「・・・大丈夫です。連中に先手は打たれましたが、退けたようです・・・・はい。さすが、腐っても「仮面ライダー」を名乗るだけのことはあるようですね」

 一人のオールバックの美形男性が携帯で誰かと連絡を取っている。高級そうな大型のバイクに持たれかかり、シートには何か楽器が置かれている。そして高級感溢れる黒いスーツとネクタイを着用していた。

 「はい。彼の所在は把握しています。今から身柄を引き取りに行って来ます・・・・・はい、それでは。後は宜しく」

 ピッ!

 携帯を切り、屋上から街を見渡す。

 「さて、あの馬鹿は如何していますかね・・・・」


仮面ライダーFAKE

♯3 FISHERMEN, STRAWBERRY AND DEVIL CRAB
A PART


 狭く暗い会議室で、二人の男が話し合っている。

 「・・・・アヤド一曹は死んだようだな」

 大柄な男、ヤマシタ・ヒデヒコ一等陸佐は予想通り、といった感じで呟く。

 「うん、想像以上に強かったことは認めるよ。こないだの発言は撤回しなきゃ。でもアレはイノベーターとは違うね。これでアイツからは手を引くんだよね?」

 小柄な少年、マツモト・リョースケ二等陸佐が異を唱える。

 「いや、逆だ。今後、我々は奴の捕獲を目的に動く」

 疑問を口にしようとするリョースケを制して、ヒデヒコはレポートを手渡す。

 「情報本部の同志に調べてもらった物だ」

 そういって「山口十三ナル人物ノ身上ノ調ベ」と題されたレポートを手渡す。

山口十三

1976年12月20日生まれ。生まれつき変身能力を所持していた為「マスターテープ」である可能性が高い。

1989年9月23日、一家及び研究員全員が惨殺され、ただ一人生き残るという謎の猟奇殺人事件に巻き込まれる。その際父親の研究所でもあった家が全焼。その後アメリカ・ニューオーリンズの親類に預けられる。

1993年12月20日、傷害事件を起こすが不起訴になる。その後、家を出て放浪生活を続ける。

1993年〜2000年、放浪生活を続ける。ストリートミュージシャンとして生計を立てる。一般的な知名度はほぼゼロだが、米国の業界筋ではそれなりに有名らしく西海岸の某有名レコードが破格の待遇でスカウトするが「俺の周りには化け物が集まるから」という理由でコレを蹴る。このことから推測するに「指揮官タイプ」で「制御」が巧く効いていない様子。またこの頃に風見志郎と接触があったと思われ、1年間ほど師事していた。また、その間に世界征服を企む秘密結社「エニグマ」の南米支部のいくつかを風見志郎と共に壊滅させた模様。

2001年〜現在、日本に帰国し放浪生活を続けているが何らかの目的がある様子。引き続き調査を進める。


 「・・・普通、こっちの調査が先じゃない?履歴だけでもコイツが「イノベーター」だってわかるよ。それに・・・・・しても15年前に一家惨殺事件、父親は山口零博士か。ヒデヒコ、君、最初から解ってたね?」

 と、非難に対しヒデヒコは背中を向ける。

 「言おうが言うまいが何れ分かることなのでな、黙っていた」

 「ふ〜ん、ま、いいや。・・・で? じゃあなんで前回アヤド君を送り込んだの? いっとくけどアヤド君、かなり強い方なんだよ。単純な身体能力なら一般的な改造人間にも匹敵するんだし。結構な損害じゃん。それに正直いってさ〜かなりアヤド君お気に入りだったんだよね〜。ま、それはどうでもいいけど」

 「奴のデータを取りたかった。正攻法で戦うアヤド一曹は最善の相手だからな。そして得たデータがこれだ」

 そういって一枚の紙を手渡す。

 「・・・・なにこれ? これが「イノベーター」だって? 流石に何かの間違いだよ。敏捷性と精密動作性、あと聴覚だけは異常に高いけど、他の数値が「エニグマ」の「コンバットコープス」に毛の生えたような物って。それにどういうこと? てっきりMRタイプのデータが「描き込まれて」いるものだと・・・・」

