「さあ、どちら様も良うござんすね、それでは賭けていただきましょう」
 
 「丁!」 「半!」 「丁。」 「丁!!」 「さぁ半方ないか、半方ないか!?」
 
 ここはとある極道が仕切る闇賭博場。時代劇でおなじみの「丁半」が行われていた。もちろん違法行為である。
 
 
 



 「ちょおおおおおおおおおおおおお!!」
 
 ここにやたら気合の入った声で掛札を出す男が一人。おなじみのくたびれた黒スーツに無精髭、死んだ魚の目をしたゴキブリ男、山口十三である。
 
 (・・・先生、お元気ですか? また「力」を食べる為に使ってしまいました・・・不肖な弟子を許してください)
 
 またもや前回と同じく心の中で懺悔する。そして時を同じくして振り壷が取り払われる。
 
 
 
 
 「ピンゾロの丁!」 
 
 「うぅぅおっしゃあああああああああ!!!」
 
 歓喜の叫び声を上げる十三。これで内臓を担保にして借りた10万も5倍に膨れ上がった。この時点で10万と利子、サックスのメンテ代、ガソリン代を差し引いてもお釣りが来る。だがこの男は強欲にもまだ続けようとする。つい今しがた懺悔したのは何だったのだろう?
 
 (先生・・・一つご報告があります。やはり競馬は生物故か不確定因子が多すぎたようです。単勝狙いだと3回に1回の確立で外れてしまうことが判りました。やはりアカシックレコードは俺如きに制御できるものではないようです。その点、丁半はサイコロの音を聞けばいいので100%的中しま・・・・あ?)
 
 突然十三は立ち上がると、振り師をにらめ付ける。
 
 「おいオッサン、今・・・サイコロの音違ったな?」
 
 すると振り師はいきり立ち、
 
 「あぁ? なんだ手前は? ここで揉め事を起こすってのがどういうことか分かってねえようだな」
 
 「ああ、俺にとって人生とは計算し続けることじゃなくて音楽を奏でることなんでな。先の事なんか知ったことか」
 
 「そうかい、じゃあ具体的に教えてやるよ!!」
 
そう言って振り師が手を叩くと背後の襖が開き、屈強そうな男が30人程現れた。しかし十三はまったく引く様子を見せない。
 
 「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 
 
 先手必勝、と言わんばかりに十三の方から殴りかかった。
 



     仮面ライダーFAKE

 ♯2 DRAD DOG
 



 ガシャン! ガラガラガラ・・・

 ゴミ捨て場に一人の男が投げ捨てられる。全身に殴られた後があり、青痣がいたるところに出来ている。
 
 「い、いててて・・・こりゃ、調子に乗って罰が当たったな。変身しないと、俺の力は「常人より少し上」程度だって事忘れてた。あと、今日の一言、もうちょっと未来のことも計算しよう」
 
 その男、十三は体を起こそうと試みるが、全身が痺れて動かない。
 
 「くぅ・・・はぁ、暫く動くのは無理だな。あ・・・ヤバイ、眠い。ゴミがなんか暖かい。おやすみ」
 
 それだけ言うと、この男はゴミ捨て場で瞼を閉じて寝息を立て始めた。するとそこへ一人の青年が通りかかる。
 
 「お〜い、大丈夫ですか〜? ・・・息は・・・あるよな・・・、このままほっといても・・・そんな訳にもいかないよな、よいっしょと」
 
 そう言うとその青年は十三を肩に担いで運び始めた。
 
 「うわっ、くっさ!!」
 
 その青年は通常の感覚を持つ人間なら当然の感想を言うと、肩に担ぐのを止め、足を引っ張り、引きずって行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 狭い会議室で、二人の男が組み立て式の机を挟んでパイプ椅子に座って向かい合っていた。一人は非常に大柄で鋭い目付きを。もう一人は対照的に小柄で軽薄な目付きだ。

 大柄の中年が口を開く。

 「奴はどうしている?」

 小柄な少年が口を開く。

 「なんかヤクザにボコされてゴミ捨て場で寝てる・・・ねぇ、やっぱり間違いだよ。こんな奴が「イノベーター」だなんて。あまりにも威厳とか神々しさが無いよ。っていうか万が一そうだったらヘコむよ」
 
