これは夢だ。

 江戸川慧子は自らの置かれた「今」の状況をはっきりとそう理解していた。

 既に着慣れて久しい高校の制服を着た彼女は、一面に広がる瓦礫の中に立ち尽くしていた。足元には砕けたコンクリートやガラスの破片が散らばり、交通標識が折れて転がり、真っ黒に焼け焦げた自動車が横転している。周囲を見回すと、見慣れたビルや店舗があるが、そのいずれもが無惨に破壊された姿になっている。まるで、戦場になった街のようだと慧子は感じる。周囲には金属が焼け焦げたかのような不快なにおいのする煙がうっすらと漂い、そこかしこで小さな火がチロチロと燃え盛っている。

 夢の中にあって、自らがそれを夢だと自覚したまま見る夢のことを明晰夢というらしい。彼女が今の状況をその明晰夢だと断じることができるのは、制服姿の自分と戦場のような街という街という状況が乖離しているというだけの理由ではない。もっと単純な理由がある。

 彼女はすでに、この「夢」を何度となく見ているからだ。

 明晰夢という夢は、夢を見ているという自覚があるだけでなく、その夢の状況を自分の思い通りにできると聞いたことがある。だがしかし、慧子の見るこの夢についてはそれは当てはまらないようだった。映画を見ている観客がどのような展開を希望したとしても決してい映画の内容が変わることはないように、慧子の夢もまた、彼女の意思とは関係なく進んでいく。

 そして、彼女は目の当たりにする。薄く漂う煙の向こうに並び立つ人影を。その数・・・5人。

 「あ・・・」

 慧子が発した呟きに反応したかのように、こちらに背を向けて立っていた5人の人影は、ゆっくりとこちらを振り返る。

 「あなたたちは・・・!!」

 そう口にしたところで・・・今回もまた、「夢」は終わりを告げた。




 閉められた青いカーテンの隙間から、朝の陽ざしが射しこむ部屋。ベッドの上で、慧子はゆっくりとその目を開いた。

 「また、あの夢・・・」

 上半身をゆっくりと起こし、眠気を多く含ませた声でつぶやく少女。と、そのときドアが静かにノックされ、その向こうから女の声がした。

 「お嬢様、もうお目覚めでしょうか」

 「あ・・・うん」

 「朝食の用意が整っておりますので、お着替えが済まれましたら・・・」

 「うん。すぐにいくよ」

 ドアの向こうにそう声をかけると、慧子は少し急いで着替えを始めた。




第1話
五色の超戦士! 無敵ユニオンジャー


 着替えを済ませた慧子は、大人が両手を広げて3人は並べるほどの広さの大きな階段を下りて、大きな両開きのドアを開けた。小さな一戸建ての家が丸ごと入りそうなほど広い部屋の中には、何十人もの人間が着席できる大きなテーブルが置かれ、真っ白なテーブルクロスの上にはいつものように朝食の用意がすっかりと整っていた。

 「ふぁ・・・ぁ・・・」

 席についた慧子だったが、口からあくびが出そうになり、慌てて手で押さえつける。

 「おはようございます、お嬢様。

 「あ・・・おはよう、沙耶さん」

 横からコップにオレンジジュースを注ぎながら、丁寧な言葉づかいで声をかけてくる女性。日本人形のように整った顔立ちと、きめ細やかで白く美しい肌。肩のあたりで切りそろえた、珍しい深い緑色をした艶やかな髪。服装こそ白のブラウスの上に黒いワンピース、白いエプロンという地味なもので、髪と同じ色の口紅以外は化粧らしい化粧もしていないが、彼女の場合はその飾り気のなさこそが本人のもつ美しさを際立たせていた。

 彼女の名は桐生沙耶。この屋敷で住み込みで働いているメイドである。

 「まだ眠たそうなご様子ですね。昨夜はよく眠れなかったのですか?」

 「うん、ちょっとね。昨日は割と早く寝たんだけど・・・」

 「左様ですか。もしよろしければ、お休みの前にハーブティーなどいかがでしょう? ちょうどよいものを庭園から選んで用意いたしますが?」

 そう申し出る沙耶に、慧子は苦笑しながら手を振った。

 「ありがとう、沙耶さん。でも大丈夫、たぶんたまたまだから」

 「そうですか。よく眠れない日が続くようでしたら、いつでもおっしゃってください」

 いつものように出過ぎることはなく、そう言って沙耶は頭を下げた。

 (変な夢のせいでよく眠れないなんて、子供じゃないんだから・・・。でもあの夢、何なんだろう・・・)

 沙耶の注いでくれたオレンジジュースを飲みながら、物思いにふける慧子。ここ数日、毎晩のように見るあの夢のため、慧子はよく眠ることができずにいた。決して悪夢などではないのだが、妙に印象に残っており、目覚めた後まではっきりとその細部まで覚えている。

 (なんで毎晩同じ夢を見るんだろう。それに、夢の割には妙にリアルなんだよね・・・)

 そんなことを考えていた慧子は、沙耶の声で現実に引き戻された。

 「お嬢様」

 「・・・っ! な、なに、沙耶さん?」

 「差し出がましいことをお伺いするようで恐縮ですが、本日の放課後のご予定はどのようになさるおつもりでしょうか?」

 そう尋ねてくる沙耶に、慧子は少し面食らったが

 「・・・占いで何か、よくない結果でも出たの?」

 アニメなどではなく現実に個人の家で住み込みで働くメイドというだけでも稀な存在である彼女だが、他にも変わったところはいくらでもある。

 例えば、占い。彼女は毎朝、その日の慧子の運勢をタロットで占ってくれるのだが、それがとにかくよく当たる。以前、メイドより占い師の方がよっぽどあってるのにと半ば本気で言ったことがあるが、本人は「この程度はメイドとして備えていて然るべき素養の一つでしかございません」と、いつものように無表情で答えるだけだった。占いだけでなく、彼女はメイドに必要な家事や炊事の能力はもちろんのこと、それ以外の分野についても「専門外ですが」と言いながら非凡な能力を見せ、慧子はいつも驚かされている。それらも当人にとってはメイドという仕事を果たすうえで役に立つ能力でしかないらしく、あくまでメイドという職業に非常に強い使命感を持ちながら、日々仕事に精を出しているらしい。いつも無表情でそれ以外の表情を滅多に見せることのない彼女だが、慧子に誠心誠意尽くしてくれていることは確かであり、慧子もそれには感謝しきれないほどありがたく感じていた。

 「いえ。一概によくない結果とは言えませんが、念のため今日は学校が終わったらそのままおかえりいただいた方がよろしいかと・・・」

 「ふぅん・・・」

 彼女の忠告としてはいつもより曖昧な内容に、慧子は首をかしげた。とはいえ、今日は放課後に特に何か予定が入っているわけではない。

 「うん、わかった。別にこれといって予定はないし、今日はまっすぐ帰るよ」

 「左様でございますか。ありがとうございます」

 そう言って、深く頭を下げる沙耶。普段は何を考えているかわからない無表情なその顔が、少し安心したような表情を浮かべているような気がした。




 「ではお嬢様、こちらを」

 「ありがとう、沙耶さん」

 学校の制服に着替え、玄関で靴を履いて立ち上がった慧子に、沙耶が鞄を手渡してくる。

 「・・・なんだか、よくない天気だね。傘持って行った方がいいかな?」

 玄関から外を見ながら、慧子が眉をひそめる。空にはどんよりとした灰色の雲がかかっており、見た目にはいつ降り出したとしてもおかしくはない。

 「いえ、今日は雨は降りませんので、傘をお持ちいただく必要はありません」

 しかし、沙耶はそう言い切った。

 「沙耶さんがそう言うんだったら安心だね」

 これも、例の占いによるものである。これまでにも彼女が降らないと言った日に雨が降ったことは一度もなかったし、逆に、天気予報では降水確率0%と言っている日でも、彼女が降ると言った日には必ず雨が降った。

