「あなたたちは・・・!!」

 瓦礫が散乱し、硝煙のにおいのする煙が漂う中、目の前にずらりと並んだ五色の戦士。ここ数日、毎日のように夢の中に現れ、鮮烈な印象を残していた光景が今、慧子の目の前に現実のものとして広がっていた。

 「なんだ、まだこんなところにいたのか」

 と、激しく波立つ慧子の心中など知る由もなく、ユニオンレッドがあっけらかんとした声でそう言いながら、右手首のブレスのボタンを押した。すると、ユニオンレッドのマスクとスーツが一瞬にして赤い光の粒子となって散り、青年が元の姿を現した。それを初めとして、他の4人も同じように変身を解除する。

 「さっさと逃げろって言っただろう?」

 「そ、それは・・・」

 話しかけてくる青年に、うまく言い返すことのできない慧子。そのときだった。

 「こちらにいらっしゃいましたか、お嬢様」

 「!?」

 突然聞こえた静かな声に、慧子はもちろん5人も一斉にその声の方に顔を向けた。

 「こちらが大変なことになっていると聞いて急いでまいりましたが・・・」

 「沙耶さん!」

 いつのまにか沙耶が、彼らのすぐ近くにやってきていた。

 「なかなかお戻りになられないので心配いたしました」

 「ご、ごめん。せっかく忠告してくれたのに、言うこと聞かなくて・・・」

 「よいのですよ。お嬢様が無事でさえいてくれれば、私は一向に構いません」

 しゅんとうなだれる慧子に、沙耶はそう言った。表情こそいつもと変わらなかったが、わずかに細めた目には、この上なく安心した様子がうかがえた。と、そこで沙耶は慧子の前に立つ5人に目を向けた。

 「お嬢様、こちらの方々は?」

 「あ、うん。一度にいろいろなことがありすぎて、私も何がどうなってるか全然わからないんだけど・・・この人たちに助けられたの」

 「そうでしたか。お嬢様が危ないところを助けていただいたようで、私からも心よりお礼申し上げます」

 そう言って、5人に丁寧にお辞儀をする沙耶。

 「そんな、お礼を言われるほどのことではありませんよ」

 「ええ。それが私たちの使命なのですから」

 少年と銀髪の女性が、そう答えた。

 「私も・・・本当にありがとう。でも、使命って? あなたたち、一体何者なの?」

 「う〜ん・・・やっぱり気になるよね。話せば長くなっちゃうんだけど・・・」

 ようやく思っていた疑問を口にできた慧子に、大男が少し困ったような笑みを浮かべながら頭をかいた。と・・・

 「お嬢様」

 沙耶がそう声をかけると、ひそひそと慧子に耳打ちをした。それを聞いた慧子は、うなずいて5人に言った。

 「それなら、うちに来ない? 助けてもらったお礼もしたいし・・・」

 「私も、お嬢様を助けていただいたお礼をぜひとも返させていただきたく存じます。料理には多少なりとも自信がございますので、よろしければ皆様で会食などいかがでしょうか?」

 「ご馳走してくれるってこと? ハイハイ! あたし行くあたし行く!」

 沙耶の言葉を聞いて、赤毛の三つ編みの女性が諸手を挙げて賛成した。

 「やめろマオ、はしたない。もう少し慎みというものをだな・・・」

 「固いこと言うなよ、リア。人の好意はありがたく受けるのが礼儀ってもんだぜ」

 「お前に礼儀を語ってほしくはないな・・・」

 「まぁ、いいんじゃないかな。俺もディーンの意見には賛成だ。ひと暴れしていい具合に腹も減ったところだし」

 「それに、僕たちもこちらの世界についてはほとんど何も知りません。いい機会ですから、僕たちもいろいろ教えていただいたらどうでしょう?」

 「・・・そうだな。それでは、ご厚意に甘えさせていただきます。申し遅れましたが、私はリアと申します。よろしくお見知りおきを」

 丁寧にそう名乗り、恭しく頭を下げる銀髪の女性。

 「僕はエリクと言います。よろしくお願いします」

 こちらも礼儀正しく名乗り、頭を下げる金髪の少年。

 「俺の名はバルト。よろしく」

 「あたしはマオ。よろしくね」

 大男と赤毛の女性も、きさくな様子でそう名乗る。

 「俺はディーン。よろしくな!」

 最後に元気よくそう言って、慧子に手を差し出す黒髪の青年。

 「私は・・・慧子。江戸川慧子。こちらこそ、よろしくね」

 ようやく笑顔を浮かべながら、慧子は青年の手を握り返した。

 「私はお嬢様の身の回りの世話をさせていただいております、桐生沙耶と申します。それでは皆様、どうぞこちらへ・・・」

 沙耶の先導で、一行は慧子の屋敷へと向かって歩き始めた。




第2話
真っ赤な決意! ディーンの約束


 「でかっ!!」

 慧子と沙耶の先導のもと、駅前から少し歩き、住宅街からも離れた小高い丘を登った5人の前に現れたのは、巨大な洋館だった。素直にその感想を第一声として発したマオはもちろん、他の4人もこれには唖然とした。

 「ここがあなたの家・・・なのですか?」

 「うん・・・一応」

 苦笑しながらリアに応える慧子。その間にも、沙耶は玄関の大扉を開き、一行を招き入れた。

 「どうぞ、お入りください」

 「ひろっ!!」

 またもや2文字で素直に感想を発するマオ。入ってすぐ正面には広い階段が2階へと続いており、2階の廊下から一行が立つ玄関ホールを見下ろすことができる。外観から察するに、小さなホテルにも匹敵するほどの部屋数があることは間違いなかった。

 「すっげー家・・・一体ここで何人で暮らしてるんだ?」

 「私と沙耶さんだけ・・・なんだけど」

 ディーンの素朴な疑問に、なぜか申し訳なさそうに答える慧子。

 「こんな広い家に2人だけ!? う、うらやましい・・・」

 ショックを受けた様子で周囲を見回すマオ。

 「以前はお父さんとお母さんも一緒に住んでたんだけどね。2人とも、3年前に事故で・・・それからは、ずっと沙耶さんと2人暮らし」

 「そうだったのか・・・すまねぇな、辛いこと話させちまって」

 「ううん、気にしないで」

 「ですが、かなり手入れが行き届いていますね。塵一つ落ちていません。お掃除は別に人を雇っているんですか?」

 「ううん。それも、沙耶さんがほとんど一人でやってくれてる。家の中だけじゃなく、庭の手入れまで含めて」

 「ウソだろ!?」

 「掃除はメイドの仕事の基本・・・できて当然のことでございます」

 「いや、普通絶対無理だって。こんなに広い家を一人でなんて・・・」

 こともなげに言う沙耶に、マオは思わずツッコミを入れた。

 「お嬢様。私は料理に取りかかりますので、皆様を大広間にご案内していただけないでしょうか? 夕食の準備が整うまで、しばしお待ちください」

 「うん、わかった。みんな、こっちに来て」

 台所へと去っていく沙耶と別れ、慧子は5人を大広間へと案内した。




 一方その頃。月の裏側・・・クロセイダーの移動要塞ゼバストポリの司令室。

 「超次元戦隊ユニオンジャー・・・か」

 メインモニターに表示される、ユニオンジャーとヴァッフェの戦闘記録映像を見つめながら、デスカンダルがつぶやいた。

 「超次元連合がこのような者たちを送り込んでくるとは、正直想定外であったな。先の戦いで、奴らは我々を追い返すことに成功はしたが、奴ら自身もかなりの損害を被った。自分たちの世界の防衛に手いっぱいで、他の世界のことにまで目を向ける余裕はないと思っていたが・・・」

