「弾が切れた!援護を、援護を頼む!!」

「何故だ!?おかしい!!予定数よりも弾の数が少ない!!」

「隊長!!松本隊長ぉぉぉ!!」

硝煙と血のにおいが漂う戦場に怒号が響く。

「諦めるんじゃない!もうすぐ救援が来る!!生き残れ、それが俺達のルールだ!!」

 初老の隊長が、絶望する部隊員を励ましながら、一人、また一人と敵兵を打ち倒していく。だが、多勢に無勢、さらに弾薬の数が圧倒的に足りない。明らかに規定量より少ない。まさか、『独裁官』共が裏切ったのか。
 昨日は唯一、自分の目で弾薬を確認するのを忘れた。まさか、ただ一日、一回『ルール』を破った次の日にこんな事になるなんて。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

「テイパー、ランダム!!」

 敵無人戦車からの砲撃。それに巻き込まれ2人の同僚が戦死。砲撃は続く。だが、悲しむ暇など無い。
次に初老の隊長の瞳に映ったのは、すべてを焼き尽くす地獄の業火だった。



♯4  My RULE


「ストラーイク! バッターアウト!」

 美しいサブマリンのフォームで投げられた白球が、キャッチャーのミットの中に納まる。それと同時にスタジアムに歓声が上がる。
 野球を観戦している、大衆の中に、その中にその男は居た。その男は、実年齢はもう70を過ぎるというのにも関わらず、少年のような容姿をしていた。
 そしてその男の背後に、『他人の印象に残らないような格好を装った』、灰色の背広の男が近づく。

「マツモト二佐、休暇中のところ申し訳有りませんが、お仕事です」

 その背広の男は、そのマツモトと呼ばれた、少年のような男に用件を告げる。

「何? ああ、ついにイノベーターの捕獲が成功したのかい?」

 マツモトが嬉しそうな声を上げて振り向くと、背広の男は決まりの悪そうな顔をする。

「いえ、申し訳有りません。そちらの方は現在進行中でして・・・・」

「じゃあ、何? もう例の強化服の生産は、まだ時間が掛かるし、世界中のメルヴゲフの、日本への集結もほぼ終わってるんでしょ? 僕らの仕事は、あとイノベーターを捕獲しなきゃ先に進まないじゃない。何やってるんだか・・・・」

(お前がさっさと前線に出て、あのイノベーターを捕獲すれば直ぐにでも我々の作戦は発動できるんだよ、くそ蟹・・・)

「何か言った?」

「いえ」

 背広の男は内心で舌打ちする。

「それで、仕事って何?」

「それが、その・・・我々を支援している政治家と、同志が事故で死亡しまして・・・」

 そこまで背広の男が言うと、マツモトは分かったといわんばかりに、背広の男の口に手を当てる。

「ああ、分かったよ。ったく、面倒臭い」

 そういって席を立つ。すると、その後ろでまた歓声が上がる。どうやら選手の一人がヒットを放ったらしい。

「しかしマツモト二佐、分かりませんね」

 背広の男がふと、疑問を口にする。

「我々、『改造人間』が、生身の人間のスポーツなど見て、面白いものなのですか?」

「うん、面白いよ。君はそうは思わないのかい?」

 マツモトは屈託の無い笑顔を浮かべて答える。

「はい。失礼ながら時速150キロ前後程度の球が『速い』とされる世界の勝負事など、私には滑稽なお遊戯にも見えません」

 背広の男は眉をピクリともさせずに、そっけなく言う。

「成程ね、僕だってそんなのを楽しみに見ているんじゃないよ」

「では、一体どういう・・・・」

「ルールさ」

「は?」

「ルールに規定された中で、自らを鍛え、敵に打ち勝つ。その姿勢そのものが、美しいとは思わないかい?改造人間か否かに関わらずね」








 マツモトが向かった先は、表向きはハコモノ行政の批判を浴び、放棄されたはずのメガフロート(海上に浮かぶ巨大建造物)を利用した、海底基地だった。ここがマツモトら多数のメルヴゲフが所属する悪の『組織』、つまりICPOでのコードネーム『MtM』の本拠地である。

 ここで一つ、疑問が出来る。なぜ、元々政府の所有物だったメガフロートをMtMが所有しているのか?その答えは簡単である。




 MtMは日本政府に所属しているからだ。




 MtMについて語るには、まずこの国の歴史について語る必要がある。この国は、というよりはこの世界は、過去から数多くの脅威にさらされてきた。改造人間による世界征服を企んだ『ショッカー』、を基とした、悪の秘密結社たち。宇宙犯罪組織『マクー』などの、宇宙からの侵略者。ここ最近では『アンノウン』といった、得体の知れない生命体郡。

 そして、それに対抗するために、同じように様々な『正義の組織』もまた数多く存在する。国際秘密防衛機構『イーグル』や『特別救急警察隊』など。音河の属するICPOや、日本において十三がついこの間も世話になった『陰陽寮』もその一つである。

