくと隣にあの転校生―――館川里奈がそこにいた。格闘技やっている成美すらも気づかないほどにまで急接近している。

 「銃・・・好きですから。HELLえもん、面白そう・・・」

 「そろそろ行くぞ成美」

 彼女との距離をとるように宗一は成美の腕を引っ張っていく。あの女はテロリストだということを成美は知らない。ゆえにあっちにとってはこれ以上ないほどの暗殺のチャンスがあるのだ。だがうかつに「館川里奈はテロリストだ」とでも言ってみろ、だいたい下のような展開が待っている。



 <どがばすげぎゃっ!
 <ぎゃぐううっ!>
 <いーかげんにしろっ!あんな女の子がテロッたりするわけないでしょ!>
 <だがしかしレジスタンスの情報で―――>
 <がんぼぎゃごがごんっ!(4HIT!)
 <だまれこの妄想ライダー!ちったあ人を信じろってんだバーロー!>



 ・・・・・とかいった展開で、その後パターンでネオプラントのロボットが襲ってくるのだ。駆逐艦派遣と400人のライダー部隊による防衛体制が確立したとはいえ、もう失敗を繰り返さない、故に自分は成美にこれを教えないことにしたのだ。だからこそ彼女には知らせないようにした。うん、そうだ。

 「・・・・・」

 「え、ええそうね。どったのソーイチ」

 「なんでもない」

 どことなく釈然としなかったが、成美は考えないことにした。






 やがてしばらく歩いていくうちに学校の校門にたどり着く。が、そこには懐かしい光景が広がっていた。

 「ちょっとー!あなた学校にゲームボーイ持ってくるなんてどういうこと〜」

 女性の大声が、学校前にとどろき、一人の生徒がおびえきったような顔つきになる。

 「い・・・いやそれはその・・・」

 「理由はここじゃなくて、職員室で!」

 「ああちょっと〜!」

 体育教師と思われる人物にその男子生徒は力なく引っ張られて行く。風紀委員担当の女教師である合田佐代子(31)がたびたび行う不定期恒例行事、持ち物検査のいけにえがまた出てきたのだ。一説には彼女が何らかの形で男性にフラれたりした時に起こるとされるが、真相は定かではない。

 「うえ・・・ここ最近やってないと思ったら・・・」

 「持ち物検査か。5月のあの女性教師のせいでどれだけ苦労しただろうか」

 「学校にベルト持ってきたあんたが悪いんでしょ」

 とか何とか漏らしているうちに合田先生が駆け寄ってくる。

 「あらそこにいるのはカップルで有名な本田宗一くんと浅岡成美さんじゃない〜」

 その性格上、恋人に振られて30人の彼女は特にカップルに対しての態度は厳しいらしい。理不尽ながらも成美には感じた。

 「・・・」

 「見てのとおり、わたし今持ち物検査をやってるのよ」

 「はぁ。ご苦労様です」

 「というわけでそのかばんをよこしなさいっ!」

 疾風のごとく、どちらかというと夜道歩くOLを狙ったスクーターで急接近してひったくる要領で、合田先生は二人のかばんを取り上げてしまった。あまりの反応の速さに宗一ですらも不意をつかれてしまう。

 「彼女はかなりの手腕だ・・・ライダー部隊に入ればさぞかし優秀な女スパイになれるだろう・・」

 「あんたは黙ってなさい・・・・・」

 「・・・・」

 「・・・・」

 「・・・・」

 「よろしい。今日はあのおもちゃのベルトを持ってきていないようね。5月のナイフもどうやら嘘っぱちのようね」

 「は、」

 「浅岡さんもOKです。さくさくいってちょうだいね」

 「はいどうも。」

 どうやら助かったようだ。宗一のかばんの中には伊南村から借りたCDがあったのだが、どうやら合田先生は見過ごしたらしい。成美も成美で今日はめずらしく引っかかりそうなものを持ってきていなかったので何とか関所は通過できたのだが―――――――

 がらがらがら、がしゃがしゃがしゃがしゃ

 ぼたぼたぼた、からからん・・・・


 二人の後方5mほどで何かが落っこちる音がした。 振り返るとそこには、先ほど自分たちの前に姿を現した館川里奈だった。例によって彼女のかばんは合田先生によって取り上げられている。

 「・・・・・」

 「ちょっとあなた・・・・・これはどういうことかしら」

 先生の足元に転がっているのは、おおよそ女子高校生が持つものとは程遠いものばかりであった。拳銃2丁にマガジン5個、電気銃にショットガン、手榴弾7個にスタングレネード3個、ナイフにワイヤー、C4爆弾、トランシーバー、マイナスドライバーとモンキーレンチ、スタンガンそのほか何やらわけのわからないものがたくさんだ。なおも先生はかばんからモノを出しながらも、足元の物騒な代物はどんどん増え続ける一方だ。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 そのあまりにもあまりすぎる物品の数々に周囲にいる生徒一同は驚愕せざるを得なかった。

 「・・・・・」

 「本田君の悪い噂は外国暮らしが長くて勘違いからきたものということで大目に見ていましたし、結局悪い噂で終わりましたけどねぇ・・・あんたはどういうことなのかしら?」

 「・・・・・・」

 「ちょっと職員室にきなさい」

 「ですが・・・・」

 「ですがもくそもあったもんじゃないでしょ!こんなにたくさんのモデルガンをもってきて・・・!」

 「モデルガンではありません。それは・・・・あ」

 「とっととくる!」

 聞く耳持たずして彼女は、先生に腕を引っ張られて連行されていく。その場に転がっている物騒なものは近くの体育教師によって拾われていき、やはり校舎の中へと消えていった。異様過ぎるその光景に一同はあっけにとられていたが、一部の生徒は持ち物検査が中断したためなのか、安堵の表情が浮かんでもいた。

 「ちょ・・・・ソーイチ、あれってまじ?」

 どうやら隠しようがないようだ。宗一は過去の経験からもう大丈夫だろうということで確信した。

 「・・・昼に話す。人のいるところではまずい」





午後12時30分(昼休み)
私立所縁が丘高等学校 屋上

 ぶっ!

 「あんさつしゃあ!?あの子が!?」

 おにぎり(たらこ)を噴出し、宗一の顔を汚しながらも成美は驚いた。二人と一緒にいるのは、宗一の事情を知る明美と雪絵、そして伊南村の例のメンバーである。

 「うわ・・・えんがちょ」

 「汚いぞ成美・・・」

 「あ・・・ごめんごめん。それはいいとして、あの転校生が・・・ねぇ?」

 顔を拭きながらも宗一は続ける。

 「そうだ、先日連絡が入ってな。テロリストが本校に潜入したという情報が入ったのだ。そいつは6月に真崎のリムジンに爆弾を仕掛けて暗殺を謀ったそうだ」

 ぶっ!

 今度はウーロン茶を噴いた成美。

 「2回目だよナルちゃん・・・・」

 「・・・・・」

 伊南村からティッシュを借りてなおも顔を拭きながら、宗一は続ける。

 「結果的に失敗だったが、戦略に多大な影響を与えた。真崎が親衛隊に監禁同然の保護下に入ったためにライダー部隊は内部で大混乱がおこり、命令系統が麻痺して1個師団2万人が壊滅的損害を受けたのだ。8月に仙台に潜伏していることが発覚してからは陸軍が攻撃をかけたのだが・・・逃げられた。」

 結局ながらも、エカデリンブルグ要塞における第11ライダー師団壊滅的損害の原因は、テロ組織バルラシオンによる件の暗殺未遂とされてしまった。そうしなければメアリー大将を処刑しなければならず、また生き残った兵士たちにも衝撃が走るからである。まあ言うなれば政治的理由ということで決着がつけられたのであった。

 「そしてこんどは僕たちの時代にやってきた、ということ?」

 「そうだ。彼女の噂はもう聞いているだろう」




 (ひそひそひそ・・・・・)

 (ねえねえ、きいた?あの転校生の子)

 (ええ、学校にナイフとか拳銃とか持っていてやばくない?)

 (5月にも似たような噂があったけど、あれはデマだったんだよね)

 (自衛隊の娘ってみんなああなのか?)

 (いつも無表情で愛想も悪いし・・・)

 (お父さんが自衛官だからああなったんじゃないの?)

 (なんだってこの学校にはこうも変人がやってくるのかしら。本田くんもそうだし・・・)

 (あっちはまだましよ。今じゃ昔ほど騒動を起こさないし、成美のサンドバックで怒りを発散させているし)

 (どっちにしてもあの子とは関わりたくないなぁ)


 (襲い掛かったら拳銃で返り討ちにされそうだ・・・)

 (ひそひそひそ・・・・・)



 「・・・・まあよくない噂だね、あれは」

 「俺が見た限り、彼女が持っていたのは24世紀製の武器だった。」

 「でもなんだってかばんなんかに入れたんだろうね」

 「見つからないとタカをくくったのだろう。どちらにせよ彼女は危険だ。今後成美は彼女にうかつに近づかないほうがいい」

 「うん」

 一応相槌をうつ成美だったが、宗一はさらに

 「君たちもだ。」

 「僕も!?」「わたしも!?」「まあ・・・」

 「俺の事情を知っている、成美の関係者を彼女は狙ってくる可能性がある。護衛を知ったのならば君たちを材料にして何かしてくるかもしれないからな。そう、たとえば人質。ほかにも・・・」

 がごんっ!

 「不安になるようなことを言うなっ!あたしだけならまだしもみんなを不安がらせてどーするこの無神経ライダー!」

 空になったペットボトルで、ひしゃげるほどの力でぶったたかれた宗一。ものすごく痛そうだ。

 「・・・だがな、相手はあの歳で爆弾テロリストだ。おそらく幼少期に想像を絶するすりこみが行われていることだろう。だから・・・」

 途中で宗一は気づいた。4人が「じ〜っ」とこちらを眺めているのだ。

 「どうした?」

 「いや、あんたってそれの自覚がないんだなぁ、てね」

 「うん。」

 「そうね」

 「そうですね」

 一様にいわれて宗一は困惑してしまうのだった。自分がすりこまれている?

 「・・・・・そういえばソーイチ」

 「なんだ」

 困惑している宗一を無視するかのように成美が尋ねる。

 「8月にあたしを拉致ッたあの人たち、今どーなってんの?」





同時刻
八丈島南方30km 駆逐艦「シュバルツグリーン」


 「ぎぎぎっぎぎぎー!」

 「ぎーぎー言ってないでちゃんと答えろ!」

 「ぎぎぎぎーぎーぎーぎー!」

 「ふざけてるのか!死にたいのか!」

 「ぎぎぎぎぎぎっぎ!」

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 「・・・どうですか戦隊長殿」

 「ジオ少佐。戦闘員からは何も得られないのは分かった。この2週間彼らの言語を研究しても言葉は翻訳ソフトも解読も全く出来ない」

 「でしょうな。独自の言語が用いられているようなので、解読者がいないとどうしようもありませんし、そもそも作業員では実態を知りにくいというものです」

 「うむ。幹部の尋問はどうなっている?」

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 「ふんだっ!何も言わないもんねー!」

 ばりばりばりばりばりばりばりばりばりっ!

 「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」

 「いいかげんにしろっ!」

 「くっそぉ〜お前らそれでも正義の味方か!?電撃拷問をやらかす正義の味方がどこにいる!」

 ばりばりばりばりばりばりばりばりばりっ!

 「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」

 「・・・・・・もう一度聞こう。お前達はどういう組織とつながっている!ネオプラントとはどういう関係だ!バルラシオンとどういう関係だ!」

 「しるかそんなの!なにがねおぷらんとだ!ばるらしおんってな〜に〜」

 ばりばりばりばりばりばりばりばりばりっ!

 「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」

 こんな調子で、スカルスコーピオン首領は毎日のごとく電撃拷問を食らっていた。他の幹部もみんなこんな調子でまともに取り合わず、ろくな情報が得られないままだ。 ただ1人を除いて。



 「・・・・・そうだ。我々は地下組織をうまく取りまとめて内乱が起こらないようにしていたのだ」

 だんっ!

 「まるで正義の味方気取りだな、ああ!?」

 尋問するライダーの一人が、ライダーの怪力でも壊れないテーブルめがけて殴るが、彼はひるまなかった。

 「我々は悪の組織だ。日本中に点在する地下組織のブローカー的役割を果たし、仕事を提供する代わりに勝手に作戦を立てたりして世間に露見しないように条約を結び、それで他の組織をまとめ上げていた。今まで仮面ライダーによって潰された組織のほとんどは我々の条約を破っていた短絡的な連中ばかりだった。仮面ライダーの恐ろしさはショッカー誕生と同時に生まれた我々が一番よく知っている、故に下手に動いたら1年内にその組織は仮面ライダーによって叩き潰されているからだ。」

 「・・・・・」

 「我々はその残党を雇い、その技術や情報を蓄積していった。そして出た結論として仮面ライダーを作ってはならないということだ。壊滅の原因のほぼ全てが仮面ライダーと名乗る作り上げられた怪人の存在・・・・・そして一つの組織だけでは世界征服は成し遂げられないということだ。故に仮面ライダーが対処できない、物量作戦でしかこの日本は征服できない。だからこそ我々はそれを目指し、新しき組織の設立手助けをしていたのだ」

 「・・・・・」

 「我々とは系列の違うショッカー系列の組織とは抗争が起こらないように先代や先先代の努力で今日に至っていた。今の党首はお世辞にも先代よりは優れた手腕を持っているとはいえないが・・・それでも彼は彼なりにやっていた。それに彼らの一族は昔ショッカー系組織は当時我々とは友好的関係を築いていたのだが、途中で険悪な関係になって危うく構想寸前にまで成ったことがある。まあ今ではそのショッカーは地下にいるバダン帝国の残党が細々といる程度、中心人物が不在のあの組織はいずれにせよもう長くはない。」

 「・・・・・」

 「我々はその事実を歴史から学び、先人達の二の轍を踏まぬように努力した。内乱が起こらないようにうまく調整した後、来年には一斉蜂起を起こし日本征服を実現するはずだった・・・」

 「日本を征服したってどうしろっていうんだ!?」

 「日本を征服した後には我々が取り仕切り、海外の敵勢力と対抗すべく新たな体制を作る予定だったのだが、お前達が来たせいで全てがだめになったのだ・・・」

 「・・・・・」

 「来年、内乱が起こる。」

 「・・・・・」

 「これ以上ない、過去最大の規模を誇る内乱だ。我々という見えざる鎖が解き放たれて日本中の悪の組織が武装蜂起し、日本で派遣を狙う戦国時代の到来・・・大混乱に陥る」

 「・・・」

 「ヴァジュラ・・・・・特にこの組織は我々の命令を聞かなくなっていた。情報部では奴らが10数年以上前から計画を打建てて、あちこちの組織と勝手に協定を結んでいた。幾度もなく警告をしてもやつらはそれを無視し、しかも気づいたら向こうのほうが我々以上の勢力となってしまった。しかも奴らは我々も知らない「何か」を見つけたらしく、それを使った何かを作っているらしい・・・・・奴らは間違いなく率先して日本征服を果たすだろう。」

 「・・・・・」

 「我々のシェアを奪っていった落天宗もそうだ、奴らはどうやらエニグマと手を組み、来年春に日本を制圧しようとたくらんでいる。そして日本にちょっかいを出していたエニグマだ・・・奴らはこの日本に進出し、何かの実験場として日本を混乱させるつもりらしい。奴らが来れば日本は瞬く間に地獄となる。故に我々スカルスコーピオンは地下組織同士による連合を打ちたてて一致団結し、奴らに備えようとしたのだ・・・・・」



 淡々と言い続けるのは、捕虜の中で唯一友好的な態度を示すタイガースコーピオンだった。今彼は二人のライダーによって厳しい尋問が執り行われており、彼の両手には圧力がかかると100万ボルトの電撃が炸裂する手錠がはめられて自由を奪われている。だが彼は成美の必死の弁護もあって、特に拷問も受ける事もなく―――というより彼自身が素直だったために拷問の必要もなく大体の全容が、ライダー隊にも分かってきた。

 「無駄だよ」

 尋問していた1人のライダーが言った。

 「!?」

 「来年にはこの世界は核が落ちて全部滅んじまうんだからよ」

 「・・・・・・」

 「お前達のやってることもお前達の敵も全部無駄さ。3月10日は全部滅んじまって、お前達も機械どもに皆殺しにされちまうのさ」

 「・・・お前達の未来は、どういう未来だ。我々のなすことが無駄だと言うのはどういうことなのだ」

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 「―――――ということです。先月我々が制圧した敵対組織スカルスコーピオンは、我々の100個の衛星全てが探知した地下施設を保有する複数の組織をまとめ上げていたブローカー組織であることが分かりました。過去の史を見ると、彼らは悪の組織として活動を起こし、いずれも例外なく世界征服を行おうとしていました。しかし彼らの中に失敗作「仮面ライダー」が生まれ、滅んだ組織は皆そうなって滅んだのだそうです」

 「我々の先祖たる仮面ライダーが、元は裏切り者ということか」

 「そうです。そのスカルスコーピオンは例外として仮面ライダーを作ろうとしなかった唯一の組織だったそうですが・・・彼らも仮面ライダーにしてやられたということになりますな。」

 「彼らが浅岡成美を拉致した動機は?」



 「手紙、そう、手紙だった」

 「手紙だと?」

 「我々の元に一通の手紙が来たのだ。ここ最近ミサイル攻撃を行っている連中の正体はこの女が知っているという内容だった。無差別に攻撃を仕掛けている連中を感化できなくなった我々は彼女を拉致し、全てを知るつもりだったのだが・・・・・それがよもやお前らだったとは」

 「・・・手紙の差出人は?」

 「分からない。女のようだったと戦闘員が言っていた。首領閣下はそれに監視をつけていたのだが、特に何の変哲もなかったといっていた」

 「・・・」





 「・・・女、と言ってました」

 「あいまいすぎる。テロリストの女が成美の通う学校にいると聞いているが、彼女と断定するにはあまりにも確証がえられない。そのスカルスコーピオンとやらが手紙を受け、我々の正体を知ろうとしたということは、バルラシオンか・・・・・あるいは」

 「我々の中に裏切り者がいる、ということですな」

 「イルステッド少佐、その言は他言無用だ。ここで混乱が起これば防衛体制は瓦解しかねん」

 「承知しています中佐殿。我々はチームワークあってこそのライダー部隊です。仲間内で疑心暗鬼となってはどうしようもありませんからな」

 「そうだ。」

 「ところで、彼らの処遇はどうしますか。我々としてもこれ以上彼らにいては困るのですが・・・・・」

 「本部からの通信を待とう。それよりも・・・先日発射したミサイルのうち、数発が撃墜されたそうだな」

 「は。」

 「そのミサイルは?」

 「ADK−2210シュライク。地下推進ミサイルです。」

 「地表に影響を与えずに地下施設のみを攻撃するあれか。打ち落とされた理由は分かるか」

 「衛星「バーガット」によれば対空迎撃がなされたそうです。他にも電磁シールドが張られており・・・」

 「・・・・・狂っているな」

 そう、彼らの時代のミサイルは超音速、かつステルスが完璧であるために打ち落とされるようなことはまずないのだ。にも関わらずそれを打ち落とすとは・・・しかも電磁シールドだと!?そこまでやるということは奴らはただ事ではない、よほど何かを守りたい何かがあるのだろうが、非合法組織が電磁シールドを所有しているそれ自体があまりにもおかしすぎる。

 「同感。次はどうなされますか」

 「試作のトリプル・ツイスターがあっただろう。あれをそこに使う」

 「・・・戦隊長殿、お気持ちはわかりますが・・・この作品内で目立たないからと言ってむやみにミサイルを撃ってはビジターの方々に迷惑されますぞ。作者も掲示板であれこれ言われて結構気に病んでいるようですし、これ以上の攻撃は控えたほうがよろしいです。ただでさえ真崎閣下の許可が下りているとはいえ、限度と言うものがあります。やりすぎれば我々の存在が暴かれかねません。」

 「・・・・・」

 「ここはこらえていただきたい。戦隊長殿もそれを分かる方でありましょう。」

 「わかった、ジオ少佐、貴官の言うとおりだ。攻撃は中止する」

 「ありがとうございます。私の言葉に耳を傾けていただけるとは戦隊長殿は噂にたがわぬ「ブラック・ゴーレム」であらせられます。」

 「昔のあだ名はよせ。私も少々熱くなりすぎた。このことに関しては真崎閣下の意見を聞いてから実行しよう」

 「そのほうが懸命であらせられます」

 ジオ少佐はヨーロッパ有数の武家出身だ。古典的なまでの口調は彼が幼少期の教育でえた癖でもある。

 「・・・ではそのタイガースコーピオンの処遇は如何いたしますか。」

 「生体兵器なのだろう、彼は」

 差別発言だが、デビッドは反応を試そうとしただけである。

 「とはいえ人間並の思考力とライダー以上の戦闘力を持っています。他の幹部と比べて思慮深い上に我々に対しても友好的です。我々に引き込めば今後のためにもなるかと」

 「・・・」

 「彼からネオプラントの生産工場の割り出しも必要です。彼はスカルスコーピオンの全てを知る数少ない人物、人をまとめ上げるには不向きな性格ですが、一兵としてみればこれ以上ない才能をもっています。ここで彼を敵に回すような真似はやめ、我々の味方に引き込むのが得策かと。」

 「貴官の言は正しいだろうな。」

 ジオがただの武人でないことを、デビッドは認めた。

 「私からも閣下にそのことを言っておこう。」










同時刻
私立所縁が丘高等学校 屋上


 「・・・・・・ふーん。そうなの」

 「そうだ。君が心配していた虎は多分、それなりの処遇を受けるだろう」

 「・・・・・」

 「もう忘れたほうがいい。あれはただの偶然だったのだ」

 とはいえ、結局あれはスペクターが起こしたものなのか、と宗一は疑問に持ったままだった。スペクターがバルラシオンと通じているのかという疑念もあるが、真崎に対して絶対的な忠誠を誓っているスペクターのことだ、まずそれはありえない、そう、やつは絶対に裏切らないのだ。

 「そうよね、うん。」

 「でも成美さんって本当によく狙われますよね」

 「そうそう、暗殺者に都市伝説で有名な謎の秘密結社!たいていは捕まったら怪人とかにされちゃうんだけど・・・・・よくぶじだったね」

 「まったく・・・・・こうも厄介ごとがやってくるあたしの前世は何者なのかしら。タイムマシンがあったらちょっと顔を見てぶん殴ってやりたいもんよ」

 「前世・・・前世とは何だ伊南村」

 「その人の生まれる前の人のことだよ。」

 「・・・・・?」

 「わからないって顔してるね・・・僕もうまく説明できないけど人間には魂というものがあって、その魂は永遠に続くとされる考えが前世って言うんだよ。本田君だって生まれる前は別の誰か、ということで、前世が悪い人だと来世の人は苦労するっていうことなんだ」

 「・・・・・ふむ」

 微妙にわかったかのようなわからないような顔をする宗一。

 「つまり・・・成美が今苦労しているのはそのゼンセの人間が悪いということなのか?」

 「人のせいにしちゃうのはよくないと思うんだけどね・・・でも成美さんのこれまでをみると、どうも・・・ね」

 うんうん、と明美と雪絵の二人は相槌をうつ。

 「でもさ・・・」

 「?」

 「あと半年でこの世界が滅んじゃうんだよね。どうも実感がわかないというか・・・・・」

 「ナルちゃんは未来がわかっているからいいけど、あたしたちってどうなるのかな」

 「やっぱり核兵器で亡くなってしまうのでしょうか・・・・・」

 口々に不安を吐く3人。無理もない、成美と違って将来がわからない3人としてはどうしても不安になるのが人間というものである。もしかしたら核ミサイルの爆発に巻き込まれて死んでしまうかもしれないし、あるいは放射能で苦しんで死ぬのかもしれない。はたまたそうでもないけど食料をめぐっての争いに巻き込まれて死んでしまうかもしれないし・・・・・とまあお先真っ暗の未来が確定されているのならば不安になってしまうものだ。

 「・・・・・」

 「だーいじょうぶだって!」

 暗いムードを打ち消そうと成美が必死になった。

 「いざとなりゃあたしといっしょに行動すれば、助かるかもしれないよ?だってあたし将来リーダーになるんだからさ、生き残ることがわかっているあたしといれば生き残れる可能性だって十分に・・・」

 「だが君と共に行動をして途中にどがっ!