 「しかし一つの場所の留まるとメルヴゲフを引き寄せるという性質をもっている」

 「だ〜か〜ら〜、それは「ブートレグ」だからだって。だいたいヒデヒコ、もし奴が「イノベーター」だとしたら弱すぎるよ」

 ヒデヒコと呼ばれた大柄の中年はヤレヤレといった感じで肩を竦めると、

 「物事を一面だけ見て総てを理解できたと思うのはお前の悪い癖だ、ヨースケ。とりあえず今は俺の命令に従ってくれ」

 ヨースケと呼ばれた小柄な少年は、渋々といった感じで小さく頷いた。

 「でもどうするの? このまま何時までも見ているだけってわけにもいかないよね? それにもうすぐヨーロッパから「エニグマ」がこの国へ来るんでしょ? こんなことしているヒマ無いんじゃない?」

 「無論だ。・・・一曹、アヤド一等陸曹はいるか?」

 ヒデヒコが呼ぶと、会議室の扉を開けて一人の男が入ってくる。そのアヤドと呼ばれた男は、狼のような鋭い目をしていた。

 「はっ! 御呼びでしょうか、ヤマシタ・ヒデヒコ一等陸佐、及びマツモト・リョースケ二等陸佐」

 そして2人に向かって敬礼する。そしてヒデヒコは十三の写真をみせる。相変わらずやる気の無い目をした無精髭の男が気持ち悪い半笑いで、サムズアップをしている姿を納めた写真だ。

 「この男が「ブートレグ」なのか、それとも・・・「イノベーター」なのかを知りたい」

 最後の言葉を聞いた瞬間、アヤド一曹は驚愕の表情を見せた。

 「な・・・! 三人目が・・・存在したのですか!? しかもこんな男が!?」

 「さぁね。僕は違うと思ってるんだけどね。まぁソレが本当に「イノベーター」なのかを確かめるのが今回の君の任務だ」

 「了解しました・・・それで、自分は具体的に何をすればよろしいのでしょうか?」

 今度はヤマシタが応える。

 「いいか、「イノベーター」なら此処へつれて来い。「ブートレグ」なら・・・判っているだろう? お前を呼んだということは。確かめる方法もだ」

 するとアヤド一曹はニヤリと笑った。口元から鋭い牙が見える。

 「お任せください。しかしそうなると標的が「イノベーター」で無いことをつい望んでしまいますね。久しぶりの狩り、楽しみですよ」

 「楽しみすぎて足元をすくわれるなよ」

 「了解です。それでは」

 そういうとアヤドは狭い会議室から出て行った。




 残っている二人は暫く沈黙を続けていたが、リョースケが口を開いた。

 「ねぇ、万が一あの彼が「イノベーター」なら、アヤド君死んじゃうよ。いいの?」

 「ああ、殺されるだろうな、確実に。しかも一瞬で。だが「ブートレグ」一匹で奴が「イノベーター」だと判れば安いものだ。」

 「フフフフフ、それもそうだね」

 (まさかあの時残した小僧・・・では無いだろうな)
 
 
 
 
 
 
 
 













 「ひ、ひ、や、止めてよ、お願いだから、殺さないで。何でも言うこと聞くから!! 死にたくない!!」

 少年が助けを請う。目の前にはなんとなくゴキブリを思わせ、額から生え腰まで伸びる長い触角、黒く変色したボディ、鋸の刃のような物を腕から生やした化け物が立っていた。辺り一面は血の海で、少年の「大切な人」が「大切だった物」に変わって転がっていた。

 「前ハ・・・面白イ、残シテ置イテヤル。オ前モ俺ト「同ジ」ヨウダカラナ」

 それだけ言うと、その怪人は姿を消した。






























 十三は目を覚ますと、背中がびっしょり濡れていた。なんだか懐かしい夢を見たようだ。

 そして最初に目に入ったのは、茶色にくすんだ天井だった。そして近くには見知らぬ青年が、何かを喚いていた。

 「・・・違う、こんなのは「偽者」だ、本物じゃない。くっそ、ダメだ!!」

 そういうと青年は描いた絵を破り捨て、丸めて投げ捨てる。その丸めた紙が十三に当たる。

 「オイ青年、確かに俺はゴミの中で寝るゴミのような男だが、まだゴミじゃないぞ、一応」

 驚いた顔をして青年が振り向く。目の下にはクマが出来ていた。

「 ああ、すいません、起こしちゃいましたか。傷は大丈夫ですか?病 院に連れて行こうとも思ったんですけど、怖い人達が逃げて行ったのが見えたから」
 
 「ああ、助かった。もし病院に連れてかれたら金が無かったからな。荷物は何処やった? あとお前さんの名前は? ここは何処だ?」

 「名前は森山と言います。ここは、僕のアパートです。ええ〜と、荷物は、玄関に置いてあります。服とかは・・・失礼ですけど、あんまり臭かったんで勝手に脱がして洗わせていただきました」