 そしてMtMは、しいて言うならば、その中間だ。

 MtMの成り立ちは、70年代から80年代にかけての、いまや伝説になりつつある、悪の組織が最も多く跳梁跋扈した時期に成立した。
その目的は、それら『悪の秘密結社』の排除。ただし、その目的は人類の自由と平和のためではなく、MtMを組織した者達、いわゆる『政財界の大物』やら『軍部のトップ』といった人々の利権の確保のために。
 と、いうのも、かの『ショッカー』を基として、彼ら悪の秘密結社は当然ながら政財界に数多くのシンパを持っていた。そいて、彼らと同調しなかったMtMの上層部は、たびたびショッカーのシンパらと衝突を起こしていたため、自衛とけん制をかねて、さらによしんばその役割を奪い取るために、MtMは組織されたのだ。

 メルヴゲフは秘密結社が要する『怪人』に対抗するために、生物学者山口零博士が開発した生物兵器。現在、世界中に存在する『野良メルヴゲフ』は、16年前の事故において逃げ出した、製作途中のメルヴゲフが野生化・繁殖したものである。


 そして時は流れ、現代。
 敵が存在しなくなったMtMは暴走を始めた。とある男が、MtMの上層部を言葉巧みにそそのかした。その男の名はヤマシタ・ヒデヒコ。先ほどの山口零博士の助手であった。
 彼によってMtMは『世界征服』というものを企むようになった。ヤマシタは反対するものを粛清するか、脳改造によって洗脳していくつもりであったが、そういった事態は殆ど起こらなかった。なぜなら、MtM上層部も、大勢のメルヴゲフ化した構成員もまた、自らの力に奢り始めていたからだ。
 MtMは、組織の『表の顔』が陸上自衛隊の対・異種生命体部隊であるという事実を利用して、その力を増大させていった(先日の十三との戦いで、彼らの主力戦闘員であるメルヴアーマイゼが、89式自動小銃で武装していたのはそのためである)。
 しかし、彼らの力は『世界征服』を企むには質・量ともに力不足であった。主戦力であるメルヴゲフは、他組織の保有する改造人間や強化スーツには及ばず、戦力の確保が彼らの急務となった。
 そしてついに彼らは見つけたのだ。一瞬でその戦力を増大・充実させることが出来る鍵『イノベーター』を。


 閑話休題



 手術台の上に、恰幅のいい男性の死体が、いくつか乗せられていた。その男たちはテレビや新聞等でよく目にする、与党のタカ派大物政治家や企業主などだった。そしてその死体を囲うように、数人のクリーム色の手術着に身を包んだ検視官達が立っていた。

「やあ、待たせてごめん」

 そこへ、軽薄な雰囲気の声が響く。マツモトが手術室の扉を潜って入ってきたのだ。

「マツモト二佐! お休みのところを申し訳ありません」

「能書きはいいから。被害者の資料を見せてよ」

 そういって、検視官から茶封筒を奪うように取る。

「名前は亘理 貞治・・・・ああ、前に不倫の後始末を僕らがしてやったオッサンか。愛人を始末した奴。あれをやったのは、こないだ死んだ(殺した)イガラシだったっけ? 胸糞わるかったな〜アレ」

「そうです。しかし、あれのおかげで我々は日本政府内での有用性を証明できたわけですから」

 検視官の一人が、アルコールとタバコ、その他の不摂生で硬化した内臓を取り出しながら答える。

「そのかわり金持ち共の使いっぱしりみたいな仕事も増えちゃったけどね」

 そういってマツモトは、蔑むような視線で、それらの死体を見る。
 前述したように、彼らは大物政治家や企業主。マツモトらが属するMtMは、上層部の『私兵』に近い面も多々持つ。故に、世界征服には直接関係が無い、あるいは薄い、単に私利私欲の(もちろん、世界征服と言う目的も私利私欲の極みではあるが)非正規活動をいくつか行ってきたのだ。具体的には、競争相手の抹殺・不利な情報のもみ消し・不法な手段による事業の拡大など。

 マツモトは、たとえ目的のためには仕方がないとしても、『人間のクズ』を利用して世界征服を企む自分達は、やはりクズ以下なのだろうと自嘲する。
 MtMの規模は、決して大きくは無い。使えるものは可能な限り使うべきだ、という考えは理解できるが、たとえ悪の組織であろうとも、ある程度の品格、というよりも守るべきルールが必要である。すくなくともマツモトはそう思っていた。

「そういえばさ、今、この時期にこいつらに死んでもらうのって、まずいんじゃないの?」

 マツモトは思い出したように部下に尋ねる。

「その点に関しては大丈夫です。イノベーションディスクの技術を利用したクローン体が現在も活動中ですから。最も、近いうちに不慮の事故にあってもらう予定ですが」

 『イノベーター』の変身能力を利用し、生前の本人と、ほぼ同じライフデータと記憶を持ったクローンを作る技術が、MtMにはある。ただし『ブートレグ』が描き込みを行った際のように(#3Cパート参照)、いずれメルトダウンを起こし崩壊してしまうため、ばれない為には、その前に死んでもらう必要が有る。