 「・・・・・もしそれが「ホワイトスコア」の状態だとしたら?」

 ヒデヒコの言葉にリョースケは目を見開く。

 「まさか! 意図的に「ホワイトスコア」状態での戦闘力を高めた「ブートレグ」ならともかく、「イノベーター」が「ホワイトスコア」状態でこれだけの戦闘力を有するなんて。それにコイツの年齢は28・・・いくら初期型でバグを抑える為に描き込み速度を抑えてあるとは言え、年を重ねすぎているよ。これで「イノベーター」って言うんなら、唯の不良品だ」

 「そう、唯の不良品のハズ。だが、意図的に力を抑えている可能性もある。と、言う訳でもう一体、いや二体か。もう少し強い相手をぶつけてみようと思っている」

 すると、リョースケは怪訝な顔をする。

 「アヤド君より強い奴? 何? 試作機でも誰かに着せて使うの?」

 「いや、自衛隊にはもう少し用があるからな、流石にアレを使う訳にはいかんさ。それに「アレ」を使えば「陰陽寮」だの「特救」だの、鬱陶しい「正義ぶった連中」が我々に絡んでくる口実を与える事になる」

 「じゃあどうするのさ?」

 「・・・その代わり、「描き込み」を行う。何にせよデータは取っておきたい」

 「描き込み!? いいの? 一応「ブートレグ」も貴重な戦力なんだけど。それに誰に行かせる、っていうか逝かせるの?」

 するとヒデヒコは妖しい笑みを浮かべる。

 「取り敢えずイガラシ曹長は確定だな。奴はこの先計画に支障をきたす恐れがある」

 「あ〜あの馬鹿? アイツムカつくもんね〜。さっさと死ねばいいのに」

 「フフ・・・俺はそこまで嫌いではないが。奴の行動原理は我々の基本理念に忠実であるとも言えるからな。まあ、そんな事はどうでもいい。もう一人は誰にするか・・・シブヤでも送り込むか」

 「あ〜なんか超適当。そういうの好きじゃないな〜。前に僕が言った事覚えてる?」

 「何故、過去の連中が滅びたか・・・・という奴か? 下らんな。単に連中が弱く、『仮面ライダー』共が強かっただけだろう。それに私は安易に選んだ訳では無い。「ピアノ」と「フォルテ」、つまり有機タイプと無機タイプの描き込みのデータが欲しいだろう」

 「ふぅ・・・・ん、ま、いいけど。で?なんて説明するの?」

 「クククククク・・・・・説明?なんの話だ?それと前にも言わなかったか?「ブートレグ」など所詮使い捨てに過ぎんと」

















 「イノベーター理論・・・消費者の購入の・・・あ、これ全然関係ねーな」

 図書館、ここは知の宝庫。だが、今その場所に知的な雰囲気が全く感じられない男が一人。おなじみの覇気の全く無い目によれよれの真っ黒なスーツ、無精髭に楽器のケース、そして何故か鉄ゲタという理解に困る格好の男、山口十三だ。

 (・・・・生科学者だった俺の親父は、俺の事を「ミュータント」と言った。普通の人間とも、近年現れた「アギト」や「オルフェノク」のような人間の進化系とも違う、一品物の生命体だと。だが、この間現れた奴は俺の事をメルヴゲフと、そう言った。どっちの言うことも鵜呑みにすんのもアレだしな)

 彼は普通の人間では無い。生まれつき特殊な因子を持ち、ゴキブリに似た戦闘形態へメタモルフォーゼする能力をそなえたミュータントだ。そして彼はその能力を「仮面ライダーFAKE」として人類の自由と平和の為に使う正義の戦士・・・なわけだが、彼は「何故自分が特殊な能力を持つのか?」という疑問をコレまで持ったことが無かった。そう、この間戦った人間に擬態する謎の狼男と戦うまでは。

 「だぁぁ、一体なんなんだよ、『イノベーター』って」

 その狼男は彼に『自分はイノベーターと呼ばれる特殊な存在』であることを聞かされたワケだが、その『イノベーター』が何者であるかを聞くことは出来なかった。故に彼はこうして『イノベーター』と言う言葉の意味を片っ端から調べている訳であるが・・・・

 「つってもヒントなんか有る訳ねーよなぁ・・・・『イノベーター(革新者)』なんてどう考えても隠語の類だろうし。あ〜腹減ったな〜、肉が食いて〜タンパク質が欲しい・・・・」

 そういって本を投げ出すと、ため息をつく。



 その時、

 カチッ・・・!