 そう聞くと十三は苦笑して、

 「ソイツはあり難い。俺は山口十三。十三と呼んでくれ。それと、お前さん絵を描くのか? さっき偽者がどうだのっていってたが・・・」

 そういって辺りを見回すと、周りには散乱した絵の具と絵筆、それに破られた絵が大量にあった。十三はそれらの絵を見て「どれも何処かで見たことがある」、そう思った。

 「・・・一応美大生なんですけどね・・・これが「絵」と呼べるかどうか・・・」

 すると十三はサックスを取り出し、

 「なんか知らんが、スランプに陥っているみたいだな・・・そうだ、お礼と言っちゃあ何だが、俺のサックスを聞かせてやる。音楽と絵の違いはあるが、同じアートだ。なにか手掛かりになるかもしれねぇ」

 そう言われると、森山は少し考えたが、結局「それじゃあお願いします」と言った。
 
 「よし、任せとけ。それじゃ、何を演ろうかね・・・」

 と、部屋を見回すと、映画「時空警察ドランサー  〜炎の約束〜」のパンフレットが落ちていた。これは、現在低迷するドラえもん映画の起死回生を図って製作された映画だ。当初は様々な理由から批判を浴びたが、タイムパトロール隊の苦悩、機械と人間の熱い友情、便利すぎる道具に対する警鐘など、高いメッセージ性が子供のみならず大人にも受け、結果的には日本の映画興行成績を塗り替えるに至った。

 「よし、じゃあドランサーのカンヌ出展記念だ。コイツを聞かせてやる」


 〜〜〜〜♪


 それは心地よい演奏だった。ジャズのスタンダード、と言った感じのごく聴き慣れた曲調だ。いや、訂正しよう。聴き慣れた感じがするのは曲調だけが理由ではない。おそらく全日本人が知っているであろう曲だったからだ・・・“そんなこといいな、出来たらいいな”のあの曲である。

 曲がフェイドダウンする。

 一瞬の間を置いて、激しいスタンディングオベーションを送る森山。そして演奏とは別に気になっていることを聞く。

 「・・・あの、今の・・・凄く素晴らしかったんですけど・・・「ドラえもん」ですよね? 今の」

 「ああ。「Draemon No Uta」って言うんだ。悪くねぇだろ? ・・・いつつつ!」

 突然十三が顔をしかめて苦しみ出す。

 あまり知られていないが、サックスに限らず吹奏楽系の楽器は演奏するのにかなり体力を使う。肺活量を増やす為に走りこみをしたり、重量のある楽器(軽いトランペットなんかは別だが)を演奏中支え続けるために腕力を鍛える、と言ったことはザラだ。そして、その為にまだ完全に癒えていない昨日の傷が疼きだしたのだった。

 「大丈夫ですか!? もう少し寝ていた方がいいですよ」

 「つつつ・・・大丈夫だ、すまん、本当はすぐに出て行かなきゃならんのだが・・暫く厄介になってもいいか?」

 「まぁ、怪我人を放り出す訳にもいかないし・・・いいですよ」

 「悪ぃな」










 ・・・深夜

 「くそっ、何でだ! 何で「本物」が描けないんだ!!」

 森山はまたも描いた絵を破り捨てる。そこへ十三が起きて来た。

 「オイ、あんまり根を詰めるな、うまく行かない時は寝るに限るぞ。酒でも飲んで寝ちまえ」

 「・・・また起こしちゃいましたね、すいません。でも、まだ眠るわけには・・・」

 そういって黙々と絵を描き続ける。十三はその光景を暫く黙って見ていたが、ゆっくりと口を開いた

 「なぁ、それならちょっと外の空気吸ってこねえか? 俺もなんだか眠れなくてな、ちょっと付き合え」

 そういって、十三は森山を無理矢理外へ連れ出した。何故か荷物を持って。













 二人は暫く黙っていたが、森山の方から切り出した。

 「・・・あの、一ついいですか?」

 「あ? なんだ?」

 「どうして十三さんは、旅を続けているんですか?」

 「この歳でもまだ定職にも就かずにフラフラしてる奴を軽蔑するか?」

 十三は笑いながら言った。

 「いえ、そういうことじゃなくて・・・昼間、サックスを聞かせてくれましたよね。あれだけの演奏の腕があれば、プロにだってなれるでしょう?」

 と、疑問を口にする森山。すると十三は困った顔をして、

 「あ〜いや、自分でもメジャーで通用すると思うし、プロに成りたいのは山々なんだがな、少し事情があってな。一つの場所に留まることができねぇんだ。・・・・・・・・悪いな、もっと思想的な理由だと思ったか? “「本物」を探して旅をしてる”とか」