「で・・・? 事故っていったい何が起こったのさ。そこんとこ教えて欲しいんだけど」

「あ、はい。こちらへどうぞ」

 マツモトは若い部下に、黒板ぐらいのスクリーンが設置された映像室へと案内される。そこには、一人の大柄の男が先に座って待っていた。

「リョースケか。思ったより早かったな」

 大柄の男はマツモトの事を親しげに呼ぶと、部下を下がらせる。
 この男が、前述のヤマシタ・ヒデヒコ。実質、MtMを動かしている『首領』だ。マツモトとは、まだ『ショッカー』が活動していたその頃からの同僚だが、マツモトは実働部隊の隊長、ヤマシタは一介の研究員だった。
 一介の研究員であったヤマシタが、なぜ現在組織を率いるほどの力を持ったか、マツモトは知らない。だがマツモトにとって、この男が自分達にメルヴゲフという新たな力を与えてくれたこと、そして、この男には組織を率いてゆく力があること、その二つの事実さえあれば十分であった。

「あいさつはいいよ。はやいところ説明してくれる?」

「ああ。まずはこれを見てくれ」

 そういうと、ヒデヒコはリモコンを操作し、真っ白なスクリーンに映像を投影させる。

 スクリーンには、先ほどの検死台の上で見た男達の生前の姿と、一体の強化服が映し出される。
 その強化服は、現在、警視庁の未確認生命体対策班『SAUL』で使用され、先日の戦闘でICPOの捜査官も使用した、装甲強化服『G5』にやや似た雰囲気を持っていた。髑髏にも似た仮面やV字のアンテナなど、一見そっくりである。
 だが、カラーリングはG5がダークブルーに金のアクセントに対し、この戦士は全身クリーム色であることや、青いカメラアイ、胸部の装甲の形状がコストダウンのためか起伏の少ないものになっているなど、よく見ると相違点も多い。

「先日行われた、我々メルヴゲフ用装甲強化服『モンク』の公開試験だ」

「ああ、自衛隊が作った『G4』の改修量産型の試作機?生身の人間が使うにはムチャな性能だけど、僕らが使うんならちょうどいいよね」

 『モンク』がG5にそっくりなのは当然である。なぜなら、『モンク』の基礎となった機体は『G4』なるG5の兄弟のような機体だからだ。
 この『G4』は、自衛隊の『正義の組織』に対する不満が、噴出した結果とも言われる『G4事件』なる惨事を引き起こした機体として、この世界ではそれなりに有名な機体だ。
 G4は、生身の人間の着用を前提としながら、装着員の生還を前提としていない、悪魔のような兵器であった。装着すれば、AIが『最も戦闘において適切であると思われるモーション』を自動的に選択し、強大な戦闘力を発揮できる反面、装着員はG4の動きに適用しきれず、最終的に死を招く。
 だが、人間よりもはるかに強靭な肉体を持つメルヴゲフならば耐えられる。『モンク』は早い話がメルヴゲフ用G4なのである。
 さらに『表の顔』が自衛隊非正規部隊であるMtMならば、G4を回収・改修していても不自然ではない。MtMの戦力増強にはもってこいの素材だった。

 そしてスクリーンに投影された映像の中で、モンクは各種試験を次々とクリアしていく。だが、それを見ていたマツモトは不満げな表情を浮かべる。

「えぇ? この程度? 資料映像で見たG4の実力はこんなものじゃなかった気がするんだけど」

「仕方あるまい。量産を前提にオミットされた部分も多々ある。それに、この機体は『イノベーター』の力を付与されたメルヴゲフが装着して、初めて真価を発揮する。装着員が『ブートレグ』では、その性能の半分も発揮できないさ。それに、今回はモンクに関して評価してもらうために呼んだんじゃあない。問題はここからだ」

 映像の中の『モンク』の動きが、突然停止する。そして壊れたぜんまい仕掛けのおもちゃのように、ゆっくりと上体を上下させる。
 それを見ていた技術者と思われる数人の男達が、モンクに近づく。
 そしてモンクの青い目が光ったかと思うと、事は起こった。

 モンクは両太ももに保持していた、アメリカのギャング映画によく登場する『トミーガン』のような銃を素早く組み上げると、その銃を技術者たちに向けて乱射を始めたのだ。

 そこから先は阿鼻叫喚の地獄絵図。モンクは技術者たちだけに留まらず、実験を視察しにきていた上層部の人間をも撃ち殺し、その他実験用の機材を破壊しつくすと、ようやくその動きを止める。
 そして、フェイスマスクのスリットと胸部のエアダクトから熱い蒸気を吐き出すと、装甲の継ぎ目からメルヴゲフ特有の緑色の血液を流し、糸の切れた操り人形のように、がしゃんと音をたてて崩れ落ちる。