 「フン。予想外だったのは確かだが、たかが5人ではないか。この程度の手勢で俺たちの邪魔をしようなど、なめてくれたものだ」

 不愉快そうに鼻を鳴らすザンニバル。

 「・・・たかが5人と侮るものでもなさそうだぞ、ザンニバル。奴らの装備・・・おそらくは超次元連合が自分たちの技術の粋を凝らして用意したものだろう。そしてそれは、あの5人自身も同じ・・・奴らの世界それぞれから選ばれた精鋭に違いない」

 そう警告するヘルザベス。

 「別にいいんじゃない? こういうお邪魔虫がちょっとは出てきてくれた方が面白いじゃない」

 天井からぶら下がりながら、能天気なことを言うネガテリーナ。

 「奴らがどんな連中だろうと、俺たちのやるべきことに変わりはない。クロセイダーに逆らう者にくれてやれるものはただ一つ、惨たらしい死だけだ。バスケルラス!」

 「控えております」

 ザンニバルの背後には、いつのまにかバスケルラスが跪いていた。

 「新しいキメラリアンを用意しろ。言うまでもないが、ヴァッフェより強い奴でなければ話にならんぞ」

 「承知しておりますとも。必ずや、ご期待に添えるキメラリアンを作り出してみせます。それと・・・」

 「何だ?」

 「ヴァッフェでは省略いたしましたが、念のため例の処置を施しておこうかと・・・」

 「構わん。好きなようにしろ」

 「ありがとうございます。それでは・・・」

 そう言って、バスケルラスは口元にゆがんだ笑みを浮かべた。




 その日の夜。慧子の屋敷では久しぶりに食堂の大テーブルいっぱいに豪華な料理が並べられ、ユニオンジャーの5人は喜びながら舌鼓を打っていた。

 「・・・ごちそうさまでした」

 やがて、空になった皿にナイフとフォークを置き、リアは上品に口元を拭った。

 「いかがでしょう、お口にあいましたでしょうか?」

 沙耶は用意よく彼女の前に紅茶の入ったティーカップを置きながらそう尋ねた。

 「ええ、とても美味しかったです。こちらの世界に来て早々、これほどの料理をいただけるとは・・・」

 「ああ、やっぱりここはいい世界だな。メシのうまい世界に悪い世界はない!」

 「単純な基準ねぇ。ま、それに関しちゃあたしも同意するけど・・・」

 「あの・・・」

 と、慧子が声を発した。

 「そろそろ、聞かせてくれないかな? みんなのこと・・・それに、さっきから言ってる「世界」って?」

 「ああ、そうだな。腹もいっぱいになったことだし、そろそろ始めるか。というわけでエリク、説明よろしく」

 「・・・少しは自分で説明する意欲ぐらい見せてくださいよ」

 「こういう難しい話はお前が説明してくれるのが一番わかりやすいんだよ。頼んだぜ、天才少年」

 「こういうときばっかり調子いいこと言うんですから・・」

 エリクはため息をつきながらも、やがて口を開いた。

 「・・・まず知っておいていただきたいことは、僕たちはこの世界の人間ではないということです。僕たちはみな、この世界とは別の世界の人間なんです」

 「この世界とは別の世界・・・?」

 「そうですね・・・」

 エリクは少し考え込んだが、やがて何かを考え付いたように、さきほど沙耶が全員の前に並べてくれたティーカップを指さした。

 「このティーカップに例えると、わかりやすいかもしれません。「世界」というものは一つではなく、このテーブルの上にあるティーカップと同じように、いくつも存在しているのです」

 「あ、そういうの聞いたことがある。パラレルワールドとか、並行宇宙とか。でも、そんな別の世界が本当にあるなんて・・・」

 「知らなくて当然です。それぞれの世界に住む人々は、別の世界の存在を知覚することはできないんです。ましてや、世界と世界の間を行き来することなど・・・。それぞれの世界は決して交わることなく、独立した道をずっと歩んできたのです。奴らが現れるまでは・・・」

 「奴ら?」

 エリクはうなずいた。

 「・・・突然の出来事でした。それまで平和だった4つの世界を、突然侵略者が襲ったのです。侵略者の名は、次元帝国クロセイダー・・・」

 「それって・・・あの怪物たち?」

 「そうです。誰も超えることのできないはずの、世界と世界を隔てる次元の壁。それを乗り越えて移動できる技術を持っていた奴らは、既にいくつもの世界をその支配下に置き、強大な軍勢を率いてさらなる侵略に乗り出したのです。リアさんの住んでいた世界、ミスティシア。バルトさんの住んでいた世界、ビーストピア。マオさんの住んでいた世界、気源郷。そして、僕の住んでいた世界、テクノポリス・・・奴らが次の標的に選んだのが、僕たちそれぞれの故郷の世界でした。4つの世界の人々は、それぞれクロセイダーの侵略に果敢に立ち向かいました。しかし、次元の壁を超えて戦力を投入できるクロセイダーに対して、4つの世界はそれぞれ孤立無援の戦いを強いられて徐々に劣勢に立たされ、クロセイダーに侵略されるのも時間の問題という状況にまで立たされてしまったのです。しかし・・・人々は諦めませんでした。そして、ついに反撃の時がやってきました。その狼煙は僕の故郷・・・テクノポリスから上がりました」

 エリクはそう言った。

 「クロセイダーの侵略が始まる3年前・・・テクノポリスで、一隻の宇宙船が宇宙空間を漂流しているところを発見されました。テクノポリスが回収して調査した結果、その宇宙船はテクノポリスとは異なる別の世界からやってきたものであることがわかりました。そして、その宇宙船に搭載されていた、次元の壁を乗り越えることを可能とする転移システムの解明に着手したのです。それから3年がたち、その解明が終わり、ディメンションドライブ、DDと名付けられた次元跳躍システムのテストを目前に控えたそのとき、クロセイダーの侵略が始まったのです。クロセイダーの侵略に対し徐々に劣勢に立たされていく中で、テクノポリスはDDに一縷の望みを賭けました。クロセイダーがテクノポリスだけでなく、他の世界にも同時に攻勢をかけているらしいということは、既にこちらも把握していました。そこで、テクノポリスはそれら侵略を受けている別の世界とDDを使って接触をとり、同盟を結成しようとしたのです。そして、その考えは成功しました。4つの世界はクロセイダーの侵略を阻止するため、一つの同盟を結びました。それが、超次元連合です」

 「超次元連合・・・」

 「DDのテストを完了したテクノポリスは、総力を挙げてDDの量産に乗り出しました。これによって、それまで個別の戦いを強いられてきた4つの世界はお互いに戦力を補い合ってクロセイダーに対抗することが可能となり、戦いの流れは確実に変わっていきました。そして・・・戦力を再編した4つの世界は、一大同時反攻作戦に打って出ました。作戦は見事に成功し、クロセイダーを撃退することに成功したのです」