 森山はドキっとした。

 「お前の言う偽者ってのは「オリジナリティが無い」とか、そういうのだろ。あの絵を見る限り」

 「・・・はい。なんていうか、「自分の絵」を描いてるつもりなんですけど、描き上がって見ると何処かで見たことがある・・・。そんなのがずっと続いて・・・」

 「・・・「本物」ってのが何か考える前に、まず「偽者」について考えようや。お前さ、「FAKE」って言葉の意味知ってるか?」

 「それ、今時小学生でも知ってますよ。「偽者」でしょう。それがどうしたんですか?」

 「ああ、そうだ。たしかに「偽者」だ。だがな、ジャズじゃあ「原曲を自己流でアレンジして演る」って意味なんだ。そして俺はここで一つお前に聞きたい」

 「え?」

 「昼間に聞かせてやった「Draemon No Uta」、覚えてるよな? アレも一種の「FAKE」なんだが、お前はアレが、「偽者」だと思うか?」

 「・・・思いません。というか思えません」

 「だろう? あれは、「自分なりのアレンジ」だよな。そこでだ、俺がいいたいのは、「誰かの絵」を「自分のタッチ」で描いてみたらどうだ? どんなモンでも無から有を作り出すなんて不可能なんだから。一回カタに嵌ってみるってのも必要だと思うぜ」

 そういうと森山のアパートに向かって歩き始めた。



 (・・・まぁ、実をいうと俺も何が本物かなんて判らないんだけどな)



 「十三さん」

 呼ばれて振り返ると、そこには晴れやかな顔をした森山が居た。何も言わず十三はニッと笑い、また歩き続けた。その時・・・



 ドクンッ!



 突然十三が足を止めた。死んだ魚の目に緊張が走る。今夜眠れなかった理由が、先程から感じていたこの感覚。どこかで味わったことがある。そうだ、昔、全米を修行しながら回っていた時に野宿していた所を野犬に襲われた経験を思い出した。逃げても逃げても執拗に追って来る、この絡みつくような視線!



 「・・・悪い、もう出て行く・・・用事が出来た。やっぱり荷物持って出てきて良かった」

 「こんな深夜に? 明日にした方が」

 「・・・「一つの場所に長く留まれない理由」を教えてやる。俺はな、昔から理由は判らんが、引き寄せちまうのさ・・・」

 「え? 一体何を?」

 「こんな奴らだよ」

 淡々とした調子で、十三は闇に向かって鉄ゲタを飛ばす。

 ガキン!! 何かに当たった音がする。

 ボト 何かが落ちた。そこには真っ黒な、人のような、そして蟻のような生物が、頭を吹き飛ばされて落ちていた。

 「ひっ! メ、メルヴゲフ・・・・!!」

 「判ったらさっさと逃げろ。守りきる自信はねぇ」

 先程とは打って変わって冷たく言い放つ十三。森山は駆け足で逃げ出すと、闇の中へ消えていった。するとそれに合わせるように、何処からともなく3体の蟻人間―メルヴアーマイゼ―が現れた。

 「はぁ、今夜といい昨夜といい、一対大勢キャンペーン開催中ですか? 俺は弱いんだよ、そういうのは先生とか「先生のお嬢さん」を対象にしてくれよ」

 半分本気の軽口を叩く十三。そして自分と同じく「赤い仮面ライダー」に助けられ、そのことが人生の指針となった美しき黒髪の女戦士を思い出した。そういえば彼女は如何しているだろう? 男とか出来ていたらちょっとショックだな・・・そうなる前に誘ってみるか? でも何故か俺嫌われてるんだよなぁ・・・・っと、よそ事なんか考えている場合じゃない。体の状態を確認し、ヤクザ家さんに殴られた傷は完治したことを把握する。さすがはゴキブリの生命力といったところか。

 「来い、カブ」

 そう十三が叫ぶと、突然スーパーカブが無人走行でこちらへ向かってくる。それに十三は跨ると、エンジンを吹かし一番手近にいたメルヴアーマイゼに突撃する。そして敵の眼前で大きくジャンプする。