 嫌な金属音が常人の数千倍の聴覚を誇る十三の耳に届く。アメリカに居たときや、「先生」と一緒に1年間ほど世界中を回ったときに良く聞いたあの、拳銃のセーフティを外す音だ。
 だが十三はあえて気が付いていないフリをし、音の主が近づくのを待つ。

 ゴッ・・・・

 案の定、黒服にサングラスのいかにもって感じの男が、後頭部に布で包まれた硬い物体を押し付ける。

 「キシュシュシュシュシュシュシュ・・・・山口十三だな、一緒に来てもらおうか」

 「サインが欲しいなら今ここで書くぜ?つっても当面の間はデビューするつもりはねーけどな」

 「せっかくだから演奏を聴かせて欲しいなぁ・・・あんたの「アドリブ」はなかなかの物らしいって最近死んだ同僚が言っていたぜ」

 フ・・・と十三は不適に笑うと両手を挙げて「降参」のポーズで立ち上がる。

 「・・・・OK。図書館じゃ迷惑だから他の場所へ行こうか」

 黒服の男は十三に拳銃を突きつけたまま図書館の外に連れ出し、停車させておいた窓にスモークが張ってある車に乗るように促した。その時、

 ブォン!!

 「!?」

 ガシャァァァァァン!!

 突然、誰も乗っていないバイクが黒服の男に体当たりし、吹き飛ばす。そして十三は素早くそのバイクに跨る。

 「ったく、見た目が唯のスーパーカブだからって俺の相棒を舐めんな」

 そういうと十三はエンジンを始動させ走り去っていく。

 「くそっ!! 追え、逃がすな!!」

 黒服の男も車に乗り、運転席の部下に指示を出す。

 「よし・・・・追って来い・・・『イノベーター』ってのが何なのか聞き出してやる・・・アレ? ここまでの展開、なんか俺カッコ良いな・・・」






 そして十三は人気の無い、大量にコンテナが積まれた倉庫街まで車を誘導し、そこで停車する。男の車も遅れて停車し、車の中から先程十三に銃を突きつけた男の他、3人の黒いマントに身を包んだ男が現れ、十三を取り囲む。

 「もう逃げられんぞ、キシュシュシュシュシュシュ・・・・・おとなしく此方へ来てもらおうか」

 男は懐からサブマンシンガンを取り出し、十三に向ける。

 バッ!!

 そして同時にマントを身に纏った男達が全員それを脱ぎ捨てると、前回も倒したアリ人間 ―メルヴアーマイゼ― が現れる。しかも今回はその内3体が自動小銃を構えているのを見て、十三はげんなりする。

 「シュシュシュシュシュシュシュ!! まだ用意してあるぞ、出て来い!!」

 さらにコンテナの陰から七体、同じくメルヴアーマイゼが現れる。こちらは銃火器の類は装備していない。十三はここに誘導したつもりだったが、どうやらここに来ることは読まれていたらしい。まぁもし今までの十三のデータを調べているのなら、戦う時なるべく人気の無い場所に移動しようとするのはすぐに予想できる事であろうから、大して驚かない。

 「・・・・だから俺は弱いつってんのに・・・対異種生命体用の改造がされた89式が3丁て・・・用意する戦力が過剰なんだよ。あー、マジでお嬢さんに符術とか教えてもらっときゃよかった」

 そう言いつつ、油断無く自分がどのように取り囲まれたか確認する。取り敢えず十三がこれまでの状況で把握している事は、目の前の最初に銃を突きつけてきた男はあんまり有能じゃなさそうな事。前回襲ってきたお喋りワンちゃん(メルヴヴォルフ)の仲間なら十三のバイクが自動操縦できる事は知っている筈なのに、簡単にカブに邪魔されたり、ここまで誘導させたことは兎も角、その仕込みは偉く中途半端だったりすることがそれを物語っている。

 (となれば!!)