「・・・・これが先日の『モンク』実験の顛末だ。視察に死に来た亘理はとにかく、有能な同志を何人も失ってしまった」

ヤマシタは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、投影機のスイッチをオフにする。

「そう、か。じゃあ装着のテストをしてたカワムラ君も死んじゃったか。昔の彼は良かったなぁ、人間に対しての憎悪がギラギラしててさ」

 マツモトも、どこか遠くを見ているような目で、死んだ部下を弔う。ヤマシタはそんなマツモトを横目で見ながら、資料を取ると事故の説明を始める。

「暴走の原因は、修得したデータを素早く本部へ報告するために、モンクの駆動システムをオンラインに繋いでいたことだ。その為に何物かによってクラッキングを受け、強制的に標的を『周囲に存在するすべて』に設定変更された。さらに駆動の限界を超えた動きを要求され、最終的にはオリジナルのG4と同じように、装着員は死亡、というわけだ」

「で、犯人に目星はついているのかい?」

「この男だ」

 ヤマシタは、男の写真と、その現住所が書かれた紙をマツモトに手渡す。写真に写っていたのは、フリーのクラッカーとして有名な男だった。

「ずいぶんと仕事が速いね、偽者をつかまされたって可能性は?」

「・・・・情けないが、十中八九、罠だろう。だが、今の我々は犯人の捜索に人数はよけん。人員を大量に投入すれば、他の組織に気取られる。我々の存在が殆ど知られていないというのは、現在の我々にとっては数少ないアドバンテージだからな。しかし早急にこの件は方を付けねばならん。ならば」

「敵の手にあえて乗ってみるしかない、か」

「そうだ。そして、敵の掌の内に在って、その掌ごと打ち砕けるものといえば、お前しかいない」

 ヤマシタは口元をふと緩ませる。その笑みには、一事件の捜査員に、自らの組織のナンバー2を当てざるを得ない、組織の脆弱さに対する自嘲と、それほど信頼できるものが自分の片腕で居てくれるという、一種の安心感。二つの意味が込められていた。

「ま、大船に乗った気でいてよ」

 マツモトは軽く返事すると、ふと、思い出したように尋ねる。

「そういえばさ、僕らの目下の大目標の、山口十三の、と言うよりも、奴の身体に埋め込まれている『イノベーター・チップ』の奪取はどうなってるわけ?」

 『イノベーター・チップ』、現在MtMが戦力増強のために必要としているのはこれだ。山口十三の体に、誕生と同時に埋め込まれ、生態電流を利用して現在も作動し、十三の肉体の記録をとり続けている記録チップ。しかも十三からの生態電流が流れ込まなくなった瞬間、そのデータが消去される仕組みが施されているため、殺して無理矢理奪い取ることも出来ない。

 現在MtMが保有するメルヴゲフの、その完成形であるイノベーターに対する技術は、不完全なものだ。『素体』状態のメルヴゲフをイノベーターへと進化させても、その肉体はたった45分でメルトダウンする。イノベーター化したメルヴゲフの戦闘力は、他組織が保有する怪人と比べても遜色ないものではあるが、これではとても兵器として使えものにならない。

 だが、山口十三という完成型のイノベーターの肉体を、ほぼ誕生から現在に至るまで、『監視』し続けているイノベーター・チップを解析すれば、メルヴゲフが完全な状態のイノベーターへと変化させうる条件が、必ず理解出来る筈。それが『組織』が血眼になって十三を追い回す理由だ。

「すまんが、未だ至らず、と言ったところだ。こちらもお前が出てくれればすぐに済むのだが・・・・」

「言ったはずだよ、僕は君の命令よりも『自分のルール』を優先すると。あの無能な二人が破ったペナルティの清算がまだ済んでないからね。どうしてもって言うなら君が出ればいいじゃない」

 マツモトは頑として譲る気は無いことを強調する。前回の作戦で見逃しても、またすぐに攻撃を仕掛けるようならばそれには罰の意味が無いからだ。少なくとも、マツモトは山口十三がイノベーターとして覚醒するまでは待つつもりだった。

「ああ、最悪の場合は俺が直々に出るつもりだが・・・無用な刺激は抑えたい。『イノベーター』の力は、感情の起伏によって大きく上下する。間違いなく奴は俺を見れば、逆上するだろうからな。最悪、覚醒させかねん」

 ヤマシタはフ、と小さく笑うと、思い出すように話し出す。

「奴の家族を、山口博士を皆殺しにしたのは、なにせこの俺だからな」





















「ここかな・・・」

 マツモトは、渡された住所にあるアパートの一室の前にいた。名うてのクラッカーが、こんな古びたアパートを宿に構えているとは正直以外だったが、恐らく仮宿のようなものなのだろう。気にせずにインターホンを押してみるが、こちらは予想通り返事が無い。

「さてと、どうしよっかな・・・」

 無理矢理扉をこじ開けてもいいが、そうすると目立つ上にスマートではない。ここは一石二鳥の方法を取ろう。

「あの、ちょっといいですか?」

 マツモトはわざと自分の声のトーンを高くし、アパートの管理人室を訪ねる。

「はい?うん、どうしたのかな、ぼうや」

 管理人室でお茶を啜っていた、人当たりの良さそうな老婆が顔を出す。そこに警戒した様子は、あまり無い。なぜなら、自分を呼んだ声の主は、どう見ても小学生の高学年程度にしか見えなかったからだ。