 「じゃあ、いってきます」

 「いってらっしゃいませ。くれぐれもお気をつけて」

 深々と頭を下げる沙耶に見送られ、走り出していく慧子。

 「・・・来るべき時が来た・・・ということですね」

 その後ろ姿を見送りながら、誰にともなく一人つぶやく沙耶。その手には、タロットカードの一枚・・・「運命の輪」が握られていた。




 一方その頃。地球から遠く、38万4,400kmの距離に浮かぶこの星の衛星・・・月。

 異変は、この場所で幕を開けようとしていた。

 地球に対して常に同じ面だけを向けてその周囲を公転するこの衛星の裏側は、地球からは未来永劫見ることのできない場所である。

 その月の裏側にほど近い、宇宙空間。その一部が、突如歪みを生じさせた。歪みはやがてその大きさを増しながら、宇宙の闇よりもなお深い昏さを湛えた巨大な「穴」と化していく。

 そして、その「穴」の中から、巨大な物体が顔を出し始めた。その表面はつるりとした赤い金属でできており、ゆるやかな曲線を描いている。それが「穴」の中からその姿をあらわにしていくにしたがって、やがてその全体像が、ドーム型をした物体であることが明らかになっていく。

 やがて、物体は完全に「穴」の中から姿を現した。その大きさは、直径は10kmをくだらないだろう。明らかに人工物ではあるが、地球のものではあろうはずがない。物体を完全に吐き出すと、「穴」はその役目を終えたかのようにするするとその口を閉じていき、やがて、最初から何もなかったかのように跡形もなく消滅した。

 残された巨大な物体は、やがて、悠然と移動を開始した。その目指す先は、目と鼻の先にある月の裏側。接近を続けながらも、それはゆっくりと向きを変え、平らな面を月面に向けながら静かに降下していく。

 そして・・・物体は膨大な砂礫と塵を巻き上げながら、月の裏側へと着陸した。




 「各固定脚、全て固定完了。本艦は着陸を完了しました」

 「各セクションより状況報告。異常ありません」

 そう報告する声が響く。いくつものモニターや計器が並ぶ、SF映画の宇宙船のブリッジを思わせる空間。

 「超次元通信回線、開け。まずは至高帝陛下に到着の一報だ」

 「了解」

 命令を受け、コンソールパネルの前に座る鉄仮面をつけた兵士のような姿の男がパネルを操作する。すると、部屋の天井から吊るされた巨大なモニターが、砂嵐のような映像を映し出す。

 『・・・到着したようだな』

 それと同時に、低く唸るような声が響き渡る。それに応じて、3つの人影がモニターの前に進み出た。

 「おい、映像が出ないぞ! どうなっている?」

 「申し訳ありません。音声に問題はありませんが、映像の受信に不具合が発生しているようです」

 「そんなことは見ればわかる。さっさと調整しろ!」

 「やめろ、ザンニバル。今は音声だけでも通じればそれでよかろう」

 「そのとおりだ。至高帝陛下をお待たせしてはならない」

 「ムゥ・・・それもそうだな」

 3人はそう言葉を交わすと、モニターの前に跪いた。

 『揃っているな? 我が子らよ』

 「ハッ、至高帝陛下」

 3人はいずれも、異形の存在だった。

 「機皇子デスカンダル」

 一人は、機械仕掛けのプレートアーマーのように黒い装甲を全身にまとい、一見してロボットのようにも見える。だが、口元に並ぶスリットからは、呼吸のように一定のリズムで白いガスが吐き出されている。

 「冷戦姫ヘルザベス」

 一人は、長い銀髪を生やし、軍服のような服を身にまとった女。整った顔立ちをした美貌を持つが、纏う気配は氷のように冷たい。一見して人間のようにも見えるが、その背中からは、蝙蝠のそれに似た巨大な翼が生えている。

 「蛮獣将ザンニバル」

 一人は、他の2人よりもさらに人間離れした姿・・・いや、その姿はまるで、2本の足で立って歩く獣と言った方がよい。虎に似たその頭には太く鋭い牙が並び、獰猛そのものの面構え。腕も、胸も、脚も、金色の剛毛に覆われたその全身は膨大な筋肉によってはりきれんばかりに盛り上がっており、他の2人と比べても一回り以上大きな体格に見える。身に着けているものは両肩のスパイクアーマーのみだが、その全身の筋肉が生み出すパワーと、両手両足に具えた刃渡り、鋭さともにナイフのような爪だけでも、十分すぎるほどの凶器となるだろう。

 それぞれに名乗りを上げた異形の3人だったが、なぜか、周囲をキョロキョロと見回し始めた。

 「・・・ネガテリーナはどうした?」

 「先ほどまでそこにいたのですが・・・」

 と、そのとき

 「ウフフフフフフ・・・」

 子供の発するような楽しげな含み笑いの声が、周囲に響き始めた。

 「ネガテリーナ、どこにいる!?」

 いらだった声を上げるザンニバル。すると・・・

 「ここだよー♪」

 彼の足元の床から、あどけない声とともに少女の首がにょっきりと突き出した。

 「うわっ!?」

 「ネガテリーナ、何をしている! 遊んでいないでさっさと至高帝陛下に挨拶しろ!」

 ザンニバルがたたらを踏む一方、ヘルザベスが少女を叱責する。

 「むー。そんなに怒ることないじゃない。お姉様の怒りんぼ」

 頬を膨らませる少女だったが、やがて、少女の全身が床からゆっくりと浮上してくる。常識離れした登場の仕方とは異なり、他の3人と比べると少女は一見して人間と大差なかった。ふわふわとした美しい金髪を短く整え、フリルのたくさんついたドレスと赤いエナメルの靴を身に着けた、あどけない少女。まるで、フランス人形をそのまま大きくしたような姿だ。

 「小闇女ネガテリーナ」

 少女はそう名乗りながら、スカートの裾を小さく持ち上げ、その場でちょんとお辞儀をしてみせた。

 「我ら、栄えある至高帝陛下の血を継ぎし者。次元帝国クロセイダー四大皇族「ブラッド・ロイヤル」」

 勢ぞろいした4人を代表し、デスカンダルがそう名乗りを上げる。

 「至高帝陛下。侵略目標の次元への次元跳躍、無事完了いたしました」

 『うむ。よぉく聞くのだ、我が子らよ・・・』

 モニターは相変わらず砂嵐状態だったが、低く唸る声は言う。

 『我が次元帝国クロセイダーは、これまでに数多くの異次元世界を侵略し、手中に収めてきた。だが・・・此度侵略するこの世界を、他の世界と同じと思うな。此度の侵略に、帝国のこれからの命運がかかっていると言ってもよい』