 「だまってろ無神経ライダー!人が努力してポジティブシンキングをやっている最中に水さすなっ!」

 「楽観的思考は油断に繋がどがばぎごぎんっ!

 「いいかげんにしろっ!ちったあ他人の気持ちを考えたらどうなのウラウラウラ!」

 昼の学校、相変わらずの光景だった。成美としてはこの平和な、少なくとも自分にとってだが、この時間がずっと続くことを願っていた。










同日午後4時30分(放課後)
私立所縁が丘高等学校 2年B組


 授業が終わり、放課後となった。だがその場にいる一同はまっすぐ帰ることもできず、教室に缶詰にされてしまっている。その理由はしごくかんたん、文化祭だ。

 「えー、ということでですねー、20日の文化祭でうちのクラスは何をやるかを決めたいのですが・・・」

 毎年9月第3週、今年で換算して9月20日日曜日、私立所縁が丘高等学校では「所縁祭(ゆかりまつり)」という文化祭が開かれている。2000人近い学生がいるこの高校の文化祭は、他の高校の追従を許さない大規模を誇り、かもめ台地区総出で町おこしみたいなものまで便乗している始末だ。他の学校の生徒も多数やってくる上に、その盛大ぶりは学校紹介の雑誌関係者もやってくるほどだ。ある意味東京で有名な文化祭のひとつと考えてもいい。

 「はーい、喫茶店」

 「はーい、お化け屋敷−」

 「・・・・・」

 喫茶店やお化け屋敷、文化祭の定番中の定番だが、一学年15クラスもあるこの学校でそういった出し物は苛烈な競争率を誇る。学校それ自体がけっこう広いのでそれなりの数は出るが、運動部系の部活動も出し物をするのでさらに競争率は高くなり、また文化部系の部活動もやっぱり出し物をするのでさらに高くなるので遠慮したほうがいいというのが結論である。

 「・・・ほかに何か、ありますかー」

 とはいえイベント系の出し物は手間がかかる。元々生徒数が多く、また学校それ自体が広いので資材の搬入や組み立て作業に膨大な時間がかかり、結果かなりの労力となるし、最悪の場合だと文化祭の日に間に合わなくなるクラスも多い。よってお化け屋敷という案もあきらめざるをえないのだった。かといって何か企画をやろうにも、具体的な案は思いつくはずもない。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 結論が出ないのは仕方のないことだった。なのでこの学校では一応クラスごとに第1希望から第3希望まを提示し、後は学級委員同士のクラス会で決めるしかないのだ。ゆえに決定は先送りとなったのだが、この時もう少し積極的な討論が行われれば歴史は変わっていたのかもしれない。だがそれを知る術は果たしてあったのだろうか。

 「アー・・・終わった。」

 「成美、すっと寝ていたようだが・・・」

 「ん、まーね。いやあどうもああいうのは苦手で・・・」

 けらけらと笑うその姿に、宗一はちょっと信じられなくなった。彼女が将来レジスタンスのリーダーとなるのに、今ではその微塵すらも感じさせないのだが・・・実は彼女は赤の他人ではないかと時々感じてしまうことがある。

 「ちょっとソーイチ・・・いまものすんごく失礼なことを考えてなかった?」

 「いや、特に考えていないが・・・」

 嘘だったが、宗一は嘘が本質的にできない男であることは成美はよく知っている。なので怒る気にもなれず、彼女は空手着の入ったバッグを掲げ、宗一と共に武道館へと向かっていった。8月の予選はクリアしたので、今度は9月の全国大会に向けて練習に励まなければならないのだ。





同日午後5時00分
東京都豊島区うみねこ台 アパート「サンハイム」2階201号室


 「・・・・・以上、工作員B-0021の言の通り、浅岡成美の情報が確実であることが確認できました」

 <ご苦労。監視体制はどうだ>

 「学校までのルートは死角なく完全に監視されています。学校内も腕の立つライダーが3名ほど、1人だけでは任務達成は不可能です」

 <そうか。ζはどうだ>

 「反応が確実でした。浅岡成美についている護衛は確実にそうです」

 <・・・・・>

 「鈴木社長、私1人だけではどうしようもありません。こちらにいるスタッフだけでは作戦を遂行することは確実に不可能です」

 <わかった、ライダー隊とθを送る。奴らで陽動し、お前は手薄になったところを狙え>

 「はい」

 <作戦遂行日時は後日お前の都合のいい時に合わせろ>

 「はい」

 <お前次第で我々の勝利が決まるのだ、失敗は許さんぞ>

 「はい、鈴木社長」

 ぶつんっ

 通信機を切り、アパートの一室で館川里奈は、横になった。思えばいつからこういう生活を送るようになったのか。

 考えることも許されなかったし、疑問を持つことも許されなかった。

 ただひたすらに、毎日銃を撃つ日が続いていた。

 ある時は爆弾を仕掛けろと言われ、

 ある時は狙撃しろと言われ、

 ある時はガスを流せと言われ、多くの人間を殺めてきた。

 そういった生活が10年以上続き、私はもう何も分からなくなっていた。

 ただ信じられるのは、自分のみであり、鈴木社長である。

 彼がいなければ私は私でない。







西暦2004年9月7日 午後4時00分(放課後)
私立所縁が丘高等学校 2年B組教室


 「えー!俺達のクラスが劇をやるのかよー!」

 男子生徒たちが一斉にして不満を漏らした。女子生徒たちも同様だが、彼女らは声に出さず、顔に出す程度だ。

 あれから協議が行われた結果、結局くじ引きでクラスごとの出し物を決めることになったのだが、2年B組は劇となってしまった。もっとも教室の移動が長いだけで、実際の作業は他の出し物と比べればそんなに困難なわけではない。だが、問題なのはその劇の内容は学校が決めることになっているのだ。その理由は80年代に勃発した学園抗争時代が由来であると言われるが、真相を知るものは用務員含めすでにこの学校には存在しない。

 「えー・・・・・そこで私らのクラスは白雪姫を行うことになりました」

 「・・・・・」

 高校生が白雪姫か・・・と誰もが思った。でも去年は桃太郎だったのでまだいいだろうか、と一部の生徒は思ったりしている。まあ去年の3年生がやったあの劇は・・・見るからに哀れみを感じたくなるほどの内容だったからだ。それを知らぬのは今の1年生および転校生組だけであり、当然宗一もその範疇に入るのだが・・・

 「そこで配役を決めなければならないのですが、皆さんも分かっていると思うので公平にくじ引きで決めさせていただきます」

 そりゃあ嫌がるものである。この学校には目立ちたがり屋はあまりいないのでやっぱりというかなんというか、平和的解決の一環としてこうやってくじ引きが行われるのである。劇といっても結構本格的だ。舞台に出る配役だけではなく大道具や小道具、衣装やチケット作成、配布チラシ作成および配布・・・衣装はまあ学校がなぜか用意しているので別に問題はない、が、最大の問題は配役だ。

 「さあ並んで並んで。クジに名前が書かれている役柄がそうなりますからねー」」

 名もなき委員長の指示に従い、一同はくじ引きのために並んだ。



 「あー、俺妖精の役かよ!」

 「城の兵士A・・・」

 「小道具係かぁ・・・まあいいか」

 くじ引きは順調に席の列順で進んでいき、伊南村の番となる。彼はおもむろにクジを引き・・・

 「・・・・・チケット作成係だ」

 まあいいかな、と伊南村は思ったりした。自分は運動ができないからまあこんなところが一番適職なのだろう。

 そんな感じで列は進んでいき、今度は成美の前に座っている明美の番となる。

 「あー、あたし脚本だって!」

 「あらよかったじゃないの」

 やる気なく成美は答えたが、番になったのでおもむろにクジを引き・・・・・手に取った。



 「女王」だった。

 「・・・・・・・うげえ〜あたし女王・・・!」

 「ナルちゃん・・・・・」

 ある意味ぴったりの配役であろう、とクラス中の誰もが思った。白雪姫の女王といえば自画自賛の性格でかつ鏡に白雪姫が美しいといわれたら発狂して暗殺をしようとしたり、毒リンゴを使って暗殺を謀ろうとした、ある種のパワーを持った役である。





 閑話休題

 ちなみに白雪姫という物語の舞台はドイツであり、19世紀に作られたグリム童話のひとつである。物語の設定たる時代背景は不明だが、桃太郎や浦島太郎のように、「平安時代」なのか「室町時代」なのか明確な時代設定がないので「だいたい」中世期のヨーロッパ社会であるとくくってもよい。この話に出てくる「女王」が義理の娘たる白雪姫を暗殺しようとする光景や描写は、当時のヨーロッパの日常や習慣を示しており、政略結婚に振り回される女たちやその先での虐待などなど、貴族社会も楽じゃないのである。

 ただ我々が知る白雪姫と、実際の白雪姫は物凄く違う。例を挙げると女王は、白雪姫を森に追いやろうとした際に殺したことを確認せんがために、「白雪姫の内臓をもってこい」と、暗殺者たる猟師に言ったことである。これはドイツの風習である「その人間の肉を食べることで自身となる」という迷信からきており、時には自分の子供の肉を食べることで自身の免罪符(子供は罪を犯していないからそれを得ようとする)ということすらもあった。また物語の途中に出てくる7人の小人たちは19世紀当時の危険な職業である炭鉱夫がモデルであり、当時の低級階層や犯罪者たちの職業であったとされる。またラストの布石たる「王子様」だが、これはなんと死体に対して快感や価値を見出そうとする「死体愛好家」なのである。ゆえにいい歳になっても結婚相手が見つからず、たまたまで毒リンゴで死んでいた白雪姫に「それ」を見出したとされているらしいなどなど・・・どれもこれも癖がものすんごく強いのである。

 また一般に知らされていないことだが、白雪姫には真のラストが存在する。それは結婚した白雪姫のもとにやってきた女王が、火で真っ赤になるほどにまで熱された鉄の靴を履かされて焼かれ、踊り狂って殺されてしまうというトンデモビックリな展開が待っているのである!これは魔女裁判を表しており、しかも究極なのが、この刑を執行したのがなんと当の白雪姫、おまけにこの白雪姫は我々が知っているような15〜20歳ぐらいの年齢ではなく、なんと7歳の少女である!ちなみに死体愛好家の王子は白雪姫より3歳上の10歳がオリジナルの設定であり、これまた我々のイメージたる「16歳くらい〜」とはかけ離れている。たかが7歳とはいえ女ってここまでやるの?と言わんばかりな、恨み辛み残酷な所業が行われているのである。さすがにこれは日本人にとってはウケが悪かったらしく「老人差別」やら「女性差別」「人種差別」などなどの悪評が立ったとされる。だがこの白雪姫はある種の「ヨーロッパ社会に対する民衆の風刺作品」であったそうであるが・・・?

 そんなこんなで、こんな恨み100倍返しストーリーを子供向けにすべく、我々が知っている白雪姫が生み出されたのである。悪人に魔女を追加したり、または女王役をなくした作品があるのはそれである。桃太郎のラストがおじいさんを殺害するのと同じように、「本物」とはものすごいパワーを持っているのである。





 閑話休題終了。





 「・・・・・そうよね、そうよね・・・これはたまたま偶然なのよね・・・・ふ、、、ふふふふふふふ・・・・」

 「ナルちゃん・・・・・」

 彼女なりに我慢しているのであろう。わなわなと肩を震わせながらも成美は我慢している。ちなみに成美は上記の閑話の白雪姫のことは知らないので注意していただきたい。

 「・・・・・白雪姫?」

 「・・・・・白雪姫が出ましたー!」

 「うぇっ!?」

 委員長の叫び声に成美は悲鳴とも思えぬ声を上げる。振り返るとそこには、成美の後ろ二つ、というより一番後ろににいる転校生・・・宗一がテロリストと呼んでいた、あの館川里奈であった。

 「・・・・・」

 ただ彼女は「学校にブツを持ってきている、危険な女子」というイメージがあっという間に定着しており、このクラスにいる誰もが戦々恐々とした。どっちかというと彼女は白雪姫というより魔女のほうがイメージ的に合うからである。このクラスで白雪姫のイメージにぴったり合う人物は、学校一の美人と評判の本間雪絵じゃないのか?と思われても仕方がなかった。

 「そ・・・それじゃあ次の列前に出て!」

 その空気を打破せんと委員長はやっきになったが、更なる大旋風を呼び込むとは誰が知ったであろうか。

 「あー、おれ兵士Bかよ」

 「お前まだいいぜ何だよ俺のこの「馬:前半身」は!?」

 「小道具係か・・・まあいいや」

 「ハイ次、本田君!」

 「・・・・・」

 いくらかが回ってきて、宗一の番となった。彼はおもむろにクジを引いて、中から1枚の紙を取り出し、役を確認しようと成美の元にやってきた。

 「成美」

 「なによ・・・悪役女王のあたしに何のようよ・・・」

 うめき声に近い声で成美はやる気なく答える。

 「さっきクジを引いたのだが・・・」

 「あーはいはい、大道具とか小道具なんでしょ。そういうのは周囲にあわせてやれば・・・」

 「紙に「王子役」とあったのだが、これは一体どういうことなのだろうか」







































 「・・・・・今、何ていった?」

 「だから王子の役をやることになったといっただけなのだが・・・」

 よもやお約束というのか偶然というのか、くじだから仕方が無いというのか作者の陰謀だというのか、衝撃がクラス中を襲った。

 ”あの”本田宗一が白雪姫の王子役!

 トラブルメーカーの”あいつ”が主役!?

 ていうかあの危険物転校生の館川里奈が白雪姫で、さらにその王子役があの本田宗一!?

 驚いても無理が無いのかもしれなかったが、クラスの空気が確かに固まったことを、宗一は確認できなかった。

 「・・・・・」

 「それで聞きたいことがあるのだが・・・成美?」

 「・・・・・」

 顔の前に手をちらつかせてみたが、まるで石になったかのごとくに反応しない。周囲はそうではなかったが類似する反応を示していたので、宗一は「チケット作成係」の伊南村に聞いてみる。

 「伊南村。聞きたいことがあるのだが」

 「・・・どうしたの、本田君」

 「このホームルームが終わったら聞こうと思ったのだが、どうやら俺はその選択肢を自分で潰してしまったらしい」

 「うん、それで?」

 「僭越だが、俺は海外での暮らしが長かった」

 「うん」

 これはある意味正しく、ある意味偽証である。宗一はあちこちの海外の戦場、それも24世紀のロボットがひしめく戦場を渡り歩いてきているので間違ってはいないが・・・ニュアンスの問題であろう。

 「白雪姫とは何だ?童謡のようだが俺はこの手の物語はまったく知らないのだ・・・・・」





西暦2004年9月7日午後9時00分
セーフハウス



 「まんがグリムどうわ:しらゆきひめ」
 げんさく:グリム にほんごやく:まついてんちょう

 むかしむかし、ある国に女王様がいました。

 「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのは誰?」

 彼女は世界で一番美しいと思っており、こうやって毎晩、魔法の鏡を使って自分の美しさを確認していましたが・・・・・

 「それはあなたです。ですが白雪姫のほうがその1000倍は美しいです」

 その鏡の言葉に女王は大変怒りました。白雪姫とは自分の義理の娘で、今年で15歳になる王女様でした。

 その白雪姫に負けたくない一心で女王は、猟師に白雪姫を森に連れ出して殺すように命じました。

 しかし猟師はそんな白雪姫を哀れに思い、彼女を森で逃がしてしまいました。



 森で迷う白雪姫は、ある小さな家を見つけました。

 中に入るとそこには7つのベッドに7つの料理セット、7つの洋服一式とあり、誰かが住んでいるようでした。

 森を迷っていた白雪姫は7つの食事のひとつを食べてしまい、7つのベッドのひとつの上に寝てしまいました。

 そこに帰ってきたのは、7人の妖精でした。

 妖精たちはこの美しい姫を起こし、白雪姫から事情を聞くと、姫をここに住まわせることにしました。



 ある日のこと、いつものように女王が鏡に尋ねました。

 「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのは誰?」

 「それは白雪姫です」

 女王は怒りました。白雪姫は確かに殺したはずなのに、生きているということを知ってしまったからです。

 女王は魔女を雇い、白雪姫を殺すように命じました。



 「ここから出てはいけないよ。ここは魔法が届かなくなるところだからね」

 白雪姫はそう妖精たちに言われていたのですが、たまたま外に出て洗濯をしていたためにばれてしまったのです。

 洗濯を終えた白雪姫は、次はスープを作っていましたが、そんな時、ドアがノックされました。

 「もしもしお嬢さん、このりんごを食べないかね?」

 白雪姫は妖精たちに、「知らない人に会ってはならない」と固くいわれていたのですが、そのりんごが本当においしそうだったため、

 りんごを受け取り、かじってしまいました。



 妖精たちが仕事から帰ってくると、そこには倒れている白雪姫がいました。

 そう、りんごには毒があったのです。白雪姫は死んでしまいました。

 妖精たちは大いに泣き、白雪姫を棺おけの中に入れましたが、その時、隣の国の王子様がたまたまその光景を見てしまいました。

 その王子様は白雪姫の美しさに心を引かれ、永遠に眠る白雪姫にキスをしました。

 すると白雪姫は突然りんごの芯を吐き出し、生き返ったのです。リンゴの毒を吐き出したからです。

 やがて二人は結ばれ、結婚式を行い、幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし、めでたし・・・・・






 「・・・・・」

 「ソーイチ、あんた何読んでるの?」

 真剣なまなざしで3〜5歳向きの絵本を読んでいる高校生、そのある種勇ましすぎる光景にメイリンが疑問におもってもおかしくは無い。

 「白雪姫という童話だ。今日のホームルームでこの物語の劇をやることになってな、俺はこの物語の王子を演じなければならなくなった」

 「・・・・・」

 「どうしたメイリン?」

 よもやこのトーヘンボクのウスラボケ、文化を知らないゼントラーディーなこの男が・・・まったくもって白雪姫の王子役をやるなんて・・・メイリンにはその姿が想像できなかった。ちなみにグリム童話は24世紀でも健在であるが古典文学の部類に位置し、みんながみんな知っているというわけではない。だが宗一が自分の部下になって5年経ち、宗一の性格や癖は完全に把握していると自負していたが、よもや・・・

 「・・・いや、決まっちゃったんだったら最後までやっときなさい」

 「ああ」

 そう言いながら次のページたる「女王と魔女の密会」の場面を開く宗一。そのページには見るからにあくどい女王が、さらにあくどそうな、真っ黒なローブを羽織った老婆に話しかけているシーンである。