 マツモトは、一見10代前半の少年にしか見えない。だが、彼の実年齢は実際にはとっくに還暦を迎えている。
 彼は、前述したようにかつてのMtMにおいて、実行部隊の隊長を務めていた。そして他の組織との抗争の際、彼の部隊は壊滅した。
だが、彼は幸運にも生き残った。しかし、その身体には変化が起こっていた。彼の肉体は、齢を重ねるごとに、若返っていくようになっていたのだ。原因は分からない。その戦闘の際にしようされた、核兵器の影響だとも言われるが定かではない。その逆成長は、彼がメルヴゲフになった後も続いた。
 しかしマツモトは、それを運命だと受け入れた。部隊が全滅したのは、自分が『ルールを破ったから』、そこに責任がある。そして、自分が不完全な肉体となって生き残ったのは、ルールを破った、そのペナルティだと。

 閑話休題

「あの、305号室の、田中さんのことなんですけど・・・・」

 マツモトは、わざと子供が恐る恐る尋ねるような口調で、老婆に尋ねる。

「ああ、あの人の知り合いかい?」

 すると、その老婆は特に怪しむ風も無く、丁寧に答えてくれた。逆成長する肉体も、こういった局面では役に立つ。ちなみに『田中』とは、標的のクラッカーが使っている偽名だ。
 管理人の話を要約すると、『田中』は数ヶ月、その姿を見ていないということ。しかし、きちんと家賃は振り込まれているということ。

「数ヶ月・・・ですか」

 ある程度予想できた答えを聞くと、マツモトはにこりと笑う。そして一言。

「どうもありがとう」

 そう言って、素早く麻酔銃を老婆に向け、引き金を引く。

「ええと・・・305号室の鍵はっと・・・あった」

 マツモトは女性の机を漁り、クラッカーの部屋の鍵を見つけ出す。そして扉を開けると、そこには標的のクラッカーの死体があった。だが、マツモトは特に驚いた様子は無く、死体の傍へと近づく。

「あ〜、やっぱり殺されてたかぁ。で、定石通りならここら辺で何か仕掛けてくるものだけど」

 そう呟いた次の瞬間、死体が爆発した。その火力は、明らかに人一人を殺すには過剰な爆発力で、一瞬にしてアパートが瓦礫の山へと変貌する。






「・・・やったか?」

 爆発音の騒ぎで、出てきた野次馬に紛れて、鋭い目付きをした男の二人組みが現れる。

「メルヴゲフの反応は確認できない。任務完了だ。後の処理は後詰の連中に任せ、我々は帰還するぞ」

 そういって、彼らは踵を返し、乗ってきた車に乗り込む。
 そして備え付けられた通信機のスイッチを入れ、任務完了の旨を雇い主へと報告する。

「こちら、コード『ポリイソブチレン』任務完了した。これより帰還する」

 そう簡素に通信機へと話しかけると、乱暴にスイッチを切る。そして助手席に座る相棒へと話しかける。

「へへ、今迄で一番楽な仕事だったな」

 そういって、口元を上にゆがめ、運転中だというのにウィスキーのボトルへ口をつけ、それを回し飲みする。

「ああ。後は約束の場所で金を受け取るだけだ。しかし、これで一生遊んで暮らせるたぁ、未確認生命体様様だな。良い時代になったもんだ」

「へぇ、それは良かったね。でも、僕がいえたことじゃないけど、誰かを殺して喜ぶって言うのはあんまり品が良くないなぁ」

 そのとき、誰も乗せていないはずの後部座席から、軽薄な少年の声が発せられる。
 驚いて二人が後ろを振り向くと、そこには先ほど自分達が暗殺したはずの少年が、いつの間にか足を組んで座っていた。

「な!?」

 助手席に座っていた男が、反射的に銃を抜き、少年の眉間に数発撃ち込むが、少年はまるで意に介した様子は無く、にこやかな笑顔を絶やさない。

「悪いけど僕は、セムテックスやジェリコ程度じゃ『死ねない』んだ、ルール違反だよね。ごめん」

 そして目にも留まらぬ速さで拳銃を撃った男の首を片手で掴むと、メシメシと音をたてるほどの力で締め上げる。

「てめ、相棒を離せ!」

 運転中の男が、正確に頚動脈目掛けてナイフで切りかかる。しかし、乾いた音と共に、ナイフの方が砕け散る。

「さてと、僕としては刺客としてお願いしたかったのは、『最新鋭のネクロイド』か『祭司クラスの妖人』、『ダブルストーンのBKJ』はたまた仮面ライダーか、そのどれかをお願いしたかったところなんだけど・・・・ただの人間とはね、ま、ウチみたいな無駄にクネが広いくせに、実働部隊がショボイところなんかは、彼らは相手にもしてくれないのかな」