 十三は正面の男に向かって突進する。

 「馬鹿め! 痛い目に合わんと分からんようだな!!」

 「それ、自分に言ってんのか? 飛び道具を持って標的囲むなんざ愚の骨頂」

 タタタタタタタタタタタタタタ!!

 男の指が引き金に触れる音を合図に、マシンガンの射線から体をずらす。そして放たれた弾丸は十三の体に触れることなく、真後ろに立っていたメルヴアーマイゼの一体に当たる。そしてメルヴアーマイゼは緑色の血を撒き散らし、息絶える。
十三は陣形が乱れた隙に包囲された状況を難なく脱し、叫ぶ。

 「Arrangement!!」

 メキメキメキメキメキ・・・・!!

 その言葉を叫ぶと同時に十三の体が黒く変色を始め、それと同時に徐々に筋肉が盛り上がる。そしていつもなら、この後変身が完璧に完了するまで逃げ回るという醜態をさらすのだが、今回はこの状態でも倒せない訳でもないメルヴアーマイゼに向かって行く。

 「ギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!」

 メルヴアーマイゼは鋭利な牙で噛み付こうとするが、十三は紙一重の動きでかわし、逆に首を取る。そしてそのまま地面に倒れこみ、首をへし折る。

 「はい二匹目〜」

 だが当然、地面に倒れこんだのを好機と一体、別のメルヴアーマイゼが襲い掛かる。だが十三にとってその動きは予測済み。

 「おおっと!」

 ガキッ!!

 十三は前回のメルヴヴォルフ戦でも見せた、ブレイクダンスのウィンドミルを応用した寝た状態からの起き上がり回転キック。先端となる足先の鉄ゲタも重さによって遠心力を増した十三の汚い足は凶悪な鈍器と化し、メルヴアーマイゼのわき腹を抉る。

 「三匹目。あと八匹」

 そして振り向いた先にたまたま目が合ったメルヴアーマイゼを踏み台にしてコンテナに駆け上る。

 「馬鹿め! そんな高所は絶好の的だ!撃て!!」

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!

 黒服の男に指示され、十三を弾丸の嵐が襲う。たちまち着弾によって土煙が上がり、その姿が覆い隠される。






 「よーし、撃ち方止め」

 「ギギ、少シ、ヤリスギデハ?」

 黒服の男が属する『組織』によって人間の脳が移植され、副官的な役割を持たされたメルヴアーマイゼ(角がついてる)が黒服の男に問う。

 「キシュシュシュシュ・・・この程度で死んでしまうようならどのみち必要ない。まあどっちにしろ重傷で動けない筈だ。さっさと捕獲しろ」

 そう指示され、メルヴアーマイゼが二体、コンテナに登ったその時、

 「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 スパスパッ!!

 「あと五匹・・・・・・」

 思わず耳を塞ぎたくなるような雄叫びと共に、二体のメルヴアーマイゼの首が宙を舞う。
 そしてそこには賢明なる読者諸兄の予想通り、腰まで伸びる長い触角、両腕から生える、メルヴアーマイゼの血で濡れた鋭い鋸状のカッターを持つゴキブリに似た異形・・・・

 「紛い物にして亜流、俺はFAKE、仮面ライダーFAKE!!」

 「馬鹿な!! 貴様、あの弾丸の雨をどうやって・・・・」

 驚愕する黒服の男。するとFAKEは自分を、いや自分の着ているスーツを指差す。

 「はっ・・・CDの売り上げは曲の内容だけじゃなく、ジャケットのデザインも関わってくるってことだ。この服は先生のご友人の恋人の方が御作りになられた特殊繊維だ。そんな鉛弾で抜けるような安物じゃないんでね。最も8年間に渡る俺の貧乏生活でヨレヨレにはなったが。っていうかな、「仮面ライダー」がそんな銃弾で仕留められると思うのは甘えんだよ。風見先生なんか筋肉で弾いたぞ」

 「おのれ・・・・こうなれば!!」

 ベキベキベキ・・・・!!