 その言葉に、デスカンダルたちはどよめきの声を上げた。

 「陛下、それはどのような意味なのですか?」

 『これまでの侵略は、いわば前哨戦に過ぎん。なぜならば・・・この世界の侵略に成功した暁には、我々は全ての異次元世界の支配が可能となるからだ』

 その言葉に、デスカンダルたちはさらなる驚きの声を上げた。

 「なんと・・・! それは本当なのですか、陛下? なぜこの世界を侵略すれば、そのようなことが可能に?」

 『・・・今はまだ、それについては明かせぬ。余の言葉が信じられぬか、デスカンダル?』

 「・・・いえ、滅相もありません」

 「しかし・・・これで納得がいきました。一つの世界を侵略するために、我ら4人をまとめて投入するとは、いささか大げさすぎると思いましたが・・・」

 「ご安心ください、陛下。我ら4人が揃えば、どのような世界であろうと侵略できぬはずがありません」

 『その意気だ、よく励め。侵略に成功した暁には、お前たちにも特別の褒美をとらせよう』

 「褒美?」

 『・・・この世界を侵略するうえで最も功績を挙げた者に、次期至高帝の座を約束しよう』

 「なっ・・・!?」

 「陛下、それは・・・」

 『全ての異次元世界を侵略した後、余は退位しようと考えている。そうなれば、全ては次の至高帝のものだ』

 「なんと・・・!」

 至高帝のその言葉に、デスカンダルたちは互いを探るように視線を走らせた。

 『余が伝えるべきことはそれだけだ。我が子らよ、必ずこの世界を侵略するのだ』

 「ハッ。至高帝陛下の夢、全異次元世界支配のため・・・」

 「次元帝国クロセイダーの輝ける未来のため・・・」

 「必ずや、この世界を侵略して御覧に入れます」

 「楽しみに待っててね、お父様?」

 『頼んだぞ。吉報を期待している・・・』

 その言葉を最後に、至高帝の声は途切れた。

 「・・・まさか、今回の侵略がそこまで重要なものだったとはな」

 「ああ。しかも、ここで最も功績を挙げた者が次期至高帝とは・・・」

 「私はそんなのどうだっていいけどー」

 興奮気味に語るヘルザベスとザンニバルに対し、ネガテリーナはつまらなそうに言った。と・・・

 「・・・たとえ褒美がどうであろうと、我らの務めに変わりはない。お前たち、まさかとは思うが・・・褒美につられて功を焦って失敗などせぬよう、くれぐれも気をつけるのだな」

 デスカンダルがそう釘を刺した。

 「言われるまでもない。しかし兄上・・・ずいぶん余裕のご様子で。さすがは次期至高帝の座に最も近いと言われるだけはありますな」

 ザンニバルがそう口にした瞬間、その鼻先にフルーレの切っ先が突き付けられた。

 「男の僻みとは醜いな、ザンニバル。さきほどの忠告、最も重く受け止めなければならぬのは自分だということがわからぬか?」

 剣を突き付けながら、ヘルザベスが冷たい目でザンニバルを睨む。

 「べ、別にひがんでなど・・・」

 「アハハ、ザンニバルお兄様、またお姉様に怒られたぁ♪」

 「うるさい!!」

 怒りに任せ、鋭い爪の生えた手をネガテリーナに振り下ろすザンニバル。だが、ネガテリーナはその体を赤い霧に変えて一瞬でその背後に移動すると、彼にあかんべーをしてみせた。と・・・

 「・・・いやはや。まこと、デスカンダル様のおっしゃる通り・・・」

 突然、どこからかしゃがれた声が聞こえてきたかと思うと、闇の中から何者かがゆっくりと歩みを進めてきた。

 「至高帝陛下のお望みを叶えることこそ、我らが第一になさねばならぬこと。皇子様も皇女様も、ゆめゆめお忘れなきように」

 現れたのは両目にゴーグルをつけ、黒いローブをまとった奇怪な風貌の小柄な老人だった。

 「錬命術師・バスケルラスか・・・。言われるまでもない」

 「ならば結構。さて、皇子様、皇女様・・・つい先ほど、先行して調査に向かわせていた偵察隊が帰還いたしました。調査結果についてご覧になりますか?」

 「さすがに仕事が早いな。頼む」

 「承知いたしました。それでは・・・」

 バスケルラスはうなずくと、近くにいた兵士に指示をした。兵士がコンソールパネルを操作すると、モニターに映像が映し出される。立ち並ぶ高層ビル、忙しそうに行き交う人々のラッシュ、交通渋滞・・・映し出されたのは、慧子の暮らす地球の、ごくありふれた日常の光景だった。

 「・・・なるほどな。この世界の文明レベルはこの程度か」

 「どうやらこの世界の人間は、特別な力も持ち合わせてはいないようですね」

 映像を分析しながら、デスカンダルとヘルザベスが言う。

 「この程度ならば我らの敵ではない。兄上、姉上。ここは一気呵成に攻めたところで、何も問題はありますまい」

 「兄上。私もザンニバルの意見に賛成です。電撃的に侵攻し我らの力を見せつけてやれば、あとは労せずとも向こうから降伏してくることでしょう」

 ザンニバルとヘルザベスの提案に、デスカンダルは考え込む様子を見せたが・・・

 「・・・わかった」

 そう言うと、デスカンダルはバスケルラスに顔を向けた。

 「バスタング部隊にボーレムを搭載し出撃させよ。それと・・・」

 「承知しております。既にぴったりのキメラリアンを用意いたしました」

 そう言うバスケルラスの背後から、異形の怪物が姿を現した。

 「キメラリアン・ヴァッフェ、ただいま参上いたしました」

 「相変わらず用意がいいな。なるほど、申し分なさそうだ」

 ザンニバルたちの前で胸に手をやり、深々と頭を下げる怪物。怪物の全身は黒光りする金属でできており、右手の十本の指は全てが銃口となっている。左腕はそれ自体が一門の大砲となっており、背中には2発のミサイルまで背負っていた。

 「お褒めに預かり光栄です」

 「よし。出撃せよヴァッフェ。この世界の人間どもに我らの力を見せつけ、抵抗など無駄であることを思い知らせるのだ」

 「ハハッ、承知いたしました!」




 一方その頃。慧子の通う学校では・・・

 「それじゃあ、今日はここまで。わかってると思うが、今月末は期末試験だ。1年生最後の締めくくりなんだから、ちゃんと勉強しとけよ」

 慧子たちの教室ではホームルームで担任の教師がそう釘を差し、金曜日の全ての授業が終了した。朝に沙耶に忠告された言葉が気になっていた慧子は、早速帰り支度を始めたが・・・

 「慧子、ちょっといい?」

 自分を呼ぶ声に振り返ると、そこには友人である麻美と理緒が立っていた。

 「このあと、なんか予定ある? もし時間空いてたら、ちょっと付き合ってもらいたいんだけど・・・」

 「えっと・・・何をするの?」

 「駅前のケーキ屋さんが、今日で開店30周年なんだって。そのキャンペーンで、3人組で来たお客さんには今ならケーキ全品30%オフなのよ!」

 「有加と一緒に行く予定だったんだけど、急に予定が入っていけなくなっちゃって・・・」

 「ケーキかぁ・・・」

 思わず心が動く。本来ならば二つ返事でOKするところだが、沙耶の忠告が気になり、それを躊躇わせていた。

 「ごめん、ちょっとだけ待ってもらえる?」

 2人にそう言うと、慧子はケータイを取り出し沙耶にかけた。しかし、いくら待てども彼女が電話に出ることはなかった。

 (珍しいな。いつもだったらすぐに出るのに・・・)

 やがて、慧子は通話を切った。

 「もしかして、何か用事があった?」

 「ううん、別に何もないよ。私も連れてって」

 (悪いことになるとは言ってなかったし、ちょっと寄り道するだけだし、大丈夫だよね。それに、いつも沙耶さんにはお世話になってるし、たまにはお礼もしないと・・・)