 つまらなそうに、誰ともなしにマツモトは呟くと、男の首を掴んだまま、もう一人の方へ振り向く。

「で、圧倒的な力の差に恐怖してるところ悪いんだけどさ、君達の雇い主を教えてもらいたいなぁ。教えるかどうかは君『一人』の自由意志に任せるよ」

 そういうと、マツモトは掴んでいる首の厚みを完全になくして見せた。
















「それでは、今後とも宜しく」

 肥満体系で顔を油で光らせた中年男性がアタッシュケースと2メートル四方程度のコンテナを、コートを着た男に引き渡す。その中年男性は、『モンク』の試験において暴走したモンクに撃ち殺され、死んだはずのMtM上層部の一人。

 最早、想像はつくだろう。今回の『モンク』の暴走は、事故でもなければ外部犯でもない。この男、亘理 貞治が反逆したのだ。

 この男は、自分が政財界において、真の頂点を極めた存在で、選ばれた人間であるという自負があった。それが、名目的には自分達が上層部とは言え、実際にはあのマツモトとヤマシタの『くぐつ』にしすぎないという事実が、この男の異常に高いプライドが許さなかった。
 だが、それを表立ってそれを表明すれば、間違いなく抹殺されてしまう。そのために、彼は自分の死を偽装し、他組織と取引することによって、マツモトとヤマシタに勝ったつもりになっていたのだ。客観的にはどうあれ、少なくともこの男はそう感じていた。
 何、そう耐える時間は長くない、彼はそう思っていた。彼は今回の取引で、ついに『直接的な戦力』を手に入れたのだから。

「ええ。お互い、有意義な取引が出来ましたね。それでは」

 コートの男が笑うと、長居は無用と言わんばかりに踵を返し、漁船に偽装した小型高速船に乗り込む。

「まったく、忌々しいバケモノ共め、素直に我々に使えていればいいものを」

 そう、ポツリと亘理が呟いたとき、突然、コートの男が乗った船が爆発する。

「な、何が起こった!?」

「やれやれ、僕達からイノベーションディスクを盗み出して、自分と全く同じライフデータの人形を用意するなんてさぁ、なかなかやってくれるじゃあないか。それにカワムラ君まで抱きこんでるなんて」

 いつの間にか、背後に忌まわしき『組織』のナンバー2、マツモト・リョースケその人が立っていた。

「まったくさぁ、あんなテロリストはぐれの連中を雇った程度で、僕を殺せるとでも思ったわけ?ん?亘理さん?」

 亘理の名を呼び、マツモトは威圧する。自分達を裏切ったのだ、とことん追い詰めてから殺さなくては気がすまない。
 だが、亘理は、さして恐れた様子を見せず、逆に不適に笑ってみせる。

「ク、ククク、私が何時までも貴様らバケモノの下に甘んじていると思うなよ、ちょうどいい、今貴様をここで殺しておけば『組織』は瓦解する! さっそくだが君達、そしてカワムラ、その力を見せてもらおうか!!」

 そう亘理が叫ぶと、マツモトの周りを数人の男達、そして良く見知った自分の部下であるカワムラが取り囲む。

「松本隊長、いえ、マツモト・リョースケ・・・・お覚悟を」

 そういうと、カワムラは人間の姿から黄色と黒の縞模様を持ち、透き通った翅を持つ、蜂のメルヴゲフ、メルヴビーネンへと変化する。
 さらに、それに呼応して、他の男達は左腕に何か巨大な籠手のような機械を装着し、右手にはトランプのカードのようなものを持つ。

「見たところカワムラ君以外全員生身の人間のようだけど・・・何が起こるんだい? さぁ早く見せてごらんよ!」

 マツモトは楽しそうに笑う。

「プラス・アップ!」

 護衛の男達は一斉にそう叫ぶと、カードを左腕の機械に挿入する。
 すると、男達の体の表面に沿って真っ白い線が縦横に直角に入り、さらにその線が一瞬にして緑青のような、淡い緑の三段強化アラミド繊維の下地と、胸や脛などにダイヤモンドの5倍の硬度を誇るジルコナイト56製の装甲が展開する。さらにその線は頭部を覆い、それもまた一瞬にして淡緑色のヘルメットと、その中心に十文字のバイザーが展開する。
 その装甲服を見た瞬間、マツモトは目を大きく見開かせ、珍しく驚いた顔を見せる。

「へぇ、それは・・・」

 マツモトの驚いた表情を見て、亘理は満足げに笑う。

「そうだ、ICPOがかつて、日本の特別救急隊『SRS』から技術提供を受け開発したソリッドスーツ、その量産型のコパーファイヤーだ!」

「まさかICPOと手を組む、いや、組めるとはね・・・」

「ははは、どんなところにでも我々のような人間と取引したがる者はいるんだよ、例えそれが世界の正義と秩序を守ってきた者達であってもな。さぁ、そして武力を手にいれ、『正義』を妄評する連中からも追われる心配がなくなった我々に、最早貴様らに従う理由などない、死んでもらおうか! かつてのように!」