 黒服の男の体が盛り上がり、そして弾ける。そして男が立っていた場所には、黄色く光る丸い目、複雑な色彩から脂ぎった光を放つ鱗を持つ、ヘビと人間を掛け合わせたような見た目の化け物が立っていた。

 「シュシュシュシュシュシュ・・・・俺はヘビのメルヴゲフ、メルヴシュランゲだ! 力ずくでも一緒に来てもらうぞ、イノベーター!!」

 「チッ・・・」

 FAKEはコンテナから飛び降りると、周りを囲むメルヴアーマイゼにも注意を配りながらメルヴシュランゲと対峙する。

 暫く続く沈黙。そして先に痺れを切らしたのはメルヴシュランゲだった。口を突然大きく開いた。

 「くらえぇぇぇ!!」

 ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウ!!

 「ぬおぉぉ!?」

 得体の知れない液体がメルヴシュランゲの奥歯から発射される。FAKEはそれをとっさにかわし、その液体は背にしていたコンテナに命中する。するとそのコンテナはたちまち溶けてしまった。

 「シュシュシュシュ!! どうだ、俺の毒液の威力は!? 例え貴様の特殊服でもこの毒液に当たれば一たまりもあるまい!?」

 「くっ!」

 たまらず後退し、距離を置くFAKE。すかさずそこに自動小銃を持ったメルヴアーマイゼ部隊が追い討ちを掛ける。

 「頭だ! 特殊服に覆われていない頭部を狙い撃ちにしろ!」

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

 「痛ってえ!!」

 FAKEは悪態を吐きながら両腕で頭部を庇うが、数発の弾丸が頬やこめかみを掠める。たまらずコンテナの陰に逃げ込むFAKE。

 「シュシュシュシュシュシュ!! そうだ、包囲して追い詰めろ! 逃がすんじゃないぞ」

 「ギギギギ!」

 メルヴシュランゲの指令を受け、FAKEが隠れたコンテナにメルヴアーマイゼが近づく。

 「・・・・・ふぅ、やっぱり余裕こいてる場合じゃねえな・・・・・、演るか!」

 ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・・・・・

 FAKEは長い触角を震動させ、ごく小さな波動を起こす。その波動の反射音は敵のより正確な「リズム」と「コード」をFAKEに教えてくれる。そしてFAKEはFAKEする。戦場と言う楽譜に描き込まれた敵の動き、鼓動、さらには思考というメロディを。

 「・・・OK! 3 2 1 Let’s JAM!」

 バッ!

 FAKEは小さく呟くと、コンテナの陰から飛び出す。

 「馬鹿め、自分からいぶり出されて来るとは!撃て!!」

 ガガガガガガガガガガガガガガガ!

 放たれた銃弾は、総てFAKEに命中した・・・・かのように見えた。

 「おい、何処を見てんだ?」

 「!?」

 次の瞬間、FAKEはメルヴシュランゲの背後に立っていた。そして左腕を取る、というより腕に飛びつきメルヴシュランゲの左腕を両足で挟み、倒れこむ。

 バキバキバキバキ・・・!

 「ぎゃああああああああ!!」

 関節が砕ける音とヘビを絞め殺したような嫌な叫び声があたり一面に木霊する。

 「これでテメエの左腕は使い物にならなくなったなぁ、おい。もう一本も、もらうぞ」

 「ひぃ・・・! く、くそ、喰らえ!!」

 ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 再び毒液を奥歯から発射するが、無理な体勢で放たれたそれは当然FAKEに当たるはずも無い。腕を放して回避する。

 「キシュ・・・・くそ、やれ! 撃て! もういい!! 撃ち殺せ!!」

 「ギギ、ソレハ、命令違反デス」

 「うるさい! 逆らうのか!? キシャァァァァァァァ!!」

 意見したメルヴアーマイゼに激昂し、溶解液を発射する。命中したそれは見る見るうちにメルヴアーマイゼを溶かしてゆく。FAKEはそれを見て鼻(は変身中なので無いが)で笑う。

 「あ〜あ〜、無能な上司を持つと部下は苦労するなぁ。俺は楽だけど。あと四匹」

 「グググ・・・・あの薄汚いゴキブリをさっさと駆除しろ!」

 「ギギ」

 ジャキン!