 「それじゃあ、みんなの世界には平和が戻ったんだね?」

 ホッとした表情でそう言う慧子。だが・・・

 「いや・・・ところが、そうじゃないんだ」

 「え・・・?」

 先ほどとは一転して、ディーンが真剣な表情でそう言った。その言葉に、リアたちが続ける。

 「私たちは、侵攻してきたクロセイダーの軍勢を追い返すことに成功したにすぎません。しかも、反攻作戦の際にいずれの世界も、かなりの戦力を喪失してしまいました」

 「クロセイダー自体は本拠地・・・俺たちは暗黒次元と呼んでいるが、そこにまだ大量の戦力を残しているらしい」

 「つまり、まだ全然安心できるような状況じゃないってこと。それどころか、あの侵略からまだ1年も経っていないのに、奴らはまた別の世界への侵略を始めた・・・」

 「つまり、私たちの世界に・・・? でも、どうして・・・」

 「奴らが他の世界を侵略するのに理由なんかないさ。全ての世界を支配下に置く。それが、クロセイダーの野望らしいからな」

 「そんな・・・。そんな奴らが私たちの世界にやってきたなんて、どうすれば・・・」

 うなだれる慧子。

 「心配するな。あのとき言っただろ? この世界は俺たちが守る。俺たちは、そのためにやってきたんだからな!」

 ディーンが力強くそう言って、ガッツポーズをとった。だが・・・

 「・・・」

 慧子は彼をちらりと見ただけで、再びうなだれてしまった。

 「あ・・・あれ?」

 「・・・お疲れでしょう、お嬢様。今日はもうお休みになった方がよろしいかと」

 「・・・うん」

 「皆様も本日はこちらでお休みになってください。既にお部屋の用意はできておりますので、のちほどご案内いたします。それでは」

 沙耶に付き添われ、慧子は食堂から出て行った。

 「・・・なんだよ。俺たちが守るから大丈夫だって言ってんのに」

 ディーンが口を尖らせてそう言ったが・・・

 「あのねぇ・・・あんたが言ったからって、はいそうですかって安心できると思う? あれが普通の反応でしょ」

 マオが呆れたようにそう言うと、リアもうなずいた。

 「昼の一件とエリクの説明で、クロセイダーの脅威がどれほどのものか、彼女もある程度は理解したはずだ。いくつもの世界を支配してきた巨大な組織相手に戦うのがたったの5人と聞かされれば、心細く思われても仕方あるまい」

 「なんだよ、マオもリアも! 戦いはまだ始まったばかりなのに、今からそんな情けないこと言っててどうすんだよ!」

 「落ち着いてくださいよ、ディーンさん。マオさんもリアさんも、当たり前のことを言ってるだけなんですから」

 「そういうこと。つまりは説得力の問題だ。口でいくら大丈夫だって言ったところで、なかなか安心しちゃもらえないさ。さて・・・どうする、ディーン?」

 「・・・」

 バルトの言った言葉に、ディーンは慧子の去ったドアを黙ってジッと見つめていた。




 翌朝。

 「ん・・・」

 慧子は目を覚ますと、ベッドの上でゆっくりと身を起こした。

 「今・・・何時・・・?」

 枕元に置いてある目覚まし時計を手に取ると、針はまだ午前6時前を指していた。今日は土曜日。普段ならば沙耶が起こしに来る8時ぐらいまでは二度目を決め込むつもりだったが、なぜか完全に目が覚めてしまっている。

 「そういえば・・・今日は見なかったな、あの夢・・・」

 ここ数日、毎日見ていたあの夢を、今日は見なかったことに気が付く慧子。と同時にハッとした表情になり、パジャマの袖をめくった。左腕には、大きな青あざがくっきりとついていた。

 「夢じゃ・・・なかったんだよね」

 昨日、クロセイダーの攻撃に巻き込まれ、地面に倒れこんだ時に打った場所に残るあざ。それを見て慧子は、昨日の出来事が夢ではなく、現実のものであることを再認識した。街を襲った怪物たちも、それから自分を助けてくれた5人の戦士たちも、全ては現実のものだった。あの夢を見なくなったのも、おそらくはそれが理由なのだろう。

 「・・・」

 やがて慧子はベッドから起きると着替え、自分の部屋から出て行った。




 正面玄関の扉を開けると、やや冷たさを残した朝の清新な空気が、慧子の肌に触れた。丘の上に立つこの屋敷の前からの眺めは見晴らしがよく、朝日に照らされる街の様子が一望のもとに見渡せた。

 「・・・」

 見慣れた風景だったが、ただ一点、昨日とは違う場所が慧子の目に留まった。昨日クロセイダーの攻撃にさらされ、慧子自身も危機にさらされた駅前が、昨日と全く同じ惨状を呈しているのが、丘の上からもよく見えた。

 「・・・」

 慧子が暗い表情でそれを見つめていた、そのときだった。

 「おはよう! ずいぶん早起きなんだな」

 「ウヒャアッ!?」

 突然の背後からの声に、慧子は思わず妙な悲鳴をあげてしまった。驚いて後ろを振り返るが、屋敷の前には誰もいない。

 「ここだよ、ここ」

 声のもとをたどって慧子が視線を上げると・・・3階建ての屋敷の屋根の上に、ディーンが腰をかけて手を振っていた。

 「な、何してるのそんなところで!」

 「景色を見てるんだよ。ここからの眺めは最高だな。特に朝日がきれいだ。ますます気に入ったぜ、この世界」

 「だからって、そんなところにいたら危ないよ。早く降りてきて!」

 「別に危なくなんかないって。まぁいいや。よっと」

 軽くそう言うと、なんとディーンはそこからヒョイと飛び降りてしまった。

 「!?」

 今度は悲鳴すらあげる暇もなく、慧子は思わず顔を両手で覆った。だが・・・

 スタッ!

 「ほらな。危なくなんかないだろ?」

 軽々と着地したディーンは、そう言って手を広げて見せた。

 「お、おどかさないでよ。朝から心臓に悪いわ・・・」

 「悪かったな。でも、なかなかよかったぜ、さっき声かけた時。確かに女の子らしくはなかったけど、ああいう反応の方が俺は好きだな」

 「あ、あれはたまたま・・・そっちがいきなりおどかすから変な声が出ちゃっただけよ!」

 顔を赤くしてそっぽを向く慧子。

 「悪かったって言ってるだろ。にしても、本当にいい景色だよな」

 満足そうに景色を見つめながら、ディーンはそう言った。

 「・・・景色なんて、見ようと思えばいつだって見られるじゃない。こんな朝早くからじゃなくたって・・・」

 「何言ってるんだ。朝日は朝しか見られないだろ?」

 「そうだけど、そういうことじゃなくて・・・景色見るの、そんなに好き?」

 「当たり前だろ? しっかりこの世界の景色を目と心に焼き付けて、これから俺はこの世界を守るんだ!って気合入れなきゃ、何も始まらないじゃないか」

 「・・・」

 笑顔でそう言うディーンから、慧子は何も言わずに顔をそらした。と・・・

 「・・・慧子。今日、何か用事あるか?」

 「別に・・・特にはないけど」

 「そうか。それなら、頼みたいことがあるんだけど・・・」

 「何?」

 「もっといい景色が見られるところがあったら、教えてくれないか?」

 「まだ見たいの?」

 「そりゃあ、確かにここからの景色もいいけど、それだけがこの世界で見られる景色の全てじゃないだろ? もっといろいろな景色がこの世界にもあるはずだ。特に、もっと高くて見晴らしのいい場所からの景色を見てみたい」

 そう言うディーンの顔を、慧子はじっと見つめた。

 「なんだ?」

 「何も。ただ、あなたみたいな高いところ好きにピッタリの言葉があったなって、思い出しただけ」

 「へぇ、どんな言葉だ?」

 「別に知らなくていいよ。大した言葉じゃないし」

 「そんなこと言われるとますます気になるぞ」

 「そんなことより、もっと高くて見晴らしのいい場所・・・ね」

 慧子は少し考え込んだが、やがて、何かを思いついたように顔を上げた。

 「・・・知ってるわ。あなたのリクエストにピッタリの場所」

 「本当か?」

 「ええ。きっと満足するはずよ。なにしろ高さで言ったら、この国で一番の高さからの景色だもの」

 「一番か、そいつはいい。それじゃあ、早速行こうぜ!」

 「早速って・・・今すぐ? いくらなんでも気が早いわよ。まだその場所開いてないし、朝ご飯食べてないし・・・それに、沙耶さんに一言声ぐらいかけないと。あなただってみんなに・・・」