 自分にそう納得させると、慧子は帰り支度を急ぎ始めた。




 そして、それから30分後・・・。

 「ありがとうございました」

 店員の声に見送られ、麻美と理緒、それに慧子はケーキ屋を後にした。

 「えへへ。さ〜て、帰ったらどれから食べよっかな〜」

 片手に持ったケーキの箱を見下ろしながら、麻美が表情を緩める。彼女の箱は他の2人よりも一回りは大きかった。

 「3割引きだからって買いすぎよ、麻美。太っても知らないわよ?」

 「大丈夫よぉ。昔から、なぜかケーキだけはいくら食べても太らないんだよね」

 「本当に別腹ってわけ? 羨ましいわね・・・」

 そう言ってため息をつくと、理緒は隣を歩く慧子に顔を向けた。

 「ありがとね、慧子。付き合ってもらっちゃって。でも、本当に大丈夫だったの?」

 「あ、うん。気にしないで。誘ってもらってうれしかったし」

 気遣う理緒に、慧子は笑顔で答えた。

 「うん。期末試験が終わったらあとはもう春休みだし、3人でまた買い物にでもいこ」

 「そうそう。もうちょっとの辛抱だよ。それじゃあ、私と理緒はこっちだから。またね、慧子」

 「うん、バイバイ」

 隣町から通っている2人はそのまま駅の方へと歩み去って行った。2人を笑顔で見送った慧子だったが

 「・・・結局、寄り道しちゃった。沙耶さん、怒るかなぁ・・・」

 手に持ったケーキの箱を見つめながら、慧子はため息をついた。

 「ん・・・?」

 と・・・慧子はふと、顔を上げた。

 最初に聞こえてきたのは、音だった。

 最初は遠くから、だが、確実にこちらに近づいてくる。ちょうど飛行するジェット機がたてるのとよく似た甲高い、空を切る音。その音の主を求めて慧子が見上げた空に、それは見えた。

 慧子の正面、はるか遠くに見えたそれは、ちょうど「く」の字の形をした3つの物体だった。慧子からの距離はかなりあるにもかかわらずはっきり形がわかるのだから、大きさは飛行機と同じぐらいはあるだろう。だが、あんな形をした飛行機などあるのだろうか・・・。

 慧子がそう思っていると、慧子の視界を横切るように移動していた3つの飛行物体は三角形の編隊を維持したまま鳥の群れのように一糸乱れぬ動きで、こちらに方向転換を遂げた。

 「え・・・?」

 慧子の見ている間にも、飛行物体はすさまじい速さでこちらへと接近してきた。その正体が、ブーメラン型をした見たこともない緑色の飛行機であることが慧子にもわかった、そのときだった。

 ガガガガガガガガガガッ!!

 編隊を組んで飛来した3つの飛行機が、突如機首から赤い光弾を連射した。そして・・・光弾の直撃を受けたビルはガラスとコンクリートの破片を撒き散らしながら砕け、アスファルトの地面がそこかしこで弾け飛ぶ。

 「キャアッ!!」

 ガラスやコンクリートの破片が雨のように頭上から降ってくる中、悲鳴を上げながら慧子は逃げ惑った。周囲にいた人々もまたそれは同じであり、平和だった駅前は、一瞬にして阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 だが、地獄のような時間はまだ幕を開けたばかりだった。飛行物体は規律正しい編隊を組んだままUターンして、執拗にも再び機銃掃射を見舞っていった。さらに、別の方向から新手の編隊が飛来してそれに加わり、攻撃はさらに苛烈さを増していった。

 「・・・!」

 近くのビルの柱の陰に逃げ込み、必死で身を隠す慧子。あまりに突然に訪れた事態にあらゆる感情がマヒしてしまったように、もはや悲鳴すら上げることができない。

 「ハァ・・・ハァ・・・!」

 荒く息をつきながらうずくまっていた慧子は、やがて、周囲が先ほどよりも静かになっていることに気が付いた。飛行物体が発する耳をつんざくような風切音も、金切り声のような機銃掃射の音も聞こえない。聞こえてくるのはガラスや建材が剥がれ落ちる音や、人々の泣き声やうめき声だけだ。

 攻撃がやんだのか。恐る恐る柱から顔を出した慧子だったが、その耳に新たな音が聞こえ始めた。見ると、あの飛行物体が3機、すぐ近くの空の上にホバリングをしていた。慌てて再び身を隠そうとする慧子だったが、あることに気が付き、それをやめて柱の影から飛行物体を見上げた。

 ホバリングしているのはまぎれもなく先ほどまで攻撃をしていた奇妙な飛行機だったが、今ホバリングしているものは、機体より一回り小さい程度の大きさをした、大きなボール状の黒い物体を一つずつ、その機体の下にぶら下げていた。そして・・・

 ガコンッ!!

 3機の飛行機は突然、その球体を切り離した。

 (爆弾・・・!?)

 逃げることもできず、思わずその場で目をつぶる慧子。だが・・・

 ドズンッ!!

 3つの球体は地面に落下しても爆発することはなかった。見た目通りに相当の重量をもっているらしいそれは、アスファルトを砕いて地面にめり込みこそしたものの、それきりだった。

 「・・・?」

 柱の影からそれを見つめる慧子。と・・・突如、黒い球体の表面に突如複雑なラインが走ったかと思うと、そのラインに沿って球体が割れ始め・・・否、それは「変形」を始めた。金属同士がこすれ合い、きしむ耳障りな音をたてながら、黒い球体は複雑に変形し・・・やがて、体高4m程度の大きさの人型のロボットへと姿を変えた。

 ガオオオッ!!

 咆哮を挙げながら地を踏み鳴らし、ガツンガツンと両拳を突き合わせる人型ロボットたち。それらはゴリラによく似た動きで動き回ると、近くに横転していたトラックを思い切り殴り飛ばした。重量数tはあるトラックが軽々と宙に舞い、近くのビルに激突して爆発を起こす。また、他のロボットは顔の中央にある赤いランプのような単眼から赤い光線を発射した。薙ぎ払うように赤い光線が通り過ぎると、その通過線上にあったものは標識も街灯も車も、スッパリと切断されてしまった。

 (何!? なんなの、これ!? 一体何が起こってるの!?)

 奇怪な戦闘機が街を爆撃し、そこから投下されたロボットが破壊の限りを尽くす。あまりに非現実的な光景が信じられず、慧子は呆然とそれを見つめるだけだった。と・・・

 「ハハハハハ!! 脆い、脆いな! 手ごたえがなさすぎる!」

 「!?」

 突如響いた声に、慧子は頭上を見上げた。近くのビルの屋上に立つ、数十人の集団の影が見えた。そして・・・次の瞬間にはその一団は、なんとビルの屋上から飛び降りてきた。

 「一番槍と勇んで乗り込んできたが、これではあまりにも拍子抜けだ。こんな世界の征服など、さっさと終わらせてしまおう」

 つまらなそうに言ったのは、全身に重火器を装備した怪人・・・ヴァッフェだった。その背後には、仮面をつけた兵士らしき者たちが数十人従っている。ヴァッフェは大砲となっている左腕を持ち上げると、いきなり発砲した。轟音がとどろくと同時に、その砲口の先にあったビルが、木端微塵に吹き飛んだ。

 「聞け、この世界の人間どもよ!! この世界はこれより我ら次元帝国クロセイダーのものとなる! 抵抗したい者はすればいい。一人残らず討ち滅ぼしてやろう! 降伏したい者はすればいい。一生奴隷として使ってやろう! お前たちに許された最後の自由だ。好きな方を選ぶがよい!!」

 ヴァッフェが叫ぶ。背後に並ぶ兵士たちが両手に持った短剣を打ち鳴らし、周囲に立つロボットたちが剛腕を地にたたきつけて咆哮を上げる。

 (嘘でしょ!? こんな・・・こんなことって・・・)