 そういうと、亘理は腕を掲げる。そしてそれに呼応して、コパーファイヤーの一団は上下に二つの銃身を持ち、プラズマエネルギー光弾を毎秒20発発射する銃型ツール『パイルトルネード』を構え、マツモトに向かって一斉発射する。
 ちなみに、このパイルトルネードは、元となったソリッドスーツが『戦闘用』ではなく『救助用』であったため、消化剤や接着剤を発射することも出来たが、コパーファイヤーは純粋に戦闘用として作られたため、それらはオミットされている。

「!!」

 マツモトへとプラズマの光弾が殺到する。原型となったそれには威力は及ばないものの、それでもこの数だ。通常ならとても生きてはいまい。だが、メルヴビーネンとコパーファイヤーたちは気を緩めない。

「さぁ、松本隊長、この程度ではないでしょう?さっさと出てきたらどうです?」

 パイルトルネードの掃射によって巻き上げられた土煙に向かって、カワムラは叫ぶ。

「う〜ん、ちぇ、つまんないなぁ。ここは『やったか?』とか言って油断して、煙の中からの攻撃にビビる、っていうのがお約束なのになぁ」

「俺はイガラシと同じ間違いをするつもりはありません」

 煙の中から相変わらずの調子でマツモトが答える。そして煙が晴れたそこには人間の姿は無く、全身を異常な硬度と強度とじん性を持つ装甲で覆われ、両腕は歪んだ形のハサミを持つ、史上最強のメルヴゲフがいた。

「僕は蟹のメルヴゲフ、イノ・クラッベ。改めてヨロシク」

「うぉぉおおおおおおおおお!!」

 メルヴビーネンは細身のレイピアを引き抜くと、雄叫びを上げながら突進する。
 そしてビーネンは横薙ぎに切りかかるが、クラッベは刃をハサミで軽く受け止める。

「別に裏切ったことをとやかく言うつもりは無いけどさ、意外だったよ。あの実直な君がなんてさぁ」

 レイピアとそれを受け止めたハサミが火花を散らす。

「すみません・・・ですが、俺はやはり、松本隊長は間違っている、そう思います」

「何だって?」

「隊長、俺は、最初に組織が変革をすると聞いた時、俺は人間共に復讐するために、組織に残ることを決めました」

 レイピアを振り払い、二体の異形は距離を取る。

 MtMに属するメルヴゲフは、人間に対して、憎しみを持つものも少なくない。彼らはたいていの場合、『メルヴゲフ』と化したことによって、家族や親しい友人、恋人などから裏切られた経験を持つ。
 ヤマシタは、そうした層にも目をつけ、巧く利用した。『自分達を認めなかった人間に復讐をしよう』この一言で、彼らのほとんどは改変した組織へと参加した。少数の例外は粛清された。

「だけど、俺は思い出したんです!」

 そう叫ぶと、メルヴビーネンはレイピアを下段に構えなおし、必殺の突きを放つ。その突きはクラッベの装甲にひびを穿つ。

「俺のこの力は、大事な人達を守るために鍛え上げたものだって! いくら受け入れられなくたって、自分の『今まで』を否定したくないんです、『これから』も!」

「素晴らしい!!」

 そういう叫ぶとイノ・クラッベは軽く腕を振るう。すると、レイピアが粉々に砕け散る。『折れる』・『ひび割れる』ではなく、『砕け散る』。その事実がイノ・クラッベの膂力の凄まじさを物語る。

「その通りだよ、カワムラ君、いや川村英明伍長! 僕は、いや、俺は人間ほど素晴らしい生き物はいないと思っている、掛け値なしにだ」

 突然のクラッベの発言に、一瞬メルヴビーネンの動きが止まる。

「ヒデヒコの奴がどう思っているかは知らん。だが、俺は奴の掲げた『自分達メルヴゲフを受け入れなかった、人間達への復讐』などに、これっぽちも価値を感じていない。そんなもの、低能な連中を纏め上げるのに便利な合言葉程度にしか思ってはいない!」

 さらにマツモトはぶちまける。

「俺は奴らを騙していることに、全く背徳など感じん。なぜか? それは、奴らを追いたて認めなかった人間など、ただ奴らの人生のうちで出会った人間がそうだっただけだ。くだらない経験則だ! その『くだらない経験則』に捕らわれ、勝手に人類を『悪』だと決め付けている。いかに世界が広いかということも知らずに! そんな無能なクズどもなど、この世に生きる何の価値も無い!! ほんのちょっと、世界を見渡せば、歴史を知れば、科学を学べば、いかに人間が素晴らしい生き物かと、守るに値するかということが理解できるのに」

 イノ・クラッベは、自分の演説に酔ったように、恍惚な表情を浮かべる。
 だが、メルヴビーネンは戸惑いを隠せない。

「ならば、何故! 世界征服なんか!!」

「おかしなことを言うな。世界を手にすれば、その『素晴らしい生物』を自分の『ルール』で! 好きに縛れるのだぞ。ああ、想像しただけで○○してしまいそうだ!!」

 突然、放送禁止用語を大声でクラッベは叫ぶ。そして圧倒されているビーネンへと向き合う。

「繰り返すが素晴らしいぞ川村伍長! 本来ならば、君のような有能な部下がさらに一皮剥けて戻ってくるならば、裏切りなんか何百回したって不問にしたいところだが、生憎ルール違反だ。ルールに従う姿とは、人間に匹敵するほど素晴らしく、それを破ったものにはペナルティが課せられる。俺のこの醜い餓鬼の姿のようにな」