 「メシは途中で食べればいいし、あとから連絡すれば大丈夫だって。出発だ!!」

 「ちょ、ちょっと! 手引っ張らないでってば!!」

 慧子の言うことも聞かず、ディーンは慧子の手を強引に引っ張って坂を下り始めた。




 「うわぁ、すっげぇ! 空の上を歩けるみたいだ!」

 数時間後。ゆるやかに上に向かって傾斜するガラス張りの回廊を、興奮気味に駆け上がるディーンの姿があった。

 「ちょ・・・走るな! 叫ぶな!!」

 自らもそう叫びながら、回廊にいる他の人間たちに頭を下げながらディーンを追う慧子。2人の追いかけっこは、結局ディーンが回廊をぐるりとほぼ一周し、壁全体が全て大きなガラス張りになっている広い部屋にたどり着いたことで終わった。

 「・・・あぁ、恥ずかしかった。もう、やめてよね。子供じゃないんだから」

 「悪い悪い。しかし、こいつは本当にすごいな。これがこの世界で一番高いところからの景色か」

 ガラスにほとんど顔をくっつけそうなほどに顔を近づけ、ディーンはその向こうに広がるパノラマを、子供のようにきらきらとした目で見つめていた。

 「この世界で一番かどうかは知らないけど、この国で一番高い展望台なのは確かよ。どう、すごいでしょ? ・・・って言っても、実は私も来るのは初めてなんだけど・・・」

 そう言いながら慧子も、ディーンの隣に立ち、ガラスの向こうの風景に目を奪われた。はるか眼下に所狭しとビルが立ち並び、そのずっと向こうには青い海が広がり、さらにその果ての水平線まで見逃せる。地球は丸い、という事実を、自分の目で見て実感できるような眺めだった。

 東京スカイツリー。東京タワーに代わる新たな電波塔として、3年半をかけて完成した、高さ634m・・・世界最高の高さを誇るタワーである。東京タワーと同じく本来の電波塔としての役割だけでなく、2つの展望台を備え、毎日1万人以上の人間が訪れる一大観光スポットとしての役割を果たしている。2人が今いるのは、2つある展望台のうちより高い位置にある第2展望台。この展望台は2層からなり、エレベーターがあるフロア445から、ガラスが張り出したチューブ型の「天望回廊」を3分の4周してたどり着くフロア450が、2人の現在位置である。

 「ありがとうな、慧子。確かにこいつは、そう簡単には拝めない景色だ」

 「満足してくれてよかったわ。これ以上高いところをリクエストされても困るし」

 「ああ、さすがに満足したよ。さて、と・・・」

 ディーンはそう言うと、懐から一冊の本のようなものを取り出した。よく見るとそれは小さなスケッチブックのようなものであり、ディーンはそれを広げると、白紙のページにさらさらと鉛筆を走らせ始めた。

 「へぇ・・・すごい」

 見る見るうちに描かれていく、外の風景のデッサンを見ながら、慧子は思わず感嘆の声を発した。

 「へへ、どうだ?」

 「うん・・・すごく上手で驚いた。絵を描けるってこと自体、もっと意外で驚いたけど」

 「・・・そっちこそ、意外と失礼だな」

 「ごめん。ねぇ、そのスケッチブック、もしかして他にも描いてあったりするの?」

 「ああ。見てみるか?」

 ディーンはデッサンの手を止めると、スケッチブックを慧子に手渡した。

 「わぁ・・・」

 ページをめくりながら、慧子は思わず目を見開いた。スケッチブックに描かれていたのは、いずれも美しい風景を描いた絵の数々だった。近未来的なデザインのビルが立ち並ぶ、SF映画のような風景。美しくそびえたつ白亜の城と、その下に広がる城下町。緑豊かな森に囲まれた湖と、その水辺に集う見たこともない動物たち。山水画を思わせる、霧が漂い滝の流れ落ちる深山幽谷。どのページにも異なる風景が、写真のように細やかな筆致で見事に描かれている。

 「これって、もしかして・・・」

 「ああ。俺が今までに見てきた世界・・・ユニオンジャーのみんなそれぞれの故郷さ。クロセイダーの侵略はどの世界にとっても災難だったが、世界を行き来しながら戦う中で、こうしていろいろな景色を見られたことだけはよかったな」

 ディーンはそう言って笑った。と・・・

 「へぇ・・・みんなはこんな世界から来たんだ。ねぇ、ディーンはどの世界から来たの?」

 慧子がそう言うと、ディーンは表情から笑みを消した。

 「いや・・・ここに描かれてるどれも、俺の故郷じゃないさ」

 「え・・・? だって・・・」

 「・・・昨日エリクが話してた、テクノポリスの宇宙を漂流していた宇宙船の話、覚えてるよな?」

 「うん。エリク君の世界とは別の世界から来たっていう・・・」

 「ああ。だが、あのとき回収されたのは宇宙船だけじゃない。宇宙船には一人だけ、人間が乗っていた。そして、テクノポリスの人間に保護されたとき、そいつは自分がどうしてこの宇宙船に乗っているのかどころか、自分がどこから来た何者なのか、自分の名前まできれいさっぱり忘れちまってた・・・」

 「! もしかして、それが・・・」

 「ああ。俺だよ」

 ディーンはそう言って、小さく笑った。

 「テクノポリスの科学力でも、俺の失われた記憶をよみがえらせることはできなかった。そのまま俺はテクノポリスで育ったが、本当の故郷はどんな世界なのか、いまだに何もわからないままだ」

 「・・・ごめん」

 「謝る必要なんかない。俺がどこから来た誰なのか、確かに知りたいことではあるけど、知らないから嫌だとか不幸だとか、そんなふうに思ったことは一度もないからな」

 「そうなの・・・?」

 「ああ。だけど・・・正直、羨ましいと思う。帰ることができる故郷があって、そこには待ってくれている人がいる・・・たったそれだけのことが、俺にはとてもうらやましく思えるんだ」

 ディーンは慧子の手からスケッチブックをとると、パラパラと頁をめくった。

 「ディーン・・・」

 と、そのときだった。

 ドガァァァァァァァン!!

 「「!?」」

 突如、くぐもった爆発音が聞こえ、目の前の巨大なガラスがビリビリと小刻みに震えた。2人がガラスに駆け寄ると、眼下の街で爆発が起こり、火の手が上がっているのが見えた。

 「あれって、まさか・・!」

 と、フロアが騒然となる中、突然ディーンが階下のエレベーターホールに向かって走り出した。

 「あ! 待って、ディーン!!」

 慧子もまた、慌ててその後を追った。




 スカイツリーから少し離れた市街地。クロセイダーの戦闘員・コッパードが跳梁跋扈し、市民を襲い、建物や自動車に対して破壊活動を繰り広げていた。

 「改めてこの世界の侵略の狼煙を上げる! まずはこの世界の人間どもの心に、クロセイダーの名を恐怖と絶望とともに刻み込むのだ!」

 混乱の極みの様相を呈する中、コッパードたちを先導する異形の者がいた。直立したトカゲのようなフォルムをもつ怪物・・・クロセイダーの送り込んだ新たなるキメラリアンである。