 次々に起こる想像を超えた事態に、慧子は混乱の極みに達していた。そのときだった。

 「あっ!」

 「!?」

 突然、小さな男の子の声がしたので、慧子はそちらを向いた。見ると、すぐ近くの地面に小学校低学年ぐらいの男の子が倒れていた。どうやら、近くの物陰から飛び出して逃げようとしたところ、転んでしまったらしい。当然、それに気づかぬ怪人たちではない。

 「・・・子供か。抵抗してきたところで、我らに勝てるはずもない。奴隷にしたところで、非力で使い物にはなるまい・・・不要だな」

 冷酷にもそう言うと、ヴァッフェは右手の銃口を男の子に向けた。男の子は悲鳴を上げることもできず、その場にうずくまった。

 「やめて!!」

 反射的に体が動き、叫んでいた。慧子は柱の影から飛び出すと、男の子をかばってその前に立った。

 「さ、早く逃げて!!」

 振り返りながら少年に強く言う慧子。少年は涙を拭くと小さくうなずき、その場から走り去った。

 「我が身を挺して他者を庇うか・・・人間という生き物はどこの世界でも不合理なことをする。さて、お前はどうする? 降伏するか?」

 「冗談じゃないわ! いきなり現れて街をめちゃくちゃにして、訳のわからないこと言って! あんたたちみたいな訳の分からない奴らの奴隷になるなんて、まっぴらごめんよ!!」

 怪人を睨みつけて啖呵を切る慧子。

 「・・・フン。ならば・・・死ぬか」

 その足が震えていることを見透かして嘲笑い、ヴァッフェは銃口を向けた。

 「ッ・・・!!」

 慧子は思わず身をすくめ、目を固く閉じた。話に聞くように生まれてからの出来事が脳裏をよぎるようなことはなく、ただ頭の中が真っ白になるだけだった。

 そして、轟音が響いた。




 ・・・自分がまだ死んでいないということに気が付くまで、少し時間がかかった。それにようやく気付き、目を開けると・・・

 「グオオオオオッ!!」

 目の前で怪物が背を折り曲げ、苦悶の声をあげていた。先ほどまで慧子に向けられていたその右手は原形をとどめぬほどグシャグシャになっており、バチバチと火花を散らしている。後ろの仮面の兵士たちも、目に見えて浮足立った様子を見せていた。

 「だ、誰だぁっ!?」

 もはや目の前の慧子のことなど眼中になく、ヴァッフェは怒りの声をあげて右側に体を向けた。それにつられて同じ方向を見た慧子は、いつの間に現れたのか、4人の人間がそこに立っているのに気が付いた。

 一人は、陽光に煌めく銀色の髪を長く腰まで伸ばした、20歳ぐらいに見える女性。透き通るほどに白い肌をした、ハッとするほど美しい白人の女性だった。学校の美術の教科書で見たフェルメールの絵画に描かれた女性が着ているような、簡素なドレスのような服を着ているが、その上から胴体と前腕、脛を覆う簡易式の鎧のような装甲を身に着け、右手には一振りの長剣を携えている。

 一人は、2mかそれに届くほどに背が高く、岩のようにがっちりとした体格の大男。年齢は30代半ばほどだろうか。くすんだ茶色の髪を無造作に切ったワイルドな風貌の男だったが、獣の皮で作られた簡素な造りの服を着たマタギのような恰好が、その印象を際立たせていた。また、彼自身もさることながら、彼は背中に巨大な武器を背負っていた。巨漢である彼の身の丈を超える長さを持つ一本の大きな骨の先に、見たこともない獣の大きな頭骨が取り付けられている。

 一人は、大男は対照的に小柄な女性だった。年齢は銀髪の女性と同じく20歳ぐらい。髪を長く伸ばしているのは銀髪の女性と同じだが、こちらは赤毛で、背中の後ろで髪を一本の長い三つ編みに編み上げている。猫の目のような吊り目が印象的で、カンフー映画の主人公か少林寺の修行僧が着るような道着を身に着けている。

 そして・・・横一列に並んだ彼ら3人の前に、彼は立っていた。

 おそらく、年齢は慧子とそう変わらないだろう。服装はほかの3人とは異なり現代的で、上下ともに赤い色のベストと黒い長袖のシャツ、革のロングパンツ。頭にはテンガロンハットのようなつばの広い帽子をかぶっている。青年はこちらに向かって左腕を持ち上げており・・・その先にある手には、銃口から白煙を立ち上らせる大きな回転式拳銃が握られていた。

 「よぅ。相変わらず、ずいぶん好き勝手やってくれてるじゃないか」

 「グ・・・今のは貴様の仕業か!?」

 ニヤリと不敵に笑うと、青年は右手に持っていた鞭のようなものを振るった。

 「ヒャッ!?」

 銀色に輝くそれは長く、まるで自らの意思を持っているかのように伸びて慧子の腰に絡みつき・・・

 「キャァァァァァッ!!」

 「よっと」

 次の瞬間、慧子はまるで釣り上げられた魚のように宙を舞ったかと思うと、青年の腕の中にキャッチされた。

 「大丈夫か?」

 「は・・・はい」

 「さっきの、見てたぜ。よく頑張ったな。その頑張りは無駄にしねぇよ。ここから先は・・・俺たちの出番だ」

 そう言って怪人を睨みつける青年。後ろに並んでいた3人も前に進み出て、4人が一列に並ぶ。

 「おのれ・・・貴様ら、一体何者だ!?」

 「何者だって? 決まってんだろ」

 手にした銀色の金属の鞭でビシリと地面を打って、青年は言った。

 「正義の味方さ」

 「なんだと? 笑わせるな。我らの邪魔をしたことを後悔させてやる。コッパード、やってしまえ!!」

 怪物がそう命令を下すと、背後に控えていた兵士たちが、一斉に襲いかかってきた。

 「危ないからさっさと逃げな。リア、バルト、マオ、いくぞ!!」

 「言われるまでもない」

 「ああ、ぼちぼちいこうか」

 「修行の成果を見せる時が来たね!」

 群れを成して襲ってくる兵士たちにも臆することなく、4人は勇猛果敢にそれに立ち向かった。

 「ギギィィィィィッ!!」

 奇声を発しながら、両手に持った短剣を振りかざして銀髪の女性に襲いかかる兵士たち。だが次の瞬間、兵士たちの手にしていた短剣が、鋭い音とともに一瞬にしてその手から弾き飛ばされた。

 「技もなく、魂もこもらぬ剣に斬られる私ではない!!」

 峻烈にそう言い放ち、手にした長剣を横薙ぎに一閃させる銀髪の女性。その鋭い太刀筋に断たれた兵士たちは、悲鳴を上げながら黒い炎を発して消えていった。

 「ヌオオオオオオオオオッ!!」

 一方、大男は腹の底から叫びをあげながら、巨獣の骨で作られたハンマーのような武器を振り回した。見た目通り・・・いや、見た目以上の怪力の持ち主であることは間違いない。当然、そんな怪力で振り回された重いハンマーの一撃を受ければひとたまりもなく、正面から彼に襲いかかった兵士たちは、空の彼方まで吹き飛ばされていった。

 「ホワッチャァァァァァ!!」

 甲高い怪鳥音を発しながら赤毛の女性が繰り出した正拳突きが兵士の胸にヒットし、弾き飛ばされた兵士は背後のビルの壁に激突した。次々に襲い来る兵士たちの攻撃を赤毛の女性はヒラリヒラリと舞うようなステップを踏みながら軽やかに回避しては、手刀で、肘打ちで、回し蹴りで、繰り出す多彩な技の数々で兵士たちをなぎ倒していく。