 「・・・んで、どうしてあんた、そうやって真剣なの?」

 「俺はいつでも真剣だ」

 「そうじゃなくて、どことなく殺意が見えるんだけど・・・」

 「うむ・・・実はこの白雪姫という物語の配役なのだが・・・」

 「それが?」

 「その白雪姫の役があのテロリストだったのだ」

 その言葉を受けたメイリンはあたまをひっかきまわし、

 「・・・・・・・これはまたお約束の展開ね」

 「作者も狙っているのかもしれん」

 「それはいいとして・・・まったくいつからこんなに厄介な事態になっちゃったのかしら・・・」

 ・・・・・

 「ところでメイリン、聞きたいことがある」

 「なに?」

 「この白雪姫という物語に疑問を持ったのだが・・・・・なぜこの女王はここまでして義理の娘を殺したがるのだろうか。彼女が将来自分の地位を揺るがす存在になることを危惧してならば問題ないのだが、どちらかというと彼女を傀儡にしてしまえば問題は無かったのではないだろうかてっとりはやいのではないか。それがすぐに裏切るような猟師を雇ったり、逃がした場所が友好的な原住民のいる森だったりと、どうもこの女王には計画性や人身掌握術、人望というものがまったく見えない。これが真崎だったら信頼できる部下に森の奥にまで引きずり回して最後は虎か熊のいる洞穴に放り捨て、彼女の死を確認するまでそこにいるべきだ。」

 「・・・・・」

 「他にもこの原住民・・・妖精たちもそうだ。家に帰ってきたら正体不明の女子が自分たちの食事を食い荒らし、さも当たり前のごとくに自分の寝床を占拠しているとなれば怒りくるって●●か××をしてしまう可能性だって十分にあるかもしれない。この物語の舞台は中世期のヨーロッパのようだが、当時のヨーロッパは女性に対する倫理観が著しく欠落していて、貴族の、それも公爵などといった上級の娘でなければすぐに襲われていたそうだ。この白雪姫はよく無事だったな・・・・・」

 「そりゃあ物語なんだから・・・」

 「彼女が匿われて、そこで家事手伝いをやるのはまだいいだろう。魔法の鏡がどうこうというのはまだいいだろう、しかしだ、なぜ魔女は毒リンゴなどという怪しげなもので彼女を暗殺しようとしたのだろうか。どうせならば放火・・・いや森だから自分も巻き添えを食らう可能性もあったのだろうが、しかしそれにしても穴のありすぎる暗殺計画だ。もしこの時に妖精たちが帰ってきたらどうするのか、白雪姫が警戒心深くなっていたらどうしていたのか・・・最後の王子とやらもそうだ。彼は死体に対して性的興奮を覚える人物なのだろうか。アルフもそうだが貴族というのはどれもこれもみんなそういう性癖をもっているのだろうか・・・」

 「・・・・・」

 「最後もそうだ。毒リンゴを食べて毒死したというのに、なぜキスした拍子に吐き出してしまって生き返るのだろうか。人工呼吸か?心臓マッサージでも施したのか?いや妖精たちが帰ってきて翌日の出来事らしいからすでに死後硬直は終わっているはずだし、毒も全身に回っているのだろうから蘇生は絶対にできないと思うのだが・・・・・それにだ、リンゴの芯を吐き出して生き返るというのはどういうことなのだろうか、白雪姫とやらはリンゴの芯まで食べてしまうような女性なのだろうか。俺ならばリンゴの芯まで食べないし、何よりも問題なのは芯を吐き出したということは芯を丸ごと飲み込んだのだろうか。ならばどちらかというと毒死というより単なる窒息死ではなかろうか。それに・・・・・」

 「うーっす、帰ってきたぜソーイチ」

 話の腰を折らんといわんばかりに、アルフが帰ってきた。酒のにおいがする。

 「遅かったな、」

 「いやー、ちょいと飲み会があってなぁ。へっへへ」

 「酔っ払ってるのか。任務中に飲酒をするなど・・・」

 「固いこというな!こんな時代にやってきてもう半年経つんだぞ俺ら!ちっとはいい思いしたっていいじゃんか?この時代の酒って結構うまいんだぞ?コンビニで売ってる安物の酒もバカにはできねえぜ、いや本当」

 「・・・・・」

 宗一は、どことなく哀れんだ目で、ろれつの回らない話し方で彼を見つめた。

 「?どうした」

 「貴族というものはみんなこうなのだろうか・・・・・」





西暦2004年9月10日午後4時12分
私立所縁が丘高等学校 体育館


 「えー・・・かがみよかがみよかがみさん・・・」

 「カットー!駄目駄目ナルちゃん!もっと心を込めて!」

 「えー・・・かがみよかがみよかがみさん・・・」

 「カットカット!駄目だよナルちゃん・・・もっとその・・・いつもみたいにやってよ」

 放課後になり、2年B組は一様にして劇の練習に励んでいた。キャラクターのセリフや動きを監督するのは、成美の親友たる脚本担当の金本明美と、総監督の本間雪絵その人である。やっぱりというか、やる気のない彼女を奮い立たせるかのように明美は成美に指示するのだが・・・

 「うーん・・・・・いつもといわれてもどういつもなのか・・・・・?」

 「だーかーらー!その・・・うーん・・・」

 言葉に詰まってしまった明美。言いたいことがあるのだが、彼女の辞書の中に適当な言葉が見つからないようである。

 「ほら、本田さんを殴ったり蹴っ飛ばしたりするように勇ましくといいますか、ああいう悪意や怒気がこもったかのような振る舞いをしてください、と明美さんは言っているんですよ成美さん」

 この中で冷静沈着というのか、空気を読めないというのか、雪絵が彼女の代弁をしてしまう。

 「う・・・・・あたしあいつ殴ってるときってそんな感じなの・・・?」

 痛いところを突かれたのであろう、成美は言い返せずに狼狽してしまう。

 「とりあえずあのような調子で演技をすればいいのではないかと・・・・・」





 「おおーなんといううつくしいじょせいなのだー」

 「カットカット−!駄目じゃないか本田!もっと躍動感をつけて!」

 「おおー、なんという、うつくしいじょせいなのだー」

 「カットカットー!付点が付いているだけじゃないか!もっと役になりきって!」

 「おお・・・、何という美しい女性なのだ・・・・・」

 「・・・よおし!そんな感じだぞ本田!次いってみよう!」

 宗一たち後半パートを指導するのは、ゴーロクことクラスメイトの伊藤五十六(MISSION JUNE参照)であった。彼もまた脚本に選ばれており、こうやって宗一ら後半の役を指導しているのである。意外にも宗一は配役をうまくこなしており、成美のように「気恥ずかしさ」というものをまったく感じさせていない。

 「セリフの内容は頭に入っているな!」

 「大丈夫だ伊藤。昨日君らから受け取った台本の内容はばっちり覚えている」

 「心強いじゃないか本田。それじゃあ小人役と話し合って彼女を弔うシーン行ってみよう。最初みたいに感情込めないでやるんじゃないぞ!」

 「わかった」

 「よーしそれじゃあ館川さんも、そこに寝て!演技の練習をするぞー!」

 「・・・・」

 無言のまま、彼女は横たわり、演技の練習が始まった。





 「小人さん、失礼ですがこちらの人を疑うことを知らない、おやさしそうな方はいったい誰ですか?」

 「この娘さんは白雪姫というのです。ですが・・・」

 「・・この娘さんは二度と目を覚まさない、死んでしまったんだ。毒リンゴを食べさせられて・・・」

 「娘さんはすごく美しいのでこうやってガラスの棺に入れて弔っているのです」

 小人役の生徒たちはややぎこちなく王子役の宗一に答えるが、

 「可哀相に・・。私も花を捧げてあげましょう。」

 ・・・見事なまでに、王子役の宗一は、白雪姫の王子を演じていた。あたかもそれは、迫真の演技であった。



 「ほら、あのように本田さんも一生懸命ですよ」

 にっこりしながら雪絵は、やる気ない成美を発揮させるように説得を続ける。

 「うー・・・・・」

 「おお、近づいてみると本当に美しい女性だ」

 相変わらず演技を続ける宗一だったが、この時、思わぬ展開が!








 ゴーロクがいたずらして付け加えた台本の行動を宗一は忠実に実行しただけにしか過ぎない。

 だがその行動の内容が問題であった。

 「ん・・・・・・」

 宗一は、おもむろに彼女、館川里奈に口付けをしたのだ。



 「な・・・・!」

 「か・・・・・・!」

 「うえ・・・・・・!」

 「ま・・・・まじか・・・よ!」

 「ジョ・・・ジョークだったのに・・・」

 周囲は、その光景に全ての言葉を失った。当のゴーロクは責任から逃れたいがごとくに狼狽しきっている。

 「・・・ぷは」

 「・・・キスとは、こういう感じでいいのか?」

 こういう感じもみそもくそもなにもなかった。演劇なんだからそんなマジにやることはないのだが・・・周囲にはあまりにも驚愕過ぎる出来事である。思春期真っ盛りの一同にとってはそう、核爆弾が国家の中枢に放たれたのと同一の大衝撃である。

 「・・・・・お、おい。」

 「あいつは・・・浅岡と付き合っていたんじゃないのかよ・・・」

 そう、周囲が驚いたのはそのシーンだけではない。浅岡こと本田宗一が、浅岡成美と恋人関係であるという、ぜんぜん違う誤解が浸透しきっていたのに、その前提で他の女とキスをするという、ありとあらゆる意味で間違いすぎる行為が、周囲の元でさらされたのだ。

 「伊南村、白雪姫とやらの物語ではこのように王子が姫にキスをすることにより魔女の呪縛が解け、これをきっかけに二人は恋愛関係になり結ばれる、そうだな」

 「・・・・・」

 チケット作成係の伊南村も何もいえなかった。まるでメデューサに凝視されたかのように石になっている。そればかりかあたり一帯、崎田先生までもが、浅岡宗一を除くありとあらゆる霊長類全てが固まってしまっている。宗一が周囲がなんともいえぬ空気に冒されていることを理解するのにはもう少し時間が必要であったが・・・・・

 「・・・なぜ、みんな固まっている?」

 「あんたって・・・・あんたって・・・・・」

 「?」

 最初に動いたのは女王役の浅岡成美その人である。のっしのっしと突進していく。

 「成美、なぜ彼らは・・・・・」

 言い終える前に宗一は、これまで感じられなかったほどの殺意を成美から発せられていることを理解しようとしたその瞬間―――――

 「この!ドスケベライダーが!」



 どがばんがぎゃごちゃえぎゃばぎゃぎゃぎゃぼがぼがぼがぼががんがぎょごがんぱりぱりぱりぎゅぎゃごぎんっがごばぎゃぎゃばぎゃぼぎゃぎゅぎゃばりばりばりがんがんがんがぎょんべぎょべぎょぎょじゅらぎゃばぎゃごんごんごんごんごんどがぽかぽかぼかぼかががががぼがんべぎょぺちぺちばりばりぼぎべぎめりめりめりめりごごがごがごがごがばぎべぎぼぎんっ!






 本作品始まって以来最大級の暴力が宗一に揮われた。これが並みの人間だったらまず間違いなく全治3ヶ月の大怪我で視力や下半身などに後遺症が残る深刻なダメージを負っていたであろう。だが改造人間である浅岡宗一だからこそ耐えられた業であり、同時にマジギレした浅岡成美の極限なる大乱舞からも生き残れたのである。

 「がふっ・・・・・・・」

 とはいえ、いかに彼と言えどもこれまでの戦闘で受けたダメージの合計量に匹敵するその攻撃にやられ、今や彼の夏服のワイシャツはまるでジャイアンの暴力にやられたのび太の洋服そのものである。腕はあさっての方向に曲がっており、執拗に頭部めがけての攻撃は的確でかつ多数、人間の全身いたるところにある急所と呼べる部位全てに完膚なきまでになぐられ蹴られ・・・・・よもや暴力と済まされない、どちらかと言うと殺人と称すべきほどの暴力である。浅岡成美は祖父浅岡源蔵から、旧日本軍が極秘で作り上げた軍隊格闘術「浅岡流殺人空手術」をまだ完全とまではいかないにしても体得しており、全13の奥義のうち1つを扱うことが出来るほどの腕前を持つ。要はそこらにいる高校生など相手にもならないのだ。

 「もう知らん!あんたはあんたで勝手にやれ!」

 完全に浅岡成美の頭には血が上りきっていた。そのまま彼女はのっしのっしと体育館を逃げ出す形で後にし、そこに残されたのはぼろぼろで突っ伏せている宗一と、未だに固まっている一同であった。

 ・・・・・

 ・・・・・

 ・・・・・










同日午後5時30分
私立所縁が丘高等学校 保健室

 「・・・・・う・・・・・ものすごく痛かった・・・」

 「あさ・・・本田君。何も遊びでやる劇なんだからあそこまでやることはないのに・・・」

 あれから宗一は保健室に担架で運・・・・・ぶことが出来ないほどの重量を誇っていたので結局自力でよれよれと保健室に横にならざるを得なくなった。全身傷だらけとなった彼の姿は、まさに幕末に人斬りとして暗躍し、最後に焼き殺されかけた武士そのものだ。

 「でもあさお・・・本田君。ナルちゃんの前でよくもまああんなことを・・・・・」

 「誰だって怒るよね、あれじゃ・・・」

 「では金本、あの時どうすればよかったのだ。」

 「うーん・・・・・それはとうぜんフリをすると言うか、しなければよかったと思うんだけどね」

 「だが白雪姫という話ではあそこでキスをして魔女の魔力とやらを取り除かなければならないとあった。練習とはいえあそこで・・・・・」

 「でも、宗一さん。結構長くやっていましたね」

 雪枝の冷静なツッコミが炸裂する。

 「・・・・・」

 「まさか本田君・・・あの時・・・」

 「いや違う。そのなんというのだ。ついというのか・・・」

 珍しく宗一が狼狽している光景を3人は初めて見た。実はやりたくてやったんじゃないのかという疑念すらも渦巻いて仕方がないだろう。

 「・・・・・ところで、成美は今どうしている?」

 「空手部の練習、ものすごく気が立っているから近寄らないほうがいいよ」

 「でも成美さん、本当に怒ってたね」

 「ええ」

 「案外本当に本田君のことが・・・・・?」





同日午後6時30分
武道館

 「おらあああああああ!!」

 だんっ!ばぎっ!どががががっ!

 いつも以上に怒りに取り巻いている成美は、すでに1時間もサンドバッグに打ち込んでいる。その気迫と殺気は同じ空手部員すらも近寄りがたいものが漂わせ、あたかも触るな危険である。

 「うわぁ・・・今日の先輩はご機嫌ナナメだなぁ・・・」

 「なんかあったのかなぁ」

 「聞くところによると、今日の放課後になんかあったらしいわよ」

 「そういえばいつものあのセミロングの人、いませんねぇ」

 「先輩の彼女の人ですか。そういえばいつもでしたらあそこにいるのに・・・どうしたんでしょう」

 だん!ばしっ!どがっ!どがががががが!

 ばっしゃあああんっ!

 ついにというか、とうとうというか、成美の激しいラッシュの末にサンドバッグは破けてしまった。彼女の足元に砂が流れ落ち、山を作っていく。

 「うわぁ・・・・・」

 「物凄く荒れてますねぇ・・・今日の先輩」

 「こりゃあまた、あの彼氏となんかあったとしか思えないねぇ」

 「うー・・・でもいつも以上に殺気が漂ってるんですけど・・・」

 「よおし今日はこれまで!全員集合!」

 顧問の松田先生の指示に従って、全員集合がかけられた。

 「作者も書き忘れていたが浅岡、日本空手協会から連絡がかかっている。8月の全国大会連続優勝がお偉いさんに認められて、9月20日の間津井杯争奪少年世界空手道選手権大会に出場することになった。」

 「はい・・・・・・って、え!?」

 「他にも浅岡、JOCがお前に興味を持っているそうだ。」

 「お・・・オリンピック!?」

 「そうだ。何でもテコンドーの選手としてJOCが次のオリンピックに向けて浅岡、お前を選手として迎えたいと言ってきている。」

 「あたしがやっているのは空手であってテコンドーじゃないんですけど・・・・・」

 「テコンドーは空手から派生しているのだぞ。ルールもほとんど同じだし大丈夫だ。それはいいとして、とりあえず20日はまだ時間があるから考えてくれ。やりようによっては浅岡、日本代表になれるかもしれないぞ」

 「・・・・・・」




午後7時00分
私立所縁が丘高等学校 武道館シャワー室


 果てさてどうしたものか、成美は困ってしまっていた。

 20日といえば全国大会、20日といえば文化祭。どちらかを選ばないといけなくなってしまった。確か20日の空手部の文化祭の出し物は焼きそばだったはずであって、夏休み中のミーティングで私はその売り子兼デモンストレーションのレンガ割をやる予定であった。なんでレンガ割りやらなきゃいけないんだと思いつつもやることになってしまったのだから仕方がない。

 「・・・・・」

 だがそれ以前に自分自身がそれから隔離されてしまっているのではないか、と成美はシャワー浴びながら思った。確かにオリンピックやら世界選手権とか、ここまで来たのはおじいちゃんのお陰ともいえるし、おじいちゃんは自分の父親が作ったこの空手術を世間に認めたがっているので参加すべきなのだろう。だが・・・・・

 「・・・・・」

 なんとなく自分は、何かにいらだっているような気がしてならなかった。そして活躍していくたびに自分が、世間から何か阻害されて一人になってしまっている。そんな孤独感を覚えてしまっている。そして自分はそれが嫌だと思っているのだ。確かにソーイチのバカに付き合わなければそれでいいが、そもそもあいつらがやってきた理由は何か。

 それは将来滅ぶべくして滅んだ世界、そこで私はレジスタンスを立ち上げるので、それを消滅させようとするロボットどもによるタイムパラドックスを阻止するためにやってきているのだ。つまるところ、今の自分が将来に向けてどうしようが後半年で滅んじゃうのだから何の意味もないのだ。無駄な努力という奴なのだろうか、それが成美の心にわだかまりを作ってしまって仕方がないのである。

 「・・・・・」

 蛇口をひねってシャワーを止め、成美は何も考えたくなくなった。そして壁に向かって正拳を放つ。

 がすっ!

 「・・・・・ちきしょう!」

 ひりひりする手を我慢しながら成美は叫んだ。自分の未来は自分で決められないのか!滅ぶ世界を自分は阻止できないのか!?自分に選択肢はないのか!?まったくもって理不尽ではないのか!?自分が宗一に乱暴する理由は何か。それはあいつが坊弱無人な行動を取り続けるから?いやちがう、実際のところはそんな未来を認めたくない自分の苛立ちによるものだ!あいつがバカな行動をしてしまうのが自分の怒りの発動要因なのか、そう考えると自分は何とばかばかしいのだろう・・・

 「・・・・」



 シャワーを浴び終え、着替えを終えた成美はかばんの中身をチェックしたが、ノートがない。

 「あ・・・・・」

 確か宗一をたこ殴りにしてそのまま荷物をろくに入れないでここに来たものだから、ないはずだ。月曜日までに仕上げなければならない課題があるので、絶対に仕上げなければならないし、他にも貸してもらったCDが置きっぱなしなので、取りに行かなければならない。

 「仕方ない・・・・・取りに行くか」

 そう独り言を言いながらも成美は、誰もいない武道館の扉に鍵をかけ、自分の教室に戻っていった。





同日午後7時02分
私立所縁が丘高等学校 2年B組

 「あーあ、めんどくさ」

 職員室は電気が消えていたので、やむなく用務員室に鍵を預け終えた成美は、ぶつぶつといいながらも教室にたどり着き、戸を開ける。

 だが、こんな時間であるにもかかわらず、人影が確認できた。

 「・・・・・」

 「あれ?」

 館川、里奈だった。ウェーブのかかったロングヘアーがきれいな、150センチ台の小さい女の子。そして宗一が言っていた「テロリスト」だ。

 「りな・・・・ちゃん?」

 「はい」

 彼女は抑揚もなく答えた。物凄く嫌な予感が頭の中をよぎって仕方がない。

 「どうしてこんな時間に?」

 「・・・・・」

 「あー!忘れ物よね!実はあたしもあの時頭がカーッとしてさ、かばんに荷物入れ忘れちゃってさー・・・はっはっは」

 「はい、私も忘れ物です」

 「はっはっは」

 「・・・・・・そう、大切な忘れ物でした。この間没収された拳銃を今さっき取り戻してきたんです」

 「・・・・・」

 「忘れ物を取り戻した私の任務はただひとつ、あなたを殺し、バルラシオンを人類として相続させることです。」

 じゃきっ!

 ハンドガン・・・アームドパワーガンを私に向ける里奈ちゃん。不思議と殺意は感じなかったが、成美の頭の中では危険信号が鳴り響いていた。

 「今まで、ツェータやいろいろな妨害があってできませんでしたが・・・これで全て作戦が成功します。」

 「あ・・・あたし殺してどうするのよ!あたし聞いてるわよ!レジスタンス作って、60歳で死んじゃってそんときあたしに反感持ったやつらがあんたらなんでしょ!あたし殺したらあんたらも消えちゃうのよ!」

 「一人ぐらいは生き残るでしょう」

 がちゃり!

 安全装置を解除し、引き金に手を伸ばしていく。

 「う・・・・」

 やばい、こいつはやばすぎる。目がいっている。今まで何回も銃口を向けられたことはあっても、感情というものは感じることができた。だが、今目の前にいる彼女は、明らかに菩薩のレベルで慈悲とか殺意とか、まったく感じない、ロボットよりもロボットだ。

 「短い間でしたが、ここの生活はそれなりでした。さようなどがぉんっ!

 正確無比な射撃が、里奈の持つパワーガンを打ち砕いた。振り向くと、教室の前扉から宗一が拳銃を構えている。

 「そ・・・・」

 「逃げろ成美!」

 どがぉんっ!