 「おぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!!!」

 前輪でメルヴアーマイゼの顔面を踏みつけ、そしてそのまま着地。クリーム色の液体が飛び散る。
 
 「ギギギィ!」
 
 だがそんな光景に怯むことなく、残る二匹が襲い掛かってくる。エンジンを急始動させて攻撃を回避する。
 
 「くらぇぇっ、ジャック・ナイフ・ターン!!」
 
 今度は前輪を支点に回転し、後輪で二匹同時に殴りつける。
 
 「どぉぉぉだ! どーせ、手前らはスーパーカブのことを「郵便配達のオジサン専用マシン」とか思ってただろ!? だがなぁ、シングルシートに大型レッグガード! さらに高いメンテ性! ちょいと手を加えてやりゃあ戦闘バイクに変身すんだよ!」
 
 一匹は吹き飛ばされ完全に息絶えるが、もう一匹はヨロヨロと立ち上がる。十三はそれを見るとバイクから降り、生き残った一匹に近づくと、馬乗りになり首を掴んだ。
 
 「寝てろ」
 
 そう一言いうと、キャメルクラッチを決め、首をへし折った。
 
 
 三匹すべて倒しても、十三は警戒を解かない。先程感じた感覚とこの蟻共のそれは違うからだ。そして闇に向かって叫ぶ。

 「さぁ、出て来い。早くしないと帰っちまうぞ。俺は俺の人生を愛しているからな、俺の時間を大切にしたいんだよ」

 すると闇の中から一人の男が現れた。狼のような鋭い目をした男が。

 「・・・それはベンジャミン・フランクリンの引用か?意外と充実した外部記憶だな。もっと惰性で生きている男かと思った」

 「ああ、8年前まではそうだったがな。ある人と出会ってから少しでも自分を高めたくて、その手の類の物は読み漁ったよ」

 すると、男は少し羨ましそうな顔をした。

 「自分を変えたいと思う男、いや漢に出会ったか。その時点でお前の人生は尊敬に値する」

 そらどうも、と十三は言うと、臨戦態勢に入る。

 「そう焦るな、もう少し話をしよう。さて、お前に聞きたい。何故お前は戦っている?」

 「ん〜・・・・・・ノリ? 「山口十三」が戦う理由としては。俺、ジャズマンだし」

 すると、目の前にいる男は怒りを露わにする。

 「貴様・・・「仮面ライダー」を名乗るだけのことはあるかと思ったが、所詮「FAKE」か。失望したぞ。まぁいい。ここまでは私事、ここからは仕事だ。見極めさせてもらう、貴様が「ブートレグ」か「イノベーター」かを。「ブートレグ」で有ることを望むぞ、狩りがしたいからな」

 そういうと目の前の男も臨戦態勢を取る。それを見て十三は全身に力を込めて叫ぶ。

 「Arrangement!」

 メタモルフォーゼを開始し、序々に全身が黒く変色する。

 「最後に一つだけ、私の名はアヤド・エーヂ。またの名を・・・」

 そういうとその男、アヤドの体が突然盛り上がり、十三と違い一瞬でメタモルフォーゼが完了する。

 「へ、何処の「組織」の「改造人間」だ? 自分で言って悲しいが、俺はお前らにみたいなのにマークされる程ビッグじゃねえ筈。何しにきやがった?」

 目の前には、青い狼が、人間のように二足歩行で立っていた。

 「そんな事は貴様に言う必要はない。それから私が改造人間? 違うな。私は狼のメルヴゲフ・・・「ブートレグ・イノベーター」、メルヴヴォルフだ!」

 「な? 人語を話し、人間に擬態するメルヴゲフだと!? それから“海賊版”(ブートレグ)って何!?」

 十三は旅に出てから11年、人間を襲うメルヴゲフを数限りなく倒してきた。しかしその総ては野獣と同じ、本能のまま暴れまわるだけであった。しかし目の前にいる男は先程まで自分と人間の姿で会話していた。

 「どういうことだオイ? お前がメルヴゲフだと!?」

 十三は問い詰めるが、メルヴヴォルフはそんなことをお構いなしに襲い掛かる。

 「何を驚いている! 貴様とてそうであろうが!?」

 「はぁ!? 何の話!?」

 メルヴヴォルフの拳が眼前に迫り、十三は紙一重で回避する。そして全力で後退、間合いを取る。完全に変身しきるまで逃げ回らなければならないのが悲しい。

 「ククク、どうやらそんな事も知らないらしいな。まぁいい、教えてやろう。貴様も我々と同じ、メルヴゲフだ!!」

 その言葉を聞き、一瞬十三の動きが止まる。しかしさして気にも留めない様子でまた動き出す。

 「・・・・まぁ、何故か俺が戦う相手はメルヴゲフばっかりだったからな、何か因果性が有るのは薄々自分でも感じてたさ。驚きゃしない。だいたい「こんな体」だしな。だがちょっと待て、じゃあ世界中に発生してる連中は何だ? 明らかに俺やお前とは違うぞ!!」