 「な、なに!? これだけの数をこうも容易く・・・」

 「おっと、よそ見してていいのかい?」

 その声とともに飛んできた鞭の一撃がヴァッフェを打ち据え、火花を散らした。

 「グァッ!?」

 「そらそら、どんどんいくぜ!!」

 縦横無尽に銀の鞭を振るい、帽子の青年は攻め続けた。だが、ヴァッフェも黙ってやられているだけではなかった。

 「グッ、調子に・・・乗るなぁ!!」

 鞭の攻撃をガードを固めて防ぐと、ヴァッフェは左腕の大砲を発射した。発射された砲弾は青年のすぐ目の前で爆発した・・・が、青年は着弾の直前に後ろに向かって跳んでおり、爆風によって飛ばされながらも、冷静にその両手で銃を構えていた。

 「くらえっ!!」

 青年がトリガーを引くと同時に大きな発砲音がとどろき、銃口から放たれた光弾が走り、ヴァッフェの胸を直撃して大爆発を起こした。

 「グォッ!?」

 地面に倒れこんで呻くヴァッフェを見ながら、着地した青年は銃をクルクルと回して不敵な笑みを浮かべた。が・・・

 「ええい! バスタング部隊、こいつらを掃除しろ!!」

 ヴァッフェが叫ぶと、先ほどのブーメラン型戦闘機の編隊が舞い戻ってきて、上空から機銃掃射を見舞い始めた。

 「うわっ!?」

 「散開!!」

 銀髪の女性の指示で散開し、それをかわす4人。しかし、さしもの彼らにも空から攻撃してくる大きな戦闘機相手に反撃する術はないようだ。

 「ハハハ! どうだ、手も足も出まい!!」

 勝ち誇ったように笑うヴァッフェ。しかし・・・

 「・・・そいつはどうかな」

 レーザー機銃の掃射から逃げ回りながらも、帽子の青年は不敵な笑みを絶やさなかった。

 ドガァァァァァァン!!

 我が物顔に攻撃を続けていた戦闘機の一機が、突然木端微塵に弾け飛んだ。

 「なにっ!?」

 驚いて空を振り仰いだヴァッフェの目の前で、編隊を構成した残りの二機も爆発する。と・・・同じくそれを見上げていた慧子の頭上に、大きな影が覆いかぶさった。

 「あれは・・・!?」

 見上げる慧子の頭上に、巨大な物体がゆっくりと飛来していた。大きさは優に50m以上はあり、カラーリングは白を基調としている。全体としては大きさの異なる二つの長方形のブロックを前後につなげたようなかたちをしているが、そのほかにもさまざまな形状をした小さなブロックが組み合わさって全体を構成している。ジェットエンジンやプロペラ、ロケットのような推進器の類はおろか、翼すらついていないにも関わらず、その巨大な物体は悠然と大空を飛行していた。それはまさに、SF映画やロボットアニメに出てくる宇宙船そのものだった。と・・・

 『こちらは僕に任せてください』

 青年が右手首に着けていた腕時計のような機械から、まだ幼さの残る少年のような声が聞こえてきた。

 「一人で大丈夫か、エリク?」

 『子ども扱いしないでください。バスタングの迎撃ぐらい、僕一人乗っていれば十分です』

 青年の軽口に、機械からは憮然とした少年の声が返ってきた。一方、残る6機の戦闘機は標的をこの宇宙船に変更し、攻撃を仕掛けてきた。三機一組のデルタ編隊を維持しながら、宇宙船に対してレーザー機銃やミサイルを次々に放つ。だが、宇宙船はそれらの攻撃を受けながらも、まったく動じる様子もなく進み続ける。そして・・・

 『このアークユニオンに、そんな攻撃は通用しませんよ』

 宇宙船の甲板上、船体側面、船体底面に装備された機銃がバラバラに旋回するとその銃身をもたげ、一斉にレーザーの斉射を開始した。宇宙船を中心に、四方八方に放たれるレーザーの槍衾。かわしきれずに3機の戦闘機がその直撃を受け、たちまちのうちに爆砕する。かろうじしてそれをかわした残る3機は、距離をとって逃れようとするが・・・

 『逃がしませんよ』

 船体両側面に並んで装備された箱状のパーツがパカパカと開くと、そこから次々にミサイルが発射された。白煙を引きながら縦横無尽に飛ぶミサイルは、必死に回避しようとする戦闘機たちを執拗に追い回し、やがて、その全てを空の藻屑と散らした。

 「バ、バスタング部隊をこうも簡単に・・・あの宇宙船、まさか、お前たちは・・・!?」

 「そのまさかさ」

 うろたえるヴァッフェの前に並ぶ4人。と、上空に浮かぶ宇宙船の船底から緑色の光が照射されると、その光の中を一人の少年がフワリフワリと降りてきて、4人の列の中に加わった。

 「やるじゃない、エリク。ほれほれ、お姉さんがほめてつかわそ〜」

 「や、やめてください! こんなことしてる場合じゃないでしょう!」

 少年を背後から抱きしめ、くせの強い金色の髪をワシャワシャと撫でる赤毛の女性を、少年は迷惑そうに振り払った。

 「ふざけるのは後にしろ、マオ」

 「そうそう。まずはこいつを倒すのが先決だ」

 「あいよ。もちろんわかってるよ」

 銀髪の女性と大男にたしなめられ、赤毛の女性はその手を止めた。かくして、5人の男女がずらりと一列に並び、ヴァッフェを睨みつけた。

 「貴様ら・・・超次元連合の者か! なぜこんなところにいる!? ここは貴様らの世界ではないだろうが!!」

 「その言葉、そっくり貴様たちに返そう。一体どれだけの世界に手を出せば気が済むのだ?」

 「たしかにここはあたしたちの世界じゃないさ。けど、そんなのは関係ないね」

 「お前たちを放っておけば、また悲劇が繰り返されることになる・・・」

 「争いは性に合わないが・・・それを黙って見過ごすのは、もっと性に合わないからな」

 「これ以上、お前らの好きにはさせねぇ。この世界は、俺たちが守る。俺たちは、そのためにやってきたんだ」

 力のこもった声で、5人は口々にそう言った。

 「ほざくな!!」

 ヴァッフェは叫びながら左腕を持ち上げ、大砲を発射した。放たれた砲弾が5人の目の前に着弾し、大爆発を起こす。

 「!!」

 声にならない悲鳴を上げる慧子。

 「この世界を守るだと!? 笑わせるな、たった5人で何ができる!?」

 燃え盛る炎に嘲りの言葉を叫ぶヴァッフェ。

 そのときだった。

 「何ができるだって? 何だってできるさ、俺たちならな」

 「!?」

 響き渡った声とともに、燃え盛っていた炎が掻き消える。そして・・・そこにはすっくと立つ5人の戦士の姿があった。

 「あれは・・・!?」

 慧子は思わず声を上げた。なぜなら・・・5人の姿は、先ほどまでとは全く異なったものに変わっていたのだから。

 「ユニオンレッド!!」

 片手でクルクルと銃を回し、頭上に向けた銃で空砲を撃ち放って叫ぶ、赤いマスクと強化スーツの戦士。

 「ユニオンブルー!!」

 白銀の長剣を大きく振るい、目の前で縦に構えて叫ぶ、青いマスクと強化スーツの戦士。

 「ユニオンイエロー!!」

 メカニカルなガントレットを装備した左腕を向けながら叫ぶ、黄色いマスクと強化スーツの戦士。

 「ユニオングリーン!!」

 巨大な骨のハンマーをドンと地面に突き、仁王立ちをしながら叫ぶ、緑色のマスクと強化スーツの戦士。

 「ユニオンピンク!!」

 めまぐるしい動きで拳と手刀を振るう演武を舞い、大きく回し蹴りをして叫ぶ、桃色のマスクと強化スーツの戦士。

 「「「「「超次元戦隊! ユニオンジャー!!」」」」」

 ドガァァァァァァァァァァン!!