 「あぐっつ!」

 2発目の宗一の射撃は、確実に里奈ちゃんの肩に直撃していた。あいつがいつも使っているのはアームド・パワーガン、人間なんてかすっただけでミンチになる威力を持っているはずだ・・・が。

 「ぐ・・・・・」

 ぷすぷすと、里奈ちゃんの肩から煙が上がっているだけだった。直撃したにもかかわらず、吹っ飛ばされたにもかかわらず、彼女は再び立ち上がって、なんともないような顔をしている。

 「え・・・・!?」

 「6番目・・・邪魔です。」

 じゃきっ!だんだんだんっ!

 虚空から右手に拳銃を取り出した里奈ちゃんは、宗一にめがけて数発発砲、その全てが炸裂した。

 「ぐっ!」

 宗一も自分の腕を盾にして防いだが、同じパワーガン同士、やはり彼も吹き飛ばされてしまった。が、

 だぉん!


 扉の向こうからさらに一撃が放たれ、今度は左腕に直撃する。

 「え・・・・え・・・・!?」

 「・・・成美さん。どうやら6番目を倒さないとあなたを殺せないようです・・・」

 左腕に薄い煙を上げながら里奈は続ける。

 「や・・・やるならやりなさいよ!ソーイチあーみえて結構強いのよ!本郷のおじさんから毎日のように特訓受けて強くなってるんだから!えそれにあんたなんだ!6番目って!?」

 「関係ありません。アプリケーションライダー・・・起動」

 「え?あぷりけーしょんらいだーって、もしかして・・・」

 もしかしてだった。里奈ちゃんの腹部から機械のベルトが飛び出しており、風車が回転を始める。

 「モード・・・・・η(エータ)」

 じゅううううううういいいいいいい!!!

 ベルトから光が放たれていき、里奈ちゃんの体を包んでいく。光は機械の形を作り出し、そしてものごっつい銃を形成していく。

 「え・・・あ・・!?」

 その時何者かによって腕を引っ張られた。宗一だ。

 「ちょ・・・ソーイチ痛いって!」

 「逃げるぞ成美!奴も仮面ライダーだ!」

 「みりゃ分かるって!アプリケーションライダーって言ってたわよ!あんたと同じじゃないの!」

 「・・・・・」

 変身が終わり、目の前に立つのは紫色の戦士だった。宗一のと比べるとどうも小ぶりというか、コンパクトというか、華奢な印象を受けてしまう風貌だった。両手にはなんかしらんけど宗一のよりでっかいライフル銃みたいなものが握られており、あたかもやばさ120%をかもしだしている。

 「う・・・・・」

 じゃきっ!だぉんっ!

 反射的にしゃがんでしまったが、正解だった。弾丸は後ろの壁を一発でふっとばし、壁に穴があいたというより壁そのものが吹き飛ばされてしまっている、というレベルの威力である。

 「うわ・・・・」

 そのまま自分は、宗一に腕を引っ張られて逃げていく。廊下を駆け巡り、あたかも自分は宗一に振り回されるロデオの乗り手のようだ。

 「ソー・・・」

 「まずいな・・・今この学校には二人がいない。」

 「メイリンさんとかいないの!?」

 「そうだ。二人とも帰ってしまった」

 「あんたのバイクは!?」

 「2tもあるバイクが学校に駆け上っていったらめちゃめちゃになるぞ」

 「じゃあ早く学校の外に出ないと・・・!」

 「伏せろっ!」

 パパパパパパ!

 気が付くと、あちこちに電気トラップがあちこちに取り付けられている。多分あいつの仕業なのだろう。逃げ場という逃げ場に全て仕掛けてあるこの周到さは、ある意味今日を狙ったかのような計画性すらも感じさせられる。だが、

 「あ!上の階段にはないよ!」

 「だめだ!上に逃げたら逃げ道が・・・!」

 パパパパパパ!

 だが電気トラップを乗り越えるのは不可能だ。何といっても100万ボルト、自分は乗り越えられないことはないが、成美にとっては一撃だ。取り外すのにも時間がかかるし、そうしている間も奴がやってくるであろう。

 「やむをえないか!」

 宗一は再び成美の腕を引っ張り、屋上へと上がっていった。





同日午後7時12分
私立所縁が丘高等学校 屋上


 あたかもここに誘われたのであろう、宗一は確信していた。

 目の前には逃げ道をふさごうといわんばかりに立ちはだかる館川里奈こと、新型の仮面ライダー。両手にはライフル銃を握っており、臨戦体制ばっちりだ。ここならばライダー隊もうかつやってこれないし、頼りになるリアロエクスレーターも10m垂直ジャンプなどできないのでやってこれない。メイリンやアルフもやってくるのには時間がかかるであろう。

 「・・・・・考えたな、ここならば俺たちの護衛部隊はやってこれないと計算したのか」

 「ええ。でもあなたがいることも計算もしていた。いないほうが最良だったけど、いることも想定していた。最悪のケースは3体同時でかかってくることだったけど、どうもその心配はない」

 「・・・・・」

 「ζ・・・6番目。あなたを倒すことによって私は任務を達成できる」

 6番目、8月にスペクターが言っていた単語と一致する。何を意味するのかは宗一には理解できなかった。が、

 「ち・・・」

 「変身しないと私はあなたを殺す」

 「やむなしということか。アプリケーションライダー起動!モードζ!」

 <イエス。全システムフル稼働。モード戦闘態勢・・・マスターマニュピレーションOK・・・コンテナ開放完了・・・・・>

 宗一の腹部からベルトが飛び出し、光が放たれた。光はライダーの形を作り上げ、宗一を別の姿に作り上げていく。だが、今までの姿と違うことに二人は驚きの色を隠せなかった。

 「え!」

 「ち・・・・・違う!データとは違うタイプの6番目・・・!?」





 それは、青い戦士だった。今までのツェータとは違って無駄のないプロポーションとなっており、腰周りにはロケットのような、何に使うか分からない機械がついている、たくましい男性の体型をしていた。腕や頭のヘルメット?の形は変わっていないが、胴体部の鎧がすっきりとし、足も幾分長くなっている。特に足の部分はまるでつま先で立っているかのように設置面積が少なくなっているものの、ごつごつした今までの姿よりも無駄のないスリムさをその戦士は見せ付けている。手には例のハイリニア・ショットガンを握りながら、夜の空の下に現れている。



 なんというか、成美にとっての第1印象は「成長したζ」もしくは「大人になったζ」である。今までは自分と同じぐらいの身長だったのに対して、今度のは自分より身長が超えているのだ。大人っぽく見えて当然であった。

 <システム展開完了、全マシンアーム、マシンレッグ稼働率95%。OK。仮面ライダーζmkU、起動>

 安全装置が解除され、全ての関節のロックが外されてがくんとする。それまで以上に早い計算が行われ、目の前の敵を見た途端、



【Requiring special attention!】

 「!?」

 突然ζの視界に真っ赤な英文がスクロールしてきたのだ。今までこのようなことは全くなかったので、ζmk2から装備された新機能だとはじめは思ったのだが、その後も英文がどんどんでてきた。










【WARNING!】

A partner a rider suit "reconstruction man reproduction a plan " having been born seven a position meditation reconstruction man "eta" common a matter 98 % more than it is things checking having had  It was checked that it is one body of the trial production reconstruction man of ten bodies born under a "reconstruction human-being reproduction plan" to have moved in 2296.  It is one body of the trial production to which zeta was also born under this plan, and zeta is the rider suit of the type which thought flexibility as most important. "eta" is the 7th reconstruction man made for the purpose of reconciling light motility and high fire power.  As compared with zeta, eta is very excellent in motility and FCS, and its eta is more advantageous in instantaneous power. Random number evasion calculation is also very high, and since the rate of a hit of the shooting here is 32% of presumed optimism prediction, an effective shooting battle is meaningless.




 止まる気配もないままに英文はどんどん進んでいく。宗一は英語もできるので文章の翻訳はどうとでもなるが、この文章内容を見てくると、末恐ろしい気分になってきた。

 「reconstruction man reproduction a plan
 「η」
 「7th reconstruction

 「な・・・・なんだこれは・・・ツェータは、このライダースーツはこれを知っているのか?」

 それにこのライダースーツは相手のことをよく知っているらしい。今までも色々な敵を相手にした中で、自分の勢力のライダースーツである電聖ライダースーツを山林が着込んでいたときもこんな文体は出てこなかった。今目の前にいるライダーも、別に単なる新型でしかないという認識だったのだが、どうやら自分のと似たようなものらしい。

・・・・・ANARYZ OK
 Armaments of an enemy were checked. About the handgun of 12mm caliber penetration cartridge charge, there is object canon in equipment and a knee part, and, as for an enemy, there is a guidance micro missile launcher in two gates and the back.Carrying into a combat at close quarters will become a factor put close to a victory, since proximity battle arms are checked only with the knife.


 敵は重火力と機動性を両立したライダースーツであり、射撃戦ではあれこれと改造したζ並か、それ以上らしい。だが接近戦が不得手らしいので、接近戦に持ち込めば勝機があると、アナライズが分析した・・・と宗一は解釈した。

 「だが・・・」

 ζはショットガンを、構えた。

 「俺のこの目が黒いうちは彼女に指一本手出しはさせん・・・」

 相手、「η」もライフル銃を構える。

 「・・・・・」

 数時がたち、双方は激突した。








同時刻
東京都豊島区うみねこ台 バルラシオン秘密基地アパート前


 一方そのころ、かもめ台の隣にあるうみねこ台という地区ではある動きが起こっていた。

 「・・・ηが行動を始めた。こちらもいくぞ」

 「了解。この街を火の海にすればいいんだよな」

 「そうだ。お前の力を見せてもらうぞ、Θ」

 暗闇から複数の黒い影が現れる。その中央には緑色の、蟷螂か何かを思わせるライダーがたたずんでいた。奇妙な点としてライダーと名乗っているのにバイクがないという点だが、今回それはあまり関係ない。

 「んで、具体的にはどうするんだ?」

 「とにかくレジスタンスの目をこっちにひきつければいい。ここで一暴れして奴らをひきつけて、その間にηがターゲットを始末できればそれで完了だ」

 「そこで俺たちはまず・・・・」

 「・・・・・!」

 路地裏にやってきたOLが彼らを見てしまった。彼女の目の前にいるのは黒い体に青い光をともす、見るからに怪しい人影10数名、そして緑色の怪しい人1名だ。それだけならまだしも彼らは人間の身なりをしておらず、しかも手には斧やら拳銃が握られている。とすれば悲鳴も上げてしまうであろうが、

 だんだんだんっ!

 路地裏とはいえ街中で、サイレンサーもなしにデビルライダーの中にいた緑色の仮面ライダー「Θ」は発砲。OLは瞬く間に急所を撃ち抜かれて動かなくなった。今言ったとおり路地裏とはいえ街中だ、時間帯もあって周囲にはいろいろな年代の男女があちらこちらと歩いているので当然銃声も聞こえているはずだ。なのでライダー「Θ」は遺体となったOLを肩で持ち上げ、表の道に飛び出した。

 じゃりっ・・・

 凍りつく一同。だがΘはそれがつまらなかったらしく、拳銃をパン屋チェーン店「間津井ベーカリー」めがけて発砲。

 だおんっ・・・・・ばごおおおおんっ!!

 おおよそ拳銃とは思えない、どちらかというとロケットランチャー並の威力の弾丸が放たれ、パン屋「間津井ベーカリーうみねこ台支店」は炎上していき、崩落していった。かくしてたいした時間も要らずに辺り一面はパニックに陥るにはたいした時間は要らなかった。拳銃を持った変なのが頭から血を流しているOLを掲げて銃を撃てば、誰がどう見てもやばいのは明白だ。一同はその場から逃げようと暴徒となり、あちらこちらを巻き込んで逃げ出していく。

 「これでいいのかい?」

 「そうだ。これで奴らがやってくる。400人ともなればさぞかし大人数だろうな」

 「んで奴らが来る前にここの人間をもっと追い回して殺す、と」

 「時間となるか、ηがしとめれば、下の下水道を通って逃げるという公算だ。これで完璧だろう?」

 「よおし、それじゃあ・・・・」

 デビルライダーの一人が、さっきの群集に巻き込まれたのだろう、足をひねって動けなくなった小学生ぐらいの女の子の前に立ちはだかる。

 「あ・・・・・あ・・・・」

 「悪く思うなよお嬢ちゃん・・・・・」

 トマホークを、というよりハンマーを振り上げ、涙を流す女の子めがけて振り下ろしたその時――――――





 ぶるおおおおおおおおおおおおおおおっ!

 どがっ!

 「ぐへっあ!」

 いきなり飛びかかってきた無人のスクーターに跳ね飛ばされた。ハンマーはその場で落とし、コンクリートの地面にヒビを入れる。

 「ち・・・・・・なんだ!?」

 仲間の手を借りて立ち上がってみると、そこには仮面ライダーは、いなかった。

 「・・・サガッテイロ」

 「え・・・・・え?」

 女の子を逃がそうとするのは、どこからどう見ても、大根足のパーマ頭のおばちゃんだった。手には大根や長ネギ、肉やら何やらを詰め込んでパンパンになったスーパーのビニール袋と買い物袋のみの、普通のおばちゃんだ。女の子は足を痛めながらも、路地の裏へと逃げていく。

 「・・・・・何だババア・・・死にてえのか」

 「・・・オロカナオトコタチダ。キサマハ8バンメノシッパイサクノヨウダナ」

 おばちゃんは、とてもおばちゃんとは思えない機械音声で喋ってくる。

 「なんだてめえ!死にてえのか!」

 「俺が失敗作だと!?俺は仮面ライダーだぞ!仮面ライダーΘのこの俺が怖くねえのか!」

 「・・・コイツモ”ガキ”カ。アノケイカクハ、ウマレタバカリノニュウヨウジヲタイショウニシタサイセイケイカクダッタガ・・・ヤハリクスリヤッテイルブン、セイチョウニシタガッテ、ジョウチョガワルクナルヨウダナ・・・コレデハシッパイスルトイウモノ。アイツモバカガツクホドニムシンケイナトコロガアルガ・・・アレハマダダイジョウブダロウ」

 「てめえ・・・死ねぇ!」

 デビルライダーがおばちゃんめがけてハンマーを振り下ろそうとしたその時

 ぶろおおおおおおおおおおおおおんっ!

 どが!

 「がひっ!」

 おばちゃんがさっきまで乗っていたスクーターが、また無人で動き出し、デビルライダーを跳ね飛ばしたのだ。

 「ぐ・・・・・」

 みぞおちにヒットしたため、その場でのけぞる。おばちゃんは相変わらず機械音声のまま、喋り続ける。

 「Θ(しーた)・・・8バンメニツクラレタカイゾウニンゲン。コンセプトハセッキンセンニトッカシタ、ミカイチタイノリクセンヨウノカメンライダー・・・アノジコデスベテカイジンニキシタトオモッタガ、ドウヤラマサキノサクボウハセイコウシタヨウダ。コウヤッテバルラシオンドモハ、コムスメヒトリヲマッサツスルタメニ、トラノコノカイゾウニンゲンヲオシミナクダシタノダカラナ・・・」

 「て・・・てめえ・・・」

 「バイク・・・セントウモードニイコウシロ」

 <イエス。戦闘モード移行>

 「アプリケーションライダーキドウ・・・・・モードκ(カッパ)!」

 <イエス、アプリケーションライダー、バトルシステムオープン。4次元コンテナ開放。義手義足戦闘態勢に移行・・・>

 突然おばちゃんの大根足は、まるでロボットの変形のごとくに縦に二つに割れ、それまでの身長の1.5倍ほどに跳ね上がった。腕もまた同様で太い腕が細く長くなり、太い腹も縦に引き伸ばしたかのように長くなったが、そのプロポーションは成人男性かあるいは女性そのものだ。顔も長くなり、頭のパーマも腰にまで届く超ロングヘアーに大変貌、素顔こそ見えなかったが、その顔は美貌の女を連想してしまうほど、美しい顔つきだった。

 その後腹部から光が走り、「スペクター」を包み込み、一瞬にして光は彼をまがまがしい戦士に変貌せしめた。黒く、足や腕の四肢は奇妙に長く、そして身軽な姿。手には長いレーザーソードを持ち、下手すれば仮面ライダーというより宇宙刑事のほうだ。しかし華奢に見えて妙に力がありそうな雰囲気を見せつけ、あたかもそれは「忍者」を連想させる姿だった。

 <変身完了。仮面ライダーκ、起動>

 「モード、ライダー抹殺モードに移行」

 それまでの機械音声とはうってかわって、女性の声だった。κ(カッパ)は剣を構え、苦しさでいまだにうずくまっているデビルライダーに向かって突進する。

 ざごんっ!ざござござごんっ!

 一瞬。そう評したほうが適切と言わんばかりに、数人のデビルライダーは、切り捨てられてしまった。ご丁寧にどれもこれも首をはねられており、どれも即死だ。

 「ち・・・・ちくしょう!」

 われを失ったデビルライダーが、黒い仮面ライダー”κ”めがけてハンマーを振り下ろそうとするが、

 ぶぅんっ!

 κは虚空へと消えてしまった。センサーも、何も反応しない、文字通りこの世から消えてしまったのだ。

 「な・・・・・!?」

 センサーも反応しないような、目の前で人が消えるなどというありえない事態に困惑しているデビルライダー達だったが、その直後

 ざござござござござござごん!!

 何もない空間から緑色の刃が飛び出し、次々と首が狩られていく。

 「な・・・・!?」

 「苦しまずに死なせてやるだけ、ありがたいと思え」

 虚空から声がした次の瞬間、

 ざござござござござござごん!!

 「今日の私は確実性を重視している・・・」 

 ざござござござござござごん!!

 デビルライダー10数名は、あっけなく全滅した。実に48秒の出来事である。

 「ゆえに雑魚は早々に立ち去ってもらった・・・Θ」

 その直後、Θ(シータ)の視界がゆがみはじめ、黒い仮面ライダー”κ”が虚空から姿を現した。右手にはレーザーブレードを携え、Θに歩み寄ってくる。

 「てめえええ・・・・・・」

 「浅岡成美を抹殺しようにも400人のライダーが相手では勝ち目がない、ゆえに確実性を重視するために腕利きの暗殺者をあの学校に送り込み、そして機が熟したらお前たちが陽動して護衛のライダーたちを引き付ける・・・考えた計画だが、私の情報網を使えば所詮その程度だ・・・」

 「お前・・・レジスタンスの手先か!?」

 「お前たちの存在を知らぬ第3勢力が存在するか?しないだろう」

 「なら、殺す!」

 だぉんだぉんだぉんっ!

 「ばかめ」

 ぎゅおんぎゅおんぎゅおんっ!

 Θ(シータ)の弾丸は、あっさりとκ(カッパ)の剣によって切り落とされた。

 「Θは密着戦闘に特化した改造人間なのに・・・それが銃を使うだと?」

 「な・・・んだと?」

 「所詮バルラシオンなど、真崎が相手ではその程度でしかないか。ライダーの特性すらも見抜けぬようで改造人間を使おうとは・・・ばかげている。少しイラついた、苦しませてやる」

 びゅおうっ!ざごんっ!

 κがΘを通り過ぎた直後、Θの右足が切断され、その場に転がった。赤い血が噴水のごとくにしぶきを上げる。

 「ぐあああああああああああ!!」

 「斬られた直後に麻酔がかかるはずだから痛みは一瞬のはずなのだが・・・まあそれはいいか。なぶり殺しは私の趣味だが今日は時間がない。どうせ死ぬなら有意義に死ね。私が有意義に死なせてやる」

 κは手ぶらの左手をΘに向け、糸のような光を解き放った。

 ひゅんひゅんひゅるるるるんっ!びしいいいいんっ!

 「!?」

 <システム、戦闘モード再稼動。>

 「な・・・・・体が・・・・勝手に・・・・!」

 途端にΘは残された左足のみ立ち上がった、否、立たされたのだT。普通だったら300kgもあるΘは片足だけでは立てないはずなのだが、左足首のモータが強烈に回転を起こし、Θの自重を一気に持ち上げる。

 ばきんっ!

 <左足首の全てのモーター、過重により損傷しました>

 「あぐ・・・・・てめえ・・・何しやがった!?」

 「貴様の四肢をのっとっただけだ。このκはお前ら全てのデータや、過去の戦争全ての敵のデータ全てが入っている。調べさせてもらうぞ・・・」

 じゅうういいいいいいいいいいんっ・・・・・

 ハードディスクの壊れた音を立てながら、Θが振動する。

 <システムコネクト、κにデータコンバートを開始します>

 「や、やめろ!」

 「貴様らにコンバートしたデータを頂き、解析させてもらう・・・・・」

 じゅうううういいいいいん・・・・・・

 じゅうううういいいいいん・・・・・・

 じゅうううういいいいいん・・・・・・

 <転送率54・・・55・・・・56・・・・>

 「やめやがれえええええええ!!!」

 渾身の力を込めてΘが隠し内臓のニードルガンのハッチを空けた。が、

 ぼしゅううんっ!

 「ぐあっ!」

 ニードルガンが暴発を起こし、Θに強烈な衝撃を与える。

 「黙れといったはずだ・・・貴様の制御中枢は全て私が握っている・・・・・」

 <97・・・・98・・・99・・・・・・・・・ファイル整理完了。データコンバート完了>

 糸を通じて光が弱くなり、Θはデータを全て奪われてしまった。このデータは彼らが彼らたるに必要なものであり、今後の研究が頓挫してしまう。

 「く・・・・・・!」

 「くくくくく・・・・・弱いな・・・」

 「なんだと!?」

 「それでも8番目のデータを元にした仮面ライダーなのか・・・8番目は6番目より完成度が低かったが、それでも3番目に出来がよかった・・・・・所詮バルラシオンはバルラシオンということか・・・」

 「手前ら人間もどきが何言ってやがる!俺たちバルラシオンこそ人類の覇者たる選ばれし存在だ!お前ら旧人類のやることなど・・・・」

 ずしゃんっ!ずしゃずしゃ!