 「そこから先は、もしもお前が、真の「イノベーター」だったら教えてやる。そうでないのならこの場で死ね!」

 「さっきから何なんだよ、「イノベーター」(新しい音楽のジャンルを確立した人)って! 俺はまだそこまで凄いジャズマンじゃねえぞ!」

 逃げ回りながら絶叫する。今度はメルヴヴォルフの蹴りがしゃがんで避けた十三の頭上を掠める。その時だった。

 ビリッ!

 突然何か十三の背中で音がした。

 「あ?」

十三は背中を見ると、バックリ服が破れていた。

 「あ、ヤベ・・・」

 そう、今十三が着ている服はいつものヨレヨレの黒スーツでは無い。その為メタモルフォーゼの際の筋肉の膨れ上がりに耐え切れず、破れてしまったのだ。黒スーツは余りにも臭かった為、洗濯をしてそのまま荷物にしまい込んだままだ。


 「ちょっとタイムタイムタイム!! スマン、服着替えさせて、ね、お願い」

 あの黒スーツは単なる服ではない。彼が以前出会った「先生」から贈られた物で、「シルベール」なる特殊繊維で作られた特殊防護服なのだ。戦闘形態の全身が生態装甲で覆われていない十三にとって、あの服を着ているか着ていないかは死活問題である。

 余談だが、この黒スーツはもともと「先生」が着ていた「Z」なる特殊強化服のデータを流用して作られたものである。その「Z」は未完成で5分間しか使用することが出来ず、制限時間を越えると装着者もろとも爆発してしまうという恐ろしい欠点があった。そしてこの欠点は「完全機密性であること」「人間の動きを強化するためのサーボ機構の限界稼働時間」から生じるものであった。その為に「先生」はこの服を十三に贈る際にこの二つの機構をオミットした。つまり、「Z」スーツを「人体強化服」ではなく、「単なる変形する防護服」とすることによってこの欠点を解消したのである。当然それは「Z」スーツの利点をも殺してしまうに等しかったが、むしろ「強化服としての性能をオミットする事によって、十三自身の力で戦わざるを得ないようにする」という「先生」の狙いもあったようだ。




 「何をワケの判らないことを言っている!!」

 そんな事情は知ったことでは無いメルヴヴォルフは、問答無用で回し蹴りを繰り出す。

 「グホァッ!!!」

 血反吐を吐いて吹き飛ぶ十三。そしてゴミ捨て場に突っ込む。



 「動かんな・・・死んだか? と、言うことは「イノベーター」ではなかったということか。詰らん、ゴミめ」

 そういってメルヴヴォルフは踵を返した。




 「キシャァァァァァァァァァァァァッァ!!」




 突然ゴミの山から異形の叫び声が。後ろを振り向くと、黒い物体が飛び出してきた。

 「・・・ツァア、死ぬかと思った!メ タモルフォーゼが間に合った。っていうか、だから俺はゴミじゃねえよ! ゴキブリだ!」

 そこには、変身前と変わらない髪形、黒いボディ、長い触角をもつ仮面ライダーFAKEが立っていた。

 「ふん・・・流石に何百匹もメルヴゲフを葬ってきただけのことはあるか」

 そういって再び臨戦態勢をとるメルヴヴォルフ。

 「くらえええええ!」

 絶叫しながら殴りかかるFAKE。だがメルヴヴォルフは軽々とそのパンチをかわすと、逆に膝蹴りを叩き込む。

 「ゴフッ!!」

 「どうした、その程度か!?」

 「ヘッ、何? もっと強いと思っててくれたの? うれしいねぇ」

 口から流れ出す薄い緑色の血を拭いながら軽口を叩く。完全に遺伝子の配列が変化している為、血の成分等も大きく変わってくるのだ。

 「減らず口をっ!」

 強力な上段突きを叩き込んでくる。それを仰け反るようにかわすFAKE。しかし仰け反りすぎて後ろに転倒してしまう。

 「しまっ・・・・」

 「終わりだ!!」

 ガキィィィィィィィィィィン!!