 声をそろえて叫び、一斉にポーズを決める5人の戦士。それぞれの背後で、それぞれと同じ色の爆発が巻き起こる。

 「な、なんだと!? 貴様らは、一体・・・!?」

 「さっき言っただろ、この世界を守るためにやって来たってな。俺たちはそのために選ばれたんだ」

 「くっ・・・ええい、やってしまえボーレム!!」

 ヴァッフェの号令を受けて、3体の大型ロボットが地響きを立てながら突進してきた。5人の戦士たちは、それぞれ迎え撃つ体制を整えたが・・・

 「ハッ!!」

 ユニオンレッドは突如ジャンプすると、ロボットの一体の頭を踏みつけてそれを飛び越え、ヴァッフェに向かって一直線に走り出した。

 「ちょっ!? ダメですよディーンさん! 一人で突っ込んだら!!」

 「まったく、一人で先走るなと何度言ったらわかるんだあいつは・・・」

 慌てるイエローと、頭を押さえるブルー。

 「何度言ったって無駄じゃない? あいつから元気と勢い取ったら何も残らないと思うけど」

 「ま、しょうがないさ。俺たちもさっさとこいつらを片付けて追いつこう」

 「・・・仕方がないな。エリク、あいつのフォローを頼む。こいつらは私たちで片付ける」

 「わかりました!」

 襲い来るロボットたちの間をすり抜け、先に行ったレッドの後を追うイエロー。その間にも、ロボットたちは残る3人へと襲いかかった。

 ドガッ!!

 振り下ろされたロボットの巨大な腕が、勢いよく地面にめり込む。ロボットの繰り出したパンチをかわしたブルーは、すかさずその腕に剣を振り下ろしたが、剣は鋭い音をたてて火花を散らし、その表面に傷をつけただけだった。

 「・・・さすがに雑兵のように簡単には斬れんな」

 ユニオンブルーはそう呟くと、いったん後ろへと飛び退き距離をとった。そして、開いた左手をロボットに向ける。

 「フィアンマ!!」

 ゴオッ!!

 ブルーが叫ぶと同時にその左手から紅蓮の炎が勢いよく迸った。左半身に火炎の直撃を受けたロボットの装甲は瞬く間に赤熱し、左腕の関節が異音を発した直後、小さな爆発を起こした。それによって生じた隙を見逃すことなく、ブルーは炎を発する左手を剣の刀身に沿わせ、それを炎に包むと、ロボットに向けて突進した。

 「火炎剣・バーニングスラッシュ!!」

 すれ違いざまに、燃え盛る剣を渾身の力を込めて振りぬくブルー。ロボットの動きがピタリと止まったと思った次の瞬間、その腹を横切るように一筋の赤い線が走り・・・巨大ロボットの上半身はその線に沿ってずれ、ゴロリと転げ落ちた。

 一方・・・

 「ヌウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 ユニオングリーンは唸りを発しながら、ロボットとがっぷり四つに組み合っている真っ最中だった。2倍以上の体格差がある相手に対して、グリーンは一歩も引かないばかりか、じりじりとその巨体を押し出しつつあった。

 「ヌ・・・オォォォリャァァァァァァッ!!」

 やがて、グリーンはその全身にため込んでいた力を一気に解き放ち、雄叫びとともにロボットを投げ飛ばした。ロボットは地響きを立てて背中から倒れこみ、じたばたと手足を動かしたが・・・

 「エェェェェェイッ!!」

 ゴシャァァァァァァァァッ!!

 すかさず、グリーンが振り下ろした骨のハンマーによって頭をグシャグシャに叩き潰され、すぐに沈黙を遂げた。

 少し離れた場所では、ユニオンピンクに対してロボットが単眼から次々にレーザーを発射していた。ユニオンピンクは華麗なフットワークで襲い来るレーザーをかわすと、一瞬の間隙を縫って跳びあがった。

 「アタタタタタタタタタ!!」

 ロボットに躍りかかるや、その頭にマシンガンのような高速の蹴りを繰り出すピンク。ロボットはまるで脳震盪を起こしたかのようにフラフラと数歩後ずさったが、やがて着地したピンクに対して、再びレーザーを発射した。

 「ったく、頑丈ねぇ。これだから機械相手は嫌なの・・・よっ!!」

 ユニオンピンクは身を深く屈めると、地を這うような挙動でロボットに突進した。ロボットの発射したレーザーが頭をかすめるもおかまいなしに、あっという間に彼女はロボットの懐まで飛び込んだ。

 「ハイィィィィィッ!!」

 気合とともに跳びあがり、ロボットの顎に強烈な蹴りを叩き込むピンク。アッパーを喰らったようにロボットが仰け反る中、ピンクは両手首を合わせて手を開き、体の前方に構えた。

 「紅蓮吼龍弾!!」

 その両掌の間から、龍の形をした高熱のエネルギーが迸り、ロボットの胸を直撃した。それは一瞬にしてロボットの厚い胸板を貫通し、ロボットはガクリと膝を突き、地響きとともにくずおれた。

 「バ、バカな!? ボーレムまでもがこうも簡単に!?」

 3体のロボットがあっという間に葬られたことに驚愕するヴァッフェ。と・・・

 「どこを見てる! お前の相手はこの俺だ!!」

 そこへ、鞭を振りかざしたユニオンレッドが突っ込んできた。

 「ええい、小癪な!!」

 再生の完了した右手を向け、その五指の銃口から銃弾を連射するヴァッフェ。だが、ユニオンレッドは鞭を高速で振るいそのことごとくを弾くと、ヴァッフェに襲いかかった。

 「覚悟しな!!」

 その勢いのままヴァッフェに迫り、激しく鞭を振るうユニオンレッド。その連打が炸裂するたびに、ヴァッフェのボディが激しく火花を散らす。

 「スティンガーウィップ!!」

 その連打の締めくくりに、ユニオンレッドは銀の鞭を勢いよく突き出した。鞭の先端は槍のように鋭く尖り、一直線に走ってヴァッフェの胸を刺し貫いた。

 「グオオオオッ!!」

 ユニオンレッドが鞭を引き抜くと、胸の破孔から爆炎が吹き出し、ヴァッフェは仰向けにばたりと倒れた。

 「へへっ、いっちょあがり!」

 鞭をブンと振るい、マスクの下で余裕の笑みを浮かべるユニオンレッド。

 だが・・・

 ガクンッ!!

 「なに!?」

 ユニオンレッドの目の前で、ヴァッフェがいきなりおきあがりこぼしのように起き上がった。

 「おのれ・・・つけあがりおって。かくなるうえは・・・」

 胸の傷からブスブスと煙をあげながら呟くヴァッフェ。だが・・・

 ズンッ!!

 次の瞬間、その胸の傷を内側から突き破り、一門の砲身がヴァッフェの体から飛び出した。

 「!?」

 「貴様らもろとも、何もかも吹き飛ばしてくれるわ!!」

 それを皮切りに、ヴァッフェの上半身のあちこちから次々に砲門が飛び出し、たちまちのうちにヴァッフェの上半身はハリネズミの針のように隙間なく突き出た砲身によって覆われた。もはや元の姿からは原形をとどめておらず、無数の砲台に2本の足がついたという変わり果てた姿である。

 ドォォォォォォォン!!