 ・・・・・からんっ

 一瞬にしてΘの両腕と左足が切断され、胴体と頭部だけとなった。相変わらず赤い血が噴水のごとくにしぶきを上げながら悲鳴が上がる。

 「ぐあああああああ!」

 「貴様らの目指す社会など、弱者を死に至らしめる社会でしかない・・・・・今のお前のようにな・・・・・」

 「弱肉強食こそが人間だ!」

 「野蛮人め・・・・・ならば面白い死に方をさせてやる」

 じゅわああああ!!

 Θとκをつなぐ糸が途端に赤く輝いた。

 「な・・・・・なにを!?」

 <アラート、ジェネレータ過重圧迫。4次元コンテナが暴走します。直ちにジェネレータを停止させてください。繰り返します、ジェネレータ過重圧迫・・・>

 「貴様の体内の4次元コンテナを暴走させ、質量暴走でお前を押しつぶした後に原子核暴走で核融合させてやる」

 <アラート、コンテナ暴走、臨界まであと30秒・・・直ちに切り離してください。アラート・・・・・>

 「!・・・・・」

 「放射性物質は出ないはずだったな・・・後30秒で逃げないとお前の身体は文字通り、消し去る・・・」

 <アラート・・・後20秒・・・>

 「局所爆発だから周辺に被害はない・・・まあガスタンク車をここにやってカモフラージュさせてもらおう・・・・・」

 そう言いながらκはさっき切り落としたΘの四肢を拾い、それを自分のコンテナの中に入れていく。

 <アラート、10秒・・・9・・・8・・・>

 「一瞬で死ぬ。ではな」

 κは強烈なジャンプ力を発揮してその場から逃げていく。その場に残されたのは死骸となったデビルライダー10数名と、動くこともできなくなったΘだけのみだ。今、質量暴走という恐怖を、彼は味わっていた。彼を恐怖足らしめる音声は死へのカウントを読み上げていく。

 <5・・・・4・・・・3・・・・2・・・>

 「や・・・・やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」










午後7時35分
私立所縁が丘高等学校 屋上






 どんどんどん!

 がぉんがぉんがぉん!

 どがぉんどがぉんどがぉん!

 ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ!

 ・・・・・・

 えー、皆さん、どっちがどっちか分かりますか。私は分かっちゃうんです。擬音ばかりで誰が撃っているかわからないかもしれませんが、もう聞きなれちゃった私にとっては異常だと承知で分かっちゃいます。たとえば

 どがぉんどがぉんどがぉん!

 こっちがソーイチの銃声で、

 どがぉんどがぉんどがぉん!

 こっちが理奈ちゃんのほうの銃声です。え?わからない?じゃあもう一度・・・

 ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ!

 こっちが理奈ちゃんで、

 ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ!

 こっちがソーイチ。一見見るとただの擬音のように見えますが、私にはこの微妙な違いが・・・ってなんで分かっちゃうんだろう。やっぱり銃声を聞きなれてくると聞き分ける耳が出来てしまうのだろうか、そう考えると戦争やっている人ってゲームの銃声の効果音とは心底どういう感覚で受け止めているのだろうか、とか考えたくなってしまう。

 どがぉんどがぉんどがぉん!

 こういう風にけっこう生々しいというか、面白みがないのが本物の銃声だ。アニメやゲームで使われる効果音はどうも誇張がひどすぎる感覚を受けてしまう。まあ比較する対象が24世紀の銃なので参考にはならないかもしれないけど、ともかくも・・・・・

 ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ!

 銃弾と銃弾の応酬は一向に収まらない。宗一の場合は腹の中に銃弾を収める4次元コンテナとやらがあるらしいが、交戦が始まってすでに30分あまり、湯水のように銃弾を撃ちまくっている今の状況ならば、普通だったら相手の弾がきれるものである。だがこうやって銃声が一向に収まらないということは、どうやら相手も宗一と似たようなカラクリをもっているのかもしれない。

 普通だったらこんな馬鹿みたいに暴れていれば人がやってくるかもしれない。だが今ここは学校、しかも文化祭準備とあってあれこれと苦労して残っているのは私だけだ。まあ明日からは何とかなるやも知れないが、先生達もどうやら先に帰ってしまったらしく、宗一の相棒たるメイリンさんとアルフさんは来る気配もない。

 それを考えると今回の襲撃ってよく考えているな、と成美は思った。街を一人歩いていてもロボットやバケモノは一切現れなくなった。これは400人のライダーが裏であれこれと苦労して敵の居所を突き止めたり、そこを攻撃したり、あたしを尾行しているロボットの背後を襲ったりしているからで、要はこういった見えざる努力がロボット達に手出しさせないでいるのだ。

 しかしそんな監視がないのは学校だ。学校にいるのはソーイチとメイリンさんとアルフさんの3名だけ、頼りになるバイクもやってこれないのでいくら腕利きでもこれでは手薄すぎる。だから相手は学校の生徒に成りすました暗殺者とやらを送り込んであたしを暗殺しにやってきたわけだ。

 でも・・・



 「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

 <アラート、弾薬残り40%>

 「わかっている!」

 空になったショットガンに新たな弾薬を入れながら、物陰に隠れているζmkU。相手の銃の腕前や技量は完全に互角だ。ゆえにいくらここで銃を撃っても決着が全くつかない。だが・・・

 ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ!

 恐らく相手も同じようなことを考えているだろう。ゆえにここは銃弾が尽きた方が優勢となる。あれだけばかすか撃っていればさすがに向こうだってうかつに撃てないはずだ。

 じゃきんっ!

 腰のナイフ・・・否、グレネードダガーを取り出し、相手に投げつけた。

 ひゅんっ!ざくっ!

 どがあんっ!

 グレネードダガーは相手の目の前の地面に突き刺さっただけだったが、これは一種のだましだ。続いて2本投げつける。

 ざくっざくっ!

 どがどがあん!

 「・・・・・」

 ひゅんっ!

 どがぁん!

 やはり相手も同じようだ。こっちも銃弾がないように見せかけて一網打尽にする策らしい。相手もこっちも同じことを考えている以上、これで双方共に動けなくなったが、こうなればこちらが有利だ。こうやっている間もメイリンやアルフ、他の仲間が来てくれるし、さっきから発信信号を出しているので向こうにも知れ渡っているし、そうなれば単純な数の勝負でこちらが勝てるは・・・・・。

 どくんっ!

 「!?」

 急に胸が締め付けられるような思いがした。

 どくんっ!どくんっ!

 「な・・・・・!?」


【MODE CHANGE】
A main system and an enemy are gone into the fighter state which went wrong in order to drive out one body of a "reconstruction human-being reproduction plan."

 がきんっ!がぎがきんっ!

 次々と武装が外されていき、mkUに搭載されている火器は全て外されてしまう。

 「な・・・・!?」

 6月のときと同じだ。あの時も似たように武器を勝手に外されたが、今回もまた同じことが起こっている。

 4-dimensional container full closing. It succeeds in system shift... It succeeds in control of a battle system... An enemy is destroyed from this!

 ぎゅいいいいいん・・・・・!

 腹部を中心に体中がとたんに熱くなってくる。背中や脛の裏のブースターが勝手に動き、制御できなくなる。

 「!?」

 デュアルセンサーの視界が緑色に変色し、まるで操り人形になったかのように宗一の全神経はきかなくなった。

 びゅおうっ!

 ブースターの助けを借りてバリケードから急激に跳躍し、mkUはηに向かって飛びかかった。

 「!」

 がすっ!

 着地と同時にそのまま相手にパンチを食らわせ、続いてフックとアッパーを勝手に行う。

 どがっ!がすっ!

 「がはっ!」

 相手の悲鳴も聞かないかのごとく、暴走ζはナイフを取り出し、ηの左肩付け根に狙いを定めて刺突をかます。

 ざごっ!

 腕を切断するはずだったが、相手のほうが一瞬早く避け、ηは2の腕から下を切られただけにしか過ぎなかった。切断せしめなかったのが幸運だったかもしれないが、これで左手が使えなくなってしまった。

 ざぐんっ!

 続いて逃げる隙を与えずにもう片方の手でグレネードダガーをηに突き刺し、ひねる。

 がちんっ、どがああああああんっ!

 「うああああ!」

 密着距離で爆発をもろに食らい、ηは吹き飛ばされた。グレネードダガーは柄の部分をひねると信管の安全装置が外されるのだが、ナイフの刀身そのものがピンの働きをするので、何らかの形でナイフの刀身に衝撃を与えると信管が作動し、爆発するようになっている。

 要は投げナイフに手投げ弾の要素を加えただけのものだが、さすがに至近距離で爆発するとなればそのダメージは尋常ではない。ηの装甲は焼け焦げ、間接部から赤い血が流れている。先ほどの爆発の影響でどうやら鼓膜や平衡感覚をやられたらしく、立ち上がろうにもすぐに転んでしまう有様だ。

 【Urgent warning! A system uses a SUPURASSHA kick from this to eta.】

 左足が極端に熱くなっていく。一撃必殺の威力をもつスプラッシャーキックが打ち出されようとしているのだ。確かにこれならば目の前にいる敵を倒せるだろう。

 【Target lock. 30 seconds before discharge】

 発射30秒前、あと30秒で奴は灰になる。それですべてが終わりだ、いつもやってきたことだ。これまで自分は自分より年上の相手も年下の相手も、この手で殺めた。テロリストは生かしてはならない。相手の狙いがレジスタンスの祖たる浅岡成美だったらなおさらだ。今ここで奴を殺めなければ人類は本当に滅ぶのだ。だからやる。





 <俺の技は危険すぎる>

 だからどうだというのだ。

 <それで恥ずかしくないのか。戦士としての誇りはないのか>

 人を守れずして何が仮面ライダーだ。今奴をやらなければ人類は滅ぶのだ。

 <たとえその人間が操られてでもか>

 操られようがそうでなかろうがやっているという事実は変わらない。

 <自分自身もそうなのに?>

 俺が操られている?

 <浅岡真崎に刷り込まれたその思考そのものがそうじゃないか>

 ・・・・・

 <今目の前にいるのもお前と同じだ、浅岡宗一。>

 ・・・・・

 <お前はそのキックで彼女をやろうとしている>

 ・・・・・

 <仮面ライダーは人を救うのではないのか?>

 5億の人類と1人のテロリストの天秤にかけろというのか?

 <どちらも救え、それが仮面ライダーだったと、お前は本郷のおじさんに教わらなかったのか?>

 ・・・・

 <正直になれ。お前は目の前にいる女を好きになったのだ>

 !

 <ゆえにお前はスプラッシャーキックを放つことに困惑しているのだ>

 だまれ!

 <あの女の境遇を自分と重ね合わせてしまったのが原因かもしれない。だがそれは恥ずべきことではないだろう>

 だまれだまれだまれ!

 <お前は誰の味方だ。自分を戦闘マシーンに仕立て上げた浅岡真崎か?それとも・・・?>

 俺は・・・俺は・・・!

 <お前はここの生活を捨てたくないのだろう。目の前の女も殺したくないのだろう。ならばお前はいま自分を操っているそのシステムを捨て去るのだ。さもなければお前は今後一生戦闘マシーンとして生涯を終えてしまうかもしれないのだ。自分に正直に生きて何が悪いのか、今までお前は自分の気持ちに裏切って生きてきたではないか。それが社会に害を与えることならまだしも、自分自身をだまして、自身に正直になることの何が悪いか。>










 宗一はそれを否定した。

 「う・・・・・・うおおおおおおおおおおおおおおお!

 突如とどろく宗一を、物陰から見ていた成美は不気味に感じた。何というか、いつもの宗一らしくないのだ。

 「システム解除!スプラッシャーキック中止だ!」

 【It is not refused and stopped.】

 しかしシステムは止まらない。否、止められない。自分の中にある得体の知れないシステムが目の前のηをしとめようと自分をあやつっているのだ。さっき自分の中でささやいたのは何だったのだろうか。だが今はそれに対して疑問を持つ暇はない。

 じゃきんっ!

 ζはおもむろにナイフを取り出し、

 がぎんっ!

 ひざから下の自分の左足を切り落としてしまい、

 びゅおうっ!じゃきっ!だんだんだんっ!

 上空へ投げ飛ばしてアームド・パワーガンで撃ちまくった。

 どがあああああああああああああんっ!

 行き場を失ったエネルギーはその場で暴走を起こし、左足を消し去るほどの大爆発を引き起こした。真下の地上に猛烈な衝撃波が降り注ぐ。

 「ぐ!」

 右足一本のみとなったζmkUはその場で思い切り転んだが、器用に立ち上がり、体制を整えなおす。同時に平衡感覚を取り戻したηも立ち上がったが、いまだにダメージは残ったままだ。

 「なぜ・・・・・止めを刺さない!」

 ηは当然の疑問を問うたが、ζmkUはこう答えた。

 「俺は・・・俺は・・・まだ仮面ライダーではない!」

 「?」

 「俺はこれまでに多くの人間を殺してきたから名乗る資格はない!だが・・・いつかなってみせる、だから俺はお前を殺さない!」

 じゃきっ!だんだんだんっ!

 突撃銃でηはζmkUめがけて発砲した。が、その場は虚空だった。

 <アラート!上空に反応!>

 「!」

 上を見上げると、さっきの攻撃をかわしたζmkUが残された右足を構え、落下してきた。それを避けようとしたηだったが、

 「ぐあっ!」

 先ほどの爆発のダメージが彼女の思った以上に大きかったのだろう。激烈な頭痛が襲いかかってバランスを崩してしまう。それを狙ったかのごとくにζmkUは背中のブースターを噴射させ、ηめがけて急降下し―――――

 「ツェータ・・・・キイイイイイイイイイック!」





 彼女は蹴り飛ばされた。ζmkUの質量は、ζの350kgより100kg増えた450kg。しかもブースターで加速したその運動エネルギーは半端ではなく、300kgにも満たないηを軽々と蹴り飛ばしたのである。

 「うぐ・・・・・あ・・・・」

 ばぎんっ!

 屋上のネットが破れ、ηは屋上から投げ飛ばされた。ライダースーツは5階建ての建物の高さから落ちても衝撃吸収素材で守られるだろうし、何より彼女は自分と同じ、改造人間だ。死ぬようなことはないだろう。そう考えるとζmk2はその場でへしゃり、尻餅をついた。





 「・・・・・」

 「ちょ・・・・・ソーイチ?」

 戦いが終わったので成美近づいてきた。

 「終わったぞ、成美」

 「そりゃあわかるけどさ、あんた・・・なんであの子を、里奈ちゃんを殺そうとしなかったの?」

 「・・・」

 「今までのあんただったら、あのものすんごくやばいキックで、6月のあの時みたいに砂にしちゃったんじゃないの?途中まであたしはそう思っていたし、さすがにまずいんじゃないかとか思っちゃったりしたんだけど・・・どうして?」

 宗一は正直に答えた。

 「俺は、彼女に恋をしてしまったからだ、たぶん」
























西暦2312年8月15日
ヨーロッパ地区 旧フランス都市要塞 区画「B」 オスカー公爵家邸宅




 「・・・・・」

 「・・・・・」

 既に睨み合いは30分以上経っていた。が、その場にいた真崎の秘書は3時間経っているかのような錯覚を受けていた。

 「・・・」

 「・・・」

 テロ組織バルラシオンによって武装占拠されていた仙台都市要塞が、トーマス大将率いる討伐部隊によって解放されたため、護衛という名の監禁生活から真崎はその身をやっと解放されたのだ。ゆえに彼は本来の政務に戻ることができ、今に至る。

 初めてここから読み始めた人にとっては真崎がバルラシオンに拉致監禁されていたものだと思われるかもしれないが、実際はそうではなく、次なるテロで暗殺されることを恐れた真崎直属の親衛隊「シヴァの使徒達」によって、外界から隔離されていたのだ。食べるものに毒があるかも知れないからと言って江戸時代の殿様のように冷や飯を食わされるほどで、それはまさに神経質のレベルであった。そのあまりの待遇の悪さに時としてぶちきれたり、時として部屋から抜け出して偶然だがミューラーと出会ったり、そこで同行していたトーマス大将に討伐させたりと、まあ色々あってようやく彼はこうやって公の場に出られるようになったのだ。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 で、彼が相手しているのは、レジスタンスの財政の2割を手中に収めている、世界有数の財閥オスカー公爵家の当主たるキングスレイ=フォン=オスカー。現在21世紀にいるアルフレット=フォン=オスカーは彼の分家に当たり、ライバルのイルステッド公爵家に対抗して無理やりライダーにされた経緯を持つが、今回はそれは関係ない。キングスレイ氏はチビでハゲ頭だが歳は43歳と意外に若い、がその手腕は本物で、過去危険な橋を潜り抜けた度量は107回テロに襲われた真崎に勝るとも劣らない。が、

 「・・・・」

 「・・・・」

 相手にしている理由は至極簡単、真崎はオスカー公爵家に対して5000兆クレジット(日本円換算:50兆円)の歳出補償を要求してきたのだ。この額はオスカー公爵家が世界中に保有している全財産の10%に相当し、今までは50兆クレジット(日本円換算:5000億円)で済んだ中でいきなり100倍に引き上げるというその事態に、ひっくり返ったのだ。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 根拠が無いわけではない。戦後に行われるライダー部隊の軍縮政策に基づいて退役するライダーに払う保証金や、軍隊の再編成にかかる費用、各地域の都市要塞の復旧、生産事業の拡大や、将来移住する月や火星で建設している都市の費用、内閣改造、インフラ整備の更なる強化、医療福祉制度の更なる充実化、金融政策の充実化、そのほか色々たくさんと、戦後体制を構築するのには本当は50兆円でもたりないのだ。

 レジスタンスの歳入は年間800京クレジット(日本円換算:8京円)だが、それは戦中体制で兵器生産や軍隊維持のために必要だったからだ。戦後になれば当然この莫大な歳入はやめなければならないので、どうしても歳入が減って歳出が増えてしまう。もし今の戦中体制を戦後も続ければ、過去の人類と同じく、不満を持った人民がテロリストとなったり、独立国家を建てたりして次の戦乱の火種を作ってしまいかねないからやめなければならない、否、やめざるを得ないのだ。そこに頭を悩ませた真崎はこうしてオスカー公爵家に「戦後体制つくるからもっと金出して誠意を見せろ!」と言い寄ってきたのである。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 もちろんこれにはオスカー公爵家は反対した。ていうか1割も財産をしょっぴ引かれるというその事態を防ぐために反対せざるを得なかった。もし5000兆も取られれば、各地の企業は国有化され、リストラやら収入激減、社員がストライキを起こしたりと厄介な事態が目に見えているのだ。だからそれだけのことをいっぺんにやろうとする真崎のやり方に、オスカー公爵家は難色を示したのだ。段階的にやれば支出はもっと抑えられるのは真崎にも分かるが、それは来年度予算案だけの話で、戦後最初の年に向けて世界中の人類に復興をアピールするためである。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 なので真崎は「再来年度予算案は従来どおり50兆でいい」と条件を出したが、さすがにいきなり5000兆と言われては・・・・・と、こうして無言の睨み合いが続いているわけである。方やレジスタンスのトップ、方やヨーロッパ最大でかつ、世界有数の大財閥のトップ。二人の超大物は更に20分ほど睨み合いを続け・・・・・

 「・・・・・」

 「・・・・」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「・・・・・ばたっ」

 合計50分に及ぶ、文字通りの睨み合いの末に真崎の秘書が酸欠で倒れてしまった。原因は二人の意地の張り合いで精神的に疲れ果ててしまったからであるが、この張り詰めた空気の中で並の人間ならば5分足らずで逃げ出したくなるような状況だ、50分も耐えれば上出来だろう、と真崎は無言無表情で思った。

 一方のキングスレイ氏も、まだあと2時間はやれるはずだったが、完全な平行線である以上、どちらかが折れない限り決着は永遠につかないのは子供でも分かる状況に達していた。だが・・・

 「・・・・・」

 秘書が倒れたというのにそれをまったく保護するようなことを、真崎は全くしようとしない。無視、または完全なる放置プレイ、掲示板荒らし対策の定番中の定番だ。周囲の護衛や側近も、そのいささか過ぎる空気に圧倒され、誰一人動けなくなっている。まるで大仏か、または達磨のごとく真崎は椅子に座ったまま、視線一つ彼女に与えようとせず、ただじっとこちらを見つめているだけである。

 「・・・・・ばたっ」

 今度はキングスレイ氏の秘書が倒れた。

 「ばたっ」

 続いて数名の護衛が倒れてしまい、もはや状況は会議というより我慢大会の次元になってきた。このままどちらかが引かない限り、その空気に圧倒されて倒れるものが続出するのは火を見るより明らかだ。だが真崎は絶対引かないぞ、と言わんばかりの威圧感をこちらに叩き続けている。だがこちらは次々と部下や側近が倒れ続け、さすがに限界となってきた。