 四度銃を構え、FAKEを狙う。だが、

 ヴゥゥゥゥゥン・・・・ヴゥゥゥゥゥン・・・・

 「ギ・・ギギギ!?」

 「な、なんだ、あの動きは? データに無かったぞ!?」

 それは非常に奇怪な動きだった。FAKEの体がブレて見えるのだ。暗闇で蛍光灯を振った時のような、しかしそれ以上に連続的で、しかもゆっくり動いているのだ。

 「テメエ先刻アドリヴが聴きたいって言ったよな? だからこうして聞かせてやってるんだよ、グロウル・トーン(音を歪んだように)でな!」

 「クッ! くそ、騙されるな! 所詮こけおどしだ!! 撃て撃てぇ!!」

 ガガガガガガガガガガガガガガガ!

 FAKEは発射された弾丸を避けない。なぜなら必要が無いから。FAKEは銃弾の発射音から、敵一人一人のクセや銃のパターンを「聴き」取り、それにあわせて、銃弾が飛んでこない軌跡を動いた。それが彼らの目にはFAKEの姿が「歪んで」見えたのだ。

 ビュウッ!!

 一瞬、FAKEの体が大きく歪んで見えた次の瞬間、その姿が消える。

 「!????????」

 「何処へ行った!?」

 「さて何処かな?」

 ズバン! ズバン! ズバーン!!

 至近距離でFAKEの声が聞こえたと思った瞬間、三体のメルヴアーマイゼが、一体は袈裟懸けに、一体は首を刎ねられ、最後の一体は胴で二つに寸断される。

 「残り一匹・・・・あとはテメエだけだな」

 「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 懲りずに溶解液を発射するが、それは再び避けられる。そして一旦距離を取り、大空高くジャンプする。そして空中でキックの体勢を取り、勢い良く急降下する。

 「Jazz giant!!」

 ドガッ!!

 「ぐああああああああああああああああ!!」

 強大な応力が集中し、下駄の歯がメルヴシュランゲの腹部に食い込む。そして反力により弾き飛ばす。

 「く、お、おのれ・・・・」

 だが、メルヴシュランゲはよろよろと立ち上がる。しかしFAKEは素早く後ろに回りがっちりホールドする。そして首筋に腕部のカッターを押し当てる。

 「おっと、動くなよ。コイツ、意外と切れるぜ? さて、ここでお前にお得な情報がある」

 「な、なんだと?」

 FAKEは仮面の下でニヤリと笑う。

 「だーかーら、「イノベーター」とか、「ブートレグ」とか、俺がメルヴゲフだとか、お前らの目的とか、そういった物お前が知る限り全部!」

 「そ、そんなことを話したってお前が俺を見逃すなんて保しょ・・・痛だだだだだだだだだだだだ」

 FAKEは首を締め上げ、もう一度良く脅して置く。

 「別にいいけど俺は。どっちかっていうと俺Sだし。それにまぁ一応言って置くとだ、俺がただの「山口十三」なら全部聞き出した後ブチ殺しているだろうが、残念ながら俺は偽者でも「仮面ライダー」でな、悪党相手でも約束は守るぜ?」