 「何ぃ!」

 十三は足の鉄ゲタでメルヴヴォルフの拳を受け止め、すぐさまブレイクダンスのように回転、メルヴヴォルフを蹴り飛ばす。

 「グハッ!」

 「舐めてくれるな、第二話で死んでたまるかよ」

 と言いつつ後退し距離をとるFAKE。そして考えていた。

 (コイツ・・・ただのメルヴゲフじゃねぇ。なんつったか・・・6年前メキシコで戦った・・・ロックバンドみてーな名前の・・・そうだ、思い出した。「エニグマ」の「コマンドアント」と同等かそれ以上! となると、コイツに聴かせてやるか、俺の「アドリブ」を!)
 
 

 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・

 十三は瞼を閉じると、長い触角を振動させる。

 「どうした、掛かってこないなら此方から行くぞ!」

 メルヴヴォルフはそう叫んで腕を振り上げて突撃してくる。そして眼前に迫った瞬間、FAKEは瞼を開けた。

 (聴き取った。耳コピ完了!)







 ドガァ!!






 派手な音を上げて吹き飛ぶFAKE。再びゴミ捨て場に突入する。だが、吹き飛ばした当のメルヴヴォルフは、怪訝な顔をしている。

 「・・・貴様、何をした?」

 今度は平然とした様子でゆっくり起き上がるFAKE。特にダメージを受けていないようだ。

 「別に。強いて言えばお前の正拳がクリーンヒットしたんじゃねえ?」

 「クリーンヒットだと・・・? いや、違う!」

 再び強力な正拳突きを放つメルヴヴォルフ。

 ス・・・

 だが受け流され、体勢を崩す。

 「そんな馬鹿な!」

 今度は先程FAKEをゴミ捨て場へ吹き飛ばした回し蹴りを放つが、虚しく空を切る。

 「ど、どうなっている!? 貴様、急にスピードが上がったぞ! 全力を出していなかったというのか!?」

 驚愕の声を上げるメルヴヴォルフ。それに対して普段の脱力した調子で応える。

 「あ〜アレだ、全力を出してなかったのはアタリだが、別に俺のスピードが上がったワケじゃない。ただ俺は、お前のリズムをレガート(滑るような演奏)にしただけだ」

 「な、何だと!? どういうことだ!?」

 「めんどくせえな。俺は「先生のお嬢さん」と違って完全に文系だからな、説明するのは苦手なんだよ。Don′t think,Feel.そういう訳だ」

 という訳で代わって解説しよう。十三は生物や空気の流れ、物質の固有振動数まで「聴き」取ることが出来る。それによって相手の攻撃を予測できることができるのは前回説明した通りである。そしてさらに聴き取ったそれらを「曲」として捉えることによって「自己流に曲をアレンジする」、すなわち「FAKEする」ことができる。そうすることによって自分よりも高い技量を持つ相手でも「ペースを乱す」・「「虚」を突く(又は作り出す)」・「攻撃を逸らす」等のことが可能になるのだ。これは「この世界」で生きていくには余りにも脆弱な戦闘力しか持たない十三ならではの能力と言える。




 「こっからは俺のワンマンステージだ、いくぞ!」

 そう言うと目にも留まらぬスピード・・・ではなく、メルヴヴォルフの「虚」をついた動きをし、一瞬で間合いに入り込む。

 「ハァァァァァ!」

 ガキンッ!

 強烈なアッパーを顎に喰らわせる。

 「もぉぉぉぉぉぉいっぱぁぁぁぁぁつ!!」

 ドスッ!

 さらにメルヴヴォルフが仰け反った所へ、ボディブローを決める。

 「ぐは!げはっげは、調子にのるなぁぁぁぁぁ!!」

 FAKEに向かって上段蹴りを放つが、先程と同じく「虚をついた動き」でかわされる・・・いや、外される。

 そして後ろに回り、両腕を交差させて大きく振り上げる。


 ギュイイイイイイイイイイイイイイン!!

 腕から生えている鋸状のカッター「ジャグ」が高速で振動し、唸りを上げる。

 「コレで終わりだ。 Two・・・・Bass・・・・ヒィィィィィィィィィィィィィィィィット!!」


 バシュウッ!!!