 「・・・」

 「・・・・・わ、わかった。5000兆クレジットを何とか捻出することを確約する」

 ついにキングスレイ氏は折れてしまった。真崎の粘り勝ちだ。その言葉を聴いた真崎は表情を一転させ、

 「オスカー公爵家の恩義に感謝する。公爵家は再来年の予算と、税金の1年間の完全免除を確約しましょう」

 「・・・でもなければやっていけません。どうぞ」

 キングスレイ氏直筆のサインを確認した真崎は、その資料をフォルダに入れ、席を立った。

 「・・・」

 「では私はこれよりエジプト都市要塞に出立しなければなりませんので、これで失礼させていただきます。」

 エジプトにはオスカー公爵家に次ぐ財閥、ケンブリッジ財閥の本社がある。この時の真崎の外遊理由は「エジプト都市要塞の視察及び市民に対する演説、およびエジプト地域のインフラ整備に関する会議」であるが、実際はケンブリッジ財閥から来年度予算を絞り取るために行くだけだ。世界有数の財閥が5000兆出したから、お前もそのぐらい出して誠意を見せろ、という脅しで他の財閥から金をせしめ取るのだ、この男は・・・・・

 「真崎殿」

 退室しようとする真崎をキングスレイ氏が呼び止めた。

 「なんでしょう」

 「金は人を動かせますが、なぜかおわかりですか。それは金はあらゆるを覆す魔力だからです。」

 「・・・・・」

 「古代から人類は金に惑わされて戦を起こしたことはいくらでもあります。今回は我々は我慢しますが、次にこのようなことがあれば我々とて黙っておりませんぞ」

 「それは違いますキングスレイ公爵殿」

 「!?」

 真崎は否定した。

 「公爵殿がおっしゃることは分かりますが、私が思うに金とは、人間の欲望原理そのものを具現化したものです。いえ、人間だけでなく生物そのものの行動原理をそのまま形にしたものであって、決して魔力的な意味合いは持っていないでしょう。仮に公爵殿のおっしゃることが完璧ならば、2005年3月に核が落ちたとき、その金は何をしてくれたのでしょうか。」

 「・・・・・」

 「人間の欲望は生きること、それに集約されます。確かに金に目がくらんで人は裏切ったりしますが、それはあくまでもその金に価値があっての話です。人間は本当の生命の危機に陥ったとき、必要とするのは明日を生きるために必要なもの、すなわち食料と水です。そういう状況下で硬貨などただのオハジキ遊びするしか価値がありませんが・・・」

 「あなたはそれ以外で金を見出せるというのですかな」

 「ええ、私ならば硬貨を火で溶かして刃物に加工します。紙幣ならばそれを元に色々と工夫して道具として使うでしょう。かの浅岡成美も2020年に生き残った際はそれを駆使して人間の生存競争に打ち勝ったといわれますし、結局は人間そのものの問題です。」

 「・・・・・」

 「もともと金とは物々交換を公正化するために生まれたものです・・・が、人間はそれを制御し切れていません。それは人間それ自体は技術や原理ばかり発達させて肝心の精神性は未だに発達していないからであって、精神性が発達しているのであれば我々はこんな苦労はしていないでしょうし、機械帝国ネオプラントやテロ組織バルラシオンは生まれていませんし、地球もこんな崩壊していませんよ。そんな不完全な存在たる我々は、金の魔力に狂わされているのではなく、人間が金に魔力を持たせて同じ人間を狂わせているだけにしか過ぎません。」

 「あなたはネオプラントの機械どもと我々が同じようなものだといいたいのですかな」

 「そうなりますし、否定はできません。ただし、不完全がゆえに可能性があるということをお忘れないように考えていただきたいだけです。SFでで宇宙人が人間を小ばかにするような発言を行っていますが、彼らは我々と違って成熟しているからです。彼らから見れば我々など子供に過ぎませんが、子供ゆえに将来があるということですよ」

 「ユニークな考えですが、犯罪者も偉人も子供の時点では不確定ですからな。前者になったらどうしますか」

 「ならないようにがんばっているではないですか。過去の歴史に学ぶことで我々は同じ失敗を繰り返さないことができますが、今までの人類はそれができなかった。なぜなら歴史を一辺倒な見方しかできない人間が取り返しの付かない事態を引き起こしているからです。だから私は教育制度に歴史授業を重視しているのですよ。」

 「人は一人では生きていけない、ですか」

 「そうです。生きるために人は群がらなければならない。ですが考えや能力の違う人間が5億集まれば混乱や迷いが起こるでしょう。ゆえに我々は過去の失敗というバイブルを用いて、過ちを繰り返さないようにしています。あいにくこの時代には過ちを修正してくれる仮面ライダーはいません。」

 「・・・・・」

 「もっとも、仮面ライダーがいたとしても、2005年3月の時点で我々を見限っているでしょうが・・・こうして生きている以上、我々は死ぬために生きるのではなく、生きるために死ななければならないのです。止まっても何も起こらないのならば自分で何とかするしかない、浅岡成美の言葉にもそうあるでしょう」

 「・・・あなたは生きるために死ぬのですかな?」

 「どうでしょう。ただ私の人生目標は、全てに決着をつけたら後は楽しく生きる、これだけです。それでは公爵、失礼します」

 意味の不可解な言葉を残して、真崎は退出した。





同日午後5時00分
エジプト都市要塞


 「エジプト都市要塞にいる皆様、その地域にいる人類の皆様、浅岡真崎です。本日はこの都市に極秘で来訪したのですが、皆様方に伝えたいことがあったために無理を承知でこのような形でお伝えすることになりました。」

 あの後真崎は高速ヘリでちゃっちゃとフランスからエジプトに飛んで、ちゃっかりケンブリッジ財閥から来年度予算の3000兆クレジットをせしめることに成功した。その帰りというかついでに真崎は、都市要塞の放送局の報道番組に飛び入りで参加し、こうやって演説を始めたのである。

 「それは戦争がもうすぐ終わるということです。いえ、決して過去の政治家が支持率確保や政権維持のために説いた嘘や詭弁の類ではなく、戦乱が終わりつつあることが現実味を帯びてきた、完全なる事実から私は話しています。モスクワ都市要塞が1月に陥落し、ネオプラントの首都である「ネオエデン」への攻略ルートが確立されました。今も仮面ライダー達がロボットの大軍や砲火を相手に必死で戦っており、このペースで行けば11月中にはネオプラント首都への攻撃ができるのです。」

 アナウンサー顔負けの、まったく舌をからませない流暢な口調で真崎は話し続ける。このニュースはエジプト都市要塞だけではなく隣接している都市要塞や普通の都市にも放映されており、その放送が流れた瞬間、チャンネルが一気に集中した。

 「プロデューサー!視聴率60パーオーバーしました!まだまだ上がっています!」

 他のチャンネルもニュースやドラマをやっている中で、エジプト都市要塞の民営放送「ETS」は他局と比べて視聴率が低迷の一途をたどっていたが、ここに来て人類5億を統率する浅岡真崎がいきなりテレビ出演して演説を行っているというその大企画、そこらのスキャンダルやメロドラマを完全に屈服させてしまうのは容易であった。

 「視聴率70パーオーバー!電話がジャンジャンかかってきています!」

 「インターネットの感想投稿フォームがサーバーダウンを起こしました!」

 「本局のBBSの書き込みが1分で300回も書かれています!このままだとサーバーダウンしてしまいます!」

 うれしい部類の悲鳴が次々に報告されていくが、真崎の演説はまだ終わらない。

 「我々人類は300年に及ぶ長い戦乱を送ってきましたが、今年にはそれの決着がつけることができます。既に機械帝国ネオプラントが残す要塞はあと3つ、我々はこれを潰せば全てに決着をつけられ、平和な暮らしがおくれるようになります。テロ組織バルラシオンもネオプラントが滅べば存在意味が無くなり、テロは今後無くなっていくものだと断言します。」

 「あと少し、あと少しの辛抱です。あと3ヶ月で終わります。307年に及ぶ人類最大の戦乱はあと3ヶ月で終わるのです。ただ皆様方にこれ以上苦労をかけさせては私としても心外であるため、浅岡真崎はここに確約します。11月に全ての決着をつけるということを。ネオプラントを完全に崩壊たらしめるということを皆様方に約束いたします。」

 「そして戦争が終った暁には、人々が安心して暮らせる世の中を作ることも約束いたします。医療保障精度や福祉制度も充実させることができるようになり、ある程度の余裕のある暮らしを送ることができるようにもなります。どうか皆様、私を応援するのではなくライダー達の武運を祈ってください。私は実際に戦っておらず、戦っているのは前線にいるライダー達です。彼らに応援を送ってこそ、ライダー達は人類のために戦う意義と力を持つことができるのであり、それはライダー達のために皆様も戦っているということになります。ネオプラントを倒すのは仮面ライダーだけではなく、人類全体で戦うのです。そして戦って勝って得た勝利こそ、平和の意義があるのです。どうか皆様、あと3ヶ月間の辛抱と、仮面ライダーへの熱い応援をお願いいたします」

 ぺこり、とお辞儀をした真崎の直後、放送はCMに入った。その間真崎は隣に座っていたアナウンサーに握手を求められたのでそれに答え、数人のライダーの護衛と秘書を伴って放送局を後にした。



 「・・・・・」

 「プロデューサー・・・最大瞬間視聴率が90%になりました・・・我が局始まって以来の最高記録です・・・」

 「あ・・・ああ・・・・・まったく、たいした御仁だよ。自分の演説をしながら人気をああも取って・・・」

 演説の内容は戦争が終わりに近づきつつあることを示すことだったが、その中には真崎が自分の政権を維持させるような発言を多少含めつつも、ライダーのイメージアップ、および戦争を行っていることを国民に意識させたのだ。戦争とは戦地からあまりにも離れていると、国民はどうしてもそれを意識することができない。意識することができるのはせいぜい戦争で身内を失った家族や、それに類する者ぐらいだ。

 真崎がここに出た本当の理由は、国民の大多数が数字の死者でしか戦争の恐怖や意味を実感できなくなりつつあったので、こうやって自分自らが躍り出て国民に訴え、戦争をやっているということを意識させたのである・・・が実際はもっと腹黒い。というのは、こうすれば戦地にいるライダー達の士気にもプラスに働くし、軍部への民間人による補給物資の寄付が大幅に増えるし、寄付金もたくさん取ることができる。言ってしまえば更にそれで軍部の負担を減らしつつ、同時に国民から合法的に金をせしめ取ろうというわけだ。おまけにどうしても胡散臭く感じられる政治家の演説を、いとも正当性を持たせてもいた。

 何たる悪党。だが抜け目の無い真崎は寄付された資金全額を使用用途を完全に公開させるので、怪しげなことに使われたりすることへの疑心を消させてもいる。こうすれば怪しまれずに堂々と国家予算を微力ながら増やすことができるし、

 「BBSが完全にサーバーダウンしました・・・」

 「明日から莫大な手紙がやってくるぞ、短期アルバイターを大量に雇うんだ!」






10分後

 「閣下、お疲れ様でした。ですが・・・」

 「分かっているよ、こんなことはこれっきりだ。最も高速ヘリが悪天候で30分遅れていたから時間を無駄にしたくなかっただけなんだが・・・次のスケジュールはどこだったかな」

 「次は中東の防衛ライダー隊の軍事訓練視察です。ですが閣下が行かなくても・・・」

 「そうだったな。あの地域はバルラシオンのアジトが多数あるからね、彼らに発破をかけて気合を入れさせなければならないし、あそこのアラブ財閥からもちょっと予算を搾り出さなければならないしね」

 「・・・」

 この調子で行ったら世界中の富豪から金を巻き上げていく大悪党になるのではないか、と秘書は思った。でも戦争がもうすぐ終わるのは事実だし、内乱やテロリストを生み出さないためにも早急に戦中体制から戦後体制に切り替えるのにはこれだけの予算が必要になるのは当然である。もっともクーデターをやってから真崎は、常に戦中体制から戦後体制に切り替える準備は10年以上前からしてきたので、いきなり変えて混乱を起こすようなことは絶対にしない、ていうかできないようにしている。

 「閣下、屋上にヘリが到着しました。」

 「うん、放送局に謝辞を送ってくれ。すぐに行こう。」





同日午後6時00分
イスラマバード都市要塞 軍事演習地域


 「そういいいいいいいん!浅岡真崎大統領に対してぇええええ!けいれいっ!」

 だん!だだだだだだだだだだだだだん!

 決して真崎が撃たれたわけではない。一堂に会したライダー達が天空に向けて銃を撃っただけだ。彼らが演習をしている理由はテロリスト制圧のためだけではなく、陸軍で失った第13師団と11師団への編入兵力として選ばれた、地区合計4000名のライダー兵が戦争に適応できるようにしているのである。

 都市防衛のライダーたちは、普段は各都市の警察的役割を果たしており、軍事に転用することを前提に編成されている。具体的には軍隊で損失があったときに兵力として捻出されるのがその例であるが、そのまま戦争させるには連度がないため、こうやって訓練を施して戦争に耐えられるようにしているのである。

 「・・・ライダー諸君、ご苦労様です。諸君らもご存知のように、陸軍の第11ライダー師団と第13ライダー師団はそれぞれ壊滅的打撃を受けました。将軍は有能であり、責任が無いわけではありませんが、原因は至極簡単です。それは敵が必死になってきたということです。」

 「古来より窮鼠猫をかむ、という言葉があります。猫の天敵たるネズミも追い詰められれば猫に一太刀を遭わせるという意味です。今回のネオプラントの軍隊が我が軍に被害を及ぼしたのは、まさにそのネズミとなったからです。今後敵はどんどん苛烈になってくるのは明白、この中には生きて帰れない者も出てくるかもしれません」

 実際には数千人単位で死亡しているので「出てくるかもしれない」というのは単なるリップサービスだったりする。でもそれ言ったらやる気なくすだけなので言わないだけである。

 「ですが、逆に考えればそれを理解して行動すれば我々は余計な被害を受けないように慎重に行動することができるということです。彼ら40000人の死者は決して無駄死にではなく、我々がこれ以上犠牲者を出さないようにしなければならない、重要な意味を教えてくださった者たちですが私、浅岡真崎は彼らを死に追いやった罪に対して詫びなければなりません・・・」

 ・・・・・

 「しかし、詫びろといってもどう詫びるのか、私が断頭台に登れば40000人の死者は納得するだろうか、死んで詫びるというのは古来よりあるものですが、私はそれをただの逃避的行為であると思っています。故に私は卑小でかつ図々しくも、こうやって戦士たちを送ることも本当は望んでいません。が、死者に対して私ができる詫びとは、残った遺族に対して平和を与えることぐらいであります。」

 ・・・・・

 「ゆえに私、浅岡真崎はここに宣言します。11月に行われる決戦には私も参戦します」

 !

 どよどよどよ・・・

 強烈な衝撃とどよめきが4000人のライダー兵たちを襲った。側近達も驚き、驚かない者は浅岡真崎本人ただ一人である。

 「諸君らライダー達が危険な地に赴いている中で私一人はのうのうと安全な地で命令を発する、その行為は私も心を痛めていますが、遺族達のためにも、国民のためにも、ライダー達のためにも、私は私の誠意を示すために自身を危険な地に赴かせ、戦争を終結させることをここに約束いたします。そして生きて帰ってきて、全員に平和を享受させるのが真の謝罪であることだと私は思うのです。」

 レジスタンスのトップが戦地に赴くのは、実は創立時代からの伝統であった。かの浅岡成美も自らマシンガンやショットガン、手榴弾を手にとってネオプラントと戦ったり、彼女の息子や娘達、その子孫達もまた同様だった。だが最前線で戦っていくうちにいつしか子孫達は皆いなくなり、残ったのは後方で支える文型型の浅岡成美の子孫のみとなったのだ。ここからレジスタンスは官僚型の、かつ集団型の戦争に切り替わっていったわけであるが、よもやその官僚政治の見本たる浅岡真崎が、自分の考えとは正反対である司令官突撃をやらかすとは・・・

 「・・・・・諸君らライダーは仮面ライダーであります。仮面ライダーは古来よりこの世界にはびこる悪を打ち破ってきた、勇者です。今この世界には人間を奴隷とするネオプラントや、それと結託したバルラシオンがまさにその悪たる存在です。諸君らもライダーですが、私も仮面ライダーとして戦地に赴きます。無論無駄に死なず、必ず生きて帰ってくることを約束いたします。」

 ・・・・・

 「レジスタンス万歳!」

 一人のライダーが叫んだ。それに呼応するかのごとく、他のライダー達も後に続く。

 「大統領万歳!浅岡成美の遺志を継ぐ、真の英雄万歳!」

 「人類に栄光を!人類に栄光を!」

 「この命閣下にお預けいたす!」

 「死しても閣下をお守りいたします!」

 「英雄浅岡成美のご加護を!」

 その後大歓声が訓練地域全体に轟いた。





同日午後9時30分
旧ブラジル リオデジャネイロ都市要塞 宇宙センター建設予定地

 「・・・というわけで、ここの工業用宇宙ステーションの完成は5年後の2317年になります。戦争がこれ以上期間を狭めることは物理的に不可能でして・・・」

 「わかっています。」

 資料を読みながら真崎は納得した。今彼がいるのはかつてジャングルだったところ、今では荒れ果てた大地になっている地域だ。なぜ彼がそこにいるのか、理由は簡単だ。

 「私は建築家ではないし技術者でもないから文句は言わないし、言えませんが・・・この広大な空き地が今後の人類の将来を決める大切なパイプラインになります。軍事施設や民間施設が多いほかの地域では絶対にできないのですから、宇宙ステーション建設はここしかないわけです。その重要性はご存知でしょう」

 「ええ」

 「来年度予算はすでに確保したので、私としては計画の遅延のないように最大限の努力を願っているだけです。」

 広大な空き地であるかつてのジャングル地帯に、真崎は宇宙ステーションを建てようとしていた。ここに膨大な宇宙資源を搬送する施設を建てれば、後々の復興活動がどれだけ効率的に進むようになるか、また将来予定している人類の火星や月への移住でもやはり膨大な資源が必要となるため、ここは絶対に欠かせられないのだ。

 「ええ、ええ・・・市長としては市民皆様に理解できるように最大限の努力をいたしますので・・・最近では環境破壊だと反対デモが起こっているのでどうも・・・その・・・・・」

 市長は自分に助力を願っていることを、真崎は悟った。ここの宇宙ステーション建設は自分が一番力を入れているところだ、力を貸さないわけにも行かないだろう。

 「10分待っていただきたい」

 真崎は颯爽とヘリの中に戻り、ペンと紙を出した。







午前2時03分
旧大阪 リムジン内


 あれから演説を行って地域50万人の市民の信頼を得た真崎は、今度も高速ヘリを使ってアメリカ、ハワイそれぞれの都市要塞を回って演説を繰り返し、ようやく日本に帰ってきた。その行程は実に3万キロ以上、1日に人が移動した距離としては最大ではないだろうか、と自負しているつもりである。普通だったらもう疲れて動けないものだが、なぜか彼はいまだにバリバリと働いており、こうして今も車載電話を使って何やら話し込んでいる。

 「違う!海上ルートの選定はどうでもいい!空路を使っての輸送でなければどうしようもないだろう!・・・・・そうだ、それとそちらの都市の税収が先月より30%増しになっていると同時に市民の支持率と人口が軒並み下がっているようだがこれはいったいどういうことか説明を願いたい・・・・・・・・・・馬鹿をいうな!オーストラリアの南にある南極の地下資源を使わなければ今後の復興作業は3年長引く!先人たちの定めた法律や信念などどうでもいい、その偽善じみた平和主義の結果が今の我々だということを忘れては困るぞ!先月の予定通り、明日そちらに向かわせていただく、病欠や事故などの遅延は認めない意向なのでそのつもりでな」

 がちゃん、ぴっぽっぱ

 「わたしだ、明日シドニーに行く高速ヘリは用意しているか・・・そうだ。明日の外遊先はオーストラリア地域と東南アジアだ。明日から1週間はむこうに滞在するからホテルを予約しろ。・・・そうだ、屋上にヘリポートのあるところならどこでもいいが、なるべく会場に近いところで手配しろ」

 がちゃん、

 こんな調子だ、よくもまあこの人は倒れないものである。

 「では次だが・・・・・」

 車上で真崎は気付いた。

 「・・・・・・・・・」

 つかれきった顔を見せながら、秘書が眠りこけていたのである。電車中の睡眠を連想させるがごとくに真崎の肩に頭を乗せ、ぐったりしていると表現したほうが的確なほどまでに、眠っている。

 「・・・・・」

 彼女の香水の臭いが真崎の大脳辺縁帯の一部を刺激するが、彼は動じなかった。

 「まあ無理も無いか。ここ1ヶ月間あまりに無理に動かしすぎたからな。」

 真崎がテロの脅威から去った8月1日、監禁生活からようやく解放され、これまで立ち遅れていた政務を取り戻さんと激しく動き続けていた。秘書も7人がローテーションで交代するほどの超過密スケジュールで、ここ1ヶ月間で12人の秘書が過労で倒れ労災が適用されたほどだ。

 やがて間もなく車も止まり、元の本部ビルにたどり着いた。寝ているところを起こすのには少々かわいそうだと思った真崎は、

 「・・・・・17年ぶりのお姫様抱っこだ」

 思えば久々である。士官学校時代の17歳のころの自分は初体験を済まし、以後反動で次々と女性を落としていったものだ。あきれ返るミューラーを尻目に、自分も負けていられないと張り切るジェッカーと女性の数を競争したりと、ついに若いころの自分についたあだ名は「女殺しの真崎」だ。数えるだけでも・・・・・3年間で50人以上の女性と関係を持っているかもしれないが、そのときは自分がレジスタンスのトップになるなど、夢にも見ていなかったからだ。今となっては彼女らが責任取れ、結婚しろとわめいてくるのではないかと思うとヒヤリとするものである。