 寧ろMだろう、というツッコミは置いておくとして、今度はカッターを少し首筋に触れさせる。

 「わ、分かった! 話す! 全部話す!!」

 「最初からそう言えば良いんだよ・・・まず「イノベーター」ってのは何だ?」

 「お、俺も良く詳しい事は知らん。ただ全く新しい「改造人間」の雛形だとか、そんなような事しか知らん」

 「新しい改造人間・・・・・? まぁいい、はい次、「ブートレグ」ってのは?」

 「それについても良く知らねえ!ほ、本当だ!俺達の事を指すってことぐらいしか。あ、あとなんでも「イノベーター」の廉価版が俺達らしい」

 「あと俺がメルヴゲフってのは? メルヴゲフが出現したのは本当は15年ぐらい前って事は知っているが、それにしたって俺は今年で28だ。辻褄があわねえんじゃねえの?」

 一般にメルヴゲフは未確認生命体、アンノウンに続く第三種の異種生命体ということになっているが実際に始めてその姿を見せたのは1988年だと言われている。その存在を世界各国の政府が秘匿した理由は、お約束の軍事利用を考えていたらしい。だが実際には改造人間や強化服に比べると圧倒的に見劣りする為、結局は見送られたらしい。
 その後はパニックを避けるためというマシな理由で秘匿されてきた(メルヴゲフが一般装備で対抗できる程度の戦闘力しか持ち合わせてなかった為、秘匿が容易だった)が、2000年の未確認生命体事件、翌年の連続不可能犯罪事件を経て異種生命体の存在が明らかになり秘匿しておく必要性が無くなったため、それから近年になりメルヴゲフの出現率が異常に高まった為、さらに言えば仮想敵が存在すると何かと便利という理由から一般に公開されたという複雑な経緯を持つのである。


 閑話休題。


 「それについても知らん。・・・・いででででででで、本当だって!! ただ、一般に溢れかえってるメルヴゲフってのは「失敗作」らしい。で、メルヴゲフの完成態が俺達「ブートレグ」やアンタみたいな「イノベーター」らしいぜ」

 「“失敗作”? ってことは誰かが作ったってのか?」

 「悪いけどそれもしらねえ。ただそうやって言っていたのを聞いただけだ」

 はぁぁ、とFAKEはため息をつくとうんざりした声で続ける。

 「本当にお前何にも知らねえんだな・・・まあいい、じゃあこれでラスト! お前の属してる組織の名前・規模・目的は? これを知らんとは言わせねえぜ」

 「そ・・・それは・・・・」

 十三が吐かせようとしたその時だった。



 スパン!

 「くっ!・・・しまった!!」

 鋭い刃物がFAKEに迫り、間一髪で頬を掠めるに留まる。しかし、その隙を突いてメルヴシュランゲが逃げられてしまった。そして逃げ出した方向には一人の男が立っていた。

 「ハア、ハア、悪い、シブヤ、助かった」

 「イガラシ・・・貴様、次は無いと言う事は分かっているだろうな」

 そのシブヤと呼ばれた男は鋭い目付きでメルヴシュランゲをにらめ付ける。

 「オイオイ、急に出てきて。今度はお前が相手か? そっちの脳味噌カリカリ梅よりは何か知ってそうだな」

 FAKEが突然現れた男を呼びつけると、その男はこちらを振り向いた。

 「ああ、これは申し訳ない。自己紹介が遅れましたね、イノベーター。本当はお相手したいのですが今は此方の都合が悪いので、これで勘弁していただきたい」

 そういってその男は腰を落として構える。

  バサッ!

 「!?」

 突然、その男の背中から翼が生え、そしてその翼からミサイルが発射される。

 ドガドガドガドガドガァァァァァァァァァァァァァァン!!

 ミサイルがFAKEに殺到し、ソレを紙一重でかわしていく。そして爆発によって巻き上げられた土埃が晴れた後に怪人と男の姿は無かった。

 「うわっ! ・・・・ちっ、逃げられたか。せっかくあの後メシも奢らせようと思ったのによ」

 八割方本気の冗談を言いつつ、変身を解く。

 「そいつらの正体について知りたいですか?」

 後ろから声がした。十三の良く知る声が。

 「お前が来るってことは、やっぱりあいつ等唯のチンピラ怪人共じゃねえってことか。音河」

 十三が振り向くと、そこにはオールバックの整った顔立ちの青年が立っていた。

 「久しぶりですね、十三」






 B−PARTへつづくゥ!!
















メルヴゲフ解説

・メルヴシュランゲ
 ヘビの能力を持つメルヴゲフ。彼も「ブートレグ・イノベーター」で有るため、通常のメルヴゲフと違い人間形態、高い知能、自我を持つ。
自分を有能な策士だと思っているが、無能。戦闘能力も低い。但し、奥歯から発射される溶解液は非常に強力。


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