 「やっぱりお前らだったか、クロセイダー!!」

 「んん・・・?」

 トカゲの怪物が振り返ると、そこにはディーンの姿があった。

 「お前は・・・そうか、ユニオンジャーとやらの一人だな?」

 「ったく、昨日ぶちのめしたばっかだってのに、もう新手か。張り切りすぎなんだよ、お前ら」

 「フン。俺たちに楯突くだけあって、生意気な口をきく。そんなことより、他の連中はどうした?」

 「あいつらの手を煩わせるまでもねぇよ。来い、相手になってやる」

 そう言って怪物を挑発するディーン。と・・・

 「待って、ディーン! 一人でなんて無理だよ! 今沙耶さんに電話してみんなに来てもらうように頼んだから、みんなが来るまで・・・」

 「ありがとう、慧子。けど、おとなしくそれを待ってくれるようなタマじゃないぜ、こいつらは。危ないから下がってろ」

 「勇ましいことだな。お前ひとりでこのキメラリアン・レザールを相手にどこまで粘れるか、まずは手並みを見せてもらおう。かかれ、コッパード!」

 「ギーッ!!」

 トカゲのキメラリアン・・・レザールの号令一下、コッパードたちが一斉にディーンに襲いかかった。

 「ディーン!」

 悲鳴にも似た叫びを上げる慧子。そんな彼女を安心させるように、ディーンは不敵な笑みを彼女に見せると、襲いかかるコッパードたちを果敢に迎え撃った。

 「ハッ!」

 数で勝るコッパードたちだが、ディーンの戦いぶりは数の上での不利を全く感じさせない。たちまち3体ほどのコッパードを格闘でなぎ倒すと、その手から短剣を奪い取った。

 「ちょっと借りるぜ」

 短剣を両手に握って構えると、ディーンの戦いはさらに加速する。左右から同時に斬りかかってきたコッパードの短剣を受け止めると、次の瞬間にはそれを弾き返し、流れるような動きでたちまちのうちに斬り捨てる。と・・・

 「ディーン、うしろ!!」

 慧子の悲鳴に、ディーンは反射的に短剣を後ろに投げつけた。矢のように飛んだ短剣は、背後から襲いかかろうとしていたコッパードの胸に突き立ち、一瞬のうちに絶命させた。

 「ありがとな、慧子」

 こちらに向かって礼を言うディーンに、慧子も束の間笑みを浮かべる。しかし、ディーンの目の前にはいまだ5体ほどのコッパードたちが控えていた。すぐに表情を真剣なものに戻し、対峙するディーン。だが・・・

 「!!」

 ディーンは突然、後ろへと跳んだ。そして、次の瞬間

 ドガァァァァァァァァン!!

 「ギギィィィィィィィィ!!」

 「キャッ!?」

 突然大爆発が起こり、コッパードたちが空高く吹き飛ばされた。思わずその場に尻餅をつく慧子。

 「かわしたか。勘のいい奴め」

 レザールがつぶやく。大きく裂けた口の端から糸を引いて滴り落ちた粘液が、地面に触れるなり小さな爆発を起こした。

 「いきなり唾を吐いてくるとは行儀の悪い奴だな。おまけに、当たれば爆発するおまけつきか。最悪だな」

 「行儀を語れる余裕がいつまでもつかな。バラバラになってしまえ!」

 そう言うが早いか、口から粘液の塊を吐き出すレザール。それはディーンの目の前に落下し、大爆発を起こしたが・・・

 「レッツ・ユニオン!!」

 その直前にジャンプしその爆発をかわしたディーンは、右手のユニオンブレスのボタンを押した。赤い光に包まれ、一瞬のうちに変身を遂げたユニオンレッドが着地する。

 「フン、ようやく本気というわけか」

 「覚悟しろよ、トカゲ野郎。尻尾切って逃げ出すなら今のうちだぜ?」

 そう言うと、ユニオンレッドはヴァリアブルビュートを手にレザールに向けて駆け出した。

 「死ねっ!!」

 続けざまに粘液を吐き出すレザール。爆発が巻き起こる中、レッドはそれをかいくぐりながらレザールに接近した。

 「いくぜっ!!」

 ヴァリアブルビュートを振りかざし、レザールに攻撃を仕掛けるレッド。唸りを上げる銀の鞭が、次々にレザールの体を打ち据え、火花が散る。だが・・・

 「フン、そんなものか」

 「チッ、硬い皮をしてやがる・・・」

 レザールの全身を覆う鱗はかなりの硬度を持っているらしく、ヴァリアブルビュートの打撃を幾度受けても傷つく様子が見えなかった。

 「もう手詰まりか? ならば、今度はこちらからいくぞ」

 そう言うレザールの尻尾が蛇のように長く伸びると、鞭のようにレッドに襲いかかる。

 「どうした? 手も足も出ないか?」

 ひたすら回避に徹するレッドを嘲笑いながら、縦横無尽に尻尾を振り回し攻めまくるレザール。

 「ディーン!!」

 防戦一方のレッドを見て、慧子が思わず叫んだ、そのときだった。

 ズパッ!!

 「ギャァァァァァァァッ!!」

 突然、レザールが絶叫を上げた。先ほどまでひたすらレッドを攻めていた尻尾が、途中からスッパリと切断されていた。

 「・・・リアにしごかれた甲斐があったな」

 静かにそう呟くレッド。その右手には、一振りの剣が握られていた。

 「バ、バカな! いつのまに剣など・・・」

 「悪いな、この武器は流体金属ゾルメタル製だ。鞭に限らず、剣にも槍にも変えられるのさ。鞭がダメなら、剣で斬ればいい」

 そう言って、レッドは剣の切っ先をレザールに向けた。

 「さぁ、尻尾は斬ったぜ? もっとも、いまさらトンズラを許す気はさらさらねぇがな」

 だが・・・

 「・・・トンズラだと? いい気になるな」

 レザールがそう言った次の瞬間

 ビュルルルルッ!!

 「なにっ!?」

 切り落とされたレザールの尻尾が、別の生き物のように飛び上がり、レッドの体に絡みついた。

 「くらえっ!!」

 身動きの取れないレッドにレザールは粘液を吐き掛け、レッドは大爆発とともに吹き飛ばされた。

 「グワァッ!!」

 「ディーン!!」

 「フン・・・」

 地面に転がったレッドに近づくと、レザールは容赦なく彼を踏みつけた。

 「グゥッ!!」

 「無謀だったな。たった一人でこの俺に勝てるとでも思っていたか? いや、たとえ5人そろっていたところで、どのみち結果は同じだ。たった5人で、我らクロセイダーの侵攻を止められるはずもない」

 そう言って、何度もレッドを踏みつけるレザール。だが・・・

 「・・・うるせぇんだよ。てめぇの言うことなんか、はなっから聞いちゃいねぇ」

 「なに?」

 「もう約束しちまったからな。この世界を必ず守ってみせるって・・・」

 「何をごちゃごちゃと!」

 再び足を振り上げ、レッドを踏みつけようとするレザール。だが・・・

 ドンッ!!

 「なに!?」

 その足がレッドを踏みつける直前、レッドは横へと転がってそれをかわした。そして、背筋をバネのようにしならせて一息に立ち上がると、そのままレザールに密着した。

 「これでもくらいな」

 硬い感触が腹にゴリリと押し付けられ、レザールの背筋を冷たいものが走った次の瞬間

 ドンッ!!

 「グアアアアアッ!!」

 拘束されたまま、レッドがレザールの腹に突き付けたリボルブラスターが火を噴き、レザールは後ろへと大きく吹き飛ばされた。そして・・・

 「グ・・・オオォォォォォリャアアアアアアア!!」

 ブチィィィッ!!

 レッドは全身に力を込めると、体に絡みついていたレザールの尻尾を引きちぎり、自由を取り戻した。

 「・・・慧子」

 「!!」

 それを見つめる慧子に背を向けたまま、レッドは言った。

 「俺には故郷がない。だから、俺にはわかる。帰るべき場所があることが、帰りを待ってくれている人がいる場所があることが、どれだけ幸せなことなのかを。俺はそれを守りたい。どこかの誰かにとってのかけがえのない故郷である世界を・・・」

 「ディーン・・・」

 「頼りにしてくれなくたってかまわない。それでも俺は・・・俺たちは、必ずこの世界を守り抜く。君の故郷の、この世界を」

 それを聞いた慧子は、やがて口を開いた。

 「・・・ありがとう、ディーン」

 「!」

 「私・・・信じるよ。ディーンたちなら、必ずこの世界を守ってくれるって。だから・・・負けないで!!」

 慧子の叫びに、レッドは背を向けたまま手を振った。

 「おのれ・・・いい気になるな。貴様一人で俺が倒せるものか!」

 一方、レザールもまた起き上がった。再び構えをとるレッド。そのときだった。

 「ならば、5人ならどうだ?」

 「なにっ!?」

 ドガガガガァァァァァァン!!