 だがレジスタンスのトップとなってからは、そういった女色からはスッパリ足を洗い、女性には絶対に手を出していない。バルラシオンが女性工作員で自分を誘惑しようとしたが逆に相手をメロメロにして情報を聞き出して処刑したし、そのときも彼女に手を全く出していない。まあ素直に言えば酒に自白剤を入れただけなのだが・・・

 まあそれはいいとして、真崎は秘書を両手で掲げた。こうやって女性を掲げたのが20歳の時以来だからだ。彼女の体重は・・・大体54kg、それでかつ身長は170cmだから大体BMIは女性としては正常の部類に入る、とか勝手に考えながら車を出た真崎だったが、その光景を見た、真崎を出迎えようとした本部ビルに駐屯している親衛隊のライダー達は一同に驚き、

 「閣下お帰りなさ・・・・・って閣下!な、何を!」

 「見て分からないか。疲れ果てたオフィスの女傑をエスコートしているだけだ」

 「何をおっしゃっているのですか!閣下の秘書が閣下ご自身の手をわずわらせるなど・・・懲罰ものです!」

 冗談のつもりで言ったのだが、どうやら親衛隊の神経を逆なでしてしまったらしい。なおも親衛隊のライダーは怒り声を上げながら糾弾した。

 「すぐにしかるべき・・・・・」

 真崎はそこで止めた。

 「大きい声を出すな」

 「!?」

 「彼女が起きてしまう。朝の5時から今日の午前2時まで彼女はずっと私のそばを離れずに、休まないでサポートしていたのだ。倒れないほうがおかしいだろうし、ゆっくり寝させてやるのが人情というものじゃないかな」

 「し・・・しかし・・・」

 「だまれ。」

 その口調は穏やかで、真崎の表情も怒気を感じさせないものだったが、親衛隊を黙らせるのには十分だった。

 「彼女を侮蔑してはならないよ。彼女は果たすべき仕事をやり遂げて今ここで倒れているのだから、彼女を侮蔑するということは私を侮蔑することと同意義であることと思いたまえ。実際問題彼女のおかげでヨーロッパのオスカー財閥に5000兆クレジットの特別財政を出させられたのだから、彼女も立派に仕事は果たしているしね。」

 「・・・・・」

 「ではいこう。」

 そのまま真崎は秘書を掲げながら、ビルの中に入っていった。





翌朝午前8時00分
大統領執務室


 「・・・そうか。アーベスト都市要塞は陥落した、そういうことだな」

 【は!我が空軍ライダー隊によって敵要塞の中枢を押さえ、残った敵も一体残らず駆逐せしめました!】

 「御苦労。」

 【は!ですが、エカデリンブルク要塞の陸軍ライダー隊と合流したいのですが・・・】

 真崎は回答を知りつつも意地悪にたずねた。

 「素直に合流してもいいのではないかな?」

 【ですが・・・陸軍の功績を横取りする形で要塞を陥落せしめたので、何かと渋られそうで、軍の士気に影響が出かねないので・・・】

 「・・・」

 やっぱりそうか、と真崎は思った。陸軍は自分が最も肩入れしている兵科なので、空軍にとって陸軍とは何か近寄りがたい印象があるのは分かっていた。なのでそう遠まわしに言って空軍元帥は真崎に意見しているのだ。自分達もやっているのだからもっと評価しろと。

 それは真崎も分かっている。陸軍は現在再編中でその指揮はミューラーが行っている。11月までには何とか間に合うといっているので決戦は1ヶ月以上早まるという見積もりが出ているし・・・・・

 ピピピピピ・・・・

 「ちょっと待ってほしい・・・私だ、」

 【閣下、海軍元帥の荒巻常重であります】

 「湾岸要塞の攻略ができたのか?」

 【は、先日午前12時より夜襲をかけ、午前6時には湾岸部を完全に制圧、午後12時には要塞の各主要設備及び中枢部を制圧に成功せしめ、さらに午後6時には残敵掃討の完了いたしました。この時間まで通信が遅れたのは敵の妨害電波の発見に手間取り、先ほどようやく処理に成功したためです】

 「見事な手腕だ、元帥」

 【は、閣下にそう言って頂けるとは光栄です。現在までの戦死者数は1021名と、当初の見積もりより3000名ほど少なく収められました。負傷者も軽傷の者が多く、簡単な処置を施せばいずれも1週間で復帰できます。この予定でいけば11月にはここからネオプラント本拠地「ネオエデン」に直接攻撃ができます。】

 「・・・・・と海軍から報告があったが、空軍としては直ちに歩調をあわせていただきたいものだが」

 【は・・・】

 「そこの都市要塞と直結しているエルストリン研究要塞があるはずだ。そこを1週間以内に制圧しろ

 【い、一週間ですと!?】

 「そうだ。まさかさっきのは先の要塞戦で爆弾を使いすぎただとか、そんな間抜けな理由で物資を送れというわけではないだろうな」



 実はそうだった。この時代において「要塞」とは、5種類に分別される。

 まずは「都市要塞」。これは都市を要塞化したものであり、3種類の要塞の中で最大規模を誇る。具体的な定義としては、都市そのものを要塞化したものであるためにまず人間がそこに定住している、もしくはすぐに定住することができる施設を有しており、外敵を迎撃せしめる火力を有する民家やビルが全家屋および建造物の30%以上であることである。大概の都市要塞は人間が奴隷として労働に従事させられており、戦争で負けたライダー達もそこで奴隷となってエネルギー生産に従事させられるようになっているので、一種の補給拠点や生産拠点でもある。

 次に「軍事要塞」。単に要塞と表記されるだけである。5月及び6月に陸軍が制圧したエカデリンブルク要塞が該当し、主に都市要塞や補給路、軍事拠点として極めて重要な位置にあるところに建設されていることがほとんどである。その性質上、都市要塞の防波堤役割を果たしており、都市要塞のような居住力は皆無であり、純粋に戦闘用に対応し、外敵に対抗するために外壁を建てているものが多い。

 海の上にあったり、島そのものが要塞化したものを「海上要塞」という。海の上にある理由として、その制空権及び制海権を握ることによって、その空域に飛来する輸送機やミサイルを迎撃して敵のルートを封鎖したり、未だに海底に眠っている海底資源を採掘するためである。一応ヘドロ状の海とはいえ、資源はちゃんとあるわけなので、資源がほとんど無い24世紀の地球において重要な拠点となるのである。

 海岸に面した地域では「湾岸要塞」と呼ばれる。先ほど海軍が制圧した要塞がまさにそれであり、また8月にトーマス大将がテロリストに逃げられた仙台都市要塞がそれである。大抵は海上ルートから侵入してくる敵を迎撃するため、そして隣接する海上要塞への援軍派遣先として運用され、また陸地の要塞の援軍先として使用されることもある。とはいえ、大抵は生産施設や民間人収容施設など、都市要塞とほとんど似たような性質を持っている要塞が多いので、定義が非常にあいまいな要塞でもある。

 最後に「研究要塞」。改造人間やロボット、兵器などを生産するのに特化した要塞である。大概は外敵に対抗できる武装をあまり持っていないために、大抵は都市要塞に隣接する形で、かつ侵攻ルートから外れる位置に面しているので、ここを制圧するには都市要塞を陥落しなければならない。研究施設であるために敵勢勢力に技術を渡すわけにはいかないため、都市要塞を陥落したらすぐにここを攻め落とさなければ自爆されてしまうのである。



 「その付近に偵察に出た陸軍のライダー隊の一部が、最近消息不明になっているらしい。」

 【・・・は、はぁ。】

 「それに先ほどトーマス大将が発見した仙台都市要塞の地下の秘密施設から、敵の新兵器の資料が発見され、その件がその研究要塞にあることもわかった。これが何を意味するか分かるだろう」

 【は・・・】

 「”は・・・”ではない。その研究要塞には我々を脅かす何かがあるのだ。敵に逃げられる前に、直ちに攻撃にかかれ!」

 【りょ、了解しました!】

 ゆえに浅岡真崎は、1週間で攻撃しろと命じたのである。本当なら今すぐやれと言いたいのだが、どうやら空軍は予想以上にてこずって都市要塞を制圧したらしく、軍が機能する分の物資をかなり使ってしまったようなのだ。全く持って空軍はろくなのがいないものである、と思いたくなるのであった。

 「それとだ、敵はその兵器を秘匿したがっている。破片でもなんでもいい、それに関するもので可能な限りサンプルを入手しろ。」

 【は!直ちに準備にかかります】

 「最後に、お前達の部隊は浪費が多すぎる。お前達の性質上、燃料や兵器、ミサイルや弾薬などの軍事費が陸軍や海軍より予算がかかるのはまだ分かる。だがそれを承知でやりくりしていないように私は思うし、もう少しやりくりしろ。さもなくば来年度予算は10%削減させる、いいな」

 最後の「いいな」の部分が、強烈な毒がこもっていたことを海軍の荒巻は第3者の視点で強く感じていた。とはいえ陸軍は4つの兵科の中で最も快進撃を遂げているが、被害や損失が一番酷いので空軍のことを言えた道理は全く無いのだ。だが海軍も海軍でヘドロ状の海を航行するのにもかなりの予算がかかるし、ミサイル防衛や独自の空軍兵力を運用させるのに対して正規空軍とあれこれ対立したりと、4つの兵科の中でもっとも作戦速度が遅い欠点がある。宇宙軍は空軍以上に莫大な予算がかかりそうなものだが、宇宙から資源を採取してそれで自給自足をしているので、意外にも4つの兵科の中では一番安上がり・・・だが、兵器の威力がありすぎるためにうかつに動けない欠点がある。

 陸軍、空軍、海軍、宇宙軍、一つ一つにメリットがあり、デメリットがある。これら4つのハードウェアをどう使うかは人の問題なのだ。かの織田信長も、単発しか撃てないマスケット銃(火縄銃)を連続発射する方法を編み出し(創作説あり)、これは現代で言う「迎撃弾幕」の概念であり、19世紀まで通用する画期的な戦法であった。連度の低い兵士でも強者を倒せるハードウェアをいかにしてうまく扱うか、10年かけた兵士が、1年足らずの銃を持った兵士にやられることもあれば、明治時代に起こった西郷隆盛が引き起こした「西南戦争」では剣を持った反乱軍の勢いに銃を持った政府軍の兵隊は震え上がりってかなり派手にやられていたりと、逆の事態がおこっている。

 結局のところ、やり方しだいである。現代だって核兵器は実際に使われることは無くナイフちらつかせて脅すために使われているし、双方撃ちあえばただではすまなくなる&勝負は一瞬でケリがつくのでやたら金がかかる昔のような大軍はいらない、ということで徴兵制はなくなりつつあるのだ。よく「自衛隊が外国に行く→戦闘に巻き込まれる→徴兵制復活」と言っている人がいるが、それは軍事の理をちっとも知らないド素人の発言であり、竹槍で上空1万メートルを飛ぶB29を落とせと妄想を唱えた旧日本軍の軍人と全く同じ知能レベルであると言っても過言ではないのである。

 ゆえに何かを批判するならば、上記のような3段論法をしないで、ちゃんと調べなきゃいけないのである。



 【りょ、了解しました・・・】

 「予算オーバーは1クレジット(日本円換算0.01円、もしくは1銭)単位たりとも許さないからそのつもりで。サンプルの入手に失敗すれば削減は確実だと思え、ではな」

 ぶつんっ

 【・・・・・】

 真っ暗になったディスプレイを前に、荒巻元帥は嫌な感情が露見していた。

 「荒巻元帥。私だって味方を脅すようなマネはしたくは無いが・・・」

 それはリップサービスであることを、彼は見抜いていた。

 【我が軍ももう少し節約するようにいたします。】

 「陸軍も諸君らと同じ予算内でやりくりしているのだ。できないはずは無いだろうしね」

 【・・・は。】

 「戦争は11月で終わらせる。そうなれば軍隊は必然的に縮小せざるを得なくなるのはわかるだろう。大体は将来我々が移住する宇宙都市建設に従事させるが・・・全員が全員そうなるとは限らない。中にはそうでないものも出るだろうし、向いていないものもでる。ライダーだからといって特権を出すわけには行かないのだ。若い者の中には退役しても政府が金を出すものだという風潮があるようだが・・・」

 【直ちに綱紀粛正に乗り出します】

 「そういってもらえると助かる。では次の命令があるまでは都市要塞の補修および再編成に勤めよ、では」

 ぶつんっ



 ぴぴぴぴぴ・・・・

 「私だ・・・ジェッカーか、久しいな」

 【閣下もいつもどおりの生活を送れて元に戻ったかのようですな】

 「嘘の世辞はよせジェッカー。そちらはどうだ」

 【は、エカデリンブルグ要塞は完全に修復が終わり、現在先行した第6から第10ライダー師団がアルバート大将の指揮の下でアーベスト都市要塞に向けて行軍中。この要塞には第12師団を防衛任務に回してわが師団もこれより出立いたします】

 「そうか、相変わらずの手際のよさだな。先ほど空軍が補給物資をよこせと言ってきたが、断ってやった」

 【お人が悪いようで】

 「そうかもな。だが少しは自分達が金食い虫であることを実感した方がいいものだ。空軍には陸軍や海軍のように節約する思想がないのだ。ミサイルを湯水のように使ってはすぐに物資をよこせ、今回の要塞攻略も2000発以上のミサイルを使っているんだぞ・・・用兵家としては完全なる失格者だ。今度改革が必要だな。」

 【やりすぎですな。私なら200発でその都市要塞を陥落して見せましょう】

 「お前ほどの用兵家なら2発で終わりそうだ。あれも有能な男だが・・・そちらのケビン大将の様に損害以上の功績をあげられない分、厄介だ。」

 【0.1%のミサイルで都市要塞を落とせといいますか・・・やりようによってはやりますがね。まあケビン大将は彼なりにやっていますし、ああ見えても人の言葉には耳を傾ける武人です。ついこの間も自分で書類を書いていましたな、誤字ばかりでしたが。】

 「まあな。」

 【ですが今後発破をかけすぎない方がいいでしょう。それ以上敵を増やせばいつ味方に背中を撃たれるやら・・・・・今のあなたなら実際に撃たれても死ぬようなことは無いでしょうがね】

 「肝に銘じておこう。ところでだ、そちらを襲撃している正体不明の勢力だが・・・」

 【生還したライダー兵によれば、こちらの銃弾や斧が全く通用しないそうです。どうやら機械帝国はこちらの常識を覆すような兵器を作り上げたようで・・・映像は届いていますか?】

 「届いているが、これでは静止画より動画の方がわかりやすい。今後もそれが襲撃してくるのは明白だ、用心しろ」

 【承知。ところでミューラー元帥は・・・】

 「11師団と13師団を再編中、あと2週間で完了するそうだ。」

 【さすが士官学校次席。今後彼は官僚としてやっていけますな】

 「お前だって官僚としてやっていけるさ」

 【私の場合はあなたと政権争いをするやもしれません。】

 「なるほどな、5年後に野党席にたって私を批判する姿が容易に想像できる。まあ冗談はそこまでにしてだ、今後お前も身の振りを考えろ。軍隊は縮小してうかつに残れば何言われるかわからないぞ」

 【閣下、あなたも政権の椅子に座り続ければその椅子を独り占めしていると言われますぞ】

 「・・・」

 【これは失言。】

 「いやいい、お前に一本取られたよ。17年間政権の椅子に座り続けているからな。自分が他人を批判する道理がないことに今気付いただけだ。」

 【別の理由を考えた方がいいですな】

 「そうだな、お前も家族に対して何か理由を考えた方がいいぞ」

 【?・・・と申されますと】

 「いつ浮気するか分からないと私に相談をしてきている。ミューラーのように家族サービスはした方がいいぞ。今回のどこぞの映画のように娘がやさぐれては、お前の妻も泣くぞ」

 【信頼されていないものですな、まあ分からなくもありませんが閣下ほど私は好色でないつもりです。なので今度家族と映像通信したいのですが、大統領権限で認めてもいいですかな】

 「通信料はお前の給料で払わせてもいいが」

 【ああいえばこう言う。給料が引かれたら家族サービスができません】

 「ははは、それもそうだ。だがこの私に一本とったから特別に認めてやろう。ただし都市要塞についてからな」

 【ならば急いで3日後には到着いたしますので、家族にもそういってやってください。では。】

 ぶつんっ



 さっきまでの殺伐としたムードとは一転して、盟友とはこうして対当に話をする。空軍や海軍にとっては面白くないのは明白であるが、当のジェッカー元帥は並の政治家や経営者など足元に及ばない手腕を持っているので文句が言えないのだ。陸軍は陸地がメインとなる戦場であるために一番損害が激しいので、無理にでも予算を引き出させる政治手腕や、限りある予算をやりくりをできる経営手腕を持った人物でないと維持できないのである。

 なのでジェッカーやミューラーはその器量を持っているため、こうして軍隊をうまくまとめ上げているのだし、真崎の脅しにも全く屈服することもない。政治家や経営者などに身を振ってもうまくやっていけそうかもしれない、とか真崎は思った。

 ぴぴぴぴぴ・・・

 「私だ・・・・・ミューラーか。今家にいるのか」

 【ええ、久々に休暇をとりましたので家族と一緒です。】

 「そっちはジェッカーと違って家族サービスがさかんだな」

 【ジェッカーは前線に居すぎです。私も本当は家に帰っているより彼の手助けをしたいのですが・・・家族も心配ですし、こういう機会でもない限り家族と一緒になれませんので・・・】

 「気持ちは分かる・・・・つもりかな。私は家族が無いからお前達の気持ちを分かっているつもりになっているだけかもしれないがね」

 【ご気分を害しないでください。その心遣いだけでもありがたいものです】

 「世辞も一流だ。明日からまた忙しくなるから、今日だけは家族に孝行したまえ」

 【は・・・・・ってこら】

 「?」

 【パパー!はやく遊園地にいこー!ねえぱぱー!】

 【あ、浅岡のおじさんだ!】

 【こ、こら!閣下に失礼だろう!】

 通信に二人の子供が割って入ってきた。ミューラーの息子と娘で、真崎とも面識がある。一緒に話をしたこともあるし、遊んでやったこともある、家に招待されたときも食事したこともあるし、意外と親しい仲であった。

 「ポワロ君にジェニファーちゃんか、久しぶりだね」

 【はーい、これからパパとゆうえんちにいくんだ!】

 「そうかい。パパは昨日まで忙しかったから、今日1日は君たちと遊んでくれるんだよ。今日はパパとおもいきり楽しんでいきなさい。」

 【はーい!】

 【・・・・・お恥ずかしいところを、ご無礼をおかけしました】

 「いいさ、子供はあれぐらい元気があった方がいいものさ。私のようにひねくれた大人にしなければそれでいいしね。今日1日は家族水入らずでサービスしたまえ」

 【は、では。】

 ぶつんっ

 やっと通信が終わり、静寂が真崎の下に舞い戻ってきた。ああいう暖かい家族を見るとうらやましく感じるのは真崎も例外ではない。

 「・・・・・」

 コーヒーを一口飲んで、ちょっと考えた。自分はああいう幸せな世界を作られるのか、と。

 だが自分が家族を持つようになっても、果たしてミューラーのようによい父でいられるのか、あらゆる方面で完璧でかつ自信家の真崎でも、それだけはどうしても自信が無かった。幼いころに両親をなくして愛を知らずして成長し、理想主義ばかり述べて現実を全く見ない愚かな兄とは決別し、憎む兄の息子を戦闘マシーンに仕立て上げた。政治的にそうすることによって血族主義から能力主義社会に切り替えると同時に、宗一が誘拐されたりして政局に影響を与えないようにするためだが、ここまで非情に徹する自分が、子供を育て上げる権利があるのだろうか、と自問した。

 恐らく今のままではうまくいかないだろう。冷酷に徹するあまりに妻には煙たがられ、いつしか子供をつれて自分の元から去ってしまうかもしれない。その結果息子は自分に憎悪を抱くし、成長の暁には政権を脅かす要因と判断して自分は子殺しをやってしまうだろう、その憂いを経つために妻を社会的抹殺してしまうかもしれない。自分は家族を持つにはあまりにも冷酷すぎる、本質的に人を傷つける部類の、どちらかといえば殺人鬼と同じ部類に属する人間なのだ。

 「やれやれ・・・俺はあまりにも嫌な男だ」

 コーヒーをもう一口飲んで、自分を皮肉って鼻笑いした。自分の兄は理想主義者のゼロ点政治家だったが、少なくとも家族は持っていたので家庭人としては及第点だろう。自分は100点政治家だが、家庭人としては失格だ。自分の性格上、ミューラー家やジェッカー家と交流を持つことになるだろうが、自分は彼らを頼りにして生きるようなタイプではない、一人で何でもやってしまうタイプだ。結局自分の家庭人としての将来は真っ暗だが、人類の将来を明るくしなければならない、我ながら自己犠牲者でもあるし、自分のことは何もできない情けない男だと思う。

 「・・・・・」

 若いころ、といっても17歳から20歳までの間の3年間だが、自分は女ばかりと体を重ねてきた。多分3桁じゃないだろうか、あのころの自分は実は一人ぼっちで、どこか寂しい気持ちを持っていて、その発散やごまかしで女性を求めていたのではないか。レジスタンスのトップとなってからはどこか自分がヒーローとなった気分でいた充実感から女食からはすっかり足を洗えたが、時として寂しさを覚えるものだ。それをごまかそうと自分は仕事に夢中となり、時として悪党になって忘れようとする、案外弱い人間じゃないか。それに――――――

 こんこん、

 「どうぞ」

 「閣下・・・・・」

 先日眠りこけてしまった秘書が、冷静を装って部屋に入ってきた。真崎はさっきまでの独り言や考え事からチャンネルを一瞬で切り替えた。

 「よく眠れたかな。君が寝ていたベッドは私が使っている・・・と言ってもあの部屋は手の指の数で数えられるほど使っていないから、たいしたことは言えないのだがね。まあ私室じゃないし、どちらかというと来賓用だねあれは」

 「・・・・・何かしましたか?」

 顔を赤面させながらわなわなと怒りながら、静かに秘書は言い放った。だが真崎は涼しい顔で、

 「するわけが無いだろう。寝ている女性を襲うような真似は17年前に止めているよ。17年前の私ならやっていたかもしれないが・・・・・ただ昨日の車で眠りこけていたから君をお姫様抱っこしてあげた、それ位だよ」

 「・・・・・」

 「私だって37歳さ。未だに独身だけど戦争中は結婚しないことを公約しているよ。」

 よもや人類5億をまとめ上げるトップにお姫様抱っこをされる、ある意味世の中を敵に回すようなことをされた彼女は、めまいを起こしそうになった。

 「君は私をどういう人間として評価しているかは分からないけどね、私がどういう生活を送っているか、わかったかな」

 「・・・はい。」

 「暇じゃないんだよ、大統領というのは。それを知ってか知らずか私の政権の座をほしがる政治屋はいくらでもいるけどね。ほしがらないのは軍事屋と政治家だけだ。」

 「しかし閣下はなぜあれほどのスケジュールでもお倒れにならないのですか?他の側近の方々もだいぶ疲れていましたし・・・」

 「さあ、なんでかな。一説には私が104人いるとかという噂もあるけど、少なくとも浅岡真崎と名乗る人間は、世界探しても私一人だけしかいないよ。それだけは本当さ」

 答えになっていないし、答えたくないようだ。ただし、この浅岡真崎という人間は卓越した政治手腕だけでなく、冷徹な独裁者としての一面はあるし、一方では人々に希望を与えているヒーローでもあり、戦争を勝利に導いている英雄でもある。こうなると天才特有の短命だとか、病的なまでの何らかの性癖を持っているかもしれないが、ちっともそれを感じさせない。むしろ健康バリバリで100才まで生きるんじゃないかといわんばかりに元気いっぱいだ。それにこうしてジョーク交えて会話をするあたり、普通の感覚を彼は持っているように秘書はそう感じた。

 「じゃあ、これからオーストラリアに行く。高速ヘリは既に屋上にあるから早く行こうか」

 「は・・・ですが閣下。自分では・・・」

 「もう少し自分を自賛したらどうかな?君は自分が思っている以上に実力があると私は思うけどね」

 「は・・・・」

 「では問題ないな。」

 真崎は席から経ち、秘書を伴って部屋を出た。目標はただ一つ、オーストラリアのシドニー都市要塞だ。




























西暦2004年 ??月??日
???????????????