 「ウワァッ!!」

 ヴァッフェの体正面に並ぶ砲列が一斉に火を噴き、放たれた砲弾たちがユニオンレッドを直撃、大爆発を起こした。

 「グッ!!」

 「ハハハハハ!! どうだ、戦闘でものを言うのはやはり火力なのだ!!」

 哄笑しながら上半身を埋め尽くす砲門から手当たり次第に砲撃を行うヴァッフェ。砲弾の直撃を受けた周囲の全てのものが爆発し、吹き飛んでいく。そのうちの数発が、ユニオンレッドへと飛んでいった。

 「!?」

 砲撃のダメージでいまだ身動きの取れないユニオンレッドに、砲弾が迫り・・・

 ドガァァァァァァァァァァン!!

 次の瞬間、大爆発が巻き起こった。

 「・・・?」

 火の粉が舞い散る中、ユニオンレッドは自分がまだ五体満足のままでいることを不思議に思った。そのとき

 「・・・だから一人で突っ込むなと言ったんですよ」

 ユニオンレッドの頭上から声がした。見上げると、いつのまにかユニオンイエローが右隣に立ち、メカニカルなガントレットをつけた左腕を前方に突き出していた。ガントレットに並ぶランプはめまぐるしく明滅しており、彼を中心として周囲を覆う光のドームが形成されており、それによって彼らは砲撃から守られていた。

 「フィアンマ!!」

 ドガァァァァァァン!!

 「グオオッ!?」

 さらにヴァッフェの体で爆発が起こり、砲撃が止まる。

 「エリクの言うとおりだ。これが終わったら、もう一度訓練のやり直しだな」

 左手に炎を宿したユニオンブルーが、いつのまにか背後に立っていた。

 「ほら、立てるか?」

 隣にやって来たユニオングリーンの差し出した手を握り、ユニオンレッドは立ち上がった。

 「・・・悪い。手間かけさせちまった」

 「まったく、困った奴だなお前は。もっと仲間を信じてくれたっていいだろうよ」

 「・・・信じているさ」

 「ん?」

 「みんなを信じてるから、俺は安心して突っ込めるんだ。現にこうして、みんなのおかげで助かった。ありがとう」

 その言葉に、グリーンたちは虚を突かれたように呆然としていたが・・・

 スコンッ!

 「いてっ!」

 「そういう問題じゃないでしょ。一人で突っ走るのをやめろって言ってんの」

 後ろからレッドの頭にチョップを振りおろし、ユニオンピンクがため息をついた。

 「・・・まぁいいわ。ちょっとひねくてれるけど、頼りにしてくれてるってのは本当みたいだし」

 「次はその信頼、私たちに合わせることで見せてもらいたいものだな」

 「ああ、わかってる。一気に畳み掛けるぜ。いくぜみんな、ユニオンコンビネーションだ!!」

 「「「「オウッ!!」」」」

 レッドの声とともに、縦一列のフォーメーションを組むユニオンジャー。前から順に、グリーン、ブルー、イエロー、ピンク、そしてレッドという布陣である。

 「貴様らまとめて、木端微塵に吹き飛ばしてやる!!」

 そう叫び、再び砲撃を開始しようとするヴァッフェ。だが・・・

 「バルト!!」

 「任せろ! 緑の・・・縛め!!」

 ドンッッッッッッ!!

 ユニオングリーンはそう叫びながら、振り上げた骨のハンマーを力いっぱい振り下ろした。巨大な頭骨が地を打ち、地響きを立てる。その瞬間、ヴァッフェの足元からいきなり植物がすさまじい速さで生え出し、その全身の砲門に絡みつき出した。

 「なにっ!? なんだこれは!?」

 瞬く間に全身に絡みついた植物によって身動きを封じられ、狼狽するヴァッフェ。

 「リア!!」

 「続かせてもらう!!」

 その機を見逃さず、一気にヴァッフェに迫撃するユニオンブルー。

 「唸れ、ミスティックカリバー!!」

 ズババババババババッ!!

 ユニオンブルーがその周囲を一周して駆け巡り、手にした長剣を一閃させたと思った瞬間

 ガランッ!!

 「グアアアアアアアッ!!」

 ヴァッフェの全身を覆う砲門が、全て途中から切り落とされた。苦悶の叫びをあげるヴァッフェを後目に、ユニオンブルーは素早くその場から離れる。

 「エリク!!」

 「テックガントレット、ガトリングモード!」

 ユニオンイエローが左腕を構えると、その腕に装着されたガントレットが、瞬く間に左腕全体を覆うガトリング砲へと変形した。

 「ガトリングストーム!!」

 ユニオンイエローの叫びとともに、ガトリング砲が勢いよく回転を始め、次々に光弾を発射し始めた。

 「グオオオオッ!!」

 殺到する光弾の弾雨が爆発し、金属の破片を撒き散らしながら絶叫するヴァッフェ。

 「マオさん!!」

 「あいよ!」

 光弾の連射をやめたイエローをヒョイと跳び越して、ユニオンピンクは疾風のようなスピードでたちまちのうちにヴァッフェへと迫った。

 「天馬三連脚!!」

 ドガッ!

 突進の勢いそのままに、ハイキックを繰り出すユニオンピンク。その一撃でヴァッフェの上半身がぐらついたところに、ユニオンピンクは続けてサマーソルトキックを放った。ヴァッフェの重い体がふわりと宙に浮く。

 「ホワッチャァァァァァァ!!」

 ドゴォォォォォォォォン!!

 とどめとばかりに、ユニオンピンクは渾身の回し蹴りをヴァッフェに見舞った。ヴァッフェの体は砲弾のように飛び、近くにあった瓦礫の山に激突した。

 「グ・・・グ・・・!」

 瓦礫の山に埋もれ、身動きの取れなくなったヴァッフェ。

 「トドメは任せたよ、ディーン!!」

 「ああ、ばっちり決めてやるぜ!!」

 ユニオンピンクに自信満々にそう答えると、ユニオンレッドは両手で銃を構え、狙いをヴァッフェに定めた。

 「エナジーバレット、フルチャージ!」

 レッドがそう叫ぶと、銃全体が輝きを発し始め、どんどんその輝きは強くなっていく。そして・・・

 「ハイパーリボルバースト!!」

 ドンッッッッッッッッ!!

 レッドがトリガーを引いた瞬間、その銃口から口径をはるかに上回る光線が発射され、撃ったレッド自身が背後へと吹き飛ばされた。そして・・・

 ドガァァァァァァァァァァァァン!!

 光線はヴァッフェを直撃し、彼が埋もれた瓦礫の山ごと、大爆発の中に包み込んだ。

 「きゃっ!?」

 大爆発によって巻き上げられた煙と砂塵は、少し離れた物陰でそれを見守っていた慧子のもとにも達した。目をつむり、せき込んでいた慧子だったが、やがてそれらも収まり、周囲に静寂が戻った。慧子がゆっくりと目を開けると・・・その正面には、それぞれの武器を下ろし、こちらに背を向けて並び立つ、5人の戦士の姿があった。

 「あ・・・」

 慧子が思わず声を発すると、戦士たちはゆっくりとこちらを振り返った。その光景を目の当たりにして、慧子は思わず目を見開いた。なぜならば・・・

 「あなたたちは・・・!!」

 それは、慧子が繰り返し夢に見てきた光景と、寸分たがわぬものであったのだから。


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