 突如、頭上から声が響いたかと思うと、空からいくつもの火球が降り注ぎ、レザールの周囲で大爆発が巻き起こった。

 「!!」

 「あれは・・・!!」

 頭上を振り仰いだ2人の目に映ったのは、空を飛ぶ3匹の奇妙な獣・・・そして、それらにまたがったリアたちの姿だった。2人の見ている前で、3匹の獣はゆっくりと地上に降りてきた。

 「まったく・・・お前という奴は、本当に手を焼かせてくれるな、ディーン」

 白い翼を背に生やした白馬・・・ペガサスに似た生き物の背から降り立つリア。

 「本当だよ。しかも、あたしたちをさしおいて二人きりで観光だなんて・・・あたしにも声かけなさいよね!」

 蛇のように長い体をもつ、龍に似た生き物の背から降りたマオが、不満そうにそう言う。

 「マオさん、論点が違ってると思いますけど・・・」

 獅子の体に鷲の頭と翼・・・グリフォンに似た獣の背からは、エリクが降り立った。

 「みんな! こんなに早く、どうやって・・・それに、この動物たちは?」

 「こいつらは王獣。俺の故郷、ビーストピアに住む聖なる獣だ。俺にとっては兄弟みたいな連中さ。名前はシエル、ラント、ダヤン。よろしくな」

 そう言いながら、バルトはペガサスのような獣、グリフォンのような獣、龍のような獣を順に指さしていった。3匹の獣は慧子に挨拶するように、それぞれ小さく鳴き声を発した。

 「よ、よろしく・・・」

 「お嬢様、ご無事で何よりです」

 と、バロン、マオとともにダヤンに乗ってやってきた沙耶もまた、一礼をしながらそう言った。

 「沙耶さん、ごめん。また勝手なことをして心配かけちゃって・・・」

 「お気になさらないでください。それに・・・お嬢様にとって、非常に有意義なお出かけだったようですね。お顔を見ればわかります」

 「うん・・・そうだね」

 照れくさそうに笑いながら、慧子はレッドを見た。レッドもまたこちらを見て、うなずいてみせた。と・・・

 「おのれ、超次元連合の手先どもめ! まとめて消し飛ばしてくれる!!」

 そう叫ぶレザールに対し、5人はずらりと横一列に並んだ。

 「沙耶さん、慧子を頼む」

 「承知いたしました」

 「いくぞ、みんな!!」

 「「「「オウ!!」」」」

 レッド以外の4人が、右手首のブレスのボタンを押す。

 「「「「レッツ・ユニオン!!」」」」

 一瞬にして彼らはユニオンスーツを身にまとい、五色の戦士が並び立つ。

 「ユニオンレッド!!」

 片手でクルクルと銃を回し、真上に向けて空砲を撃ち叫ぶユニオンレッド。

 「ユニオンブルー!!」

 白銀の長剣を大きく振るい、目の前で縦に構えて叫ぶユニオンブルー。

 「ユニオンイエロー!!」

 メカニカルなガントレットを装備した左腕を向けながら叫ぶユニオンイエロー。

 「ユニオングリーン!!」

 巨大な骨のハンマーをドンと地面に突き、仁王立ちをしながら叫ぶユニオングリーン。

 「ユニオンピンク!!」

 めまぐるしい動きで拳と手刀を振るう演武を舞い、大きく回し蹴りをして叫ぶユニオンピンク。

 「「「「「超次元戦隊! ユニオンジャー!!」」」」」

 ドガァァァァァァァァァァン!!

 声をそろえて叫び、一斉にポーズを決める5人の戦士。それぞれの背後で、それぞれと同じ色の爆発が巻き起こる。

 「一気に決めるぜ。ユニオンコンビネーション!!」

 「「「「オウッ!!」」」」

 レッドの声とともに、縦一列のフォーメーションを組むユニオンジャー。

 「同時に行くよ、リア!」

 「承知した。エリク、援護を頼む」

 「任せてください!」

 真っ先に飛び出したのは、ブルーとピンクだった。

 「ええい!」

 突っ込んでくる2人に対して、粘液を吐こうとするレザール。だが・・・

 「テックガントレット、ガトリングモード!」

 ユニオンイエローが左腕を構えると、その腕に装着されたガントレットが、瞬く間に左腕全体を覆うガトリング砲へと変形した。

 「ガトリングストーム!!」

 ユニオンイエローの叫びとともに、ガトリング砲が勢いよく回転を始め、次々に光弾を発射し始めた。

 「ウオオッ!?」

 次々に光弾が命中し、ひるむレザール。そこへ、ブルーとピンクが突っ込んできた。

 「ミスティックカリバー!!」

 「気刃扇!!」

 ブルーは白銀の長剣を片手に、ピンクは湾曲した刃をいくつも束ねたような鉄扇を両手に持ち、同時にレザールに襲いかかった。

 ズババババババババババッ!!

 「グアアアアアッ!!」

 青と桃色の影が旋風のようにレザールの周囲を舞い、彼の体をズタズタに切り裂いた。さらに・・・

 「頼むぞ! シエル、ラント、ダヤン!!」

 バルトの号令一下、3体の王獣たちが一斉に襲いかかった。

 ケェェェェェェッ!!

 甲高い鳴き声を発しながら、ラントが先陣を切る。旋風のような速さで地上を疾駆すると、ラントはレザールに飛びかかり、その体に鋭い嘴を突き立て、爪で引き裂くと、素早く離脱する。

 キシャァァァァァァァ!!

 続いてレザールに襲いかかったのは、光熱の火球の連射だった。上空にホバリングするダヤンが口から連射する火球が、次々にレザールに命中した。

 ブルルルルルルルルッ!!

 3体の王獣の連続攻撃の最後を飾るべく、空中からシエルが突進してくる。

 「グッ・・・あまいわ!!」

 だが、レザールはなんとかその突進をかわし、かわされたシエルはその背後へと着地した。しかし・・・

 ヒヒィィィィィィィィン!!

 高いいななきの声を発すると、シエルはその後ろ脚で思いきりレザールを蹴り上げた。

 「グオオオオッ!! フェ、フェイントだとぉ!?」

 「今だ、ディーン!!」

 「ありがとよ。狙いやすくていい」

 空中に無防備な姿をさらすレザールに、既にユニオンレッドはリボルブラスターの照準を合わせていた。そして・・・

 「ハイパーリボルバースト!!」

 ドンッッッッッッッッ!!

 リボルブラスターの銃口から巨大な光弾が発射され、レザールを直撃した。

 「ギャァァァァァッ!!」

 ドガァァァァァァァァァァァァン!!

 空中で木端微塵に吹き飛ぶレザール。ユニオンレッドはリボルブラスターをクルクルと回して腰のホルスターに戻すと、慧子に向かって振り返った。笑みを浮かべてうなずく慧子に、レッドもまた、力強くうなずき返してみせた。




 「ええい、やられてしまったではないか!!」

 レザールが倒された様子を見て、ザンニバルが憤る。

 「落ち着け、ザンニバル。まだ終わったわけではない。そうだな、バスケルラス?」

 「左様でございます。それでは、炎命処置を施すと致しましょう」

 バスケルラスはそう言うと、懐からレザールとそっくりの形をした人形を取り出し、床の上に置いた。

 「奇なる命の羅刹よ。消えかけたその命の残り火を燃やし、今一度その使命を果たせ!!」

 ゴオオオッ!!