 じじーがしょんがしょんがしょん

 ちゅううういいいいいいいんっ

 がぎょおおおおおおんっがちょんがちょん

 ちゅいいいいいばりりりりりりっ

 がぎょんがきょん、がぎょんがきょん

 ういーん、がちょん。きゅういいいいいいん

 ぶしゅー

 ・・・・・

 ぎゅいんっ!

 赤く輝く白い巨人が目を覚ました。

 どことも知れぬ工場で目を覚ました。

 仲間が次々と目覚めていく。

 彼らは何を見出すのかは、まだわからない。









NEXT MISSION・・・・・


次回予告



「おまえかぁ!わしの孫にちょっかい出している男と言うのは!」
「え・・・・う・・・!」
「ちょっとついてこい!根性叩きなおしたる!」
荒々しい老人に宗一は振り回され、そして新たなる刃を身につける。



「ちくしょう!アーマーライダーだと!」
「あいつら無茶に考えてる!」
「もうヤケクソになってるってことよ!バイク撃て!」
楽しい楽しい修学旅行
しかしその先には脅威があった。



「弾丸がにげだぞあれ!」
「斧がなんかしらないけど勝手に空ぶる!」
「こいつ・・・攻撃が通じないのか!」
白き悪魔が現れる。
それは300年の時と技術を経て作られた、最強の対仮面ライダー殺傷兵器



次回「ζライダー」
MISSION OCTOBER「死闘の修学旅行」


編集後記



こんにちは、作者たる間津井さんの登場です。本作よりCGによる挿絵を取り入れてみましたがはてさてどうでしょうか。御存知の方も多いかもしれませんが私がCGを造るにあたって使っているソフトは「DOGA」といいまして、結構パソコンのパワーを使います。ああ見えても8万以上のポリゴンが使われていまして、しかも影効果を使っているのでそのポリゴンは倍近くにまで跳ね上がり、正直うちのパソコンの性能では荷が重くて何回強制終了したことやら、あわわわわわ。絵も絵で動きが全然ないし・・・あわわわわ。

さてさて、気がつけばこの作品も半分に到達しました。全12回のうちの6回目ですので、このノリとペースをまたあと半分付き合っていただけると思うと気がやんでしまうか、はたまた・・・げふんげふん。それはいいとしてよくもまあここまでやったもんだと自負したくなったりしちゃいます。俗に言ういばりんぼうの節が自分にはあるのかもしれません。自制心があるうちはまだ大丈夫ですが、6ヵ月後には果たしてどうなっていることやら・・・あわわわわ。他の作者様一同が公開するのにあれこれと頭を悩ませている中でこのハイスピードはある意味反則なのかもしれません。が、この作品は「あずまんが大王」のように1ヶ月1話で、現実世界と平行してやるのがコンセプトとしています。現実が秋ならこっちも秋、なんか事件があったらまあ取り入れてみようかな、と言う感じでしょうか。うーん、いい言い訳が思い付かないっ(おい)。

それと今現在ちょいと困っていることも。よもや「ゼン」と同じ時期になっちゃうとはなぁ・・・どうしたものでしょうか。うーん、当初他の作品の1年前のお話というコンセプトで進んでいたのですが・・・・・こうなるとはやはり宗一を出演させなければよかったなぁ。げふんげふん。それはいいとして、ζ根幹にかかわる出来事なので・・・うーんうーん・・・・・12月か1月あたりのストーリー変えなきゃ。
念のため言っておきますと、このお話内で「ゼン」や「ヴァリアント」「鬼神」などのほかの作者様のライダーは「絶対に」出てきません。設定上の怪人や戦闘員が出てくることがあっても、主人公たちはまだ「改造されていない」、もしくは「お話が始まる前」なので、とどめにζ設定たる「2005年3月」が世界中に核兵器が落っこちてしまい全てが滅んでしまうという究極の設定があるので出る余地がない・・・のですが、うーむ、よもやゼンと時代が同じとはなぁ・・・和馬!なんでヴァジュラをとっととやっつけないんだ!と文句を言いたくもなりますが、そうすると怒り狂った和馬がモニターから現れてたこなぐりにされそうなので我慢我慢。でも・・・ゼンのお話の中で「2004年」を示唆する内容の情報、ありましたっけ?たしか4話あたりで「ドラえもん対6人のドラえもん」があったけど、あれってうーむ、今度じっくり協議しなければならんようです。私も不謹慎なところや横暴なところがいっぱいあるし・・・反省。



今回からストーリーの展開が変わっていくと先月言いましたが、ちっとも変わっていないような気がするのはなぜなのでしょうか。どっちかというと原点回帰っぽいような気がしてなりませんし、懐かしい面々や一発キャラだった方々も再登場しまくりです。詰め込みすぎて自爆しているような気がしてなりませんが、来月からは本気で死闘が繰り広げられます。今までは人の目から外れたところでドンパチしていましたが、次回からはそうじゃないようなそうであるような・・・・・ネタバレはここまでにしておき、恒例の?ノリツッコミをいってみましょう。





・テロリスト、館川里奈
6月(MISSION JUNE)で真崎の乗ろうとしたリムジンに爆弾しかけたやつです。しかし真崎はそれを察知していたために失敗に終わりましたが、作戦が終わった後に仙台から逃げようとしても軍隊が空路や海路、陸路を完全封鎖していたので、8月の総攻撃に乗じて出来た隙を見計らって、次の命令を受けて2004年にやってきたよ、ということです。レジスタンスの護衛が街中に張り巡らせているためにロボットや怪人は使えないし、使ったとしてもあっという間に30人以上のライダーがやってきて殲滅されてしまう。とても暗殺どころではなくなるため、「唯一警備が手薄な」学校にターゲットを絞ったわけです。たった3人、しかもうち二人は教師だから必要以上に接近できない、外界から隔離されている、他のライダーは近寄れないなどなど、まさに絶好の暗殺ポイントはここしかないというわけです。目の付け所はよかったのかもしれませんが・・・

なんだってこんな「綾波ちっく」な奴になっちゃったんでしょうか。自分の中でテロリストというと、こういった感情のかけらも存在しない奴か、ある信念を持って行動している奴か、単に破壊衝動に駆られる奴かぐらいしか思いつきません。視野が狭いと言うのでしょうか。宗一では絶対にやらせなかった「かばんに拳銃や手榴弾を入れてくる」ようなこともやっていますし・・・うーん。宗一も厄介な奴にほれてしまったものです。


・アーマーライダー
ついにζが狂いかねない要素を出してしまったような気がしてなりません。未来さを出すにはロボを出さなきゃどうだろうということで出しましたが、ζ怪人は他作品の怪人と比べて大量生産されている点から単体で実力を発揮するには難しいため、ここでドンとどでかいファクターを出そうという画策も。てかライダーって名乗れば何してもいいだろうオメーと思われても・・・げふんげふん。裏設定では「スポンサーのおもちゃ会社が子供向け玩具のおもちゃ出したいから何かロボ出して」ということで出したものだと思ってください。この作品のライダーのフィギュアは上半身と下半身が外れるようになっていまして、上半身をロボットの操縦席にくっつけることが出来るようになっていまして、それで遊ぶわけです。値段は5000円、単三電池2本でのんびりと二足歩行を行えます。
がおーん、と。

で、その性能ですが・・・・・文字通り怪物です。怪人のファクターが出せない私の技量不足が原因ですが、設定では生身の人間が操縦席に乗り込んで仮面ライダーと戦うロボットということですが、今回は特別にデビルライダーが乗っかって戦ってます。ちなみにドラゴンボール世代の私にとって巨大ロボVS生身の人間は、どうしてもロボが負けちゃうという思考が刷り込まれています・・・が、同時に「仮面ライダーVS巨大ロボ」というシチュエーションを作りたかったのでやってみたりと。意外とないのでは、ロボットとライダーが戦うと言う設定は、ねえダンナ?(おい)
それにしたって200トンのパンチってあんた・・・アルティメットフォームだってキック力は100トンなのに・・・


・ζmkU
ζのパワーアップということで今回から登場しましたが・・・・・これ、ものすごく名前に困りました。
案1:ζカスタム
案2:ζゼロ
案3:ζζ(ダブルツェータ)
案4:フリーダムツェータ
案5:ζ弐式
・・・・・・とまあ、色々と案が出ていたわけですが、前の義手義足とは別物なのでうかつに改造版というわけにも行かず、あまり凝った名前はどうだろうということでオーソドックスにいきました。それにしたって制御ができなくなるライダースーツを何だって・・・作っちゃったんだろうなぁ。うーん。


・赤い英文の内容とツェータ(ζ)とイータ(η)とシータ(θ)とカッパ(κ)
いきなり英文が出てきたり、仮面ライダーがいっきに4人(正確には3人ですけど)出てきたり、しかもいきなり一人がやられちゃったりと結構忙しくなってきたような。一応ここでまとめておきますとツェータは6番目、イータは7番目、シータは8番目、そしてカッパは10番目と劇中で言っておりましたが・・・・・それが何を意味するのかは英文を解読すれば分かるようになっています。出ていない9番目はどうなのでしょうか。それ以上はノーコメントで・・・・・いたいっ、石投げないで。
お詫びに誰がどうなっているのかを下に連ねておくので・・・・
6:ζ・・・浅岡宗一(主人公)
7:η・・・館川里奈(敵)
8:θ・・・須藤幹也(敵死亡)
10:κ・・・スペクター(味方?)

それにしても謎の人スペクターさんは一体何をやってるのでしょう。一応この人はレジスタンス側なので、加勢に出ようとしたθを抹殺したところからしてもわかるでしょうか。嫌がらせはしても普通だったら敵対するようなことはありません。ネタバレ係はこの人に今後やってもらうつもりなので、今後のお話はこいつが積極的に出てくるでしょう。


・浅岡真崎の1日
こいつは毎日このペースで色々とやっています。普通だったら秘書のように倒れてもおかしくありませんが・・・この辺りは今のところノーコメントで。悪党的な一面が強くなってしまいましたが、こいつはこいつなりに人類のことを考えて、単に非情になっているだけです。政治するには金がいる、ゆえにこいつは悪党となってあちこちから金をせしめ取っているわけですが・・・
こいつはこいつなりにやっぱり寂しさも感じています。心のよりどころが全く無い寂しい男で、頼りにしている盟友達の幸せな家族達を見てちょっとうらやましいなぁとか思ったりする、良くも悪くも純粋な奴、それが浅岡真崎という人間です。


白雪姫
まあお約束ですね・・・・・え。決して性癖がどうたらと言うわけではないです。単に宗一の性格からしてやりかねない、ということでやらせましたが・・・・・やられた方はショックだろうなぁ・・・相手も相手で無神経な女の子だったので、成美にとってはこれ以上無いむかつきだったのでしょう。フォローとして、成美は宗一のことが好きではありません。彼女の好みのタイプではなく、宗一のことを男友達という感覚で見ています。周囲は恋人関係に一波乱あったと誤解していますが、果たしてどうなりますやら・・・相変わらずの投げやりっぷりです。
ちなみに白雪姫の説明はネットで調べたものを纏め上げたものですが・・・どういうことかパロディ作品ものばかりが引っかかっちゃうんですよねぇ。なぜなのでしょう。それだけ日本人には白雪姫という物語が浸透しているのかもしれませんが、よもやその白雪姫(しかもオリジナル設定ではなんと7歳!)が10歳の死体愛好家王子と結婚し!ついには義理の母たる女王を焼き殺す!・・・恨み念法の魔太郎君もビックリもんです。


虎のおじさん
The杖ぃさんお気に入りのタイガースコーピオンですが・・・彼はこれでお役ごめんです。許せ(おい)。ですが彼の証言にあるとおり、2005年に突如活発になった組織の原因は、江戸幕府のように権威がなくなったけど建前で存在するようにいたスカルスコーピオンが滅んだから、ということです。まあいずれにせよ狡猾なヴァジュラのことですから、条約でコントロールしようとする邪魔なスカルスコーピオンを叩き潰していたかもしれません。


スパイ疑惑
これまでのお話を振り返るとへんちくりんなところがあります。宗一の体は極秘事項なのになぜ敵はそれを知っていたのか、とか、成美が1人になったところに都合よく敵がやってきたり、とか、そもそも成美の高校生時代の顔は敵は知らないはずなのに(もちろん護衛部隊も極秘です)なんで知っているんだ―――とかとか、ちょっと考えるとあれ?というところがあちこちにあります。
まあ・・・このケッチャコは後々明らかになるやも知れません。


・バイク、金を稼ぐ
文中ではほとんど触れていませんが、8月はやりたい放題だったバイクたちを綱紀粛清するためにメイリンはバイクたちに予算の使用を完全に禁止させました・・・・・が、一部に趣味を技能に昇華させたバイクがいて、それであちこちの分野で才能を開花させたよ、ということです。マンガを読んでいた奴は漫画家になり、ガンプラを作っていた奴はホビー雑誌に出品して大賞を取り、中には小説(ポエム?)が世間でウケて印税がっぽがっぽ・・・・・と。彼らからしてみれば「自分で金を稼げば予算は使っていないからOK」ということなのでやっちゃったわけですが・・・・・審査員達はよもやバイクが作ったと知ったらどんな顔をするのでしょう。メイリンにとってもこれは盲点過ぎる出来事で、バイクたちが自力で稼げないとタカをくくっちゃったのが・・・・・


・宗一の心境の変化
当初これは入れないはずだったのですが、宗一が仮面ライダーになるには「人を殺さずに人を救う」という思考が形成しなければいけないと思い、ああいう風になりました。ぶっちゃけ白雪姫のあのシーンで宗一は変な感情が芽生えちゃったんでしょうね。まあ彼にとっての初恋がよもやテロリストだとは・・・大丈夫か今後の展開。


・ドラえもん映画
2005年の映画は中止ですが、この世界ではやることになっていますよ・・・ね?他の作品のライダーが2005年に対して、この作品は2004年、つまり映画予告のCMが出てもおかしくないのではないかと思った結果、こうなっちゃいました。うまくいくのでしょうかねぇドラえもん。







長くなりましたので今日はここでお暇させていただきます。
ではでは。





















 ・・・・・っておいあんた!

 「作者君、君の不死身っぷりはよく分かった。だが私にも少し言わせてもらいたいことがある」

 「先月はよくもトマホークでたたき殺して・・・で、なんだよ」

 「ふむ、実はこのサイト主催者による格闘ゲームについてなのだが・・・」

 「それがどうしたんだよ」

 「いや実は私も出たくなってね・・・卑小ながらも下記の技を作ってみた。」

天才政治家
浅岡真崎
VSモード使用可能条件 ζキャラを出した後にいずれかのストーリーモードを進めると乱入してくるので、倒すと使用可能。
必殺技 憲兵隊、やれ
親衛隊、やれ
増援要請
空軍、やれ
陸軍、突撃を開始せよ
難しい演説
超必殺技 全軍突撃
戦闘前のセリフ 5億の人類を統括する私を殺めるというか・・・親衛隊、出動せよ
勝利時のセリフ その強さ気に入った、契約金5億クレジットで君を雇いたいがよろしいかな?

 はるか先の未来で、地上を支配する機械たちと戦うレジスタンスの大統領。17年前にクーデターを起こし独裁権を握ってからは快進撃を続け、ついにネオプラントを壊滅寸前にまでおいやった戦争の天才である。ただ彼はあくまでも政治家であるために自ら戦うようなことは一切せず、彼の周囲にいる親衛隊のライダーが自動で戦い、彼は遠くから眺めているだけだが、動くことが出来る上に当たり判定は彼にある。そのため彼の技のほぼ全てが他人任せだが、代わりに戦ってくれる親衛隊ライダーは事実上無敵で、倒してもすぐまた次の親衛隊ライダーが出てくるので標的は彼にしぼらないと時間切れで負けてしまうことがある。必殺技の「憲兵隊、やれ」は対空攻撃、「親衛隊、やれ」は対地の遠距離攻撃であり、「増援要請」は同時に戦ってくれる親衛隊のライダーを最大2人まで呼んで戦わせる、どう見ても卑怯な技だ。「空軍、やれ」はどこからともなくミサイルが相手の頭上めがけて飛来し、爆発にも当たり判定がある。TPゲージを消費する「難しい演説」は相手をその場で演説を始めて正座させ足をしびれさせて2秒間動けなくしてしまう。超必殺技の「親衛隊総攻撃」は、彼の命令により画面全体に合計8万人の陸空海宇宙の全4つのライダー師団が突撃をかけるという恐るべき技と、どれもそろいにそろって他人任せだが、生身の人間である以上彼それ自身の防御力は事実上無いに等しく、ガードしても体力が削られてしまうためにうかつに接近してしまうとあっという間にやられてしまう危険があるので注意が必要だ。





 「・・・・・・」

 「というのでどうだろうか。そう、たとえば・・・親衛隊、やれ」

 「ダメ却下あしからず、ていくか自分で戦え。そもそも影月さんにめいわどぶしゅごぎゃばぎゃ!だんだんだん!

 「不貞なやからを始末いたしました!閣下!」

 「ご苦労、直ちに石灰を遺体に振り撒いた後に適当な山奥に捨てておけ。この前はあれだけやっても死ななかったからな」

 「了解しました!」

 ばたんっ!

 「・・・・・結構使えそうか。最終的な判断はウェブマスター様に委ねておこう。私もそこまでずうずうしくはないしね」










 「・・・・・さてお見苦しいところと軽いジョークを失礼。私は浅岡真崎、宗一の叔父に当たるレジスタンスの大統領。言うなれば「仮面ライダーζ」の中で一番偉い人ということになる。今回作者にねだって私の1日というものを書かせてもらったが、正直不満だね。何というか、敵の基地に乗り込んで卑猥な拷問を受けている女スパイを抱きかかえて、敵の銃弾の嵐を掻い潜って秘密基地を爆破するような、そういう活躍がしたかったのだが・・・まあそれはいいとしよう。それにしても宗一め・・・何やら変な感情が芽生えているようだ、今後に響かないようにしなければな・・・」

 「さて、読み疲れているところを恐縮だが話はまだ終わらない。ここにでしゃばった理由は、先月100の質問とやらを行うと約束したことについてだ。それができたのでここに記しておこうということだ。今は作者の体力は(1/100)位なので下記にリンクを張らせていただく。次回にはちゃんとした質問コーナーを設けるので、私に免じてお許しいただけたい。」


NO1 浅岡宗一(主人公)
NO2 浅岡成美(現代編主人公)
NO3 浅岡真崎(未来編主人公)



 「・・・時間か。次回は宗一の同僚たるアルフレット=フォン=オスカー曹長と、彼らの小隊長であるメイリン=ルイ少尉、彼らのバイクたるリアロエクスレーター1〜3号機が予定されている。まったくもってバイクに質問をするとは・・・・・まあバイクたちは3体で1つの質問をやらせるので実質的には3人分だ。それでも多いがまあそれはいいとしよう」

 「ではそういうことで次回のζライダーと、次回の大統領選挙には私、浅岡真崎に清き一票をよろしく願いたい。では」


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