 ここにきて、イノ・クラッベのカワムラに対する、明確な敵意が露わになる。しかしビーネンは、気おされずに口を開く。

「松本隊長、望むところです、俺は組織へはどっちにしろ戻りません。俺達は何人もの罪のない人を殺めてきました。その罪は、償わなければなりません、この命に代えても!」

 この異様な雰囲気に気をされぬよう、ビーネンは力強い口調で、きっぱりと断る。すると、クラッベは満足そうにハサミを2,3回開閉させる。

「そうか。それは残念だね。せめて、命ぐらいは助けてやっても良かったけど。でも、それが君の選んだ道ならしょうがないか。なら・・・」

 クラッベの口調が、普段のものへと戻る。それと同時に、敵意が殺意へと変化する。

「ええ、何をグダグダと! さっさとその男をカニ鍋にしてしまえ!」

 いらつきが頂点へと達した亘理が、改めて命令を下す。その命令を受けてコパーファイヤーの一団は、パイルトルネードを捨て、今度は三角形の形をした武器を掴む。すると、その三角形が、握られた辺を中心に、まっすぐな一本の棒状の武器へと変形する。
 ビーネンもまた、予備のレイピアを抜き、いつでも飛びかかれるように構える。

「やれえぇ!」

 その号令と共に、コパーファイヤーとメルヴビーネンは一斉に飛び掛る。

「・・・死んでしまえ」

 イノ・クラッベは小さくそう呟くと、右腕のハサミを180度水平に開く。だが一瞬早く、ビーネンたちの一撃がイノ・クラッベを打ち据える。しかし。

 ガシャン!

 無残な音をたて、イノ・クラッベを打ち据えた得物はことごとく砕け散る。
 そして驚くビーネンたちを尻目に、イノ・クラッベのハサミは水に覆われ、その水がさらに巨大なハサミを形成する。

「さよならを言うんだ、自分の胴体に!」

 そう叫び、ハサミを閉じる。

 ズシャァァァァァァァァァン!!

 そして次の瞬間、亘理とイノ・クラッベ以外のその場にいた全員が、いや半径10メートル以内の全ての物質が、地上から約1メートルの位置を境に真っ二つに泣き別れる。水を纏って巨大化したイノ・クラッベのハサミが、一度に両断したのだ。

「え・・・・・え?」

 亘理は、今、自分の目の前に起こったことが、理解できずにいた。いや、理解したくなかったというのが正しいのだろうか。その場に力なく座り込む、と言うよりは、勝手に力が抜けてしまった。
 しかし、今、この場にいた自分以外の存在を両断した、無敵の甲殻を持つ死神は、無慈悲にも自分へと歩み寄る。

「さてと、あとは貴方だけだよ、亘理さん。ルールを破った罪は重い」

 亘理は、目の前が真っ暗になった。












 屍が積み重なった夜の倉庫外に、場違いな少年、しかしその地獄を作り出した張本人であるマツモトが、ヤマシタへと連絡を入れる。

「うん、そう。だ作戦を急いだほうがいい。どこまで話が伝わってたかは分かんないけど、ICPOに僕らの作戦がリークされた。ん、大丈夫。モンクは取り返せたよ。・・・・・・分かった。詳しい説明は帰ってから。それじゃ」

 マツモトは携帯電話を切る。そして、足元に転がる、元部下の死骸を見やる。

「またね、地獄か天国か、どっちで会うかは分かんないけど」

 そういうと、その死骸を踏み砕く。そして迎えの車に乗り込んで帰っていった。









メルヴゲフ&その他解説

・イノ・クラッベ
 現段階で最高の戦闘能力を誇るメルヴゲフ。メルヴゲフの一つの完成形であり、最新鋭の改造人間と比較しても遜色無い性能を持つ。
 対物ライフルの直撃を受けても怯むことない装甲と、物質であればほぼ全ての物質を切断するハサミが武器。また、固有の能力として水を操る能力を持つ。
 普段は少年のような姿をしているが、実年齢は相当高い。

・メルヴビーネン
 ハチのメルヴゲフ。レイピアが武器。

・コパーファイヤー
 かつてICPOが『特別救急隊』から技術提供を受けて開発した『ナイトファイヤー』の量産型。オリジナルが赤だったのに対し、こちらは緑と黒。
 総合的な性能はオリジナルに一歩も二歩も劣るが、『ナイトカスタム』のような専用車両なしで、ブラスアップ(装着)出来るようになった・装甲に一部ダイヤモンドの5倍の硬度を誇るジルコナイト56を使用しているなど、勝っている点もある。
 武装は、戦闘に必要な機構以外をオミットしたパイルトルネード、ケルベロスデルタ。


戻る inserted by FC2 system