 バスケルラスが叫ぶと、人形の周囲に怪しく輝く光の魔法陣が浮かび上がり、人形が激しい炎を上げて燃え上がった。




 それと時を同じくして

 ゴオオオオオオッ!!

 「!?」

 突如、空中に巨大な火の玉が現れたかと思うと、見る見るうちに膨れ上がり、そして・・・

 「まだだ! この命、燃やし尽くすまで!!」

 そんな声が響くと火の玉が内側から弾け飛び、中からビルよりも大きな体に巨大化したレザールが姿を現した。

 「ウソ!? 確かに倒したはずなのに・・・それに、あんなに大きく・・・」

 いきなり復活したばかりか、巨大化までを遂げたレザールを呆然と見上げる慧子。だが、5人は冷静にそれを見つめていた。

 「・・・やっぱりこうなったか」

 「やっぱり、って・・・?」

 「キメラリアンは一度倒されると、こうして巨大化して復活するんです。原理はいまだにわかりませんが・・・」

 「昨日の奴はなぜかそうならなかったけどな」

 「とにかく、そういうこと。おかげで前の戦いでも、かなり苦戦させられたわね」

 「そんな・・・こんな相手、どうすれば・・・」

 「心配するな。ちゃんと手は用意してある」

 レッドはそう言うと、ブレスに向かって叫んだ。

 「アークユニオン!!」





 穏やかに凪いだ水面が広がる東京湾。だが、突如その海面の一部が、大きく盛り上がったかと思うと

 ザッバァァァァァァァァン!!

 すさまじい轟音と水しぶきをたてて、巨大な白い鉄の塊が海中から勢いよく飛び出し、そのまま大空へと駆け上がっていく・・・その光景を、少し離れたところで漁をしていた初老の漁師が、呆然と見上げていた。





 「あれは・・・!」

 「アークユニオン。俺が乗っていた宇宙船を改造した、俺たちの切り札だ」

 海の方角から飛んでくる、白い巨大な宇宙船の姿を認め、驚く慧子に得意げに語るレッド。と、彼女の見ている前で、いきなり宇宙船は艦底に並んだレーザー機銃を一斉に発射した。

 「グオオオッ!!」

 レーザーの雨に打たれ、後ろにたたらを踏む巨大レザール。その隙に、宇宙船は彼らの頭上へとやってきた。

 「沙耶さん、慧子を連れて安全な場所へ!」

 「かしこまりました」

 「みんな!」

 「大丈夫だ。俺たちの力を見せてやる」

 レッドはそう言うと、他の4人とともに頭上を振り仰いだ。

 「「「「「ダイブ・イン!!」」」」」

 5人が叫ぶとともに、宇宙船の底部から緑の光がスポットライトのように照射され、その光の中に5人が消えた。

 「お嬢様、参りましょう。ここにいては皆様の戦いの邪魔になります」

 「うん・・・」

 沙耶に促され、慧子はその場を離れた。




 一方、光の中に消えた5人は、宇宙船・・・アークユニオンの艦橋へと転送されていた。バスケットコート半分ほどの広さの艦橋内部は、5人分のシートとコンソールパネルが設置されているほかはほとんど何もない、シンプルの極みともいえる内装である。床も壁も天井も白一色に塗りつぶされているが、5人がそれぞれのシートに着席すると、一瞬にしてそこにアークユニオン周囲の映像が投影された。

 「エリク、稼働状況は?」

 「ハイパープラズマエンジン、出力正常。各種兵装、タキオンレーダー、正常稼働中。何も問題ありません!」

 「よぉし・・・攻撃開始だ!!」

 ユニオンレッドが目の前のコンソールパネルに備え付けられた水晶玉のようなパーツを掴むと、それはぼんやりと発行した。それと同時に、アークユニオンは巨大レザールへと接近を開始した。

 「ユニオンキャノン、砲撃準備!!」

 レッドの声とともに、船体側面の装甲の一部が開き、内部から砲門がせり出す。砲門は自動的に角度を修正し、その砲口を巨大レザールへと向けると

 「発射!!」

 レッドが握る球体が光を放つとともに、強力なビームを連続して巨大レザールへと発射した。

 「グゥッ! 戦艦一隻持ち出してきた程度でいい気になるな! 沈めてやる!」

 数歩後ずさりながらも、爆発性の唾液をアークユニオンに向かって吐く巨大レザール。艦底に命中したそれは爆発を起こし、船体を揺らがせた。

 「無駄だ! そんな攻撃、何発喰らったところで・・・」

 「艦底部第一次装甲板、損傷率7%。確かに一発は大したことありませんけど、あんまり当たらないでくださいよ。あとで修理するのは僕なんですから」

 得意げなレッドに、イエローが冷静な声で釘を差す。

 「わ、わかってるっての」

 「それに、これ以上戦闘を長引かせるのも得策ではない。街にこれ以上の被害が出る前に、早くけりをつけなければ」

 ブルーがそう言うと、レッドもうなずいた。

 「そうだな。となれば・・・アレ、いってみるか?」

 レッドの言葉に、全員が彼を見た。

 「い・・・いよいよ実戦で使うんですか?」

 「当たり前でしょ? そのための機能なんだから」

 「そのとおりだ。この艦の改修にはお前も関わってるんだろう? 自分の仕事にはもっと自信を持てよ」

 緊張気味に言うイエローに、ピンクとグリーンがそう声をかける。

 「は・・・はい! やりましょう!」

 「よし。みんな、Dクリスタルをセットするんだ」

 「「「「オウ!!」」」」

 ブルーの声に応じ、5人がブレスのボタンを押すとブレスが開き、中に収納されていた結晶状の物体が露わになった。

 「頼んだぜ・・・」

 ブレスの中から赤い結晶を取り出し、見つめるレッド。他の4人の手にも、それぞれと同じ色の結晶があった。

 「「「「「Dクリスタル、セット!」」」」」

 5人が同時に目の前のコンソールパネルにその結晶をセットすると、たちまちブリッジ内に新たな力強い駆動音が響き始めた。

 「Dクリスタルドライブ、稼働開始。出力、順調に上昇しています!」

 「よぉし・・・いくぜぇ!!」

 レッドはそう叫ぶと、アークユニオンは船体を直立させた状態での上昇を開始した。

 「何の真似だ!」

 巨大レザールが爆発性粘液を吐くが、アークユニオンはそれを振り切り、さらに高くへ上昇する。そして・・・

 「Dクリスタルドライブ、臨界に到達! いけます!」

 「よし! みんな、いくぞ!」

 「「「「オウ!」」」」

 「「「「「ギアー・アップ!!」」」」」

 5人は一斉に叫び、コンソールパネルのキーを同時に回した。同時に、急上昇していたアークユニオンは一転、舳先を地上に向けて真っ逆さまに急降下を始めた。そして・・・それと同時に、その船体に変化が生じ始めた。

 船体の前半部が、船体の中心線に沿って二つに割れたかと思うと、そのまま前方へとスライド。舳先部分は90度上へと折れ曲がる。それはまるで・・・「脚」と「足」のようだ。

 主砲が収められた両舷側の直方体のユニットも、一部が船体から離れ、その最先端部からそれぞれ5本の「指」を持つ「手」が飛び出す。

 そして・・・最後に、アークユニオン最後尾のユニットが展開。その中からせり出してきたのは・・・「顔」だった。

 ドズゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 地響きと砂煙をたて、アークユニオンが地上に降り立つ。いや・・・それはもはや、アークユニオンではない。2本の足で大地を踏みしめ、すっくと立ったその姿は、まさしく鋼鉄の巨人。