 「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 強力なチョップを叩き込んだ!メルヴヴォルフは断末魔の叫び声を上げ、背中にはくっきりとX字の傷が刻まれる。そして異形の狼は大地に顔をうずめる。













 「何故だ、貴様のような・・・戦う理由もはっきりしない輩に・・・・」

 メルヴヴォルフが怨みの言葉を発する。十三はそれに応える。

 「人の話は良く聞け。さっきは「山口十三」が戦う理由を言ったんだ。「仮面ライダー」が戦う理由は「俺達の世界」みたいな「闇」に巻き込まれて犠牲になる人間を一人でも減らすためだ。テメエがどんな理由で戦ってるか興味ねぇが、この理由より軽いなんて言わせねぇ。例えゴミと言われようと化け物と蔑まれようと、俺は・・・これだけは・・・譲れねえんだ」

 十三は、口調を強めて吐き出す。それを聞くとメルヴヴォルフは満足気な顔をし、

 「・・・どうやら・・・無礼を・・・・言った・・・よう・・・だ・・・・やはり・・貴様は・・・・・「仮面ライダー」・・だ」

 それだけいうと、メルヴヴォルフは事切れた。

 「・・・まだ、「偽者」で、「自己流」だけどな。・・・・・あ、「イノベーター」ってどういう意味か聞くの忘れた・・・ま、いいか」
 
 そして植え込みへ声を掛ける。

 「・・・見てたんだろ、気付いてるさ」

 其処には、腰を抜かした森山が居た。気が動転し、訳の判らない事を発する。

 「ひぃ、な、アンタ、メ、メルヴゲフって、どういうことだ?ぼ、僕を騙したのか?殺して・・・食う気なのか?・・・や、止めろ、助けてくれ、近寄るな化け物!」

 最後の一言を聞くと、足を止めるFAKE。そしてクルリと背を向け、バイクに向かって歩き出した。

 「・・・・絵、がんばれよ」

 「え?」

 一言だけそう呟くと、変身を解く。そしてカブを発進させ、闇の中へ消えていった。



















 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・

 夜の街を駆け抜ける十三。普段の死んだ魚の目が、今は死んで腐って異臭を放っている魚の目になっている。





 「ねぇ、ちょっとアレ・・・」 「うわ、最悪」 「頭大丈夫か?」

 ? 街行く人が自分を見ている。なんだか良くない物を見る目で。

 ウゥゥゥゥゥゥゥゥ ウゥゥゥゥゥゥゥゥ

 パトカーのサイレンの音がする。無条件でドキっとする十三。

 「・・・そこのバイク、止まりなさい。そこの変態バイク、止まりなさい」

 変態? 何をいっとる。俺の何処が変態だっていうんだ? 俺はゴキブリであって決してカニではないぞ。アレ、そういえば、なんかいつもより体に当たる風が冷たい。そう思って自分の体を見ると、

 「なぁぁぁぁぁ!!全裸やんけ!!」

 忘れていた。今回変身した際、いつもの黒スーツではなかったことを。

 「くっそおおおおおおおおおおお、最悪!!!」

 「そこの変態バイク、止まりなさい。聞こえないのか、止まりなさい。繰り返す・・・・・」

 夜の街に、泣き声のようなバイクのエンジン音が何時までも響いた・・・・・








つづく。


























メルヴゲフ解説

・メルヴアーマイゼ
 蟻タイプのメルヴゲフ。集団で現れることが多い。特筆すべき能力は無く、銃器を持っていれば通常の人間でも倒すことが可能なぐらい弱い。特長を強いて言えば、内骨格と外骨格両方を有することぐらいである。
 なお、通常のメルヴゲフはとある波長の音波、電波等に集まる習性がある。


・メルヴヴォルフ
 青い狼タイプのメルヴゲフ。「ブートレグ・イノベーター」であるため、通常のメルヴゲフと違い人間形態、高い知能、自我を持つ。特殊な能力は無いが格闘戦に優れ、強力な徒手空拳で戦う。単純な格闘能力で言えばFAKEを上回る。




















あとがき

仮面ライダーFAKE♯2、いかがだったでしょうか?カニドコです。
ぶっちゃけ今回の話は、十三のキャラを固める為だけの話です。
しかし・・・もうちょっとなんとかならんかったんかいな。自分で言って何ですけど目茶目茶不自然な話の流れですね。「FAKE」の意味を説明する話を
一つ描きたかったんで無理矢理詰め込んだって感じ。

一つ解説を。
劇中で十三が演奏した「Draemon No Uta」は実在します。小曽根真さんという世界的に有名なピアニストがお作りになった曲です。ですから本当はサックス曲ではなくピアノ曲ですが、そこは十三が編曲したということで。

さて、♯3では新キャラも登場します。どうか優しい目で見守ってください。

あと、キャラと組織の名前を貸してくださった影月さん、「瞬のことを十三は知っている」設定を了承してくださった邑崎九朗さん、有難うございました。

それでは。


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