 「「「「「完成! ダイユニオン!!」」」」」

 鋼の拳を握りしめ、剛腕を振るいながら構えをとる巨大ロボから、ユニオンジャー5人の熱い叫びが木霊した。




 「宇宙船が、ロボットに・・・!!」

 少し離れた場所にあるビルの屋上。逃げるならせめて彼らの戦いを見守れる場所に、と沙耶に無理を言ってここまでやってきた慧子は、アークユニオンが巨大ロボット・・・ダイユニオンへの変形を遂げたのを目の当たりにして、驚愕の声を発していた。だが、驚愕の度合いとしては、今まさにそのダイユニオンと対峙している巨大レザールの方が上だった。

 「巨大ロボットに変形しただと!?」

 いかにも頑健そうなその威容を前に、思わずうろたえる巨大レザール。

 「へへっ、どうだ。うまくいっただろ?」

 「やっぱり、何も心配することなかったわねぇ。よくできました」

 「は、はい! でも・・・」

 「なんだ、エリク?」

 「Dクリスタルドライブの出力値が、テスト時を大きく上回る数値を出しています。これは、一体・・・?」

 「俺たちの気合が、こいつにも伝わってるんじゃないか? なにしろ、これがこいつの初舞台だからな」

 レッドがそう言って、コンソールをポンと叩いた。

 「相変わらず適当なことを言う・・・しかし、私もその説には魅力を感じる。ならばこの初舞台、それにふさわしいものにしなければな、ディーン?」

 「ああ、言われるまでもねぇ。みんな、用意はいいな!?」

 「「「「オウッ!!」」」」

 「ええい、こけおどしを!!」

 「こけおどしかどうかは、やってみりゃわかるっての!!」

 巨大レザールが連続して吐いた爆発性粘液を、ダイユニオンは軽快な動きでかわしてみせた。

 「なにっ!?」」

 「今度はこっちの番だ! くらえ、ユニオンキャノン!!」

 両腕を巨大レザールに向けるダイユニオン。その腕の甲から砲台がせり出し、次々にビームを発射する。

 「グオオッ!!」

 「今だ、懐に飛び込め!!」

 「了解! ホバー・アタック!!」

 ダイユニオンは両足から高圧の空気を吐き出しながら、猛スピードで巨大レザールめがけ滑走した。

 「デヤァァァァァァッ!!」

 スピードを乗せたストレートパンチが、巨大レザールの頭に炸裂した。

 「ヌオアッ!?」

 「まだまだぁ!」

 続けてさらにフック、ハイキック、チョップ、肘打ちを次々に決めていくダイユニオン。

 「グ・・・つけあがるなぁ!」

 怒りに目を真っ赤に燃やし、振り上げた尻尾をダイユニオンの頭上に振り下ろす巨大レザール。だが、ダイユニオンはそれをギリギリのところでかわし、尻尾はアスファルトの道路の上にめり込んだ。

 「今だ!」

 ダイユニオンは地面にめり込んだその尻尾を、両手でしっかりとつかんだ。

 「なにっ! は、離せ!!」

 「いくぜダイユニオン! フルパワーだ!!」

 尻尾を掴んだまま、ダイユニオンはその全身に力を込め・・・そして、ハンマー投げの要領で、巨大レザールの体を思い切り投げ飛ばした。

 「ウオオオオオッ!?」

 「トドメだ! Dクリスタルエナジー、チャージ開始!!」

 ダイユニオンが右の拳を握りしめ、グッと腰を低く落とす。固めた右の拳に、輝く五色の光が宿る。そして・・・

 「「「「「スーパーユニオンクラッシュ!!」」」」」」

 ダイユニオンは思い切り地を蹴ると、輝く拳を振り上げ、巨大レザールの体に必殺の一撃を叩き込んだ。

 「グギャァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 全身から火花と電撃を発しながら、断末魔の絶叫を上げる巨大レザール。その声を背に、ダイユニオンは地響きとともに着地を遂げた。そして・・・

 ドガァァァァァァァァァァン!!

 上空で巨大レザールの体は、木端微塵に弾け飛んだ。

 「やったぁ! ディーンたちがやってくれたよ、沙耶さん!」

 「はい」

 ビルの屋上から沙耶とともに戦いを見守っていた慧子は、歓喜の声をあげた。

 「おや・・・?」

 「え・・・?」

 と、沙耶が何かに気付いたような声を発したので、慧子がその視線の先に目を向けると・・・

 ズン・・・

 ダイユニオンがこちらに体を向け、ガッツポーズをしてみせた。

 「・・・!」

 慧子は驚いた表情を浮かべたが、やがて、自らも同じポーズでそれに返してみせた。





 戦闘後、再びアークユニオンへと変形したダイユニオンは、そのまま慧子と沙耶のいるビルの屋上に飛来し、底面から緑の光を照射した。その光の中を通って、5人の戦士が屋上に降り立つ。

 「みんな!」

 安堵の笑みを浮かべ、5人に駆け寄る慧子。

 「ありがとう。約束を守ってくれて・・・」

 「礼はいらねぇよ。俺たちはまだ、約束を果たしちゃいないんだからな」

 「え・・・?」

 「クロセイダーとの戦いは、まだ始まったばかりです」

 「昨日の敵も今日の敵も、おそらく先遣部隊でしかないでしょう」

 「ああ。奴らが本腰を入れて攻めてくるのは、これからだろうな」

 「長い戦いになるのは覚悟しとかなきゃいけないわね」

 「だから、その言葉はとっておいてくれ。俺たちがクロセイダーからこの世界を守り抜いた、その時までな」

 「うん・・・!」

 ディーンの言葉に、慧子はうなずいた。

 「それじゃあな、慧子、沙耶さん。また会おうぜ」

 アークユニオンの底部から、再び緑色の光が照射される。そのときだった。

 「待って、みんな!」

 「ん?」

 何かを言いかける慧子。その肩に沙耶がそっと手を置き、慧子はそれにうなずいて、先を続けた。

 「あのさ、もしよかったらなんだけど・・・この世界を守るあいだ、私の家に住むのはどうかな?」

 「ええっ!?」

 慧子の思わぬ提案に、5人は目を丸くした。

 「みんなが本気で私たちの世界を守ってくれることはよくわかったわ。それなら私も、この世界の人間として、何かできることはないかって思って・・・。私には戦うことはできないけど、みんなの戦いを見守りながら応援することぐらいはできるんじゃないかなって・・・」

 「それは確かに、願ってもない申し出ですが・・・」

 「いいんですか? 一気に5人も押しかけることになったら、迷惑なんじゃ・・・。沙耶さんだって大変だと思いますけど」

 「迷惑などではございません。むしろ、お世話をする方が増えるのはメイドにとっての喜びでございます。それに、これはお嬢様が強く望まれていること。私が反対する道理などございません」

 沙耶もまたそう言った。5人は思わず、顔を見合わせていたが・・・

 「・・・わかった。それじゃあ、5人そろって厄介になるぜ」

 「ディーンさん!?」

 「ここまで言わせて断ったら、そっちの方が失礼ってもんだろ? アークユニオンで寝起きするより、慧子の家のベッドの方がずっと快適だしな」

 「ま、たしかにそれはそうだな」

 「それに、沙耶さんの料理が毎日食べられるっていうのは魅力的よね〜」

 「またお前は食べ物につられて・・・」

 「あら? そう言う誰かさんだって、ゆうべの食後のケーキがずいぶんとお気に召していたようですけど?」

 「マ、マオ!」

 「とにかくだ。騒がしくなるだろうけど、よろしく頼むぜ、慧子」

 「うん。よろしく!」

 笑顔を浮かべうなずきながら、慧子はディーンの差し出した手を握り返した。


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